ナンバー1ヒーローの娘になった、悪の組織の改人系ヒロインのヒーローアカデミア   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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38 期末テスト

「えー、そろそろ夏休みも近いが、もちろん君らが30日間、一ヶ月休める道理は無い」

「まさか……!?」

「夏休み、林間合宿やるぞ」

「知ってたよ! やったーーー!!」

 

 林間学校。

 クソ学校っぽいイベントがきた。

 魔美子も新規イベントは大歓迎だ。

 体育祭同様、ワクワクしている。

 

「ただし、その前の期末テストで合格点に満たなかった者は、学校で補習地獄だ」

「皆、頑張ろうぜ!!」

 

 というわけで、期末テストに向けて頑張ることが決定した。

 内容は普通科目と演習試験の二つ。

 当然、どちらか片方でも赤点が出たらアウトだ。

 体育祭、職場体験とイベントが重なったのもあって「全く勉強してねぇーーー!!」と焦る者も多かった。

 

「魔美ちゃんは大丈夫そう?」

「とりあえず、普通科目は問題なし。教科書見てれば大体解ける」

「チ、チートが過ぎるわ……!?」

 

 麗日、戦慄。

 

「実技は内容次第かねー。絶対に私だけ特別メニューだろうし」

 

 なんか入試のような対ロボット戦をやるなんて情報もあるが、仮にそれが本当だとしても、魔美子にとって楽勝にもほどがあるあの試験をそのままぶつけてくるなんて、そんな甘い話は無いだろう。

 一部のクラスメイト(魔美子ほどではないが、個性の対人使用に難がある)が「ぶっぱで楽勝だー!」と喜んでいるが、それがより一層フラグにしか見えない。

 そして、魔美子の予想は当たった。

 

「残念! 今年から諸事情で内容を変更しちゃうのさ!」

 

 試験会場にて放たれた校長の無慈悲な言葉によって、ぶっぱで楽勝だー! と喜んでいた組が笑顔のまま停止した。

 

「USJ、ヒーロー殺しとセンセーショナルな事件が続き、これからの世はヴィラン活性化の恐れがある。

 そうなると、ロボとの戦闘訓練は実践的ではない。

 これからは対人戦闘、活動を見据えた、より実戦に近い教えを重視するのさ!」

 

 というわけで! と校長は続け。

 

「諸君にはこれから、二人一組でここにいる教師一人と戦闘を行ってもらう!」

 

 この場には結構な数の教師達が揃っていた。

 校長、イレイザーヘッド、13号、ミッドナイト、プレゼント・マイク、セメントス、エクトプラズム、パワーローダー、スナイプ。

 あと、物陰でオールマイトがスタンバっている。

 合計10人。

 A組は21人なので、特別枠の魔美子を除けば、ちょうど2対1が10組出来上がる。

 

「ペアの組と対戦する教師は既に決定済み。

 動きの傾向や成績、親密度、諸々を踏まえて独断で組ませてもらったから発表するぞ。

 まず轟と八百万がチームで、俺とだ」

 

 イレイザーヘッドこと、相澤が前に出てきて宣言した。

 我らが担任教師は、推薦入学コンビを相手にするらしい。

 

「そして、緑谷と爆豪がチーム」

「デッ……!?」

「かっ……!?」

「あと、今回は八木もここに入ってもらう」

「へ?」

 

 魔美子は驚いた。

 特別扱いされるだろうとは思っていたが、まさか三人目としてチームに組み込まれるとは。

 しかも、チームメイトはA組でもトップクラスの成績を誇る緑谷と爆豪。

 戦力が過剰に集中している。

 

「それと、今回は八木の個性による対戦相手への直接攻撃も許可する。リスクには細心の注意を払いながら遠慮なく使え」

「…………まさか」

 

 その上更に、こっちの戦力を格段に上げてくるような采配。

 気を使うこと前提とはいえ、個性ありの魔美子とまともにやり合える教師など、雄英の中で一人しか知らない。

 嫌な予感を覚えて、背筋が凍るような思いがした。

 ヒーロー殺しを前にした時とは比べ物にならない悪寒が背筋を走り抜け、冷や汗がダラダラと流れ始める。

 

「で、相手は……」

「私がする!!」

 

 嫌な予感はまたしても的中。

 そのタイミングで物陰でスタンバっていたオールマイトが出てきて、拳を握りながら緑谷、爆豪、魔美子の前に立ち塞がった。

 

「協力して勝ちに来いよ、お三方!」

 

