スイープ、エミヤを召喚する   作:日高昆布

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コミケ楽しかったです
そのあと2日くらい足の痛み取れませんでしたけど。

※いつも感想・批評、誤字脱字の指摘ありがとうございます


その15

「士郎! お買い物に付き合って!」

 

「構わんぞ」

 

 とんとん拍子のやり取り。用事がなければ断る気が一切ない士郎は、大体了承してから内容を尋ねる。

 

「何を買いに行くんだ」

 

「今度夏合宿があるから、その時に使うもの!」

 

「合宿か。そう言えば沖野から聞いたな。随分長いことやるそうだな。まあスイープなら心配ないと思うが、トレーニングにかまけすぎて宿題を忘れないようにな」

 

「士郎のいう通り心配ご無用よ! このスイーピーがそんなミスする訳ないでしょ。ほら、早く行くわよ」

 

 ・

 

 まずは着替えやら洗面具やらを入れるスポーツバッグ、ないしキャリーバッグ。普段使いしているものとは別のタオル類や水筒、ウェアなどを購入していく。なお、荷物は極自然に士郎が持っている。

 士郎からすれば機能以外に注視すべきことはないのだが、そこはやはり女性だからか、デザインにも拘っているためあっという間に昼時になっていた。

 むっしゃむっしゃと小さな口で懸命にハンバーガーを食べるスイープと、彼女が気分を害さない程度の量を食べる士郎。

 緑色が一切ないが、外食にそこまで求めるのは無粋だろう。デザートまできっちりと食べ、満足したスイープは本命の買い物へと出向く。

 

「さあ! 次は水着を買いに行くわよ!」

 

「行ってくるといい。私はここで荷物番をしている」

 

 と、見送ろうとすると、何故かキョトンとしたまま動かないスイープ。

 

「どうした。場所が分からないのか」

 

「どうしたって、士郎が来てくれなくちゃ決められないでしょ。さ、行くわよ」

 

「待て待て待て。私が水着売り場に行ってみろ。通報されるぞ」

 

「される訳ないでしょ。駄々捏ねてないで行くの!」

 

「言うに事欠いて駄々を捏ねるとは何だ。世間の目は君が思ってるより厳しいのだぞ!」

 

「い、い、か、ら、い〜く〜の〜!」

 

「待て袖を引っ張るな。分かったから一度放したまえ!」

 

 苦い顔をした士郎と、満足げな顔のスイープ。そのまま連行が始まる。ちょうど来たエレベーターに乗り込む。

 

「あ」

 

「ん?」

 

 中には顔を知る3人のウマ娘が乗っていた。会話したことはなく自己紹介もしていないが、金髪のウマ娘だけは名前を知っていた。

 

「確かゴールドシチーだったか」

 

「え?! 誰このイケメン! てかシチーの知り合いなの?」

 

「学校の用務員さんだよ。ほら、万屋さんて呼ばれてる。てか、ヘリオスも衛宮さんが出てくる所見てるっしょ」

 

「へえ〜ヨロズヤさんて言うんだ。よろしくっ!」

 

「ヘリオス違うから。ヨロズヤさんじゃなくて衛宮さんだから」

 

「んあ??」

 

 口が富士山になったまま固まるウマ娘。何も難しいことは言っていないのだが、と心配になる士郎。

 

「こんにちは!」

 

「ん、こんにちは。2人でデート?」

 

『デート?』

 

 声をハモらせる2人。そして顔を見合わせ、同時に首を振り、同じことを言う。

 

『違う』

 

「あっはっはっはっは! おんなじこと言ってるぅー! かわいー、チョーウケる!」

 

「……まさか可愛いなどと言われるとはな」

 

 エレベーターが止まり、全員が降りる。そこで士郎は何かを思い付いたのか、3人に声を掛けた。

 

「時に3人とも、時間があるなら少しアルバイトしないかね」

 

 ・

 

 売り場で4人がはしゃぎながら水着を物色している。三人寄れば姦しい。では4人ならば、と考えさせられる光景である。士郎は少し離れたベンチに座り、色々な意味で一息吐いていた。

 3人と遭遇できたのは、まさに渡りに船であった。周囲の目もそうだが、服飾センスの有無が自分でも判然としないのだ。変な物を選んで海で笑われては申し訳なさ過ぎるからだ。3人の間食代を出すことになったが、その程度ならば安いものである。強いて言うことがあるのなら、非常に時間が掛かっている事だけだ。一着決めるのにどれほど掛けるのか。

 しばらく待っていると、納得いく買い物ができたのか、ホクホク顔のスイープが戻ってきた。付き添いの3人も満足げな表情である。

 

「良い買い物ができたようで何よりだ。3人とも助かったぞ」

 

「こっちも普段見ないようなデザイン見れたし〜、五十歩百歩、的な?」

 

