「…ナザリック地下大墳墓が、ございません。」
「…ハァ!?」
本気で、訳が分からなかった。セバスは今なんと言った?
「モモンガ様、モモンガ様!大丈夫でございますか?」
「…すまないなセバス。あまりのことに少々取り乱してしまった。それで、どういうことだ?なぜそう判断した?お前達が宝物殿の外で見たものを述べよ。」
「…かしこまりました。私たちはモモンガ様によって宝物殿の外、即ちナザリック地下大墳墓に転送していただいたはずでした。しかし、宝物殿の外に出た瞬間、我々は即座に異変に気が付きました。宝物殿の外が、辺り一面草原になっていたのでございます。一瞬第六階層に転移したのかと考えましたが、アウラ様によると、アウラ様の配下の魔獣達の気配がなく、そもそも植生が第六階層とは異なるとのこと。現状私たちが得た情報を鑑みて考えるに、ナザリック地下大墳墓は何らかの理由で宝物殿以外は消失したのではないかと愚考したのでございます。信じがたい話であるとは思いますが…」
「…いや、私は見たものを述べろと命じ、お前は答えた。先ほどから、お前達の我々への忠誠は(過剰なほど)よく伝わっている。お前が嘘をつくと私は考えていないよ。しかし、そうなると指示を変更する必要がある。一度お前達からの情報をこちらで共有するので、お前達は指示があるまでその場で待機せよ。指示はアウラを通して通達するので、アウラはいつでもこちらの通信に応じられるように準備するように伝えよ。ただし、知的生命体と接触した際は交渉し情報を引き出せ。戦闘になってしまった際はアウラはこちらに通信するように伝えよ。」
「かしこまりました。それでは、失礼いたします。」
一度≪伝言≫を終了し、この場にいる面々の方に向き直る。≪伝言≫は、伝える内容を声に出す必要がある通信魔法であるため、少なくとも自分が取り乱し、指示を待機に変更するほどの事態が起こっていることは、皆にも伝わっているらしい。プレイアデスの面々は不安そうに顔を見合わせている。ここにいる面々を代表して、ぶくぶく茶釜がモモンガに問いかけた。
「何があったの、モモンガさん?ずいぶん取り乱してたみたいだけど。」
「それが、…ナザリック地下大墳墓が、消失したみたいなんです。」
告げた瞬間、騒めきが広がった。プレイアデスの面々は先程より慌て、恐怖しているように見えるし、マーレも同様に取り乱している。パンドラズ・アクターは動じていないように見えるが、纏う雰囲気が幾分か不穏になっているようだ。これは自分は動揺を表に出してはいけないと、ぶくぶく茶釜は平静を装って質問を続ける。
「…それはまた、信じがたい事態ね。あの二人が嘘をつくとは思えないけど、根拠についてはなんて?」
「それが、第九階層を転移先に指定したはずなんですけど、何故か辺り一面草原の空間に出たそうです。第六階層とも考えたそうですが、アウラによるとアウラのテイムしたモンスターの気配がなく、植生も第六階層とは異なるようです。それらの情報を統合して、ナザリック地下大墳墓は宝物殿を残して消失したのでは、と判断したそうです。」
「宝物殿を出るとそこは草原であった、か。植生の話はよくわからないけど、アウラのモンスターの気配がしないのは第六階層じゃない強い根拠になるわね。となると、モモンガさんの転移ミスでもない可能性が高く、ナザリック地下大墳墓が消失し、別の階層への転移のコマンドがただ外に出るだけに置き換わった可能性が高い、と。じゃあ今私たちがいる
「恐れながらモモンガ様、そのことについて、一つお願いがあるのですが、よろしいでしょうか?」
事態を考察していると、パンドラズ・アクターが話に入ってきた。ナザリックの頭脳陣に引けを取らない知性を持つ設定のパンドラズ・アクターには、この事態に対する何らかの仮説があるのかもしれない。話を聞こうとすると、
「パンドラズ・アクター様、至高の御方々の会話を遮られたばかりか、モモンガ様にお願いなどと!恐れながら、不敬が過ぎるのではございませんか?」
黒髪をシニョンに纏めた眼鏡のプレイアデスに遮られてしまった。モモンガとしては、パンドラズ・アクターの仮説を聞きたいのだが、止めようにも黒髪のプレイアデスの名前がわからない。困っていると、
「貴女は確かユリ、ユリ・アルファよね?やまちゃんが創った子の。パンドラズ・アクターについて、私たちは怒ってないわ。寧ろ彼の話を聞きたいの。」
ぶくぶく茶釜が助け舟を出してくれたので、有難くそれに乗ることにする。
「そういうことだ、ユリ。私たちのために発言してくれたことはうれしいが、今は少しでも多くの情報が必要なのだ、分かってくれるな。」
