殺し屋JKと異端なDS   作:りこりこ・りこりこ

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08 You have the best smile.

 

 

クルミは1人、ただただ映像を眺めていた。

VRゴーグルを着用し、仮想世界(ヴァーチャル)にて映されている場面を穴が開く程に凝視し続けていた。

 

その映像の内容は勿論、自分も決して無関係ではない銃1000丁の闇取引現場。

 

凝視しては歩いて、歩いては視点を変えて、高さ位置も変えたりして、取引現場にいる男たち1人1人を確認していく。

 

 

「……主犯はどいつだ?」

 

 

疑問符を浮かべているが、実のところクルミには主犯の凡その検討は付いていた。……ただ、確証が無い。この揃っている軍服に身を包んでいる男たちとは違う緑色のボサボサ頭の男だ。明らかに雰囲気のソレが周囲とは違う。浮いている、と言っても良い。

 

十中八九、この男だ―――。

 

 

「う~~……、龍のヤツにも相談しとかないとな」

 

 

VRゴーグルを外して一息つくクルミ。

普段からつけ慣れているし、三半規管が弱いと言う訳ではないから、VR酔いと言うのも問題ない……が、ここで1人でいるからこその愚痴が出てくる。いや、嫉妬か。

 

 

「しかし、アイツの能力(ちから)………やっぱズルい」

 

 

規格外をそのまま体現している様な男。

あの千束とやり合った場面を、DAのリコリスを一蹴した力を見ているが、それ以上にクルミが反応してしまうのはやっぱりデジタル分野だろうか。

帯電の異常体質は、ただ攻撃主体な人間兵器とかではなく、電子兵器にもなれる。ハッキリ言ってその応用力は、とんでもない。色々とアイディアが出てくる。

しかし、今更だけどまさかの機械類にまで及ぶとは……と気を抜けば唖然と、呆然として思考放棄してしまいそうだ。

 

意思有るスーパーコンピューターの方がまだ生易しいと思える程の人外な力。……やっぱりズルい、何度考えてもズルい。

 

 

「ボクにアレが出来たとしたら……、まぁ食事代だけは多少掛かるかもしれないけど、そこクリアしたら殆ど心配いらず、だもんなぁ(総攻撃的なのされたらアレだけど)………帰ってきたらまず初めにヤキ入れからだ」

 

 

随分と物騒な事を言うクルミ。

最初は、あの力をバケモノだと思えた男に対して、現在はズルい、ヤキ入れる、とまで言える様になったのはある意味信頼関係を得た、結ぶ事が出来た、とも言える。

死を偽装し、リコリコで匿って貰っている等 対策をしているとはいえ、命を狙われる存在でもある天才ハッカー クルミ=ウォールナットにとっては、間違いなく福音を齎してくれる事だろう。

 

でも、丁度その頃———何処かの誰かさんは盛大にクシャミをしていたとかしてないとか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は変わり——水族館。

 

 

「姉ちゃんが言う良い所って水族館の事だったんだ?」

「そうそう、そのとーり!」

「千束はよく此処に?」

「ふっふっふ~~」

 

 

見事なまでのブルーな世界に囲まれた水族館。

色とりどり鮮やかな多種多様な魚たちが歓迎してくれているかの様に泳ぎ回る世界で千束は胸を張って懐から何やらを取り出した。

 

 

「年パス~~、気に入ったなら龍とたきなもどーぞ! 私ここ好き~! 何度来ても全然飽きないんだもんっ!」

 

 

年間パスポートまで常備とは。

楽しい事、したい事最優先な千束の事だ。ただ一応買っておいた~程度で終わる訳がないだろう。間違いなく何周も回っている筈だ。

そして、生き物とは毎日同じではありえない。日々変化するモノだから、いつ来ても新たな発見と楽しみが生まれて、千束はそれに目を輝かせる。

 

……回数を重ねているのなら、下手な館内表示、案内板を見るより最早ナビゲーターをして貰っても良さそうだ。

 

 

 

 

 

「ほらほら! 見て見て! ここには~~……()がいま~す!」

「……絶対言うと思った」

 

 

そして、いの一番に連れてきてもらった……と言うより、専らの人気スポットであり、入り口の傍に展示されている事も有って、順路的に言えば普通に1番目の場所『タツノオトシゴの世界』だ。

 

 

「そんな顔しないのしないの! カワイイ顔が台無しだよ~? りゅう~~。ほら、千束さんと龍、たきなが来たよ~タツノオトシゴ~~!」

「もうっ! 恥ずかしいからそんな大きい声で言わないで!」

 

