ナンバー1ヒーローの娘になった、悪の組織の改人系ヒロインのヒーローアカデミア 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
林間合宿三日目。
今日も今日とて限界突破の地獄の修行を続ける生徒達。
そんな彼らにも、本日はご褒美が用意されていた。
「ねこねこねこ! 今日の晩はねぇ、クラス対抗肝試しを決行するよ!
しっかり鍛錬した後は、しっかり楽しいことがある! ザ・飴と鞭!」
ピクシーボブの言葉により、青春イベントを楽しみにしている一部の生徒達は気合いを入れ直した。
それどころじゃないという生徒も、もちろん多かったが。
そして、時間は過ぎ去り、夜。
「腹も膨れた、皿も洗った! 次は……」
「肝を試す時間だー!」
「その前に大変心苦しいが、赤点連中はこれから俺と補習授業だ」
「嘘だろ!?」
というわけで、血も涙もない
青春イベント、楽しみにしてたのに……。
そのあまりにも煤けた背中には、昨日の会話で気まずくなっていた緑谷でさえ、思わず同情の視線を送ってしまう。
そうして、奇しくも最高戦力が隔離されたタイミングで━━事件は起きた。
「ん? なんかさっきから、微妙に焦げ臭くない?」
「あー、そういえば急に煙っぽい、の、が……」
「骨抜!?」
最初に餌食になったのは、肝試しの驚かし役先行として離れた場所に散っていたB組。
彼らのいた場所に煙が立ち込める。
有毒ガスと、山火事で発生した黒煙。
「さぁ、始まりだ。地に堕とせ。
個性の蒼い炎で森に火をつけながら、火傷だらけの男が呟く。
それを合図としたかのように、各地にヴィラン達が現れた。
「飼い猫ちゃんは邪魔ね」
「ご機嫌よろしゅう! 雄英高校!」
「ピクシーボブ!?」
虎、マンダレイ、ピクシーボブ、及び緑谷を始めとした、まだ肝試しに出発していなかったA組の何人かの前に、オカマ口調の男と、トカゲのような異形型の男。
彼らは不意打ちでプロヒーローの一人、ピクシーボブを戦闘不能にしてしまった。
「アハハ! くたばれ高学歴!」
森の奥に、B組を一瞬でほぼ全滅させた、ガス使いのヴィラン。
「ふふ。カアイイ♪」
「「ッ!?」」
肝試しに向かっていたペア、麗日と蛙吹の前に、ゴツいマスクを付けた女子高生。
「肉!!」
「ぐっ!?」
「障子!?」
障子、常闇ペアの前に、拘束衣で全身を包み、個性と思われる変幻自在の歯の刃だけで移動と戦闘を行うヴィラン。
「ネホヒャン!」
「にゃ!?」
「おーおー、驚いてるねぇ」
中間地点にいたラグドールの前に、全身からチェンソーを生やした脳無と、隠れて様子を伺うシルクハットを被った仮面の男。
「センスの良い帽子だな、子供。俺のこのダセェマスクと交換してくれよ」
「うぁ……!?」
保護者達のところから抜け出し、秘密基地に訪れていた洸汰の前に、チャチな仮面とローブを身に纏った巨漢。
「………………」
「こいつ全然動かねぇな! 働き者かよ!」
「大事に扱えよ、トゥワイス。そいつが今回の切り札らしいからな」
妙な言い回しをするラバースーツの男と、そんな彼をトゥワイスを呼んだ火傷男の近くで沈黙する影。
総数11名。
だが、ヒーロー側はまだヴィランの正確な数すら把握していない。
開戦直後に即座に共有できた情報は、ごく僅か。
『皆!! ヴィラン2名襲来!! 他にも複数いる可能性あり!!』
「「「ッ!?」」」
マンダレイの個性『テレパス』によって、彼女達の前に現れたオカマとトカゲの情報だけが全員に伝わる。
相澤によって補習地獄に連行された魔美子にもだ。
その瞬間、即座に相澤と魔美子は動いた。
「ブラド、ここ頼んだ! 俺は生徒の保護に出る!」
相澤がB組担任の『ブラドキング』に補習組を任せ、外に向かって走る。
何故、秘密裏に決定したはずの合宿先がヴィランにバレているのか。
その答えとなり得る最悪の可能性に頭を痛めながら。
「先生、私も行きます!」
「……教師としては断固として止めるべきなんだがな」
魔美子のついてくる宣言。
教師の立場としては、守るべき生徒であり、資格も持っていない魔美子を戦わせるわけにはいかない。
