気付けばスタフィーに割とハマってました
後まさかの逆転裁判のゲーパス入りで、時間が更に溶けました
いつも、感想・批評・誤字報告ありがとうございます。
──パシャ
答える前にもう1枚。
「こんなむくつけき男を被写体にして楽しいかね?」
「マーちゃんセンサーにビビッと来たので」
──パシャ
「……そうかね」
「はい。なのでお気になさらず」
「……荷物を置きに行きたいのだがいいかね」
「どうぞどうぞ」
1日密着取材のカメラマンのように後を付いてくるマーちゃんと名乗る生徒。ゴールドシップと相対した時より困惑している士郎。
彼女とは初対面であるはずなのだが……。
「あー、こら! マーチャン! 士郎さんにちょっかい出さないの!」
「ちょっかいは掛けてないです。モデルになってもらってるだけですよスカーレット」
「それがちょっかいって言うの。ほら士郎さんが困ってるでしょ」
「スカーレットはこちらの妖精さんと知り合いなのですか?」
「チームメイトの……保護者? みたいな人だから知ってるの。ごめんなさい士郎さん。この子ちょっと変わってて。ほら行くわよ」
「あ、マーちゃんはアストンマーチャンって言います。お見知りおきを〜〜」
ズリズリと引き摺られながら、手を振り退場するマーちゃん、もといマーチャン。軽く手を振り返してから宿に向かう。
従業員に冷蔵庫を借り、つまみ用の食材をしまう。
──士郎! 皆構わないって!
──分かった分かった。準備していくから待っていたまえ。
トレーナー部屋を借り、水着とラッシュガードに着替える。水着はスイープと、ギャルズにチョイスされたものだ。赤に黒のラインという中々派手な色合いだが、せっかく選んでもらったものを仕舞い込む選択肢はなかった。
宿の入り口から海を臨んで思う。まさか守護者になってから、遊びで海水浴をすることになろうとは。
ビーチサンダルで外に繰り出すと、こんなにも頼りないものだったのかと驚く。
階段を降りる。素足に触れる砂の感触の奇妙さたるや、意味もなく足を動かすほどだ。
「士郎! 遅いわよ!」
言うや否や、手を取り海辺にまで引っ張り、そのままザブザブと士郎の腰の辺りの深さまで海中を進む。
「このくらいの深さなら大丈夫そうね。ん!」
と言って士郎にむけて両手を広げるスイープ。何故抱っこを要求されているのか、と首を傾げそうになるが、すぐに何を求めているのかに気付く。
「全くサーヴァントをこんな風に扱うマスターなぞ、後にも先にも君だけだろうな」
「そんなマスターに召喚されたんだから、光栄に思いなさいよ」
「それに関しては異論はないな」
その言葉は、中空に放り投げられ、盛大な水飛沫とともに着水したスイープには聞こえなかった。
「あはははは! もう1回!」
「もう1回で済むのかね?」
脇に手を差し込み、再び放り投げる。落ちて来るのを眺めていると、横から視線を感じた。ウララがいた。傍には保護者のキングもいる。既に両腕は伸ばされており、飛ぶ準備は万端である。その眼は期待に満ち満ちていた。
「わ──い!」
落水。水面から顔を出し、ぶるぶると頭を振って水気を飛ばすウララ。
「士郎さんはやっぱり力持ちですごいね!」
かつてその恩恵に与ったことのあるウララは、無邪気に筋骨隆々な腕をワシワシと触る。そのまま腕をグイっとウララごと持ち上げ、グルグルと回り出す。驚いた顔はすぐに満面の笑みに。パッと手を離すと、水平に飛んでいく。
「次はウインディちゃんなのだ! 投げた後はグルグル回すのもやるのだ!」
士郎の手を引っ張り脇に差し込むウインディ。
「では3つ数えたら投げるぞ」
「ばっちこいなのだ!」
「では行くぞ。3」
「わ──!!??」
不意打ちで投げられたウインディ。手足をバタつかせながら着水。
ビコーペガサス、トウカイテイオー、ツインターボと、途切れぬちびっ子の列。投げられては並び、投げられては並び。そんな途切れぬ円環の中、不意にヌッと現れたゴールドシップ。
「ふっふっふっふ。この聖剣こと、エクスゴルシバーを抜けるかな」
「聖剣と言うよりは食べたら腹を下しそうなアイスだな。さて、では抜剣させてもらおうかな」
ぁぁ
ぁ ぁ
な ぁ
け ぁ
「エクスゴルシバーは勇者にしかぬ い!」
