ナンバー1ヒーローの娘になった、悪の組織の改人系ヒロインのヒーローアカデミア   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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45 林間合宿の夜 パート2

 ヒーロー側の最高戦力が敵方の見事な戦略によって封じられる中。

 

「ハッハー! 血を見せろぉ!」

「ッ!?」

 

 洸汰の秘密基地にて、緑谷と巨漢のヴィランの戦いが始まっていた。

 秘密基地というだけあって、洸汰は保護者達にも場所を教えていない地点におり、そこにヴィランが現れてしまったのだ。

 ヒーロー達は場所もわからなければ余裕もなく、救けには来れない。

 だが、前日の夜に偶然にも洸汰の秘密基地の場所を知ることができた緑谷だけは、駆けつけることができた。

 

 とはいえ、それが幸運だったかどうかは疑問の余地がある。

 

「良いな、お前! まあまあ強いな! いたぶり甲斐がある!!」

「うっ……!?」

 

 巨漢のヴィランを相手に、洸汰を庇いながら戦う緑谷は防戦一方だ。

 フルカウルを使ってなお、スピードでもパワーでも完全に負けている。

 それも圧倒的な差をつけられて。

 敵の身体能力はどう考えても、個性無しの魔美子を凌駕している。

 

 血狂い『マスキュラー』。

 それがこのヴィランの名だ。

 ネームドと呼ばれる、通り名がつけられるほどの凶悪犯罪者。

 そこらのチンピラとは次元が違う。

 プロヒーローすら何人も殺している、ヒーロー殺しと同じ領域に立つ者。

 

「『デトロイト・スマッシュ』!!」

「おっと!」

 

 緑谷の拳を、マスキュラーは腕で簡単に受け止める。

 その腕は、筋のようなもので覆われていた。

 個性『筋肉増強』。

 皮下に収まらないほどの筋肉で、身体能力を劇的に向上させる個性。

 肉の鎧は防御力すらも跳ね上げ、緑谷のパワーがまるで通じない。

 

「そら!!」

「ッ……!」

 

 拳を受け止めた腕が、そのまま薙ぎ払われる。

 吹き飛ばされた緑谷に、マスキュラーは容赦なく追撃を行い、とうとう緑谷は被弾。

 お返しのように放たれた拳に対し、咄嗟に盾にした左腕にヒビが入るのを感じた。

 この強化合宿のおかげで出力が上がっていなければ(・・・・・・・・・・・・)、ヒビでは済まなかっただろう。

 

「くっ……!?」

 

 魔美子とグラントリノにしばかれまくったせいか、やたらと上達した受け身を取りながら、緑谷は痛感する。

 強い。

 本物のヴィランというのは、本当に強い。

 改めて、ヒーロー殺し相手に善戦できたのは、相当手加減されていたからなのだと思い知らされる。

 ……けれど。

 

「あ、あぁ……」

 

 ボロボロになっていく緑谷を見て、絶望したように涙を流す子がいる。

 あの子の両親を殺したヴィランに、あの子まで殺させるわけにはいかない。

 

「大、丈夫……!」

 

 だから、笑え。緑谷出久。

 憧れの人(オールマイト)のように、笑って他者を救い出せ。

 

「必ず、救けるから……!」

 

 そう言って、緑谷は切り札を使った。

 まだ短時間しか使えない奥の手。

 雄英に入学してからの3ヶ月半。

 入試と体育祭くらいでしか大怪我をせず、その分、頑強に鍛え上げることができた肉体。

 それが耐えられる上限まで個性を解放する。

 

 ワンフォーオール・フルカウル 出力20%!!

 

 この強化合宿中に至った領域。

 体が軋み、長くは保たない。

 それでも一時期に、体育祭で無双してみせた時の魔美子と同等の身体能力で動くことができる。

 これでダメなら……禁じ手をも使う覚悟だ。

 

「あああああああああ!!!」

「良いな! 遊ぼうぜ!!」

 

 雄叫びを上げながら突撃する緑谷と、笑って迎え撃つマスキュラー。

 ……人を殺そうとしておいて、なんでそんな楽しそうに笑える?

