ナンバー1ヒーローの娘になった、悪の組織の改人系ヒロインのヒーローアカデミア 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「わーたーしーがー!! 普通にドアから来た!!」
入学2日目。
午前は普通の授業をして、午後のヒーロー基礎学の時間。
新米教師の父が、とうとう教壇に立つ日がやってきた。
「オールマイトだ! すげぇや! 本当に先生やってるんだな!」
「シルバーエイジのコスチュームだ! 画風が違いすぎて鳥肌が!」
生徒達は大興奮だ。
皆の憧れ、国民的英雄であるナンバー1ヒーローが目の前にいて、しかも教えを授けてくれるのだから、そうなるのも無理はないだろう。
娘である魔美子は、そんな父の雄姿を見てドヤ顔を……することなく、父が無事に授業をやり切れるのかどうか、ハラハラしながら見守っていた。
娘というより、保護者の思考回路だ。
なお、魔美子がオールマイトの娘だというのは秘密である。
自分の過去や本性が、平和の象徴への信頼に影を落としてしまうだろうことはよくわかっているから。
「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地を作るため、様々な訓練を行う課目だ!」
そんな魔美子の前で、心なしか力の入ったオールマイトが説明を続ける。
娘に良いところを見せたいのかもしれない。
「早速だが、今日はこれ! 戦闘訓練!」
「戦闘……訓練……!」
「そして、そいつに伴って、こちら! 入学前に送ってもらった個性届と要望に沿ってあつらえた、
「「「おおお!」」」
コスチュームと戦闘訓練。
入学2日目にして、早速ヒーローっぽいこと筆頭が出てきた。
ヒーローに憧れて入学してきた生徒達のテンションはうなぎ登りである。
「格好から入るってのも大切なことだぜ、少年少女! 自覚するのだ! 今日から自分はヒーローなんだと!」
各々がコスチュームに着替え、グラウンドに出る。
格好だけならプロと大して変わらない、機能とカッコよさを両立した服装。
「さあ、始めようか! 有精卵ども! 戦闘訓練のお時間だ!」
そうして、オールマイトの初授業は始まった。
「あ、デクくんカッコイイね! 地に足ついた感じ!」
「麗日さ……うぉぉ……!?」
少し遅れて来た緑谷が、体のラインがハッキリ出るスーツに身を包んだ麗日を見て目を見開いた。
健全な男子の反応だ。
「デクくん? いつの間にあだ名で呼ばれるようになったんだい、緑谷少年?」
「八木さ……おぉぉ……!?」
今度は魔美子のコスチュームが目に入ってしまった緑谷。
胸の周辺のみを隠す黒いチューブトップ。
腰回りにはショートパンツ。
あとは頑丈そうな靴と、いつも着けているチョーカーくらいしか身に着けていない。
肌の露出がクラスで1、2を争うほど多い。
背中から翼だの尻尾だのが生えてくるから後ろ側は露出している必要があり、かといって前だけ完全に隠すというのもバランスが悪いし、そもそも肉体がバカみたいに頑丈なので、修復とかが面倒なコスチュームは最低限の方が良いという、魔美子なりに考えた格好なのだが、健全な男の子の目には悪い。
ついでに、お父さんにとっては気が気ではない。
要望は割と適当そうにサラサラ書いていたからシンプルなデザインなのかなと思いきや、まさかの露出度マックスだ。
(変な虫がついたらどうするの!?)
それがお父さんの胸中を締める感情の全てである。
「ヒーロー科最高!」
「峰田少年……! それはヒーローとして褒められた態度ではないなぁ……!」
「ひっ!?」
個性把握テストの時も魔美子にエロい視線を送っていた小柄な男子に、最強の男の殺気が突き刺さった。
下手したら宿敵を前にした時以上の殺気に、峰田の膝はガタガタと震え始め、おしっこを漏らしそうになる。
が、そこでオールマイトはハッとした。
ちょっとおいたが過ぎるとはいえ、それでも今のところは無罪な少年を再起不能にするわけにはいかない。
「んっんん! 良いじゃないか、皆! コスチューム、カッコイイぜ!」
オールマイトは話を戻した。
それと、後で絶対に娘を説得してコスチュームを変えさせようと誓った。
「先生! ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!」
「いいや! もう二歩先に踏み込む! 屋内での対人戦闘訓練さ!」
入試でも質問をぶつけていた眼鏡の男子(今はフルフェイスのアーマーで眼鏡が見えない)がぶつけてきた質問に、オールマイトはハキハキと答える。
ヴィラン退治は主に屋外で見られるが、統計で言えば屋内の方が凶悪ヴィラン発生率は高い。
真に賢しいヴィランは
それと戦う術を身につけるための、屋内戦の授業。
「基礎訓練も無しにですか?」
「その基礎を知るための実践さ! ただし、今度はぶっ壊せばオッケーなロボじゃないのがミソだ!」
そこでオールマイトはチラッと魔美子の方を見た。
娘はわかってるとばかりに軽く頷く。
もう既に、かなりめんどくさそうな顔をしていたが。
