ナンバー1ヒーローの娘になった、悪の組織の改人系ヒロインのヒーローアカデミア 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「さて、今回のテストだが、残念ながら赤点が出た。従って━━林間合宿は全員行きます」
「「「どんでん返しだぁ!!」」」
赤点組は学校で補習地獄。
そう告げられていたので、夏の思い出を涙ながらに諦めていた赤点組は、まさかの展開に歓喜の声を上げた。
相澤曰く、林間合宿は強化合宿なのだから、むしろ赤点取った奴こそ参加してもらわないと困るそうだ。
学校で補習地獄なんてのたまったのは、本気を出させるための合理的虚偽だそうです。
なお、林間合宿は一ヶ月くらい先の話なので、経過観察に問題が無ければ魔美子も行って良いことになっている。
その直前くらいに科学技術の集まる島に父が呼ばれており、ことのついでと言うわけではないが、そこで父の旧友に脳波やら何やらの最終チェックをされて、問題が無ければ林間合宿へゴーだ。
「まあ、何はともあれ、全員で行けて良かったね」
「一週間の強化合宿か!」
「結構な大荷物になるね」
「暗視ゴーグル」
「水着とか持ってねーや。色々買わねぇとなぁ」
「あ、じゃあさ! 明日休みだし、テスト明けだしってことで、A組皆で買い物行こうよ!」
休み時間。
クラスがワイワイとし始め、何やら明日ショッピングに行くことが決定したようだ。
実に羨ましい。
何故なら、
「魔美ちゃんも行こ!」
「すまん、麗日少女。私はしばらく特別授業で雄英に缶詰めだ」
「期末テストで何やらかしたん!?」
というわけで、魔美子は涙の不参加。
乗りの悪い爆豪や轟も断っていたので、一人だけ不参加じゃないだけまだマシか。
なんてことを思っていたのだが……。
後日。
このショッピング中にとんでもない事態が発生したという報せが魔美子のもとへ飛び込んできた。
「はぁ?
USJで取り逃がしてしまったパパ不敬罪の不届き者、死柄木弔。
それがショッピングモールに現れ、緑谷を脅して強引にお喋りだけして帰っていったそうだ。
何がしたかったのだろうか。
少し気になって、その時のことを緑谷に聞いてみたが、かなり複雑そうな顔で「よくわからなかった」としか言わなかった。
まあ、あのチンピラのことなんてそこまで興味も無いし、わからないならわからないで別にいい。
というか、そんなことよりも魔美子としては、またしても緑谷が生殺与奪をヴィランに握られたということの方が重要だ。
「緑谷少年」
「わかってます! お願いします!」
「よろしい」
「うぐっ!?」
とりあえず、叱責の一撃として腹パンをお見舞いしておいた。
ワンフォーオール継承者なら、日常でも気を抜いてはいかんのだ。
「……とまあ、そんなことがあって。ヴィランの動きを警戒し、例年使わせていただいている合宿先を急遽キャンセル。行き先は当日まで明かさない運びとなった」
で、事件後に相澤からそんな説明があった。
林間合宿自体を中止しないあたり、体育祭開催と同じく、雄英の強気の姿勢が見える。
とはいえ、そろそろ本格的なテコ入れの一つでもしてきそうだ。
◆◆◆
そんなこんなで時間は過ぎ去り。
科学の島での最終チェックも無事に終わり、都合の良いことに問題なしを証明するためのサンドバッグまでやってきてくれて。
特に暴走の兆候を見せることもなく、うっかりミンチを生産することもなく、何事もなく殴り飛ばして制圧した結果、林間合宿参加のゴーサインを勝ち取った。
「じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
「うん!」
父に別れを告げ、一週間の旅行へ出発。
クラスメイト達と共にバスに乗り、辿り着いたのは、どこかの山だった。
「よーう、イレイザー!」
「ご無沙汰してます」
そこで現れたのは、猫っぽいコスチュームに身を包んだ三十路くらいの女性が二人と、よくわからない子供が一人。
「煌めく眼でロックオン!」
「キュートにキャットにスティンガー!」
「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」」
三十路二人がポーズを決めた。
それを尻目に、相澤が彼女らの紹介を始める。
「今回お世話になるプロヒーロー『プッシーキャッツ』の皆さんだ」
「連名事務所を構える4名1チームのヒーロー集団! 山岳救助などを得意とするベテランチームだよ! キャリアは今年でもう12年にもなる……」
「心は18!!」
「へぶっ!?」
オタク解説を始めた緑谷が、デリケートな部分に触れてしばかれた。
三十路とか口に出さなくて良かったと魔美子は思った。
「さて、ここら一帯は私らの所有地なんだけどね。あんたらの宿泊施設は、あの山の麓ね」
「「「遠っ!?」」」
緑谷をしばいているのとは別の女性が指さしたのは、軽く数キロは先の森の中。
確かに遠い。
空でも飛べなければ、普通に歩くだけで数時間はかかるだろう。
