怠惰なダメ人間、美少女にするとそれっぽく周囲が補正する説   作:布団の中

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転生してもガチで何もないし、生活力も低いダメ人間だけど美少女は七難を隠すと思って書きました。


低い志と怠惰を兼ね備えたダメ人間

 はっきり言って、自分はダメ人間だ。

 昨日も同じようにやれたんだから、今日も同じでいい。

 無限に同じ一日が続けば良い。

 

 怒られるのは嫌だ、やる気が削げる。

 かといって、別に褒められてもやる気がでるわけではない。

 とにかくやりたくないことはやりたくない。

 

 休みの日はスマホで無限に時間が削られていく。

 もう久しく、新しいゲームやマンガの積みを崩していない。

 そんなダメ人間が自分だ。

 

 世の中には転生モノが流行っているし、自分もそれは好きだけど。

 はっきり言って、自分が転生してやっていけるとは思わない。

 チートがあっても、周囲からチヤホヤされたとしても、だ。

 チートにもハーレムにも、責任がのしかかるのだから。

 

 しかし、もしも。

 もしもだ、もしも自分が美少女になってしまったとしたら?

 いわゆるTS転生で異世界に生まれ変わったとしたら?

 

 周りからひと目見て解るほどに容姿端麗で。

 何をしても絵になってしまうから、どれだけ怠惰な行動をしても見苦しくなくて。

 他人にはない特別な能力と、それに由来する実力も有している。

 そんな人間が、上昇志向もない、日々の生活を適当に過ごせればそれでいい。

 そういう生活を送ったら、果たしてどうなる?

 

 答えはとても、とても単純だった。

 

 

 ####

 

 

 朝、異世界の朝は夏でもそれなりに冷え込んでいて、布団に籠もっているとそこそこに布団が気持ちいい。

 ベッドのスプリングが足りないのはマイナスポイントだけど、布団のふわふわは前世にも負けず劣らずだった。

 今は春先ということもあって、さらに布団の中は天国と化していて、起きるとすぐに二度寝の欲求がやってくる。

 時刻は八時を少し過ぎたとこ。

 我ながら優秀な体内時計は、アラームなんてなくともこの時間にピッタリ起きるようにできているのだ。

 たまに寝坊するけど。

 

 で、じゃあ二度寝の欲求にそのまま身を委ねるのかといえばそんなことはない。

 異世界にだって仕事はあって、自分はそれに今から向かわなきゃいけないのだ。

 なんというか、二度寝っていうのはそういう仕事にいかなきゃいけないのに寝ていたいという、やらなきゃいけない責務を前にしての怠惰こそが欲求の根源ではないかと思う。

 休みの日は二度寝よりも先に、ダラダラとスマホをみちゃう方が先にくるよね!

 

 というわけで、私は起きてすぐには布団から脱出することはせず、そのまま暫く睡魔に身を委ねる。

 多分、五分から十分。

 そうしてから、しかたなーく起きるために布団をどかそうとして――

 

「……やっぱり仕事いきたくない」

 

 死ぬほど仕事に行きたくない美少女の声を出した。

 

「仕事したくない、布団からでたくない」

 

 そのままぐずぐずと、何度かそんな風に声を漏らす。

 我ながら死ぬほどだるそうな声音だった。

 それでも何度か言葉を漏らしつつ、布団から起き上がる。

 結局脱出までには二十分くらいが経過していて、ちょうどそれで支度をすればちょうどいい位の時間だった。

 むくりと体を起こして、大きく伸びをした。

 ちょうどベッドの前にある鏡に、自分の姿が映る。

 

 寝起き故に癖のある銀髪と、背丈にして百五十にギリギリ届かないくらいの小柄な背。

 それとミニマムな体にしてはそこそこボリュームのあるバスト。

 死ぬほど眠そうな美少女がそこにいた。

 いつものことながら、起きた時に鏡で自分の姿を見るとやっぱり多少の違和感を感じるのであった。

 

