怠惰なダメ人間、美少女にするとそれっぽく周囲が補正する説 作:布団の中
ある日、冒険者ギルドでいつもの常駐クエストを受けようとアダリアさんに声をかけると。
「シルル、お前この依頼受けてみない?」
と豊満な胸を揺らしながら一枚のクエスト依頼書を渡された。
内容は――
「いやアダリアさん、これ錬金代行のクエストじゃん、私錬金術師じゃないですよ」
と、本職の仕事ではないので断ろうとした。
が、しかし。
「――どっちも似たようなもんじゃん」
「…………なんですとぉ!?」
聞き捨てならないことを、アダリアさんは言った。
待て待て待て、錬金術師と魔術師は違うものだ。
魔術師は貴族で、錬金術師は職人だ。
前者は貴族じゃないとなれないけれど、後者は庶民だってなれるんだぞ――!?
「……だから、錬金術師イコール魔術師は間違いです! わかりましたか!?」
「ふぅーん」
「露骨に興味ない反応された!」
というわけで自分が懇切丁寧に解説すると、完全にバッサリ切り捨てられた!
これだから雑なアダリアさんは!
ゲームが全部ピコピコなおかーさんですか貴方は!
「……アダリアさんのそういう雑なところ、私苦手です」
「アタシは、お前のそういう興味のあるところだけやたら真面目なところ、嫌いじゃないぞ」
「むむ……っ!」
皮肉を言われている!
でも本音でもある!
でもやはり、何から何まで雑なのはアダリアさんだと言わざるをえない。
胸の大きさすら雑なのだからして。
何だあの胸、スイカよりデカイんじゃないか片方だけで。
この胸があって、なお男どもはアダリアさんを苦手としているのか……
いや、実は裏では人気があるやつだな。
あいつが好きなのは俺だけだしみたいな……ともかく。
「私、この依頼は受けませんからね」
「ほほぉ……できないのか?」
「なっ……!」
そう断ろうとしたら、アダリアさんが煽ってきた。
「逃げるのか? 天下の美少女魔術師シルル様ともあろうお方が、この程度のクエストから逃げるのか?」
「くっ……」
いわゆるそれは、いわゆるそれは……
「やってやろうじゃないですか!」
フリ、というやつであった。
結果自分は、予定にないクエストを受けた。
おのれ……
####
錬金術師というのはこの世界における花形職業だ。
魔術師が貴族の特権であるために、一般の人間は魔術という特異な現象を肌で感じることは難しい。
庶民にとって最も身近な魔術は、魔法具に込められた魔術だ。
前にも言ったけど、魔法具に込められた魔術はその原理が解析され、量産されている。
その量産を担うのが錬金術師であるわけだ。
もちろん魔術師にも魔法具に魔術を込めることは可能なんだけど。
どう考えても量産するには魔術師の絶対数が足りなさ過ぎる。
その点、錬金術師は誰だってなれるし、目指す人間も多い。
冒険者か、錬金術師か。
といったら、多分後者の方が人気あるんじゃないか?
鍛えた錬金術師は普通に冒険者するよりもずっと強くなれるし、自分でオリジナルの魔法具を作れるようになればそこらのBランク冒険者なんて敵じゃないだろう。
ただ、技術職な上に知識も必要だし、なるにはお金が結構かかる。
国が大分補助してくれるとはいえ、なろうと思ってなれるのはある程度のお金を持った家の人間だけ。
まぁ、前世で大学を出られるだけのお金がある家くらいの規模の家庭がなれる、と言えばわかりやすいと思う。
ともあれ、錬金だ。
錬金とはすなわち魔法具を複数の素材を組み合わせて作り上げる作業を指す。
時折ゲームに存在する錬金システムと、システムは似たようなものだ。
作られた魔法具には、それぞれ魔法や特別な能力が付与されている。
例えば自分の普段着にしている装備。
『白の旅立ち』と呼ばれる魔法具なのだけど、これには軽い身体強化の魔術と衣服自体の防護強化、それから自動修復の魔術が組み込まれている。
強化されていない剣なら刺さっても弾いてしまうし、着ていれば身体強化で長旅も苦にならない。
補修はいらないし、洗濯もいらない優れもの。
旅立ちという割に、普通にBランクからAランクの冒険者が装備するくらい高性能な魔法具だ。
ここで言えることは、魔法具には複数の魔法を込めることができるということ。
