ナンバー1ヒーローの娘になった、悪の組織の改人系ヒロインのヒーローアカデミア 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「や、やっぱり、戦闘は何があっても避けるべきだと思う。万が一の場合は八木さんに足止めをお願いして、その隙に僕とかっちゃんが一目散にゲートに駆け込む。合格するにはそれしかない」
「はぁ!? ふざけんな!! ぶっ倒した方が良いに決まってんだろうが!!」
試験開始直後。
ステージ中央からスタートした三人組は、早速緑谷と爆豪による意見の食い違いが発生していた。
「終盤まで翻弄して、疲弊したとこ俺がぶっ倒す!!」
「オ、オールマイトをなんだと思ってるのさ……。かっちゃんがオールマイトに勝つなんて……ッ!?」
その時、爆豪が緑谷を殴った。
憎悪すら感じる凄い目で、彼は地面に倒れた緑谷を睨みつける。
「これ以上喋んな。体育祭でまぐれ勝ちしたからって調子乗んな。ムカツクんだよ」
「……! し、試験、ご、合格するために僕は言ってんだよ! 聞いてって、かっちゃん!!」
「だぁから!! テメェの力なんざ、合格に必要ねぇっつってんだ!!」
「怒鳴らないでよ!! それでいつも会話にならないんだよ!!」
……話にならないとは、まさにこのこと。
こじれにこじれた二人の仲が、ここに至って致命的な爆発をした。
長期的に見れば不発弾のまま眠らせておくより、取り返しのつく試験という場で爆発させてしまった方が良いのだろう。
とはいえ、
「ねぇ、モジャモジャ」
「だから、かっちゃ……モジャモジャ!?」
爆豪との言い合いの最中、緑谷の背中の服をくいくいと引っ張りながら、魔美子が普段とは全く違う呼び方で緑谷のことを呼んだ。
彼女の顔は、激情に支配される二人とは真逆の、完全なる無表情。
仮面を被る精神的余裕が無く、二人のことを父の後継だの、そこそこ強い駒だのという理屈的な要素で見ることすらできなくなり、『どうでもいいもの』として名前すら頭からすっぽ抜けた。
父相手には駄々っ子で、それ以外には人形のよう。
それが当然の幼児退行で表に出てきた、昔の魔美子だ。
「私はパパと戦うとか絶対やだ。足止めだけはしてやるから、そこのトゲトゲなんか見捨てて、一人で逃げろ。それで1秒でも早く試験終わらせろ」
「誰がトゲトゲだぁ!!」
トゲトゲ呼ばわりされた爆豪が吠えた。
魔美子は口調すらいつもと全然違っている。
だが、もうそれを気にしている時間すら無い。
前方から町並みを破壊しながら、凄まじい衝撃波が迫りくる。
「「ッ!?」」
「ハッ!」
それを魔美子が個性無しの拳で繰り出した衝撃波で相殺。
距離があったため、個性無しでもどうにか抗えた。
「町への被害などクソ食らえだ」
一撃で大破壊を齎した男が、前方からゆっくりと歩いてくる。
普段なら絶対に言わない台詞を口にしながら。
「私はヴィランだ、ヒーローよ。真心込めてかかってこい」
「行け! モジャモジャ!」
「は、はい!!」
骨身に刻まれた上下関係により、反射的に魔美子の命令に従って出口ゲートの方向へと駆ける緑谷。
そんな緑谷を援護するように、彼よりも素早く魔美子がオールマイトの前に飛び出す。
ただし、いつもなら拳を握りしめているところを、今回は腕を広げたタックルの体勢だ。
「えい!」
「おっと!」
オールマイトはそんな魔美子をあっさりと受け止め、高い高いをするように上空に放り投げた。
「ぬわーーー!」
「ダメだぞ、魔美ちゃん! しっかり個性使わないとクリアできない難易度だって言っただろう!」
今の魔美子のタックルは、ビビって踏み込む足にすら個性を使っていなかった。
そんな貧弱タックルがナンバー1ヒーローに通じる道理などあるはずもなく、魔美子は上空に打ち上げられる。
「さて、次は」
「オールマイト!!」
打ち上げられる魔美子になど目もくれず、今度は爆豪が突っ込む。
奇しくも、逃げる緑谷の時間を稼ぐ形になっていた。
本当に偶然だが。
「『
「!」
爆豪は初手目潰しで視界を奪う。
が、長年の経験でその手の相手にも慣れているオールマイトには通じず、伸びてきた手に顔面を掴まれる。
「らぁあああああ!!!」
「あ痛たたたたた!?」
それでも、爆豪は顔を掴まれた状態のまま、引き剥がそうともせずにオールマイトに爆破の連打を浴びせた。
マジでオールマイトを倒すつもりの動き。
されど、それしか考えていない捨て身の行動。
捨て身ということは当然、攻撃が通じなかった時、反撃に対処する術は無い。
「そんな弱連打じゃ、ちょい痛いだけだぞ!」