 

 

 

 

 身だしなみを整えて宿を出る。

 結局眠気はまだ完全には取れないまま、宿の女将さんに「ぉぁぉぅあぁぁいぁす」というもはや言語になっていない挨拶をして、自分はそのままギルドに向かった。

 足は相変わらず重い。

 

 美少女で異世界に転生して、そんな自分の今の職業はいわゆる冒険者だ。

 麗しき異世界の日雇い労働者、とりあえず異世界に転生したらなっとけな職業第一位。

 お前異世界ならどこにでもあるな、のあの冒険者である。

 やってる仕事も、そのイメージからほとんど逸脱しない。

 

 つまり転生者ならもう一も二もなく飛びつくべき、天職のような仕事である。

 だが、残念ながら自分は違う。

 そもそも仕事なんてしたくないのだ。

 転生者ってのは、何となく前世からは考えられない凄まじい行動力を発揮するものだと思いがちだが、しかして実態はご覧のありさまだ。

 環境が変わったって、自分が変わるわけじゃない。

 行動力なんて、早々簡単に爆上がりするわけじゃないのだからして。

 

 いや、それはあくまで転生者の一例で、むしろ半数の転生者は逆に面倒なことはしたくない、関わりたくないと思っているものではあるのだが。

 でもそれって「いやだなーまきこまれたくないなーチラッチラッ」みたいなもんじゃん?

 創作はそうでも、現実はそうじゃないってだけの話。

 まぁ、自分もそういう気分になるときはあるけどね。

 しかしそうなっても最終的には、「面倒だからいいや」が結論だ。

 なるようになれ、いい言葉である。

 

 行き交う顔見知りと挨拶しながらギルド会館の前にたどり着く。

 この時間はギルドに立ち寄って冒険に出かける冒険者が多いのだ、自分のように。通勤ラッシュ!

 さて、ギルドの中は食堂を兼ねた広いホールになっている。

 そこにいる冒険者は三種類。

 今日の冒険の予定を相談する冒険者。

 そもそも冒険に行く気のない酒のんで管巻いてるだけの冒険者。

 クエストを受けるために物色する冒険者。

 

 自分はそのどれでもない。

 すでに受けるクエストが決まっているため、ノータイムで受付に向かう冒険者だ。

 このタイプはそもそもギルドに長居しないから種類に数えなくていいんだね。

 

「ぁぁおうぉざいぁーす」

「おう、おはよう」

 

 朝の一発目の挨拶。

 気合を入れて胸がめちゃくちゃでかいお姉さん気質の受付嬢さん、アダリアさんに声をかける。

 今日もめちゃくちゃ胸がでかい。

 ちなみに男が見てるとめちゃくちゃキレるけど自分が見てても怒られない。

 TSはこういう時得だよね。

 まぁ、そのデカい胸で興奮できなくなってるというマイナスもあるんだけど。

 そもそも前世からして、リアルの女性とお近づきになれるとは思っていないので若干プラスくらいだ。

 

「今日は一段と眠そうだな」

「あぇ? そうえすか? 起きてるつもりなんれすけど」

 

 いきなり思ってもないことを言われた。

 これでも結構起きてるつもりなんだけど。

 まぁいいや。

 その場で両手で目を擦ってから、大きく一つあくびをして本題に入る。

 アダリアさんはめっちゃ苦笑していた。

 TSはこういう時得すぎるよね。

 

「ふぅ……今日は森に行くので、森の常駐クエスト全部ください」

「解った、それとゴブリンのレッド種が確認されている、このクエストもついでに受けていくか?」

「お願いします」

 

 常駐クエストってのはアレね、いつでも受けれるクエストね。

 薬草取ってこいとか、ゴブリン倒せとか、そんなのいちいちクエストボードに出してたらボードのサイズが足りないよ。

 

「じゃあこれ、一応内容読んでから頼むぞ。……にしても」

「なんです?」

 