もちろん、前に呪いの櫛に魔術を込める話があったと思うけど、込める数と種類によって難易度は大きく変わる。
無茶な魔術同士を同時に込めた魔法具は、流石にダンジョンから出土したものじゃないと難しいね。
そして、自分は魔術を込めることに関しては無駄に天才だとこの間フェリアに言われたけれど。
それでも複数の魔術を一つの魔法具に込めることは不可能だ。
いや、やろうと思えばできるけど、少なくとも自分のオリジナル魔術を二つも三つも組み込むのは無理。
そしてこの世界の既成魔術を使うには、自分の魔力量は少なすぎるので無理。
今回のクエストは錬金代行。
どこかの錬金術師が、あまりに忙しすぎて在野の冒険者を兼任している錬金術師に作成を依頼する。
これが錬金代行だ。
つまり、錬金術師じゃない自分が受ける依頼じゃない。
普通は手元に素材が集まってて、時間のある錬金術師が小遣い稼ぎにやる仕事だ。
だからそういうのを受けるのはある意味営業妨害なんだけど。
「これ、期限が明日だよ。普通に考えて受けてもらえるワケない」
なので遠慮なく、アダリアさんの口車に乗ったわけ。
クエストが達成されれば奇跡みたいな代物だ。
たとえ自分が失敗しても、誰も迷惑しない。
「といっても素材は自分の手元にないなぁ」
今回のクエストで求められているのは『三倍速の靴』と言われるモノ。
身体強化、軽量化、速度強化の三つの魔術を組み込むことで、足の速さを三重に強化するという代物。
別に本当に三倍速になるわけじゃない。
多分2.3倍速くらい。
それでも速いというのはその通り、そして半端な小数点。
必要な素材も三つ。
『レッド種のバトルウルフの鉤爪』と『イーグルホークの羽』と『シーパンサーの革』。
どれもこの辺りで取れる素材じゃない。
バトルウルフはどこにでもいるけど、レッド種となると貴重だ。
もちろん自分も持ってない。
では、どうするか?
答えは簡単。
「すいませーん、この素材置いてませんか?」
店で買う、これね!
自分はカプリコの街にある商店を訪れていた。
冒険者が利用する道具を扱う商店で、その中には素材の店売りというのも含まれている。
錬金は、広く庶民に広まった一般的な技術だ。
街には必ず複数の錬金術師が存在し、何なら田舎の村にも一人くらい錬金術師がいる。
錬金術ってのは、医薬なんかも作れるから、医者の役割を担っている錬金術師も多いのだ。
だから、素材も相応に需要がある。
素材を買うなら、錬金術師の店か、冒険者向け商店が一番だ。
とりあえずギルドから近い店ということで商店の方を先に訪れたが、ここになかったら別の店を回る予定である。
「わわ、シルルさんだ珍しい。いらっしゃいませぇ、ちょっと探してきますね」
当然と言えば当然だけど、この店の店主とは顔なじみ。
恰幅のいい中年夫妻の営む店だ。
今日はおばちゃんの方が店番をしていた。
流石にギルドの隣に店を構えるだけあって、接客は丁寧だ。
「ありましたありました、全部置いてありますよぉ、特にレッド種のバトルウルフとか、素材が倉庫でホコリ被ってまして」
「ありがとうございます。おいくらですか?」
「ちょっとおまけしますね、このくらいで……ちなみに、これ何にお使いになられるので?」
「何って――」
軽い雑談をしながら、おばちゃんが商品を積めてくれる。
個人的にこういう雑談は苦手だけど、流石に顔見知り相手なら苦にならない。
自分の中で、このおばちゃんの好感度はアダリアさんより高かった。
ともあれ、何気なくその雑談に答える。
何をするかといえば簡単だ。
「――錬金ですよ」
そう、錬金。
さっき自分は錬金術師じゃないっていったじゃないかって。
錬金と魔術は別物だっていったじゃないかって。
だからといって、錬金ができないとは言っていない。
なのでやる、アダリアさんに煽られた手前、引けない戦いがここにある。
「えっ、錬金!? シルルさん、錬金できるんですか!?」
「できますよ? っていうか、錬金と魔術の違いわかるんですね……」
アダリアさんは適当にどっちも一緒だろ、みたいに言ってきたのに!
というか、他の冒険者に聞いても、多分似たようなもんだろってみんな答えるだろうに!