 

タツノオトシゴを前にして、燥ぐ燥ぐ。

 

名の由来が、《()》を思わせる、連想させられる姿になってるので、《竜の落とし子》と表現されて、そこから《タツノオトシゴ》となった訳だ。

他の国では《ヒポカンパス》とも呼ばれて、それはギリシャ語の《Hippos()》と「Campos(海の怪物)」が由来になってるとか。

 

ここまで説明しなくても解ると思うが、《龍》とタツノオトシゴの《タツ》で千束は連想したのである。子供が子供に対して揶揄う様なモノだ。

 

 

「それはそれとして――――」

「どしたの? たきな」

 

 

そんな中、たきなは1人せっせとスマホで調べもの。

どうやらタツノオトシゴについて調べている様で、ものの数秒で検索結果が出た様だ。

 

 

タツノオトシゴ(これ)、魚なんですって」

「そりゃそうだよ」

「マジ!?」

 

 

龍は最初から解っていた様で、軽く苦笑い。タツノオトシゴと言えば水族館好きなら人気スポットの1つだから興味を持つだろうし、調べもするだろう。何なら説明書きも同じ場所に展示されている。……でも、千束は知らなかった様だ。

 

 

(うお)だったのか、コイツは……」

「ね? (タツ)じゃないんだよ。あくまで昔の人がそう言う風に見えたから名付けられたってだけで~~」

「かーわーいーくなーーーい! もっとこう、少年心を取り戻し給えよ、龍少年! ここは幻想的な世界! その名も水族館なんだよっ!? 達観し過ぎるには早熟過ぎるぞぃ!」

「むぎゅっっ!!」

 

 

博識と言う訳ではないが、見た目小学生な龍に色々と諭される千束は、先手を打って再び龍に抱き着いて物理的に口を塞いだ。

 

 

「まぁ、魚だとしてこの姿になった合理的理由があるんでしょうか?」

「……こっちはこっちでマイペースに変な事言ってるぅ!」

「別に変じゃありませんよ。何かあると思いませんか? こういう形状に進化した理由。気になります」

「うーん……、合理的、合理的ねぇ……?」

「むーむーむー!」

 

 

 

 

変なタイミングでたきなとのシンギングタイムが始まってしまったせいで、龍は暫く千束の拘束から逃れる事が出来ず、ただただ悶えてしまうのだった。……乳圧が凄まじいので、危うく酸欠だ。世の男性の皆さんには申し訳ないが、あまりにもこの手のスキンシップ(疑)が多いと、感動は完全に薄れ、最早拷問に近いかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「龍、これを見てください。これも魚の様ですよ」

「うん、これはウナギ目アナゴ科の海水魚だね」

 

 

千束から解放された龍は次はたきなの方へと駆け寄った。流石に公衆の面前での抱き着き攻撃、ホールドはハードルが高い……と言うより恥ずかし過ぎる。顔を赤くさせているのは、酸欠のせいだ! と理由付けて千束と少し離れる事を選択したのである。

 

たきなはたきなで、水族館を楽しんでいる。

次に目に入ったのは、先ほどのタツノオトシゴと同じく人気のある種。

巣穴から顔を出してゆらゆらと身体を揺らせているその姿にたきなは興味深々。

 

そして、ここでも千束の奇行が光るっ!!

 

 

「ん~~♪ んん~~♪」

「……何してるんですか?」

 

 

気を付け! の直立不動状態から両手をゆっくり真っ直ぐと頭上へと上げた。手先だけを撓らせてゆらゆら~~と揺らせる仕草は、きっとこのコの真似なのだろう。

 

 

「え? チンアナゴだけど~?」

「姉ちゃんってほんと動じないよね」

「龍やたきなが恥ずかしがり屋なだけでしょ~~? ほらほら、こーやってゆらゆら~~ってしてみ? してみ??」

「やーだ」

 

 

子供なら燥ぐ年頃とも言えなくはないが……、中身は違うので(と言っても10代)そんな事はしない。千束は別に気にした様子なく、ただただチンアナゴの動きに合わせる形で手を、腕先を、更には身体全体まで使って表現している。

人気スポットだから~と言う訳ではなくても目立つ。非常に。

童心に戻って~と言うのもアリなのかもしれない、風貌、容姿から考えたら一緒に遊ぶ、周囲に迷惑にならない範囲で遊ぶ~と言うのも自然なのかもしれないが、やっぱり無理だ。

