ナンバー1ヒーローの娘になった、悪の組織の改人系ヒロインのヒーローアカデミア   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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「まったく! 緑谷出久! とりあえず体が動いちまうところはお前そっくりだよ、俊典(としのり)!」

『申し訳ございません……! 私の教育が至らぬばかりで……!』

 

 ナンバー1ヒーローを育てた男、グラントリノは今。

 その教え子であるオールマイト、本名『八木(やぎ) 俊典(としのり)』と久方ぶりの通話をしてした。

 

 最初の話題は、職場体験に来させたワンフォーオール当代継承者、緑谷出久について。

 実力が足りないのももちろんだが、ヒーロー免許も仮免も、まして保護管理者(グラントリノ)の許可すら無いのに飛び出して、犯罪史に残るようなヴィランに挑みかかりやがった。

 自分の実力も、社会のルールも、そんなことを考えるより先に体が動いてしまう、尋常ならざる救済精神の持ち主。

 良くも悪くもオールマイトそっくりだ。

 そして、今回の場合は『悪くも』の割合が相当大きい。

 

「説教は俺と小娘でしたが、ありゃ多分またやるぞ! あのイカレ具合はお前の時に散々見たからな!」

『申し訳ございません! 申し訳ございません! 私の方からもキツく言って聞かせますので!』

「ふん! そのやり方で平和の象徴なんて呼ばれるようになったお前が、どこまで自分のことを棚に上げられるか見物だな」

『うっ!?』

 

 痛いところを突かれて、オールマイトが呻いた。

 

「緑谷もそうだが、小娘もだ。あの状況なら致し方なかったかもしれんが、それでも戦闘許可を事後承諾に回して突っ込んでくるとか、相変わらずヤンチャしてんな!」 

『申し訳ありません!!』

 

 それからしばらく、グラントリノのネチネチ口撃が始まった。

 孫の教育に口出しする面倒な爺みたいだった。

 

「でだ。グチグチ言っちまったが、ガキどものことは本題じゃねぇのよ。本題はヒーロー殺しだ。

 ……相対した時間は短かったが、それでも戦慄させられた」

『! グラントリノともあろう者を戦慄させるとは……!』

 

 この老人にトラウマを刻まれたオールマイトは、ヒーロー殺しというヴィランへの認識を大きく変えた。

 

「俺が気圧されたのは恐らく、強い思想、あるいは強迫観念からくる威圧感だ。

 絶対に引けない、絶対に成し遂げるという強い強い信念から生じる気迫。

 誉めそやすわけじゃねぇが、俊典、お前が持つ『平和の象徴観念』と同質のそれだよ」

 

 オールマイトもまた、平和の象徴にはどんな状況でも絶対に敗北は許されない。決して人々を不安にさせてはならない。

 そんな強い強い信念を持ち、それを支えにして、どんなに強い悪にでも立ち向かってきた男だ。

 その気迫は、その威圧感は、オールマイトが『いる』というだけで犯罪発生率の大幅な低下に繋がるほど。

 オールマイトにビビって犯罪に走れないなんて輩は山のようにいる。

 逆に、オールマイトに憧れ、感化されてヒーローを目指した若者達もまた数え切れない。

 

「人は強い想いに惹かれる。感化される。そうして人を変えちまう奴が、安い話『カリスマ』っつー呼ばれ方されるわけだ。

 今後取り調べが進めば、奴の思想、主張がネットニュース、テレビ、雑誌、あらゆるメディアで垂れ流される。

 良くも悪くも抑圧されたこの時代、奴に感化される人間は必ず現れる」

 

 思想というものは、何を言ったかよりも、誰が言ったかだ。

 極端な話、思想なんてそれっぽく聞こえれば何でもいい。

 重要なのは、ヒーロー殺しという一人の男が、その思想を叶えるために、あれほどの逆境に正面から立ち向かい、強い強い信念を見せつけてしまったこと。

 オールマイトの信念に感化されてヒーローを目指した者がいるのなら、ヒーロー殺しの信念に感化されて血に染まる者も必ず現れる。

 時代に抑圧されて衝動を持て余し、暴れる口実を探しているような奴には、特に強く刺さるだろう。

 

