アインズ・ウール・ゴウンサーガ 骨釜劇団編   作:yu-2

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書きたいことを全部書いてると、物語がなかなか進みませんね。書き始めた時は、カルネ村までで三話かかるとは思っていませんでした。オーレオールが典型的なお嬢様口調だったり、カルマ値が善よりの性格なのはこの小説オリジナルの設定です。あと、今回ちょっと長いです。書きたいことがいっぱいあったもので。


第三話 初陣:カルネ村事変、そして

「…人間の集落を発見したのですが、何者かに襲撃されています!」

 

 モモンガは、急速に思考を切り替える。これは親睦会どころではない。セバスからの報告の中で、まず喜ばしい点は、人間の集落が見つかったという点だ。しかし、その集落は何者かの襲撃を受けているという。モモンガはもっと詳細に情報を集めるべく、セバスに命じる。

 

「そうか、人間の集落を発見したか。それはひとまず、よくやった。しかし、襲撃されていると言ったな?襲撃をしている者達の特徴は何かあるか?また、襲撃者や集落の住民の強さなどはわかるか?」

「はっ。襲撃者は全員同じような鎧と武器で武装しております。鎧の方には、何らかの組織または国家に所属していることを表していると考えられる装飾もございます。対して住民の方はほぼ丸腰です。狩りなどに使う武装はあるようですが最低限で、襲撃者を撃退するにはあまりに貧相でございます。そして強さに関してなのですが…」

 

 セバスが言い淀む。もしかすると、あまりに信じられないことなのかもしれない。

 

「どうした、セバス。何か信じがたいことでもあったのか?」

「…失礼いたしました。それでは、申し上げます。集落の住民の強さは、レベル1から2、強くて3といったところでしょうか。対して襲撃者はレベル3から6、最も強いと思われる者のレベルが10といったところでございましょうか。」

「………」

 今度はこっちが絶句する番だった。なるほど、これはセバスが言い淀むのも納得というものだ。率直に言って、弱い。これがこの世界の基本であるというのならば、今まで警戒しすぎていた、というのがこの世界の住民に対する現在の評価である。しかし、襲撃者はこの世界の何らかの組織または国家、おそらくは国家に所属していると考えられるという話だ。それならば、それらの組織または国家の情報も欲しい。この世界の国家の強さがわかれば、こちらがどのような対応を取ればいいのかもわかりやすくなる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そう考えたモモンガは、皆の意見を求めるべく口を開いた。

 

「セバス、≪伝言≫はそのまま終了するな。この状態で、私の近くにお前たち、そしてセバス達に意見を求めたい。さて私の側にいる者達よ、私のセバスに対する言葉は聞いていたな?聞いての通りセバスが人間たちの集落を発見したそうだ。しかしその集落は何者かに襲撃されているという。セバスによると、襲撃者たちは全員同じものと思われる鎧と武器で武装し、鎧には何らかの、おそらく国家に所属しているであろうと思われる者達だ。レベルは3から6、最も強いと思われる者で10であるらしい。一方、襲撃されている集落の住民たちはレベル1から2、もっとも強くて3であろうとのことだ。さて、お前達はこの状況で、どうしたいと思う?まずは私の側にいる者達から意見を聞こう。」

 

 モモンガの言葉に、全員が顔を強張らせる。ある者は正直に意見を述べようと考え、ある者はモモンガが求めている意見(答え)は何かを考える。皆が考えている中で、ぶくぶく茶釜は、ひとまず全員が意見を述べるまでは黙っていることを決めた。理由は簡単である。ぶくぶく茶釜が意見を出せば、おそらく、NPC達は全員、ぶくぶく茶釜の意見に賛成するだろう。それは彼女たちのこれまでの様子から容易に想像がついた。今回、モモンガは彼女たちに意見を求めた。であるならば、その意見を致命的に歪めかねない自分の発現は、一番最後である方がいい。そして、ぶくぶく茶釜にはもう一つ、確かめたいことがあった。今の今まで、この世界にいる自分たち以外の存在を、特に人間の存在を認識したことがなかったために考えていなかったこと。先ほどの報告を受けて、初めて自覚した問題。ぶくぶく茶釜は、モモンガも自分と同じ状態になっているだろうとほぼ確信していた。そして、モモンガがそれに気付いていないであろうことも。そうこう考えているうちに、NPC達の意見もまとまったらしい。まず口を開いたのは、ユリであった。

 

「私は、集落を助けるべきであると考えます。モモンガ様の知的生命体と接触した際の方針は、友好的接触であったと記憶しております。この襲撃は、その機会ではないでしょうか。」

 

 ユリは忌憚なく、自分の意見を述べていく。はきはきと話すその様子は、彼女の創造主やまいこにそっくりだ。そんなユリの後に続くように意見を述べたのは、意外な人物であった。

 

「…私も、ユリ姉さまと意見が似ている。…モモンガ様は友好的な接触を求めてる。…襲撃してるやつらにも、友好的に接触できる可能性はあるかもしれないけど、元々集落を襲撃しようとしてるような奴らだから、私たちを敵と認識するかもと思った…です。」

 

 意見を述べたのは、シズ・デルタであった。自動人形(オートマトン)である彼女は、発言がたどたどしい。しかし、しっかりと自分の意見を述べている。更にそこに続いたのは、オーレオールの意見だった。

 

「私もユリお姉様、シズお姉様と同じく、集落を助けるべきであると考えますわ。正直情報といたしましては、統率された軍隊を保有している襲撃者が持つ情報の方が価値があるとは思いますの。しかし、この集落を助けるという行為は、この先の情報収集において大きな意味を持つかもしれませんわ。この周辺には、きっともっと多くの人間の集落が、もしかすると都市があるかもしれませんわ。そしておそらく、国家も襲撃者のもの一つということはないと思いますの。この近辺にある都市ならば、集落と同じ国家に所属している可能性が高いと考えましたわ。であるならば、同じ国家に所属する集落を助けたという伝聞は、この周辺での情報収集に役立つかもしれませんわ。とはいえ、この意見はこの先もこの周辺を中心に活動していくことが前提ですので、活動圏を広げるうえでは、デメリットにもなってしまうかもしれないということは注意するべきですわね。」

 

 どうやら以上三人が、集落を助けるべきという意見であるようだ。もっとも、オーレオールはやや中立寄りのようだが。モモンガは三人が、特にオーレオールがしっかりと考えられた意見を出してくれたことに内心焦りを感じた。モモンガは三人が意見を出してくれたことを嬉しく思ったが、小さな違和感を感じる。倫理観というか()()()()()()()、この三人の意見が正しいというのは分かる。しかし先ほどから、何故かこの三人の意見に対する共感性が薄いように感じるのだ。そう考えていると今度は、マーレがおずおずと口を開く。

 

「あの、僕は別に集落を助ける必要はないと思います。情報収集は襲撃者からでもできますし、襲撃者は国家か、どんなに小さくても組織に所属している可能性が高いんですよね?そうなら、わざわざ強いかもしれない方をつつく必要はないんじゃないかなって」

「私も集落を助ける必要はないかと。というよりも、下等生物(ミジンコ)どもの面倒をわざわざ我々栄えあるナザリックが、ましてや至高の御方々が見てやる義理がどこにあるというのでしょうか。集落を襲っている下等生物(ヤブカ)どもの方も、情報を引き出してからとっとと始末してしまいましょう。」

 

 間髪入れずにナーベラルも意見を述べてきた。どうやらこの二人は、事態を静観した後、襲撃者にコンタクトを取る意見であるらしい。そして、ルプスレギナとソリュシャンとエントマも口を開いた。

 

「私も至高の御方々がわざわざ人間なんて助けてやることはないと思うっす!いっそ襲撃者の方を支援してやるのはどうっすか?」

「私もそれに賛成ですわ。モモンガ様。集落の人間を助けたとて、果たしてその人間たちが有用な情報を持っているかしら?私はむしろ襲撃者、いえ、その上にいる者達の方が、よほど有用な情報を持っている可能性が高いのではないかと思います。ここは静観し、襲撃者を利用する方が良いのではないでしょうか?」

「私もぉ、集落の人間を助ける必要はないと思いますぅ。もし助けるとしてもぉ、わざわざ至高の御方々が行動することはないかとぉ。」

 

