今回、劇の題材としてO・ヘンリーの『賢者の贈り物』を使わせてもらっています。一応パブリックドメインであり、著作権の侵害等が起こらないことは確認しているのですが、何か問題等があれば感想などで指摘お願いします。
季節が巡り、異世界での最初の冬がやって来た。こちらの世界にクリスマスがないのは分かっているものの、ぶくぶく茶釜は長年の癖で、この時期になるといつも流れていたクリスマスソングを口ずさんでいた。
「♪~♪♪~♪♪♪~」
「茶釜様!何を歌ってるんですか?」
「ぼ、僕も知りたいです!」
「あら、アウラ、マーレ!これはね、冬の風物詩みたいな歌なのよ!」
歌を口ずさんでいると、アウラとマーレがやって来た。どうやら大きな声になってしまっていたらしい。
「冬の風物詩、ですか?」
「と、とってもいい歌だけど、なんで冬の風物詩なんですか?」
「え。えーっと、それはね…」
アウラとマーレの質問に、ぶくぶく茶釜は回答に困ってしまった。というのも、リアルでも生活しているモモンガやぶくぶく茶釜にとっては、リアルという世界にクリスマスというイベントがあったから、という理屈が分かっている。しかし、パンドラズ・アクターを除くNPC達にはまず、ユグドラシルのほかにリアルという世界がある、という前提が存在しない。そこまで考えたぶくぶく茶釜は、ふと思いついた。別にリアルのことを話さなくても、NPC達にクリスマスを広めることはできるではないか。そして、この世界にもクリスマスはないが、モモンガとぶくぶく茶釜の故郷の祭日が近いという理由を用意すれば、特別な公演の許可が下りるのではないか、と。そう考えたぶくぶく茶釜は、居ても立っても居られない、といった様子で立ち上がり、興奮気味にアウラとマーレに話しかけた。
「それはね…。うふふ、後で説明するわね!それよりも二人とも、モモンガさん、今どこにいるか分かる?」
「モ、モモンガ様なら商店街の方に出かけて行かれましたよ?いつも通りならそろそろ戻ってくると思います!」
「あら、そうなの!じゃあちょうどよかったわ!二人とも、私はモモンガさんにちょっと話があるから、二人はどこかで遊んでいらっしゃいな!」
「「分かりました!茶釜様!」」
そう言って二人を送り出したぶくぶく茶釜は、そのまま宿の部屋で、モモンガの帰りを待つことにした。しばらくすると、隣の部屋に誰かが出入りした音がしたため、そちらに行って扉を叩く。そうして中に入ると、そこには予想通り、モモンガの姿があった。
「茶釜さん、どうしました?帰り道でアウラとマーレに会ったんですが、二人によると何やら俺にお話があるとか。」
「そうなのよ、モモンガさん!この世界も冬になったし、私たちの暦に直すと、そろそろクリスマスじゃない?」
「…!え、ええ。そうですね…。」
クリスマスの話題を切り出した途端、モモンガは急に歯切れが悪くなってしまった。そのことに疑問を感じたぶくぶく茶釜は、思わず問いかけてしまった。
「…?モモンガさん、どうかした?」
「…ああ、いえ…。すみません。俺、クリスマスにはあんまりいい思い出がなかったものですから。」
「…あー…。」
「俺が務めてた会社は超ブラック企業で、クリスマスだろうと何だろうと社内イベントなんてありませんでしたし、ユグドラシルのクリスマスイベントは回りましたけど、結局ソロだったり男連中だけだったりで、その成果はというと換金しきれなかった大量の料理アイテムと、結局11個コンプリートしてしまった嫉妬マスクだけ…。」
「…子供の時は?サンタさんが毎年プレゼントをくれたりしなかった?」
「…?サンタさんの正体って親ですよね?」
「そうじゃなくて!いや、実際にはそうなんだけども…」
「…サンタさんの正体が親なのは結構すぐに分かりましたよ。母が亡くなってから、クリスマスにプレゼントが届くことはありませんでしたので…。」
「…本当にごめんなさい…。」
ぶくぶく茶釜は、モモンガの心の傷を抉ってしまったことに、本気で罪悪感を感じていた。一方のモモンガは、自分が雑談を早々に切り上げて本題に入るように促していればと本気で反省した。しかし、お互い傷心していてもしょうがない。元々ぶくぶく茶釜が、明るい話をする意図でクリスマスの話題を出したことは流石に分かっていたので、モモンガは話を明るくするために、その話題を切り出す。
