ナンバー1ヒーローの娘になった、悪の組織の改人系ヒロインのヒーローアカデミア   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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30 職場体験

「やあ、よく来てくれたね、お二人さん」

「お世話になります、ホークス」

「よろしくお願いしまーす!」

 

 辿り着いた九州にて。

 常闇と変装を解いていつもの口調に戻った魔美子は、目的の人物と顔を合わせていた。

 

 ナンバー3ヒーロー、ウィングヒーロー『ホークス』

 

 背中から大きな翼を生やした若い男だ。

 歳はなんと22歳。

 18歳でプロデビュー、その年の下半期にはトップ10入りを果たし、現在ではナンバー3にまで駆け上がったスーパーヒーロー。

 十代でトップ10に食い込んだヒーローは史上初であり、人は彼を『速すぎる男』と呼ぶ。

 

「いやー、体育祭の1位と3位が来てくれるとか、なんか贅沢な光景だね。

 体育祭の指名に参加したのは初めてだったのに、まさか指名できる二票が両方とも当たるとか、ツイてた」

 

 ホークスはヘラっとした笑みを浮かべながら、魔美子と常闇を歓迎した。

 ちなみに、ここは彼の事務所ではない。

 路上で偶然パトロール中の彼を見つけ、声をかけたのだ。

 しかし、ホークスは二人を見つけても事務所に帰る様子を見せず、

 

「んじゃ、俺はこのままパトロール続けるから、そこらへんでコスチュームに着替えてついてくるか、事務所に行ってまったりしてるか、好きに選んでくれ」

 

 そう言って、大きな翼をはためかせて大空に飛び立った。

 速い。

 これでは着替えて戻ってきた頃には見失っているだろう。

 指導する気があるのかと言いたくなるほどの置き去りっぷりだった。

 

「よし! 事務所に行ってまったりしようか、常闇少年!」

「待て、魔森。職場体験だぞ? 学ばなくてどうする?」

「だって、ホークスが好きにしろって言ってるんだし。あと、変装はやめたんだから、もう八木でいいよ?」

 

 そうして、魔美子は一切の躊躇なくサボタージュを選んだ。

 普段からそういう傾向はあったが、職場体験でもブレない彼女の様子に、常闇は頬をひくつかせる。

 だが、魔美子の思惑も上手くはいかなかった。

 ホークスを見つけて変装を解いてしまったことが災いして、通行人達が集まってくる。

 

「なあなあ! あんた、リトル・オールマイトやろ!? なして、ここにおると!?」

「あ、職場体験! 職場体験か! そうやろ!?」

「サインくれー! あと、オールマイトのプライベートとか教えてくれー!」

「でゅふふ。二回戦のあれは素晴らしかったでござる」

「ぬわぁああああ!?」

 

 民衆に飲み込まれる魔美子。

 ウザい。ひたすらにウザい。

 全てダークネス・スマッシュで消し飛ばしてしまいたい。

 しかし、ヒーローをやるなら民衆を蔑ろにしてはならない。

 そんなことをすれば、色んなところを敵に回してめんどくさいことになる。

 

(おのれ……! これが職場体験か!)

 

 確かに学べた。プロの大変さを体験することができた。

 

(だから、もう帰っちゃダメ?)

 

 魔美子は本気でそんなことを考え、将来は絶対に活動内容を表に出さない、相澤のようなアングラヒーロー路線で行こうと心に決めた。

 

「ふぅ」

 

 人気の無い場所で変装を施し直し、着ていた制服も着替えとして持ってきた私服に変えてから、魔美子は改めてホークスのヒーロー事務所を目指した。

 常闇はついてきていない。

 どうやら、彼は律儀にホークスを追いかけることを決めたようだ。

 真面目さんである。

 

「こんにちはー! 職場体験に来ました、八木魔美子です!」

「あ、来た! はーい! 待ってました!」

 

 辿り着いた事務所のチャイムを鳴らせば、スーツ姿の人が出迎えてくれた。

 コスチュームではないということは相棒(サイドキック)ではなく、事務員か何かなのだろう。

 

「ごめんなさい! ホークスは今、パトロールに行ってまして……」

「知ってます。駅前で遭遇したので。そのホークスに事務所でまったりしてるように言われたので、まったりさせてもらいますね」

「そ、そうでしたか。いや、ホントに申し訳ないです」

 

 事務員の人はペコペコしながら、魔美子を休憩スペースのような場所に案内してくれた。

 常闇のことも聞かれたので、ホークスを追いかけようとして、多分そのまま置いて行かれてることも伝えておいた。

 

「えぇ……。置いてきて良かったんですか?」

「頑張ろうとしてる人を止めるつもりはありませんから」

「そ、そうですか。さすが、オールマイトの娘さん。あの、サイン貰っても……?」

 