「滅相もございません!出過ぎた真似を致しました。罰は後で如何様にも。」
彼女は縮こまってしまった。他のプレイアデスの面々は彼女に内心では同意しつつも、会話を遮ったことを咎めるような視線を送っている。ユリを悪者にするわけにはいかないと、モモンガは口を開いた。
「ユリは私たちの威厳を慮って声を上げてくれたのだ。それを咎めることは、私にはできないしするつもりもない。よってこの件はこれ以上不問とする。よいな?」
予想通り、こう言ってしまえばプレイアデス達は黙るしかないらしい。肝心のユリはというと、顔を赤くして、ますます縮こまっている。これは後で、何かしらのメンタルケアが必要だろう。しかし、今は本題に戻らねばと、モモンガはパンドラズ・アクターに向き直る。
「それで、パンドラズ・アクター。お前の願いとは何だ?」
「はっ。恐れながら、この部屋全体に
「部屋?この部屋にか?何故だ?」
不可能なことではないだろう。家具の形をしたアイテムはユグドラシルに確かに存在したし、何なら拠点になるようなアイテムだってあった。しかしなぜ、この部屋になんだろうと考えていると、パンドラズ・アクターが理由を耳打ちで答える。
「実は先ほどから、この場所にいるという行為そのものに昂ぶ…失礼、不思議な高揚感を感じているのです。なので、もしやと思いまして…」
「よし分かった。≪上位道具鑑定≫を使ってやる。だからそこまでにしてくれ、パンドラズ・アクター?」
思わず大声になってしまった。そういえばパンドラズ・アクターには、マジックアイテムが大好き(要約)という設定を付け加えていたのを忘れていた。ただ宝物殿に追いやるのではあまりに不憫と考えて与えた設定だったが、まさかこうなるとは…。役に立ったとはいえ、非常に微妙な気分である。というかやめてほしい。ここには異性がいるだろうが。茶釜さんとか、プレイアデスとか。また総スカンは嫌だ。気まずい。
「かしこまりました。それでは、よろしくお願いします!」
モモンガはため息をつきながら、≪上位道具鑑定≫を発動する。≪伝言≫の件でわかってはいたが、この状況でも魔法は使えるらしい。そしてコンソールが開かなくなった時点で予想はしていたが、魔法を使う際もコンソールを介さず、詠唱すれば発動するらしい。そして鑑定の結果、とんでもない事実が明らかになった。
「…ハァ!?
「世界級!?ちょっとそれどういうこと!?」
「≪上位道具鑑定≫をこの部屋に使ってみたら、宝物殿全体が世界級アイテムに変わってるみたいなんです。名前は『墳墓の栄光/レガシー・オブ・ナザリック』だそうです。能力はスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンまたは『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』の持ち主が中を出入りできること、中に入れる者全員でこのアイテムの中身を共有できること、そしてこのアイテムの中がアイテムボックスになっていて無限にアイテムを収納できること、だそうです。」
「…それはまた、随分と強力なアイテムね。流石は世界級。ということは、ここは世界級アイテムの中ってことなのね。ちなみに持ち主ってどうなってるの?ギルドマスターだったわけだし、やっぱりモモンガさん?」
「いえ、持ち主かどうかはリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの有無で判別されるようです。リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを持つ者、つまり中に入れるもの全員が所有者扱いになるようです。」
ここまで驚きの連続だった。午前0時を回っても動いているユグドラシル、開かないコンソール、動き出すNPC、消失したナザリック、そして世界級アイテムに変わっていた宝物殿。ここまでの出来事を振り返っていた茶釜は、ふと大問題に気が付いた。
「…ちょっと待って?アウラ達はリング持ってないわよね?」
「ええ、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使うと、リングなしで中にいる者を外に出せるらしいです。」
「それ、外から中に入れることは?」
「できないみたいですね。自力で入るにはリングが必要…あ。」
「あ、じゃないわよ!それじゃあアウラ達、中に入れないじゃない!」
「本当だ!ということは…」