「……ああ、うん。言いたいことは分かった。そちらも楽しめたならよかった。では」

 

 行こうか、と言おうとしたところでスイープのインターセプトが入る。

 

「次は士郎の水着ね!」

 

「いこ……ん?」

 

「ん?」

 

「いや、買わんぞ」

 

「何で? 合宿行くのに海入らないの?」

 

「いや、行かんぞ」

 

「海嫌いなの?」

 

「いや、合宿には行かんぞ」

 

 ・

 

「い〜や〜! 士郎も行くの〜〜!!」

 

「駄々を捏ねるんじゃない。仕事もあるし、トレーナーではない私が行っても意味がないだろう」

 

「それでも行くの〜〜!」

 

 地団駄を踏みながら詰め寄るスイープと、呆れながら対応する士郎。歳の離れた兄妹か。はたまた親子か。何とも微笑ましい光景であった。

 

「夏休みの間に海なりプールなりに連れていくから、それで勘弁してくれ」

 

「むう〜〜……。分かった。忘れないでね。じゃあ水着買いに行くわよ!」

 

「分かった分かった。そう言う訳だ。これ以上付き合わせるのは申し訳ないから、これで帰りに何か食べていくと良い」

 

 各員に三千円ずつ渡す士郎。間食を通り越して昼食レベルの謝礼だが、役得として素直に受け取る3人。それはそれとして、2人の買い物についていく3人。余分な足音に振り返る士郎に笑いかける3人。

 

「……まあ、何が楽しいのかは分からんが、好きにするといい」

 

 そう言って許したことを後悔する士郎。何故なら水着だけでなく、知らぬ間に私服まで購入することになっていたからである。素材が良いため、あれもこれもと、強制ファッションショーが開催された。その過酷さたるや、士郎が疲労感を覚えてしまうほどである。女性が関わると買い物が長くなるということを、今更ながらに思い出した士郎であった。

 

 ・

 

 少し日が経ち、夏合宿当日。遠足のノリでバスに乗り込むスイープや、そのチームメイトを見送る。

 夏休みとなると、帰省する生徒や、今のように合宿に行く生徒が多く、校内は平時と比較するとだいぶ静かになる。一抹の物足りなさのようなものを感じるが、こう言う時こそ普通教室の総点検を実施できるタイミングであると言う思いの方が強かった。

 そんな有意義な時間を過ごし、あっという間に終業時間に。

 今日一日、スイープからの念話は全くなかった。充実している証だろうと思いつつ、一抹以上の物足りなさがあった。思った以上にこの世界に馴染んでいることを自覚する。食べる必要のない食事を用意しているのも証拠だ。

 そんなこんなで夜を過ごしていると、不意にスイープから念話が来た。

 

 ──士郎まだ起きてる?! 

 

 ──起きているとも。どうかしたのかね

 

 ──ちょっと寮のアタシの部屋に行ってほしいんだけど

 

 ──何か忘れ物をしたのかね

 

 ──ギ、ギクッ。ススイーピーがそんなことする訳ないでしょ! ……ごめん、水着入れたカバン忘れたかも

 

 ──……少し待っていたまえ

 

 普段であれば寮に行く用事があればスイープ経由でフジキセキに伝えているが、今回はそれができないため電撃訪問──などできる訳がないので、一度理事長室に向かう。明かりが点いていることは確認済みである。

 

「衛宮だ。少し良いかね」

 

『入っていいぞ』

 

「失礼する」

 

「こんばんは衛宮さん。こんな時間にどうされたんですか」

 

「まさか差し入れかね?!」

 

「それもある。あと、こんな時間に、と言うなら2人もだろうに」

 

 サッと目を逸らす2人。

 

「まあ別にそれを言いにきた訳ではなく、どうやらスイープが寮の部屋に忘れ物をしたようでな。確認のために同行してほしいのだが、構わんかね」

 

「なんと!」

 

「それは大変ですね。……時間もちょうどいいですし、退勤がてら一緒に行きましょうか」

 

 ・

 

「あるね」

 

「あったな」

 

「ありますねえ」

 

 ──あったぞ

 

 ──よかったあ……。いやよくない! どうしよう! 