 事務員、貴様もか。

 授業で軽く習っただけのサインが、この数時間で異様に上達してしまった魔美子だった。

 

 

 

 数時間後。

 

「ただいま戻りましたー」

「あ、やっと帰ってきた」

 

 休憩スペースで事務員の人とゲームをやっていたところに、ホークスが帰還。

 常闇はまだ帰ってきていない。

 そろそろ日が暮れるのだが……。

 

「常闇少年、じゃなかった。ツクヨミはいないんですか?」

「ん? あの子、追いかけてきてたの? 見かけなかったから、てっきり事務所(ここ)に行ったもんだとばかり……」

 

 哀れ、常闇。

 追いかけたはいいが、やっぱり追いつけなかったらしい。

 しかも、気づいてもらえないほどの距離を引き離されたようだ。

 まあ、速すぎる男相手なら当然の帰結である。

 

「今メッセージ送ったんで、しばらくすれば来ると思いますよ」

「サンキュー。君くらい柔軟な子の方がやり易いね」

 

 ホークスはそう言いながら、事務員の人に本日の活動内容を報告していった。

 傍で聞いているだけでも凄まじい仕事量だ。

 全盛の頃の(オールマイト)に匹敵するかもしれない。

 この人もワーカーホリックか。

 

「お待たせ。八木魔美子ちゃん、ヒーロー名はチャーミーデビルだったね。よろしく」

「よろしくお願いします。って、これはさっきも言いましたね」

「ホントだ。で、それ何やってんの?」

「モ○ハンです」

「お、いいね。俺にもやらせて」

 

 ホークスがゲームに参加した。

 なお、散々付き合ってくれた(というか、接待してくれた)事務員の人は、ホークスの活動内容を纏める作業のために別室へ出動したので、休憩スペースに残されたのは魔美子とホークスだけだ。

 成人男性と女子高生がカチャカチャとゲームに興じる音だけが休憩スペースに響いた。

 シュールな絵面だ。

 

「あちゃー、またやられた。全然役に立てない」

「弱いですね。仕事ばっかりしてるから、そうなるんですよ」

「これは耳が痛い。本当は20〜30位くらいでのんびりしたいんだけどね」

「じゃあ、そうすればいいのに」

「ま、これでもヒーローの端くれなんで、仕事があるなら働かないといけないんだよ。

 いつかはヒーローが暇を持て余す世の中にしたいと思ってるから、ゲームはその時にゆっくりやろうかな」

「それは素敵な夢ですね」

 

 反吐が出るくらいに。

 魔美子は内心でそう吐き捨てた。

 ヒーローが暇を持て余したら、魔美子は破壊衝動を持て余して暴走してしまう。

 この人とは相入れないなと、魔美子は早くも悟った。

 

「実はね、今回の指名、最初は君と轟くんにするつもりだったんだ。

 でも、トップ2のジュニアは競争率高そうだし、指名は二票しか入れられないから、断腸の思いで片方変えたんだよね」

「……それ、常闇少年には言わないでくださいね」

 

 魔美子は仲間思いの良い子の仮面を被り、少し責めるような声でホークスに告げた。

 しかし、

 

「咄嗟のことで声音も表情も少し崩れてる。まだまだだね」

 

 ホークスはあっさりと仮面を被ったことを見抜いて、指摘してきた。

 

「俺、そういうのわかっちゃうタイプなんだ。この職場体験ではガンガン指摘するから、是非ともより効果的な仮面の被り方を覚えて帰ってほしい」

「……あなた、やりづらい人ですね」

「はい、減点。ブラフかもしれないんだから、そこはシレッと嘘を吐き通そう。

 コツは演じるキャラ設定を細部まで詰めておくことと、素の自分から流用できる部分は流用することだよ。

 嘘は本当に混ぜといた方がバレづらいんだ」

 

 ホークスはゲーム画面から一切目を離さないまま、先ほどまでと一切態度を変えないまま、平和の象徴の暗部に食い込みそうな話をサラッと続けてみせた。

 

(……なるほど。これがプロか)

 

 どうやら、思っていたより遥かにためになる職場体験になりそうだ。

 

「ツクヨミ、帰還しました……」

「うおっ! またやられた! 八木ちゃん、仇取ってくれー!」

「任せてください! あなたの屍を越えて、立派に責務を果たしてみせます!」

「……随分と仲良くなったようだな」

 

 疲れ切った常闇の目には、ホークスと魔美子は既に、十年来の友のように打ち解けているように見えた。

 職場体験初日。

 魔美子は有意義な教えを授けられ、逆に常闇は一切何も掴めないまま、その日は終わった。

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