 この三人の意見も、どうやら集落を見捨ててよいというもののようだ。実際に、その通りだとモモンガは思う。先ほどこの襲撃に利用価値を見出していたモモンガだが、利用価値を見出していたのは集落ではなく襲撃者の方だった。今まで集落の報告が来なかったということは、この集落はセバス達が最初に見つけた集落であると思われる。しかし、滅びかかっているとあっては、この集落に利用価値はほぼないだろう。そして肝心の襲撃者に関してだが、襲撃者というよりもその上にいる者達の利用価値が非常に高そうであるというのが、モモンガの出した結論であった。襲撃者の側の方がこの世界全体に関する情報の精度が高そうであると考えられるし、何よりも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。襲撃者のレベルは強くて10といっても、彼らは流石に末端であるだろう。中枢に行けば行くほど強力な戦力が現れるだろうが、現在その戦力が未知数である、ということが問題なのだ。現在ナザリックの戦力は、プレイヤー二名、階層守護者二名、階層守護者相当一名、領域守護者二名、戦闘メイド六名、魔獣三頭である。宝物殿があるおかげで、ある程度アイテムは潤沢であるが、レベル100の戦力はたった七名である。それでこの世界の上の上である戦力とぶつかった場合、ユグドラシル基準で考えるとレベル100の戦力の頭数を二人上回られたら、こちらの勝ち目は薄くなる。こちら側の戦力が相当に薄くなっている以上、わざわざ自分から虎の尾を踏みに行くことはないだろう。モモンガはそう考える。

 

「なるほど、お前達の意見はよくわかった。さて、この場において、残っているのはパンドラズ・アクターと茶釜さんだけだな。二人の意見を聞こうか。」

「私はみんなの意見を聞いてからでいいわ。パンドラズ・アクター、貴方の意見はどう?」

「恐れながら、私は茶釜様の前に具申したくございます。申し訳ありませんが、セバス様とアウラ様の意見を伺ってもよろしいでしょうか?」

「うむ、いいだろう。セバス、少し予定を変更し、今度はお前たちの意見を聞くことになった。お前とアウラの意見を聞こう。」

 

 モモンガの言葉を受け、セバスはアウラに向き直る。

 

 「アウラ様、モモンガ様から、我々の意見を聞きたいとのお言葉が。アウラ様の意見はいかがでしょうか。」

「えー。正直人間たちのことなんて、どうでもいいと思うけど、なーんか釈然としないのよねぇ。あたしたちは今、目の前で襲撃を見ているわけじゃない?なんかそれが寝覚めが悪い感覚があるというか、何というか。」

「なるほど。かしこまりました。モモンガ様、アウラ様はどうでもいいと思うが、釈然としないとのこと。私はすぐにでも集落を助けに行きたいと考えております。」

 

 二人の意見を聞いたモモンガは考え込む。アウラの意見は、おそらく集落寄りの中立ということだろう。セバスは完全に集落を助けたい側である。モモンガは、先ほどから違和感を感じている。どうにも、集落の人間を助ける気にならないのだ。集落の人間が殺されているということに対して、ああそうか、以上の感情が出てこないのだ。理由を考えていたモモンガは、ふと恐ろしい仮説にたどり着く。いつかやまいこさんが言っていた言葉を思い出したのだ。『健全な精神は、健全な肉体にこそ宿る。』この言葉は、本来は健康をしっかりと管理するようにという教えであるはずの言葉だが、今のモモンガには違う意味で響いていた。モモンガは、今まで自分がモモンガであるという認識で行動していて、自分の種族について深く考えてはいなかった。精神の沈静化が便利だな、程度の認識であった。しかし、これは認識を改めた方がいいかもしれない。この世界では、おそらくだが種族やカルマ値が、自身の精神性に影響を及ぼすのだろう。先ほど集落を助けたいと意見した面々は、おそらくカルマ値が善に偏っている面々なのだ。そして、おそらく中立寄りの意見の面々は中立寄りの意見になるのだろう。中立の面々の中で意見が分かれるのは、単純な性格の問題か、或いはアウラのケースでは、当事者かどうかも影響を与えるのかもしれない。モモンガは、自分の種族とカルマ値を考える。種族は不死者(アンデッド)であり、カルマ値は極悪である。なるほど、これでは人間への感情が薄くなるわけだ。モモンガは自分を人間であると認識していたが、その実、精神はすでに異形種の方へ引っ張られていたのだ。しかし、モモンガはその可能性に忌避感を感じなかった。ここまで考えていたモモンガは、話し合いの場であったことを思い出し、皆に向かって口を開いた。

 

「なるほど。セバス、アウラ、意見をありがとう。ここまでの意見をまとめると、集落を助けるべきと考えているのが、セバス、ユリ、シズ、オーレオール、そしてアウラの五名。ただし、オーレオールとアウラはやや中立寄りだな。そして集落は捨て置くべきがマーレ、ルプスレギナ、ナーベラル、ソリュシャン、エントマと。ここまでで救助と放置は半々か。さてパンドラズ・アクター、お前の意見を聞こうか。」

「かしこまりました、モモンガ様。ですがその前に、一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」

「?いいだろう。質問を聞こうか。一体なんだ?」

「現時点で、()()()()()()どうなさりたいと考えていますか?」

「私の意見か?そうだな、集落を助けたい者達には申し訳ないとは思うが、私は正直この集落は捨て置くのが正解であろうと思う。襲撃者が何らかの組織、或いは国家に所属しているというのなら、現状はどこにも波風を立てないのが正解だろうからな。」

「恐れながら、モモンガ様。私が求めているのはそのような意見ではありません。」

「?パンドラズ・アクター、言っている意味が分からないぞ?」

「私が聞きたいのは、()()()()()()()()()()()()()()()()、と申し上げているのです。」

 

 この言葉を聞いた瞬間、周囲に再び騒めきが広がった。プレイアデスもマーレも、パンドラズ・アクターに対して恐ろしいほどの殺意を向けている。唯一ぶくぶく茶釜だけは、状況を静観している。これは早くパンドラズ・アクターに真意を説明させなければ、パンドラズ・アクターはNPC達の全員を敵に回したままとなってしまうだろう。

 

「であれば、お前はどんな意見を望んでいるのだ?」

「私が聞きたいのは、ナザリックの支配者ではない、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 驚いた。モモンガはもちろん、ぶくぶく茶釜も盛大に驚いた。パンドラズ・アクターは、モモンガをじっと見つめている。その埴輪の様に虚ろな目を見た時、モモンガはふと、思い至った。もしやパンドラズ・アクターには、モモンガではなく、本当の自分が、鈴木悟が見えているのではないだろうか。モモンガは、鈴木悟として考えようと試みる。自分は、この集落をどうしたいのか。しかし、考えれば考えるほど、パンドラズ・アクターの質問に答えるのは困難であると感じてしまう。鈴木悟は、既にモモンガになっていて、モモンガは死の支配者(オーバーロード)になりかけている。パンドラズ・アクターがこれを求めているのかは分からないが、鈴木悟として答えるのはすでに困難になっていた。故に、モモンガは絞り出す。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 こう答えることしかできなかった。そして答えを出したモモンガは、自分の態度が事態をさらに悪化させたことに気が付いた。もはや他のNPC達は、許可がないからパンドラズ・アクターに攻撃をしていないだけの状態になってしまっている。これはまずいと思ったが、パンドラズ・アクターは我関せずといった風に口を開く。

 

「…そうですか。かしこまりました。それでは、私の意見を申し上げます。私は、集落を()()()()と考えております。理由は…、そうですね。これに関しては、私よりも説明する適任者がいます。セバス様に理由を聞いてみてください。集落を助けたいと思った理由を。」

 

 セバス、そして理由。この二つのキーワードがそろったとき、モモンガとぶくぶく茶釜の脳内には、ある人物と言葉が浮かんだ。モモンガはセバスに対し、問いかける。

 

「セバス、教えてくれ。お前は先程集落を助けたいと言ったとき、理由を省いていたな?そう思った理由は何だ?」

 

 セバスは少し黙った後、意を決したように口を開く。

 

「それは、…()()()()()()()()()()()()()()()()()()だと思ったからでございます。」

 