 命をなんだと思ってるんだ。

 

『皆が皆、良い奴だと思うな。正義を絶対の物差しにして人を測るな。押しつけるな』

 

 その時、緑谷の脳裏に魔美子の言葉が蘇った。

 

『世の中には私みたいな、どう頑張っても他者を大切に思えない奴が案外沢山いる』

 

 そう言った時の冷酷な彼女の顔が蘇る。

 冷たい顔で、冷たい声で……ほんの少しだけ悲しげだった彼女の姿が。

 

(……それでも、許せないんだ)

 

 理不尽に奪い、理不尽に奪われるのが、どうしても許せない。

 だから、今だけは彼女の言葉を振り払って。

 緑谷は、他者を壊して笑うマスキュラー(悪魔)に挑みかかった。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「オオオオオオオオオオッッッ!!!」

「ぐぅぅぅぅぅ!!!」

 

 ところ変わって。

 強敵に挑む緑谷と同じように、常闇もまた強敵と戦っていた。

 ただし、相手はヴィランではない。

 己自身の個性だ。

 

「闇ィィィィィッッッ!!!」

「静まれ……! ダークシャドウ!!」

 

 都会の明かりからも離れた夜の森という最高(最悪)に近い条件下で、常闇は個性を使ってしまった。

 闇が深いほど獰猛になり、行き過ぎれば暴走して制御を失うダークシャドウを解放してしまった。

 

 原因は襲撃してきたヴィランだ。

 拘束衣を纏って、変幻自在の個性の歯の刃だけで戦う、異様な風体の男。

 あれに肝試しのペアだった障子を傷つけられ、怒りに任せてダークシャドウを解き放ってしまった。

 ただでさえ深い闇のせいで制御困難だったというのに、常闇の怒りに感応して更に凶暴になったダークシャドウ。

 もう目の前のヴィランに狙いを定めることすらできず、必死に手綱を握らんとする常闇を引きずって、ただただ暴走するのみだった。

 

 しかも、これまた運の悪いことに、進行方向上に魔美子の放った使い魔が結構いた。

 使い魔はノッペリとした黒い影法師の見た目通り、闇っぽいエネルギーでできている。

 魔美子の闇をダークシャドウがエネルギーに変えられてしまうのは職場体験で確認済み。

 結果、ダークシャドウはヘンゼルとグレーテルのごとく、道行く使い魔を食べながら移動してしまい、もう自分がどこにいるのかすら常闇にはわからない。

 暴走する自分から障子を引き離せたのだけは幸運と捉えるべきか、あのヴィランのところに障子一人残してきてしまって最悪と捉えるべきか。

 ダークシャドウが暴走して周囲を薙ぎ払った拍子に離脱してくれていることを祈るしかない。

 

「ネホヒャン!」

「うぐっ!?」

 

 そして、更なる受難がやってきた。

 進行方向上に誰かがいる。

 ラグドールと、もう一人。

 

「脳無、だと……!?」

 

 そこにいたのは、全身からチェンソーを生やした脳ミソ剥き出し人間。

 それがラグドールを襲っていた。

 彼女はチェンソーに脇腹を深く斬り裂かれ、見るからに重傷。

 

「オオオオオオオオオオオッッッ!!!」

 

 そんな2人にダークシャドウが迫る。

 今のダークシャドウは、動くものや音に対して無差別に攻撃を仕掛けるだけのモンスターと化している。

 重傷のラグドールは、もはや自力では攻撃を避けられまい。

 使い魔を捕食したことで更に強くなっているダークシャドウの攻撃が掠りでもすれば殺してしまう。

 

「あああああああああああッッッ!!!」

 

 だからこそ、常闇は力を振り絞った。

 気力、体力、精神力、全て使ってダークシャドウの手綱を握る。

 脳裏に思い浮かべるのは、同じ暴走個性を抱える魔美子のアドバイス。

 

『暴走を抑えるコツ? そんなの根性一択だよ。

 絶対に守りたいものを思い浮かべて、その気持ちを『芯』にして、芯にしがみついて、流されそうな心と体を繋ぎ止める。

 わかったら、もう一回やってみよう!』

 

 職場体験の夜。

 毎日毎日無人島まで飛んで、ここと同じくらい光の無い場所で制御訓練をした。

 ダークシャドウが暴走する度に、魔美子はボコボコにして鎮めてくれた。

 一週間それを繰り返し、繰り返し、一応は暴れ馬を乗りこなす感覚を掴みかけはしたのだ。

 今のダークシャドウは使い魔を食った分、あの時よりも凶暴になっているが、ここでやれなければ、あれだけ付き合ってくれた彼女に顔向けできない!

