ナンバー1ヒーローの娘になった、悪の組織の改人系ヒロインのヒーローアカデミア   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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34 保須市襲撃事件 パート2

「八木さん! 気をつけて! そいつは血の経口摂取で相手の体の自由を奪う個性を持ってる! それに肉体的な戦闘能力もかなり高い! 油断しないで!」

「ありがとう、緑谷少年。後は私に任せときなさい。こいつは学生が相手にするレベルじゃない。健全な学生時代を送りたまえよ」

「それを言ったら、お前もなんじゃ……」

 

 轟の至極真っ当な意見を黙殺しつつ、魔美子は片手を前に構える。

 轟が炎を使う時と同じ動作。

 対峙するヒーロー殺しは歴戦であり、その動作から先ほどの闇のレーザービームを即座に連想。

 避けながら距離を詰めるべく、体を屈めながら魔美子の掌の直線上から斜め下の位置、レーザービームの軌道を最も避けやすい位置をキープしながら走る。

 

 獣のような前傾姿勢で襲いくるヒーロー殺し。

 それに対して、魔美子は闇レーザーを放つことは無かった。

 突き出した手を後ろに引き、腰を捻って反対側の手で拳を打ち出す。

 拳を振るう腕が、一瞬にして漆黒に染まっていった。

 

 個性解放部位『右腕』 出力30%

 

「『デビル・スマッシュ』!!」

「ッ!?」

 

 闇レーザーを囮にして、本命の衝撃波を放つ。

 魔美子は力押しの脳筋戦法を好むが、やろうと思えばこういう駆け引きだってちゃんとできるのだ。

 そこらの個性が強いだけのチンピラ相手ならともかく、あのクソの刺客と思われる奴を相手に油断はしない。

 まして、今は絶対に失えない足手まといを抱えているのだから、なおのこと。

 

 直線の攻撃が来ると思っていたところに範囲攻撃が来て、ヒーロー殺しは避けられずに吹っ飛ばされた。

 ただし、直前で気づいてガードを固めながら後ろ受け身を取っている上に、魔美子が周囲の被害を気にして衝撃波の威力を抑えたので、大したダメージは入っていない。

 

(チッ!)

 

 彼女は内心で舌打ちした。

 今の自分の立場が悔やまれる。

 これがMr.キックブレイクなら、周辺被害なんて気にせず、いつもの70%を打っていた。

 近場の騒ぎのおかげで避難は終わっていて、巻き込むとしても建造物くらいだし。

 

 しかし、今の魔美子は資格未取得者のチャーミーデビルだ。

 戦闘許可は取ったということにしてあるとはいえ、下手に町並みをぶっ壊したらまた雄英が、ひいては父が色々言われる。

 いざという時はなりふり構っていられないだろうが、できる限りは被害を気にして戦わなければならない。

 ストレスが溜まる。

 

「『クリエイト・サモンゲート』!」

 

 そんなイライラを不敵な笑顔の仮面の下に押し込めて、魔美子は次の一手を打つ。

 5体の使い魔を召喚し、緑谷達の護衛に当てた。

 数を絞って力を集中したので、それぞれがワンフォーオール10%くらいの身体能力を持つ使い魔が5体だ。

 前回の脳無クラスが追加で現れたとしても、最悪緑谷一人を逃がすことくらいはできるだろう。

 

「よっ!」

 

 使い魔が配置につくのを見届けることなく、魔美子は大通りの方に吹っ飛ばしたヒーロー殺しを追う。

 翼の出力を下げて温存し、高速飛翔ではなく宙に留まることだけに集中。

 敵の攻撃が届かない空の上から、闇レーザーの雨を放った。

 

「『デスレイン・スマッシュ』!」

「……チッ」

 

 小分けにして数を増した機関銃のような攻撃。

 『レーザーの雨』という表現が比喩ではなくなるような連続攻撃。

 緑谷から聞いた情報で、敵の個性は近接必須と割れている。

 なら、近接攻撃の届かない上空から一方的に攻撃して仕留める。

 もっとも、あのクソの刺客ならいくらでも隠し球が出てくるだろうが、とりあえずわかっている武器だけでも対策しておくのは大事だ。

 代償として、レーザーの雨でアスファルトがボロボロになっていくが、水平に撃つよりは遥かにマシなので妥協するしかない。

 