「ぐっ!?」
爆豪は頭部を掴まれていた手をそのまま地面に叩きつけられ、呻いた。
それなりに大きなダメージと痛み。
爆豪の動きが止まった。
「君もだ、緑谷少年。魔美ちゃんの言うことは別に絶対じゃないぞ? チームを見捨てて逃げるのかい?」
「!?」
その隙に、オールマイトは一目散に逃げていた緑谷に追いつく。
圧倒的なスピードの差は、二人が稼いだ時間をあっさりと無に帰した。
緑谷が現役のワンフォーオール継承者で、オールマイトは既に譲渡した後の残り火に過ぎないはずなのに、引退を待つばかりの先代の方が遥かに強い。
大問題である。
「くっ!?」
その威圧感に怯み、緑谷は全力で後ろに跳ぶことでオールマイトから逃げる。
しかし、
「おっと、そいつは良くない」
「バッ……!? どけ!!」
「かっちゃ……!?」
後ろに跳んだ緑谷と、根性で動いてオールマイトに再度突撃をかけていた爆豪が空中で衝突。
チームプレイはおろか、完全にお互いの足を引っ張り合っている。
おまけに、そこへ更なる不安要素。
上空へ高い高いされていた魔美子が、衝撃波移動でもつれた二人の上に降ってきた。
「はよ行け!!」
「ッ!?」
「テメッ……!?」
魔美子は空中で二人の腕を掴み、力の限りゲートに向けて投げ飛ばす。
爆豪の意向を完全無視して逃がした。
そして、魔美子はとっとと試験を終わらせるため、緑谷に言った通り、足止めとしてオールマイトの前に立ち塞がる。
「逃さんよ!」
「パパ……!」
当然のごとく魔美子を突破して二人を追撃しようとするオールマイト。
魔美子はまた個性を封印した状態で迎え撃とうとして、
『ダメだぞ、魔美ちゃん! しっかり個性使わないとクリアできない難易度だって言っただろう!』
先ほど言われた父の言葉が脳裏を過ぎった。
『魔美ちゃん。よく聞くんだ。ヒーローをやるのなら、心が悲鳴を上げるような状況で戦わねばならないことも当然ある。これはそういう時のための備えなんだ』
試験前に言われた言葉も蘇る。
父の期待に応えたい。
魔美子の心の中で、そんな感情が広がっていく。
『じゃあ、私がパパの代わりになる! 私が平和の象徴になる!』
かつて、父に告げた言葉。
あえなく挫折してしまった決意。
裏切ってしまった期待。
それを少しでも取り戻したいと、少女の心は叫んだ。
個性解放部位『右腕』 出力70%
魔美子の右腕が漆黒に染まり、黒色のスパークを放ち始める。
この拳を父にぶち込むわけじゃない。
70%の衝撃波で足止めするだけ。
出力こそ違うが、体育祭の騎馬戦で衝撃波を牽制に使った時と同じだ。
悪質な崩し目的の攻撃NGの競技で、普通に使用を認められた技。
これなら……。
「え?」
その時、魔美子の個性が勝手に動いた。
出力が勝手に上がり、右腕がゴツゴツとした黒い外骨格に覆われる。
解放部位が勝手に広がり、黒い外骨格が胸や顔を覆い始め、顔を覆うそれは、まるで仮面のようになった。
悪魔の仮面に侵食された右眼に、過去の情景がフラッシュバックしてくる。
すっぽ抜けていた暴走時の記憶。
個性が制御できなかった幼少期、そして初めて父と出会った時の……。
『オールマイトォォォォッッッ!!!』
「ッ!?」
頭の中で悪魔が叫ぶ。
いつもの何でもいいから壊したい、暴れたいという破壊衝動ではなく、明確な殺意と憎悪を感じる咆哮。
やばい。
そう思った瞬間、魔美子は自分で自分を殴りつけていた。
「うぐっ!?」
「……え? ま、魔美ちゃん!?」
個性を解放した右腕で、自分の右側頭部を思いっきり殴りつける。
仮面が破れ、脳が揺れ、意識が遠退いていくのを感じた。
呑まれる前に強制停止。
何か考える前に、本能的にそうしていた。
『くそっ!! くそっ!! 折角のチャンスが!! オールマイト!! いつか、必ず、殺して……』
自分の意識と共に、悪魔の声も遠退いていく。
そのことにホッとして、魔美子は目を閉じた。
「魔美ちゃん! 魔美ちゃん! ッ!? 試験を一時中断する!! 緑谷少年と爆豪少年はこの場で待機だ!!」
意識を失った魔美子をオールマイトが抱き上げ、お姫様抱っこで看護教諭のもとへ全力ダッシュした。
看護教諭こと、リカバリーガールは校長や相澤と同じく、魔美子の事情を知っている。
彼女の個性は外傷の治癒しかできないが、個性にかまけず様々な医療知識を頭に詰め込んでおられる方なので、魔美子の衝動を多少緩和する薬などもしょっちゅう調合してくれる。
彼女に見せれば、きっとどうにかなるはずだ。
オールマイトはそう信じて、今回の試験のために出張保健所を開いているリカバリーガールのもとへ走った。