 

 

「千束。人が見てますよ。目立つ行動は控えてください」

「え~? なんで~?」

 

 

ノリに乗ってる千束を止められる者など皆無! と言った感じで千束のチンアナゴダンスは続く。たきなは、一度ため息を吐くと控えろ、と言った理由を話した。

 

 

「私達はリコリスですよ? 目立つ行動は慎むべきです」

「あ~~、なるほど~~、でもでも、たきな駄目だよ~? だって、制服着てない時はリコリスじゃないも~~んっ」

 

 

くるくる~と周り、ステップを踏む。

 

 

「そんなに気に入ってるの? その変な踊り」

「なんだ~、変とは~! チンアナゴの考えを理解しようとしてるんだよ~! 高尚って言ってくれたって良いんだよ~~。こうやって、ゆらゆら~~っと」

「高尚の意味調べた方が良いよ、姉ちゃん。……でも、制服着てない時はリコリスじゃないって意見はボクも賛成かな。たきな姉ちゃん」

「え?」

 

 

目立つ行動を避けて貰いたい。

千束は制服を着てない時はリコリスではない、と言うがそれでもリコリスにである以上、DAに所属している以上、迷彩服の役割でもある女子高生の制服を身に纏い、治安維持に努めている以上、極秘である事を自覚し、行動を改めるべきだ、と言う考えは間違ってないと思っている。

 

でも、どうやら龍は千束の意見に賛成な様だ。

目立つ事、恥ずかしい事は別にして。

 

 

「仕事のオンオフはきっちりしておかないとね? いつも気を張り詰めてたら、休める時も休めないし、遊べるものも遊べないじゃん。リフレッシュ出来ない」

「………そう言うもの、でしょうか?」

「そうだとボクは思うよ。それに、何だかいつものたきな姉ちゃんより、今の方が良いって思う。笑顔も増えてる気がするし、自然体って感じがするからさ」

 

 

ニッ、と歯を見せて笑うその瞬間だけは無邪気に見える。

自身より年下な筈なのに、こういう一面を見ると年上の様にも思えてくるのが不思議だ。

それに、ドキッとさせる言動を臆面も無く言い切るのは恥ずかしい事ではないのだろうか? とも思ってしまい―――。

 

それらの思考は千束の乱入によってかき乱される。

 

 

「おお~~、やっぱし龍もそう思うよね~~! じゃあ、一緒に自然に帰り給へ~~! ほれほれ、ちんあなごー! ちんあなご~~!」

「だからそれはやーだー」

「にゃにお~ぅっ!? そーゆーところは生意気だぞぅ~!」

 

 

千束は龍に飛び掛かる―――事はなく、そのままチンアナゴ続行。

チンアナゴになりきってる今の千束は飛び掛かるなんて事はせず(できず?)、口では色々言っていても、そのまま揺らり揺らりと揺蕩い続けるのだった。

 

 

千束の傍で笑っている龍、たきなも一緒になって笑っていたが、ふと気になった事があったので千束に聞いてみた。

 

 

「千束は、あの弾丸(たま)いつから使ってるんですか?」

「――――どーしたの? 急に」

 

 

今の今まで水族館の話だったが、突然のたきなの質問に千束はチンアナゴを止めてた気なの傍に寄った。

 

 

「あ~……僕が沢山壊しちゃったヤツ。……ミカさん嘆いちゃってたよ? 姉ちゃん」

「ぶーー! 龍の責任でもあるじゃん! あんなに撃つ事なんて滅多に無いんだからね!?」

「当たってあげればよかったの? やだよ、絶対! 凄く痛そうだもん」

 

 

千束とたきなとたまに仕事をする時。

あの銃を打つところを何度か見た事がある。見事に赤い粉末が周囲に飛び散り、宛ら彼岸花を演出している様にも見せられるそれは、まさしく彼岸花(リコリス)を象徴すると言っても良い、と思ったりもしていた。

 

そして、当たった人達は全員が等しく悶絶していたから相当痛いだろう事は予想出来る。大の大人が転がってしまっているのだから。

千束の異常な回避能力を十全に活かした至近距離からの発砲~が基本な戦術(スタイル)になってしまっているので、少しも損なわれてない運動エネルギーそのまま受けてしまう。

痛くない訳がないだろう。

 

 

