スイープ、エミヤを召喚する   作:日高昆布

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暑いですね。嫌になりますね。
今年は初めてコミケに一般参加するので、次は少し魔が開くかもしれません

いつも批評・誤字脱字の指摘ありがとうございます


その14

1

 

 

 気付けば夏本番。

 外に立っているだけで汗ばむ、陸上アスリートには最も辛い時期。しかし夏休みだったり、盆踊りだったりと、学生にとっては何かと楽しいイベントもある季節。

 そして学校で夏と言えば、定番の話題がある。「怪談」である。そもそもとして、実際に浮遊霊やら地縛霊やらがいるため、全く話題に上らないということ自体少ないのだが。それはそれとして、夏と言えば、と考える生徒が多いからか、意識しなくとも耳に入ってくる程度には盛んになっている。

 そうなってくると、やはり肝試しをしたい、と言い出す生徒が出てくるものだ。いつの時代も、男女関係なく学生とはそういうものなのだ。

 

 

「あのー衛宮さん。この学園って幽霊いるんですよね?」

 

 喫茶店エミヤ(士郎の仕事部屋)にて残業前の一服をする理事長とたづな。そんな折に、たづながポツリと尋ねた。

 

「マンハッタンカフェの友人以外に、ということか?」

 

「そうです」

 

「いるぞ。どれくらいいるかは分からんがな」

 

「そ、そそそそんなに多いのかね?!」

 

「すまない、そういう意味ではない。私は彼女らから非常に恐れられていてね。ほとんど会えていないのだよ」

 

 死者という括りで幽霊と同列にするにはあまりに隔絶した存在である衛宮士郎。人の感覚で言えば、家の近所を「絶対に人を襲わないし優しい」と言われているライオンが彷徨いているようなものである。態々会いに行こうと思うだろうか。否思わないだろう。

 

「そういうことか」

 

「だから数が少ない、とも言い切れない訳だ」

 

「」

 

「理事長を虐めないでください。その、危ない幽霊っていたりします?」

 

「断言はできんな。ここは歴史もあり、霊地でもあるからな。マンハッタンカフェ達からも何か異変があったら知らせるようには言ってあるが……。何か気になることでもあるのか?」

 

「今年に限った話ではないんですが、この時期になるとどうしても一部のヤンチャな生徒が、肝試しと称して夜の校舎に忍び込むことがありまして。普段でしたら、暗い中で転倒して怪我をした、とかの心配だけだったんですけど」

 

「そういうことか。ならしばらくは、寝ずの番人をやっておこう。しかし、その点で言えばがっつり法律違反な残業をしている君達こそ気をつけるべきだろう。するなとは言わんから、健康的な時間帯に帰りたまえ」

 

「「ドキッ」」

 

「残業前の一服より、仕事終わりの一服を大事にしたまえよ」

 

 

 と言われたのはいいものの、やはりそこそこの時間帯で帰ることは難しく、理事長が船を漕ぎ始めた所で漸く本日の業務は終了です、となる。凝り固まった体を伸ばすと、不健康な音がそこらかしこから鳴る。力を抜くと、血が下がっていくような錯覚を覚え、そのまま眠ってしまいそうだった。しかしそこはいい大人。気を取り直して、既に夢の世界へと旅立とうとしている理事長を引き止め、帰り支度を始める。

 

「ほら理事長。まだ寝ないでください」

 

「うぅ〜〜おんぶぅ」

 

「私も荷物があるんですから無理です」

 

 促し、部屋を出る。廊下に明かりは灯っているが、ドアを開けた時に生徒の喧騒が聞こえてこないと、違和感と寂しさを覚える。それに加えて、今日は士郎の話を聞いているので少しの、ほんの少しの恐怖。足が止まっていると、居眠り運転の理事長が背中にぶつかる。

 

「どうかしたのか?」

 

「いえ、何でもないです。さあ行きましょう」

 

