怠惰なダメ人間、美少女にするとそれっぽく周囲が補正する説   作:布団の中

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なるべくして天才にさせられたダメ人間

 自分は、例の魔術による難問解決の報酬で、軽くパーッと美味しいものを食べることにした。

 そのために、普段拠点としているカプリコの街を抜け出して、隣町のレグルスにやってきたのだ。

 もちろん、近くの大きな街に出かけて美味しいものを食べるなんて、ちょっとした休みの贅沢をしたくらいじゃ、報酬は使い切れない。

 なので、これはあくまでレグルスに出かけるきっかけとしての報酬の使い道だ。

 気が向いたら、そもそも報酬なんてなくてもレグルスまで出かけるし、そうでないなら無限にカプリコで引きこもってるのが自分である。

 

 ダンジョン都市レグルス。

 自分が所属……というと変だけど、まぁその国の貴族ということになった以上、所属している国であるところの“アストロ王国”で、レグルスは二番目に大きな都市だ。

 アストロには十二の大きな都市があって、それを十二の貴族が支配している。

 先日依頼に来たロアシーラ家は、ちょうどそのレグルスを支配する大貴族。

 公爵家ロアシーラ、偉大なる王家に連なる一族だ。

 その一族のご息女の髪がぼろぼろ抜け落ちてたんだよな数日前まで、と思うと何か変な気分になるな。

 

 レグルスがダンジョンを中心とした冒険者の街というのはこないだ話したけど。

 他にも国で二番目に大きな都市ということもあって、レグルスは非常に文明的だ。

 この世界、基礎的な文明レベルは中世風だけど、一部の文化レベルはやたらと高い。

 食事なんかはその一つで、普通に前世と変わらないくらい美味しい。

 これ、自分という転生者の前例を考えると、自分より前にそういう分野のプロが転生してきて文明を発展させたんじゃないかって自分は勝手に思ってる。

 面倒なので調べたりはしないけど。

 で、そんな文明都市レグルスで美味しいものを食べると知り合いに言ったら。

 

『せっかくだから、一緒に食べましょう。こっちで予定を合わせるから何時ごろ来るか教えて』

 

 とのこと。

 彼女と話すのは一ヶ月ぶり(この世界の暦だ、太陽暦とは微妙に異なるけど十二ヶ月で一年という部分は変わらない)に話すので、せっかくならばと了承した。

 人付き合いは苦手だけど、自分に優しくしてくれる人なら話は別だ。

 まぁ、彼女は基本的に口うるさいけどね。

 

 というわけでやってきましたレグルスのレストラン。

 香ばしい香りが鼻孔をくすぐる、パスタみたいな麺を中心としたイタリアンに近い料理を提供する店。

 まぁ他にも雑多に雰囲気にあった食事を提供しているので、この世界のファミレスみたいな場所だ。

 店名『眠れる獅子子(ししし)』、雄々しくも可愛らしい、男性冒険者からファミリー層、女性客まで誰でもウェルカムなお店である。

 

「――シルル、こっち」

 

 と、そんな店内を眺めていると、声をかけられる。

 目的の人物がそこにいた。

 

「どうもフェリア、今日も元気そうだね」

「そっちは相変わらず、眠そうな目をしてるわね……」

「これが普通だよ」

 

 燃えるような赤髪を腰まで伸ばした少女だった。

 明らかに気が強いですよといった鋭いツリ目と、赤髪を一房結んだ髪飾り。

 青を基調としたパリっとした制服みたいな服と無骨な革の胸当て。

 ミニスカートから伸びるスラッとした足はタイツで覆われていて。

 年の頃は自分と変わらない十代半ば。

 背丈は自分よりちょっと高くて百五十くらい、つまり女子の平均。

 胸の方は、アダリアさんほどじゃないけど豊満だ。

 学生冒険者、と表現するのが適当に見える美少女がそこにいた。

 

 ミルフェリア・アラジアンタ。

 レグルスにいることから察しはつくかもしれないけど、冒険者をしている。

 他にも学生だったり、魔術師だったり、色々肩書はあるけれど。

 何を隠そう、貴族のご令嬢様である。

 元、だけど。

 

「このタイミングで、あんたがこっちに来るってことは例の依頼、受けてもう達成したのね」

「やっぱり紹介したのはフェリアだったか。うん、終わって報酬の櫛も換金した」

「そこでノータイムで櫛を換金できるのは、多分この世界であんただけよ……普通はもっと体面を気にする」

 

 はは、と乾いた笑いを浮かべながら、フェリアは自分にそういった。

 いやだって、別に売っぱらっても公爵家に伝わるわけじゃないし。

 何よりこういう体面って、案外そういうところは実際には気にされないとここ数年の貴族との付き合いで判別ついてるからね。

 

 ともあれ、フェリアは自分に注文を勧めてきた。

 自分も適当に、ナポリタンに近い麺料理を頼む。

 フェリアも同じものを頼むと、自分たちは早速本題に入った。

 

