怠惰なダメ人間、美少女にするとそれっぽく周囲が補正する説 作:布団の中
自分が前世の記憶を取り戻したのは今から十年前になる。
気付いたらスラムの片隅で孤児をしていた。
当時五歳くらい、後ろ盾なんて何もない。
いやいや中々にホットスタートな不幸人生である。
幸いだったのは、磨けば光るとリアルの女性にほとんど興味なかった自分でも解るくらい顔立ちがよかったということ。
不幸だったのは、そこが近くに娼館とか普通にある女性に優しくないスラムだったこと。
自分の顔がいいと分かれば、即誰かに拐われて娼館に買われるだろうことが想像に難くない状況。
そんな詰みまっしぐらな環境に自分は生まれた。
前世は普通に生きて死んだ社畜オタクだ。
休日のために仕事をしているくせに、その休日もダラダラと潰してしまうダメ人間だが、それ以上の存在でもない。
なんでこんな目に? と思いながら、飢えていく体とひと目に付きそうになることを恐れながら必死に状況をなんとかしようと考えた。
ぶっちゃけ半分くらいは現実逃避で一日を泣いて過ごすことに費やしたけど、それでも何とか恐怖に歪む心を抑えて、自分はそれを見つけた。
きっかけは街の灯りだ。
電灯でも、ガスライトでもない、
この世界には魔術がある。
これしかない、と自分は決心した。
それからの行動は、多分怠惰な自分の人生で最も行動的だったと思う。
自分の体にも魔力があると本気で信じて、前世の感覚と今の感覚の相違点を必死に探し、見つけた。
もはや空腹で自分がどういう状態なのかも解らないくらい衰弱した状況で、だからこそだろうか。
明らかに、前世にはなかった感覚を体内から感じることができたのだ。
これが魔力、そう結論付けて自分はそれを何とか外に出そうと試みる。
出せばそれを炎にすることもできるのだ、例えば水に変換できれば、
魔力を使って盗みを働くことは考えなかった。
前世にそういう発想を養う素養がなかったからね。
やがて、自分の試みは成功。
スラムで一番大きな娼館の前で、店番をしている女性の眼の前で水を出してこれを買ってくれと頼んだのだ。
もはやこれで失敗すれば自分は終わりだ、そういう破れかぶれな状況故に出た賭けだった。
水の販売は成功、どころかそのまま娼館に拾われ――そのまま娼婦にされるかというと、そんなこともなく。
自分はその娼館で保護を受けながら、魔術の腕を磨いて育った。
十歳くらいまではその魔術で娼館の用心棒をしていたのだけど、十歳になった時、娼婦にならないかと誘われた。
いやいや冗談じゃない、姐さん達の仕事は前世の印象とは違って立派なものだけど自分がやりたいかと言えば話は別だ。
というわけで辞退して、娼館の人たちも引き止めることなく、自分は娼館を去って冒険者になった。
そして今の自分は、カプリコの街で冒険者をしている。
カプリコのシルルと言えばそこそこに有名な冒険者で、カプリコが新人冒険者の街であることも相まって、自分のファンだという冒険者も多い。
そんな波乱万丈で、ドラマチックな経歴が、自分にもある。
正直、今思い返してもあの五年間は自分でも信じられないくらい物語みたいな人生だった。
娼館の人たちは、善性に満ちているわけじゃないけれど、真剣に人生を生きている強い人たちで。
娼館っていうのも、イメージと違って奴隷として飼われてるとかそういうんじゃなく。
むしろ華やかで文明的な場所だった。
食事も美味しかったしね。
とはいえ、降りかかる事件は数多く。
貴族の坊っちゃんが、娼館一の美女を買おうとして騒動になったり。
別の娼館が“悪魔”と呼ばれる種族の魔物に乗っ取られて、人類を襲撃する悪の拠点になってたり。
自分はそれに、魔術で立ち向かったのだ。
いやはや前世の冴えないオタクのおっさんが、娼館を舞台に大立ち回りする美少女魔術師に、映える話だ。
まぁ、その頃の自分については、今の自分の話と大きく脱線するので脇に置いておくとして。
安定した今の自分は、こうも考えてしまう。
もう頑張らなくてもよくね?
一生分頑張ったし、後は適当に生きればよくね?
実際、面倒くさがりなダメ人間の自分にしてみれば、それは自然な成り行きだ。
燃え尽きた、とも言う。
しかし同時に問題もあった。
ここに至るまで、自分は頑張りすぎたのだ。
自分にしては、という枕詞こそつくものの、自分の今の人生を振り返ると前世とは比べ物にならないくらいエキサイティングで。
それだけに、周りから向けられる視線の数も莫大だ。
これから普通に生活するにも、一度姿を眩ませて別の場所で名前を変えて生きるしか無い。
じゃあどうするか?