 普段は意識しない自分達の足音を聞きながら歩いていると、最寄りの階段踊り場に引っ込む尻尾が見えた。思わず目を合わせる2人。覗き込むと。

 

「あ」

 

「マヤノトップガンさんに、トウカイテイオーさん……。こんな時間に何をしてるんですか?」

 

「ええっと、忘れ物をー……」

 

「――――」

 

 バレた時の言い訳を何も考えていなかったからか、しどろもどろに答えるマヤノ。誤魔化せないと悟ったのか、それとも般若になりつつあるたづなを恐れたのか、早々に白旗を上げた。

 

「…………ごめんなさい。肝試しに来てました」

 

「全くもう……。お説教、と言いたい所ですが、もう遅いですし、明日に持ち越しです」

 

「はぁ〜い」

 

「トウカイテイオーさんもいいですか?」

 

 反応の鈍いテイオーに念を押すが、何故か返事をせず廊下を歩き出す。

 

「あ、待ってよテイオーちゃん」

 

 いじけてしまったのか、と彼女を追おうとする3人――の背後から突然声が掛かった。

 

「ストップだ。彼女について行ってはならん」

 

 作画が四角くなるほどに驚きながら振り向くと、背後にいたのは士郎であった。

 

「ええええええ衛宮さん?!」

 

「ここここ声を掛けるなら一言掛けてからにしてくれ! びっくりするではないか?!」

 

「驚かせてすまんな。そこの君も、彼女から離れてこちらに来たまえ」

 

「テイオーちゃんから? 何で?」

 

「よく見てみたまえ」

 

 3人がテイオーに視線を向ける。話題の中心であるにも関わらず、振り向かず、声も発さず、背中を向けたまま立ち止まっている。その静かさは恐怖を煽った。

 

「テ、テイオーちゃん?」

 

「因みにだが、トウカイテイオーとは外で会ったぞ。君と逸れてしまったと言っていた」

 

 その言葉にギョッと振り返る3人。この状況でウソをつく性格でないことを知っているし、目の前にいるテイオーの不自然な挙動から納得できてしまったからだ。

 3人の間を抜け、先頭に立つ士郎。

 

「君の名前は?」

 

「マヤノトップガン。エミヤシローさんでしょ? スイープちゃんとかテイオーちゃんとお話ししてるのよく見るから」

 

「そうだ。ではマヤノトップガン。口は堅い方かな? 今日ここで見聞きしたことは、秘密にしてほしくてね。言い触らされてしまうと、ここにいられなくなってしまうのでね」

 

「分かった。絶対言わない。いなくなったら、スイープちゃんが悲しむもんね」

 

「ありがとう。――さて、君にも何かしらの事情があり、3人の知己の姿を取っているから今日は警告だけに留めておこう。だが」

 

 バチリ、と空間を雷のような光が走る。2人は、それが嘗て見た士郎の魔術の光だと悟る。左手に漆黒の弓、しかし矢が握られているはずの右手には、形容し難いものが握られていた。複数の刃が螺旋を描き芯に巻き付いているそれを、矢のように番える士郎。

 

「私は弓兵だ。君の悪事はどこからでも見える。そしてこいつは猟犬だ。獲物を捉えるまで追い続ける。2度目の警告は――ない」

 

 

「あーマヤノ! どこ行って……わぁ……たづなさんだぁ」

 

 玄関前で待っていたテイオー。文句を言おうとしたが、マヤノの後ろにいたたづなを見て萎れた。

 

「お説教はまた今度にしますから、2人とも今日は帰ってください。衛宮さんは2人を送ってあげてください。って理事長どこ行くんですか」

 

「私も怖いからな! 衛宮殿について行って、その後送ってもらう! たづなは怖くないのか?」

 

「…………」

 

 そういう訳で皆で寮まで行くことになった。

 

「えーたづなさん、大人なのに幽霊怖いのぉ?」

 

 そんなたづなを、命知らずな畜生テイオーが揶揄う。

 

「怖いもの知らずが大人の条件ではないぞトウカイテイオー」

 