「――で、どうだった? その呪い」

「思ったより単純だったよ。ああでも、髪の毛を抜く呪いに体調不良の呪いを組み合わせる方法はちょっと興味深かったな」

「そういえば、呪いに呪いを組み合わせるって言葉にすれば単純だけど、やろうと思うとちょっと複雑ね。どういう構造だったのかしら」

「あー、再現するね」

「よし来た! お願いお願い! ぜひお願い!」

 

 身を乗り出して視線を近づけてくるフェリア。

 自分はそれにちょっと気圧されながらも、魔術の再現を始める。

 

 ――何をしているかといえば、魔術談義だ。

 何を隠そう、自分とフェリアは根っからの魔術オタクなのである。

 といっても、自分は才能があったから魔術に興味があるだけで、知識としてはニワカもいいとこなんだけど。

 はっきりいって興味がある動機も、娯楽の少ないこの世界で自分が興味を持てる分野の一つだったから、趣味の一環としてという動機だ。

 不純も不純、褒められたものではない。

 とはいえ、オタクが何かしらの分野に興味を持つきっかけって、そのコンテンツに触れた時で。

 興味を持つと割とガッツリそのコンテンツの歴史を調べるのはオタクの習性みたいなものだと思う。

 そういう意味では、自分は割とガッツリ、この世界でもオタクをしていると言えるのではないだろうか。

 

 ……フェリアとの関係?

 それはまぁ、なんというか。

 

 

 ……()()()

 

 

 いや、止めを刺したのは実質フェリアなんだけど。

 どういうことか?

 具体的にいうと、フェリアのアラジアンタ家は今から数年前に没落した。

 この国でも有数の大娼館で、アラジアンタ家の長男が起こした騒動の責任を取って。

 前にも話をしたけれど、自分が住んでいた娼館の姐さんをほしいと言って問題を起こした貴族がそのアラジアンタ家の長男で。

 自分とフェリアはその騒動の際に知り合って――そのアラジアンタ家長男の諸々の罪を暴いた仲である。

 

 

 ####

 

 

 シルルとアタシは、もう数年来の付き合いになる親友だ。

 出会ったのは、歓楽都市タウラの高級娼館『水牛亭』で兄が問題を起こした件。

 アタシはアラジアンタ家の長女で、上に一人兄がいる。

 この兄が典型的なダメ貴族ってやつで、アタシはそういう兄の曲がったところを心底軽蔑していた。

 そんな兄が、毎日歓楽都市、つまり悪い奴らがウヨウヨいそうな場所に足繁く通っていたら、当然子供のアタシはをそれを怪しむ。

 

 結果、兄を尾行してその悪事を暴こうと考えたバカが誕生したのだ。

 今にして思えば、あまりにも短絡的すぎたと思う。

 周囲から魔術の天才として持て囃され、天狗になっていたのがよくなかったのだろう。

 最終的に、怪しげな男達に連れ去られそうになったところをシルルに助けられてことなきを得た。

 それ以来の付き合いだ。

 

 正確には、シルルの娼館が兄の被害を受けていると知って、ともに兄をどうにかしようと協力関係を結んだ時から、だろうか。

 最終的に兄は断罪された。

 まさか、この国のトップ、つまりアストロ国王すら出てくる大事件になるとは思わなかったけれど。

 そしてその代償としてアタシ達アラジアンタ家は貴族位を失った。

 とはいえ、断罪されて処刑された兄以外の家族は、没落を普通に受け入れていて。

 元々、兄の存在がなくとも、ここ最近貴族として衰退していて、もう限界だったのだ。

 いい機会だと両親は笑っていた。

 

 アタシとしても、将来どこぞの知らない貴族に嫁いだり、兄のスペアとして家を継ぐ必要がなくなったことは助かっている。

 何故なら、アタシは魔術の研究に人生を捧げたいからだ。

 人生で初めて周囲が認めてくれた魔術の世界で、アタシは研究の果てというやつを見てみたいのだ。

 

 そんなアタシが最も興味を寄せる存在。

 誰よりも何よりも知りたいと思う存在。

 いうまでもなく、それはシルルを置いて他にいない。

 貴族でないにも関わらず、開放の儀を受けていないにも関わらず魔術を使えるこの世界唯一の存在。

 

 なぜ魔術が使えるのか、それをシルル自身の口から聞いた時は思わず絶句したものだ。

 頼れる相手も、金もなく、魔術が使えなければ死ぬと本気で思った上で、魔力の感覚を探り当てた。

 言うまでもなく極限状態である。

 とはいえ、世界にはそうやって死んでいく子供というのはありふれていて、たまたまシルルにはそこから助かる才能が備わっていたわけだが。

 なお、このことを知っているのは私と……後はこの国の王様だけだ。

 とんでもない秘密を聞かされてしまったものである。

 

 シルルは怠惰な人間だ。

 本気でやればAランクの冒険者としての栄光が転がり込んでくるくらい強いのに。

 でも、そもそもその強さは生きるのに必要だったから備わったものだ。

 そうでなければ、彼女は魔力を自力で感知できるようになるなんてことはないだろう。

 シルル曰く、自分が体内の魔力を認識した方法は再現性がなく、他人に話せる内容ではないという。

 話せないと言うのは、少しばかり寂しいとアタシは感じてしまうけど、秘密にされるよりはずっといい。

 どちらにせよ、再現性がないと言うことはそれはシルルの才能と言っていい。

 

 シルルはその才能を否応なく目覚めさせられた存在だ。

 そして、それ以来怠惰な性格でありながら、今の生き方を義務付けられている。

 ……いや、あいつが面倒くさがって環境を変えられないからそういう生活を送っているだけじゃないか?