「合流するには、ここを出るしかないわね。行くわよ、モモンガさん!マーレ、連絡!そっちに出て情報を共有するから、そこを動かないでって。」
「待ってください、茶釜さん!リング、リング持って!マーレ、プレイアデス、それにパンドラズ・アクター、聞いての通り、この場を離れて、アウラ達に合流を試みることになった。全員、供をせよ!」
「「「「「「「「「かしこまりました、モモンガ様!」」」」」」」」」
モモンガからリングを受け取ったぶくぶく茶釜は、我先にと駆け出して行ってしまった。装備もないぶくぶく茶釜を一人にするわけにはいかないモモンガは、ぶくぶく茶釜のアヴァターラから、彼女の最強装備を取り外すと、慌てて残った面々に指示をする。全員分の返事を聞いたモモンガは、リングと装備を持って、慌てて後を追いかけた。
宝物殿を出ると、確かにそこは草原であった。セバスとアウラはモモンガが出たすぐそばに、跪いて控えている。やはり、彼らNPCの自分たちに対する忠誠心は、自分の予想をはるかに超えているようだ。そんなことを思っていると、ぶくぶく茶釜が話しかけてきた。
「見て、モモンガさん!草原もすごいけど、上、上!」
言われて見上げると、美しい夜空が広がっていた。モモンガたちが生きる2138年の空は、排気ガスに覆われて、夜空などとうに失われている。自分たちがゲームで見上げてきた空も、100年以上も前のアーカイブをもとに再現されたものだ。しかし、モモンガは直感した。
「綺麗ね、
と語りかけてきた。
「ええ、とても綺麗ですね。まるで本物みたいだ。」
「あ、やっぱりモモンガさんもそう思う?やっぱりそうよね。こんな綺麗な星空、どんなゲームでだって再現できないと思うわ。だって本物の星空なんて、もうとっくに誰も見たことがないものだもんね。ということはやっぱり、私たちは…」
「どこなのかわからないけど、別の世界に来てしまったんでしょうね。しかし、綺麗だなあ。」
「心が洗われる感じがするわよねえ。さっきまでいろんなことに慌ててたのが、馬鹿みたい。」
「きっとこれからもいろんなことに慌てると思いますよ。ああ、それにしても、こんなに綺麗な星空があるんなら、ブループラネットさんに見せてあげたいなあ。」
「絶対に喜ぶわよねえ。」
言葉が、どんどん口をついて出てくる。流星群でもなければ、日食でもなく、満月でもない、きっとこの世界ではなんてことないだろう夜の空。しかし、アーコロジーのモノクロの空と、ゲームの中のプログラムの空しか知らない二人には、それまで見たどんな空よりもずっと美しくて。それだけで、天体ショーと呼んでも差し支えないものだった。このままロマンスが始まってもいい雰囲気だったが、そんな二人に、話しかける声が一つ。
「モモンガ様、ぶくぶく茶釜様。そろそろ、我々にご指示を頂いてもよろしいでしょうか。」
パンドラズ・アクターであった。その声を聞いて、二人は後ろを振り返る。すると、二人の方を向いて、パンドラズ・アクター、アウラとマーレ、セバス・チャン、そしてプレイアデス達がそろって跪いていた。
「改めまして、第六階層守護者、アウラ・ベラ・フィオーラ、御方々の前に。」
「同じく第六階層守護者、マーレ・ベロ・フィオーレ、御方々の前に。」
「第九階層統括兼執事長、セバス・チャン、御方々の前に。」
「宝物殿領域守護者、パンドラズ・アクター、御方々の前に。」
「第八階層桜花聖域領域守護者兼プレイアデスリーダー、オーレオール・オメガ、御方々の前に。」
「戦闘メイドプレイアデス副リーダー、ユリ・アルファ、御方々の前に。」
「同じくプレイアデス、ルプスレギナ・ベータ、御方々の前に。」
「同じくプレイアデス、ナーベラル・ガンマ、御方々の前に。」
「同じくプレイアデス、ソリュシャン・イプシロン、御方々の前に。」
「…同じくプレイアデス、シズ・デルタ、御方々の前に。」
「同じくプレイアデス、エントマ・ヴァシリッサ・ゼータぁ、御方々の前にぃ。」
「我らアインズ・ウール・ゴウンの僕一同、ここに集いましてございます。たとえナザリック地下大墳墓が消失しようとも、至高の御方々がご健在なれば、アインズ・ウール・ゴウンは不滅。僕一同、より一層の忠誠を、御方々にお誓い申し上げます。どうか、ご指示をお願い致します。」
最後に、パンドラズ・アクターがまとめる。自己紹介は役職順に行ったらしいが、NPC達は、自分たちの指揮を統括するものをパンドラズ・アクターと定めたようだ。この一連の忠誠の儀を聞いていたモモンガとぶくぶく茶釜というと…
((ええええええええええええ!?))