 間一髪、士郎がテイオーの命を救う。

 

「じゃあどうすれば大人になれるの?」

 

 と、マヤノが食い付く。そんな反応に不思議そうな顔をしながら答える士郎。

 

「難しい質問だな。私自身、自分のことを良い大人と思ったことはないからな。逆に聞くが、マヤノトップガンが思う良い大人はどんな大人かね?」

 

「う〜〜ん……」

 

「大人にしかできないこと、分からないことがあるのと同じように、子供にしかできないこと、わからないことがある。いやでも肉体は大人になるのだから、今を堪能しながら考えればいい」

 

「むぅ」

 

「……1つだけ大人の条件を思い付いた」

 

「え、なになに??」

 

「後先考えずに行動しないことだな」

 

 

 

「あの、衛宮さん」

 

「何かね」

 

「……いえ、何でもないです」

 

 

「衛宮さん、あの」

 

「何かね」

 

「……すみません、何でもないです」

 

 

「……衛宮さん」

 

「何かね」

 

「……良い天気ですね」

 

 

「……」

 

「何かね」

 

「……すみません」

 

 

 日差しの強い午後。大きな背中を丸め、タイルの隙間から伸びている雑草をチマチマと掻き出す士郎の姿があった。

 見ているだけで熱中症になってしまいそうな仕事風景だが、士郎は黙々とこなしている。そんな士郎の背中に声が掛かった。

 

「ハァ〜イ、色男さん。少しだけ時間良いかしら?」

 

 と、何ともこなれたナンパな言い方であった。

 どこからも反応がないため、左を見る。右を見る。誰もいない。振り返ると目が合う。

 

「私かね」

 

「あなたよ」

 

「すまないな、色男(ロメロ)と呼ばれるのは初めてでね。君は?」

 

「マルゼンスキーよ。よろぴく!」

 

「知っていると思うが、衛宮士郎だ。よろしく。それでこんな暑い中、何の用だね」

 

「……うん、声掛けたあたしが言うのも何だけど、ここで話すのはやめない?」

 

「それもそうだな。では私の仕事部屋に行こうか」

 

 仕事道具をまとめ、先導する。

 

「それにしても、こんなに暑いといやーんな感じよね」

 

「全くだな。必要なことなのだろうが、この炎天下でトレーニングしている所を見ると心配になるな」

 

 耳を澄ますと、遠くから掛け声が聞こえてくる。

 日陰に入ると幾分かマシにはなるが、それでも空気自体が熱を帯びているため肌にまとわりつく不快感は変わらない。

 

「よお衛宮。この炎天下でデートか?」

 

 真横から声が掛かる。校舎の窓が開き、シリウスが顔を出す。

 

「あらシリウスちゃんじゃない。知り合いなの?」

 

「まあ顔見知りというところだな。彼女にそこでナンパされてね。仕事部屋で涼みながら話す予定だ」

 

「ふーん……。なら私も混ぜろよ。まだ聞けてないこともあるしな」

 

「あらあら。意外と仲良しじゃない」

 

「で、私はデートに邪魔しても良いよな?」

 

「当たり前田のクラッカー、モチのロンよ。良いわよね?」

 

「……」

 

「あらもしかして2人っきりが良かったのかしら」

 

「ああ、いや同席は構わんよ。ただ君の話し方に、何となく懐かしさを覚えただけだ」

 

「えっ。この話し方って古いの?」

 

「いやどうだろうな。流行り廃りには疎いが、特に古いとは感じなかったがな」

 

「そうよね! たまに年下の子に凄い怪訝な顔されるけど古くないわよね!」

 

「……」

 

 こいつらおもしれーな、とシリウスは表情を変えずに思った。

 

「先に鍵を開けて、クーラーを入れておいてくれ」

 

 そう言って鍵をシリウスに投げ渡す。

 

「個人の名前が書いてあるもの以外は適当に摘んでも構わんからな」

 

 