 その言葉が、モモンガの胸にストンと落ちたような気がした。閃光のように、脳裏を記憶が駆け巡る。それは、自分がユグドラシルを始めてすぐのある日の記憶。その日もまた、自分が異形種だからという理由でPKされかかっていたときに、助けてくれたあるプレイヤーの姿、そして言葉。

 

「…たっち、さん…」

 

 そうだ。あの日、たっち・みーというプレイヤーに救われてから、彼に案内された先でモモンガは後の仲間たちと出会ったのだ。『誰かが困っていたら、助けるのは当たり前』その言葉に、モモンガは救われたのだ。モモンガの冒険の物語(ユグドラシル)は、あの日、あの言葉から始まったのだ。思わず嗚咽が漏れる。涙などとうに枯れ果てているはずの不死者の目から、涙が流れているように感じる。精神の沈静化が何度発動しようとも、嗚咽が、感動が、それを押し流していくのを感じる。

 

「…モモンガ様、セバス様はなんと仰いましたか?」

「…誰かが困っていたら、助けるのは当たり前だと、言っていた。」

「そうでしょう。」

 

 急に話していたはずのパンドラズ・アクターの声が変わったので、驚いてモモンガは顔を上げる。すると、目の前には、純白の鎧を纏った騎士が立っていた。

 

「それがモモンガ様(あなた)の、アインズ・ウール・ゴウンの始まりです。どうか、それを忘れないでください。」

 

 それは、忘れるはずもないあの日の英雄(たっち・みー)の姿。そうだ。異形種が排斥されるユグドラシルというゲームの中で、アインズ・ウール・ゴウンを作ったのは、異形種アバターを選択したプレイヤーの居場所を作りたいからだった。なぜそのような場を作ろうと思ったのか。その理由には、少なからずたっち・みーの言葉がある。どうして今まで、忘れていたんだろう。こんなに大切な思い出なのに。モモンガは、自分の心の中に人間が、鈴木悟が戻ってくるのを感じた。一過性の僅かな残滓かもしれない。いずれは死の支配者(オーバーロード)の側に引っ張られてしまうかもしれない。けれど、モモンガは今感じているこの暖かさを、心を、とても尊いと感じた。もう二度と、失いたくないと感じた。

 

「…モモンガ様、改めてもう一度お聞きします。モモンガ様は、どうなさりたいですか?」

 

 元の姿に戻ったパンドラズ・アクターが、再び問いかけてくる。しかし、今の自分ならば、答えは決まっていた。

 

「助けるに、決まっているだろう!」

「かしこまりました。それが、モモンガ様のお望みとあらば!」

「よく言ったわ、モモンガさん!私も、集落を助けるのに賛成よ!理屈じゃなく、信条の問題ね。ここで集落を見捨てる私は、きっと私じゃない!」

 

 ぶくぶく茶釜の勇ましい主張が続く。これで、全体の意見は決まった。後は、方法と人選だ。しかし、モモンガは今回の人選をすでに決めていた。

 

「茶釜さん、茶釜さんの最強装備はここです。もちろん一緒に来てくれますよね?」

「当たり前じゃない!むしろこの流れで私が動かないと思ってんの?」

「いえ、思ってません。あとは、パンドラズ・アクター!ユリ!シズ!オーレオール!集落を助けるために現地のアウラとセバスに合流する!この世界におけるアインズ・ウール・ゴウンの初陣だ!供をせよ!」

「「「「かしこまりました!モモンガ様!」」」」

「セバス、アウラ、聞いての通りだ。お前たちに合流する。そして、今呼ばれなかった者達は宝物殿の中に退避、そして待機せよ!」

「「「「「かしこまりました。モモンガ様!」」」」」

 

 指示を受けたNPC達は、速やかに行動に移そうとするが、その前に、モモンガは口を開く。これだけは、全員がいる場で言っておかなければならない。

 

「パンドラズ・アクター、ありがとう。お前がいなければ、私は…」

「滅相もございません!そして、この話の続きはひと段落してからにいたしましょう!」

「…そうだな。セバス、私はお前たちの居場所を直接見たわけではないため、転移は使えない。よって、全員で空を飛んでいく。大まかな場所を教えよ!」

「かしこまりました。モモンガ様たちが現在いらっしゃる場所から、西南に10キロほど進んだ先でございます。大きな森林と隣接しており、私たちは現在そちらに。大きく火が上がっているので、上空からだと分かりやすいかと。」

「分かった。続きは合流してからにするとしよう。それでは、≪伝言≫を終了する。」

 

 セバスに指示を飛ばしつつ、パンドラズ・アクターに感謝を伝える。これだけは、皆の前でしておかねばならない。ユリの件で、こうすればNPC達がパンドラズ・アクターを咎めることはないだろうと確信していたからだ。彼らの忠誠をこのような形で利用するのは申し訳ないが、アインズ・ウール・ゴウンの中に軋轢を残すようなことは、もうしたくなかった。

 

「さて、これからセバスとアウラに合流する。転移は使えないので、≪全体飛行≫(マスフライ)を使って移動する。それではいくぞ!」

「モモンガ様、ぶくぶく茶釜様!その前に、人間の前で活動するときは基本的にこちらのアイテムを使用する方がよろしいかと。」

 

 出発しようと思ったら、パンドラズ・アクターが宝物殿から取り出したであろうアイテムを差し出してくる。腕輪の形をしたそれに、ぶくぶく茶釜は見覚えがあった。

 

「それ、人化の腕輪?」

「ご存知でしたか!いかにも、こちらは人化の腕輪でございます。効果を発動している間だけ、使用者の姿を人間種に変える神秘のアイテム!種族特有のパッシブスキルが一部使用不可能になるデメリットがございますが、今回はそれを加味してもメリットの方が大きいかと。何しろ我らは異形種の集団。見た目が人間に近いセバス様やアウラ様、ユリ嬢にシズ嬢、人間のオーレオール嬢はともかく、我々の姿は流石に、人間たちの前に直接出るにはあまりに不適切かと思いますので。」

 

 パンドラズ・アクターの話を聞き、モモンガはユグドラシル時代の記憶を思い出す。人間種を大半のプレイヤーがアバターとして選んでいたユグドラシルでは、異形種は排斥され、ときに狩りの対象にすらされていた。アバターの向こうに同じ人間がいると分かっているはずのユグドラシルですらこうだったのだ。この世界の主な知的生命体は人間であろう。そして彼らには、こちらの中身が人間であるという知識などまずないだろう。初めから異形種として現れた自分たちが、人間の目にどう映るか想像に難くなかった。

 

「なるほど、確かに。友好的接触を我らの容姿が妨げては元も子もない。遠慮なく使わせてもらおう。よく見つけてくれたな、パンドラズ・アクター。」

 

 モモンガは感謝を伝え、腕輪を装着する。腕輪はアクセサリー扱いではないらしく、モモンガの装備は外れなかった。見ると、ぶくぶく茶釜もパンドラズ・アクターから腕輪を受け取り、身に着けている。二人は同時に腕輪の効果を発動すると、人間の姿に変化する。まるで、体に血が通っていくような感覚。しばらくするとそれは落ち着き、モモンガは周囲を見る。ユリとシズ、そしてオーレオールは息を吞んでいる。手を見ると、人間の手になっていた。丁度現実の自分のような手だが、少しだけ違和感がある。毎日毎日朝早くから出勤し、夜遅くに眠っていた日々を繰り返していたとは思えないほど、モモンガの手は血色がよく、健康的に見えた。ぶくぶく茶釜の方も、かつてオフ会で見かけた姿と同じだ。ただ、こちらも血色がよく、髪の毛にもハリと艶が見えて、正直とてもドキドキする。

 

「モモンガさん、やっぱりその姿になるのね。人化の腕輪なんだから、まあ納得といえば納得なんだけど。どう、人間の体は?」

「いい感じですね。なんか生きてるって感じがします。」

「それはそうよ。モモンガさんアンデッドなんだから。」

 

 思わず笑ってしまう。ぶくぶく茶釜がやっぱりと言っていたため、モモンガの姿は、現実世界の鈴木悟のそれなのだろう。しかし、彼女と会わなくなって数年が経っていたため、ひょっとするとオフ会当時の外見まで若返っているのかもしれない。これは後で確かめよう、と決めて、モモンガは皆に向き直る。

 