内心、非常に困惑していた。二人とも、ゲームにおいてロールプレイをすることはあったが、リアルでは部下がいたことなどない。それがいきなり、忠誠心が振り切れた部下を何人も持つことになったとあれば、混乱するのも納得というものである。モモンガとぶくぶく茶釜は、ひとまず後ろを向いて、これからどうするのかを話し合う。
「えー、どうしましょうか、茶釜さん。とりあえず、当初の予定通り、何人かに周囲を探ってもらうのは確定として、後はいくつかゲームシステムとの違いに関する実験をしたいのですが…」
「周囲を探るのは賛成なんだけど。モモンガさん、実験って何する気?まさか女の子の胸を実験にかこつけて揉もうとなんてしないでしょうね!?」
「するわけないでしょうが!ほら、ゲームとこの世界の仕様が、どこまで異なるのかの検証をしたいんですよ!例えば、さっき魔法が使えるのは確かめましたけど、例えばこの世界が完全にゲームと一緒じゃないなら、魔術詠唱者の俺が剣を持って戦ったりできるかもしれないじゃないですか。」
「ああ、なんだ、そういうことね。それなら、さっきまでの指示通り、セバスとアウラに周りを探ってもらいながら、その間にゲームシステムの実験をしたらいいんじゃない?せっかくいろんな能力のNPCがそろっているんだし。」
「ええ、それと、この場にいる全員に、この機会に指輪を配ってしまいましょうか。宝物殿のアイテムを使えた方が便利でしょうし。」
「それはいいと思うけど、誰かに指輪を奪われる可能性だってあるのよ?そのあたりの指示は徹底した方がいいと思うわ。」
「それはそうですね。なら、危機を感じたなら宝物殿内部に即時撤退するように指示を出しましょうか。」
「そうするしかないわね。もしもそんな暇なく即死させられたなら、そんな相手に私たちが勝てる可能性の方が低いかもだしねえ。じゃあ、皆に指輪を渡して、残りは宝物庫にしまっちゃいましょう!」
大まかに方針を決め、モモンガたちはNPCに向き直る。
「それではお前たち、指示を伝える。まずはセバスとアウラ、お前達には最初の指示を続行してもらう。この草原の周辺を調査するのだ。ただし、距離は周辺20キロに拡大する。知的生命体と接触した際の方針も、最初の指示の内容通り交渉してこの場に案内するものとする。戦闘時は連絡をするように。他の者はこの場で待機だ。少し実験したいことがあるのでな。」
「了解しました、モモンガ様!任せてくださいね!」
「かしこまりました。それでは、行ってまいります。」
アウラとセバスは、指示がよほどうれしかったのか、すぐに出発しようとする。しかし、渡したいものがあるので、少し待ってもらわなければならない。
「その前に、少し待ってほしい。お前達全員に、渡さなければならないものがある。全員が一つずつ持っていなければならないものだ。まずは、パンドラズ・アクター!」
「はっ!」
パンドラズ・アクターが前に出る。心なしか抑えるように頼んだはずのリアクションが表に出ている気がするが、気にせずにモモンガは渡すべきものを渡すことにした。
「お前たちに渡したいものはこれだ。これがないと宝物殿のアイテムを使えないうえに、いざというときに宝物殿に隠れることができない。宝物殿の新たな仕様についても説明するから、皆傾聴するように!」
「モモンガ様、ありがとうございます!このパンドラズ・アクター、一層の忠誠を尽くさせていただきます!」
今度はしっかりと抑えてくれたらしい。正直指輪を渡した後の方がより興奮するかと思っていたが、そうでもなかったようだ。そして宝物殿改め、世界級アイテム『墳墓の栄光』の説明を終える。その後に順番に名前を呼び、リングを渡していく。全員に行き渡ったのを確認したところで、モモンガは違和感に気が付いた。セバスは右手の中指に着けている。パンドラズ・アクターは指が三本なので分かりにくいが、左手の恐らく人差し指か中指にあたる指に着けている。しかしそれ以外の面々、アウラとプレイアデス、そしてマーレは、何故か左手の薬指にリングをつけているのだ。モモンガは
「全員にリングが行き渡ったな?それでは、指示を実行に移せ!お前たちならば、必ずや私を満足させる結果を出してくれると信じているぞ!」
上に立つ者としての立ち振る舞いも、そろそろ堂に入ってきたのではないだろうか。我ながら、うまいこと皆を鼓舞できた気がする。そんなことを考えていると、モモンガの下に、待機していた面々が集まってくる。
「モモンガ様、それで、実験とは一体何をなさるのでしょうか?」