「そうよ! あれ、当たるとメッチャ痛いの! お仕置きには持ってこいじゃない?」

「お仕置きされる謂れはありませーん! って、それより僕が横やりしちゃったからだと思うけど、話逸れちゃった。たきな姉ちゃんが聞いてたの答えてよ。僕も気になる。……と言うより、姉ちゃんは実弾撃ってた時期ってあるの?」

「あの弾丸を使う理由も合わせてお願いします」

 

 

千束の過去は詳しくは聞いていない。

電波塔の件は千束がやった、程度の事を秀爺に聞いただけだ。それ以上は何も知らないし、特に聞いてもない。

 

ただ、唯一気になるのは千束は殺人を犯した事があるかどうか、が少しだけ。ほんの少しだけ気になる。

何か事情があって、過去のトラウマの様なモノが千束を今の不殺に仕上げてしまったのだろうか? と。

 

感情移入はどちらかと言えばし易い性質なので、聞いてみて後悔するかもとも思えたが、たきなが聞いて、自分も気になったので躊躇う事なく聞いてみたのだ。

 

 

「ん~、あの弾丸使う様になったのは旧電波塔の時。あの時、先生に作って貰ったんだよ。……それと実弾に関しては訓練では撃った事あるけど、実際には無いかなぁ~。私は【いのちをだいじに】が信条だからね」

 

 

どうやら、過去に何か……殺しがあって今に至る~様に思えたけれど、それは全く違うらしい。でも、何処かほっとしたのは何故だろうか? 

人殺しだからと言って特別変な目で見たりしていない。そう言う世界のそう言う環境で、仕事だから仕方がないとアッサリと割り切った筈だった。

たきなだって機銃掃射でテロリスト全員射殺している筈だけど、別に変に気負ったり、怖がったりしていない。普通に接してみると、少々抜けた所があり、常識的な所が欠如してて面白くもあり、笑うと可愛らしい普通の女の子だ。

 

でも、千束に関しては……手を汚してなくて良かった、と思ってしまったんだ。

 

 

「ふっふ~ん、2人ってば私に興味あんの~?」

「え?」

「??」

「だってほらぁ、熱烈な視線を今でも向けてくれるじゃん? ほれほれ~」

 

 

くねくねと身を捩らせる千束。わざとなのか、或いは心情を読みとってお道化てみせているのかは解らないが、たきなは特に深く考えてる様子無く、普通に答え返した。

 

 

「まあ、タツノオトシゴ以上は」

「じゃあ、チンアナゴ! チンアナゴよりも?」

「茶化すならもう理由は聞きませんよ」

「……それに千束姉ちゃん、チンアナゴ連呼してると周りの皆に下ネタを女の子がしてる、って思われちゃうよ。なんか卑猥」

「んな! なんでそんな事になるんですかーー!!」

「だって、チン「こらーーー! 何口に出そうとしてるか! 乙女の前で!」むぎゅっ」

 

 

下ネタ、と言う言語を聞いて思わず飛び上がる千束。

よくよく考えてみれば、確かにチンアナゴと今日は沢山言ったかもしれないが、それはしっかりとなり切ってたからであって、他意はない。断じて。

 

 

「だって姉ちゃん、痴女疑惑アリだもん」

「まだそれ引っ張りやがりますか!? って、逃げるな! コラ待てぇぇ!!」

 

 

たきなを中心にしてぐるぐると自分の周りで追いかけっこをする2人。

流石に迷惑になりそうなので、早々にたきなは止めた。

 

 

そこで千束は軽く……いや、大きくため息を吐くと理由を口にした。

 

 

「【いのちをだいじに】そう決めた理由はね、【気分が悪いから】だよ」

「「え?」」

 

 

凡そ繋がらない内容な気がして、たきなと龍は揃って小首を傾げた。

そんな2人を見て、ニッと笑った後千束は続ける。

 

 

「そっ。【誰かの時間を奪う】のは気分が良くない。……それがアクニンなら尚更最悪! そんな気持ちにさせられるなんて、ちょーー最悪! 嫌―――! って感じ。だから、死なない程度にぶっ飛ばす! ふふん、龍も言ってたけどアレ当たるとメチャクチャ痛いのよ~。それこそ、死んだ方がマシだーー! ってなるかも」

「ふふふっ。私はもっと博愛的な理由かと思ってたのに、千束は謎だらけですね」

「Mysterious Girl!! そっかそっか! そんな魅力もあったか~私ぃ♪ ……あーでもでもダメだ。だって私以上のMysterious Boyが傍に居るからなぁ、私なんて掠んじゃうって」