 

「プルス・ウルトラァァァァーーーーー!!!」

 

 雄英の校訓、更に向こうへ(プルス・ウルトラ)

 人生の苦難を乗り越えて、更に向こうへ!

 そんな常闇の意志が、ダークシャドウの攻撃の矛先をラグドールから逸した。

 

「オオオオオオオオオオオッッッ!!!」

「ホネヒャン!?」

 

 攻撃は矛先を変え、ラグドールを襲っていた脳無を直撃する。

 個性を使った魔美子ですら無傷では制圧できなかったモンスターの一撃が脳無を襲う。

 今回の脳無はUSJに現れたような化け物ではなかったのか、その一撃で沈黙した。

 死んではいなさそうだが、全身粉砕骨折くらいはしているだろう。

 再生系の個性も無い。

 あったら、粉微塵になるまでダークシャドウになぶられていただろうが。

 

「ッ!?」

 

 その時、空が光った。

 見れば上空で、魔美子ともう一体の脳無が戦っている。

 今の光は、その脳無が放ったレーザービームだったようだ。

 光が弱点であるダークシャドウは、それによって一瞬怯んだ。

 使い魔捕食によって潤沢に体力()を補給した今なら、あの程度の光は耐えられる。

 

「おおおおおおおお!!!」

 

 しかし、その一瞬の怯みは、常闇がダークシャドウを体内に強制収容するには充分な隙だった。

 

「ヌ、グ……!! 暴レ足リンゾォォォォォ……!!」

 

 不満そうな叫び声と共に、ダークシャドウが常闇の中に吸い込まれていく。

 常闇は厳重にダークシャドウを押さえつけてから……膝をついて息を切らした。

 

「ハァ……ハァ……!」

「だ、大丈夫……!?」

 

 疲労困憊。

 そんな常闇に向かって、自分の方が遥かに重傷なのに、ラグドールが大丈夫かと語りかけてくる。

 ヒーローの鑑だった。

 

「俺は、大丈夫です……! ラグドールこそ、傷が深いように見える」

「アハハ。ぶっちゃけ超痛い。けど、救かったよ。ありがとう」

 

 ありがとう。

 その一言で救われたような気がした。

 ああ、やっぱりヒーローを志して良かった。

 

「「「━━━」」」

 

 そんな二人のところに、使い魔達が降りてきた。

 数はたったの3体。

 ダークシャドウに数を減らされたものの、創造主の命令を守って、常闇を保護すべく、上空でダークシャドウが鎮静化するのを待っていた3体だ。

 ある程度の自律思考能力がある使い魔達は、重傷のラグドールも保護対象に認定し、2体が2人をお姫様抱っこで持ち上げた。

 

「おお。ピクシーボブが、羨ましがりそう……ガクッ」

「ラグドール!?」

 

 青い顔で冗談を言った直後、ラグドールが気絶した。

 これはマズいと見て、使い魔は全速力で彼女と常闇を輸送する。

 B組担任ブラドキングが守る宿泊施設に向かって。

 

「あーあー、行っちゃった」

 

 そして、そんな2人と使い魔を物陰から見つめる怪しい影。

 シルクハットを被った仮面の男。

 

「サブターゲットを逃しちゃったぜ。あの少年、常闇くんだっけ? 彼の方もターゲットじゃなかったが、あの凶暴性は良い(・・)と思ったんだけどなぁ」

 

 帽子のツバを指で摘みながらため息を吐く男。

 

「仕方ない。メインターゲットだけでも確実にいただくか。

 おっと。こいつも回収しといた方が良いよな?」

 

 男が地面で倒れる脳無に手を触れた。

 一般人に毛が生えた程度の今の使い魔では持ち運べず、この場に放置された脳無。

 それが男の個性によってビー玉のような形に圧縮される。

 

「ラグドールのマーキングは付いてるだろうが、それはそれで囮なり捨て駒なり使い道はあるでしょ」

 

 脳無を圧縮したビー玉のような何かをポケットに入れて、男は走り出した。

 まずは合流地点に寄って脳無を託し、そこからメインターゲットの捜索に向かおう。

 ラグドールが気絶してくれている間に、脳無の引き渡しは済ませておきたい

 幸い、自分の足なら移動時間はそうかからない。

 

 ヴィランの暗躍はまだまだ続く。

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