「さて、それでは改めて、行くとしようか。我々のこの姿は見慣れないだろうが、今後人間の前で活動するときは基本この姿になるだろう。よろしく頼むぞ。」

「「「「かしこまりました。モモンガ様!」」」」

「うむ。では、≪全体飛行≫!」

 

 魔法は問題なく全員に発動できたようで、この場にいる面々の体が宙に舞い上がる。モモンガたちは、一度ある程度の高さまで昇ることにした。周囲がよく見えるようになったため、ぐるりと見渡す。すると、セバスの言うとおり、炎と煙を見つけた。そちらの方まで移動し、近くの森に降り立つ。そのまま炎の見える方へしばらく進むと、セバスとアウラに合流できた。二人は振り返り、跪こうとして、驚愕で表情を固める。

 

「モモンガ様、それにぶくぶく茶釜様!?そのお姿はいかがなされましたか?」

「これか?驚かせてすまないな。我々の異形種の姿は、人間たちに余計な混乱を招くだろうとパンドラズ・アクターが気を利かせてくれてな。」

「それはそれは。よい判断かと。さて、それでは参りましょうか。」

「いや、その前に、皆に此度の初陣の方針を伝える。まず当然だが、可能な限り集落の住民を救助する。そして、襲撃者についてだが…」

「襲撃者は皆殺しですよね!モモンガ様!」

「いや、それは違うぞアウラ。我々が現在最優先で集めるものは、情報だ。それを可能な限り集めるために、ある程度の数を生け捕りにする必要がある。そうだな、最低でも三名ほど生け捕りにするとしようか。なるべく階級が上と思われる者が望ましいな。」

 

 この場の皆に、今回の対処の方針を伝える。階級が上の者を生き残らせる方が理想的だが、レベル的にも、任務の内容的にも襲撃者は組織または国家の精鋭ではなく、末端の可能性が高い。正直彼らの中で階級が上だからと言って、情報の精度も信憑性も五十歩百歩かもしれない。まあしかし、物は試しだろう。

 

「今回の方針については以上だ。それでは、戦闘を開始せよ!」

「「「「「「かしこまりました!」」」」」」

「了解!それじゃあ手分けして行きましょうか!」

 

 指示を伝え終え、モモンガたちは集落の各地に散開する。この世界でのアインズ・ウール・ゴウンの初陣が、今始まった。

 

 その日の夜、カルネ村はいきなり地獄に変わった。突如現れた鎧の騎士たち。彼らは鎧の紋章から、バハルス帝国の兵士であると思われる。彼らは突如として、カルネ村を破壊し、住民たちを殺し始めた。カルネ村の住民とってそれは、理不尽で不可解な襲撃であった。火を放たれ、家々が燃えていく。逃げていこうとする住民に、襲撃者は一人も逃がさないと言わんばかりに剣を振る。そうしてもう何人も切られた。少女は、妹を連れて逃げるため、森に入った。しかし、森の方にも騎士たちが現れ、少女たちを追いかけてくる。何としても妹だけは逃がさないといけない。そう考えた少女は、勝てるはずもない騎士を殴る。そうして騎士の一人が倒れた隙に、妹の手を引いて走る。しかし、現実はどこまでも非常だ。殴られた騎士はすぐに起き上がり、逆上して少女の背中を斬りつける。とうとう少女は倒れてしまう。それでも妹が生き残る可能性を少しでも上げなければならないと、少女は妹を抱え込む。そんな少女の背中に剣が振り下ろされようとして、

 

「待て、そこのお前達。一体何をしようとしている?」

 

運命が変わる瞬間が訪れた。

 

 モモンガはみなと別れてすぐに、二人の騎士と襲われている少女二人を発見した。背中を斬りつけられてなお、妹と思しき少女を守るため、年長の少女は抱え込んで庇っている。人間の姿のモモンガは、その姿に胸を打たれると同時に、騎士たちの動きを止めるために声をかけた。

 

「待て、そこのお前達。一体何をしようとしている?」

 

 我ながら、うまい具合に相手を威圧できたのではなかろうか。声をかけられた騎士たちは、驚いたのか固まっていたが、自分たちの役割を思い出したのか、姉妹に向けて剣を振り下ろそうとする。しかし、モモンガは住民を可能な限り守ると決めているので、もちろんそれをさせるわけにはいかない。剣が振り下ろされる前に、魔法を唱える。

 

「≪魔法の矢(マジック・アロー)≫」

 

 第一位階の低威力な魔法で、魔力型に特化していないと言えども、モモンガはレベル100の魔法詠唱者。レベル3から6の兵士など、物の数ではなかった。しっかり狙ったとはいえ、少女にこれ以上傷がないか確かめるために近付く。すると、モモンガの接近に気付いた妹であろう少女が、手の中からするりと出てきた。

 

「ありがとう!でも、おじちゃんだれ?」

 

 モモンガはダメージを受けた。なるほど、おじちゃんですかそうですか。どうやら先ほど考えた外見年齢についての予想は外れたと考える方がよさそうだ。単にぶくぶく茶釜がいつまでも若々しいだけなのかもしれない。それにしても、初対面でおじちゃんとはと思わないでもないが、問いかけてきた少女はまだ幼い。もしかすると、モモンガほどの歳の大人はみんなおじちゃんなのかもしれないと考えて許すことにする。モモンガはできるだけ優しい声で、少女たちに語りかけた。

 

「私はこの近くを通りがかった旅の者だ。火が上がっているのを見て助けに来たんだが、まさか襲われているとは。」

 

 モモンガが話していると、姉と思われる少女がせき込む。そういえば、彼女は先程背中に大きな傷を負っていた。いつまでも傷を負ったまま放っておくと危ないだろうと考えたモモンガは、アイテムボックスから布袋を取り出す。無限の背負い袋というそのアイテムは、お手軽にアイテムボックスを拡張する便利アイテムだ。モモンガは袋の中から、低位の回復ポーションを取り出す。

 

「君たち、名前は?二人は姉妹かな?」

「…そうです。私はエンリ…、エンリ・エモット。…こちらは妹のネム。」

「そうか。ではネム、お姉さんにこれを飲ませてあげなさい。回復のポーションだ。安物で申し訳ないが、ないよりはいいだろう。」

「ありがとう!おねえちゃん、これ!」

 

モモンガからポーションを受け取ったネムは、とてとてと歩いて、エンリに回復のポーションを手渡す。エンリは半信半疑でポーションを見ていたが、やがて意を決したのか、蓋を開け、中身を飲み込んだ。すると、みるみる傷が癒えていく。モモンガはユグドラシルのポーションが現地の人間に効果があったことに、非常に安堵した。これなら、間に合った人間は全員助けることができそうだ。

 

「私はこれから火の手が強い方へ向かう。君たちはここにいるかね?」

「…そうさせてもらいます。あの、とても図々しいお願いなのは承知しています。ですがどうか、お願いします!父と母を、助けてください!火元になっている村に、私たちを逃がすために残っているんです!」

「…最善を尽くそう。私たちはそのためにここにやってきたのだ。向こうには私の仲間たちも向かっている。」

「ありがとうございます!あの、貴方のお名前は…」

「私の名はモモンガ。さて、ここに残ると言っていたな。では、そのままだと危ないだろう。私は魔法が使えるのだが、魔法は知っているかな?」

「…はい、知り合いの薬師が、魔法を使えます。」

「そうか。それでは、二人のためにここに魔法で防御を施していく。ここから動かなければ、しばらくは安全だろう。どうしてもというなら、そうだな…。この角笛をあげよう。君を守るためのゴブリンが出てくる。」

 

 そういいながらモモンガは、小鬼(ゴブリン)将軍の角笛というアイテムを二つ、エンリに渡す。ユグドラシルでは、特に自分のようなレベル100のプレイヤーにとってはゴミも同然のアイテムだが、今回の襲撃者をしのぐだけなら十分だろう。しかし、エンリにとってはそうではなかった。モモンガにも後から少し考えればわかったことだが、住民のレベルが1から3という村で、ゴブリンとはいえ数体も召喚して使役できるアイテムがゴミであるわけがなかったのである。

 

「あの、こんな高価なもの、申し訳ないです!」

「遠慮をすることはない。さて、それでは魔法をかけるぞ。≪生命拒否の繭(アンティライフ・コクーン)≫、≪矢守りの(ウォール・オブ・プロテクション)障壁(・フロム・アローズ)≫」