 

 

Mysterious=不思議な、不可解な、神秘的な。

その意に相応しい者と言えば……やっぱり1人しかいない。

たきな自身も、そこまで意識していた訳ではなく、たきなにとって千束は不思議である、と言う事実も間違いないから気にしていなかったが、千束に改めて言われたらその通りだ、と思い直す他無い。

 

 

「えー。姉ちゃん女の子(ガール)じゃなくて、男の子(ボーイ)だったの?」

「いや、なんでやねん! 思わずオーソドックスなツッコミしちゃったよ!! なんでやねん!」

「だって、今『私以上のミステリアスボーイがいる』って言ってたし」

「私はGirl! 痴女の次はBoyとか! もう、ぜ~~ったい揶揄ってるでしょ! いい加減解るんだよ、龍!」

「あはははは。ごめんごめん。ちょっと無理矢理過ぎたね。それにこれを茶化すつもりは無いよ」

 

 

1人だけ立っていた龍は、ひょいと2人の間が丁度空いていたので挟まる形で座った。

 

 

「姉ちゃんの言う通り。それに自分でも思ってる事だし。僕は不思議で不可解で、……摩訶不思議だ」

「その辺はこう、ズバッ! とこれを気に暴露しちゃったりする? 私の事も話してあげたでしょ?」

「暴露するもなにも、最初から言ってるでしょ? 何で僕が四国に居たのか、何で僕にこんな能力があるのか、……何でああも狙われちゃう様な事態になったか、何一つわかんないよ。ただ、沢山助けられて今がある、って言うのは解るけどね。姉ちゃんたちは勿論、リコリコの皆や四国の秀爺も」

 

 

当然、ある程度のウソは混ざってる。

転生した事実は話すつもりは毛頭ないから。まさに超常的な現象。そんなものに対して理由付けしたり、説明したりしきる自信がないのだ。

 

……一番は面倒だから、と言う理由だが、それはそれである。

 

 

「難しい事考えずに、したい事だけ頑張ってする! それに尽きるって思うんだ」

「それは、千束の受け売りですね龍。《したい事最優先》」

「そうそう! まさにそれ! シンプルで解りやすいし、何より気が楽だよ。したい事、やりたい事やってたらやっぱり毎日が楽しいから」

「ふっふっふ! 2人とも私の事よーく解ってきたね! そんな2人には免許皆伝、千束級を表彰しましょーか!」

 

 

あははは、と千束は笑いながら立ち上がってくるくる~と回り始めた。

 

 

「千束の免許皆伝は兎も角。別にDAを出なくても良かったのでは? とは思いますね。千束ほどの腕なら殺さずに生かす、そう対処する事など、DAに居ても問題なく出きたでしょう?」

「え?」

 

 

ネタに乗ってくれずがっかりしてぴたっ、と回っていた千束は止まった……訳ではない。

何だか罰が悪いのか、少しだけ苦笑いしつつ頬をポリポリと掻いた。

 

 

「あぁ……話してなかったっけ。……えっとね。人探し……してたんだ。会いたい人がいるから。大事な、大事な……、その人を探したくて」

 

 

そこには先ほどまで陽気に笑って回って燥いでいた千束の姿はない。

やりたい事最優先。一番やりたい事、会いたい人にまだ会えていない、と言う事はその様子から見ても解る。

千束は自身の胸に手を当てた。

そこにはネックレスあり、おもむろにそれを首から外してたきなと龍に見せた。

 

 

「知ってる? これ」

 

 

象られているのはフクロウなのだろうか……、でも何処かで見た事がある、とたきなは思い出しつつ、スマホを操作する。

そして龍だけは反応が違った。

 

 

「んっん……? あれ? それって僕のと同じ? でも色が違う」

「え!?」

 

 

たきなは調べものに夢中になっていて、龍が同じく首から下げていたペンダントを外した。ハイネックを来ている為か、ペンダントをしているなんて思っても無かった。

 

そして取り出されたのは同じ形、フクロウを象ったであろうペンダント。……ただ色は、ネット情報にある物や千束とは違い金色だ。でも、色の違いなど全く気にしない。

千束はそれを見せられて目の色を変えた。変えると同時に一瞬で龍に接近する。

 

 

「それ!! それだよ龍! どうしたの? 誰に貰ったの!?? 教えてっっ!!」

「ね、ねえちゃん近い近い!! ちょっと待って! ちゃんと説明するからっ! 茶化したりしないからっ!!」

 

 

