ナンバー1ヒーローの娘になった、悪の組織の改人系ヒロインのヒーローアカデミア   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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46 林間合宿の夜 パート3

「ハァ……ハァ……!」

 

 一人の少年が、ボロボロの体で息を切らして走る。

 緑谷だ。

 激戦の末、彼は血狂いマスキュラーを下した。

 奴の力任せに暴れる戦闘スタイルは魔美子に近くて慣れていたのが幸いし、それに対処するための動きはグラントリノの三次元的な機動を参考にできた。

 使える経験を使って、どうにか勝った。

 それでも禁じ手の100%スマッシュに頼ってしまい、しかもそれを一回耐えられて、もう片方の腕でもう一回打ったので、両腕はぶっ壊れてしまっている。

 

 なのに、そんな状態でも彼は走る。

 魔美子が上空で脳無相手に手こずっているのが見えた。

 最高戦力には頼れない。

 そんな状況で、もし現れた敵が全員マスキュラークラスだったら、皆が危ない。

 自分が動いて救けられるのなら、意地でも動いて救ける。

 

 背負っていた洸汰を途中で会った相澤に託し、その相澤の言葉を『テレパス』の個性を持つマンダレイに伝えた。

 相澤がマンダレイに頼んで発信したのは、『生徒全員の戦闘許可』。

 相澤にも魔美子が手こずっている様子は見えた。

 オールマイト級の戦力がいて、なおも苦戦する強敵がいる。

 使い魔が各地に散ってはいるが、数を出したために一体一体が相当弱くなっている使い魔では、他の強敵から全員を保護することはできないかもしれない。

 最悪を考えるなら、生徒にも自衛の術がいる。

 後で処罰されるのは自分だけでいい。

 その覚悟で発した戦闘許可。

 

 それと、もう一つ。

 こっちは緑谷がマンダレイに頼んで全員に伝えてもらった情報。

 

 爆豪が狙われている。

 

 マスキュラーが口を滑らせたのだ。

 どういう目的なのかはわからないが、敵の狙いの一つは爆豪。

 それを知って緑谷が止まるわけがない。

 ヘドロの時と同じだ。

 無力な身で後先考えず飛び出した時のように、両腕ぶっ壊れた重傷の身でも後先考えずに動く。

 救済意志の化身。それが緑谷出久なのだから。

 

 そして、彼は見つけた。

 

「かっちゃん!!」

「デク!! テメェ、さっきのテレパシーは……ッ!?」

 

 怒鳴りかけた爆豪の口が止まった。

 見るからにズタボロの緑谷を見て。

 次いで「チィッ!!」と舌打ち。

 個人的な事情で腹立たしいのもそうだが、何より……。

 

「肉!!」

「うわっ!?」

「このバカ!! 足手まといがテメェから来てどうすんだ!?」

 

 変幻自在の刃から、爆豪が緑谷を庇って、共に攻撃を避ける。

 相対するのは、拘束衣に身を包み、個性によって歯を変幻自在の刃に変えて操るヴィラン。

 脱獄死刑囚『ムーンフィッシュ』

 彼もまたマスキュラーと同じく、殺戮の場数を踏んできた大物だった。

 

「緑谷!」

「酷ぇ怪我だな……!」

「障子くん! 轟くんも!」

 

 そして、ムーンフィッシュと相対していたのは爆豪だけではなかった。

 轟が氷の盾を出して緑谷を守りつつ、もう激痛でロクに動けないだろう緑谷に障子が駆け寄り、皮膜のついた六本腕で覆って背負って守る。

 

「その重傷、もはや動いていい怪我じゃないな……! 友を救けたい一心か。呆れた男だ」

「けど、こっちも苦戦中だ……! 来てくれたのは嬉しいが、爆豪と同じことしか言えねぇぞ……!」

「ッ! ……ごめん」

 

 緑谷は無力感に苛まれた。

 爆豪と轟の言う通り、今の緑谷はただの足手まといだ。

 かつて、個性把握テストの時、相澤に言われた言葉を思い出す。

 

