ナンバー1ヒーローの娘になった、悪の組織の改人系ヒロインのヒーローアカデミア   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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43 林間合宿 パート3

 翌日。

 林間合宿二日目。

 本日は朝から地獄の光景が広がっていた。

 

「ぎゃああああああ!?」

「うわああああああ!?」

「痛ぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「クソがぁああああ!!!」

「ひーーー!?」

 

 プッシーキャッツプレゼンによる個性強化特訓によって悲鳴を上げる生徒諸君。

 やっていることはとっても簡単。

 ただひたすらに個性を使い続けるだけ。

 言葉にするとこんなに簡単なのに、当人達にとっては悲鳴を上げたくなるような苦行であった。

 

 例えば、上鳴の個性は電気を使いすぎると体がそれに耐え切れず、脳がショートして一時的に著しくアホになる。

 この許容上限を底上げするために、『大きな電力にも耐えられる体作り』を目指して大容量バッテリーと通電し、発電と充電を繰り返し続けていた。

 常人がやったら、電気椅子という名の極刑と同じだ。

 ただの拷問である。

 

 他にも、切島は硬化の個性でより硬くなれるように殴られ続けてサンドバッグになってるし。

 青山は使い過ぎると下痢になる個性を、下痢になろうともお構い無しとばかりに、オムツを穿かされて連続使用させられている。

 麗日は無重力にするものの重量がキャパを越えると平衡感覚に異常をきたして酔うため、球体の中に入って坂道を転がり落ちながら自分を浮かせて酔い耐性の獲得を目指している。

 

 サンドバッグ、お漏らし、嘔吐。

 どれも人間としての尊厳すら考慮してくれない可愛がりっぷりだ。

 他の皆も似たり寄ったり。

 途中からB組も合流して地獄の道連れとなり、結果として阿鼻叫喚の地獄絵図が出来上がっていた。

 

 そんな地獄を尻目に、魔美子は……。

 

「……よし」

 

 とうとう覚悟を決めた。

 一部とはいえ致命傷に繋がる秘密を他者に明かす覚悟を決め、ラグドールに声をかける。

 

「お待たせしました、ラグドール。見てください」

「……オッケー。あちきも覚悟決めて見るよ!」

 

 あのオールマイトから「見た場合は他言無用で頼む」とキツく言い含められた魔美子の個性と体質。

 ラグドールはその言葉の重みをしっかりと理解し、スーハーと深呼吸をしてから、魔美子に向かって自らの個性を行使した。

 

「……………………何これ」

 

 ラグドールは言葉を失った。

 魔美子の、たった15歳の少女の中に、尋常ならざる暴虐の化身が潜んでいる。

 『サーチ』によって見ているだけで冷や汗が止まらず、ヒーローランキングのそこそこ上位に位置する自分が、気を抜いたら腰を抜かしてしまいそうなほどの怪物が。

 

 そのインパクトに隠れてわかりづらいが、肉体の方も相当おかしい。

 一人一人が全く違う肉体を持つことが当たり前の超人社会においてなお、おかしいと断言できるくらいおかしい。

 骨、筋肉、血液、神経、臓器、全てがグチャグチャだ。

 グチャグチャなのに整っている。

 自然に成長した人間ではありえない異常。

 まるで全身を弄り回された改造人間。そう言い表す他にない。

 

「き、君は、いったい……!?」

「ラグドール、他言無用でお願いしますね」

 

 相澤やラグドールの配慮によって、ここは人目につかない物陰。

 だからこそ、声を潜めれば内緒話ができる。

 聴覚強化の個性を持つ障子や耳郎も、爆豪の特訓を筆頭に絶え間なく響いてくる轟音のせいで、この会話を聞き取ることはできないだろう。

 

「私とパパは血が繋がってません。私はとあるヴィランに人工的に造られ、パパに保護された人造人間です」

「ッ!?」

 

 にわかには信じがたい言葉。

 だが、それはラグドールが感じた印象と同じだったので、否定することはできなかった。

 そんな彼女に、魔美子は語る。

 

「私が求めてるのは、この個性をより完璧に制御する方法。力を貸してください」

 

 今回ばかりは本心から頭を下げ、頼み込む。

 ラグドールは……そんな魔美子を一切否定しなかった。

 怖いだろうに、魔美子のことをガシッと抱きしめて、安心させるように言った。

 

「任せて! あちきはヒーロー! 困ってる子がいたら見捨てない! 猫の手、手助け! それがあちきのモットーだからね!」

 

 ラグドールは、ヒーローだった。

 震える手を制して、乱れる心音を隠して、まるでオールマイトのようにニコッと笑って手を差し伸べる。

 魔美子にはなれなかった、諦めてしまった、ヒーローだった。

 

「助かります」

「なんのなんの! じゃあ、とりあえず最初は何から始めよっか?」

「今の私がどれくらいの出力に耐えられるかとかわかりますか?