「何、基本的な確認だ。先ほど私と茶釜さんが話していたように、我々は元いたユグドラシルの世界ではなく、どこか別の世界に迷い込んでしまったと思われる。宝物殿を出る前にスクロールでも詠唱でも、魔法を使えることを確認した。そして私自身、この世界にきてから自分のスキルが発動したのを確認している。そのため、少なくともパッシブスキルは発動するであろうと仮説を立てている。」
「なるほど、ちなみにそのスキルとは?」
「精神の沈静化だ。ナザリック消失の報告を受けた際に取り乱したが、このスキルのおかげで早めに立ち直れた。」
「かしこまりました。それでは、今回行う実験について、詳細にご説明をお願いします!」
「うむ。ユグドラシルにおいて、我々は皆職業レベルと種族レベルという、二種類のレベルを持ち合わせていたことはわかるな?」
「はっ!我々僕も、それぞれの創造主様にそのようにレベルを与えられたことを覚えております!」
「今回検証したいのは、そのうち職業レベルの部分だ。ユグドラシルでは、習得した職業によって、装備できる武器や防具に差が出るだろう?その差が、この世界でも存在するのかどうかを確かめたいのだ。」
「なるほど、かしこまりました。それでは、戦士職用の装備を見繕って、それを御身がお使いになれるかどうか検証する、ということですね?」
「そういうことだ。ただ、私一人だけではいささかサンプルとなる事例が少ない。この中に、剣が装備できる職業を取得していない者はいるか?」
そう問いかけると、この場にいる面々のうち二人の手が上がる。
「私ユリ・アルファは、職業レベルは純粋な肉弾戦に特化しております。」
「僕も、魔術詠唱者寄りの能力なので、剣は装備できないかと思います。」
「そうね、マーレは剣を装備できる職業は取得していないはずよ。」
マーレの情報に確認が取れたところで、さっそく検証を開始する。パンドラズ・アクターが、早速リングの力を使い、適当な剣を見繕って出してくれた。モモンガは剣を握る手に力を籠め、思い切り振りかぶって下ろそうとする。しかし、何度やっても、剣を振りかぶったところで、剣を取り落としてしまう。それは、他の二人も同様であった。モモンガは純粋な魔術詠唱者だが、魔術詠唱者とて、レベル100ともなればレベル30相当の戦士並みの筋力ステータスはある。マーレは筋力が自分よりも高いし、ユリは言わずもがなである。それでも剣を使えないということは、単純に剣を扱える職業を取得していないことが原因だろう。これは知る必要があったことだが、精神的には少しショックだった。モモンガの心の中には、魔法を扱える騎士にだってなれちゃったりするのでは?という願望があった。パンドラズ・アクターを見て恥ずかしいとは感じるが、もう右手が疼かなくなったとは言っていない。いい年しているという自覚はある。しかし、モモンガの心の中には、まだ小学生がいるのである。
「とりあえず、これで職業レベルがこの世界においても影響力を持つことがほぼ確定したわね。それで、どうする?これ以外にも検証したいこと、ある?」
「あるにはありますけど、やるのは気が引けるものが多いんですよね。フレンドリーファイアは無効なのか、とか、超位魔法はどうなってるのか、とか、NPCは自由に動けるみたいだし、ナザリックも現状無いと思われるけど、それならレベルが100に満たないNPC達をレベリングすることができるか、とか。」
「確かにさっきの実験と比べるとコストもかさむしリスクも大きいものが多いわね。じゃあ実験はここまでにして、後はみんなと親睦を深める会でもいいんじゃない?」
「確かにそれはいいですけど、マーレを愛でたいだけですよね?」
「そんなことないわよ。マーレを愛でたいのはもちろん本当だけどね、私たちは多分、しばらくこの世界でみんなと暮らしていくことになるわ。それなら、一緒に暮らすみんなのことをもっと知りたいし、みんなに私たちのことをもっと知ってもらうべきよ。もしかしたら、それはある意味であの子たちの望みに反することかもしれないけどね。」
「?それは、どういう意味です?」
「あの子たちにとって、私たちは偉大な支配者なのよ。きっと私たちの想像以上にね。でも、私たちを知ってもらうということは、あの子たちに現実を見せるということ。あの子たちの理想の私たちとは、きっといろんなところが違っていく、離れていくと思うわ。もちろん、あの子たちの理想の支配者であることだって、短い間ならできないことじゃないのかもしれない。でもそれって、きっとキツイと思うのよ。私たちも、何より、あの子たちにとってもね。私は、長い目で見ると、それはあの子たちにも私たちにも良くないことだと思うわ。だから、みんなと親睦を深めて、
