ナンバー1ヒーローの娘になった、悪の組織の改人系ヒロインのヒーローアカデミア 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「猫の手、手助けやってくる!」
「どこからともなく、やってくる……」
「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」」
「あ、どうもー」
宿泊施設に辿り着いた魔美子は、プッシーキャッツの残りの2人と対面を果たしていた。
黄色のコスチュームを着た四白眼の女性が『ラグドール』。
茶色のコスチュームを着た、父をひと回り小さくしたような筋骨隆々の巨漢が『虎』。
あと、さっき年齢の件で緑谷をしばいていた水色のコスチュームの人が『ピクシーボブ』。
最後に赤色のコスチュームの黒髪の女性が『マンダレイ』。
4人合わせて『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ』だ。
ちなみに、全員がおヘソや太ももを出したスカート型のコスチュームなのだが、虎だけおっさんが無理に女装しているようにしか見えない。
他の3人も年齢を考えれば、その格好はちょっと……。
しかし、緑谷がしばかれる様子を見たというのに、そこから何も学ばず、率直な感想を口に出すような愚かな魔美子ではなかった。
「あちきの個性は『サーチ』! この目で見た人の情報、100人まで丸わかり! 居場所も弱点も!」
「ああ、なるほど。あなたがですか」
「その通り!」
ラグドールがいきなり自分の個性の話をしてきた。
魔美子のことを見抜く個性の持ち主は彼女ということだ。
なんとも便利そうな、だからこそ知らなくていいことまで知ってしまいそうな個性である。
「とりあえず、今日のところはお客さんを待ってるだけで終わりそうだし、結論は明日の訓練以降に聞かせてね!」
「ん? 待ってるだけで終わる? 早ければ12時前後に来るって話じゃ?」
「アハハハハ! そんなこと言ったの誰!? それ、あちきらのタイムだよ!」
「性格悪いなー、マンダレイ」
聞くところによると、下手するとクラスメイト達がここに辿り着くのは夜になるそうだ。
早くても夕方。
魔獣の森の攻略難易度は高めのようだ。
思いがけず、結構長めの暇ができてしまった。
「じゃあ、私は適当にお部屋でゲームでも……」
「おっと、逃さんぞ。暇なら我が見てやろう。夕飯の支度と我との組手、どっちがいい?」
「うへぇ」
逃げ道を虎に塞がれてしまった。
まあ、魔美子は名目上は赤点組なのだし、強化合宿で暇な時間を与えてくれるはずもないか。
料理か訓練か。
どちらも得意分野ではあるが。
「ちなみに、虎さんの個性は?」
「我の個性は『軟体』! 体育祭で見せた程度の打撃なら、しなやかに全て受け流してやろう!」
「ふむ」
少し違うが、感覚としてはUSJで戦った肥満体脳無のような受け方をされるのだろうか。
あれは状況さえ違えば、最高のサンドバッグとして称賛していただろう敵だ。
この瞬間、魔美子の中の天秤は訓練に傾いた。
「じゃあ、一手御指南願います!」
「いいだろう! プロの力を見せてやるぞ、小娘!」
そうして、虎と魔美子のバトルが勃発した。
◆◆◆
30分後。
「いやー! 良い汗かいた! ご指導、ありがとうございました!」
「ゼェ……ハァ……オロロロロロ……」
そこには妙にツヤツヤした様子の魔美子と、まるで修行中の緑谷のようにゲロを吐き散らす虎の姿があった。
虎は強かった。
ヒーロー殺しと違って、肉弾戦に限れば魔美子との相性は良好。
60%スマッシュを普通に受け流された時はビックリした。
個性自体が強いというよりは、その個性を磨き上げてきた虎が強いという感じだ。
しかし、そのせいで魔美子のやる気スイッチを完全に押してしまい、気軽に使える上限である70%スマッシュのラッシュに虎は晒された。
プロの意地で30分も戦い続けたのはさすがだが、受け流し切れなかった衝撃で体中がボロボロ。
体力もカツカツ。
もうフカフカのベッドで休まなきゃ動けない体となってしまった。
「うっひゃー! 強っ!! ウチで最強の虎が手も足も出ないとか、これあちきがアドバイスする余地ある!?」
「あるんですよね、これが。残念なことに」
かなりのガス抜きができて賢者モードの魔美子は、穏やかにラグドールと会話をしながら、彼女の要請で虎に肩を貸してベッドを目指した。
そこにバスが到着。
マンダレイとピクシーボブ、相澤と子供が降りてきて、プッシーキャッツの2人はボロボロの虎にギョッとした様子で駆け寄ってきた。
「虎!? ちょっと、これどうしたの!?」
「わからせるつもりが……わからされた……ガクッ」
「虎ーーー!?」
虎が意識を失った。
まあ、本当に凄まじいことに重傷は一切負っていないので、ひと眠りしたら復活するだろう。
しかし、その光景を見て過剰反応する者が一人いた。
「ッ……! ヒーローなんて……! ヒーローなんてやってるからそうなるんだ!!」
「あ!?
