ナンバー1ヒーローの娘になった、悪の組織の改人系ヒロインのヒーローアカデミア   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

28 / 48
28 職場体験に向けて

「え? 僕に新しく指名ですか?」

「ああ。その方の名は『グラントリノ』。私の先代の盟友であり、かつて1年間だけ雄英で教師を務めていた、私の担任だったお方だ」

「!」

「ああ、おじいちゃんか。懐かしい」

 

 ヒーロー名決定後。

 何やら挙動不審な様子で教室に現れ、緑谷と魔美子を呼び出したオールマイトは、教室から充分に離れたところで、その話を始めた。

 

「ワンフォーオールのこともご存知だ。むしろ、その件で君に声をかけたのだろう」

「子供の頃の私のお世話をしてくれた人だよ。めっちゃ強いぜ」

「そんな凄い人が!」

 

 緑谷の目がキラキラと輝いた。

 逆に、オールマイトはガタガタと震え始め、冷や汗を流し始める。

 

「もしや、魔美ちゃんに頼るばかりで、私がロクな指導ができていないことがバレたのでは……! あえてかつての名を出して指名してきたということは……。怖ぇ、怖ぇよ。震えるなこの足め」

「オールマイトがガチ震いしてる!?」

「パパにとってのおじいちゃんは、君にとっての私だからね」

「……納得しました」

 

 魔美子にゲロを吐き散らかされた緑谷が、それそれは深い納得の表情になった。

 

「で、でも、どうしようか。緑谷少年は他の指名も沢山貰ってるし、も、もし嫌なら私が、い、命を懸けてでも、せ、せせせ説得するがががが……!!」

「あ、いえ、行きます! 行かせてください! そんな凄い人の職場なら、きっとためになりますし! ワンフォーオールのことを知ってるなら、他の職場より具体的なアドバイスを貰えそうですし!」

 

 バイブレーション機能でも搭載したのかというほど震えるオールマイトを見ていられなかったのか、緑谷は二つ返事でグラントリノのもとへ行くことを決めた。

 まあ、後付けのように聞こえた理由も、決して嘘ではないのだろう。

 

「私には来てないの? おじいちゃんからの指名」

「いや、魔美ちゃんは『もう教えることは無い』って言われてたでしょ……。久しぶりに会いたいなら、休みの日に車出すよ?」

「ううん。おじいちゃんの職場でダラダラしたい。私は免許さえ取れればいいんだから、つまんない授業はサボりたいし」

「そんなこと言わないの! ちゃんと勉強しなさい!」

「うへぇ」

「八木さん……」

 

 勉強を嫌がる娘と、勉強しなさいと言う父。

 実に親子っぽいやり取りだった。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

(とはいえ、どうしたもんかなー)

 

 帰宅後。

 魔美子は渡された死ぬほど分厚い紙の束(指名してきたヒーロー事務所一覧)を見ながら、頭を悩ませていた。

 

(できれぱ、私の事情を知ってるヒーローの方が良いよね。色々とやりやすいし)

 

 普通のヒーローと魔美子では、求めているものが全く違う。

 普通のヒーローが求めているのは活躍と名声とお金、もしくは純粋な正義の執行。

 魔美子が求めているのは気持ち良く殴れるサンドバッグと、殴っても世間と父に怒られない方法。

 ぶっちゃけ、やりたいことは殆どヴィランのそれだ。

 彼女は社会に受け入れてもらえる、合法的なヴィランになりたいのだ。

 王下七武海的なあれである。

 一時期は本気で父の後継を目指したこともあったのだが、どうしても人助けに興味が持てず、己のあまりの適性の無さに絶望して諦めて開き直ったのが今となっては懐かしい。

 なので、どうせ行くなら、その事情を汲んで適切なアドバイスをしてくれるヒーローのところへ行きたかった。

 

(ナイトアイのおじさん……ダメだ。あの人は厳し過ぎて無理)

 