「…いえいえ、茶釜さん。これは話の運び方をミスった俺の落ち度です。俺の方こそ、すみませんでした。ここからは、明るい話をしましょう!なので、本題に入りませんか?」
「…モモンガさん…。そうね!お互いに謝ったし、これで両成敗ってことにしましょうか!それでね、本題なんだけど、もうすぐ私たちの暦だとクリスマスじゃない?だから、それを口実にして特別な公演を開きたいなーって思ったの!クリスマスをテーマにした衣装と劇で、街の人たちの冬を少し温めるような、そんな公演にしたいなーって!」
「…劇、ですか!なるほど、それは盲点だったなー!確かに、特別な公演、良いかもしれません!都市全体が活性化しますし、きっと都市長も許可してくれますよ!」
「やった!それじゃあ、さっそく許可を取りに行きましょう!みんなには、許可を取ってからクリスマスのことと一緒に説明しましょう!」
そうして気分を前向きにしたモモンガとぶくぶく茶釜は、さっそく公演の許可を取るために都市長のパナソレイにアポイントを取る。そして交渉の結果、見事許可を得たモモンガとぶくぶく茶釜は、ウキウキで仲間たちが待つ宿屋に戻った。そして、説明のために全員で下に降り、モモンガとぶくぶく茶釜は説明を始めた。
「…クリスマス、ですか?」
「そうよ!ユグドラシル…エンリ達にも分かりやすく言うと私やモモンガさん、そしてこの子たちの故郷のことね、でも実は行われていたイベントなんだけど…。」
「ど、どんなイベントなんですか?」
「仲間や家族みたいな、親しい人たちで集まったりしてみんなでチキンやケーキを囲んでお祝いするのよ!」
「それに加えて、だな。良い子にしていた子供たちの元には、サンタさんという人物がやってくる。サンタさんは良い子に贈り物を送って、帰っていくのだ!」
「その良い子、というのは何で決まるのでしょう?カルマ値ですの?」
「いや、カルマ値はただのステータスだ。そうではなく、行動で決まるのだよ。さて、それでは、クリスマスに際しての私たちの行動を伝える。私たちはこのクリスマスに際して、特別な公演を行う!演目は…」
「そうね、演目は…」
モモンガたちはここで言葉に詰まってしまった。クリスマスにみんなで劇をする、という言葉に浮かれすぎて、演目のことを全く考えていなかったのである。そのことを察したパンドラズ・アクターは、少し考えるそぶりを見せた後、助け舟を送る。
「モモンガ様、茶釜様。話を伺う限り、クリスマスの本質は親しい人と過ごすことと、贈り物にある様子。演目に迷っておられるならば、その二つのキーワードから判断するのはいかがでしょう?」
パンドラズ・アクターの助け舟によって、二人は数多くの演目から迷っているという面目と、更に演目のヒントまで得ることができた。パンドラズ・アクターからもらったヒントをもとに考えると、モモンガの頭の中にはふと、ある物語が浮かんできた。かつて、母が存命だった頃に、母から何度も読み聞かされていたその物語の題名を、モモンガは口に出してみる。
「茶釜さん、『賢者の贈り物』はどうでしょうか?夫婦の話だし、それに、クリスマスプレゼントがテーマですからぴったりだと思いますけど…。」
「それよ!モモンガさん!確かにその話ならクリスマスの趣旨を表現するのにぴったりだわ!というわけでみんな、私たちの演目は『賢者の贈り物』で決定よ!あとで台本を書いて配るから、みんな把握よろしくね!」
「「「「「「「「「「「かしこまりました!」」」」」」」」」」」
「分かりました!」
「わかりました!」
そうしてモモンガたちは、ぶくぶく茶釜を中心としていつも通りに劇の準備に入る。まずはモモンガとぶくぶく茶釜が台本を書き、それをみんなに配る。ユグドラシルやリアルの文字が読めないエンリとネムは、モノクルを交互に使いながら読んでいた。その後は、オーディション範囲を設定し、いつも通りに役者を選ぶ作業に入った。
「今回は役者の希望が多いですね。」
「特別な公演って事前に宣言しちゃったからね。それと、モモンガさんの言葉も関係あると思うわよ?」
「俺の?…ああ、良い子にはサンタさんがやってくる、ですか?」
「そう。それでみんなやる気なのよ!」
「なるほど。では、いつも通り選びますか。」
「ええ、ここからは実力勝負よー!」
