サネアツ天誅から早一ヶ月、アヤマロはサツマにアイランド流しにあっていた。
罪状は殺人罪。
国王お気に入りのサネアツを殺したため怒りを買った形となる。
何が自分に返ってくるか分からない時代だ。
"国王様がこの様な狼藉を許すと思うのか?"。
サネアツが死ぬ間際に言った事が現実となってアヤマロに降りかかっていた。
…
……
………
キエエエエエエエ!、朝の静寂(しじま)にサツマ人のモンキーシャウトが響き渡る。
サツマは特殊な土地である。
泰平の世になっても、未だに領民は鍛錬を怠らず、命懸けのレバー練りと言う習慣さえ残す。
野蛮な国と言えば赤子でさえ"サツマ"と答える程の蛮族の土地である。
そんなサツマで青白い公家貴族が生きていけるのかと言うと……。
「ほほっ、良いぞハーフ次郎!お主こそ示現スタイルの体現者でおじゃ!」
「マロどんもやるのお!俺(おい)のファーストブレード受けてもケロリとしとんね」
サツマのファーストブレードは外せ──、剣の道を歩む者であれば常識だ。
それをアヤマロは難なく受けた。
ソフトにハードを制すと言う柔ロードの言葉があるが、アヤマロの技巧は正しくそれを表す。
「マロどんは何して流刑になったんね?」
「お主らの言葉で言えば"誤チェスト"を受けた感じでおじゃる」
「それは災難なことで。俺も偶にやるもす」
「ほほほ、恐ろしいのお、サツマ武官は」
青白い公家貴族らしからぬアヤマロは見事にサツマに適応していた。
武芸百般を極めた男である。
サツマ武官の尊敬を集めるのに時間は然程かからなかった。
下級のサツマ武官や民草にも気さくに接する為、彼の流刑用の屋敷にはいつも人が集まっている。
そんな屋敷に巨漢が一人訪ねてきた。
「マロどん、ご機嫌麗しか」
「おお、ウエスト郷どの、丁寧にどうもでおじゃる」
ウエスト郷レイズアップ──下級武官ながら領主アイランヅナリアキラの覚え目出度い器量の人である。
アヤマロの元に訪れる理由は、領命が半々、親交が半々といったところであろう。
今日もサツマ印のファイアー酒を持って、アヤマロの元を訪ねてきた。
「それじゃあ俺は帰るど」
「よいよい、ハーフ次郎も残るでおじゃる。酒宴は数が多い方が楽しきゆえ。ついでにお主の家族も呼んで来るが良いぞ」
「あ、アヤマロどん!かたじけなか!」
脱兎の如くハーフ次郎は屋敷を飛び出し、己の家族を呼びに向かった。
ハーフ次郎、姓は中村と言うれっきとした武官である。
性格は単純明快、明朗快活、人当たりの良い男だ。
しかし、剣を抜けばサツマNo.1と言われる程の剛の者でもある。
そんな彼の家は非常に貧しい。
ほぼ毎日、アヤマロの家に家族ごと厄介になり、飯を食わせてもらっていた。
そして飛び出していったハーフ次郎に替わり、ウエスト郷がアヤマロに詫びを入れる。
「いつもすみませんな、アヤマロどん」
「なーに、青白貴族の気まぐれよ。無駄に金はあるゆえ」
「……それで中央の貴族への口添えですが」
「ふむ、お主は話が早いのお。ほれ口添え状じゃ。みな麿が目を掛けてきた者ゆえ、信用に値するでおじゃる」
「毎々のことながら忝なし。サツマは辺境の地ゆえ、上方との親交を温めにくく……」
「気にするでない……それと難しい話は終わりでおじゃ。ハーフ次郎、そこで立っておらず入って参れ。酒宴の時ぞ」
「ははっ!不肖このハーフ次郎!宴を温めるため、剣舞を馳走いたす!」
「よいぞ、よいぞ」
こうして、アヤマロの屋敷での夜は更けていった。
後に革命軍の中心となるウエスト郷、ハーフ次郎とアヤマロの邂逅は穏やかなものであった。
…
……
………
キエエエエエエエ!、朝の静寂に公家貴族のモンキーシャウトが響き渡る。
立木打ち朝夕3000回、これぞ公家貴族の嗜み……な訳では無い。
訳では無いが、平均を取ったら公家貴族は平均50回、毎朝毎夕立木打ちをしているらしい。
これぞ統計の妙……話を元に戻そう。
「マロどんも立木打ち始めたんね?」
「ほほ、ハーフ次郎か。うむ、単純ながらこれは面白きことよの」
"郷に入っては郷に従え"、アヤマロはサツマに順応してきていた。