自分はそれにこう考えた。
なるようになれ。
別に、わざわざ自分から行動を起こす必要はない。
もしも誰かが声をかけてきたらその時考えれば良い。
それすら面倒だったら、その時に考える。
自分は仕事が面倒だからってそれを投げ出すわけではなく、投げ出した後にもう一度仕事を見つけることの方が面倒になるタイプだ。
転職したいしたい言いながら、できずに乗り遅れる方なのだ。
だからもう、それでいいじゃないか。
世の中なるようにしかならない、その上で自分のしたいことだけをして生きていこう。
今の自分には、それができるだけの実力が――
魔術の腕が、あるのだから。
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この世界の冒険者は、ギルドに所属してクエストを受ける。
その実績がある程度以上になると昇格していくというシステムだ。
EランクからAランクまでがあり、それとは別にSランクも存在する。
Sランクは世界を救った英雄とかに与えられるランクなので、別枠。
そして通常のランクの中でも、実績だけで昇格できるのはCランクまで。
BとAはまた別物だ。
多分、転生モノのギルドなんてどこもこんなものだと思う。
ある種ゲーム的というか、ゲーム感覚でできるのが転生モノ冒険者のいいところというか。
まぁ自分はそれすらも面倒なので、適当に常駐のクエストをこなして生活してるんだけど。
常駐クエストは文字通り、いつでも受けられるクエスト。
前も言ったけど、ギルドのクエストにおける定番、魔物の討伐とか素材の収集とかは、常に一定の需要が存在する。
だから受けようと思えば何時でも受けられるし、ギルドもそれを提供しているのだ。
ポイントは、常駐はしてるけどその報酬は日によって違うというところかな。
一定の需要はあっても、その需要が低下する時もあるからね。
スーパーの生鮮食品の相場みたいなもんだ。
で、今回受けた依頼は採取の依頼と討伐依頼。
向かう先はカプリコの街近くにある大きな森だ。
ディモア森林と呼ばれるそこは、かつて悪魔種の魔物が拠点にしていた森で、魔物が多い。
そのため狩り場として優秀で、カプリコ周辺の二大狩り場の一つというわけ。
ちなみに、もう一つはダンジョン。
魔物たちの神が創ったとされる迷宮で、自動的に魔物と宝箱がポップする。
これまたゲームみたいな場所。
でもって転生モノ異世界では定番の場所だ。
カプリコのダンジョンは初心者向けのあまり強い魔物が出ないダンジョンである。
その割には、宝箱の中身がそこそこいいので、そりゃあ新人も集まるというもの。
多くの冒険者は、ぶっちゃけ森よりもダンジョンを好む。
宝箱というわかりやすい報酬があるから当然だよね。
錬金に必要な素材が森でしか取れないとなったら、森にも足を運ぶだろうけど。
錬金にまで話を向けると脱線するので、話を戻す。
自分は基本的にダンジョンより森に行くことの方が多い。
ダンジョンに行っても宝箱の中身が美味しくないのに、人が多いからだ。
宝箱の中身がそこそこいいって言っても、そこそこってことはつまりある程度ってことだから。
Cランク以上の冒険者の装備は、たいていカプリコのダンジョンの報酬よりも質がいいのだ。
で、今は採取をサクッと終えて討伐の真っ最中。
まぁ採取って言ってもね、ずっとやってると気が滅入るからね、適当で切り上げるのがいいのだ。
討伐の方も、戦うのはバトルウルフっていうこれほぼ狼じゃんみたいな魔物と、異世界の定番であるゴブリンだ。
前者は見た目も挙動もほぼ狼なのに、肉が死ぬほど美味しい上に毛皮も服に使えるという倒せば倒すだけ幸せになれる魔物。
逆にゴブリンは、人里を襲うわ女性を苗床にするわで人類の敵だ。
どちらも、常駐に相応しいありふれた魔物である。
しかも今回はどっちも一箇所に固まっていた。
というか、ゴブリンがバトルウルフを襲っていた。
まぁ食料として優秀だからね、バトルウルフ。
名前の割にほとんど獲物としか見られてない不憫な狼だ。
とはいえ、纏めて倒せばクエスト達成である。
「ま、サクッと行きますかぁ」
遠く、木の陰からゴブリンとウルフの取っ組み合いを見ながら言う。
これ、下手に放っておくとゴブリンがバトルウルフをボロボロにして皮と肉がだめになってしまう事があるので、さっさとどうにかしないといけない。
そこで自分は魔力を練り上げて、魔術の準備をする。
魔術、と言ってもその種類は様々だ。
火を生み出したり水を生み出したり、魔力による肉体強化、物体を操るなんてものもある。
だが、総じて言えることは使用に危険が伴うということ。
火や水は下手にぶっ放すと環境を変えかねない。
前者を森で使って火事とかありうるし。