「うお、すげえ。衛宮のやつ、ゴルシをぶん投げやがった」
しかしそれ以上に、腕を組んだままの姿勢で放物線を描くゴルシは、何か性質の悪い夢を見せられているような気分にさせた。
「わーい! もっかい!」
列に並び直すゴールドシップ。
そしてそれを見た生徒達の中には、自分もやってみたい、とソワソワし始めた者達がいた。ゴールドシップが投げられるたびに、士郎との距離がジリジリと近づいていく。そしてさりげなく(と思ってるのは当人達だけ)列に加わったウオッカとウイニングチケット。
アトラクションは長く盛況となった。
・
「お前実は都市伝説のウマ息子だったりしないか?」
「何だその珍妙な噂は」
「傍から見たらそう言いたくなるってことだよ。なんであんだけぶん投げといて息切れもしてないんだよ」
「鍛えてるからな」
「お前、それ万能の言い訳だと思ってないか?」
「おーいトレーナー。二人三脚スイカ割りやろうぜ」
「やだ」
「よーしゴルシちゃんと一緒に世界記録目指そうぜ」
「いやだー! 衛宮! 助けて!」
引き摺られていく沖野を合掌で見送る士郎。そのままゴールドシップの片足に両足を結びつけられた沖野は、砂浜をバウンドしながらスイカ割りに参加することとなった。
──パシャ
「こんな面白みのない男を撮ってもしょうもあるまい。あちらの方がよほど取れ高があるぞ」
「マーちゃんが撮りたいものは撮れ高のあるものじゃないので。今は妖精さんを撮っておきたい気分なのです」
「そうかね。他にはどんな写真を撮っているのかね」
「自慢のお友達です」
そう言って差し出されたカメラを覗き込む。カラスや白鳩、野良猫にウサギ、果てはクラゲに馴染みの薄いハーフムーンベタなどなど。独特なチョイスの被写体をどうこう言うつもりはないが、このカテゴリーに自分が含まれることに困惑を隠し切れなかった。
「……月並みな事しか言えなくてすまないが、変わった趣味をしているのだな。写真自体はいいと思うが。しかし随分枚数があるな」
「皆の事を忘れたくないので」
悟られない程度に視線を動かす。変わらずゆるい笑顔を浮かべているが、だからこそ自分では窺い知れない彼女なりの理由があるのだろうと察した。
そして彼女が言った言葉は、士郎にとっても理解できるものであった。
「そうだな。忘れたくない人を忘れるのも、忘れられたくない人に忘れられてしまうのも悲しい事だからな」
「だから撮ってるんです。妖精さんはフラッといなくなっちゃいそうなんで」
少なくとも今はその気はないが、自身が原因で災禍が起きるようなことがあればその限りではない。そう言う意味ではマーチャンの指摘は的を射るものだった。
「妖精さんが忘れたくないことは何ですか?」
カメラを受け取り、過去の写真を見返しながらマーチャンが尋ねる。
「そうだな……。少なくとも、今見ているものは忘れたくはないと思う。ただ妖精さんは長生きだからな。いつかは忘れてしまうだろう」
それが少し悲しい。
「じゃあ妖精さんも一緒に写真を撮りましょう。そうすれば、いつまでも思い出を持っておけます」
「それもいいかもしれんな」
「カメラを買った暁にはマーちゃんの事もたくさん撮ってくださいね」
「おや、上手く乗せられてしまったかな」
「マーちゃんの作戦勝ちです。ブイブイ」
・
再び写真を撮りに行ったマーチャンを見送り、スイカ割りに興じる生徒達を眺めていると、スイープが向かって来た。
「士郎! スイカ割りよ! 皆に凄いとこ、見せてあげて!」
「何かねそのふわっとした言い方は」
「士郎ならぐるぐる回って目隠ししても走って割れるでしょ?」
「そんな事はやった事がないから分からんよ」
「え、出来ないの? 出来るって皆に言っちゃった」
「君は本人がいない所で、色々と吹聴する癖を改めたまえ。まあマスターの無茶振りに応えるのはサーヴァントの宿命だから、やってはみるがね」
「ほんと?!」
「喜ぶなら成功してからにしたまえよ」
スイープから棒と目隠しを受け取り、歩みを進めると、士郎を知る者は本当に出来るのかと期待半分に歓声を送り、知らない者は無茶振りに応えようとする姿に声援を送る。そしてゴールドシップはその成否を賭けにすると叫ぶ。