『しかし、個々で現れたところで、各地のヒーローが各個撃破を……』

「そこでヴィラン連合だ」

 

 グラントリノは言う。

 今回の事件、ヒーロー殺しの近くに投入された三体の脳無に加え、戦いの様子を見ていた死柄木と黒霧もマスコミが見つけてしまった。

 ヒーロー殺しとヴィラン連合の関わりが示唆されたのだ。

 そうなればヴィラン連合は、ヒーロー殺しのような『思想ある集団』だったと認知される。

 

「つまり、受け皿は整えられていた。個々の悪意は小さくとも、一つの意志のもと集まることで、何倍にも何十倍にも膨れ上がる。

 ……ハナからこの流れを想定してたとしたら、敵の大将はよくやるぜ。

 着実に外堀を埋めて、己の思惑通りに状況を動かそうとするやり方」

『……嫌な予感はしていましたが』

 

 二人の脳裏に、ある宿敵の顔が浮かんだ。

 やり方だけの話ではない。

 何よりの証拠は、脳無などという、複数の個性を与えられた手駒の存在。

 あんなものを用意できるような奴に、他に心当たりは無い。

 

「俺の盟友であり、先代ワンフォーオール継承者である志村を殺し、お前の腹に穴を空け、小娘に呪いを背負わせた男。

 ━━『オールフォーワン』が再び動き始めたと見ていい」

『……あの怪我でよもや生きていたとは。信じたくない事実です』

 

 6年前に倒したはずの相手。

 100年以上に渡る長き因縁にケリをつけたはずの相手。

 やっと大元を絶てたはずの、愛娘の呪いの根源。

 それがまだ生きていたなど悪夢でしかない。

 

「お前のことを健気に憧れているあの子にも、折を見て話した方がいい。お前とワンフォーオールにまつわる全てを。……小娘のことに関してもな」

『……気が進みませんね。特に魔美ちゃんのことに関しては』

 

 話してしまえば、元の関係のままではいられない。

 果たして、真実を知った時、緑谷はそれでも魔美子を受け入れてくれるだろうか。

 いつかは話さなければならない。それが避けられない未来なのはわかっている。

 けれど、せめて学校を卒業するまで、魔美子の学生時代が楽しい思い出として終わってくれた後まで先延ばしにしてもいいのではないか。

 そうして、オールマイトは日和ってしまう。

 

「まあ、お前の気持ちもわかる。どこまで話すかはお前と小娘で決めろ。

 ただ、未熟も未熟な状態でヒーロー殺しなんつう強敵とぶつかっちまったことといい、いつだってヴィランはこっちの都合なんざ考えちゃくれねぇし、待ってもくれねぇぞ」

『……ご忠告、痛み入ります』

 

 その忠言を最後に、グラントリノは電話を切った。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「アッハッハッハ!! マジか! マジか爆豪!」

「笑うな……! クセついちまって、洗っても直んねぇんだ……!」

 

 職場体験から戻ってきたら、爆豪が8:2分けになっていた。

 教室に入った瞬間にそれを目撃して、魔美子は思わず目を剥いた。

 

「ぷっ!」

 

 そして、すぐに笑いが込み上げてきた。

 

「アハハハハハ!! ヒーッ! ヒーッ!」

「クソ女ぁああああああ!!!」

 

 ツボに入って素で大笑いする魔美子に、爆豪がキレて爆発した。

 爆発した拍子に、8:2分けがいつものトゲトゲヘアーに戻った。

 あまりの珍現象がなおのこと笑いのツボを直撃し、魔美子は呼吸困難に陥りそうになる。

 