思った以上に、真剣な話であった。ぶくぶく茶釜の言ったことを、モモンガは真剣に考える。確かに、彼女の言う通り、NPC達がモモンガやぶくぶく茶釜に向ける忠誠心は、過剰なほどのものであった。彼女たちは、モモンガとぶくぶく茶釜に対して、至上主義を掲げていると言ってもいいほどの忠誠を捧げている。モモンガは、それを心地いいと、お気楽に考えていたが、確かにぶくぶく茶釜の言う通り、彼女たちの忠誠は彼女たちの理想の支配者という自分たちに対する認識の上に成り立っているのかもしれない。そしてそれは、非常に恐ろしいことではないだろうか。NPC達の理想の支配者であろうとすることも、確かにできるだろう。しかし、それをしている自分がどのような状態なのか、モモンガは想像してみる。果たしてそこに、自由はあるのだろうか。果たしてそこに、楽しさはあるのだろうか。ないとは言い切れないだろう。しかし、モモンガはそのような想像上の自分に対し、何か違うと感じた。これは、自分がそうありたい自分ではない。自分がそうありたいNPC達、即ち仲間たちとの関係性ではない気がした。そのため、モモンガは茶釜に対して、
「そうですね。俺たちは俺たちとして、NPC達と向き合った方がいいのかもしれません。だってそっちの方が、仲間って感じがしますもんね。」
と告げる。するとぶくぶく茶釜から、嬉しそうな声が返ってきた。
「モモンガさんもやっぱりそっちの方がいいよね!あ、主従がお望みだったら、また私がアイテムにボイス入れてあげるよ?モモンガさん専用、お世話大好きロリメイドボイス腕時計!どう、欲しい?」
「気持ちはとてもありがたいですけど、遠慮します。やっぱり俺は、従者より仲間が欲しいと思うので。」
「そっか~。それじゃあ、親睦会を開きましょうか!あ、ボイスは欲しくなったらいつでもあげるから。モモンガお兄ちゃん専用のディレクションで、モモンガお兄ちゃんが一番好きなシチュのやつとか!」
「本格的に結構です!まったくもう!茶釜さん、ほら、さっさと始めましょう!セバス達も早く戻って来てくれるといいんですけどね。」
「あ~、ちょっと待ってよモモンガさ~ん!からかいすぎたのは謝るから!みんな―!集合!ここからは親睦会よ!みんなのいろんな話、聞かせて頂戴な!」
茶釜の声に反応して、NPC達が集まってくる。これからしばらく共に歩む仲間たちとの、楽しい親睦会の第一回。そうなるはずだったのだが、
「モモンガ様!緊急事態です。人間の集落を発見したのですが、何者かに襲撃されています!」
セバスからの連絡により、事態は急転する。モモンガとぶくぶく茶釜にとっての、この世界での第一の難問。選択の時は、すぐそこまで迫っていた。
この話から出てきたこのシリーズオリジナルのアイテムについて、簡単に説明を
『墳墓の栄光』/レガシー・オブ・ナザリック
ナザリック地下大墳墓の宝物殿が、転移に際して何故かユグドラシルにも存在しなかった世界級アイテムに姿を変えたもの。能力は人間も出入りできる無限アイテムボックス。更に、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンまたはスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの持ち主たち全員で中身を共有できる。絵的な演出としては、いつものユグドラシルのアイテムボックスに加えて、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンまたはスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを装備しているときに普段のアイテムボックスとは別に宝物殿に通じてるもう一つの出入り口が開いているイメージ。モモンガたちは基本的にスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを中に安置し、外に持ち出すのはリングだけにしている。所有判定については、リングを持ってればとりあえず所有者扱い。そのため、どこからでも宝物殿に入れるし、リングを持ってれば他の世界級アイテムの効果をレジストできるようになった。リングかスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを取られなければ安全だが、逆にとられれば好き勝手されるのを止められない、使用者の人数が多ければ多いほどリスクも高いアイテム。
ここからは余談ですが、パンドラズ・アクターの下りは銀魂を見てひらめきました。今回もご意見ご感想お待ちしております。