ナンバー1ヒーローの娘になった、悪の組織の改人系ヒロインのヒーローアカデミア 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
個性把握テスト。
第一種目:50メートル走。
「3秒04」
「5秒58」
「4秒13」
1年A組の生徒達は、個性を活かして常人以上の記録を出していた。
種目に個性が合わない生徒も当然いるが、8種目のうちのどれかでは活かせるだろう。
活かせなさそうなのは『透明人間』という、このテストには一切関係ない個性を持っている女の子と、あとは……。
「緑谷出久、7秒02」
体をぶっ壊さなければ元の無個性と変わらない緑谷だけだ。
(こりゃ、透明の子と最下位争いかなー。頼むぜ、緑谷少年。パパを早く引退させるためにも、こんなところで落ちてくれるなよ)
大分焦っている緑谷を見ながら、魔美子は心の中でエールを送った。
いつものごとく、別に緑谷のことを気づかったわけではない、自分本位な理由による応援だったが。
「次、八木」
「はーい」
そんなことを考えている間に、魔美子の順番が回ってきた。
「八木、お前もちゃんと個性使えよ」
「……戦闘で発散できないと溜まっていくんですけど」
「もちろん、発散は後でさせてやる。だが、それはそれとして、お前も自分の最大限を知らなければならない」
「最大限を引き出したら暴走しますよ?」
「暴走しないと自分で確信できる範囲での話だ。そこがお前の『ヒーローとしての最大限』だからな」
「あ、なるほど」
ヒーローとしての最大限。
中々に言い得て妙だ。
「それじゃ、遠慮なく」
スタートラインに立ち、魔美子は個性を使った。
8種目もやるのなら、色々と温存しなければならない。
安全マージンを考えれば、数日はそのままでも問題なく我慢できる範疇での力の解放に留めておくのが良いだろう。
個性解放部位『左足』 出力60%
「『デビル・ダッシュ』!!」
スターティングブロックを破壊するほどの踏み込みでダッシュ!
50メートルなど、悪魔の身体能力なら一歩で踏み越えられる。
記録は……。
「0秒28」
「「「0秒台!?」」」
クラスメイトの中でも頭一つ抜けているどころではない異次元の記録に、驚愕の視線が魔美子に集中した。
「さすが、ヘドロ事件の英雄にして入試一位……! この分野ですら足下にも及ばないとは……!」
「やば過ぎだろ、八木!? オールマイト並みの身体能力なんじゃね!?」
「クソがぁぁ!!」
「…………」
集まる視線の種類は様々。
驚愕、畏怖、称賛、憧憬、憤怒。
特に不良少年と、紅白に分かれた髪の少年の視線が強い。
なお、緑谷や相澤に関しては「知ってた」って感じの反応だ。
第二種目:握力
個性解放部位『右手』 出力60%
「あ……」
バキッという音がして、握力計が砕け散った。
「「「壊れたぁ!?」」」
八木魔美子。
記録:計測不能。
第三種目:立ち幅跳び
「ふぉおおおおおおお!!」
クラスの中でもひときわ小柄な男子が歓声を上げた。
何故か?
この種目のために、魔美子が体操服の上を脱いだからだ。
「平均的な身長に実る、黄金比のナイスおっぱ……ぶげっ!?」
エロい視線の感想には、デコピンによる衝撃波の遠距離攻撃で制裁した。
なお、体操服の下は下着ではなく、背中(というより肩甲骨)を露出するデザインのちゃんとした服だ。
それでも、体操服に比べれば体のラインがハッキリ出ているので、服を脱ぐという仕草と合わせてイケるという男子は、制裁された男子一人ではなかった。
それはともかく。
個性解放部位『翼』 出力1%
「「「飛んだぁ!?」」」
八木魔美子。
記録:計測不能
第四種目:ボール投げ
個性解放部位『右腕』 出力60%
「せいやぁ!」
ボールは雄英の敷地外にまで飛んでいった。
八木魔美子。
記録:5600メートル
しかし、この種目では魔美子以上の記録を出す猛者がいた。
「せい!」
麗日お茶子。
記録:∞
「
「すげぇ! ∞が出たぞ!」
「初めて八木の記録を超えたぁ!!」
麗日お茶子
個性『
触れたものを無重力状態にできる。
それによってボールを無重力状態にして投げた結果が、記録∞だ。
これには魔美子も驚いた。
驚いたついでに、初めて自分を打ち負かしたライバルに握手をしに行った。
「やるな! 麗日少女!」
「え!? あ、その!?」
ぶっちぎりの超人から握手を求められ、麗日は慌てた。
慌てたが、最終的には普通に握手に応じて照れていた。
ここに女同士の友情のようなナニカが生まれたような気がする。
一方、
(ダメだ……! 調整ができない……!)