オーディションでは、それぞれがそれぞれの演技を見せた。やはりみんな、最初のころと比べると随分と上達している。しかし、やはりこと演技力となると、ぶくぶく茶釜とパンドラズ・アクターが頭一つ抜けており、この二人の希望する役と、対抗馬が存在しなかったモモンガの役がすんなりと決まった。その先は接戦を制した役者が選ばれ、最終的な役者と裏方の割り振りが決定した。
「それじゃあ、これから合わせ稽古を始めます。みんな、練習通りによろしくね!」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
そこからは、練習に次ぐ練習。劇の時間自体はさして長くないが、何しろ特別な公演である。なので、舞台監督として全体を指導するぶくぶく茶釜にも、普段より気合が入っている。
「モモンガさん!前よりは減ったけど、やっぱりちょっと長台詞苦手?」
「すいません、噛んでました?」
「ユリ、ちゃんと私の台詞を待ってちょうだい!」
「申し訳ございません!」
「セバスとソリュシャンは特に言うことはないわ。パンドラズ・アクターもね。後は…」
練習の合間の休憩時間、モモンガたちは神妙そうな面持ちをしている面々を見つけた。
「セバス、アウラ、マーレ、お疲れさま。」
「「「モモンガ様、茶釜様!」」」
「どうした?クリスマスの話を聞いてから、時折複雑そうな顔をしているな?」
「それは…。申し訳ございません。ですが、どうしても気になっていることがございます。」
「セバス、貴方が顔に出すほど悩むなんて珍しいわね。どうしたの?」
「いえ、思い返せば、まだ去られる前、たっち・みー様は毎年、この時期になると必ず一定期間お姿が見えなくなっていたな、と思いまして。」
「「ああ…。」」
セバスの悩みは、思いのほか回答に困るものであった。何かうまい言い回しはないかと考えたモモンガは、一つ案を思いつき、試してみることにする。
「セバス、実は私には、たっちさんのその時の居場所に心当たりがあるんだ。」
「本当でございますか!では、たっち・みー様は一体どちらに?」
「うむ、たっちさんはな、サンタさんの手伝いをしていたんだよ。確か毎年この時期になると、みんなにプレゼントを、と話していたからな。」
「なんと!やはりたっち・みー様は正義の騎士であらせられたのですね!」
そう言って納得させたモモンガだったが、ぶくぶく茶釜の方は少し心配だった。なので、モモンガを連れて三人の元を去り、二人きりになって確認をする。
「ちょっと、モモンガさん!セバスにあんな嘘を教えて大丈夫?」
「いえ、リアルのことはぼかしましたけど、あの話自体は完全に嘘ってわけではないですよ?」
「どういうこと?」
「たっちさんの務める警察署では毎年クリスマスにイベントがあって、署内の誰かがサンタさんに扮して同僚にプレゼント風にラッピングした差し入れを送っていたんだそうです。たっちさんはそのアシストをしたり、引退する前の最後のクリスマスなんかは自分がサンタ役になったなんて言ってましたから。それにたっちさん、娘さんいたでしょ?」
「…確かに。完全には嘘じゃない、か…。」
モモンガの話を聞いて、ある程度納得したぶくぶく茶釜はそれ以上の追求を辞め、休憩に戻る。その後は、練習を積み重ねながら、ひたすらに本番に向けて劇を研鑽していった。そして、ついに本番当日となり、劇団モモカゼの面々はハムスケが引っ張る舞台に乗って、いつも公演の際に使わせてもらっている広場へと赴いた。
「おお!人が多いですね、茶釜さん!」
「特別な公演って宣伝して回ってたからね。それにしても、冒険者としての名声もあるとはいえこんなにたくさんの人がこの劇を見に来てくれるようになったのね…。」
「茶釜様の指導と、我々の努力の成果ですね!」
「うむ、その通りだな。こうして目にすると、なかなかどうして感動するものだ。」
「そうね。さーて、それじゃあみんな、本番、全力で行くわよー!」
「「「「「「「おー!」」」」」」」
ぶくぶく茶釜の掛け声に合わせてみんなで声を上げ、役者陣はそれぞれの定位置にはける。そして、いよいよクリスマス公演の開幕の時が来た。