 受け取ったクエストの内容を確認する。

 どれも変な条件とかはついていない。

 まぁ常駐クエストに条件とかあるわけないけど、ついでに受けたクエストも上位(レッド)種のゴブリンを倒せっていう単純なクエストだしね。

 それよりも、アダリアさんの「にしても」だ。

 何だろう、ジロジロとこっちを見回して。

 

「いっつも思うが、これがうちのエースなんだよなぁ……って」

「……なんです、私は自分をエースと名乗ったことはないんですけど」

 

 というか、これって何だ、これって。

 ツッコミどころが多すぎる、自分は自分をエースだと思えるほどの活躍なんてしてないと思ってるし。

 これという単語はエースに対して使う単語じゃないだろう。

 

 自分は面倒くさがりで、いっつも適当に生きてるダメ人間だ。

 その分他人の評価も低いものだろうと見積もって生きているけれど。

 だからこそ「これ」と呼ばれるのに異論はないが、エースという言葉は違和感しかない。

 しかも滅多にそう呼ばれないし。

 本当にそれ、エースなの?

 

「しょうがないだろ、うちの連中を客観的に評価すると、必然的にそうなるんだよ」

「はぁ……」

「うちで一番ランクの高いCランクで、クエスト達成率が一番高くて、それをソロで達成できる実力がある」

「いやそれは……ここのギルドは人が少なくて、受けてるクエストが常駐ばっかりだからじゃないですか。常駐クエストに実力なんてそこまで関係ないですよ」

 

 ボクは冒険者にこそなったものの、それは孤児でも面接とか下積みとかなしで就ける職業だったからで。

 基本的には安定というか、停滞が信条だ。

 変に新しいこととかしたくない、今までこれでやっていけたんだからこれからも同じでいいだろう。

 ぶっちゃけどうかと思う考え方だけど、それで老後まで稼げるくらいの実力があるのだから変に冒険とか必要ないよ。

 

「それよ、人が少ないってところ」

「はぁ……」

「この街にはダンジョンと魔物が定期的に湧く森がある。狩り場としては安定してるのに人が少ない」

「そりゃ……近くに同じ条件のダンジョン都市があるからでしょ」

「…………だよなぁ」

 

 はぁ、と大げさな溜め息と共にたゆん、とアダリアさんの胸が揺れる。

 言葉遣いがぶっきらぼうだし、低音ボイスだから話してると女性って感じはしない。

 だけど実際には喋るたびにこの胸がそれはもう躍動しまくるので、女性らしさはそこで担保されている。

 ……そこで担保されてるから他のところをおろそかにしてるんじゃないか?

 …………同類!(にこやかな笑顔)

 

「どうにかして、もう少し人が増えてくれないものか」

「今でも十分いるじゃないですか、将来有望な新人たちが」

「そいつら、ある程度成長したら隣町に拠点移すじゃねぇか!」

 

 いや、そういうものでは?

 自分が拠点にしているこの街“カプリコ”は、新人冒険者の街と言われている。

 話にあったけど、隣にある大きなダンジョンのある都市“レグルス”はダンジョン都市と呼ばれるこの国の冒険者家業の中心地。

 周囲は森や山など、豊かな魔物の湧き場になっているのもポイントだ。

 そして、それと似たような環境がカプリコにもある。

 ポイントは、規模と脅威度がレグルスよりも数段落ちるということ。

 カプリコである程度やっていけるなら、レグルスでも問題なく活動できるってことだね。

 

 なのでこの街は新人冒険者が集まって、そしてある程度育つと巣立っていく。

 冒険者ランクはEからA、別枠でSがあるにも関わらず、うちにはCまでしかいないのはこれが理由だ。

 そして、自分はCランクの冒険者だ。

 一般的に、冒険者ってのはCランクまでは実績を積めばなれる。

 だから一人前の冒険者といえばCランクの冒険者である。

 そして自分は、実力で言えば実際のところBランク以上でもやっていける。

 ただ、積極性がとことんない。

 そこで評価を落として、Bランクへの昇格を足踏みしている感じだ。

 あとそもそも、昇格には面接等の試験が必須なので受けたくない。

 もう就活はいやだよぉ。

 