「ダメ、これ、ツボ……! 上鳴少年を見てる時の耳郎少女の気持ちがよくわか、ぶふっ!」

「死ねぇえええええええ!!!」

 

 爆豪が襲いかかってきた。

 それを捕まえて関節技をかけながら拘束し、笑い続ける魔美子。

 笑顔あふれる素敵な学生時代を送っていた。

 

「……つーか、こうしてると身近に感じるけど、ニュースじゃ凄ぇことになってたよな、八木」

「リトル・オールマイト、ヒーロー殺しを逮捕! だもんね! そのニュース見た時、私めっちゃ驚いて叫んじゃったよ!」

「同意。急にホークスと共に本州に行ったと思ったら、まさかそんなことになっているとは思いもしなかった」

「常闇は同じ職場だったもんな。そりゃ一番驚くわ」

 

 クラスメイト達は「離せぇえええ!!」と叫ぶ爆豪を拘束しながら未だに笑っている魔美子を見て、共通のことを思った。

 やっぱり、こいつ化け物だと。

 

「皆はどうだったの?」

「私はトレーニングとパトロールばかりだったわ。一度隣国の密航者を捕まえたくらい」

「それ凄くない!?」

「お茶子ちゃんはどうだったの? この一週間」

「とても……有意義だったよ」

「目覚めたのね」

「バトルヒーローのとこ行ったんだっけ?」

「コォォォォ。デクくんは、どうだった?」

「麗日さん、オーラが凄い……! 僕はヒーロー殺しの事件に巻き込まれた時以外は、組手ぶっ通しで吐かされてただけだったよ」

「そ、そっか……」

 

 クラスメイト達も、自分の職場体験の経験を語り合う。

 魔美子のようにニュースを湧かせることはなくとも、彼らもまた有意義な体験をしてきたことに変わりはない。

 というか、緑谷、轟、飯田の3バカの暴走に引っ張られてセンセーショナルなことをしてしまった魔美子の方がダメな例なのであって、職場体験とは本来こうあるべきなのだ。

 

「うがぁあああああああ!!!」

 

 そんなクラスメイト達を尻目に、爆豪の鳴き声をBGMに、魔美子はようやく収まってきた笑いを深呼吸で落ち着けながら、少しもの思いに耽った。

 

(気圧されたのなんて、初めてだったな……)

 

 思い出すのはボロボロになっても一向に衰えない、どころかますます激しく、凄まじくなる気迫を放って迫ってきた男の姿。

 気圧された。ゾクリとさせられた。当日の夜なんか夢にまで出てきた。

 確かに強かったとはいえ、自分の前では無個性同然、負ける可能性なんてゼロに等しい相手だったのに。

 

 人は意志の力一つで、あそこまでやれるのか。

 意志の化身のような父を見てきた魔美子は、そのことをわかっているつもり(・・・)だった。

 けれど、実際は全然わかっていなかった。

 敵として相対して、正面からあの気迫を向けられて、ようやく実感が湧いた。

 

(ありがとう、ヒーロー殺し)

 

 本当に得るものの多い職場体験だった。

 ホークスといい、ヒーロー殺しといい、優秀な教師達が魔美子に足りないものを教え込んでくれた。

 緑谷に未熟だなんだと言ってしまったが、自分だってちょっと力が強いだけの未熟に過ぎる15歳の小娘なのだと、ようやく少し実感が湧いた。

 皆と少し形は違うが、ようやく『成長』という学生の本分を少しだけ達成できたような気がした。

 

(今度、タルタロス(刑務所)にお見舞いの花束を贈りつけてあげよう)

 

 実際にやったら激怒されそうなことを思い浮かべながら、魔美子は爆豪を解放して席に座る。

 解放された爆豪は戦闘を再開しようとして、廊下に相澤の気配を感じて舌打ちしながら席に戻った。

 調教(きょういく)の成果だ。

 

 そんなこんなで、今日も授業が始まる。

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