 

 ──いつ使うのかね

 

 ──あしたぁ……

 

 ──そうか。少し待っていたまえ

 

「理事長。合宿所はどこにあるのかね」

 

「電車で行くにはアクセスが極悪な上に、そもそも最寄駅は既に終電だ」

 

「随分早いな。ふむ、ならば走って行くしかあるまい」

 

『ええ?!』

 

 口を揃えて声を上げる3人。そんな反応をよそに、スイープのカバンを脇に抱え、ガラガラと窓を開ける士郎。それを慌てて止めるたづな。

 

「いやいやいや! 本気で行く気ですか?!」

 

「それ以外にあるまいよ。車は動かせるが免許はないしな」

 

「……はっ。車?! でも流石に迷惑が……。ん〜〜〜〜」

 

「私のことならそこまで気にしなくとも大丈夫だ」

 

「衛宮さんが大丈夫でもこっちが心配になっちゃうよ」

 

「そう言うものかね?」

 

 この世界に馴染んできつつあるとはいえ、既に人としての認識など無くなって久しい士郎には、他者からの常識的な心配を汲み取ることは難しかった。

 

「衛宮さん、少し待ってて下さい。ちょっと聞いてみますから。マルゼンスキーさんに」

 

 ・

 

 夜の学校の駐車場に、派手なエキゾースト音と共に真っ赤なスーパーカーが現れた。あまりに不似合いな存在に、暫し呆然としていると、運転席から私服姿のマルゼンスキーが姿を見せた。

 

「はあ〜い。可愛い後輩のために無茶しようとしてる人がいるって聞いて飛んで来たわよ」

 

「私のことをなんと伝えたのかね」

 

「自転車で行こうとしてるって」

 

「その手もあったか」

 

「やめて下さいね。振りじゃないですからね」

 

「と言うか、夏休みとはいえ彼女に迷惑だろう」

 

「全然バッチグーよ! この間は集団で押しかけちゃって迷惑かけちゃったしね」

 

「何のことか分からんが……。しかし大丈夫なのかね、場合によっては外泊の可能性もあるが」

 

「それでしたら、合宿先に話を通しておきましたので一泊だけでしたら大丈夫との事です」

 

「できる秘書官は用意周到だな。ふう。そこまで準備された挙句、ドライバーも了承しているのなら頼もうか」

 

「りょ〜か〜い。お一人様ご案内よ」

 

 エンジンの残響を響かせながら、夜に消えていくたっちゃん。

 

「そういえばたづなさん。衛宮さんにマルゼンスキーさんの運転の荒さのこと、言わなくてよかったの?」

 

「あ……。士郎さんなら平気だと思います。たぶん」

 

 ・

 

 マルゼンスキーの比較的丁寧な運転に、久々のドライブを士郎は内心楽しんでいた。流れていく夜の景色も新鮮に映り、柔らかい表情で外を眺めていた。意外な表情を見せる士郎に何故かやる気を漲らせるマルゼンスキー。

 まだまだ明るい街の光が遠ざかり、高速に乗ったあたりで士郎も徐々におや、と思い始めていた。

 パワフルなエンジンが車体を揺らし、次々に車を抜き去っていく。豪快かつ繊細という矛盾したドラテクを披露しながら、かっ飛ばす。そしてそれは高速を降り、峠道に入ったことで更に進化し、士郎に確信させた。

 高速では直線を猛スピードで走行するだけだったが、散在するカーブをドリフト走行で駆け抜けていた。

 矢継ぎ早に繰り出される滑らかなマシンガンシフトチェンジが、彼女のテクニックの高度さを示している。

 しかし前後左右から掛かるGは強烈なものであり、助手席に乗った者のほとんどは恐怖と嘔吐感から、幽霊のような顔色で地蔵のように動かなくなるのが常。そんな有様を見て自然と運転は大人しくなるのだが、士郎は平然としており、アシストグリップさえ掴んでいない。そんなタフな姿にテンションが上がらないはずがなく、タコメーターをレッドゾーンで往復させながら、スキール音を夜空に響かせる。

 

 ・

 

 都会の喧騒から離れた宿は、窓を開けていると数多の自然の音を楽しむことができる。昼間のトレーニングで体を痛めつけた彼女達も、今はその熱を忘れ緩い風と音に心を和ませている。

 そんな中、窓の前で正座して待機しているスイープ。頻りに耳が動いている。士郎の到着を今か今かと待っているのだ。そんな彼女の耳が、僅かなスキール音を捉えた。初めはそれが何であるのか全く分からなかったが、徐々に近付き、エキゾースト音が混じり始めたことで、音の主が車であることに気付く。

 姦しく歓談していた他のチームメイトも音に気付き始めた。何だ何だと窓に集まり、遠くに見えるライトを注視する。道に対しての角度がおかしかったり、やたらと速かったりで、アレ走り屋じゃね、と誰かが言った。そしてチラチラと見える車体が真っ赤である事に気付くと、もしかしてマルゼンスキーさんか、と誰かが言った。

 徐々に速度を落とし、敷地内に入って来たのは予想通り真っ赤なカウンタック。助手席側のシザードアが上方に開く。

 

「え、士郎?! 何で?!」

 

「何でもなにも、君の忘れ物を届けに来たのだぞ。初めての合宿で浮かれるのも分かるが、次からは気を付けたまえよ」

 

 運転席から降りて来たマルゼンスキーは、それはそれはとてもいい満面の笑顔を浮かべていた。

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