 HAHAHA! と、いつものように笑いながら、今回は試練として相対する父。

 緑谷と爆豪は動揺し、それ以上にお互いがチームであることをまだ飲み込めていない様子。

 そして、魔美子はといえば……。

 

「ギブアーーーーーップ!!」

「「「…………は?」」」

 

 試験開始どころか、まだ説明も終わっていないのに、思いっきりそう叫んだ。

 

「パパと戦うくらいなら赤点でいい!!」

「いや、その、魔美ちゃん!? これ授業だから、そういうわけにはいかなくてだね? ほ、ほら! 林間合宿行きたいでしょ!?」

「行かなくていいもん!!」

 

 急に幼児退行したように、言葉遣いまで幼くなる魔美子。

 具体的には9歳くらいの頃まで戻っている。

 彼女は「やだやだ!」と駄々をこね始め、それを見てオールマイトはあたふたし始めた。

 

「「「えぇ……」」」

 

 それを目撃していたクラスメイト&教師一同は呆然とするしかない。

 魔美子のファザコンは知っていたが、こうなるとは誰も予想していなかった。

 対戦カードを決めた教師達ですらだ。

 

「渋られるかもとは思っていたけど……さすがに、ここまでとは思わなかったのさ」

 

 校長が苦笑しながらそう呟く。

 しかし、これも『冷静に戦えない相手との戦闘』を見越した訓練。

 彼女に与える期末テストの課題の一つだ。

 駄々をこねようとも、そこは覆らない。

 

「ファザコンって、行き過ぎるとああなるん……?」

「家族仲が良いこと自体は素晴らしいことだと思うが……」

「ああ、飯田の言う通りだ」

「しっかし、体育祭の表彰式の時といい、八木って案外子供っぽいのな」

「ゴロにゃんモードに続く、駄々っ子モードだ!」

「強者の仮面に隠した幼い素顔か」

 

 クラスメイト達はそれを見て好き勝手言っていた。

 体育祭に続いて完璧超人の(ユーモア)を見られてホッとしたが、それにしたってあれはちょっと……。

 総合すると「ああ、オールマイトの娘だな」と言ったところか。

 

「……それぞれステージを用意してある。10組一斉スタートだ。

 試験の概要については各々の対戦相手から説明される。

 移動は学内バスだ。時間がもったいない。速やかに乗れ」

「相澤先生!? 八木は無視ですか!?」

「あのままなら容赦なく赤点にするだけだ。とりあえず、オールマイトさん。連行してください」

「あ、うん……。ほら、魔美ちゃん。行こう?」

「やだぁ!! パパ戦っちゃダメーーー!!」

 

 オールマイトの腰にしがみつくも、そのまま抱っこされてバスの中に拉致られる魔美子。

 チームメンバーの二人、特に爆豪は、緑谷とのチームアップへの嫌悪やら、ぶっ倒すと誓った相手の醜態に対する怒りやら何やらが煮詰まったような顔面をしながら、凄まじく混沌とした心持ちでバスに乗り込む。

 

「むー!」

「よ、よーしよしよし! 大丈夫だから! パパ大丈夫だから! ね?」

「むー!」

 

 バス内では終始オールマイトにしがみついて離れない魔美子の唸り声と、それを宥めるオールマイトの、幼い子供に話しかけるような声だけが響き。

 緑谷と爆豪が一切ついていけないまま、何も解決しないままステージに到着してしまった。

 

「さ、さーて! これから期末テスト実技試験を始めたいわけなんだけど……その……」

「むー!」

 

 バスから降りても、魔美子はオールマイトの腰にしがみついたままである。

 

「あ、あの、オールマイト……。八木さんは、なんでこんなことに……?」

 

 さすがにもうスルーはできなかった緑谷が、意を決して質問を飛ばした。

 爆豪はもう、言いたいことが渋滞し過ぎて逆に停止している。

 

「……魔美ちゃんは、私が大怪我した時のことがトラウマなんだ。

 昔はよく個性全解放の戦闘訓練(衝動発散)とかやってたんだけど、それ以降は私に拳を向けることを絶対にしなくなってね。

 でもまさか、この子の中でこんなにトラウマが酷いことになっていたとは……」

 

 無茶をする度に言葉責めだの監禁だのの精神攻撃はよくやられていたので、直接攻撃への忌避感だけがこうも肥大化していることに気づけなかった。

 ぶっちゃけ、殴られるより数倍効く攻撃を、この子は躊躇なくやってくるから。

 