「まぁ、これでも冒険者さんとの付き合いは長いですしねぇ、それにお隣が錬金術師のお店ですから、交流も多いわけです」
「……か、感動しました! ギルドの受付は一緒くたにしてきたのに! アダリアさんって言うんですけどね!」
「あの子は、まぁちょっと雑ですから……」
ですよね。
とはいえ、ギルド内部では豪傑と知られ、男どもからはそれはもう恐れられているアダリアさんを“あの子”扱い。
おばちゃん店主も、流石に冒険者と長く付き合いのある肝っ玉といえる。
「シルルさんは、もっと丁寧に生きるんですよ」
「どうですかね……」
店主のいいところは、ここで女性らしく、とか、慎みを持って、とか言わないところだ。
もっと言えば、いい男を捕まえて、とか、冒険者として成長して、とも言わない。
あくまでただ「丁寧に」と言ってくれる。
それ以外は、本当に個人の自由だからね。
といっても、自分はそれすらできるか微妙なところなんだけど。
「はい、商品はこれで全部ね。どうぞ、シルルさん」
「ありがとうございます! お代はこれで……」
「はい、たしかに」
とか言ってる間にも、店主さんは素材を袋に積めて渡してくれた。
おばちゃん店主はいつも笑顔で、本当に素晴らしい店主であると思う。
自分はこうはなれないけれど、こういう人へのリスペクトは忘れないようにしたいなぁ、と心の底から思う。
「じゃあ、これで。ありがとうございました」
「……シルルさん」
「はい?」
と、お礼を言って店を出るところで、不意に店主から声をかけられる。
「――丁寧に、ですよ? がんばってください、シルルさん」
そうやって、どこか暖かな笑顔で、店主は自分を送り出す。
何だろう、いつもより視線が優しい気がする。
とはいえそこで突っ込めるほど自分にコミュ力はないので、素直に受け取って店を後にするのだった。
####
カプリコで冒険者を相手に商売をしていると、いろんな人間と出会う。
粗暴な人が多いけれど、その中で他人への礼儀や感心を忘れない人は、たいてい成長してレグルスへと拠点を移す。
人にはいろんな種類の人間がいて、善い人も悪い人もいる。
そして善い人の中にも悪い心があって、悪い人の中にも情はある。
カプリコの冒険者向け商店の店主はそれをよくよく知っていた。
多くの人を見てきて、多くの人に関わって。
そんな店主にあってもなお、初めて見るタイプの人間がいた。
シルル。
噂では、本名をアルシルル・プラスゲートというらしい元貴族の魔術師冒険者。
元貴族、というのは冒険者としては珍しいがいないわけではない経歴だ。
特に最近は、レグルスの街でひときわ有名なAランク冒険者、ミルフェリア・アラジアンタの名前がカプリコにもよく聞こえてくる。
そのミルフェリア嬢とシルルは友人関係にあるというのも、同年代の没落貴族同士ならおかしなことではない。
そんなシルルには特別な魔術の才能があって、それが理由で貴族でなくなった今も、貴族様から依頼を受けているらしい。
シルルは決して生真面目な人間ではない、適当に過ごすことを是とするアダリアに近いタイプ。
それが悪いわけではない。
でも、そんな人間が才能を手にしてしまったことは、ある意味不幸だ。
普通、そういうタイプの人間は大成しない。
代わりに、彼らはそこそこに図太く、どんな状況でも腐らず生きていける。
シルルもそういうタイプだ。
だというのに、シルルには才能がある。
それはシルルが、かつて腐らず生きるだけでは生きられない状況下に置かれたということ。
それはシルルが不幸であるということ。
代わりに手に入れた才能も、彼女が望んだものではないだろう。
才能を持ちながら、それを手にしなくても生きていける人間。
その才能を本質的には望んでいない人間というのは、初めてみた。
これでもう少し、世界がシルルに優しければ彼女はその才能に誇りを持てただろうに。
今の彼女の才能は、利用されざるを得ない状況に置かれている。
それでも彼女はそれを構わず生きていけるのだろうけれど。
そんな彼女が、錬金までもやろうと思えば可能だという。
錬金と魔術はまったくもって別の技術だ。
貴族の中にも錬金術を専攻する貴族はいるけれど、そういった貴族が魔術に長けるということを聞いたことはない。
本当に、天才と言うしか無い。
単なる面倒くさがりなだけの少女に、それだけの才能と期待がのしかかる。
願わくば、そんな彼女が人生の岐路に立った時。
決して安易な選択をせず、丁寧に自分の生き方を決めてほしい。
多くの生き方を見てきたベテラン店主は、そういうふうに思うのだ。
魔物の名前がアレなのは仕様です。