ナンバー1ヒーローの娘になった、悪の組織の改人系ヒロインのヒーローアカデミア   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

35 / 48
35 職場体験 終了

「おい。おいおいおいおい。どうなってんだ? あんだけ苦労してゲットしたパーティーメンバーが、なんでこんな簡単にやられてる?」

 

 とあるビルの屋上にて双眼鏡を構える男が、首筋をガリガリと掻きながらイラ立たしげに声を上げた。

 双眼鏡越しに見える景色は、ヒーロー殺しが捕まって連行されていく様子。

 まあ、奴は自分に刃を突き立ててきたクソ野郎だ。

 利害の一致と、なんか歪んだ信念の芽? とやらを見込まれて一応の協力関係を結んだが、やられたのなら「ざまぁ見ろ」としか思わない。

 ただし、それをやったのが、もっとイラつく奴でなければだ。

 

「なんで、あのチートのクソガキがここにいるんだよ? あれがいたら、どんなゲームもクソゲーだろうが!」

 

 ガリガリ、ガリガリと掻きむしり、首筋から血が出てきた。

 USJでオールマイト抹殺をあと一歩のところで邪魔し、自慢の脳無を二体も瞬殺し、おまけに衝撃波の拳でぶっ飛ばしてくれやがったクソガキ。

 しかも、雄英体育祭を『先生』に言われて見ていたから知ったが、あいつまさかのオールマイト(最悪のゴミ)の娘だった。

 それが一応とはいえ人様のパーティーメンバーを潰し、こっちの戦力を削ぎやがった。

 腹の立つことのオンパレード。役満だ。

 

「おまけに、今回の脳無も瞬殺とか、マジふざけんな……!」

 

 ヒーロー殺しは「ヒーローとは見返りを求めてはならない。自己犠牲の果てに得うる称号でなければならない」という信念に基づき、「ヒーローを騙る偽物の粛清を繰り返すことで、世間にそれを気づかせる」という理念のもとに行動していた。

 

 死柄木はスカウトしようとしたら刺された腹いせのように、ヒーロー殺しの粛清を霞ませるほどの大事件を起こして、彼の面子と矜持を潰してやろうと企んだ。

 そのために先生から借りた脳無三体を保須市に放った。

 しかし、脳無達はヒーロー殺しを追ってきたのかなんなのか、現場に居合わせたナンバー2とナンバー3によって瞬殺されてしまった。

 USJで使った脳無に比べれば遥かに弱い、先生からすれば死柄木の授業料として完全に捨てた駒だったとはいえ、この結果はますます死柄木をイラ立たせる。

 おまけに……。

 

「クソッ……!」

 

 翌日の新聞。

 そこに載るのはヒーロー殺しの逮捕と、彼の思想に対する熱い議論。

 そして、それを成したのが最近話題沸騰中のリトル・オールマイトだという記事ばかり。

 

『ハハハハ! 夜が明ければ、世間はあんたのことなんか忘れてるぜ!』

 

 脳無を放った時、死柄木が高笑いしながら口にした言葉。

 忘れるどころか、ヒーロー殺しの存在はリトル・オールマイトの話題すら食いかねないほどに世間に深く刻まれた。

 一方、自分の放った脳無は完全にオマケ扱い。

 

「なんで、思い通りにならない……!」

 

 強いストレスが死柄木弔を苛む。

 その様子をモニター越しに見て、『先生』と呼ばれた男がニヤリと笑った。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「歯ぁ食いしばれ! この腐れ豚野郎がぁ!!」

「ぐっはぁ!?」

「「緑谷(くん)!?」」

 

 とある病院にて。

 ヒーロー殺しにやられた怪我が原因で入院した緑谷が、魔美子の強烈なパンチを頬に貰って吹っ飛んだ。

 同室の轟と飯田が突然の凶行に慌てふためき、魔美子を羽交い締めにして止めようとするも、怪我人二人でこの馬鹿力を止められるはずもなく、魔美子は吹っ飛んだ緑谷に方に近づいていって、病院服の胸ぐらを掴み上げた。

 

「てっきり襲撃されたから応戦してたのかと思ったら、自分からヒーロー殺しに向かって行きましただぁ?