「じゃあ、なんでこんな中途半端なところでバスを……」
「いやいや、まさか……!?」
「今はAM9:30。早ければ12時前後かしらん♪」
「「「ッ!?」」」
その一言で完全に今からやらされることを察し、生徒達は全力でバスに向かって逃げた。
が、強化合宿でそんな真似が許されるはずもなく。
「12時半までに辿り着けなかったキティは、お昼抜きね」
「悪いね、諸君。合宿はもう始まっている」
「「「!?」」」
緑谷をしばいていた女性が、地面に手をつく。
その瞬間、地面が蠢き、津波のように流動しながら生徒達へ迫ってくる。
ここは崖の上の広場。
土流に飲み込まれた生徒達は、下の森へ向けて真っ逆さまだ。
「私有地につき、個性の使用は自由だよ! 今から2時間、自分の足で施設までおいでませ! この『魔獣の森』を抜けて!」
落下した生徒達に向けて、良い笑顔で宣言するプッシーキャッツ。
その後、ひと仕事終えたって感じで振り返り、バスの方を見てちょっと目を見開いた。
「さすが、噂のリトル・オールマイト。あれを避けるんだ」
「その呼ばれ方は、あんまり好きじゃないんですけどね」
「あ、ごめんね」
土流をジャンプで飛び越え、バスの上に着地していた魔美子が、プッシーキャッツとそんな会話を交わす。
体育祭における大失態から広まってしまった、リトル・オールマイトという呼び名。
色んな意味でそう呼ばれる資格は無いと思っているし、何よりやらかした時が怖いので、早急に世間様に忘れていただきたいと常々思っているのだが、そう上手くはいかないようだ。
ままならない。
「やっぱり、お前は避けるよな。ちょうどいい。八木、お前は空でも飛んで、早いとこ宿泊施設に行け」
「へ? いいんですか?」
単に服が汚れるのが嫌だったから避けただけで、この後は下に降りて、ちゃんと授業に合流しようと思っていたのだが。
相澤はまさかの、サボって良いよ発言をした。
「入試や障害物競走と同じく、今回のはお前にとって相性が良すぎる。
お前が合流したら、他の奴らの成長を根こそぎ奪うヌルゲーにしかならん。
なら、とっとと宿泊施設に行かせて、そこで待ってる残りの2人に見てもらうのが合理的だ」
「あー、なるほど」
入試や障害物競走を引き合いに出すということは、魔獣の森とやらはロボ無双みたいなものなのだろう。
確かに、それでは魔美子の一人舞台にしかならない。
ここでも特別扱いというわけだ。
「それと……」
その時、相澤が魔美子のいるバスの上にまで乗ってきて、他に聞こえないように彼女の耳元でコソコソと話し始めた。
「向こうにはお前の個性に関して『見抜く』人がいる」
「へ?」
「当然、デリケートな問題だから見ないでくれと頼んでいるし、その約束を破るような人でもない。
だが、もしかしたら、その人の個性がお前にとって何かを掴むためのキッカケになる可能性もある」
いきなりの話に魔美子はちょっと混乱した。
だが、すぐに平静を取り戻す。
多種多様な個性があふれる超人社会だ。
そういうことができる個性だって、探せば当然ある。
「その人の、いやプッシーキャッツ全員の人柄は保証する。
秘密を知っても喋るような人達じゃない。
オールマイト、校長、リカバリーガールの許可も取ってある。
最終的な判断はお前に任せるそうだ。どうする?」
「……相澤先生、バレるのは個性の事情
「ああ。誓ってそれだけだ。彼女にわかるのは肉体的なスペックのデータのみ。別に記憶を覗けるような個性じゃない」
「ふーむ」
そう言われ、魔美子は悩んだ。
リスクを恐れるのなら、話さないのがベターな選択。
だが、脳裏に浮かぶのは6年前の光景。
管に繋がれ、生死の境をさまよう父の姿。
……あの時、自分がもっと強ければ、もっとこの力を使いこなせていればと何度も思った。
それを思えば、せっかくのパワーアップイベントを見逃すというのも惜しい。
しかし、やはりリスクが大きいのも確かで。
「……とりあえず、向こうに着いてから考えます」
「そうか」
すぐには答えを出せず、魔美子は結論を先送りにした。
その判断に、相澤は何も言わなかった。
「よっ」
そうして、この場での内緒話を終え。
魔美子はバスの中にあった自分の荷物を抱えて跳び上がり、衝撃波を使った空中二段ジャンプで、下でワチャワチャやっているクラスメイト達を飛び越し、宿泊施設へ向かった。
当然、それを見たクラスメイト達は非難轟々。
「あ!? 八木ずりぃ!?」
「魔美ちゃんの裏切り者ぉ!!」
「なんで下にスパッツ履いてんだよぉぉぉぉ!!」
最後の一人だけ非難の毛色が違った気がするが、気にしないことが大事だ。
振り返らずに進むべし。
「ねこねこねこ! さすが、スーパーヒーローの秘蔵っ子! 将来有望なんてもんじゃないわね! ……女じゃなきゃツバつけてたのに」
「最後の一言、必死すぎて怖いわよ」
「……くだらん」
空を駆けて行く魔美子を見送りながら、語り合うプッシーキャッツ。
それを見て嫌悪に満ちた表情をする、謎の子供。
一筋縄ではいかない林間合宿が幕を開けた。