 かつて、父の相棒(サイドキック)を務めていたヒーロー『サー・ナイトアイ』。

 魔美子はどうしても彼とソリが合わなかった。

 ナイトアイは拾われたばかりの魔美子に対して、仕事の傍ら道徳教育を徹底した。

 いっそ洗脳と言ってもいいくらいに、正義というものを徹底的に魔美子に刷り込もうとした。

 信者(オールマイトガチ勢)が布教をするように。

 

 が、結果は失敗。

 何をどうしても魔美子の生まれついての悪性を塗り替えることはできなかった。

 そりゃそうだ。

 彼女は破壊に餓える悪魔を身のうちに飼う怪物であり、普通の人間とは前提となる思考回路も感性もまるで異なる。

 

 他の人間が獲物にしか見えない、しかも常時強烈な破壊衝動に襲われている魔美子に人を傷つけるなと言うのは、餓えた人に目の前のご馳走を食べるなと言っているに等しい。

 暴れるな、壊すなと言うのは絶食を強要することと同じであり、定期的にロボを壊させてもらったり、自警団(ヴィジランテ)活動をある程度黙認されるようになった今でも、一日ゼリー一個生活くらいキツい。

 そんな魔美子に他者を慈しめというのは、ご飯抜きにされた子供の前に食事を置いて、これは大切なものなので食べてはいけませんとのたまうようなもの。

 端的に言って虐待である。

 

 そこらへんの認識の齟齬をどうにかすべく、ナイトアイも滅茶苦茶頑張ってはいた。

 インテリキャラを投げ捨て、『凄いバカでもわかる子育て』だの『猿でもわかる猛獣の飼い方』だのの本を大真面目な顔で隅から隅まで読み込んで、魔美子に向き合おうとした。

 しかし、結局は心から彼女を理解してあげることはできなかった。

 別にナイトアイが悪いわけでもおかしいわけでもない。

 むしろ、狂気的な救済願望によって、常人には理解できない魔美子の感性を会話を重ねることで強引に理解しようとし、幼少期の拙い言葉を必死に解読し、表面上だけとはいえ、彼女を人間の枠に当てはめてみせたオールマイトが凄すぎるのだ。

 そのオールマイトの橋渡しにより、ナイトアイとの関係が『ソリが合わない』程度で済んだのは奇跡だろう。

 

(……考えが逸れた)

 

 今は職場体験に行くヒーロー事務所を決める時間だ。

 ナイトアイはダメ。

 他に魔美子の事情を知っていて、できれば彼女の望む教えを授けてくれるヒーローとなると……。

 

(やっぱり、そんな都合の良いヒーローがいるわけ…………あ)

 

 と、そこで魔美子は気づいた。

 そんな都合の良いヒーローがいることに。

 昔、何度も襲撃をかけてきて、その度にミンチにした人達。

 情緒が未発達だった幼少期、今より遥かに破壊衝動の制御が下手だった魔美子の生贄になってくれた親切な人達。

 4歳児を暗殺することすら厭わないダークヒーローズ。

 

(公安)

 

 ヒーロー公安委員会。

 社会秩序を守るため、人気者のヒーロー達ではできない、裏の汚れ仕事を請け負う組織。

 

 誰もが簡単に人を殺すことができる行き過ぎた個性(ちから)を持つこの超人社会が、曲りなりにも体裁を整えて回っているのは、ヒーロー達が民衆に『信頼』されているからだ。

 メディアに積極的に顔を見せ、芸能人のようにファンの人気を大切にし、好かれ、憧れられ、『この人達になら、個性の行使を委ねられる』と信頼されているからこそ、超人社会はギリギリ安定している。

 ヒーローが信頼を失い、人々が自分の身を自分で守ろうと考えた時、世の中は行き過ぎた個性を他者に向けて振るう者達であふれ返り、崩壊するだろう。

 

 ヒーローは清廉潔白でなければならない。

 民衆に信頼してもらえる人格者でなければならない。

 たとえ、それがどれだけ嘘偽りに満ちた薄っぺらい仮面であろうとも『平和』を守るにはそれしかないのだ。

 