 

 モモンガは防御魔法を発動してから、足早に立ち去ろうとする。しかし、エンリは最後に一つ、どうしても知りたいことがあった。

 

「あの、私たちの村はどこにでもある小さな村ですし、私たちはどこにでもいる村娘です!なのにどうしてここまで…?」

 

 手間をかけてまで助けてくれるのだろうか。それを聞いたモモンガは、振り返ると、今までで一番柔らかく微笑んで、こう返した。

 

「誰かが困っていたら、助けるのは当たり前。友人から教わった、とても大事な言葉なんだ。」

 

 そう言い残して、モモンガは村の方に去っていった。一方エンリは、先ほどのモモンガの言葉が頭から離れなかった。誰かが困っていたら、助けるのは当たり前。モモンガさん、いや、()()()()()は、まるで何でもないことであるかのようにそう言っていた。なんて器の大きな人だろう。あの人なら、きっと村のみんなを助けてくれる。そう信じたエンリは、なんだかどっと疲れてしまって。森の中にいるというのに、ネムと一緒に眠りについてしまった。

 

 一方セバスとユリは、子供を斬り殺そうとしている騎士たちに遭遇した。それを見た瞬間、セバスを失望が、ユリを怒りが支配する。セバスが失望した理由は単純である。彼は、ナザリックの住人の中では珍しく、人間に対して非常に穏健な思想の持ち主であり、人間の美徳というものを信じていた。しかし、襲撃者たちの行動は、彼が信じる人間の美徳と、およそ対極の位置にある行動である。それでも、セバスは彼らを殺すつもりはなかった。自分たちが目撃した襲撃者の中に、他よりも立派な仕立ての鎧を身にまとう者がいるためである。もっとも、その者が率先して子供を殺そうとしているのだが。そんなことを考えていたセバスは、嫌な予感がしてふと目の前を見る。すると、大きく踏み込んだユリが指揮官と思しき者を殺そうと、拳を構えている最中であった。これはいけないと慌てて正面に回り込み、ユリの拳を受け止める。

 

「貴女の信条に反することを頼んですみませんがユリ、この者はやめてください。この者は、モモンガ様の指定を満たす者です。」

「ですがセバス様!そいつは子供を殺そうとしているのですよ!未来の宝物を傷つけようなどという下賤な輩を、至高の御方々が許すわけがないでしょう!」

「私も許すとは思いませんよ。しかしユリ、私たちは今回命令を受けて行動しているのです。貴女の子供を愛する気持ちは、創造主様から受け継いだとても大切なものでしょう。それは、大変よくわかります。しかし今は抑えてください。至高の御方々の御命令に、私たちが自ら背いてしまってどうするのです。」

「それ、は…」

 

 そんなやり取りをしていると、鎧の騎士たちが逃げ出していく。敵わないと知るや、我先に逃げ出す。戦場にいるのだから、正しいと言えば正しいのだが…

 

「おっと、そうはさせませんよ。」

 

セバスは実に素早く回り込むと拳を振るい、当てはせずに寸前で止める。セバスと襲撃者のレベル差では、セバスがよほど力を加減しなければ襲撃者を殺してしまう。そのため、力を加減に加減して、おまけに寸止めにしたのだが、どうやらこれで十分だったらしい。逃げようとした騎士たちは、セバスの拳の風圧と殺気で気絶してしまったようだ。三名というオーダーより人数は多いが、まあいいだろう。セバスは気絶している騎士たちを尻目に、近くの民家に縄がないか物色する。

 

「お、ありましたね。無断で拝借して申し訳ありませんが、失礼しますよ。」

 

 ユリと協力して襲撃者を捕縛する。これで、至高の御方々の命令は十分果たしただろう。後は、処理するなり捕まえるなり自由である。

 

「他の僕たちの首尾はどうでしょうかね。皆優秀ですから、心配はいらないかと思いますが。」

 

 さらに所変わって、こちらはアウラとオーレオール、そしてシズであった。二人は正面とは別の村の入り口に陣取っている。襲撃者の方は、既に殺してしまった後だった。

 

「あたしたちのところ、全員殺しちゃったけど大丈夫かな?最後に三人残ってないとかないよね?」

「大丈夫だと思いますわ。何人かは正門の方に逃がしましたし。セバス様やパンドラズ・アクターは、その手のバランス調節に長けていますもの。」

「…私はユリ姉さまがちょっと心配、です。」

「ユリが?なんで?」

「ユリお姉様はとても親切で、とても子供想い。子供を殺されそうになっているところなど見かけてしまえば、少々ヒートアップしてしまうかも。ナザリックはそういう拘りの強い僕が多いですし。至高の御方々がそうあれと私たちをお造りになったのですから、無理のないことではありますが。」

「なるほどね~。あ、そういえばさ、オーレオールにとって外の人間てどんな印象なの?」

「私はナザリック地下大墳墓にて作られた僕。故に、人間たちに対してさほど良い感情はありませんの。ですが、とても興味はありますわ。」

「へえ、どんなところに?」

「私はナザリックで唯一の人間でしたでしょう?ですので、同種族を見たことは殆どありませんの。私は本来人間とはどのように生きるものなのか、人間はナザリック全体の気風としてそうであるほど軽蔑に値する生き物なのか、興味がありますわ。」

「なるほどねえ、シズは?」

 

 ほとんど話したことはないため、それぞれの話を重ねていく。おおよそ戦場であるとは思えない光景であった。

 

「ところで、パンドラズ・アクターってどう思う?」

「…センスが変。」

「不思議な方だと思いますわ。センスもそうですけど、それ以上に行動原理が。ナザリックの僕である以上、至高の御方々への忠誠が嘘だということはあり得ませんわ。ですけど、彼だけ他の僕と何か違うような…」

 

 またまた所変わって、パンドラズ・アクターとぶくぶく茶釜は、対話をしながら襲撃者を探していた。

 

「パンドラズ・アクター、モモンガさんも言っていたけど、本当にありがとうね。貴方がいなかったら私たち、特にモモンガさんは…」

「ええ、心を失ってしまっていたでしょう。私は、それだけは何としてでも避けなければならないと思いまして、あの場であのような行動に出たのです。」

「…気付いてたの?私たちの心の問題について。」

「もちろんですとも。モモンガ様より授かりしこの身は二重の影(ドッペルゲンガー)。さらに私は、その中でも至高の御方々の姿を借り受ける影なれば、至高の御方々の心を読むとはならずとも、その濃淡を感じ取ることはできるのです。」

「?どういうこと?」

「ドッペルゲンガーは変身する際、変身する対象の心を読み取り、同様の心をトレースすることができるのです。私は至高の御方々の姿に変身する能力を持ちますので、」

「私たちの心の違和感に多少は気が付くことができるのね。でもそれじゃあパンドラズ・アクター、貴方の本心はどうなの?貴方はこの集落をどうでもいいと思っていた?」

「まさか。自分で言うのは非常に烏滸がましいことですが、私の普段の思考はモモンガ様に似通うところがあると自負しています。故に私は、モモンガ様ならば私と同じ結論に至っていると慢心しておりました。しかし私は、そこで案じていた違和感と直面させられたのです。それが…」

「モモンガさんの心の喪失、ね。」

「はい。私はその時、案じるばかりで行動に移さなかった自分の愚かを恥じました。どうすればモモンガ様の御心を繋ぎ止められるか必死に考えました。その結果思いついたのが、先ほどの荒療治です。」

「…わかったわ。それじゃあ、最後の質問。どうしてあなたは、モモンガさんや私の心が失われることを避けなければならないと思ったの?」

「…その質問には後で、モモンガ様を交えてお答えいたしましょう。今は我々の目的を果たすときです。」

 

 話していると、恐らく反対方向の仲間たちから逃げてきたであろう、襲撃者たちが見えてきた。ぶくぶく茶釜は二枚の盾を構え、パンドラズ・アクターは姿を変える。人型の巨大な異形。見覚えのある巨大なガントレットを装備したその姿は、

 

「なるほど、やまちゃんの姿を借りるのね。」

「ええ、回復も耐久も可能ですので。ただ我々のレベルですと…」

「確実に攻撃しない方がいいわね。それじゃあ時間を稼ぎましょうか。きっと最終的にみんな来るわよ。」

 

