オリジナルやりてぇなぁと悶々としこれが新作。
後々活動報告に色々上げますので良かったら参加いただければ幸いです。
──東京、某所。
「ハァ……、ハァ……!」
夜。人気のない道を少年がひた走る。まだ若い。社会にも出ていない年若い少年だ。
どこかの学校と思わしき制服、きちんと品行正しく生活していると思われる短めに揃えた髪を風に靡かせ額に汗をにじませるその顔は間違いなく生涯全力疾走の面持ちだ。
「なんなんだ、なんだよあの化け物! 兎か!? 兎なのかよ!? あ、あんなのがいるなんて知らないぞ!」
吐き捨てるように心情を吐露する少年は間違いなくナニカから逃げていた。振り返る余裕すらない程に。
事実、少年を追い立てていたのは兎だった。……ただし、その姿は見るものに癒しを与えるような小さく可愛らしいものとはかけ離れたものであるが。
人間の成人の腰程の巨躯に血に濡れた螺旋を描いて捻じれた大角。明らかにこちらへの殺意を躍らせた赫赫とした瞳。極めつけにはその口元からは出会った当初からずっと唾液が滴り落ちている。
こんなモノと出会って硬直せずに生き延びられていること、その判断こそが奇跡だ。
「あ、アイツら……。おい! 誰かいないのか! 誰でもいいんだ! 誰か! 誰か……。助けて……」
助けを乞い声を張り上げるもそれに応じる声はおろか姿も現れない。……知っている。この化け物と相対した時イヤな予感というものはしていたのだから。
──タン、と踏みしめる音を鳴らして風を切る。
「《
携帯端末を片手に疾駆するのは少女。もしもその姿を余人が見れば見間違いかと目を疑うか、SNSに投稿するために写真や動画を撮り始めていることだろう。
なにせ、
より正確に言うならば建築物の屋上を、だ。常人であれば間違いなく転落するであろう距離を事もなく。一踏みで。
手に持ったその
「クッ……!」
逃げて、逃げて、逃げて。
30分かもしれない、一時間? それとももっと? 気の遠くなるほどの逃亡劇の末逃げ場のない袋小路へと足を踏み込んでしまった少年は壁に手を付きながら振り返り、追跡者たる異形を憎々しげに見やる。
いつのまに合流でもしたのか兎の数が5体に増えていた。それを見てもはや掠れた苦笑いしか出てこない。
「あぁ、なんて運が無いんだよ……! こんな、こんなことで僕は死ぬのかよ……!?」
牙を剥きだしに飛び掛かる異形を目前にし顔をしかめながら走馬灯のように自分の人生を想起する。
何でもないような変哲もない人生だった。事ここに至ってもはや嘆くしかないが。それでも。それでも。
(僕は、まだ。まだ……!)
思考を過る悔恨。瞬の先の痛みに腕を身構え目を瞑る。
耐えるように固まっていると訪れる筈の痛みが訪れず疑問に思い僅かに腕を開き目を開く。
そこに、少女がいた。
空から降りて来たかのように片膝を曲げ、一角兎であったと思わしき宙に浮いた肉片を尻目に背を翻し異形たちと相対す。
少年は現実離れしたその光景に放心していた。
少年を置き去りにし少女はその手に持った獲物を構える。少年からみてもこの法治国家で所持していても良いのか疑問に思うモノ。
街灯の光を受けて異形の血を受けて鈍い光を反すソレはまさしく──鍔が見当たらないことを差し引いても──刀そのものだった。
腕を引いた状態で構えた状態で睨み合い、先手を切ったのは少女の方だった。
同じ人間とは思えない速度で短い距離を詰め、戦闘の一匹を両断。振りぬいた勢いでたたらを踏むも歯を食いしばりながら身を前倒しに、飛び掛かった兎をすれ違いざまに身体を回転させ、切り上げる。そして、その先が異常だった。
人間の速度を逸脱した手首の返し。追い討つように二度三度と切りつけやりすぎなほどに細切れに。これで三匹。
背後から襲いくる者を回し蹴りで蹴り飛ばし、流れで視覚外に回り込んでいた最後の一匹を居合ぎりの勢いのまま細切れにする。
鮮やかすぎる手前に唖然としたまま少年は命の恩人と呼べる相手に目を見張る。
濡羽色の艷やかな黒髪は背筋ほどまでに伸ばし、切れ長の目はそれまでの少女のように鋭利な刃物を思わせ背筋に寒気が走る。