『お前のは一人を救けて木偶の坊になるだけ。緑谷出久。お前の力じゃヒーローにはなれないよ』

 

 その通りだった。

 今の緑谷はマスキュラーを倒して洸汰を救うために死力を尽くしてしまい、木偶の坊状態。

 本当に、相澤の言った通りになってしまっている。

 

『せめて出力50%は出せる半人前になってからじゃないと、あんな強敵に向かっていっちゃダメでしょうが!』

 

 今度はヒーロー殺しと戦った後に魔美子に言われた言葉が蘇る。

 本当に、仰る通りだ。

 50%を反動無しで使えていれば、マスキュラーを倒した後も戦えるだけの力を残せていたかもしれない。

 だからと言って、洸汰を救けるために走らなければ良かったとは欠片も思わないが、己の未熟さは痛感させられる。

 ……だが。

 

「皆!!」

 

 自分がダメな時は、仲間がいる。

 それもまたヒーロー。

 

「常闇! 無事だったか!」

「すまん! 心配をかけた、障子!」

 

 上空から常闇が降ってくる。

 気絶したラグドールと共に3体の使い魔に運ばれていた彼は、この戦場を発見し、使い魔に頼んで離してもらったのだ。

 その目に映るのは、追い詰められたクラスメイト達と、追い詰めるヴィランの姿。

 先ほど、共にいた障子を傷つけられ、ダークシャドウ暴走のキッカケとなった変幻自在の刃を操るヴィラン。

 

「今度は間違えん……!」

 

 同じ失敗を繰り返しはしない。

 常闇は己の『芯』を強く意識しながら、個性を解き放った。

 

「オオオオオオオオオオオッッッ!!!」

 

 深い闇の中で獰猛になったダークシャドウが暴れようとする。

 それを精神力で押えつけ、さっきの脳無を相手にした時と同じように、その矛先をヴィランのみに向けさせる。

 

「『終焉(ラグナロク)・先触れ』!!」

「ッ!?」

 

 未完の奥義がムーンフィッシュを襲う。

 巨大化したダークシャドウの掌がムーンフィッシュを押し潰し、そのまま掴んで振り回して木や地面に叩きつけた。

 次元違いの怪力をモロに食らい、ムーンフィッシュは気絶。

 いくら山火事を恐れて炎や大爆発を使えなかったとはいえ、それでも轟と爆豪の2トップがいてもなお苦戦した相手が、まさかの瞬殺。

 

「なんだこりゃ……」

「ぐぅぅぅぅぅぅ!!?」

 

 爆豪が呆然と呟いた瞬間、常闇は苦しげな声を上げた。

 彼は別に劇的に成長したわけではない。

 依然として、この技の制御は困難だ。

 今の状態は、暴れ馬の手綱を辛うじて離さないでいる状態に過ぎない。

 

「光、を……!」

「! かっちゃん! 轟くん! ダークシャドウの弱点は光だ! 多分、炎と閃光弾で鎮静化させられる!」

 

 騎馬戦でチームを組んだ縁で弱点を教えてもらった緑谷が、即座に対抗手段のある爆豪と轟に声をかけた。

 

「そういうことなら任せろ!」

「命令してんじゃねぇ!」

 

 優秀なヒーロー候補生である二人は、それを聞いて即座に動く。

 ……しかし、その前に。

 

「━━━」

「ひゃん!?」

「え!?」

「は!?」

「ッ!?」

 

 上空から光のレーザービームが降り注ぎ、それに撃たれたダークシャドウが悲鳴を上げながら鎮静化した。

 見れば、そこにいたのは脳無と魔美子。

 レーザーを撃ったのは脳無だ。

 魔美子対策の光が、とばっちりでダークシャドウにもクリティカルしてしまったのだ。

 

「常闇少年!!」

「!」

 

 そして、常闇を呼ぶ魔美子の声。

 珍しく余裕の無い、必死そうな声。

 

あれ(・・)をやる! 死ぬ気で打ち落とせ!!」

「……了解!」

 

 頼られた。任された。

 これで奮い立たねば、男としてもヒーローとしても失格!

