殺し屋JKと異端なDS 作:りこりこ・りこりこ
「シンジ……」
ミカは吉松シンジと別れた後一抹の不安を拭えずにいた。
シンジの目的は解ったし、ある意味では理解もしている。シンジと違い、あの異質な力を目の当たりにしているのだから。
だからこそ、あの様子を見るに恐らくは興味の対象は千束から
そして、それこそが今のミカにとって一番の不安でもあった。
千束をある目的のため、シンジは
その時の約束を今でもハッキリと覚えている。
そして、その約束は今は―――――。
「いや、とにかく今は今を……か。念には念をいれないとな」
ミカは懐からスマホを取り出した。
手早く操作をし、コールをタップする。
そして数コールした後その電話は繋がった。
『先生!」
「千束、少し話があるのだが――――」
電話の相手は千束。
今日、楽しそうにたきなや龍と共に、ショッピングに向かっている筈だ。時間的には夕食でも食べている所だろうか? とミカは思い多分問題なく出るだろうとも思っていた。
千束は問題なく出た。……でも、ミカの電話をした目的が果たされる事はない。
『大変なの先生!! 龍が! 龍が!!』
切羽詰まっている千束の声が耳の奥に響いてくる。
そしてそれと同時に、先ほどまでのシンジとのやり取りも同時進行で脳内で再生された。
【私は惹かれているのだよ。……神が宿るその少年に】
それは、ミカが千束に電話をかける数分前の事。
買い物も楽しんだ。おやつタイムも美味しく楽しんだ。水族館も楽しんだ。
もう夕日が顔を出し、周囲に夕焼け色に染まり始める。
「…………」
「龍?」
水族館から外へ出て、もう大分見慣れてきた都会の夕焼け空、風景を目にした瞬間、龍は何だか嫌な予感がした。
いや、
そんな龍の様子にいち早く気付いたのは、直ぐ隣にいるたきなだった。
「どったのどったの?」
千束も数々の戦利品(たきなのパンツ&龍の服一式)に対してホクホク顔だったが、たきなの声、そして龍の難しそうな顔を見て何か気になったのか、と顔を覗き込んだ。
そして、自分の声に反応してくれないので、少し強めに声をかけるか或いは物理的(抱き着き)で応対するか~と選択しようとしたその時、たきなが声を上げた。
「……リコリス」
「え?」
たきなの呟きを聞いて、龍から視線を外して周囲を確認した。
同じくリコリスであるからこそ解るその制服姿。
街中に完璧に溶け込んでいる都会の
リコリスが街中にいる事自体、別に不思議ではない。治安を秘密裏に守る為、命令あらば至る所に潜伏するのだから。
ただ、今回に限っては勝手が違う。
「……多いね」
「何かあったのでしょうか……?」
何気なくスマホで会話している者たち。
まるで学校帰りを装い楽しそうに話をする者たち。
人込みに紛れて歩いている者たち。
四方八方、視界に入る中に必ず居る。それ程までの数を配置させられている。間違いなくこの場所に集まる様に本部から指示されているのだろう。
「そりゃ、龍も嫌な顔するよね~~。
「……その追い詰めた筆頭が千束ですよ」
「おわーぁお、そうだったそうだった! でも、今はすごーーく仲良しだもんね~~? 何せ家族で弟だもんね~~?」
ウェイ! とポージングを決めながら龍の方へ、龍の肩に肘を載せた。
でも、龍は何も言わない。
そして千束もリコリスに対して意識が向いていたのだが、再び龍へと戻る。
ここまで無視してくるのはあまり無い。渋々ながらツッコミをして会話が繋がっていくのが標準なのに、まるで気付いていない様だ。
何か怒らせる事でもしたのだろうか……? と千束は考える。
何一つ心当たりがない。いや、もう胸を張って言える。何一つ心当たりがない、と。二度目でも言える。
「ねぇ、千束姉ちゃん」
「おん? どしたどした~?」
ほら、やっぱり気のせいだった~と胸を張った千束の手に、何かを握らされた。