千束がずっと探し続けてきた。DAを離れ、不殺を心掛け、今日までやってきた理由がその顔も覚えていない探し人。命の恩人。

 

手がかりはこのペンダントだけ。

 

圧倒的に情報が足りず、DAの情報機関を駆使してもそれは難航してしまい早10年……、半ばあきらめかけていた時に、目の前の少年の手の中に見えた一筋の光明。

千束がそれを見て落ち着いていられるわけがない。

普段から落ち着きがない子だ、って言うのはこの際置いておいて。

 

 

「アラン機関が贈るペンダント……確かに似てますね。龍もそれを持っていた、と言う事はアラン機関から送られた、と言う事ですか?」

 

 

最新のニュースでも恐らく同じ物であろうペンダントをつけている人物がいる。

調べて直ぐにヒットした。

 

アラン・アダムス、世界的な匿名支援者の名。

スポーツ、科学、文化などの世界中様々な分野のエリートたちが次々とアラン・アダムスからの支援を受け、支援を受けてきた者達は「アランチルドレン」と呼ばれている。

 

 

フィギュアスケート オリンピック金メダリスト 山田 涼

日本初ヒューゴ賞長編小説部門受賞者     樋口 長平  ————などなど

 

 

何れも輝かしい成績を残した者達であり、アラン機関からの支援を受けた事を明言している。

 

日本にまで支援の手を伸ばしているアラン・アダムスが一体何者なのか、それは現在でも不明だが、その支援の歴史は古く100年前にも遡るとも言われている。

その正体は世界的な大富豪なのか、それとも巨大な支援団体なのか、様々な説が囁かれているが、真相には至っていない。

支援対象には共通点があり、そして支援に対する見返りは一切求めない無償のものとなっている。

更に手紙等メッセージを残すこともなく、その正体の秘匿は徹底されており、支援を受けた者にはその証となる鳥の意匠が施されたペンダントが贈られている。

 

そのペンダントは、アランとアランに支援された者、救われた者を繋ぐ唯一の代物なのだ。

 

 

 

「これ、秀爺から貰ったんだよ? 東京(こっち)に来る時に餞別だ~~って。だからそのアランって機関の支援じゃないと思うんだけど……………。ん?」

 

 

 

ここで龍は引っかかる物を覚えた。

ネットで調べられる範囲内ではあるが、これまでの《アランチルドレン》と呼ばれる者達の様な支援は龍自身は受けたとは言い難い。

そもそも、龍はアラン機関が支援を行う対象、条件と言うべきものに入らないと言うのもある。

 

でも、あの廃ビルに然り、自身の能力を活かせる設備(主に電気料金)に然り、近隣住民の皆さんと楽しくやれたのはコミュニケーションのおかげと言えなくは無いが、それでもただの子供が1人で暮らしていけるのは結構大変だった。(孤児院等には行きたくない)

だから、秀爺と知り合ってから東京へと出てくるまでの事を考えたら支援をしてくれた~と言えなくもないから。

 

 

だから、ひょっとしたら秀爺がアラン機関の………。

 

 

「あの秀さんも凄い才能があった、って事なのかな!? 私と同じ!!」

「……………」

 

 

千束はそう解釈した様だ。

無論、その可能性も大いにある。100年も続く古い歴史だと言うのなら、秀爺が何か特別な才能を持ち、秀でていた事もあってその他諸々の支援対象に入ったと言う可能性だ。

ただ、それを他人にプレゼント、餞別なノリで譲渡するか? と問われたら……正直安易には頷けない。

よくよく考えてみたら、ノーベル賞にも匹敵しそうな代物だと思っているから。

 

 

「よーく考えたら、秀爺って謎な人なんだよねぇ……。全身黒服。どこの黒の組織だよ、って感じな連中に追いかけられてる所を僕が助けた事から縁が始まったんだけど……、職種とか聞いても本気か冗談か解らない様な事、言ってたし」

 

 

弁護士やら警察やら医師やら――――気軽に取れる資格取得みたいな感じで言っているがどれもこれもレベルが高いし、生涯の職業になるモノばかり。でも、人脈は確かにあるし、それから襲ってくる変な連中の後始末も秀爺の伝手だ。

深堀はしてないし、追及もしようとも思ってなかったが……今考えたら、そのアラン機関に関係するとしか思えない。

 

 

「だから、僕が支援者に選ばれたんじゃなくて、秀爺なの。……だから、千束姉ちゃんには悪いけど、次に四国に行く時聞いてみる? それとも電話してみる?」

 