「……でも」

 

 オールマイトは心を鬼にして、しがみついてくる魔美子を引き剥がした。

 直接攻撃を忌避しているということは、個性を使っていないということなので、彼女がオールマイトのパワーに抗うことはできない。

 

「魔美ちゃん。よく聞くんだ。ヒーローをやるのなら、心が悲鳴を上げるような状況で戦わねばならないことも当然ある。これはそういう時のための備えなんだ」

「…………やだ。パパ、今度こそ死んじゃう」

「大丈夫! パパはまだまだ強い! 訓練ごときでどうこうなりはしないさ!」

「………………」

 

 魔美子は今度は無言になって、目尻に涙を溜めた。

 かと思ったら、次の瞬間、涙目で緑谷と爆豪の方を見た。

 そして、ツカツカと二人の方に歩いてくる。

 

「へ?」

「あ?」

 

 彼女は二人の全身を舐め回すように見て、次いで体を触ってきた。

 

「うわぁあああああ!?」

「ッ!? 何しやがるクソ女!?」

 

 突然の謎行動に緑谷は真っ赤になり、爆豪は気味の悪さにゾワゾワしながら怒鳴り散らした。

 一方、魔美子は二人の感触を思い出すように手をニギニギした後、

 

「…………わかった。やる。こいつら雑魚だから大丈夫。パパ、怪我しない」

「なんだとテメェェェェッッッ!?」

 

 とても失礼なもの言いに爆豪がキレた。

 いや、そりゃ衰えたとはいえナンバー1ヒーローと、入学してから僅か三ヶ月のヒーローの卵を比べたら当然の結論ではあるのだが、事実でも言い方というものがある。

 

「私が、抑えればいい。大丈夫。頑張る。頑張れる」

 

 魔美子はそんな爆豪に一切目を向けず、自分の内面にだけ目を向けていた。

 己の内側に潜む悪魔に、この場で唯一オールマイトを殺し得る『敵』だけに目を向けていた。

 オールマイトと、彼女の身の上話を聞かされた緑谷は魔美子の心情を察することができてしまい、痛ましげな視線を送ってしまう。

 

「やっぱり、試験内容の変更を……いや、いやいやダメだぞオールマイト……! 己が教え導く者であることを思い出せ……!」

 

 娘のそんな様子を見て決意が揺らいでいたお父さんは、必死で己に言い聞かせて、教師としての立場を全うすることを決意した。

 

「こほん! では、ルール説明をしよう!」

 

 そうして、オールマイトは期末テストの説明に入る。

 なお、他のチームに結構遅れての説明パートだった。

 

「君達にはこれから、この模擬市街地で私と戦ってもらう!

 勝利条件はこのハンドカフスを私に掛けるか、誰か一人が指定のゲートを潜ってステージを脱出すること!」

「私が逃げる!!」

「あ、その、ごめん……。魔美ちゃんの逃走だけは禁止だ。翼使われたりすると一瞬で終わるから」

「むーーー!」

 

 地獄に垂らされた蜘蛛の糸をあっさりと断ち切られ、魔美子は抗議のふくれっ面をした。

 

「他のチームはハンデとして、教師陣が体重の約半分を重りとして装着するんだけど、このチームには魔美ちゃんがいるから、そのハンデは無しだ!

 魔美ちゃんも、ちゃんと個性を使わないとクリアできない難易度になってるぞ!」

 

 今回の期末テストは、各々の課題と向き合わせるのが目的だ。

 緑谷と爆豪に関しては仲の悪さ、轟と八百万は強すぎる個性に頼り切れない状況への対処といった具合に。

 では魔美子はと言われると、全体的な成績は文句なし。

 興味の無い分野だとテンションが下がるが、それでも授業をサボるようなことはせず真面目にやっているので、超スペックの肉体や地頭の良さと合わせて、目に見える範囲には欠点らしい欠点が無い。

 目に見える範囲には。

 

 それでもあえて課題を出すとしたら、ヒーロー殺しとの戦いで『初めて』怯えたという事実から、冷静に戦えない相手への対処。

 USJでやらかしてしまったことから、強敵相手でもしっかりと殺さず制圧できるような出力制御。

 よって、このようなテスト内容と相なった。

 

「私をヴィランそのものだと思ってかかってきなさい! さあ、試験開始だ!」

 

 敵に回った憧れを前にビビる緑谷、荒ぶる爆豪、不安しかない魔美子。

 地獄の期末テストが幕を開ける。

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