緑谷はワンフォーオールを体を壊さない程度の出力で使おうとするも、まるでできずに焦っていた。
(皆一つは大記録を出してるのに……! もう後が無い!)
緑谷は覚悟を決めた。
我が身を傷つけてでも、ここで勝負をかけるしかないと。
そして、
「46メートル」
「なっ!?」
自爆覚悟で個性を使おうとしたのに、発動しなかった。
「個性を消した」
それをやったのは担任教師、相澤消太こと、抹消ヒーロー『イレイザーヘッド』。
個性『抹消』
凝視している間、視た者の個性を抹消する。
その力を使って、緑谷のワンフォーオールを一時的に使用不能にしたのだ。
「見たとこ、個性を制御できないんだろ? また行動不能になって誰かに助けてもらうつもりだったか?」
「そ、そんなつもりじゃ……」
「どういうつもりでも、周りはそうせざるを得なくなるって話だ」
相澤は緑谷に厳しい言葉を投げかけた。
一人を助けてデクの坊になるだけの個性。
緑谷出久。お前の力じゃ……。
「ヒーローにはなれないよ」
視線を外して瞬きし、相澤は抹消を解除した。
ボール投げは2回。早く済ませろと言う。
(やばいんじゃないの? 緑谷少年)
絶対絶命。
玉砕覚悟で全力を出しても、萎縮して最下位に収まってもダメ。
どっちに転んでも見込み無し。
調整して体に合った出力が出せれば万事解決だが、ここまでそれをやろうとしてできなかったからこその今だ。
そんな中、緑谷が選んだ道は……。
「スマッシュ!!!」
指一本だけでワンフォーオールを発動し、指一本の犠牲で超人に相応しい記録を出した。
緑谷出久。
記録:705.3メートル。
「まだ、動けます……!」
「こいつ……!」
相澤の顔が変わる。
見込みなしと判断する冷たい目から、多少なり光るところを見つけたような表情に。
それを見て、魔美子はホッと息を吐いた。
そして、今のを見て顔色を変えた者がもう一人。
「!!? どーいうことだコラ!! わけを言えデクてめぇ!!」
「うわぁああああ!?」
顔色変えるどころか、掌を爆発させながら緑谷に突撃する不良が1名。
すぐに相澤によって捕縛された。
「ったく、何度も個性使わすなよ。俺はドライアイなんだ」
そんなことを言う相澤によって制圧されるも、心の荒ぶりまでは沈められず、凄い目で緑谷を睨みつける爆豪。
またひと波乱ありそうだなぁと、魔美子は興味を失った様子でアクビをしながらそう思った。
青春イベントに興味はあるが、他人のイベントにそこまでの興味は抱けない。
彼女の興味はいつだって、父か自分のことだけだ。
その後、普通に全種目を終了。
魔美子は相変わらず規格外の記録を連発し、一方で緑谷は指の痛みで酷い記録を出してしまった。
全部見ていた魔美子の計算では、トータル最下位は緑谷だ。
「ちなみに、除籍は嘘な」
「「「…………は!?」」」
「君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」
「「「はぁーーーーー!?」」」
ということで、緑谷除籍の危機は去った。
相澤が途中で態度を変えたのを見て大丈夫そうだとは思っていたが、ちゃんと言質も取れてホッとする魔美子。
これで父の引退遠退きの危機も去った。
そんな感じで、入学初日のしょっぱなから訪れたドデカい試練、個性把握テストは幕を閉じた。