プッシーキャッツと一緒にいた謎の子供が、なんか凄く青い顔してどこかへ走り去ってしまった。
マンダレイがそれを追おうとしたが、躊躇うように一歩を踏み出せないでいる。
わけありの臭いがした。
「……あの子、なんかあるんですか?」
相澤がマンダレイに問いかける。
彼は魔美子と違ってちゃんとしたヒーローで、ちゃんとした善人だ。
父のようになんにでも手を差し伸ばさないと気が済まないタイプではないが、ああいうのを見れば心配くらいはする。
「……うん。あの子、私のいとこの子供なんだけど、ヒーローやってた両親が殉職しちゃってね。複雑な感情を抱えてるんだ。
今回は虎がボロボロでぶっ倒れてるのを見て、トラウマを思い起こさせちゃったのかも」
「あー、その……すみませんでした」
魔美子は空気を読んで、神妙な顔でマンダレイに謝った。
父が死にかけた時のことを思い出して、その時の感情を仮面として貼り付けながら。
仮面を被る時は、素の自分から流用できる部分を流用し、嘘を本当で覆い隠すべし。
ホークスの教えだ。
「いえ、あなたが謝る必要は無いわ。倒れるまで戦った虎とタイミングが悪かっただけだから」
ここで「あ、そうですか」と神妙な顔を崩してはいけない。
自分が悪くない時の謝罪ほど有効なのだ。
こっちは映画から学んだ知識である。
「八木ちゃーん! 夕飯の支度手伝ってー! 虎が倒れちゃったから人手が足りない!」
「了解!」
口から出かけた「うへぇ。めんどくせぇ」という言葉を飲み込み、神妙モードを維持しながら、魔美子は手伝いに尽力した。
料理自体は嫌いではない。
父でも美味しく食べられる料理を模索するのとかは、かなり好きだ。
その父がいない以上、テンションは嫌でも下がるが。
そして、そうこうしているうちに、夕方の5時半。
「やーっと来たにゃん!」
実に8時間以上の時間をかけて、ようやくクラスメイト達が宿泊施設へと辿り着いた。
「疲れた……腹減った……死ぬ……」
「何が2時間ちょっとですか……」
「悪いね。そのタイムは私達ならって意味」
「実力自慢のためか……」
お昼抜きで8時間もぶっ通しで戦い続けたクラスメイト達は、もはや文句の一つも言う気力が無さそうだ。
「お疲れさーん。ご飯できてるから、荷物運んだら食堂に来てね」
「ありがとうございます、八木様、魔美子様……」
「もう裏切り者ー! とか叫ぶ気力も無いわ……」
「制服エプロンッッッ!!」
「すげぇな、峰田。一瞬で気力回復しやがった……」
そのままクラスメイト達は、約一名以外ゾンビのような足取りで荷物を運び、食堂で夕飯を胃袋に叩き込んだあたりで復活した。
その後は入浴。
案の定、
そんな感じで、林間合宿初日は過ぎ去った。