しかし、合理的に考えれば、どれほどの規模かもわからない敵集団に対して、最高戦力を遊ばせておく余裕は無い。
それで誰か一人でも生徒が殺されてしまえば『最悪』だ。
「……致し方ない。八木、戦闘許可を出す。
「了解!」
ヒーローとしての最善。
すなわち、USJの時のような殺害などはできる限り避けねばならない。
窮屈だが仕方ない。
それもこれも父のためだ。
「『クリエイト・サモンゲート』!」
魔美子は使い魔を出した。
数は一度に出せる上限数である100。
ただし、数を出せば質が下がるため、一体一体は一般人に毛が生えた程度の力しか持たない。
だが、今回はこれで良い。
最優先目標は、肝試しのせいでコースに散っている生徒達の回収であり、ヴィランの撃破は二の次。
生徒が一人でも殺されてしまえば雄英の信頼は地に墜ち、父へのバッシングも凄いことになるだろうから。
この場に父はいなかったにも関わらず『オールマイトが教師をやっていたのに、なんで生徒が殺されたんだ!』という無責任なことを言い出すマスゴミは必ず出てくる。
そして、世間のクソどもはヴィランではなく、守れなかったヒーローの方を叩く。
ふざけた話だが、社会はそういう風にできているのだ。
平和の弊害。
守られることに慣れ切り、救われて当然なんて意識を持ってしまった愚民どもの主張。
父が死ぬ思いで築き上げた平和を穢す、ヘドが出るような社会の構造。
それから父を守るためには、誰一人として犠牲を出さない完全勝利を成し遂げて、クソどもを黙らせるしかない。
「行け!!」
「「「━━━━!」」」
そんな魔美子の意志を反映し、使い魔達が動き出す。
使い魔は基本的に、ある程度の自律思考に基づいて動くオート操作だ。
使い魔が見聞きした情報を魔美子が受信することはできないので、離れてしまうとその自律思考に任せるしかなくなるが、どうにか任務を成し遂げてくれ。
個性解放部位『翼』 出力70%
そして、魔美子自身も翼を出して、使い魔より早くやばそうな地点へ駆けつけようとして……。
「邪魔はよしてくれよ、リトル・オールマイト。今回は強い奴に用は無いんだ」
「ん!?」
「八木!!」
宿泊施設を出たところで、いきなりヴィランに襲われた。
黒いコートを着た火傷だらけの男が、掌から蒼い炎を出して魔美子を焼こうとしてくる。
咄嗟にパンチで迎撃した。
「『デトロイト・スマッシュ』!!」
「ッ……! さすが、ナンバー1の娘。この程度の炎じゃビクともしねぇか」
衝撃波で炎をかき消す。
火傷男は追撃の構えを見せ……相澤によって即座に捕縛された。
捕縛布で縛り、馬乗りになって身動きも封じる。
抹消も既に発動しているので、個性を使った反撃もできない。
「目的、人数、配置を言え」
「なんで?」
「こうなるからだよ」
「ッ……!」
「おぉ」
相澤が火傷男の腕を折った。
あのくらいならいいのかと、魔美子に余計な知恵を与えた。
「次は右腕だ。合理的にいこう。足までかかると護送が面倒だ」
「焦ってんのかよ? イレイザー」
もう片方の腕も逝った。
それで殆ど顔色を変えない火傷男も凄い。
「なあ、ヒーロー。生徒が大事か?」
「!?」
その時、火傷男の体が崩れた。
泥みたいになって、ドロドロに崩れていく。
相澤の抹消が発動中な以上、個性ではない。
腕もちゃんと折れていたのだから、ヘドロヴィランのように、元々泥の体の異形型ということもないだろう。
なんにせよ……。
「守り切れるといいな。また会おうぜ」
完全に崩れて液状化する火傷男。
水溜りみたいになったのを踏みつけてみたが、何も反応は無い。
これでは情報を吐かせるのは不可能ということだ。
「余計な時間使っちゃいましたね……! 行ってきます!」
情報に期待して足を止めていた魔美子は、火傷男に見切りをつけて、今度こそ翼を使って飛び立った。
使い魔は火傷男の話など聞かずに出撃したので、致命的な遅れではないと思いたい。
「あれは……」
空を飛んでまず目に入ったのは、ガスと山火事。
特にガスの方は見るからに有毒そうだ。
あれを放置するのは下策。