『皆様、本日は劇団モモカゼのクリスマス公演にお越しくださり、誠にありがとうございます。クリスマスとは、我々劇団モモカゼの団員の多くの故郷で行われていた祭事。親しい人たちと贈り物を贈りあい、鶏肉と甘味を用意してパーティーを開くこともございました。本日の演目は、『賢者の贈り物』。ある夫婦のクリスマスの一幕でございます。』
オーレオールのナレーションの後、舞台の幕が上がる。舞台上では、半分が家の中、半分が雪の降る家の外のようなセットが組みあがっており、その中で夫に扮するモモンガと、妻に扮するぶくぶく茶釜にスポットライトが当たっていた。
『この二人が、この物語の主役、ジムとデラ夫婦です。二人は仲の良い夫婦でしたが、同時に悩みを抱えてもいました。夫婦はとても貧しかったのです。』
オーレオールのナレーションが終わると、モモンガ/ジムが一度、舞台袖にはける。そして入れ違いに、ぶくぶく茶釜/デラの視線の先に、商人のような服装の老人と女性が現れる。
「奥さん、またですか。肉をこれ以上安くすることはできません。みんな付け入ってくるんですから。大変なのは分かるが、こっちも商売でしてね…。」
「ええ、その通りよ!お金がないのはかわいそうだけど、うちの野菜もこれ以上は安くできないわ!」
「お願いします、そこを何とかなりませんか?」
降りしきる雪の中、セバスが扮する肉屋とソリュシャンが扮する八百屋に、ぶくぶく茶釜/デラが目に涙を溜めて必死に、健気に交渉する姿が映し出される。やがて二人は、仕方がないといった風で商品を袋に詰めると、それをさっさとぶくぶく茶釜/デラに渡して去って行ってしまった。ぶくぶく茶釜/デラはそれを受け取ると、セットの半分を占める家の中に入る。その中でいろいろと家事をしていると、モモンガ/ジムが家に帰って来た。
「おかえり、ジム!」
「ああ、ただいま、デラ!いつもすまないね、家のことを君に任せっきりにして。」
「いいのよ、貴方がお金を稼いでくれるおかげで、私たちはこうして生きていけるんだから。」
「ああ、本当にありがとう、デラ!」
モモンガ/ジムと、ぶくぶく茶釜/デラのやり取りが終わると、オーレオールが再びナレーションを入れる。
『さて、お金がないジムとデラ夫婦でしたが、夫婦には誇るべき宝物が二つありました。一つ目は、ジムが持っている金の時計です。時計とは、読み方さえ心得ていればそれを見るだけでいつでも正確な時間を教えてくれる道具です。ジムの持っている時計は金でできたとても見事な細工の時計で、そしてジムの祖父から父、そしてジムへと受け継がれてきたものでもありました。』
オーレオールのナレーションに合わせて、モモンガ/ジムは懐から金色に輝く時計の小道具を見せる。そして、オーレオールのナレーションはさらに続く。
『もう一つは、デラが持つ、綺麗な髪でした。これはデラだけが生まれつき持っていたまさに天性のもので、光を受けると、いつでもキラキラと輝く美しい髪でした。』
今度はナレーションに合わせて、ぶくぶく茶釜/デラがくるりと体を回転させる。すると、美しい褐色の髪が、ぶくぶく茶釜/デラの動きに合わせてキラキラ輝きながら広がり、回る。そのあまりの美しさ、そしてそれを完璧に表現するぶくぶく茶釜の動きに、観客は目を奪われた。すると、そんな観客たちの意識を引き戻すかのように、オーレオールのナレーションが入る。
『夫婦は仲良く暮らしていましたが、そんな二人の頭を更に悩ませる時期がやって来てしまいました。クリスマスです。夫婦には、お互いにクリスマスに贈り物を贈るだけのお金がありませんでした。』
舞台上では再びモモンガ/ジムが出ていき、ぶくぶく茶釜/デラが机に突っ伏して泣いていた。
「たった、たったこれだけ!ああ、どうしよう!クリスマスだというのに、私はジムに贈り物一つ贈ってあげることすらできないなんて!」
ぶくぶく茶釜/デラの嘆きを受けて、オーレオールのナレーションが続く。
『デラはジムにプレゼントを買うために、何とか節約していました。しかし、それでもままならないもので、デラの手元にジムのプレゼント用のお金は、僅かばかりの銅貨しか残りませんでした。』
ナレーションの後、ぶくぶく茶釜/デラは鏡の前に立ち、自分の姿を確かめる。その時、彼女は一粒の涙をこぼした。そして何かの決意を固めた表情をすると、身支度を整え、帽子を被って家を出た。そして舞台が暗転すると今度はセットが組み変わり、何かのお店の中になった。その店の中には、いかにも効率重視といった風体で、ユリが座っていた。