既にモンキーシャウトは敵の鼓膜を破る威力が出よう。
更なる武の高みへ、煩わしい政務から解放されたアヤマロは全盛期を迎えようとしていた。
そんなアヤマロの元に上方より使者が来た。
内容は上方に戻ってくる様にとのことであった。
恐らくは、アヤマロ不在につき暴れまわっている貴族達への対応として呼び戻すのであろう。
彼は奇人変人の類ではあるが、その腕力によって木っ端貴族達への睨みを利かせていたのだ。
あくる日、アヤマロは上方へ戻る前にサツマ領主のアイランヅ公に挨拶をした。
そして、その帰り道……。
「貴様が悪党の近衛大将アヤマロか?」
刺客に襲われていた。
その刺客は間抜けとしか言いようがない。
態々正面から襲い掛かってきたのだから……。
「如何にも。麿が第3位近衛大将アヤマロでおじゃる。オーガの刺客よ、主の名は何と申す?」
「俺の名はミャアモトムサシ!四天一流のムサシとは俺の事よ!」
アホな刺客はアヤマロに聞かれて名前を名乗った。
それも大声で。
天下の往来で明らかにこの辺では見ない公家貴族に絡んでいるのだ。
すぐにでも騒ぎを聞きつけた者がやってくるだろう。
そんなことは露知らず、ムサシと名乗る男は続ける。
「貴様の命もここまでよ!我が四刀流で膾切りにしてくれる!」
「ほほ、四刀流とは面白いでおじゃ。麿が一手指南仕るぞえ」
「ぬかせ!」
…
……
………
"キンキン"と剣の打ち合う音、"ボコボコ"と肉を殴る音が聞こえる。
ロングソード一本では相手にならないと思われたが、アヤマロは両手両足、果ては頭まで用いて勝負を拮抗させていた。
手数と腕力では向こうに分があるため、攻勢に移れていないが時間稼ぎとしては充分であろう。
──援軍来(きた)る。
約半刻が経ったころ、アヤマロが最も希望していた男──中村ハーフ次郎がサツマ拵えのロングソードを片手に裸足でやって来た。
「マロどん!怪我はなか?」
「ほほ、麿を誰だと思っておじゃる?」
「心配して損しもした!」
「何だ貴様は!邪魔だてするなら貴様も……斬る!」
「ムサシとやら、これでこちらの腕も四本よ。お主どう捌く?」
途端、始まる剣戟。
アヤマロが攻勢に出ればハーフ次郎がフォローし、ハーフ次郎が攻勢に出ればアヤマロが受ける。
攻守はここに完全に逆転した。
しかし、未だに決定打が与えられない。
「むむ、このままでは上方行きの船が出てしまうでおじゃる。ハーフ次郎よ、麿に合わせよ!」
「よかよ!」
「「キエエエエエエエ!」」
サツマの城下にモンキーシャウト二重奏が木霊する。
破壊力を増したモンキーシャウトは超音波となり、ムサシの体の一部を破壊した。
無残なりムサシ、骨の何本かは折れ、片手では剣を持つことすらできぬ。
勝負有りと思われたが、流石はムサシである。
腕二本ずつで剣を持ち、四天から二天一流とした。
「まだだ!俺の腕は折れてはおらん!」
「その意気やよか!マロどん!こいつ俺(おい)に任せてくれんね?」
「うむ!任せたでおじゃる!しからば麿はこれにて御免!」
「!逃げるな!」
「お主(んし)の相手は俺ぞ」
ハーフ次郎にムサシを任せたアヤマロは急いで船着き場に向かった。
これを逃せば次の船は一ヶ月後に来る。
上方に帰るのが遅れれば、また何か言われそうだ。
アヤマロは、そう思いつつひた走る。
そして何とか船に間に合ったアヤマロはサツマを離れ、キョウシティへと向かった。
残されたハーフ次郎とムサシはと言うと……。
「チェストォ!俺(おい)の勝ちでごわす」
「馬鹿力恐れ入った!俺の負けじゃ、好きにせえ」
勝負はハーフ次郎の勝ちである。
二天一流にモードチェンジしたものの、所詮は付け焼き刃。
示現スタイルの達人ハーフ次郎に勝てる訳もなく、半刻程度で勝負は着いた。
「お主(んし)、怪我治ったらまたやろうね」
「ぬ、生かすと言うのか?サツマ人なのに」
「サツマん人勘違いしてんよ。偏見ね」
ムサシはその後、ハーフ次郎の家に厄介になり、四天示現一流と言うピーキー過ぎる流派を作ることになる。
が、それは本編とは関係ない。