 で、そうなると自分がエースというのも納得がいく。

 Cランクになれば多くの冒険者が隣町へ拠点を移す中、未だにCランクでこの街に居座る変人。

 その実績がそこそこ優秀となれば、まぁ自分がエースというのも客観的に見ればそう評価せざるをえない。

 そしてアダリアさんは、私がエースであるということと人が増えてほしいということを結びつけている。

 

「つまりアダリアさんは、私にエースとしての自覚を持ち、そういう振る舞いをして欲しいとおっしゃる」

「顔がいい、実力がある、他にも色々。お前がもーすこし人目に気を使えば、もう少し人気が出ると思うぞ」

「面倒なので嫌です」

 

 というか、それだったらアダリアさんがもう少し女性らしくすれば男性冒険者から人気が出ると思うのだが。

 アダリアさんは美人だ。

 なのに、女性冒険者からは人気高いけど、男性冒険者からは胸以外は嫌われている。

 冒険者の男女比を考えれば、多分男性に媚売るほうが効率的だよね。

 でもそうしないのは、実際のところ自分もアダリアさんも思うところは一緒だからだ。

 

「言うと思った。まぁぶっちゃけアタシだってそうだよ。じゃあ逆に、だ」

「はぁ……」

()()()()()()()()()()()()()()? 素材はいいんだ。何かしらのきっかけがアレば、アタシらこのままでも人気が出るかもしれないだろ?」

 

 いわゆる、バズるってやつか。

 人生何がきっかけで人気者になるか解ったもんじゃない、と。

 

「アダリアさんは?」

「アタシはゴメンだね。人気なんて出て嬉しいもんじゃない。人が増えないかとはいったが、それの理由が自分だったら、アタシはこの場を逃げ出すよ」

「筋金入りだぁ」

 

 そりゃ、でなければこんな人の少ないギルドで、顔が良くて胸がでかいのに受付嬢で収まってるわけないもんね。

 でも、そうだな。

 自分は……と、少し考えて。

 

 

「私はどっちでもいいや、なるようになれって感じです」

 

 

 まぁ、そうなったらそうなったで別にいいかな、と結論を出した。

 だって、そこでアダリアさんみたいに逃げて環境を変えるのも面倒くさいし。

 

「……お前、筋金入りだな」

「はぁ……と、話し込んじゃった。そろそろ出ますね」

「ってこいよー、“シルル”」

 

 適当に話を切り上げて、私はギルドを出る。

 さて、今日もいつも通り仕事を始めるとしますか。

 

「……仕事したくないなぁ」

 

 そんな本音を零しながら、私――シルルは町の外へ向かって歩き出すのだった。

 

 

 ####

 

 

 出ていったカプリコの街のギルドのエース、シルルを見送ってアダリアは一つ吐息を零す。

 あいも変わらず、シルルはダメ人間だった。

 髪の毛はところどころに寝癖が残っていて、衣服は上下一式が揃っている魔法具をいつも着ている。

 洗っているのかと聞くと、自動修復のお陰でソースとか零しても次の日には取れてるんですよとか言い出す。

 衣服自体は袖と胸元に入った刺繍が、どこか気品を感じさせる動きやすい白の短パンとマントが特徴的で、白髪のシルルにはピッタリと似合っていると言うのに。

 

 とはいえそれは、シルルの人間性を知っているアダリアの考えで。

 シルルを知らない人間からすれば、そうではないのだろうなぁ、とも思う。

 特に、彼女の強さとその戦い方は、周囲に彼女を有望な冒険者であると認識させるには十分なものだった。




転職したい転職したい言いながら行動を起こさないタイプのダメ人間です。
これでも昔はすごかったんです、みたいな話は次回。
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