 君、自分の立場わかってんの? 自分のザコっぷりをわかってんの? 自分が死んだらどうなるかわかってんの? ねぇねぇねぇ?」

「す、すすすすす、すみません!!」

 

 完全に仮面が剥がれ落ち、ゴミを見るような目を隠そうともしなくなった魔美子が緑谷をなじる。

 ヒーロー殺しが連行された後、相手がヴィランとはいえ資格未取得者が個性で人に大怪我を負わせたということで、魔美子はヘドロの時のように警察のお世話になった。

 しかし幸い、今回はちゃんと話を合わせてくれたホークスによって「戦闘許可は出ていた」という話になり。

 職場体験二日目三日目で、既にホークスと共に多数のヴィランを殴り倒して事件解決した実績があったので、今回もその延長ということで処理された。

 

 だが、問題はその事情聴取で知り得た情報と、その後で合流したグラントリノ(おじいちゃん)との話で聞いた緑谷の行動だ。

 なんとこのアホ、グラントリノの待機命令を無視して突っ走り、脳無が派手に暴れていた現場に突入。

 保須市という場所、担当ヒーローの隣にいなかった飯田、そこからヒーロー殺しの存在を連想し、可能性のありそうな場所を片っ端から走り回って奴を捕捉。

 体の自由を奪われていた飯田ともう一人を助けるため、例の位置情報の一斉送信をした後に交戦したという話だ。

 

 ヒーロー殺しは、あのクソの刺客なんかじゃなかった。

 緑谷が狙われたわけでもなかった。

 ただただ自分から危険に首を突っ込んで死にかけただけだった。

 

「歯ぁ食いしばれ!」

「ぐへぇ!?」

 

 もう一発いった。

 本当にこのバカはもう、ワンフォーオール継承者という立場をわかっているのだろうか?

 死ねばワンフォーオールが、オールマイトの力が途絶えるんだぞ?

 せめて出力50%は出せる半人前になってからじゃないと、あんな強敵に向かっていっちゃダメだろう。

 今の緑谷は「戦闘力たったの5%か。ゴミめ」状態なのだから。

 

「や、八木、落ち着いてくれ。緑谷が突っ走らなかったら、飯田もネイティブさん(もう一人の被害者)も死んでた。だから……」

「それは結果論だよ、轟少年」

 

 魔美子は轟に目を向けないまま、冷たい声で言った。

 轟は体育祭の耳責めで体験したゾッとする感覚を思い出し、背筋が冷えた。

 

「ヒーロー殺し、強かったよ。相性が良かったから圧倒できたけど、リスク覚悟で個性の出力を上げ続けてなかったら負けてたと思う。

 で? 君達は個性を使った私どころか、個性無しの私にすら勝ったことある? 無いよね?

 向こうがその気だったら、君達はとっくにあいつの刃の錆になってた」

「「「…………」」」

 

 その言葉に何も返せず、三人は黙る。

 ヒーロー殺しは明らかに手を抜いていた。

 友を救けに来た緑谷と轟を見て「良い」と呟き、徹底して二人を殺すような攻撃はしなかった。

 悪の矜持に救われた。

 それがわかっているからこそ何も言えない。

 

「今回は運が良かっただけ。私に殴られたくないなら、一刻も早く強くなること。心配無用なくらい強くなった後なら、私だって何も言わないよ」

 

 魔美子は緑谷と轟にそう告げる。

 緑谷は父の老後の安泰のために必要不可欠であり、轟は成長すればあのクソの領域を脅かしてくれるかもしれない強力な駒だ。

 こんな弱いうちに死んでもらっては困るなんてものじゃない。

 だからこそ、本来他人なんかどうでもいいはずの魔美子が、こんなに本気で叱っている。

 しかし、彼女の叱責に一番反応したのは二人ではなかった。

 

「八木くんの言う通りだ……! だが、一番悪いのは緑谷くんではない! 俺だ! 彼を殴るのなら、その十倍は俺を殴ってくれ!!」

 

 そう言い出したのは眼鏡委員長、もとい飯田。

 兄の復讐のために先走り、真っ先にヒーロー殺しに挑みかかった男。

 

「ああ。確かにその通りだね。じゃあ、覚悟はいいかな? 飯田少年?」 

「いつでも来……ぐはぁっ!?」

 

 魔美子のラッシュが飯田を襲う!