 そんな心意気で、常闇は消耗した精神力に鞭を打つ。

 更に向こうへだ。

 

「『ダークネス・スマッシュ』!!」

 

 魔美子の掌から、闇のレーザービームが放たれる。

 狙いは脳無ではなく、常闇。

 常闇はダークシャドウを解放して、闇のレーザービームを受け止めた。

 

「!! 力ガ!! 漲ルゥゥゥゥゥ!!!」

 

 さっきの光レーザーで「ひゃん!?」とか言っていたダークシャドウが、魔美子の闇をエネルギーとして捕食したことで、再び獰猛さと力強さを取り戻す。

 それを常闇が必死に制御し、ダークシャドウの伸縮自在の腕を大きく伸ばして、上空の脳無に強烈な一撃を浴びせた。

 

「ああああああああああ!!!」

 

 ダークシャドウの腕が振るわれる。

 潤沢な(エネルギー)の補給によって巨人サイズにまで膨れ上がった漆黒の影が、虫を叩き潰すように脳無に掌を叩きつける。

 

「━━━」

 

 しかし、脳無はこれを避けた。

 中々潰せない蚊のごとくウザい動きで避け、反撃のレーザーをダークシャドウに叩き込んだ。

 脳無は入力されたプログラム通り、全ての攻撃を避けて生徒を狙う。

 レーザーの強烈な光にやられ、再びダークシャドウが「ひゃん!?」と叫んで弱体化する。

 

「ナイス!!」

 

 だが、それは決して無駄ではなかった。

 ダークシャドウの強烈な一撃は風圧を生み、その風圧に煽られて脳無が空中でキリモミ回転する。

 その状態で放ったレーザービームも、ダークシャドウが弱体化と引き換えに完全ガードした。

 体勢崩しと生徒を守るための二手分、魔美子の手が空いた。

 

「『デビル・スマッシュ』!!」

「━━━!?」

 

 その二手分で、魔美子は脳無との距離を一気に詰めて、渾身のパンチを繰り出した。

 それが脳無の頭部を捉え、轟音が鳴り響く。

 

「よっしゃー! やっと良いの入ったぁ!!」

 

 ようやくクリティカルヒット。

 おまけに、距離まで詰められた。

 ここまで近づければ、もう完全に魔美子の土俵だ。

 

「助かったぜ、常闇少年! 『デビル・テイル』!!」

 

 魔美子の腰から、先端が三角形になった悪魔っぽい尻尾が生えてくる。

 それが凄い勢いで伸びて脳無の体に巻きつき、巻きついた尻尾ごと脳無を引き寄せて、もう一発。

 否、もう数十発。

 

「『ソロモン・スマッシュ』!!」

「!!?」

 

 魔美子の連打が脳無を追い詰めていく。

 趨勢は決した。

 数分としないうちに決着がつき、最高戦力がフリーになるだろう。

 そうなれば、残りのヴィランなど敵ではない。

 ムーンフィッシュに苦しめられていたところに緑谷が来てから、僅か1分程度。

 刹那の攻防が、この戦いのターニングポイントとなった。

 

「……急転直下ってやつだな」

「……チッ」

 

 轟が今起こったことを端的に言葉にし、爆豪は自分達が苦戦したムーンフィッシュをまるで端役のように退場させて繰り広げられた次元違いの戦いに、自分との差を感じて舌打ちした。

 

「とりあえず、移動しよう。早く施設へ……」

 

 そうして、ヴィランを退けた彼らは、宿泊施設に向けて移動を開始する。

 狙われている爆豪を中心にして隊列を組み、障子の索敵能力を頼りに奇襲を警戒しながら進む。

 ……しかし。

 

(お、さっきの化け物が見えたから来てみれば、メインターゲットまでいるとは。こいつはラッキー)

 

 そんな彼らを背後から付け狙う、シルクハットを被った仮面の男。

 その存在に、少年達は誰も気づけなかった。




・緑谷出久
肉体損傷『−3』
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