『ここはマダム・ソフロニーのお店。髪にまつわるものならば何でも商うお店です。』
ぶくぶく茶釜/デラが、恐る恐る扉を開けて舞台に入ってくる。ユリはそれを一瞥すると、気だるそうに声を出した。
「…いらっしゃい。」
「…髪を、買ってくださいますか?」
「…見せな。」
ユリ/マダム・ソフロニーの冷たい一言を受けて、ぶくぶく茶釜/デラは帽子を脱ぎ、髪を見せる。綺麗な褐色の髪がふわふわと広がった。ユリ/マダム・ソフロニーは一瞬目を見開くと、ぶくぶく茶釜/デラに歩み寄り、その髪をもう一度近くでしっかりと吟味し、言い放った。
「銀貨二枚。」
「へ?」
「銀貨二枚でどうだい?嫌なら他を当たりな。」
「いえ、お願いします!」
そう言うとぶくぶく茶釜/デラは、店の中の椅子に座る。ユリ/マダム・ソフロニーはその後ろに回り、鋏を構える。そして、鋏の音と共に舞台が暗転し、再び明転した次の瞬間にはぶくぶく茶釜/デラの髪は短くなってしまっていた。そして、オーレオールのナレーションが入る。
『こうしてデラは、大事な宝物である髪の毛を失ってはしまいましたけれども、ジムへの贈り物を飼うためのお金は用意できました。デラは少しだけ悲しかったけれど、それ以上に愛するジムの喜ぶ顔を想像して、心を躍らせて商店街を歩き回ります。』
ぶくぶく茶釜/デラが再び舞台袖にはけ、暗転して舞台が組み変わり、商店街のように、家がたくさん並んだようなセットに変わる。その中を、再び舞台に上がってきたぶくぶく茶釜/デラが、満面の笑みで見て回る。
『デラが贈り物を探していると、ふと、とあるお店の品物が目に入りました。時計を携帯するための鎖です。デラは、その美しさに目を奪われました。これがジムの時計に付けばさぞ立派なことでしょう。そう思ったデラは、すぐにお店に入り、その鎖を買うことにしました。』
ナレーションに合わせて、とある店のウインドウにスポットライトが当たる。そこには、綺麗な鎖が展示されていた。ぶくぶく茶釜/デラはそれを見つけると、顔を輝かせて店に入る。そして店から出た時には、鎖のスポットライトが消え、ぶくぶく茶釜/デラは袋を持っていた。
『目当てのプレゼントを確保したデラは、急いで家に帰ってクリスマスの準備に取り掛かります。』
再び舞台が家の内と外のセットに組みあがり、家の中側にぶくぶく茶釜/デラがいる。家の中で、再び家事をしてクリスマスの準備を進めていると、舞台の外側にモモンガ/ジムが現れ、家の扉をくぐった。
「おかえりなさい!ジム、私ね…」
「あ、ああ…。ただいま、デラ…。」
『ジムの視線は、デラに釘付けでした。そして、デラはジムの眼に浮かんでいた感情の正体が分からず、とても恐ろしい気分になってしまいました。』
「ねえ、ジム。そんな顔をしないで頂戴。私ね、あなたにプレゼントを買うために髪を売ったのよ。だって、せっかくのクリスマスにあなたに何も贈れないなんて、私絶対に嫌だったもの。ねえ、私の髪はまた伸びるわ。だからそんな顔をしないで、いつもみたいに笑顔で、「メリークリスマス」って言って!」
「…デラ…。」
そう言われた途端、モモンガ/ジムはハッとした表情になり、泣きそうな笑顔でぶくぶく茶釜/デラを抱きしめた。そして、ぶくぶく茶釜/デラを離したモモンガ/ジムは、鞄の中から一つの包みを取り出した。
「ああ、そうだね。そうだとも。君の髪はまた伸びる!それに、髪がどんなだったって、君は僕の愛しいデラだ!ああ、でも、僕がどうしてはじめのうちはあんな表情だったのかは、その包みの中身が教えてくれるだろう。」
そう言われたぶくぶく茶釜/デラは、急いで包みを開ける。そして、その中身を見て、思わず息を呑んだ。
『ジムから渡された包みの中身は、髪飾りだったのです。それは、デラがずっと憧れて、買い物の度こっそりとに見に行っていたものなのです。デラはそれに気が付き、泣きそうなほどに嬉しくなりました。』
ナレーションの後、ぶくぶく茶釜/デラは顔を上げ、満面の笑みをモモンガ/ジムに向けた。
「ありがとう!本当にありがとう、ジム!私の髪は早く伸びるから、すぐにこれが付けられるようになるわ!さあ、ジム、私の愛しいジム!今度は私の番よ!私からのプレゼントを受け取って!」