 これ以上はやばいって危険域(レッドゾーン)はなんとなくわかるんですけど、具体的に何%を越えると我慢の限界に達するのかがわからなくて」

「ふむふむ。なるほど。あちきの見た感じだと━━」

 

 ラグドールとの会話は弾んだ。

 そのどれもが、魔美子にとって黄金にも勝る価値のある話だった。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「八木さん」

「ん?」

 

 ラグドールのありがたいお話を聞けてホクホク気分のまま迎えた夕食の時間。

 何やら難しい顔をした緑谷が話しかけてきた。

 

「あの、八木さんはオールマイトが大怪我した時のことがトラウマなんだよね?」

「……パパから聞いたの?」

「うん。というか、期末テストの時に、八木さんの目の前で……」

「あー……」

 

 幼児退行でやらかした自覚のある魔美子は、今の緑谷にも負けず劣らずの複雑そうな顔になった。

 

「それで、オールマイトに早く引退してほしいとも言ってたよね? ヒーローをやってほしくないって」

「言ったね」

 

 確か、地獄の修行編を開始した頃。

 緑谷が冷蔵庫を引っ張っていたあたりで話した記憶がある。

 

「なんで、いきなりそんなことを……ああ、そっか。あのちっこい浴室警備員の件だね?」

「あ、八木さんも洸汰くんの事情知ってたの?」

「君達が魔獣の森でさまよってた時にちょっとね」

 

 洸汰。

 マンダレイの親族で、ヒーローをやっていた両親が殉職してしまったという子。

 そのせいで、何やらこじれた事情を抱えていそうな子。

 お人好しの化身のようなヒーロー精神を持つ緑谷だ。

 何かの拍子にその話を聞いて、力になれないかとか思ったのだろう。

 

「あの子のことを相談したいなら、君は盛大に人選を間違ってるぜ、緑谷少年」

「へ?」

「私の本性は話したでしょ? 私はパパ以外の人を人とも思わぬ『怪物』なんだよ。

 あの子の話を聞いて私が感じた嘘偽りの無い感想は『どうでもいい』だ」

「ッ!?」

 

 何か叫びそうだった緑谷の口を、魔美子は先手で塞いだ。

 そのまま顔を近づけて、冷酷な素顔が他に見えないようにしながら、冷たい声で話し続ける。

 

「パパは君と私が理解し合うことを望んでるから、本音で話す。

 皆が皆、良い奴だと思うな。正義を絶対の物差しにして人を測るな。押しつけるな。

 世の中には私みたいな、どう頑張っても他者を大切に思えない奴が案外沢山いる。

 生まれついての先天性か、道を踏み外した結果の後天性かの違いはあるけどね。

 そういう輩が『(ヴィラン)』になるのさ」

 

 魔美子は緑谷の口から手を離す。

 

「君があの子に余計なお世話を焼くのは勝手だし、私はそれを否定しない。

 だから、私があの子に興味を抱かないのも私の勝手で、君はそれを否定するな。

 パパ曰く、私の感性を知った上で向き合うのが、相互理解のコツらしいよ」

 

 そこで、魔美子はニッコリと笑った。

 外行き用の仮面をつけた。

 

「ま、そういうわけだ、緑谷少年! 存分に悩んで成長したまえ!」

 

 ポンと緑谷の肩を叩いて立ち去る魔美子。

 その背中に……緑谷は何も言えなかった。

 

『洸汰にとってヒーローは、理解できない気持ち悪い人種なんだよ』

 

 昨日、ふとした拍子に洸汰の事情を知った時、話してくれたマンダレイが言っていた言葉。

 

『救えなかった者などいなかったかのように、ヘラヘラ笑ってるからだよなぁ!』

 

 ショッピングモールで、死柄木がオールマイトを罵倒しながら、壮絶な笑顔で語っていた言葉。

 死柄木、洸汰、魔美子。

 ヒーローに憧れ続けてきた緑谷では考えもしなかった、ヒーローを否定する者達の思想。

 立て続けに聞く価値観の相違に、緑谷は何も言えなかった。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「さて、もうじき揃いそうだな」

 

 雄英高校1年生達が林間合宿を満喫する宿泊施設を見下ろせる場所に、異様な風体の者達が集結しようとしていた。

 全身に火傷の跡がある男。

 ガスマスクを被った学生。

 ゴツいマスクと管だらけの装備を身に着けた女子高生。

 チャチな仮面とローブで全身を覆い隠した巨漢。

 魔美子が言うところの、どう頑張っても他者を大切に思えない者達。

 

「頑張ろう。虚にまみれた英雄達が地に墜ちる。その輝かしい未来のために」

 

 楽しかったはずの林間合宿に、長い夜がやってくる。




・緑谷出久
悪への向き合い『+1』
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