ストロングマロ   作:おもちぴん様

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武芸狂い

 まったり、まったり、まったりと牛車が街道を進む。

急がず焦らず、ゴトゴトと車輪を揺らして。

 

 時は泰平の時代、大きな戦争もなく、人々は平和を謳歌していた。

しかし、平和な時代であっても悪事を企む者は潰えず。

のろまな牛車などは格好の標的であった。

 

 牛車は一般的にやんごとなき身分の者の乗り物である。

貴族の中でも最上位の公家貴族、彼らが好んで乗る乗り物だ。

そして例に漏れず、今街道を進んでいる牛車にも公家貴族が乗っていた。

 

 そんな牛車に近付く者が数人。

見た目はいかにもな悪人、恐らく野党の類であろう。

武装した彼らは勢いよく、牛車の前に飛び出し、牛車を止めさせた。

 

「何だね君達は?!」

 牛車の御者を務める男が彼らに尋ねる。

それを聞いた男達は笑いながら答えた。

 

「見て分かんねえのか?門番だよ!門番!通行料払いな!」

 

 物は言いようである。

賊である事を誤魔化した彼らは通行料をせびった。

御者はそれを聞き、牛車の中のお貴族様にどうするか打診した。

しばらくして、牛車の中から一人の男が現れた。

 

 顔は白く、唇には朱をさしており、装いは狩衣、烏帽子と明らかに公家貴族である。

それを見た"門番"達は指をさして笑い出した。

 

「ギャッハッハ!見ろよ!いかにもな公家様だぜ!」

「今時見ねえタイプだな!」

 

 散々な言いようであるが、公家貴族に対する当たりは大体このようなものだ。

平民でさえも彼らを侮り、そして陰で罵っていた。

生まれだけで偉ぶる無能、それが彼らの現在の評価だ。

そんな公家貴族は突然の来訪者に対して口を開く。

 

「お主達、麿が第三位近衛大将のアヤマロと知っての狼藉か!」

「ガッハッハ!知らねえよ金払え!」

「ぬう、無礼であるぞお主」

 

 目にも留まらぬ速さで、腰のロングソードが引き抜かれ、一閃。

"門番"の一人の首が飛んだ。

彼らは暫し固まり、そして武器を構え騒ぎ出した。

 

「聞いてねえぞ!こんなに手練れなんて!」

「馬鹿野郎!4対1だぞ!一斉にやれば勝てる!」

 そう言った直後、音も無くアヤマロの白刃が煌めき、賊の一人が倒れる。

 

「これで3対1でおじゃる。主ら誰の手先ぞ!」

「うるせえ!ただの野盗だ!」

 

 アヤマロの腕は大したものであるが、数の上ではまだ不利であった。

しかし、既に賊達はアヤマロの気迫に押されていた。

後は撫で斬るだけ。

アヤマロの剣により、あっという間に追加で2人がヴァルハラに送られた。

 

「お主は生かしておいてやるでおじゃる。首謀者を吐くまで死ねると思うな!」

 残り一人の賊も両手足の腱を切断され、アヤマロの前に転がっている。

 

「流石でございまするご主人様」

「下賤の者の剣が麿に届くわけないでおじゃる。それより荷物が増えたが問題ないかの?」

 どさりと御者席に賊の一人を乗せ、いや載せアヤマロが御者に尋ねた。

 

「問題ありませぬ。レッドブルは1000馬力でございます!」

「それもそうかの。頼んだぞよ、レッドブルよ」

「ぶもおおお」

 

 レッドブルと呼ばれた牛(べこ)は鳴いて二人に返事をする。

恐らく話の中身は分かっていないが、名前を呼ばれれば返事するくらいには頭が良い。

 

 まったり、まったり、まったりと牛車が街道を進む。

二人と人型の荷物を乗せて。

先程の争いが無かったかのように。

 

 

 

……

………

 

 

 

 王都キョウシティ、王の御座すこの都市は公家貴族達の屋敷が数多く建つ都市でもある。

アヤマロも例に漏れず、王都に屋敷を構えている。

 

 賊を捕縛したアヤマロ一行は、つい先程王都に辿り着き、門番からの詰問を受けていた。

詰問理由はもちろん、御者台の野盗だ。

 

「ですから、こちらが襲われたんですって!」

「しかしだなあ」

「お主、この牛車が近衛大将アヤマロのものと知っての狼藉か?」

 

 にっちもさっちもいかなくなった御者を助けるためにアヤマロが牛車から顔を出した。

門番に権威を振りかざす、明らかな悪役ムーブである。

が、この場合は事情を聞きもしない門番が悪い。

アヤマロの顔を見た門番は慌てて口を開いた。

 

「こ、これはアヤマロ様!申し訳ございません!通って問題ありません!」

「ふむ、最初からそうすれば良いでおじゃる。行くぞよ」

「アヤマロ様、ありがとうございます!行くぞレッドブル!」

 

 王都で公家貴族に逆らう者は多い、多いのだがアヤマロだけは別だ。

彼を知っている者は皆彼を避ける。

変わり者の多い公家貴族の中でも変わり者、"武芸狂いのアヤマロ"と言えば有名である。

斬られた者は数知れず、彼に近づくのは悪党か、英雄気取りの者だけだ。

 