それは、今日龍に買ってあげた服が入った紙袋。子供サイズでそんなに大きく無いから、別に重量的なのは全くないのだが……、その意味がよく解らず、それを理解しようとした為、次の龍の行動に反応するのが数手遅れてしまった。
「ちょっと、僕の荷物お願いね? リコリコまでよろしく」
「へ?」
気付いた時には、龍の姿は何処にもない。
ただ、そこには龍が動く時に、
リコリコの仕事で、過激派らと一戦交える時以外、或いは力を見てみたい! と言うリクエストに渋々、嫌々応える時くらいで少なくとも平和でいつも通りな街中で発動するなんて初めての事だった。
いつもの千束の口癖? である【ちょいちょいちょい~】を言う間もなく龍は姿を消していた。
「ちょ、ちょいちょいちょい! 龍どこ行った!?」
「解りません!? 気づいたらもう居ませんでした。……目を離したのはほんの一瞬なのに……っ」
本気を出した龍の移動速度に戦慄する―――よりも、龍が何処に行ったのか? 只ならぬ気配に加えて、いつも以上に不自然とまで言える程に配備されているリコリス達と言ったこの状況は嫌な予感がする―――……し過ぎてしまう。
そんな時だった。ミカから電話があったのは。
「先生!? 龍が、龍がどっか行っちゃったの!? 迷子の龍になっちゃったんだよ! そこにクルミいる!? 直ぐに捜索しないと……」
『落ち着きなさい。……彼は見た目以上にしっかりしている。意味もなく皆に心配をかける様な事をする子じゃないだろう? ……何があった?』
見た目
四国を死の国と呼ばれる所以になった、死神が住む国とも呼ぶ者までいた程の存在だ。
でも、中身は誰よりも優しく、何処となく寂しがり屋で、こっちに来てからいつも楽しそうにしていた。
そんな龍が何故いなくなったのか?
「えっと、なんか周囲に沢山のリコリスが揃ってて、明らかに司令受けてここに集まってて、だから先生! 楠木さんに何があったか直ぐに確認とって!」
【一体どうやって
【いや流石に、
【……答えになってないわい。使われたら大変なのは重々承知しとる。なんで仕掛けられたの気付いた? って聞いたつもりじゃが………】
この感覚は、結構久しぶりだった。
でもそれ以上に驚いている。この日本の中心である東京で、そもそも平和な(筈の)日本でどうしてこんなのが起こると言うのだろうか。
「地下鉄で
一体どれ程の被害が、犠牲者が出るだろうか。
どれほどの血が流れるだろうか。
あの感覚を察知した、間違いないと確信したその瞬間には動いていた。
千束やたきなに細かな事情を話している暇など無かった。
パチンっ! と指を鳴らすと同時にイメージを強く持つ。
原理は解らないし、理解するつもりもない。ただただ、アクティブソナー、動体探知機、地雷探知機、などなど。
某
「仕掛けられてる場所は駅の天井部、それにこれは……」
地下鉄の入り口は、進入禁止テープが張られていて誰も入れない様にされている筈なのに、間違いなく駅のホームに複数誰かがいる。嫌な気配も感じる。
「感謝するよ。持ってきてて良かった」
ポケットに手を突っ込むとその中に入ってる掌サイズの黒い塊をギュっと握りしめた。
秘密結社(笑)に作らせた特別製のモバイルバッテリーで、何でもこのサイズ1つあれば電気自動車で地球一周する事が出来る程の蓄電されている代物……らしい。
秀爺に餞別の1つで、あのアラン機関のペンダントの他に渡されたのだ。
電気代でリコリコは悲鳴を上げるかもしれないが、店長であるミカは了承済みなので大丈夫だ。……使うのは初めてなので、多分だけれど。
素早く、バレない様に、地下鉄の入り口へと降りていく。
嫌な気配がより濃くなってくるのを感じる。
それは嫌でも覚えるようになった……いわば戦場の臭い。
駅のホームでアナウンスがされる。
電車が通過する~と言うアナウンスが。
それが合図であったかの様に、無数の男たちが、屈強な男たちが各々の獲物を手に構える。
戦争でも始める気か!??