「ハァ……守るべき者達から即座に俺を遠ざけ、護衛をつけ、自分は俺の攻撃の届かない空の上に陣取る。

 おまけに、大通りでの戦いに持ち込まれたせいで、壁を蹴っての立体機動でお前に到達するという方法まで封じられた。

 これがテストだったら100点だろうな」

 

 ヒーロー殺しは、なんと飯田に折られた刀とナイフの二刀流でレーザーの雨を斬り払いながら、魔美子を称賛するような言葉を口にした。

 さすが大物ヴィラン。化け物じみている。

 

「だが!!」

 

 と、そこでヒーロー殺しの口調が荒くなった。

 

「貴様にはヒーローとしての大前提が欠けている!! 他者をなんとしてでも救けるという心だ!!

 あの連中を救けに来たようだが俺の目はごまかせん!!

 お前は奴らを大切になど思っていなかった!! お前の眼は奴らを救うべき他者としてではなく、ただの足手まといとして見ていた!!

 お前の救済は英雄的な精神によるものではなく、打算まみれの偽善だ!!

 その醜悪な性根!! 理想(オールマイト)のガワだけ真似た不快な笑顔の仮面の下に隠そうとも、俺にはわかる!!」

 

(バレテーラ)

 

 魔美子は内心でヒーロー殺しを称賛した。

 ここ数日でホークスに粗を指摘されまくり、かなり精度が上がったと自分では思っている仮面に全く騙されていない。

 どんな洞察力してるんだ。

 塚内の妹さんのような、嘘発見の個性でも持っているのだろうか?

 

「そりゃ、パパに比べれば私のヒーロー精神なんてちっぽけなもんだろうさ!

 でも、ちっぽけな娘はちっぽけなりに頑張ってるんだから、頭ごなしに否定しないでほしいね!」

 

 魔美子はシレッと嘘を吐き続ける。

 彼女のヒーロー精神はちっぽけどころかゼロだ。

 しかし、敵の発言はブラフかもしれないのだから、図星を指されたとしても慌てず騒がず嘘を吐き通すべし。

 ホークスの教えが活きていた。

 

「黙れ!! 貴様がリトル・オールマイトだと!? ふざけるな!! 本物の英雄を愚弄するのも大概にしろ!!」

 

 それでもヒーロー殺しの主張はぶれない。

 どうやら、ブラフとかそういうのではないらしい。

 何かしらの根拠があるのか、彼は確信を持って魔美子を糾弾してくる。

 

「貴様は見せかけだけオールマイトを真似た、ただの偽物!! あまりに不快な粛清対象だ!!」

 

 両手の刃物を握るヒーロー殺しの手に力が入る。

 

「正しき社会のための供物となれッッッ!!!」

 

 目を血走らせ、喉が枯れんばかりに叫び、尋常ならざる殺意を魔美子に向けるヒーロー殺し。

 その時、ほんの僅かに━━魔美子の背筋に「ゾクリ」とした悪寒が走った。

 

「え?」

 

 なんだ、今のは?

 まさか、怯えた?

 人でなしの怪物が、今さらこの程度の相手に?

 

(ありえない)

 

 今まで数え切れないほどの敵と戦ってきた。

 あのクソの刺客、公安の刺客、Mr.キックブレイクとして戦ったヴィラン達。

 何より、明確な格上だったあのクソ本人とすら戦っている。

 それでも戦いで恐怖を感じたことなど無かった。

 いつだって、恐怖なんかより破壊衝動の方が強かった。

 なのに、なんでこいつだけ、見ているだけで心臓が嫌な音を立てるのか。

 いや、でも、この悪寒を覚えるほどの異様な威圧感、いつかどこかで……。

 

(いや、今はそんなことどうでもいい!)

 

 最優先は緑谷の安全。

 次点でこいつの確保。あのクソの情報を洗いざらい吐かせてやる。

 今回に関してだけは、破壊衝動の発散など二の次だ。

 このまま上空から確実に攻める!