 だからこそ、清廉潔白な者達ではできない汚れ仕事を請け負う者達がいる。

 例えば、ものの道理もわからない、創造主(おや)に呪われた力を植えつけられてしまっただけの幼子を、危険だからという理由で抹殺できるような者達が。

 表沙汰にもせず、法のもとに裁くこともせず、都合の悪い真実を犯人や被害者ごと闇に葬る。

 ヒーローが大事にする『正義』や『救済』とは相入れない『必要悪』に染まる者達が必要なのだ。

 

 そんな必要悪(ダークヒーロー)の元締めのような組織が、ヒーロー公安委員会。

 当然、その活動が世間に知られることはないが、ターゲットとして何度も公安に狙われ、ヴィランの仕業に見せかけて殺されそうになった魔美子は、多少なりその内情を知っている。

 あの超絶強かったスナイパーの人は元気だろうか?

 魔美子が唯一仕留められなかった刺客。

 いや、何年か前に彼女が逮捕されたというニュースを見た記憶がある。

 何かヘマでもやらかしたのか、彼女もまた闇に葬り去られてしまったのだろう。

 

 だが、そんな彼女の表向きの肩書はヒーローだった。

 公安直属、子飼いのヒーローだった。

 バレた時のリスクは大きいが、やはり公的な暴力許可証であるヒーロー資格を持ち、表社会でも信用されている者が動いた方が色々と便利なことも多いのだろう。

 表の顔と裏の顔を使い分けられる器用なヒーローが、今でも絶対公安にはいるはずだ。

 

(あれ? もしかして公安って、私の天職?)

 

 必要とあらば殺しもしていい職場。

 やはり殺さないように手加減しながら暴れるより、相手のことを気にせず思いっきり殴れる方が、遥かに破壊衝動を満たしてくれる。

 公安に就職するなら色々と制約は厳しいだろうが、魔美子の場合は普通にヒーローをやった場合でも充分に窮屈だ。

 そう考えると、悪くないような気がしてくる。

 

(……でも、ダメだよね)

 

 殺しをしたら、父が悲しむ。

 それが合法であろうと、闇のとはいえ正義のための行いだろうと、誰かを殺せば父が悲しむ。

 あの人は『正義』と『救済』の化身のような存在だ。

 魔美子が公安に殺されかけたと知った時も、烈火のように怒って、ブチ切れながら公安に突撃をかましてくれた。

 父にキレられた奴らと同類にはなりたくない。 

 だって、嫌われたくないから。

 

「はぁ。良い思いつきかなと思ったんだけどなー」

 

 魔美子は大分未練を感じながら公安への思いを断ち切った。  

 まあ、そもそも自分はあそこに所属する者達を結構殺してしまったのだから、こっちが就職を望んでも、向こうに「ふざけんな!」と言われてお断りされるのが落ちだろう。

 最初から実現不能な夢だったのだ。

 

(もう考えるのもめんどくさいし、適当にランキングが一番上の人のところにでも行こうかな)

 

 それなら父に勉強してますと言えるだろう。

 ペラペラとリストをめくりながら、魔美子はヒーローランキングで見かけた名前を探していく。

 その結果、一つの名前がヒットした。

 

「うん。ここでいいや」

 

 『ホークスヒーロー事務所』。

 オールマイト、エンデヴァーに次ぐナンバー3ヒーローの経営する事務所。

 指名された中では一番上の事務所だ。

 魔美子は軽い気持ちで、職場体験先をここに決めた。




・魔美子の子育て
オールマイトの稼ぎで、事務所の地下に核シェルター並みの強度を誇る『まみちゃんのおへや』を作る。
ナイトアイが『予知』で、魔美子の暴れるタイミングを把握。
その時間までにオールマイトが帰宅して、まみちゃんのおへやで暴れる魔美子を落ち着かせる。
どうしても間に合わない時は、グラントリノが足止め。
大真面目に余裕が無い時はスターの力を借りる。

多分、世界一子育てが難しい子だと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。