ナンバー1ヒーローの娘になった、悪の組織の改人系ヒロインのヒーローアカデミア 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「ハァ……信念無き殺意に何の意義がある?」
隠れ家的な雰囲気を醸し出すバーにて。
全身に刃物を携帯した一人の男が、ナイフを手に一人の青年の肩を刃で貫いて押さえつけていた。
刃で貫かれている青年の名は、死柄木弔。
雄英を襲撃した組織、ヴィラン連合の主犯格である。
「ハハッ。強すぎだろ。黒霧、こいつ帰せ。早くしろ」
「体が、動かない……! 恐らく『ヒーロー殺し』の個性……!」
守るべき者である死柄木が凶刃に晒され、そんな状況で自らが動けないことに、黒い靄のヴィラン、黒霧が焦ったような声を上げた。
「何を成し遂げるにも信念、強い想いがいる。無い者、弱い者が淘汰される。当然だ。
『
ヒーロー殺しと呼ばれた男が、ナイフを粛清対象の首に近づける。
首筋に刃が近づき、死柄木の顔に装着されている手のような装備に近づき……。
「ちょっと待て待て。この掌はダメだ。━━殺すぞ」
「ッ!」
その時、殺されるのを待つばかりだったはずの死柄木の眼に、明確な殺意が宿った。
その眼で、死柄木はヒーロー殺しを睨みつける。
「口数が多いなぁ。信念? そんな仰々しいもの無いね。
強いて言えば、そう、オールマイトだな。
あんなゴミが祀り上げられてるこの社会を、滅茶苦茶にぶっ壊したいなぁとは思ってるよ」
死柄木の眼に宿る、異質な想い。
歪な信念の芽。
◆◆◆
ヒーロー殺し『ステイン』。
判明しているだけでも、これまでに17人ものヒーローを殺害し、23人ものヒーローを再起不能に追い込んでいる。
オールマイトが平和の象徴と呼ばれるようになり、犯罪率が低下して以降では、あの最悪のヴィラン『デッドエンド』に次ぐ殺人数を誇る凶悪犯だ。
そんなステインに兄を再起不能にされた少年、雄英高校1年A組クラス委員長の飯田天哉は。
今までのステインの傾向から見て、奴が再び兄が襲われた町『
普通に考えれば無駄な行いだ。
相手は現代の包囲網を掻い潜って逃げ続ける凶悪ヴィラン。
捜査のノウハウも無い一学生の飯田がちょっと探したところで見つかるようなら、とっくの昔にプロの誰かが捕らえている。
しかし、飯田は
職場体験三日目の夕方、とてつもなく低い可能性を引き当ててしまった。
「スーツを着た子供……? 何者だ?」
町中に突如轟音が響き渡り、その騒ぎに乗じるような形で職場体験先のヒーローの監督下から抜け出し、見つけてしまった光景目掛けて走った。
そこにいたのが、全身に刃物を携帯したヴィランと、体を動かせない様子で拘束されているヒーロー。
それは紛れもなく、
「血のように赤い巻物に、全身に携帯した刃物……! ヒーロー殺しステインだな!? そうだな!?」
立派なヒーローだった、彼にとっての憧れだった兄を再起不能にした、憎い憎い仇の特徴。
「僕は、お前にやられたヒーローの弟だ! 最高に立派な
僕の名前を生涯忘れるな!
━━『インゲニウム』!! お前を倒すヒーローの名だ!!」
怒りと憎しみの炎を瞳に宿らせて叫ぶ飯田。
ヒーロー殺しは、そんな飯田にゾッとするほどの殺意に満ちた目を向けて。
「そうか。死ね」
死刑宣告を下した。
◆◆◆
「ふぃー。終わったー」
「お疲れ様」
職場体験三日目の夕方。
朝から動きっぱなしで解決に当たった事件が終わり、魔美子はホークスから労われていた。
「まさか九州に職場体験に行って、東京まで足を運ぶことになるとは思いませんでしたよ」
「さすがに俺も君のスピードを見てなかったら断ろうと思ってたよ。職場体験に来てる子をほったらかすわけにはいかないしね」
「それ、常闇少年の前でも同じことが言えますか?」
「彼には君がアドバイスしたみたいだから大丈夫。昨日何かしたんでしょ? 今日はその時の感覚をひたすら反芻する時間ってことで」
いけしゃあしゃあと、そんなことをのたまうホークス。
教育者としては失格もいいところである。
まあ、魔美子としては東京の大物ヴィランを殴れたので文句は無い。
数日がかりの大掛かりな作戦になると思われていたところを、魔美子が敵組織の幹部を瞬殺して回ったことで、日帰りで戻れるわけだし。
ピロン♪
「ん?」
と、そこで魔美子の携帯がメッセージの受信を報せた。
送信者は緑谷。
内容は位置情報。
なんの言葉も添えられておらず、ただ位置情報だけが一括送信で送られてきた。
「なんじゃこりゃ?」
数秒意味を考えた後、魔美子はハッとした。
これもしかして、ピンチだから救援呼べとかそういうことではなかろうか?
いやいや、そんなバカな。
緑谷は今、
魔美子が勝手にMr.キックブレイクの前身になる活動をやり始めた時も激怒して「勝手なことすな!!」と叫びながら愛の拳を振るってきたあの人が。
父の青年期にも、先走り過ぎる救済願望を殴って矯正することを試みたという(失敗に終わったが)あの人が。
ロクに情報を送ってる余裕すら無いような死地に、未熟も未熟な緑谷を送り出すはずがない。
(ということは、まさか……!?)
グラントリノがいてもなお、こんなメッセージを送ることしかできない窮地に陥ったということか?
ありえる。
ワンフォーオールに固執しているあのクソが生きている可能性が浮上したのだ。
何かしらの手段で継承者が緑谷であることを突き止め、このタイミングで刺客を放ったのだとしてもおかしくない。
なんてこった。
「ん? どうかした?」
「ホークス、戦闘許可は貰ってたってことでお願いします」
「は? って、ちょ……!?」
個性解放部位『翼』 出力80%
東京まで出向いていたのが吉と出た。
送られてきた位置情報の場所まで、本気で飛べば数分とかからない。
緑谷は父の引退と平穏な老後のために絶対に欠かせないピースだ。
万が一にも失うわけにはいかない。
「『デビル・ウィング』!!」
そうして、魔美子は弟弟子の救援のために飛び立った。
時速1000キロオーバー。
速すぎる男すら置き去りにするスピードで。