パンドラズ・アクターとぶくぶく茶釜は、地道に耐久することを選択する。実際にぶくぶく茶釜とパンドラズ・アクターの下には、エモット姉妹の下を離れたモモンガが向かっていた。そしてそのモモンガは、

 

「はぁ…。失敗したなぁ…」

 

先ほど指示を出した際の自分のミスを反省していた。三人ほど生け捕りにしたいと指示を出したモモンガだったが、拘束した人数を共有する手段と必要性について、全く言及していなかった。これでは、何人捕まえたかわからない。拘束した人数が多い分には問題ないが、少ないと情報が全く得られない可能性がある。そう考えながら急いでいると、逃げようとする襲撃者と、止めようとするぶくぶく茶釜たちに行き着いた。

 

「モモンガさん、丁度良かった!この人たち止めて!」

「まずなんでそんなこと…、ああ、レベル差的に殺しちゃうからですか。分かりました。」

「オッケー助かる!この人たち、拘束する?」

「ええ、三人とは言いましたが、多いに越したことはないでしょう。こちらが解放するまで拘束と管理をする手間はありますが。≪魔法効果範囲拡大化(ワイデンマジック)≫、≪睡眠(スリープ)≫」

 

 するすると話しながら、モモンガは魔法を唱える。ぶくぶく茶釜たちと押し合っていた襲撃者は、全員眠ってしまった。モモンガはこれでよしと言わんばかりに手を叩くと、

 

「さて、後は火を消したら処置完了ですかね。」

「ええ、念のため彼らを縛っておきましょうか。」

 

 事後処理に移っていた。家を押し流してしまわないよう、極力低位階の魔法で消火活動を行う。そして火の手が収まった広場を見ると、そこには数名の住民の遺体が転がっていた。モモンガはその中に、エモット姉妹の両親であろう姿があることを確認する。相談に時間をかけて、そもそも来るのが遅れてしまったということもあるが、助けられなかったという実感は、やはり辛いものであった。正直、最初に襲撃者を殺した時、殺すという行為に忌避感を感じなかった。しかし、守ると決めたはずのものが手から零れ落ちていく感覚は、こらえがたい何かがある。これが、今の自分の精神構造なのだろう。中途半端に人間で、中途半端にアンデッド。しかし、モモンガは何も感じないよりはいいだろうと考えることにした。恐らくこの感覚は、失ってはならないものの一つであるはずだから。

 

「どうかしたの、モモンガさん。ちょっと辛そうよ?」

 

 ぶくぶく茶釜が問いかけてくる。自分が顔に出やすい性分なのもあるだろうが、本当に気配りができるすごい人だ。

 

「…森の方に、逃げていった姉妹がいたんです。彼女たちを助けた時に、姉の方から両親を助けてくれと頼まれたんですが…」

「…この中にいるのね。」

「ええ、恐らく。彼女たちに謝らなければ。レベル1や3では、蘇生はできない。」

「そうね。レベル3じゃあ、レベルロストで消滅しちゃう。それに、姉妹の両親が蘇生できたらできたで問題になるわよ。」

「そうですね。じゃあ自分の家族も、恋人もって頼まれるでしょう。それにこちらが中途半端に対処してしまうと、格差が生まれます。」

「うん、だから申し訳ないけど、ここで失った命は戻らない方がいいわ。彼らには失ったものを受け入れて、乗り越えてもらうしかない。」

「…我々にとってもつらい決断ですね。」

「…そうね、本当に。」

 

 失ったものを受け入れて、乗り越える。耳の痛い話だ。モモンガはここ数年、ずっとユグドラシルに入り浸り、ギルドの維持費を工面する日々を送っていた。その時の自分には、人生において強烈に残り続ける楽しい思い出が、ユグドラシルの中にしかなかったからだ。今思えばあの時のモモンガは、ユグドラシルの思い出に縋り続けて生きている、ギルド拠点のナザリックと相俟って、まさに墓守のような存在だった。最後の最後に仲間たちは来てくれたけれど、モモンガは、ユグドラシルのことを思い出と割り切ることは、まだできない。ユグドラシルの延長でこの世界にやってきたことも理由かもしれないが、それよりも、モモンガ自身の心の問題の方がきっと大きいだろう。これからこの世界で生きていく中で、いつかユグドラシルでの全てがいい思い出であったと言える時が来るのだろうか。そんなことを考えていると、仲間たちがやってくる。元々村を助けるのに賛成していた面々とはいえ、よく働いてくれた。

 

「さて、此度はよく働いてくれたな。完璧にとはいかなかったが、アインズ・ウール・ゴウンの初陣としては、上々の成果であったと言えるだろう。」

「滅相もございません!モモンガ様の御意思に完璧に沿うことができず、大変申し訳ございません!」

「そんな事はない。村の全てを助けることができなかったのは話し合いなどして出陣を遅らせた私の落ち度。お前たちは私の命に従い行動したのだ。そしてその結果に、私は大変満足している。」

 

 NPC達はモモンガの言葉を聞いて畏れ多いといった雰囲気になっている。モモンガとぶくぶく茶釜は、NPC達の働きに本気で満足しているが、NPC達の認識ではそうではないようだ。これは自分の言葉の選択ミスであろうと、モモンガは反省する。NPC達にとって、モモンガたちはまだ、理想の支配者である。そんな自分たちに気を遣わせたという意識が強く働いているようだ。等身大の自分たちへの道は、まだまだ険しそうであると、モモンガとぶくぶく茶釜は心の中でため息をついた。

 

「あのー、あなた方は一体?」

 

 そんなことを考えていると、何者かから話しかけられる。見ると生き残った村人たちが戻って来ていた。話しかけてきた男は村の中でも年長者と思われ、多くの村人から頼られるような視線を受けている。きっと彼が村長なのだろう。

 

「私たちはこの近くを通りかかった旅の者です。火が上がっているのを見かけましてね。何事かと思って来てみたら、村が燃えて人が襲われていたので助けようと思いまして…」

 

 モモンガの言葉に、村人たちは安堵する。しかしまだ村人全員の疑念を晴らすとはいかないようだ。村娘を助けて、襲撃者を捕らえて、火の始末もした。ここまでしたのにと思わなくもないが、仕方ないだろう。都合がいいだけの話に飛びつかないほど、彼らは疑心暗鬼になっているのだ。なので、そんな彼らの疑念を晴らすために、モモンガは口を開く。

 

「…このような状態の村にこのようなことをお願いするのは申し訳ないのですが、一晩、この村に宿を取りたいのです。それと、この近辺の地図を。恥ずかしながら、この辺りには初めて来まして。この辺りの町や国を詳しく知らないのです。」

「…分かりました。この通り小さな村ですが、皆さんの宿は必ず確保いたしましょう。それと、地図については私の家にあります。どうぞこちらへ。」

「その前に、村の外れの森の中に、少女が二人います。魔法で保護してあるとはいえ心配だ。迎えに行ってきます。」

 

 そういうとモモンガは姉妹のいる方へ歩き出した。助けると宣言した手前申し訳ないが、彼女たちに伝えなければならない。

 

二人を迎えに行った後、モモンガたちは村長の家に移動する。予想はしていたが、やはり姉妹の両親は助けられなかったようだ。泣いている二人をユリに任せて、モモンガは村長の家にやってきた。やまいこに似たところを何度も見ているユリなら、きっと面倒見がいいだろう。

 

「まず最初に、この度は本当にありがとうございました!」

 

 村長の家で出された白湯を飲んでいると、村長が切り出してきた。人間に変わっているとはいえ、元の種族はアンデッド。人間の食べ物を体が受け付けるか不安であったが、どうやら大丈夫らしい。モモンガは思考を止めて、村長に向き直る。

 

「いえいえ。先ほどは名乗っていませんでしたね。私はモモンガ。先ほども言いましたが、旅をしている者です。」

「私はぶくぶく茶釜。茶釜でいいわ。モモンガさんの旅仲間よ。」

「他の者はお二人に仕える従者でございます。私はパンドラズ・アクター。」

 