 っていうか別に、今の生き方だって大概怠惰じゃないか?

 もうちょっとこう、自分の人生を意義のある方向に持っていっても良いんじゃないか?

 

 大分話がズレたけれど、シルルの才能は本物だ。

 普通、人間は自分の体内にある魔力を朧気にしか感知できない。

 それを完璧かつ正確に、ましてや思うがままに操ることができる存在なんて前代未聞だ。

 一般的に、人間は一つの魔術を創作するのに百年はかかると言われている。

 しかもこれは個人ではなく、国家が莫大な予算を投入して行うものだ。

 今も、この国の魔術研究機関では、日夜新たな魔術の開発が行われている。

 それをシルルは、たった数分で、一人で成し遂げてしまうのだから恐ろしいという他にない。

 

 幸いなのは、シルルが通常の貴族とくらべて異常に魔力の保有量が少ないこと。

 そりゃ、彼女の中に流れている貴族の血は微量なのだから当然と言えば当然なのだけど。

 結果として彼女の魔力では、例えば戦争で軍一つを壊滅に追いやるほどの大魔術は創造し得ない。

 加えて、魔力量が少ないのを補うように、彼女の魔術は非常に高度で複雑、そして独特だ。

 ごく少量の魔力でも起動できる代わりに、他の人間が扱うとなるとそれはもう繊細すぎて扱いきれない精度の魔力操作技術。

 つまりシルルの魔術はもはや、魔術という規格では扱えないような代物であると言える。

 

 その証明とも言えるのが――

 

「――ついさっきまで呪いが込められてた魔法具に、解呪の魔術を込めようとした?」

「うん、すごい顔された……今フェリアがしてるみたいな顔」

 

 思わずアタシはすごい顔をしてしまった。

 いや、あり得ない。

 

「確かに、魔法具に魔術を込めるのは多少技術は必要だけど難しい技術じゃないわ?」

「だよね、そう思ってたからまさかそんな顔されるとは」

()()()()()()()()()()()()はね! 魔術を魔法具に込めるといっても、その難易度は込める魔法具によって違うの」

「あー」

 

 ――これだ。

 こいつはこういうやつだ。

 魔術を込めるための普通の魔法具に魔術を込めるならいい。

 だが、もしもさっきまで今から込める魔術と正反対の魔術が込められていた魔法具にそれを込めるとなれば――

 

「……自分はまたやってしまったか」

「おい、初犯じゃないのか」

「わかんない。自覚がないからね!」

「自慢するな! ……まぁそうね、あんたまたやったのよ」

 

 アタシは、溜め息とともに苦笑いするシルルに言ってやった。

 

 

「とんでもなく無駄な技術を披露したのよ」

 

 

 苦笑いしていたシルルが、ピタリと停止する。

 そりゃそうだ、だってそんな技術が使えて何の意味がある?

 本来込められてた魔術を抜き取って、代わりに別の魔術を込めて罠に使う?

 そんなことできる人間、この世界に一人しかいないんだから犯人モロバレじゃないか。

 活用法のない無駄技術。

 なのに、それを為すにはあまりにも高度な技術が必要になるという矛盾。

 

 シルルはすごい。

 

「でも、とんでもないバカ」

「でも、で何故そんな罵倒が飛び出す!?」

「アンタにアタシの気持ちなんて、絶対にわかんないのよ」

 

 言いながら、シルルの癖っ毛をワシワシする。

 ぬあー、というシルルのやる気のない声が響く。

 ――すごい。

 本音を言えば、すごく羨ましい。

 でも、本当にすごい。

 こいつは天才だ。

 そうならざるを得なかった天才。

 

 多分、この世界でもっとも魔力の“深淵”に近い存在。

 本人はそんなものを覗く気なんてこれっぽっちもないだろうし、もしもその気になってしまったらそれはそれで危険だとは思うけど。

 こいつを通して、この子を()()()という行為は、魔術を極める上でもっともわかりやすい目標の存在する行為だ。

 

 シルルの見ている世界が見たい。

 それが、今のシルルの親友としてのアタシの夢。

 

 ――かつて、魔術の天才と持て囃され天狗になっていたアタシ。

 バカをやって、ピンチになって。

 それを本物の天才に助けられた。

 

 複数のチンピラを一瞬にして制圧してみせたあの姿は、当時まだ十歳にも満たなかった本物の天才が見せたあの姿は。

 アタシにとっては、未だ頭に焼き付いて離れない――原風景なのだから。




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