ブラウン色のセーラー服は少なくとも東京圏内で見たことはない程度には珍しい。
茶革のローファーを鳴らしたがら近づいてきた少女と目が合う。
「─────」
「………………」
互いに言葉を発さず時間が交差する。
「…………もしかして、君──」
沈黙に耐えきれず少年が口火を切ろうとしたが。
「──っ!?」
少女は苦虫を噛み潰したような嫌悪の相貌をしたかと思うとサッと身を翻し、跳躍し瞬く間に姿を晦ましてしまう。
「えっ……? うっそだろ……?」
10代後半の多感な思春期に、ほぼ通りすがりといって差し支えない同年代の異性からのあんまりな対応に顔を手で覆い真剣に落ち込まざるを得ない少年。哀愁漂う姿はまるでリストラに遭い先の見えない未来を憂うざるを得ない社会人すら思わせる。
「………………?」
そのまま目線をやや上げると先ほどまでは無かったものが目に映る。
赤い水のようなものが溜まっているそこを見て思わず少年は息を呑んだ。
「もしかして、あの子どこか怪我を……!?」
海風の香る湾岸沿いのビルの屋上。少女はシャツを破いて踵から流れる止血をした上で何をするでもなく足を抱えて座り込み遥か海の向こうを眺めていた。
「なんじゃ、せっかく獣を倒したというのに浮かない顔だの」
「なんでも。いつになったらゴールに着くのか考えていただけです。……
投げかけられた声を気のない返事で返し視線を頭上に向けると、そこにはまた別の少女が居た。
「なんでと言ってものぅ。それはまだ主が弱いから、としかワシの口からは言えんし」
桃色の髪に襤褸を纏った
少女が踵から抜き取った血塗れの刀が硝子のように砕けて風に攫われる様を見ながら。
「じゃがのう、ワシは嘘はつかんぞ」
その言葉に口につこうとしたモノの遮るように身体を逆さま浮かべ少女の前に移動し口火を切る。
「なぁ──、庵里」
そう名前を呼ばれた黒髪の少女、
「もっと私が強くなれば何故あの船が襲われたのか、それが解る。そうですね?」
「うむ!もっともっと戦いを続けよ。戦いの先、主の
全ての答えはそこにあるぞ?」
RAYはそこに虚実はないと言わんばかりに身体を正面に戻し胸を張るように宣言する。
「……それにワシは主に期待しておる。主が生き残ったのには理由がある。理由なく
過去の積み重ねであったり、人と人の縁であったりの。そういう
立ち上がった庵里を覗き込むように、囁くように童女は言葉を紡ぐ。
月のように輝く金の瞳と黒い瞳が交差する。
「相変わらず貴女の言うことはよく分からないことばかり。
抽象的で迂遠だ。
……少なくとも私の味方であるなら、今はそれでいい」
RAYを押しのけるように前に出て遥か先を見据える。
赤黒い空。タールのように黒々とした海。倒壊し半ばそれに沈んでいるかつて人が住んでいた痕跡。……海の底に沈んでいった数えきれない命を。
過去を思い返し僅かに震える左手を抑えると目を伏せ
ラジオかあるいはテレビの番組を変えるかのように視界に若干のノイズが走ると共に庵里は元の現実へと帰還する。
元より深夜帯であったこともあり閑散としていた街に僅かな灯りが点る。
ガスによって見えにくくなった星空を裂くように地平線から光が昇ってくる。
眩い光に目を細めて海だった場所を見る。蒼く穏やかな海洋は遠のき建物や道でさえも、全てが幻のように誰もが当たり前のように享受する日常が活きをする。
庵里は太陽に背を向け歩を歩き出す。
「どこかにいくのかの?」
「──病院に帰ります。もう仕事は終わりましたから」
今日も人類は変わらぬ日常を繰り返し続ける。
誰もが気づかず誰もが幸せを噛み締めながら。
少しずつ、少しずつ。
──世界は腐りながら。
「ところで主が放置したあの、なんじゃっか。童はあのままで良かったのかの?」
「…………………………あ」
その後、庵里は先ほど戦闘をした場所まで戻り件の少年を1時間弱探し続けたが見つからず何と報告すればいいのか悶々としながら帰路についたという。
むかし、むかし──。
有るところに平和に暮らしていた人達がいました。
けれど鬼達がやってきて何も知らない人達を良いように使って自分達の望みを叶えていました。
そこに7人の神様が立ち上がったのです。