 自己紹介を終えると、モモンガに向き直った村長は問いかけてくる。パンドラズ・アクターには、ひとまず自分の姿を取るように命令したが、髪と瞳、そして肌の色を変えたらしい。そしてそれを見て確信したのだが、やはり自分の姿はユグドラシルが一番楽しかった時、即ちオフ会当時まで若返っているようだ。つまりネムのおじちゃん発言は、単にネムにとってモモンガの年齢はおじちゃんであったというだけのようである。モモンガはその事実に安堵した。そして目の前のパンドラズ・アクターが、リアルの鈴木悟の姿なのに2Pカラーのようになっていて変な感覚だ。しかし、今は仕方ないとモモンガは思うことにする。

 

「モモンガ様、私たちの懐まで察してくださり、本当にありがとうございます!」

「え?」

「言葉にしていただかなくとも分かります。モモンガ様はこの村を見て、私たちに自分が満足できるような金額は払えないということを悟られたのでしょう。ですから、このような私たちに都合のいい話で済ませようとしてくださると皆の前では言ってくれたのでしょう。しかし、あなた方は我々の命の恩人。恩人への礼が、一晩の宿と地図だけで足りるはずがございません。ここならば私と妻以外はおりません。さあ、お望みをお申し付けください!」

 

 なんだそれは。モモンガとぶくぶく茶釜は思わず固まってしまう。モモンガが述べた要求はいつの間にこんな美談になってしまったのだろうか。一晩の宿はまあ旅人という話を怪しまれないための嘘であるにしても、モモンガたちは、本気で地図と情報が欲しかったのである。どちらも右も左も分からないモモンガたちには値千金のものだ。

 

「いえ、それ以上のものは本当に結構なのです。私たちは旅の途中、たまたまここで立ち止まり、たまたまあなた方を見つけ、たまたま助けただけなのです。」

「ですがモモンガ様、私たちはあなた方の御恩に応えなければなりません。」

「…分かりました。それでは、これを見てください。」

 

 そういってモモンガが取り出したのは、ユグドラシルの金貨だ。それを見た村長夫妻は、驚いた顔をしている。やはり、ユグドラシルの中で使われていた金貨は、この世界では一般的ではないようだ。場合によると、この世界に貨幣の概念がないことすら考えられる。

 

「…それは?」

「ここよりはるか遠い地、我々の故郷にて使われていた金貨です。我々はとある魔法の事故によってこの地へやって来て、それ以来故郷に帰るために旅を続けています。この辺りにやってきたのは初めてのことでして、まだこの地のことを何も知らないのです。」

「…なんと。」

 

 村長夫妻はモモンガたちの壮絶な身の上話に驚いていた。故郷に帰るために旅をしているというが、この辺りでこのような金貨を使う国の話など聞いたことがない。モモンガたちは、きっととても遠いところから来て、右も左も分からぬ状態だったに違いない。それなのに、ここまでしてくれたというのか。村長は金銭欲を隠していると疑った自分を恥じた。そして、恩人たちに協力することを改めて誓う。

 

「それは、何とも心苦しい話をさせてしまい、本当に申し訳ございません。皆様が一刻も早く故郷にお戻りになれるよう、村民一同、全力でご助力すると約束いたしましょう。それで、地図とこの辺りの情報でしたね。」

 

 村長はモモンガたちの話を聞いて、またも美談的に解釈したようだ。モモンガは自分が狙った方向に話が転がって安心する反面、不安にもなる。というのも、本当の部分が端々にあるだけで、モモンガたちの身の上話ほとんどは嘘だ。モモンガたちはこれからどうするのかの方針すら決まっていない。しかし、これからその方針を決定するために重要な情報を得られるかもしれない。

 

「…なんじゃ、そりゃ。」

 

 パンドラズ・アクターがいるというのに、モモンガは思わず素のリアクションをしてしまう。それほどまでに、衝撃的だった。ここカルネ村から始まり、リ・エスティーゼ王国、バハルス帝国、ローブル聖王国にスレイン法国。トブの大森林にカッツェ平野、アベリオン丘陵、そしてアゼルリシア山脈。何から何まで、リアルはもちろん、ユグドラシルでも聞いたことのない地名のオンパレードだ。

 

「どうか、なさいましたか?」

「ああいえ、失礼。想定外のことが多かったものですから。」

 

 モモンガは国家についてもっと情報を求めたが、村長が知る情報と言えばカルネ村の属するリ・エスティーゼ王国と、今回襲撃者が纏っていた鎧に紋章があるバハルス帝国が戦争状態にあることぐらいであった。モモンガは捕らえた襲撃者を今に至るまで解放しなかったことが、今にして思えば英断であったと考えた。バハルス帝国の鎧を纏っているからと言って、彼らが帝国の軍人であるとは限らない。地図によると、、スレイン法国の国境もかなりこの村に近いところにある。スレイン法国の偽装工作の一環ということも考えられるだろう。モモンガたちは、もっと情報を集めるために、村長に質問を重ねる。小さな村の情報であるため、曖昧な部分もかなり多い。しかし、ないよりは確実にあった方がありがたい。これは襲撃者からの情報も期待できそうだと思ってふと外を見ると、もうとっくに日が昇っている。どうやら時間を忘れて話し込んでしまったようだ。モモンガは礼を述べて外へ出る。外に出ると、村人たちは葬儀の準備をしているらしく、村長夫妻も加わっている。この時間まで質問攻めにしてしまったので、きっと眠いだろう。モモンガはそのまま、葬儀を見守ることにした。村外れの共同墓地で、知らぬ名の神に祈りを捧げ、葬儀が執り行われる。葬儀が終わり、村長は再びこちらの質問に答えようとしてくれたが、モモンガはお互いに休もうと告げ、村長に休息を取らせることにした。そしてこちらの出陣組と情報を共有する。数十人の村人の目がある場では、宝物殿に戻らない方がいいだろうと判断したためである。待機組には悪いが、情報共有は村を出てからになりそうだ。情報共有を終え、今度は捕らえてある襲撃者から情報を得るために向かおうとすると、村が慌ただしいことに気が付いた。村長を見つけたので、理由を聞いてみることにする。

 

「どうかなさいましたか?」

「モモンガ様!どうやら、この村に馬に乗った戦士風の男たちが近づいているそうなのです。」

「…なるほど。」

 

 少し考えるそぶりを見せるが、もう乗り掛かった舟である。せっかく助けた村なのだ。それを何者かに滅ぼされるのは気分が悪い。

 

「急いで村長の家に全員を集めてください。村長は私と共に。とりあえずまずは話をしてみましょう。」

「ありがとうございます!」

 

 そんな話をしていると、馬に乗った戦士たちがこの村にやってきた。モモンガは戦士たちを観察していたが、ふと見ると違和感を覚える。戦士たちの武装に統一感がない。というか、アレンジされている。共通点は素顔を晒している点と、共通の剣を腰に装備している点である。やがて戦士たちは広場に整列した。一際屈強な、恐らくこの集団の代表と思しき男が前に出て、モモンガたちを観察する。しばらくモモンガたちを見ていた男は、やがて口を開いた。

 

「私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。この近隣を荒らし回っている帝国の騎士たちを討伐するために王の御命令を受け、村々を回っているものである。」

「王国戦士長…?」

 

 モモンガは眉を顰める。先ほど村長から話を聞いたときにこの人物の情報はなかった。基本的に地理や国家の概要の話ばかりを聞いていたので、話す機会がなかったと言えばなかった。それに、もしかするとこの人物の情報を知らないのかもしれない。モモンガは確認の意図を込めて、村長に尋ねる。

 

「…王国戦士長とは、どのような人物で?」

「…商人から話を聞いたところによると、王都での御前試合で優勝して、王直属の精鋭の戦士団を指揮する方だと…」

「なるほど。…本物ですか?」

「私も商人から噂を聞いただけですので、本人かどうかは何とも。」

 

 村長は本気で自信はなさそうだ。戦士たちをよく見ると戦士の鎧には共通の、襲撃者の鎧とは異なる紋章がある。しかし、だからと言ってこの戦士たちと襲撃者が内通していない根拠はどこにもない。そう考えていると、戦士長を名乗る男は村長に目を向けた。

 

「この村の村長だな。この集団は一体何者なのか教えてもらいたい。」

「それには及びませんよ。」

 