「吹き飛ばす!」
個性解放部位『尻尾』 出力60%
魔美子は普段あまり使わない悪魔の尻尾を出し、伸縮自在のそれを地面に向かって射出する。
尻尾は地面に深く突き刺さり、地中でいくつもの木の根に絡まって固定。
さながら凧揚げの凧のような状態になった魔美子は、尻尾を支えに、翼を大きく羽ばたかせた。
「『デスフェザー・スマッシュ』!!」
出力70%の翼による全力の羽ばたき。
それは拳で放つ衝撃波よりも遥かに凄まじい爆風を生み出し、一瞬にしてガスを吹き飛ばし、山火事を鎮火させる。
雑なやり方にもほどがあるが、あのまま放置するよりはマシだったはずだ。
「よし! 次は……ッ!?」
その瞬間、魔美子目がけて下から攻撃が来た。
青山のネビルレーザーのような、されど威力は彼より遥かに上の光線。
「『デビル・スマッシュ』!!」
咄嗟に個性を解放した拳で迎撃。
問題なく相殺に成功したが、他の生徒に向けられたらヤバいと言わざるを得ない攻撃だった。
そして、そんな攻撃を放った存在が、堂々と魔美子の前に姿を現す。
「脳無……!」
それは、USJや保須で見たような、脳ミソ剥き出しの改造人間だった。
まるで個性解放状態の魔美子を模しているかのような黒い肌に、戦闘機のような人間離れした体型。
体の後ろ側には、飯田の太ももに生えているエンジンのマフラーのようなものが無数にあり、口はさっきのレーザーの残滓で淡く発光している。
「やっぱり、あのクソの手引きか……! いいぜ! 来なよ! 瞬殺してやる!!」
魔美子は地面に突き刺さった尻尾を切り離し、代わりに両手両足の個性を解放。
継続戦闘が困難になるディザスター・モードこそ温存しているが、それを差し引けば最高の状態で脳無に突撃をかます。
しかし……脳無はクルリと反転して、魔美子とは別方向に飛び去った。
「…………は?」
え? 逃げた?
あれは前の肥満体のような自分対策ではないのか?
魔美子は一瞬混乱し……すぐに敵の狙いに気づいた。
「ッ!?」
戦闘機脳無の口が光り輝く。
多分、レーザー発射の予備動作。
照準が向いているのは地上。
ガスにでもやられたのか、倒れて動けないでいるB組の生徒達。
「そういうことか……! 『デビル・スマッシュ』!!」
魔美子は全力で拳を振り抜き、同時に羽ばたきで体を支え、空中でも一切の支障なく放った衝撃波を戦闘機脳無に叩きつける。
しかし、戦闘機脳無は見事な飛行で衝撃波の攻撃範囲から逃れ、狙撃を敢行。
高出力のレーザーがB組を襲う。
「らぁあああ!!」
だが、戦闘機脳無が回避に専念している隙に、魔美子の飛翔も間に合った。
B組の盾になれる位置に移動し、さっきと同じように、レーザーを拳で叩き落とす。
「『ダークネス・スマッシュ』!!」
更に、レーザーにはレーザーとばかりに、闇のレーザービームを使って撃ち返した。
衝撃波だとあっさり避けられる。
そうなると、飛び道具はこっちに頼るしかない。
しかし……。
「ああ、くっそ! やっぱり!」
戦闘機脳無は突如眩く発光し、闇レーザーを完全に相殺した。
前の肥満体にあって、今回の戦闘機に無いはずがない、魔美子対策。
しかも、あのレーザーだって光の束だ。
装甲も撃ち抜けず、レーザー同士でぶつけ合っても多分押し負ける。
「あ!?」
しかも、戦闘機脳無はまた違う方向へ飛び去った。
他の生徒を狙いに行ったのだろう。
守るためには、奴にピッタリくっついていって、毎回生徒の盾になるしかない。
遠距離から撃ち落とせない以上は、そうする他に方法が無い。
「嫌味な……!」
普通に倒すだけなら、当たるまで衝撃波を乱射して、体勢を崩した隙に接近して仕留めればいい。
だが、衝撃波の乱射に専念すれば、生徒に向けた狙撃を防げないタイミングが必ずできてしまう。
生徒を見捨てれば勝てる。
されど、ヒーローという立場が魔美子の勝ち筋を潰してしまう。
結果、戦闘機脳無は前回の肥満体以上に、見事に魔美子の足止めという使命を全うしてみせた。
『ヒーローは多いよなぁ。守るものが』
「……チッ!!」
憎い野郎の悪意に満ちた声が聞こえた気がして、魔美子は大きく舌打ちした。