ナンバー1ヒーローの娘になった、悪の組織の改人系ヒロインのヒーローアカデミア   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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40 警鐘

「うぅん……」

「魔美ちゃん!!」

 

 目を覚ます。

 右手には骨ばった温かい手の感触があった。

 この6年ですっかり慣れ親しんだ、父の衰えを強く感じさせる手。

 それでも、温もりだけは昔と何一つ変わらない手。

 その手に引っ張られるようにして、魔美子は意識を浮上させた。

 

「ここは……」

「保健室だよ。さすがに、他の生徒でごった返す出張保健所には、あんたもあんたの父親も置いておけないからね」

「あ、おばあちゃん」

 

 室内にいたのは、父ともう一人。

 老齢により随分と縮んだ背丈の看護教諭、『リカバリーガール』。

 この雄英において、校長と同等の発言力を持つとまで言われる大物。

 オールマイトの学生時代から教師兼ヒーローをやっている大先輩だ。

 

「えぇっと……試験はどうなったんだっけ?」

「中断された緑谷、爆豪チームだけは後日に再テスト。他のチームはつつがなく終了したそうだよ」

 

 終了。

 そう聞いて窓の外を見てみれば、もう日が暮れようとしていた。

 どうやら、結構長いこと寝てしまったらしい。

 

「あんたに関しては、今回のことの詳細がわかるまで保留ってことになってる。

 とりあえず、記憶はどこまであるんだい?」

「うーんとね」

 

 ハラハラとした様子の父が見守る中、魔美子はリカバリーガールの質問に答えていく。

 

 記憶の有無について。

 自分で自分を殴りつけて強制停止したところまで、ちゃんと覚えている。

 

 今の体調は?

 寝てる間に打たれた薬の影響なのか、いつもの頭痛が大分マシになっていて絶好調。

 

 何故、自分を殴り飛ばすような真似をしたのか?

 個性が急に暴れ出したから。

 

 原因はわかるか?

 

「多分、私の個性(あくま)はパパを恨んでるんだと思う」

「「!」」

 

 その言葉に、オールマイトとリカバリーガールは息を呑んだ。

 

「暴走してる時の記憶は無くなっちゃうから気づかなかったけど、暴走の度に無理矢理押さえつけてきたパパが嫌だったのかな?

 それとも、パパのためにって6年も完全解放を封じちゃったから、それで怒ってるのかも」

 

 魔美子はあの時に感じた、脳と体を侵食してきた悪魔の感情からそう推察した。

 そして、言っているうちに気分が落ち込んでいく。

 今度こそ、少しでも期待に応えたかった。

 なのに、結局は前と同じようにこのザマか。

 

「……ごめんね、パパ。こんなダメな娘で」

「そんなことは無い!!」

 

 けれど、この父は落ち込んで自虐的になることを許してくれない。

 いつだって、こうなった時には強く優しく抱きしめてくれて、魔美子の心を温めてくれる。

 それが悪魔の暴走を抑えるのに必要なことだからではなく、善意と親愛100%でやっているとわかるからこそ、こんなにも温かい。

 

「魔美ちゃんは今回も抗ってくれた! ダメだったのは私の方だ! ごめん! 本当にごめん!!

 魔美ちゃんが私に個性を向けるということの意味を、もっと考えなければならなかった……!」

 

 そこはオールマイトだけでなく、事情を知っている教師一同猛省すべき点だった。

 この6年、どんなヴィランと戦っても暴走の兆候すらなく、先日のUSJでかなりの出力を出した時も問題なく個性を制御できていたからこそ油断した。

 あの時だってオールマイトの隣で戦っていたのだ。

 隣で戦うのは大丈夫なのに、たとえ試験でも敵として戦うのはダメだったとは……。

 駄々っ子モードをファザコンによるものだなんて思わず、危険信号として捉えるべきだった。

 

「……纏めると、暴走しかけたのは、父親に対して個性を使おうとしたからってことでいいかい?」

「うん」

「なら、他の奴に使う分には、今まで通り大丈夫なのかねぇ?」

「多分ね。パパ以外に例外があるとしたら……あのクソくらいかな。冷静になれないって意味で」

 

 あのクソ、オールフォーワン。

 悪魔が恨んでいるのがオールマイトだとすれば、魔美子が恨んでいるのがオールフォーワンだ。

 父の腹に風穴を空け、こんなガリガリの痛ましい姿に変え、脅威と抑止力という、父と自分が共にいて良い理由まで奪った仇敵。

 色々な都合と思惑が重なった結果、自分は今でも父の傍にいられているが、それでも人生で初めて『どうでもいい』ではなく、『イライラ』止まりでもなく、真に『憎悪』した相手。

 あれを前にした時、果たして冷静でいられるかどうか。

 

「でもまあ、個性じゃなくて私の問題なら、まだ何とかなると思う。目の前でパパを殺されたりしない限り」

「縁起でもないねぇ」

「そうだねー。だからさ、パパ。そうならないように、今すぐ引退しない?」

「…………ごめん。それはできない」

 

 魔美子の言葉を、オールマイトは凄まじい苦悩を感じる顔で否定した。

 まあ、魔美子やリカバリーガールからしたら「知ってた」という話だが。

 

「はぁ。そんなんだから、ナイトアイのおじさんに出て行かれるんだよ」

 

 娘のための平穏と、まだ平和の象徴として人々のために立っていなければならないという救済意志。

 二つの問題の板挟みとなり、結局オールマイトは『人々のために戦う。けれど、娘のために絶対に死なない』という、二兎追う者は一兎も得ずみたいな結論を出した。

 そこを捻じ曲げて、強引に二兎ともゲットするというのがオールマイトの決意だ。

 欲張りと言う他ない。

 

 とはいえ、魔美子も父のためを思うなら、抑止力のいるアメリカへ行けと言われた場合、今の父と全く同じ反応をするだろうから、人のことを言えた義理ではない。

 父のために絶対暴走はしない。けれど、父の傍にはいたい。

 彼女もまた、そんな二兎を追う者なのだから。

 

「とりあえず、私を暴走させたくないなら、パパと戦わせるのは絶対にやめてね」

「ああ。そこは根津(校長)の奴にも言っとくよ」

 

 とりあえず、そういうことになった。

 この証言だけを鵜呑みにするわけにもいかないので、魔美子はしばらく雄英に缶詰めで経過観察。

 その間に緑谷と爆豪の再テストも行われ、色々あって二人の仲はほんの少しだけマシになったとのことだ。

 

 ……あと、大変遺憾ながら、魔美子の経過観察を特別授業と偽ってごまかす大義名分として、彼女は期末テスト赤点扱いとなった。

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