 玄関に向かって足を進めていると、またも声が掛けられる。今度は真上からであった。

 

「あ、おーいお二人さん。ちょうどいいところで会えた」

 

 上を向くと同時に、後ろからあっ、と声が聞こえ、目を塞がれた。直後、着地の音が聞こえ、マルゼンスキーの行動の真意を知る。

 

「ちょっとシービーちゃん! 男の人がいるんだから!」

 

「ごめんごめん、うっかりしてた。でもマルゼンスキーが塞いでくれたし」

 

「そういう問題じゃないでしょう、全く。いきなりごめんなさいね、シービーちゃんてこういう子なの」

 

「彼女が不快な思いをしなかったのなら構わんよ。衛宮士郎だ。私を探していたようだが」

 

「アタシはミスターシービー。ルドルフのことで聞きたいことがあるんだ」

 

「ふむ。なら部屋に向かうとしよう。どうやら皆聞きたいことは同じようだからな」

 

 

「よお遅かったな。それに、新しい女まで連れてるとはな。いいご身分じゃねえか」

 

 ドアを開けると、我が物顔で足を組んで寛ぐシリウスと、我が物顔という点では同じだが、対照的に上品に寛ぐ生徒が1人いた。パッと見の印象は深窓の令嬢だが、部屋の主人が来ても悠然と紅茶を飲んでいる所を見ると、中身は全くの別物だろう。

 

「皆の興味が私にある訳でないことは知っているのでね、両手に花の気分は味わえなかったな」

 

「……良い葉を持ってるのね」

 

「貰い物だからな。褒めるのなら、それをくれたメジロマックイーンを褒めてやってくれ」

 

「そう……。私はメジロラモーヌ。マックイーンが世話になったみたいね」

 

「彼女の縁者か」

 

 複雑な家庭環境なのかと勘ぐってしまうほどに共通点が見出せなかったが、名前の成り立ちが違うのだということで納得することにした。

 

「では私は飲み物を用意するから、君達は適当に座って、何か摘んでいるといい」

 

 マルゼンスキー、シリウスシンボリ、ミスターシービー、メジロラモーヌという、並のトレーナーや生徒では遠目に見ただけでも遁走し、同じ空間にいれば爆ぜてしまいそうな面子。

 

「待たせたな。よく掻き混ぜてから飲んでくれ」

 

「あ、梅ジュースだ。いいね、美味しい」

 

「気に入ってもらえたようで何よりだ。――さて、ぼかしても意味がないから率直に聞くが、皆シンボリルドルフのことで聞きたいことがあるという認識であっているかね」

 

「こんな風に押しかけちゃってごめんなさいね」

 

「うん」

 

「私はお前の話も聞きたいんだがな」

 

「……」

 

 この場合の沈黙は肯定と受け取って良いだろう。

 

「彼女がここのところ、何度も私に何かを聞こうとして止める、という所を見ていたからか。何を聞こうとしているのか」

 

「それと、どう答えようとしているのか、もだね」

 

「ふむ。まず質問だが、結局聞けてはいないので、私の推測になるが『私の夢は正しいのか』といったところだろう」

 

「「「は?」」」

 

「……」

 

 彼女は決して臆せず、一切の羞恥なく「全てのウマ娘の幸福」を夢と語る。不断の決意と覚悟を持つ彼女が揺れている。その事実は、ラモーヌの悠然とした態度をも崩した。以前に士郎との会話の中で聞き及んでいたシリウスでさえ、改めて聞くと信じられないと思ってしまうのだ。

 

「そしてそれに対する私の答えだが、特に何かを言うつもりはない」

 

 その返答も変わらない。あっちこっちであれこれと世話を焼いているくせに、とは思う。

 

「シリウスシンボリには前にも言ったが、彼女にとっては私は反面教師なのだ。それこそ、私の言葉一つで夢との向き合い方を変えてしまうほどにね。だから私は何も言わないのだ。いつまでここにいるか分からない身なのでね、人生を左右するような無責任なことはできんよ」

