ナンバー1ヒーローの娘になった、悪の組織の改人系ヒロインのヒーローアカデミア 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「今回はよろしくお願いします、常闇くん」
「ああ、よろしく頼む」
職場体験当日。
駅前でクラスメイト達と別れ、相澤の監督下を離れ、魔美子は新幹線に乗り込んでホークスヒーロー事務所を目指す。
同じ場所を職場体験先に選んだ常闇と一緒に。
騎馬戦でチームを組んだだけの相手と、意外なところで縁が繋がった。
「……しかし、そうしていると随分と印象が変わるな」
「変装は得意だから」
今の魔美子は体育祭ラストのあれのせいで随分と顔が売れてしまったため、素顔でうろつけば即行で人が寄ってくるだろう。
ヘドロ事件の後も似たような状態になったので、そのめんどくささは嫌というほど知っている。
しかも、今回はオールマイトの娘なんて特大の爆弾が炸裂したので、想定されるめんどくささはヘドロの時の比ではない。
なので、現在の魔美子は髪を地味な三つ編みにした上にダサい伊達眼鏡をかけて変装している。
内気な文学少女モードだ。
「あ! お兄さん、雄英の人だろ? 体育祭見たよ!」
「うお、マジじゃん! 3位の常闇くん!」
「準決勝良かったぜ! あのリトル・オールマイト相手によく頑張った!」
「……どうも」
実際、常闇が他の乗客にガンガン話しかけられても、隣の席に座っているのが当のリトル・オールマイトだとは誰も気づかない。
仕草や言葉遣い、纏う雰囲気までガラリと変えた変装の完成度は高く、下手に常闇といつものテンションで会話したりしない限り、バレない自信があった。
Mr.キックブレイクを続けてきた経験が活きている。
「そっちのお嬢さんは、えーと……」
「あ、見覚え、無いと思います。私は、予選で落ちちゃったので……」
「そ、そうか。なんか、ごめんな」
暗い雰囲気を醸し出すことで、自分から人を遠ざけるのもお手のものだ。
「「…………」」
そして、常闇が握手をせがまれたり、少し気の早いサインを頼まれたりする時間が終わると、無言が二人の間を支配した。
常闇は寡黙な性格だし、魔美子は常闇に興味が無いので、お互いに話しかけられない限り会話が発生しない。
周りの乗客は、思わぬところで有名人に会ったみたいな興奮がまだ続いているのに、二人の間だけは無言。圧倒的無言。
これがホークスの事務所がある九州まで続くのだと思うと、さすがの常闇でも気まずさを感じ始めた。
「八木は……」
「魔森」
「……すまん」
本日の偽名として、その名前で呼んでくれと言われていたのを思い出し、常闇は謝った。
沈黙に耐えかねて、ついミスをしてしまった。
「魔森は、もっと話す奴だと思っていた。今の状態を他の皆が見たら驚くだろうな」
「あれは演技ですからね」
「……………………は?」
「冗談です」
変装しているのにかこつけて、ちょっとしたイタズラをしてみた魔美子。
しかし、今の冗談も全くの嘘というわけではない。
普段クラスメイト達と接している時の態度は、青春ごっこを楽しむため、及び余計な軋轢を生まないために取り繕ったものだ。
父と接する時の自分をロールプレイで演じているとでも言えばいいのか。
興味と必要性が無くなれば、魔美子はたちまち、さっきまで常闇にしていたような無関心の状態に変わるだろう。
だって、彼女が玩具として以外の価値を見出しているクラスメイトなど、緑谷、轟、おまけして爆豪くらいなのだから。
あとは、ちょっと特別感のある玩具として、ボール投げで自分に勝った麗日が入るくらいか。
「あ、そうだ。少し気になってたんですけど」
とはいえ、今のところは興味と必要性が無くなっていないので、話しかけられれば変装状態でも普通に対応する。
「常闇くんの個性は、暗い場所だと暴走のリスクがあると言っていましたよね?」
「あ、ああ」
騎馬戦でチームを組んだ時に聞いた話。
常闇の個性『
しかし、そのモンスターは闇が深まるほど強力になる代わりに、獰猛になり制御が難しくなる。
魔美子はその話を聞いた時、少し自分の『悪魔』と似ていると思ったのだ。
「どんな感じですか? 個性が勝手に暴れ出すというのは?」
「……例えるなら、とんでもない暴れ馬に引きずられる感覚、とでも言えばいいのか。あまり体験したくはない状態だな」
常闇は個性を暴走させてしまった時のことを思い出し、顔をしかめた。
そこで件の
常闇は気にするなと言うように、ダークシャドウの頭を撫でる。
「個性と良好な関係が築けていて何よりです。……羨ましいなぁ」
「む……」
その時、魔美子の
常闇はそれを目撃して、普段は圧倒的強者として君臨する少女が痛みを堪えるような顔をしているのを見て、驚いた。
「……お前の個性も、暴走の危険を孕んでいるのか?」
確かに、魔美子の個性にはリスクがあると聞いてはいた。
しかし、具体的にどんなリスクがあるのかは聞いていなかった。
常闇とて体育祭で勝つために、個性の弱点をさらけ出すことに繋がる情報を隠していたりしたので、話したがらないことを不思議には思わなかったが……。
「……口が滑りましたね」
ゴロにゃんモードといい、失態が続くなぁと魔美子は苦笑した。
所詮、彼女もまた15歳の小娘ということだ。
なまじ強くてなんでもできてしまうがゆえに、本人には自分が子供であるという自覚があまり無いのも問題だった。
「安心してください。相澤先生の抹消を始め、対抗手段はいくつもあります。
万が一の場合でも、このチョーカーにはパパの携帯に常に位置情報とバイタルを送信する機能があって、暴走すればすぐに最強のヒーローが駆けつけてくるようになっているので、安心してください」
魔美子は半分嘘を吐いた。
いつも着けているチョーカーにそういう機能があるのは本当だが、相澤の抹消は暴走状態に入ってからでは効かないし、父も既に暴走した自分を止められないくらい弱体化している。
対抗手段など殆ど存在しない。
せいぜい、生きているかもしれないあのクソとぶつかってくれることを祈るか、少し交流のあるアメリカナンバー1ヒーローに応援を要請するくらいだろう。
正直、危険性を考えるなら、今すぐアメリカ留学して、新しい抑止力のもとに身を寄せるのが正しい選択だ。
だが、魔美子は世のため人のために、自分の唯一の
日本政府としても、オールマイト以上の戦力をみすみすアメリカに渡していいのかという意見が強いため、無理矢理引き離される事態にはなっていないのが幸いだった。
各国は自国のヴィランとの戦いに必死で戦争なんてしている余裕が無いとはいえ、それでも国同士の戦争が勃発する可能性はゼロではない。
ただでさえ巨大で強大なアメリカに最悪の戦力を引き渡すのは、それはそれで凄まじいリスクなのだ。
「魔森、お前は……」
『○○駅。○○駅。降車のお客様は━━』
「乗り換えですね。行きましょう、常闇くん」
「……ああ」
会話が中断され、魔美子もそれ以上は踏み込んでほしくなさそうにしているのを見て、常闇は口にしかけた言葉を飲み込んだ。