魔力による肉体強化は、下手に強化が足りていないと一方的になぶり殺しにされたりするということ。
戦闘を生業にする冒険者になっておいて何だが、自分は戦闘が嫌いだ。
正面切っての切った張ったとか怖い、一方的に相手をなぶり殺しにしたい。
言ってることは最低だが、要するに痛いのはゴメンって話。
かといって遠距離では物を破壊したり、バトルウルフのような獲物を台無しにしてしまったりする。
そこで自分が主に使う魔術は――
「“聖弾”」
ポツリとつぶやかれた言葉とともに、自分の周囲に光の玉が出現した。
それが、即座に射出されてゴブリンとバトルウルフへ向かっていく。
そのうちいくつかが、鬱蒼と生い茂る木々に激突して、弾けて消える。
拳に木を本気で打ち付けたくらいの音がして、少し木が揺れるがそれだけだ。
魔物たちがそれに気付いた時にはもう遅い、いくつかの光弾が魔物に突き刺さり――
勢いよくふっ飛ばした。
「もう一発、“聖弾”」
続けざまの射出で、うろたえる魔物たちを次々と撃ち抜いていく。
最終的に、すべての魔物に光弾は直撃し、魔物たちは動かなくなった。
一撃必殺、この程度の魔物に使うレベルの“祝福”ではなかったが、まぁ問題ない。
聖弾。
一言で言えば、魔物に効果のある“祝福”という力に魔力を変換して光の玉という形で飛ばす魔術だ。
これのいいところは、魔物にしか大きな効果がないということ。
魔物に対してはその祝福の効果で一撃必殺だが、人間にはせいぜい本気で殴りかかる程度の威力しかない。
当たりどころが悪ければともかく、普通に当てた程度だと人を殺したり致命的な怪我を負わせたりしないのだ。
それでも当たれば痛いし、連続で喰らえば人は簡単に動けなくなる。
魔力で身体強化をしていない相手を制圧するなら、これは最適の魔術と言えた。
「一応確認に行きますかぁ……“聖刃”、“抜刀”」
二つの魔術を、起動詞と自分が呼んでいるキーワードで使用する。
魔術にはいろいろな種類がある、と言ったが魔術は発動方法すら様々なのだ。
人によって最適な方法があり、自分の場合は魔力を体内で練り上げて起動だけは言葉に出すことで行う。
人生で最初に使った水を生み出す魔術が、この方法で発動したものだから、くせになっているんだね。
んで、起動した魔術によって、聖弾と同じ効果を持つ光の剣が自分の手に出現する。
自分はそれを構えたまま、ゴブリンとバトルウルフの死骸へ向かっていく。
死亡を確認して、ウルフの皮と肉を解体するためだ。
どう考えても死んでるけど、確認しないことには仕事として終わったとは言えないからね。
「死んでる……死んでるな、うん」
と言っても、やることは聖刃で魔物をツンツンするだけなんだけど。
これ、触れるだけでも魔物にとっては死ぬほど痛いからね、生きていたら反応がある。
結果大丈夫だと判断して、一息ついた。
――その時だった。
「ゲギャア!」
物陰から、赤色のゴブリンが飛び出してきた!
「うわっ!」
レッド種――文字通り赤色のゴブリンは、アダリアさんの話にあったゴブリンの上位種だ。
ブルー、レッド、ブロンズ、シルバー、ゴールドの順で強くなっていく。
つまりこいつは素のゴブリンと合わせて下から三番目の強さ。
だが、それでも不意打ちで襲ってくると途端に脅威度が上がる。
魔術師が――というか自分みたいなものぐさが接近戦を得意としてるわけないだろ!
と、言いたいところだが。
飛び出してきたゴブリンに対して。
自分はまるで達人のごとく聖なる刃を添えて、一刀のもとに斬り伏せた。
「ギャ――?」
自分がどうなったのか気づく前に、祝福の効果でレッドゴブリンがその場へ崩れ落ちる。
一瞬にも満たない戦闘だ。
下手すると、こうなっているのは自分でもおかしくなかった――が、
「ま、“抜刀”使用中の自分に、不意打ちは意味なかったねぇ」
対策の魔術、“抜刀”を起動していたことでそもそも不意打ちの心配は無いといってよかった。
“抜刀”は、肉体強化と技能向上の複合魔術。
前者は文字通り、後者はまるで剣の達人のように勝手に体が戦闘において最適な行動を取ってくれる効果がある。
これが、自分が魔術師として戦闘に使う主な魔術だ。
他にもいくらか手札はあるけど、この二つがあればだいたいの敵に勝てる。
我ながら、いい感じに被害が出にくくて強い魔術を
うん、この魔術はどれも自分のオリジナルなのだ。
そもそも自分の魔術って独学だから、当然と言えば当然なのだけど。
独自の魔術を開発し、難なく敵を殲滅する冒険者。
しかも見た目はいいし周りに被害を齎さない。
こうして書くと何か自分ってすごい冒険者なんじゃ……という気がしてくるのだった。
死にかければ流石に誰だって行動力上がるよねみたいな話