 正直、魔美子からすれば飯田がどうなろうが知ったことではないので、死にたければ勝手に死んでればいいんじゃないかなと個人的には思っているが。

 これの尻ぬぐいのために緑谷(父の後継)(強い駒)が死にかけたというのなら、殴っておかなければならないだろう。

 飯田が死んだ場合でも、絶対に雄英(父の職場)は猛バッシングを受けるだろうし、なおさら殴る理由がある。

 結果、飯田のトレードマークである眼鏡は殉職し、彼の顔面は二倍くらいの大きさに腫れ上がった。

 見た目的には、ヒーロー殺しにやられた怪我より酷い。

 

「八木。俺も同罪だ。殴ってくれ」

「よし。良い度胸だ」

「ぐっ!?」

 

 一人だけ罰を逃れる気にはなれなかった真面目な轟くんも殴られ、三人仲良く顔を腫れ上がらせて反省した。

 なお、魔美子に続いてお見舞いに現れたエンデヴァーはそれを見て「焦凍ぉおおおお!? おのれ貴様ぁああああ!!」と荒ぶっていた。

 なんだ意外と子供思いじゃないかと、魔美子は轟から聞いていたエンデヴァーのイメージを再び更新した。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「お世話になりました、ホークス!」

「いや、ホントにね。急に飛んでいったと思ったら、次に見た時にはヒーロー殺しをボコボコにしてるんだもん。

 さすがの俺も事情説明の口裏合わせとか、マスコミへの対応とかで疲れちゃったよ」

「因果応報。……と言いたいところだが、さすがに哀れ」

 

 職場体験最終日。

 最後の挨拶に来た魔美子と常闇を、心なしかゲッソリとしたホークスが出迎えた。

 常闇が気の毒そうな視線をホークスに送っているのに対して、魔美子はあえて申し訳ないという顔の仮面を被らず、学校にいる時のようにニコニコと笑っている。

 ごめーんね☆ って感じの小悪魔という感じだ。

 仮面を被るなら、素の自分から流用できる部分は流用した方が良い。

 ホークスの教えが変な方向に作用していた。

 

「しかし、よくこんな危ない橋を渡ったね。もし俺がルールを遵守して、口裏合わせを断ってたらどうする気だったの?」

「ホークスは頭が柔らかいタイプでしょ? しかも、パパにも匹敵するようなワーカーホリック。

 あれだけ働けるのは情熱がある証拠だし、そこまでして平和の維持に奔走してる人なら、ナンバー1の娘がナンバー3のところで問題行動なんて、ヒーローへの信頼と社会の安寧を揺るがしかねない状況を招くわけがない。

 ちゃんと上手いことやってくれるって信じてましたよ!」

 

 嘘くさい(あざとい)笑顔で感謝を告げるチャーミーデビル。

 そんな彼女にホークスは苦笑して、

 

「悪びれないなぁ、確信犯め」

「悪びれない私でいいって言ってくれたのはホークスなので」

「あれ、そういう意味じゃないから。何よりケースバイケースだからね?」

「ふふ。わかってますよ」

 

 にこやかに(表面上は)笑い合う魔美子とホークス。

 二人とも美男美女なので実に絵になる。

 そんな絵になる仮面の下は、すぐ傍にいる常闇にすらわからない。

 

「本当に仲良くなったものだな……」

 