ぶくぶく茶釜/デラに渡された袋を開け、中の鎖を取り出したモモンガ/ジムは、再び寂しそうな笑顔になってしまった。そして、悲しそうな顔をしてこう告げる。
「ありがとう、デラ。この鎖はとても高価なものだし、これを貰ったことはとても嬉しいことだ。けれど、すまない。これを付けるための時計は、もう僕の手元にはないんだ。」
モモンガ/ジムの台詞に合わせて、再び舞台が暗転する。そしてモモンガ/ジムは外に出て、外でパンドラズ・アクターが扮する人物と向かい合う。家の外の側だけが証明によって照らし出され、そして、オーレオールのナレーションが入る。
『その言葉を聞いた途端、デラは何が起こったのかを理解しました。今、デラの手の中にある髪飾りを贈るために、ジムは自分が持っていた時計を売ってしまったのです。』
「お客さん、本当にいいのかい?こいつは相当な値打ちもんだ。そのうち、もっと高くなるぞ?」
「ああ、構わないとも。僕の妻のために、僕は今お金が必要なんだ。」
「分かった。」
パンドラズ・アクター/質屋は後ろを向いて、舞台袖にはけていく。そして再び舞台は暗転し、今度は再び家の中でモモンガ/ジムとぶくぶく茶釜/デラが向かい合っていた。
「ジム、あなた…。」
「時計はいつか、また買えばいい。それにね、デラ。僕は今日、鎖よりもずっとずっと大切な贈り物を君からもらったよ。」
「ジム…。ええ、そうね!私も、髪飾りよりもずっとずっと大切なものをあなたからもらったわ!」
二人はそう言うと、家の中で抱き合う。そして、オーレオールのナレーションが、この物語を締めくくる。
『こうして、ジムとデラがお互いに贈った贈り物は、狙った通りには届きませんでした。しかし、二人が本当に贈りたかったものは、二人のお互いを想い、愛する美しい心はちゃんとお互いに届いていたのです。さて、今日の物語はここまで。皆様、本日は劇団モモカゼのクリスマス公演にお越しいただき、誠にありがとうございました。お帰りの際は、足元にお気をつけてお帰りください。』
こうして、劇団モモカゼ初の特別公演、クリスマスの公演は幕を閉じた。その後、最後にお辞儀をするために舞台に上がった役者陣を迎えたのは、観客たちの拍手喝采であった。
「チャガマさん、今日もサイコーだったぞー!」
「セバス様ー!こっち向いて―!」
「パパ、ママ、モモンガさまきたー!」
どうやらクリスマス公演は、無事、大成功であったらしい。モモンガたちはいつも通りにお辞儀をした後、ゆっくりと舞台を降りる。
「ふう、みんなお疲れ様だったな!舞台の組み換えも演技も、本番が一番スムーズに行ったな!」
「ええ、そのとおりね!本当にお疲れ様!それじゃあみんな、この後は宿に戻ってクリスマス会よ!宝物殿からクリスマス料理を出して、みんなで楽しみましょう!」
「「「「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」」」」
モモンガたちはそれぞれ宿の部屋に戻り、その後、宝物殿から料理アイテムを持ち出す。そして、比較的大部屋になっている女性陣の部屋に男性陣がお邪魔する形で、クリスマス会が始まった。
「それではみんな、改めて公演お疲れ様だった!ユゴドラシルの暦では今日はクリスマスイヴ。みんなで楽しもう!それでは、乾杯!」
「「「「「「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」」」」」」
クリスマス会が始まり、みんなで料理を囲んで食べる。ユグドラシル由来の料理であるため、普段食べているものより上等なのは言わずもがなではある。しかし、今この場で仲間たちと共に食べているものだからこそ、よりおいしいと感じることができるのであるとモモンガは感じていた。
「しかし、みんな慣れてきたわね!そろそろアドリブとか期待してもいいのかしら!」
「茶釜さん、それはまだ早いと思いますよ?少なくとも俺は無理です!」
「そう?モモンガさん意外と器用だし対応力も高いから案外一番向いてるかもよ?」
「…まあ頑張ってみますよ…。」
「モモンガ様、忌憚なく申しますと、ちょろいのでは?」
「分かってるよ!それでも、期待されると頑張りたくなるんだ、私は。」
「…ええ、とてもよく分かります。私もそれは同じですので。」