 

一応、電話番号は聞いてる。

出ないぞ~~、と冗談言われたが、何度か電話はしているし着拒してる訳ではなさそうなので大丈夫だろう。

 

 

「よし! 電話して!! 宜しくどうぞ!!」

「はいはい」

 

 

目を輝かせて電話をせがむ千束。

会いたい人に繋がる可能性が有るのならば、何でもしたい。

 

 

龍は苦笑いをしながらスマホを操作。そして秀爺を選んで通話ボタンをタップ。

 

 

………コールを何度かならせているが出てくれる気配は無い。

 

 

これまでは、2,3コールあれば直ぐにつながっていた筈なのに。

 

 

「忙しいのかな? 仕事中?」

 

 

更に数コール後留守番機能に切り替わってしまった。

 

 

「あ、もしもし秀爺? 久しぶり。……えっと、この間貰ったペンダントについて千束姉ちゃんが聞きたい事があるらしくってさ? また折り返し電話ちょうだい? じゃ、よろしくね!」

 

 

しっかりと音声を残しておく。

これで、内容を聞いたら折り返しかけてくるだろう。

 

 

「ありがとね、龍」

「どーいたしまして」

 

 

でも、龍は何だか掛かって来ない気がしたりもしていた。

それは、千束に対する意地悪~的なモノではなく、本当に何となく……何となく虫の知らせ的な。

もう、秀爺には会えない……そんな嫌な予感が。

 

 

ほんの僅かだけど芽生えた不吉な予感は、次のたきなの声で気にしなくなる。

 

 

「それにしても、これを貰うと言うのは何か凄い才能がある、って事ですよね? 千束には何かあるんですか?」

 

 

アラン機関の支援者は皆一様に素晴らしい成果を残している。

天才とも呼べる者達ばかりだ。

その中に龍は例外としても、千束は確実に含まれている。気になるのも当然だろう。

 

 

「ふっふっふ~~……、わからな~~い♡???」

 

 

もう飲み干してしまったタピオカジュースの空容器を片手に、腰を括れさせ、手を頭に置き、ポージングを決める。

 

それは丁度背後のポスター。四ツ矢サイダーのイメージグラビアモデル【滝奈和 麗那】のセクシーショットを真似している様だ。たきなと龍はそんな千束を見てジャッジ。

 

 

「うーん……。確かにカワイイと思うけど、なんか…………」

「それじゃないのは確かですね」

 

「ぅぅ……あのナマイキな龍にカワイイって言って貰えた! って思ったのに、上げて落とすか、キサマらぁぁ…………」

 

 

がくぅ……と机に突っ伏した。

 

 

「そもそもぉ、自分の才能が何なのか、なんて解るぅ?」

「何かあれば良いんですけどね」

「そうそう! そんな感じでしょ?」

「才能かぁ……僕には縁のない話だよね」

「いやいや、龍はおかしいから! おかしい事自体才能だ~ってカウントしても全然問題ないから!!」

「………うるさいな! おかしい連呼しないでよっ! そう言う姉ちゃんだっておかしい分類だからね!」

「何おーー!」

 

 

心なしか、千束は先ほどよりも明るく見える。

人探しをしている、と言った時、沈んでいた様に見えた彼女はここには居ない。

 

 

「でもま、秀さんが最後の砦って感じがするなぁ。……もし、これでもダメだったら、もう会えないかもね」

 

 

折角明るくなった筈なのに、折角沈んでいた気持ちを浮き上がらせた筈なのに、千束の声のトーンは再び下がり出した。

空元気だったのかもしれない。

 

 

「……助けてくれて、ありがとう。って、言いたいだけなんだけどなぁ………」

 

 

儚げな表情を水族館の水槽へと向ける。そこには魚たちが泳ぎ踊り、楽しそうにしている。お客さんたちも等しく楽しそうにしていて、そんな中で悲しそうにしているのは千束だけだ。

 

暗い顔は千束には似合わない。

 

 

「「うん」」

 

 

きっと、たきなと龍はこの時意識がシンクロしたんだと思う。

言葉を介さずに、想いが伝わったと思ったから。

 

たきなと龍は、椅子から立ち上がり水槽の前に立つ。

あれだけ目立つ事を嫌がった2人だったけれど、その水槽に立った後恥ずかしそうに頬を赤く染めながら夫々のポーズを決める。

 

 

「さかなーーー!」

「エチゼンクラゲ~~~!」

 