 モモンガはこちらから話を切り出すことにした。戦士長は再びこちらに向き直り、モモンガたちを再び、見定めようとするかのように睨み据えている。モモンガは現在人化していて、アンデッドの精神の沈静化は発動しない。しかし、集団の長として無様を晒すわけにいかないモモンガは、動じなかった。モモンガは射るような視線を受けて話し始める。

 

「私たちはこの村の近辺を偶然通りがかった旅の者です。私は彼らの長というか、代表を務めておりますモモンガと申します。森の中で火の手を見つけまして、様子を見に来ると村が燃えていて、騎士たちが村人を襲っていたので、助けに来た次第です。」

「そうか。」

 

 戦士長はそれだけ言うと、馬から飛び降りた。そしてこちらに歩んでくると、重々しく、深々と頭を下げた。

 

「この村を救っていただき、感謝の言葉もない。」

 

 この一礼だけで、ガゼフ・ストロノーフという男の人物像を、モモンガはおおよそ把握できた。王国戦士長という、リ・エスティーゼ王国の中でも屈指の肩書の持ち主。彼が頭を下げるということは、場合によると国家が頭を下げることを意味することもあるだろう。それをものともせず、彼は一切動じることなく頭を下げた。とても実直な男である。モモンガはガゼフ・ストロノーフの評価を上げる。同時にこの男の言葉は信ずるに値するだろうとも判断した。

 

「いえいえ。こちらもこの村にはお世話になりましたので。」

「お世話に?失礼だがモモンガ殿、この村に来たことが?」

「いえ、違います。この村に来たのはこれが初めてです。というのも、私たちはつい最近この近辺にやってきまして、この周りのことをいろいろと教えていただいたのです。」

「それはそれは。旅の途中を遮って申し訳ないが、此度の襲撃について詳しい説明をしてはもらえないだろうか?」

「ええ、もちろん。襲撃者の大半は生かしてこの村に捕らえてあります。そのことも説明した方がよろしいでしょう?」

「そうであったか。何から何まで本当にありがたい。」

 

 ガゼフは礼を述べ、詳しい話をするために村長の家に移動する。今日はかなりの急行軍であったため、できれば部下共々この村で休ませてもらいたいと考えていたガゼフは、交渉のために口を開こうとするが、その時、騎兵の一人が慌てた調子で駆けてきた。

 

「戦士長!周囲に複数人の人影!村を囲むような形で接近しつつあります!」

 

 それを聞いたモモンガとガゼフは振り返る。モモンガにもガゼフにも、警戒の色が浮かんでいる。様子を窺ってみると、集団は皆軽装であり、何の武器も携帯していない。しかし、その集団はモンスターを連れており、一目で魔法詠唱者だと分かった。ガゼフとしては、集団が連れているモンスターが問題であった。そのモンスターが天使であったのだ。天使を召喚して使役する術を持つのは、ガゼフの知る限り法国の特殊部隊だけである。ガゼフはより一層警戒を強める。法国は宗教国家であり、他の多くの国とは信仰する教えが異なる。これだけでも場合によっては対立する理由になる。さらに悪いことに、法国の国力は周辺国家の中で最強なのである。そんな国家が、王国の片田舎の村を領地目当てに襲撃するとは考えにくい。村長からどこまで話を聞いているかは分からないが、モモンガも同じ疑問に至ったようで、ガゼフに問いかけてくる。

 

「彼らはなぜ、この村を襲うのでしょうか?失礼ですが、この村に何か秘密や魅力があるようには思えないのですが。」

「…確かにこの村が目当てとは考えにくい。そして、つい最近この近辺に来たというモモンガ殿が奴らの目当てであることもそうだ。ということは…」

「…大変ですね。戦士長は。」

「確かに、国王直属の戦士長ともなれば、人に恨まれても文句は言えんが…、しかし天使を率いる統率された魔法詠唱者の集団か。確実にスレイン法国。それもおそらくは特殊工作部隊の、六色聖典のうちのどれかだろう。であれば数も質もあちらが上。厄介なことになったな…」

 

 ガゼフは強い焦りと怒りを感じる。まさか自分が、人類の守護者を謳う法国の、それも特殊工作部隊に狙われる日が来ようとは。怒り心頭のガゼフを横目に、モモンガも相手を観察する。モモンガは相手の召喚したモンスターを見て驚いた。最初はこの世界で何が天使と呼ばれていたか分からなかったのだが、蓋を開けてみれば、そこにいたのはユグドラシルのモンスターだったのだ。モモンガが確認する限り、そのモンスターはユグドラシルに存在した下級天使モンスターの一種、炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)である。モモンガが思考の沼に陥っていると、ガゼフが声をかけてきた。

 

「モモンガ殿、良ければ、雇われないか?報酬は望む分だけお支払いしよう。」

 

 それを聞いたモモンガは考える。法国の裏には、ほぼ確実にユグドラシルに関連する何かがあるのだろう。そしてここまでの交流の中で、モモンガはユグドラシルに由来する何かを持つことは、この世界で極めて優位に働くであろうということに気が付いていた。そのため、法国に敵対的な行動をとることは、場合によっては自分の首を絞めかねないと理解している。しかし、モモンガは思いついた。この件を無血で収めることができれば、王国に恩を売ることもできるし、法国にも対話の余地があるとアピールすることができるのではないだろうか。そう考えたモモンガは、後ろにいる面々に対して提案をする。

 

「この件、我々が協力して無血で場を収めてしまうというのはどうでしょう?」

「いいと思うわ。こちらがある程度の力と対話の意思を見せれば、向こうも分かってくれるかもしれない。」

 

 ぶくぶく茶釜の賛同は得られた。ということは、これまでのNPC達の性質上、この件の方針はほぼ決定したと思っていいだろう。見ると、NPC達は全員、うんうんと頷いている。これで方針は決定した。しかし、モモンガはこれに関して、一つ確認しておきたいことがあった。

 

「戦士長殿。我々としては、概ねそちらに協力する方針に決まったのだが、一つ確認しておきたい。貴方の先ほどの言葉は、貴方個人との契約ということかな?それとも王国に一時的に雇われることに?」

「王国戦士長としての言葉であったつもりだが…」

「であるならば、こうしましょう。我々は貴方個人に力を貸す、と。我々は明日の予定もまだ定まらぬ身。よって、国同士の問題であるならばどちらか一つの国に肩入れするということはあまりしたくない。しかし、私は貴方という個人に対してなら、協力してもいいと考えています。それでいかがですか?」

「…かたじけない。」

 

 ガゼフは深々と頭を下げる。モモンガとしては、いずれ身を寄せることになるかもしれない国家の候補として法国を選考に残しておきたいだけなのだが、ガゼフとしては一騎当千の援軍を手に入れたも同然。モモンガが今後恒久的に王国に身を寄せることはないかもしれないけれども、今この場で協力してくれるだけでも十分だろう。モモンガは、仲間たちに指示を飛ばす。

 

「アウラ、外の森で指輪を使え。モンスターたちを連れて、周辺を警戒せよ!」

「分かりました!モモンガ様!」

「セバス、ユリ、シズ、そしてオーレオールは村の中に待機。この村を確実に守り通すのだ!」

「「「かしこまりました。モモンガ様!」」」

「茶釜さん、そしてパンドラズ・アクター。二人には私と共に、戦士長について移動しましょう!」

「分かったわ!」

「お任せください!モモンガ様!」

 

 大まかではあるが、てきぱきと指示を終え、戦士長と共に村を出る準備をする。恐らく敵の方も、モモンガたちを警戒するだろう。しかし、こちらもレベル100の戦力が3人。向こうも相応にレベルがない限りは負けはしない。法国の特殊部隊とやらの力を見せてもらおうという意気込みで、モモンガたちは村を出ていった。




書きたいことがいっぱいありました。その結果、何と文字数が倍以上(前回比)。ちょっととは一体何だったのか。はい、すみませんでした。本格的に話が始まっていないということ、確かにその通りだなと思ったんですが、書きたいことを妥協するのも嫌だなと思ってしまいまして。それでも話を進めたいと何とか考えた結果、こんなになっちゃいました。そしてそれでもなお始まらない本編。なんということでしょう。重ね重ね本当に申し訳ない。皆さんの意見が聞きたいのですが、こんなに長いとやはり読みづらいですか?それとも、これぐらいがちょうどいいですか?皆さんのご意見とご感想お待ちしております。
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