と、ヘリの上から大声で叫んでやりたい。
「はじまりはじまり~~♪」
緑髪のパーマ頭がニヤニヤと悪魔の様な笑みと共に開戦を告げる様に高らかに言い放った。
それとほぼ同時にホームに電車が入ってくる。そして一斉掃射が始まってしまった。
凄まじい金属の反響音、火花、火薬の臭いで充満されていく。瞬く間に電車はハチの巣にされ、窓と言う窓の全てが粉砕し、乗客の皆殺しにしていく………が、ここで違和感に気付いた。
一斉掃射をしている間は気にならなかったが、停車し、割られた窓から見える電車の中には誰も居ない。ニンゲンが乗っていれば一瞬でミンチになる勢いの一斉掃射だ。そして場所は都心の地下鉄。間違いなく現場は血の海で惨劇が広がっている筈なのだが、電車の中は嫌な程綺麗なのだ。
そして、その次の瞬間。
パンっっ!
と、乾いた銃声が1つしたと思えば、仲間が頭から血を吹いて倒れた。
「はぁっ!?」
気付くのが遅れた。
誰も乗っていないのか? と思ったのだが電車の中には何人も乗車していた。それも武装した女……子供が。全員の装備は拳銃だが、その精密射撃は瞬く間に1人、また1人と仲間たちに風穴を開けていく。
1人は即死、その後も致命に至る銃創を負っていく。
「やっべぇ………!」
これは不味い、と感じたのは真島だけだった。
他の仲間たちは何が起きたのかさえ解ってなかった。
日本の平和は普通じゃない、とは思っていたが、まさか待ち構えられていた、など誰が想像できるだろうか。
無論、電車内で銃を構え、テロリストたちを一掃しようとしているのはリコリスの面々。
殺し屋集団として幼少期より育てられてきた彼女たちの銃の精密さは、そこらのテロリスト程度じゃ話にならない程の戦力を持っている。
加えて最初から命を獲る気で銃を構えているリコリス達に対し、コンマ数秒の気の遅れは致命的。
真島は身を翻して逃げの手。
リコリス達は一斉射撃体勢。
応戦する真島の仲間たち。
どちらが戦を制するにしても、多大なる血が、沢山の人の命がここで終わるのが直ぐに理解できたから。
「誰も動くな!!」
銃弾が飛び交う修羅の場に、黒い影が横切った。
丁度二組の間に割って入り、手に握られている彼の武器で瞬く間に銃弾を叩き、いなし、斬り伏せていく。
「「「な!!」」」
「はぁっ!??」
驚きが続けざまに連続で起こると思考が正常に働かないものだ。
少なくとも仲間たちが何人も撃たれ、倒れ始めたテロリストの男側はあまりの事態に混乱を極め、鍛えられた屈強な兵士である筈なのに、その動揺は目にみて解る程。
対してリコリス側の方は、確かに驚きではあるが、まだ最初の驚き? 故に混乱はあっても多少はマシだった。
でも、銃撃が止む事はない。
「ああ、もう!!」
止めに入るのが遅かった。
銃撃戦が始まってから止まる訳がない、と言うのは解っていたが、これはもう仕方がない。
千束の様に誰も死なせたくない、とより強く思う様になったから、止まらないと解っていても投げ出したりはしない。
「なんっっだなんだよぉぉぉ、てめぇはよぉぉ!!?」
こちらの銃撃が届かないが、それはリコリス側も同様。
正体不明のバケモノが間に割って入ってきて、銃弾を撃ち落とし続けていくので、少なくとも負傷者は出なくなったのだけは良し……とはならない。
「バランス……取れてるっていえるかもなぁ!? 今の状況はよぉ!!」
丁度中間地点で全ての銃弾が撃ち落とされていく。
どっち側が撃っても相手には届かない。全て遮られてしまう。
「お前が
真島は叫ぶと同時に懐に仕舞っていた、起爆装置に手をかけた。
リモコン操作で、スイッチ1つで大量に仕掛けられたTNTが爆発する。