モモンガたちだけではなく、他の面々もそれぞれの話題で盛り上がっていた。
「たっち・みー様がサンタさんのお手伝いをなされていたと聞いて、私感動いたしました。私にもいずれ、そのような時が来るのでしょうか…」
「ええ、きっと来ますよ。そしてその時には、ぜひこの私にもお声掛けを。子供たちの笑顔のためならば、喜んでお手伝いいたしますわ。」
「…可愛いは、いい…。笑顔は、可愛い…。だから、私も…」
「ユリ、シズ…。ええ、その時は、ぜひお願いしますよ。」
自分たちもいつかサンタを手伝いたいと意気込む面々もいれば、
「モモンガ様は行動だとおっしゃっていたっすけど、だとしても我々ヤバくないっすか?」
「ええ、正直相当だと思うわ。ユリ姉さまやシズは失態もあったけどその分活躍もあった。でも我々は…」
「だ、大丈夫よ!他ならぬモモンガ様が、良い子の元にやってくるとおっしゃったのだから!我々はまだ、この世界で悪行をなしたわけではないわ。だから…」
「プレゼントぉ、もらえるといいなぁ…」
サンタがプレゼントをくれるか心配な面々、
「モモンガ様と茶釜様、とっても楽しそうね!」
「そうだね、お姉ちゃん。僕も、楽しいよ。」
「あたしもよ!あたし、茶釜様のところへ行ってこようかな!」
「お姉ちゃん!うう…。じゃ、じゃあ僕はモモンガ様のところへ行く!」
いつも通りの面々もいて、
「モモンガさまたち、カッコよかったねー!」
「そうね、とってもきれいで、素敵なお話だったわ。私もいつか、あんな…」
「あら、面白そうな話をしていますわね?」
「オーレオールさん!」
「私もご一緒してよろしくて?貴方たちが何を話すのか、私とっても興味があるの。」
自分の興味について話す面々もいる、と様々であった。やがて時間が過ぎ、クリスマス会はお開きとなった。そして、みんなが寝静まったころ、ぶくぶく茶釜はふと目を覚ました。とある人物に用があったためだ。その人物が今、何をしているのか想像がついたぶくぶく茶釜は、指輪を使って宝物殿に入る。すると…
「やーっぱり、ここにいたのね。」
「ちゃ、茶釜さん!どうしてここに?」
ガサゴソと宝物殿をあさっているモモンガが見つかった。
「簡単よ。モモンガさんがわざわざサンタさんの話を出した時、もう違和感があったもの。ねえ、モモンガさん、みんなにプレゼントあげるなら、私も混ぜてちょうだい!」
「…バレてましたか。本当は、こっそりやりたかったんだけどなあ。」
二人でプレゼントを選びながら、ぽつり、ぽつりと話をする。
「ねえ、モモンガさん。あの時、私がモモンガさんにクリスマスの特別公演の話をしに来た時のことよ。あの時、ちょっとビクッとしてたのって、もしかして…」
「そこまでバレているんなら、もう隠す意味はありませんね。そうです。あの時すでに、俺は今日のために動き出していました。宝物殿の中には、彼らの創造主、かつての仲間たちの物も多い。彼らが希望を感じられるように、少しでもアインズ・ウール・ゴウンのメンバーを近くに感じられるようにしたいと思って…」
「そうね、それはとってもいいアイディアだと思うわ。私に話を持ち掛けてくれなかったこと以外は、だけどね。」
「それは、本当に申し訳ありません。でも、俺には一人で動かなければいけない理由があったんです。」
「そうなの?一体どうして…」
ぶくぶく茶釜の言葉は途中で途切れ、ぶくぶく茶釜はそのまま固まってしまった。何故ならば、答えだと言わんばかりに差し出されたモモンガの手には、包みが握られていたからだ。
「俺は、茶釜さんにもプレゼントを贈るつもりだったんです。サプライズの相手を、自分の計画に巻き込むわけにはいかないでしょ?」
「…もしかして、そのために商店街へ?」
「ええ。この中にある俺の物の中に、女物のアイテムは探したけどありませんでした。かといって、他の仲間たちのアイテムを使うのは気が引けたし、それに…」
「それに?」
「俺たちが今いるのユグドラシルじゃなくて、この世界です。だから、贈るならこの世界の物がふさわしいと思った。ユグドラシルの物と比べると、何の性能もなくて、細工も不格好であったとしても。俺はこの世界にあるものを、貴女に贈りたいと思ったんです。」
そう言って微笑むモモンガの顔を、ぶくぶく茶釜は一生忘れないだろう。ぶくぶく茶釜は思わず流してしまった涙を拭くと、満面の笑みを、今自分ができる最高の笑みを心から浮かべて、モモンガに手を伸ばす。