 

「おおおおおおおおお!!!」

 

 だが、ヒーロー殺しは闇レーザーの雨を掻い潜り、大通りに面するビルの窓を叩き割って、その中に逃げ込んでしまった。

 一番されたくなかった動きだ。

 闇レーザーは最優先で今のを妨害するように撃っていたのに、それでも突破されてしまった。

 やはり、遠距離戦なんて使い慣れていない戦法だと粗が出るか。

 

「……これ、行かなきゃダメ?」

 

 なりふり構わなければビルごとぶっ壊すところなのだが、立場上、被害は抑えなければならない。

 しかも、あのビルの中に人が残っていたりすると最悪だ。

 近場の騒ぎのおかげで避難しているとは思うが、どこにでも避難指示を甘く見て逃げない輩はいる。

 そういうのを人質にでもされたら最悪。

 避難指示を無視した奴を見捨てた場合でもヒーローが叩かれるのだから、本当にやってられない。

 

「……しょーがない。行くか」

 

 被害とか最低限しか考えなくていいヴィジランテ一本で生きていけたらいいのにと嘆きながら、魔美子はビルの中に飛び込んだ。

 まあ、あっちはあっちでままならないことが多いので、上手いこと二つの顔を使い分けて良いとこどりを目指すのが最善なのだろう。

 

「なんか、パパの戦闘訓練を思い出すなー……」

 

 翼を仕舞ってビルの中を駆け回りながら、そんなことを呟く魔美子。

 ここだと翼も闇レーザーも殆ど使えない。

 本当に、爆豪、轟、飯田、障子を相手にしたあの時と似たような状況だ。

 まあ、相手に大怪我くらい負わせていい分、あの時よりはマシか。

 

「……!」

「おっと、来たね!」

 

 ヒーロー殺しが、右手側にあったガラス張りの壁をぶち破って襲撃してくる。

 右手に持つ折れた刀を、魔美子の首筋に向けて振るってきた。

 彼女は個性を解放して迎撃。

 

 個性解放部位『両手足』 出力70%

 

「そい!」

 

 腕を薙いだ。

 面倒だが致命的な欠損を与えないように、個性の出力は上げても攻撃の打ち方には注意して。

 魔美子はヒーロー殺しが反応できないほどの超スピードで腕を振るい、されど振り抜きはせず、当たって弾いた時点でピタリと止める。

 結果、ヒーロー殺しの右腕はひしゃげて砕けたが、根本から消し飛びはしなかった。

 内心でガッツポーズするほどの完璧な調整。

 

「正さねば……!!」

 

 しかし、ヒーロー殺しはひしゃげた右腕にまるで頓着せず、左手のナイフで魔美子の眼球を狙ってきた。

 再生系の個性は持っていないのか、ひしゃげた右腕が治る様子は無い。

 にも関わらず、己の体の損傷を度外視とは。

 

「イカれてるね!」

 

 首を横に倒して眼球狙いのナイフを回避し、お返しに今度は右脚でヒーロー殺しの脇腹を蹴り飛ばす。

 肋骨をへし折ったという確かな手応え、いや、足応えがあった。

 その蹴りの勢いでヒーロー殺しは横に飛んでいき、ビルの外に叩き出された。

 しかし、奴はすぐに体勢を立て直し、狂気的な形相を浮かべながら再突撃してくる。

 

「誰かが、血に染まらねば……!!」

 

 突っ込んできたヒーロー殺しを右拳で迎撃。 

 残った左腕で振るってきたナイフを、腕ごとぶっ壊す。

 ヒーロー殺しはそれにすら頓着せず、痛みを感じていないかのように、流れるような動きで魔美子の首筋に噛みつこうとしてきたので、その顔に頭突きをお見舞いしておいた。

 

「ふん!」

「ッ!?」

 

 脳を揺らされて動きが止まったヒーロー殺しに、左のボディブローを叩き込む。

 これも拳が体を貫通する前に止めることで加減した一撃だが、それでも腹筋や内臓にかなりのダメージが入ったはずだ。

 ボディブローの衝撃で、ヒーロー殺しがまたしても吹き飛ばされる。

 突撃する度に弾き返され、ダメージのみをその身に蓄積していく。

 

 ヒーロー殺しは決して弱くはない。

 むしろ、かなり強い。

 だが、魔美子とは相性が悪い。

 血の経口摂取で相手の体の自由を奪う個性。

 それはつまり、相手が血を見せてくれなければ、ただ限界まで身体を鍛えただけの無個性だ。

 

 今の魔美子は諸々のリスク覚悟で個性の出力を上げ、衰えたオールマイトと同等以上の身体能力で動いている。

 拳も蹴りも速すぎて、油断さえしていなければ、ヒーロー殺しの攻撃を見てから余裕で後出しの迎撃ができてしまう。

 これでは斬りつけて血を舐めることなどできるはずがない。

 個性が使えない状況でオールマイトを相手にしているようなものと考えれば、いかにこの戦いが無謀かわかるだろう。

 