 常闇は二人の表面だけを見て、そんな感情を抱いた。

 放置され、ヒーロー殺しの件も完全に蚊帳の外だった身としては、あまり面白くない。

 特にホークスだ。

 次の機会があったら、絶対にギャフンと言わせてやると心に誓った。

 

「それじゃ改めて……お世話になりました、ホークスさん」

 

 そこで魔美子は既に変装済みだった外見(三つ編み&ダサ眼鏡)に合わせた態度に変えた。

 ボソボソとした口調で、丁寧に頭を下げる。

 常闇は「やはり調子が狂うな……」と呟き、ホークスは、

 

「うん。お疲れー」

 

 最初に会った時と同じ、ヘラっとした笑顔で二人に別れを告げ、自分は本日のパトロールのために飛び去った。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「ええ。終わりましたよ」

 

 福岡の上空。

 盗み聞きされる可能性が極めて低い空の上にて、ホークスは携帯で誰かと通話していた。

 こちらも盗聴対策が施された秘匿回線だ。

 通話の繋がった先は━━ヒーロー公安委員会。

 

『ご苦労様。それで、どうでした? 例の少女は?』

「表面上は上手く隠してましたね。まだまだ脇は甘いし、別の意味で危ないことはしてくれましたけど」

 

 ホークスはそう言って肩をすくめる。

 彼は公安直属のヒーロー、つまり魔美子の事情を全て聞かされている側だ。

 今回の職場体験、ホークスは公安に依頼されて魔美子の見極めを行った。

 ついにオールマイトの娘と公表されてしまった以上、もう下手なことはできない。

 死んだとしても、何かやらかしたとしても、過去が明らかになったとしても、ヒーローへの信頼と社会の安寧が揺らぐ。

 『平和の象徴』の娘という肩書は、それほどに重い。

 

 だからこそ、もはや公安は魔美子をヒーローとして活用するしか道が無い。

 とはいえ、11年前の事件と、彼女の怪物としか思えない破壊衝動と精神構造を知っている身としては、不安で不安で仕方がない。

 ゆえに、公安はホークスに魔美子の見極めを依頼して、可能な限りあれをヒーローとして使えるようにするために、アドバイスとサポートを頼んだのだ。

 何より、ここで接点を持っておくことで、あれの行動に少しでも口を出せる立場を獲得しておきたかった。 

 ヴィランの仕業に見せかけて暗殺者を送り続けたことが露見してしまった公安は、オールマイトからの信頼をほぼ完全に失っているので、そういう立場は喉から手が出るほど欲しい。

 まあ、職場体験先にホークスを選ぶかどうかすらわからなかったのだから、他にやれることが無いからやった悪あがき感は否めないが……。

 

『あなたの結論を聞きましょう』

「たった一週間弱の観察じゃ確たることは言えませんが……現時点での情報で判断するなら『大丈夫』だと思いますよ。

 仮面の被り方は上手くなりましたし、何より彼女は思ったよりもずっと『人間』に近づくための努力をしていた。

 たとえ、表面上しか真似られない偽物にしかなれないとわかっていても」

 

 本性を隠す仮面の改善点を指摘すれば、ビックリするほど意欲的に学んでくれた。

 ズレた仮面の下から垣間見えたのは、ひたすらのオールマイトへの愛(ファザコン)だった。

 とりあえず、オールマイトが生きている間は大丈夫かもしれないと思えた。

 何かしらの不測の事態が起こらない限りはだが。

 

「怖いのは10年後くらいですね。果たして想いの芯を失った状態で、それでも人間であろうとしてくれるかどうか……」

『頭が痛いわね。もうずっとだけれど』

「ハハハ。まあ、本人はアングラ路線に進んで、徐々に表舞台からフェードアウトしたいって言ってましたし、なんとかなるんじゃないですか?」

『表舞台から消えても、暴走して這い出してきてしまえば意味が無いわ』

「そこはほら。彼女を止められるほどの優秀な後続が出てきてくれることを期待して」

 

 ホークスは努めて楽観的にそう振る舞う。

 公安(この仕事)は楽観的でないと、やってられないのだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。