窮屈な授業になると見て、やる気を失ったらしい。
もうちょっと頑張ってくれ。
「いいかい? 状況設定はヴィランがアジトに『核兵器』を隠している。ヒーローはそれを処理しようとしている。
ヒーローは制限時間内にヴィランを捕まえるか、核兵器を回収すること。
ヴィランは制限時間まで核兵器を守るか、ヒーローを捕まえること」
長かったのでカンニングペーパーを見ながらアメリカンな設定を説明するオールマイト。
カンペに頼る父の様子を見て娘が緊張感を取り戻し、ハラハラとした様子に戻った。
こんなことで気合いを入れ直されても……。
「形式は2対2のチーム戦! コンビ及び対戦相手はクジだ!」
「適当なのですか!? ……って、2対2? A組は21人なので、一人余るのでは!?」
「大丈夫! そこは考えてある!」
フルフェイス眼鏡の質問ラッシュ。
だが、これは大分重要なところだったので、カンペに頼らずとも答えられる。
「1チームは魔美ちゃ……げふん! 八木少女の単独チームだ! そして、対戦相手は2チーム! 八木少女には合計4人を一度に相手してもらう!」
「「「なっ!?」」」
とんでもない解決方法を提示されて、クラス一同に激震が走った。
特に魔美子に対して最も敵愾心というか、劣等感を持っている爆豪の表情がもうやばい。
「オ、オールマイト先生! それはさすがに特別扱いが過ぎるのでは!?」
「私もそう思う! しかし、彼女はそれくらいに特別なのだ!」
今度は高校生とは思えない発育の、しかも魔美子と並んで露出度の高い女子からの質問。
これにもオールマイトはちゃんと答えた。
「ヘドロヴィランの一件による個性無断使用と傷害罪で立ち消えになってしまったが、彼女は元々『特待生』として入学する予定だった。
昨日の相澤くんの個性把握テストを見てもわかるように、彼女の単純な基礎スペックは学生レベルどころか、プロのトップレベルに匹敵する。
もちろん、現状は基礎スペック頼りで、足りないところが山のようにあるから君達と共に学ぶわけだが、こういう生徒同士のバトルにおいては特別扱いしなければならないのさ!
何故なら、普通に授業に組み込んだらパワーバランスが崩壊してしまうからね!」
「「「ッ!?」」」
凄まじい回答にクラス一同は絶句し、同時に昨日のイカれた記録の数々を思い出して納得した。
確かに、普通に戦ってあれを打倒するヴィジョンは全く浮かばない。
しかし、理屈はわかっても感情は別。
特に自尊心の塊である爆豪あたりは爆発しかけていた。
「思うところも言いたいこともあるだろうが、そこは先生側も『自由』な校風を売り文句とする雄英だからで納得してほしい!」
ちなみに、この台詞は校長からの受け売りである。
新米教師に、この状況で生徒達を黙らせる言い方を考えろというのは、さすがに無理だった。
「で、では、元気良く行ってみよう! レッツくじ引きタイム!」
生徒の何人かが放つ不穏な様子にビクビクしつつ、無理矢理テンションを上げてくじ引きを始めるオールマイト。
結果、チーム分けはこんな感じになった。
Aコンビ 緑谷、麗日
Bコンビ 轟、障子
Cコンビ 八百万、峰田
Dコンビ 爆豪、飯田
Eコンビ 芦戸、青山
Fコンビ 口田、佐藤
Gコンビ 耳郎、上鳴
Hコンビ 常闇、蛙吹
Iコンビ 葉隠、尾白
Jコンビ 切島、瀬呂
Kコンビ(?) 八木
「続いて最初の対戦相手はこいつらだ!
『Bコンビ』がヒーロー! 『Kコンビ』がヴィラン! って、いきなり魔美ちゃん来たな。
というわけで、ヒーローにもう1チーム! 『Dコンビ』だ!」
ヒーローと書かれた箱と、ヴィランと書かれた箱に手を突っ込み、そこからオールマイトがアルファベットの書かれたボールを取り出して対戦相手を決定した。
なお、サラッと魔美ちゃん呼びが飛び出したところで、魔美子は天を仰ぎたくなった。
無事に卒業するまで秘密を守れる気がしない。
「クソ女ぁ!!」
「特待生のお手並み拝見させてもらうぜ……!」
そして、対戦相手となった2チームにも大分問題がありそうだった。
爆豪のいるDコンビは言うまでもなく、Bコンビの紅白の髪の少年『
壊すのもダメ、大怪我させるのもダメ、衝動発散のサンドバッグにするのは絶対ご法度なクラスメイトにそんな目を向けられても困るだけだ。
「爆豪くん! 昨日から思っていたが、女性をそんな呼び方してはダメだ!」
「轟も落ち着け。訓練で出す殺気じゃないぞ」
「……悪ぃ。気をつける」
救いはお互いのパートナーはまともっぽいところか。
爆豪のパートナー、フルフェイス眼鏡の『
轟のパートナー、マスクで口元を隠した異形型個性の巨体男子『
爆豪は聞く耳を持っていないが、轟の方はまだ忠言を聞き入れる余地があったようで、対戦前に少しは頭を冷やした様子だった。
「ヴィランチームは先に入ってセッティングを! 5分後にヒーローチームが潜入でスタートする! 他の皆はモニターで観察するぞ!
ぶっちゃけ、不穏な空気でおじさん怖いけど、無理にでもテンション上げてけ!」
オールマイトが頑張って場の空気を明るくしようとする中、戦闘訓練はスタートした。