 

たきなは両手を合わせて横に突き出し、片足は後方へと突き出す。魚ポーズ。

龍は身体中を脱力させて、両手は前にだらりと下げてゆらゆらと揺れる様に、海中に漂うクラゲのポーズ。

 

 

「おおお~~~、魚にクラゲかーー! それもエチゼン! おっきいヤツっ! ……って、あれ? クラゲって魚だったっけ?? いやいや、それより~~ この千束さんもまぜなさーーい!」

 

 

素早く千束は立ち上がるとたきなと龍の間に立ち、大きく両手を挙げて~。

 

 

「チンアナゴーーっ!」

 

 

元気よくチンアナゴを熱演。

たきなは羞恥で顔が真っ赤になっていたが、それこそクラゲの様にたきなと千束の周囲を回る龍を見て、吹っ切れた様な笑顔の千束を見て、思わず笑いがこみ上げてくる。

 

人が見ていると言うのに、アレほど目立つ行動は―――と是正しようとした筈なのに、声を上げて笑った。皆で笑った。

 

 

「そうそう、千束姉ちゃんは笑顔の方が良いよ。悲しそうな、沈んでる顔は似合わない」

「あははははは――――っ、は?」

 

 

周囲を漂う龍の言葉を聞いて思わず顔をボッと赤く熱くさせるのは千束。

笑い過ぎて熱くなった訳じゃない。時折、この少年は……明らかに見た目以外詐称している少年は、芯を食った発言をしてくるのだ。それが一番頭の中に、心の中にずんっ! と入ってくるのだ。

 

 

「バカみたいに笑って笑って全力で楽しんで、いつも笑顔。……それが千束姉ちゃんだから」

「龍………、って、誰がバカじゃ、誰が――――っっ!!」

 

 

再び千束は、龍を捕まえてヘッドロック。

何かを誤魔化すかの様に、不殺のリコリス千束は、己の乳圧で窒息を狙おうとする。

 

そんな2人を見て、たきなは改めて笑う。心の底からの笑みを見せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某日——某所。

 

 

「……秀さんの言う通りだった。……いや、正直半信半疑だったとも言える。お前が戻ってくるなんて思ってなかったが故に……な」

「ミカに会いに来た。それだけでも十分な理由になるだろう?」

 

 

2人の男が、酒を酌み交わし話をしていた。

それはミカと以前、秀爺が【シン坊】と呼んでいた男だ。

 

 

「揶揄うんじゃない。……シンジ。秀さんから話は聞いた。……お前も確認しに来たのではないか? ()の事。それと千束だ。あの子にも会ってやらないのか? もう10年君を探し続けているんだ」

「…………………………」

 

 

ミカの問いに暫く沈黙が流れる。

からんっ……と、グラスの中にある氷が揺れ、接触する音が嫌に大きく響く。

 

 

「アラン機関は、支援した対象に関わる事を禁じている。……あの距離が丁度良いさ。それと彼————」

 

 

シンジは、スマホを取り出して操作をし、()の情報が収められている画像・動画ファイルをタップする。それは、四国での戦い。……圧倒的な力を前に、攻め入った全ての組織が返り討ちに合っている。……リコリスも例外ではなく、同じく返り討ち。唯一対等にやり合えたのは千束だけ。……でも、それも怪しいと踏んでいた。

 

少なくとも、あの男がそう結論付けているのだから。

 

シンジはスマホの画面を消すと軽く息を吐き、告げる。

 

 

「映像は見せて貰った。言質も取った。だが、実際にこの目ではまだ確認をしていない」

「………では、実際にこの目で確認をした俺の言う事も信じられない、と?」

「そうは言わないさ。……あの人が、アラン機関の禁を破る程の存在がいる。それだけで十分過ぎる説得力だ。………だが、それでも私は確認しなければならないのだよ、ミカ」

「?」

 

 

薄く、何処か寒い……そんな凍える笑みをシンジがしている。

ほんの一瞬だけだが、ミカは寒気がした。

 

 

「天才は神からの恩恵(ギフト)―――そのアランの定説が覆される。私達の言う、……言っていた《天才》とは人間が進化の末に選ばれた者だけに与えられた類稀なる能力に過ぎない。――――真なる神からの恩恵(ギフト)()にある」

 

 

タンブラーの中に注がれた琥珀色の液体を全て一気に飲み干した。

 

 

神が宿る(・・・・)その少年に、私は惹かれているのだよ。………ミカ」

 

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