「モモンガさん、本当にありがとう!早速、開けてもいい?」
「ええ、どうぞ。」
モモンガから包みを受け取ったぶくぶく茶釜は、さっそく包みを開けて、中身を見てみる。すると…
「これは…」
その中身は、ネックレスだった。自分の最強装備である円盾のような形をした円盤に、赤と青の二つの宝石があしらわれていた。
「綺麗…」
「茶釜さんと言えば、円盾と、アウラとマーレですからね。全部の要素を満たすアクセサリーを探してみたんです。見つかったのは昨日だったけど、最後まで諦めなくて良かったと、今、その顔を見て思えました。」
そういったモモンガは、喜びを噛みしめているぶくぶく茶釜をさておいて、一人プレゼントの選定作業に戻ってしまった。それを見たぶくぶく茶釜は、こうしてはいられない、と一つ包みを取り出す。そして、モモンガの肩を叩いた。
「モモンガさん、ちょっといい?」
「なんですか、茶釜さん…って、へ?」
今度は、モモンガが困惑する番だった。モモンガは自分が終始贈る側であるつもりだったらしい。しかし、ぶくぶく茶釜はモモンガの計画に気が付いた時点で、モモンガにもプレゼントを贈ることを決めていた。正直モモンガから自分へのプレゼントは全く想定していなかったが、であればなおのこと、やられっぱなしは性に合わない。
「本当は全部終わってからのつもりだったけど、モモンガさんが私にここまでしてくれたんだもの。じゃあ私も、今渡さないとね!」
「茶釜さん…。本当に、ありがとうございます!」
モモンガは受け取った包みを、ぶくぶく茶釜と同じようにその場で開ける。すると、そこには…
「…何ですか、これ?」
珍妙な形状のアイテムがあった。
「それね、魔術師組合で買ってきたのよ。説明はなんかいろいろ言われすぎてよく覚えてないんだけど、とりあえずこっちの世界に固有の魔法がかかってるアイテムっぽいわよ?」
「…ほう?」
ぶくぶく茶釜の話を聞いて、モモンガはますますそのアイテムに興味を示した。
「モモンガさんと言えば、魔法とコレクションだものね。こっちの世界の魔法なら、どんなものであれ興味はあるんじゃないかと思って!」
「茶釜さん、改めて、本当にありがとうございます!暇なときにでもいじくりまわしてみますよ!コレ、一体何なんだろうな?」
そう言って笑うモモンガの顔は、少年のようだった。ぶくぶく茶釜はは笑顔でそれを見守っていたが、やがて落ち着いたモモンガとともに、再びプレゼント選びの作業に戻る。
「…セバスにはこれを贈ろうと思うんです。」
「…それ、勝手にあげていいものなの?」
「大丈夫ですよ。これ、元々たっちさんが布教用に持って来たものですから。でもみんなあんまり興味がなくて、ここにあるのは受け取られなかった、言わば在庫なんです。何なら同じのまだここにいっぱいありますよ?」
「…そう、ならいいわ。それとお願いなんだけど、アウラとマーレの分は私に選ばせて!」
「もちろんです。その二人は茶釜さんにお任せしますよ。」
どんどん、夜が更けていく。急いでプレゼントを選んでいると、モモンガは、あるアイテム群を見つけた。
「これは…。うん、パンドラズ・アクターにはこれを贈ろうと思います。」
「…それは?」
「これは、ユグドラシルを始めたばかりの時の、俺のデビュー装備のレプリカです。あんまりいい思い出はないし、ユグドラシルだけじゃなくてこの世界基準でも貴重なものじゃないけど、パンドラズ・アクターに、これを持っていてほしいと思ったんです。」
「…いいと思うわ。それに、とっても喜ぶと思う。」
こうして、全てのプレゼントを選び終えた二人は、宿の部屋に戻ってプレゼントを配る作業に入った。絶対に途中で気が付かれないように、大人げなく≪
わざわざ劇の途中のナレーションで時計について言及したのは、途中で「あれ、この異世界ってそういえばそもそも時計が一般的じゃ無くね?」と思ったためです。異世界の人たちに時計が一般的な描写をご存知でしたら訂正しますので、詳しいしい方教えてください。さて皆さん、クリスマス公演回、如何でしたか。投稿予定日から遅れて本当に申し訳ない。また本編頑張っていきますので、応援よろしくお願いいたします。それでは、今回もご意見ご感想をお待ちしています!