 とはいえ、その欠点を克服するような個性をあのクソに与えられている(・・・・・・・)と思っていたのだが……。

 今のところ変な技を使ってくる様子が無い。

 もしかしたら、こいつは刺客ではなく、あのクソに掌の上で踊らされて緑谷にぶつけさせられただけの、ただの一般通過ヴィランだったのかもしれない。

 

「ねぇ、もう終わりにしようよ、ヒーロー殺し」

「ハァ……ハァ……!」

 

 大通りにまで吹っ飛ばされ、両腕、胴体に深刻なダメージを負い、頭突きを叩き込まれた顔からも血をダラダラと流しながら、それでもまだヒーロー殺しは立っていた。

 

「力の差は歴然。君と私じゃ相性が悪すぎる。勝ち目なんか無いよ?」

「黙れ、偽物!!」

 

 ヒーロー殺しが叫ぶ。

 ゴホゴホと咳き込み、その度に血を吐き、なおも折れないまっすぐな殺意を魔美子にぶつけてくる。

 ━━ゾクリ。

 また魔美子の背筋に悪寒が走った。

 

(こんな死に損ない相手に……!)

 

 魔美子は頭を振って、ありうべからざる感情を振り払った。

 

「えーと……これ、どういう状況?」

「なっ!? 何故、貴様がここに!?」

「小娘!?」

 

 と、ここで新たな乱入者が現れた。

 大きな翼を生やした若い男。

 炎を纏った筋骨隆々の巨漢。

 黄色のコスチュームを着た、随分と背の縮んでしまった老人。

 

「ホークスにおじいちゃん!」

「グラントリノ!」

「エンデヴァー……」

 

 魔美子、緑谷、轟がその三人に反応した。

 ナンバー3ヒーロー『ホークス』

 ナンバー2ヒーロー『エンデヴァー』

 ナンバー1ヒーローを育てた男『グラントリノ』

 とんでもない顔ぶれだ。

 大抵のヴィランは泣いて逃げ出すだろう。

 

「ハァ……エンデヴァー……!!」

 

 だが、このヴィランは。ヒーロー殺しは。

 三人の中でも特にエンデヴァーに強い強い殺意を送って、睨みつけた。

 もう焦点の合っていない目で、魔美子とエンデヴァーを睨みつけた。

 

「偽物……!!」

「「「ッ!?」」」

 

 ここにきて一層強まったヒーロー殺しの威圧感に、この場の全員が息を呑んだ。

 近くにいてくれた方が守りやすいという理由で使い魔に連れていかせなかった学生達はもちろん、プロの頂点や怪物(魔美子)すらも、その男の気迫に押された。

 

「正さねば……! 誰かが血に染まらねば……! ヒーローを取り戻さねば……!!」

 

 ヒーロー殺しが歩を進める。

 我が身を己の血に染めながら、必ず殺すと決めた粛清対象達に向かって。

 

「来い……! 来てみろ偽物ども……! 俺を殺していいのは!! 本物の英雄(オールマイト)だけだ!!!」

 

 学生達が腰を抜かす。

 トップヒーロー達ですら冷や汗を流す。

 魔美子は……反射的に足が一步後ろに下がっていた。

 そんな己に驚愕した。

 

 しかし、ヒーロー殺しが、それ以上歩を進めることは無かった。

 

「…………気を、失っている」

 

 誰かがポツリとそう呟く。

 ヒーロー殺し『ステイン』は、凄まじい形相を浮かべたまま、敵に立ち向かったまま、倒れることなく、立ったまま気を失っていた。

 

 病院に搬送された時にわかった事実だが、この時、ヒーロー殺しは両腕粉砕骨折。

 肋骨も折れ、それが肺に突き刺さり、内臓もいくつか潰れ、頭部や全身も強く打ちつけていた。

 まさに満身創痍。

 そんな状態で、彼は最後まで倒れなかったのだ。

 

 不屈の闘志なんてチンケな言葉では言い表せないほどの、絶対的な意志の力。

 それは魔美子の記憶に深く刻まれ、この先の未来に大きな影響を及ぼすこととなる。




・緑谷出久、轟焦凍、飯田天哉
精神成長『−1』

・八木魔美子
精神成長『+1』
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