銃弾を防ぐバケモノの正体は気になるが、それでも始末する方が先決だ。
確かに、今はある意味バランスが取れた状態ではある……が、それをするのは自分の役目だ。
誰か他のヤツにやられるのだけは性に合わない。……許されない。
「吹き飛んじまえよ!!」
かちりっ――――……とスイッチを押す。
まだ仲間たちが狂った様に銃撃をし続けているが、仕掛けている位置が丁度バケモノの真上付近。被害が甚大なのはあのバケモノを含む電車側だ。無傷ではいられないだろうが、混乱した頭に対し気付けとしては丁度良い―――と言わんばかりに真島はスイッチを押したのだ。
だが――――。
「あ? ああ?? ああ!!?」
かちっ、かちっっ。
何度も何度も何度も、それを押してもなんの反応も示さない。
爆発から、爆風から身を護る為に、反対側の線路上に身を投げた。幾ら離れたと言ってもこの距離だ。爆発の影響は絶対に受ける。なのにも関わらず爆発は起きてない。ただただ銃撃の音だけがこの場に響くのみだ。
粗方銃弾を全て打ち尽くし、予備の
「気は済んだ? 取り合えずお姉さんたち、リコリスだね。早く爆弾処理班を呼んで。ここの天井に爆弾が仕掛けられてる。電車は勿論、お姉さんたちも皆吹き飛んじゃうよ」
銃撃戦後の戦塵が舞い、視界不良の中で男の声が聞こえた。ハッキリと聞こえた。それも声色から相当幼い男の声。
『う、うわあああああ!!』
1人が悲鳴を上げると瞬く間に伝染する様に悲鳴が連鎖し、各々の銃を放り投げて一目散に逃げていく。
「………おいおいおい、銃弾防いだ上に爆弾までもかよ? 一体こりゃどういう手品だ? マジもんのバケモンだってのか??」
戦線離脱する仲間に対して
そして逃げる準備をしつつ、息を殺して、この場に留まる。説明出来ない、理解できない事があまりにも多すぎるのだ。
認める。ハッキリ言って準備不足。
バランス云々言ってる場合じゃなかった。
「やった事、やろうとした事を考えたら逃がすのは業腹…………だけど、だからって死なせてヨシッってなっちゃダメだよね。千束姉ちゃん。僕だって今はリコリコのメンバーなんだ」
男の子は……龍は誇らしそうにそう呟いた。
悲鳴を上げて逃げようとしたあの連中全員スタンさせる事は十分可能だったと思う。
でも、
ここが爆発したら間違いなくリコリスのメンバーは全員爆発の影響で吹き飛び、そこで死傷しなくても崩落して生き埋めになるだろう。
複数力の用途を変えて使用した事は何度かあるが、どうしても単品である時より精度は一段と落ちる。
銃撃による傷が頬に出来て一筋の血が流れているのがその証拠なのだ。
でも、リコリスのメンバーなら話が通じるとは到底思えない。銃撃こそは止んでいるが、皆が驚愕した顔を向けているから。
後ほんの少しの切っ掛けがあれば、また銃撃の雨嵐が吹き荒れる事だろう。
だから、龍は自分のスマホを取り出して、ミカに連絡を入れた。
「少し、手を貸してもらえると助かります」
そして、勿論その後 千束とたきなにも。
メチャクチャ心配されてて凄く怒られたのは言うまでもない。
某場所にて。
あの地下鉄での銃撃戦は……いや、銃撃戦? と言って良いか解らない一連光景は全てモニターされ、記録もされていた。
そしてその光景を観察し、額に汗を流す者がいた。その口角は自然に吊り上がり、静かに確かに笑みを浮かべる者が。
「――――……確かに、これこそが神の御業だ。これまでの
ばんっ、と勢いよくテーブルを叩き、立ち上がると傍で使えているもう1人に向かって声を荒げるのだった。
「その叡智を、その御業を、1つでも多く確認するぞ!!」