 

 エアコンの音と、士郎が喉を潤す音だけが鳴っている。

 

「……自惚れが過ぎないかしら」

 

 辛辣な物言いのラモーヌ。士郎の言ったことが気に入らない、と率直に顔に出ている。

 

「残念ながら自惚れではない。私の人生はそれほどの劇薬なのだ、彼女にとってはね」

 

「それだよ。結局この間も誤魔化されて、聞けずじまいだ。それじゃここにいる奴らは納得しねえよ」

 

「ふむ、それもそうか。しかし子供、と言うよりは人に聞かせられる類の話ではないのでね。どうしたものか……」

 

 腕を組み、天井を見上げる。指がリズミカルに腕を叩いている。如何にも考えています、といった振る舞いだが、ただのポーズである。マルゼンスキーに声を掛けられた時点で用件を察しており、こういう流れになることも予測していたのだ。どこまで話すかは既に決めている。

 とは言え、結局当たり障りのない事しか言えないのだが。赤裸々に語ってもトラウマを植え付けることになるし、聞き出そうとしたシリウスが殊更気に病みそうだ。

 

「……我を捨てて、己の全てを他者のために費やした結果、その者は何と呼ばれると思う」

 

「……少なくとも、聖人とは呼ばれないでしょうね」

 

「その通りだ。賞賛はやがて不安へと変わり、恐怖になる。その結果、怪物として扱われる」

 

「怪、物……」

 

「彼女は聡明だからな、私のド派手な失敗談(・・・・・・・)を聞けば納得し、今思い描いている道筋の正否に関係なく変えてしまうだろう。しかしそれは彼女のうちから出た思いや考えではない。九割九分納得しても、一厘の燻りが彼女を蝕む。だからそのことには自身で気付くのが一番なのだ。もしくは共に歩むパートナーか、切磋琢磨できて彼女を殴れるような友人達の言葉でなければならない。それこそ君達のような存在だな。私はどれにもなれないし、なるつもりもない。だから何も言わない。納得してくれたかね」

 

「……嫌な事を話させてごめんなさい」

 

「ん? ああ、いやそれについてはとうに整理できている事だ。話せないと言うのは、聞かせるべき話ではないからだ。君達が気にすることではない。まあそういう訳で、彼女が私に対して何やら意味深にモジモジしてても気にしないでほしい」

 

「ぶふっ」

 

 言うに事欠いて、皇帝に全く似合わない形容をしたことに、シービーが吹き出す。それを切っ掛けに、クツクツと押し殺した笑い声が生まれる。何とか場の雰囲気を弛緩させることができ、士郎はホッと息を吐いた。士郎とて自分の来歴が、僅かに匂わせるだけでも他人の心に暗雲を与えることは自覚しているのだ。

 切っ掛けにルドルフの態度を茶化すように言ってしまったが、そこは勘弁してもらうしかない。

 

「まあ確かに、皇帝サマのあんな煮え切らない態度は早々見られるもんじゃないからな。吹っ切れるまでは堪能させてもらうさ」

 

「またそんなこと言って……。本当は心配してるくせに」

 

「あはは。確かにらしくないルドルフは新鮮だけど、そんなに好きじゃないかな。うん、だから話そうと思う」

 

「……貴方は」

 

「ん?」

 

「貴方はいいの? 貴方がルドルフの反面教師になるのなら、ルドルフは貴方にとって鏡。見ていて辛くはならないのかしら」

 

「気遣ってくれるのか? まあ心配は無用だ。過去については納得しているし、間違いではなかったとも思えるようになった。これからも頑張るさ」

 

「そう……。ならいいわ。……おかわり、貰えるかしら」

 

「いいとも」

 

 

 今日もルドルフは、何も聞けずにいる。違うところは、その彼女を捕まえようと虎視眈々と狙っている存在がいることだ。

 彼女の視界は今曇っている。しかしそう時を置かずに晴れる。そうなれば、もうその歩みを止めることはないだろう。

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