「お前が成功しなかったら、このまま遠泳して来るからな!」
足にはボロ雑巾になった沖野が繋がっている。
「衛宮助けて! このままじゃ俺、フィン代わりにされちまう!」
外野が少々うるさいが、気が散る「聞いてる?!」ほどではない。
ついて来ていたスイープが目隠しを取る。
「立ってると結べないでしょ」
「自分で結べるのだがね……。まあお願いするとしようか」
そのやり取りを見ていたデジタルは卒倒した。
他より多めに回されると流石に三半規管に影響なしとはいかないが、自分が今どの方向を向いているのかは把握できている。頭に焼き付けた直前の景色から、スイカとの距離とたどり着くのに必要な歩数を割り出す。
沖野はどうでも良いが、マスターに恥をかかせるわけにはいかない。
走り出す。短距離とはいえ、しっかり回された後であるのに真っ直ぐに走る姿にどよめきに近い声が漏れる。沖野はガチの声援を送っていた。
そして脳裏のイメージ通りに棒を振り下ろす。確かな手応え。親指で目隠しをずらすと、イメージと寸分違わずに見事真っ二つとなったスイカがあった。
拍手喝采と、沖野の歓喜の雄叫び。
「チェ、しょうがねえ。50mで勘弁してやるか」
「お前は俺の命のえ、ゴルシ? ゴルシさん?! ゴルシ様!!」
一方、偉業を成功させた士郎の周りにはちびっ子が集結していた。どうやったのどうやったの、やら、真似をして見事顔面ダイブをする者やらで賑わっていた。そんな光景を、むふー、と鼻息を荒くして眺めているスイープ。大満足な顔をしていた。
・
夕食後。士郎が購入した花火に興じる生徒達。流石にゴールドシップも二度目は自重しているのか、それとも昼間の奴で満足したのか、線香花火を持って落とさないように歩いていた。大人しくはないが、放っておいて問題ないだろう。
危ない使い方をする生徒がいないか見ていたが、そこら辺のモラルはやはりしっかりしており、心配する必要はなさそうであった。なので、士郎もスイープに渡された花火に興じることにした。
「……」
夜の浜辺を照らす花火の光。その光に照らされうっすらと見える笑顔。それを見ていると、自然と笑みが浮かんでくる。
──パシャ
「良い笑顔、ゲットです」
「君は将来、良いカメラマンになりそうだな」
「マーちゃんはその程度に収まる器ではありません。目指すは世界を股にかけるマスコットです」
ともすれば正気を疑いかねない、素っ頓狂と言われそうな夢を聞かされ、さしもの士郎も目を丸くせざるを得なかった。しかしそれが伊達や酔狂からの言葉でないことは、すぐに分かった。士郎には彼女がその夢を抱くに至った経緯を推し量ることはできないが、応援することはできた。
「困難極まりないだろうが、素敵な夢だな」
「そんな、将来有名になることが確定しているマーちゃんの若き日のブロマイドです。どうぞ」
そう言って渡される写真。勿論被写体はマーチャンである。帰ったら写真立てを買わなくてはならなくなった。
「妖精さんはカメラを買ったら、最初に何を撮りたいですか?」
「決めてはあるが秘密だ」
「む、妖精さんの癖に秘密にするんですか」
「どうせすぐに広まるだろうが、それまでは秘密だ」
「なら今ここで教えてくれても良いのでは?」
「私にも羞恥心はあると言うことさ」
「士郎ー! 線香花火の長持ち勝負するわよ!」
「まだ佳境だろうに、もう線香花火かね。ではまたな。写真はありがたく受け取っておく」
まあ、最初に撮る相手が誰であるかを推察するのは、それほど難しいことではないのだが。
「あぁ! 何でそんなすぐに落ちるのよ!」
・
「明日はお祭りがあるから、ちゃんと遅れずに来てね」
「分かってるとも。スイープこそ、祭りを楽しみにしすぎて、トレーニングを疎かにしないようにするんだぞ」
花火が終わり、トレーナー達のおさんどんを完遂し布団に叩き込み帰路につく士郎を見送るスイープ。
「分かってるわよ。夏休み明けたらレースだってあるんだし」
「ではまたセンターでライブをするスイープが見られるわけだ」
「当たり前でしょ! グランマにも見せてあげるんだから!」
「頼もしい限りだ。では明日も早いだろうから、私は帰らせてもらうとしよう」
「じゃあまた明日ね! おやすみ!」
「ああ、おやすみ」