 はあっと手綱に力を入れてレッドブルに気合を伝えるが、相手は牛。

レッドブルは意を理解したのかしないのか、のそのそと門の先、王都の中に進む。

入退場門は別だが、王都内で牛車を止める者はいない。

大して強くもないが関わると面倒くさい。

それが公家貴族の評価だ。

 

「このまま、サネの屋敷に行くぞえ」

「サネ様の屋敷ですか?お礼参りですね、承知しました!」

 

 既に野盗への聴取(拷問)は終わっていた。

その辺に捨て置いても良いのだが、アヤマロは派手好きであった。

下手人の前に野盗を放り投げて大立ち回りがしたいのだ。

 

 それから少し経ちサネと呼ばれた者の屋敷に一行は到着した。

門番は事情を知っているのか、アヤマロの姿を見て狼狽えている。

門番を無視したアヤマロはそのまま屋敷の中に入った。

 

「サネアツよ!お主の企み看破したぞよ!ほれお主に雇われた賊じゃ!」

 

 屋敷に入るなり大声で啖呵を切ったアヤマロは、啖呵を切るついでに持ってきた賊を放り投げる。

その啖呵を聞きつけたサネアツと衛兵達は門先に急ぎ集まり、アヤマロを見るや否や抗議の声をあげた。

 

「これはこれはアヤマロ様ではありませんか。わが家への狼藉、いかな近衛大将様でも許されませんぞ!」

「狼藉とはなんぞえ?これは天誅である。大人しく成敗されませい!」

「ええい!衛兵達、この気狂いを捕まえよ!」

 

 元々そのつもりだったのか衛兵達はすぐさま己の獲物を構えて、じりじりとアヤマロに近づいた。

魔法を詠唱している者もいる。

アヤマロの実力は王都に知られているが、彼を倒せば名をあげる事が出来ることも周知の事実だ。

命懸けであろうが、彼の命を狙う者は多い。

 

「下がれ下郎。お主達に恨みは無し。剣を下げれば危害は加えぬ」

「アヤマロ様、我々はその身一つで立身出世を夢見る者」

「その我らの前に餌があって、なにゆえ引き下がれましょうか?」

「その意気や良し、麿が冥土の土産に一手御指南仕る」

 

 二言、三言やり取りすれば後は命の取り合いである。

近づけばロングソード、離れれば暗器。

武芸狂いの名は伊達ではなく、腕自慢の衛兵達の命をアヤマロは確実に奪っていく。

 

 数分経ち、残る衛兵は早くもただ一人。

この屋敷の防衛を指揮する衛兵隊長その人だ。

魔法剣士である彼は、魔法と剣を十二分に活用し、遂にアヤマロに肉薄していた。

 

「やるのうお主。主を替え、麿に仕えぬか?」

「主は生涯に1人と決めております!御免!」

 

 鍔迫り合いをしながら話す二人。

勧誘を素気無く断られたアヤマロは呵呵と笑い、剣を弾いて衛兵隊長から離れる。

見ればアヤマロの構えは中段から上段になっていた。

 

 アヤマロの上段の構えは"天の構え"とも呼ばれ、相手に対する最上礼でもある。

"アヤマロにこの構えをさせた者は誇っても良い、誇っても良いが命は無いと思え"

──王都なら童でも知っていることだ。

 

 その構えをさせた事に喜びと恐怖を覚えた隊長は"イヤーッ"と気合を入れてアヤマロに斬りかかった。

ここまでくれば後は気合と根性で乗り切るしかない。

そう考えたゆえの突撃であった。

 

 しかし、勝負は無情。

目にも止まらぬ速さで袈裟斬りにされた隊長の体は斜めに別れた。

残る下郎はサネアツただ一人。

縁側で震えているサネアツに近づいたアヤマロは彼を罵倒した。

 

「ほれほれどうした?狼藉した麿を討つのではないのか?」

「ば、化け物め!国王様がこの様な狼藉を許すと思うのか?!」

「お主を許す許さぬは麿が決めること。国王様は関係ないでおじゃる」

「ゆ、許してくれ!金は払う!」

「麿は許そう……」

「あ、ありがたい」

「だが麿のロングソードが許すかな!」

「ひ、ひえー!お助け!」

「地獄で衛兵達に詫びるでおじゃ!」

 

 アヤマロは腰のロングソードを鞘から抜き払い、サネアツに向けて一閃。

アヤマロの首を一刀両断した。

 

 首を持ったアヤマロは御者に告げる。

「御者よ、サイリバーに行くぞよ。サネアツを飾ってやろうぞ」

「承知しました!はぁっ!レッドブルよ行けい!」

「ぶもおおおお」

 

 ──サイリバーは首の晒し場のある由緒正しき川だ。

もっとも既に晒し首の制度は廃れて久しい。

利用しているのは一部の気狂いだけである。

アヤマロもその一員だ──。

 

 サネアツの首を晒し場に飾ったアヤマロは、その首に罪状を記した板を掛けてその場を後にした。

首にぶら下がった板には"麿への反逆罪"と書いてある。

自らに降りかかった火の粉は己で処理する。

それが"武芸狂いのアヤマロ"であった。

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