スイープ、エミヤを召喚する   作:日高昆布

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明日は横浜でやるプリティなステークスに行ってくるので、今日の投稿にこぎつけて良かった

気づいたらUA60万超えておりました
後、今話で最長話数も超えました
皆様のおがげです。ありがとうございます


感想・批評・誤字報告もいつもありがとうございます


その19

 今日は夕方までトレーニングのスイープ達。その後の夏祭りは一緒に行くのだが、それまでは当然のことながら暇である。

 そう言う訳で、せっかくそこそこの宿に泊まっているのだから、と、朝風呂を満喫する士郎。意図した訳ではなかったのだが、風呂が売りの宿であったようで、1時間ほど掛けてじっくりと堪能した士郎であった。

 勿論スイープには内緒である。言ったが最後、次の休みにでも連れて行けとなること請け合いである。

 残念ながら宿の浴衣はサイズが全く合わなかったため、寝巻き代わりのハーフパンツとTシャツに着替え、キンキンに冷えたコーヒー牛乳を一気飲み。

 脱衣所を出てそのまま食堂へ向かう。一口一口噛み締めながら味わい、確かな腕前に感嘆と敬意を抱きつつ、味を盗もうと過程に思いを馳せる。

 あまりの真剣な眼差しに、筋骨隆々の海原雄山かとスタッフを恐れさせていることなぞ露とも知らずに食堂を後にする士郎。

 虫歯にならずともしっかり歯磨きをし、宿の散策を始める。すると、こじんまりとしつつも確かな存在感を放つスペースを見付けた。ゲームコーナーである。記憶などないのだが、何故か懐旧の念を覚える空間であった。

 ゲームに興じていた子供の宿泊客から一瞬視線を向けられるが、今日日外国人旅行者は珍しくないからか、すぐに視線は外れた。

 

「よう──」

 

「あまり妄りに接触するものではないぞ──」

 

 上体を屈め、肩を組もうとした腕を回避。空を切った腕の持ち主は微かにつんのめる。

 

「シリウスシンボリ」

 

「──何だ照れちまうからか?」

 

 完全な不意打ちを躱されたシリウスは少し憮然とした表情をしたが、すぐにいつもの調子に戻った。

 

「子供相手に照れたりするものか。君への醜聞になりかねんだろう」

 

「子供……」

 

「それより意外だな。一人旅をするのか」

 

 シリウスは別に士郎相手に思慕の念など一切持ち合わせていないが、自惚れではなく、確固たる事実として自分の容姿が優れていることを自覚している彼女からすれば、こうもキッパリと子供と言い切られて歯牙にも掛けられていないのは面白くなかった。

 

「あ? 別に旅行じゃねえよ」

 

「しかし合宿でもないだろう」

 

「……」

 

 ルドルフとの会話で生じた売り言葉に買い言葉で、目的も知らぬまま出立したとは言えなかった。普段であれば口八丁で誤魔化せるのだが、どうにも士郎相手にはそれが出来る気がしなかった。なので、露骨に話を逸らすことにした。

 

「ただの野暮用だ。それに意外って言えば、アンタもだろう? 仕事の虫のアンタでも旅行に行くんだな」

 

「仕事の虫になったつもりはないがね。家族ぐるみの付き合いのある生徒から誘われてね。学園からも夏休みを取れと言われた所でもあったし、こうして一人旅もどきをしているのさ」

 

 古臭いアーケードゲームの筐体を眺める士郎。粗いポリゴンだが、ゲームの記憶など全く残っていない士郎からすると、新鮮なものとして映った。

 やけに時間を掛けて眺めている事を不思議に思うが、今なら、と言うタイミングで肩に腕を乗せようとしたが、スカされる。直前に次の筐体に移動していたのだ。再びつんのめるシリウスを、士郎が不思議そうに眺めている。

 

「どうかしたのかね」

 

「何でもねえよ」

 

 次の筐体では、ちょうどプレイデモシーンが流れ始めたところであった。絶好のタイミング、と仕掛けるが三度スカされる。興味を唆られなかったのか、既に移動し始めていた。

 ここまで来ると、最早ただの意地である。しかし四度も五度もスカされると、流石にシリウスも気づいた。

 

「……おい」

 

「何かね」

 

「わざとやってんだろ」

 

「おや、君こそパントマイムの練習をしていたのではないのかね」

 

「……てめえ」

 

 相手を揶揄うことは大好きでも、揶揄われることは嫌いなシリウスシンボリ。そして冷静にあしらわれるのも好みではない。

 何かないかとゲームコーナーを見回すと、長らく使われてなさそうな卓球台の存在に気付く。表面の埃を拭うくらいはしてあるだろうが、経年劣化が見え隠れするくらいには古そうな代物である。

 

「おい衛宮」

 

「何かね」

 

「アレで負かしてやるから、そしたら肩組ませろ」

 

 冷静さを取り戻せるといいのですが。

 

「……私に勝ち目があるとは思えんのだが?」

 

「加減はしてやるさ」

 

「……少し君の性格を見誤っていたようだな」

 

「自分で蒔いた種だからな」

 

「そのようだ」

 

 ラケットと球を取り出す。ラバーの表面もまあまあ荒れているが、そこは仕方なしと判断するしかない。ラケットで球を打ち上げ、具合を見る。

 

「経験はあるのかね」

 

「ねえな。お前は?」

 

「同じく。ルールは?」

 

「……長くやってもダレるだけだ。10点先取でいいだろ。先攻はやるよ」

 

「言葉に甘えよう」

 

 別に倒してしまっても構わんのだろう、と言おうとしたが、火に油を注ぐだけだからやめることにした。

 

 ・

 

 ホテルの受付をしている間にフラリと姿を消してしまったシリウスを探し、ホテルを歩くルドルフ。彼女の興味を惹きそうな場所を考えていると、ゲームコーナーから、子供の歓声が聞こえた。

 気になり、覗いてみる。

 

「……随分と白熱しているな」

 

 2人の子供をジャッジにし、士郎とシリウスは素人ながらも見応えのあるラリーを繰り広げていた。ルドルフは士郎が普通の人間でないことは、目の前で魔術と霊体化を披露してもらったから知っているが、こういった身体性の面を見たことはなかったため、改めて人ではないのだと実感する。勿論、シリウスが本気でないことは見て分かるが、既に一般人が相手をするには相当キツいレベルになっている。そんな彼女に対し、涼しい顔をして対応しているのだ。

 しかしそんな拮抗したゲームであったが、今し方発したルドルフの言葉をシリウスの耳は逃さなかった。割と楽しんでいる所を見られたことに動揺したのか、シリウスのラケットが空を切った。そしてそれはラリーとゲームの終わりを告げるものだった。

 

「すげえな兄ちゃん! ウマ娘に勝っちまったよ!」

 

「どうやってそんな強くなったんだ?!」

 

「好き嫌いせずによく食べて、よく寝て、よく鍛える、だな」

 

「そっかー。じゃあ頑張るか!」

 

 そう言って子供達は廊下を走っていった。

 

「おや、君も来ていたのかね」

 

「ええ。合宿で使う施設への挨拶と、後トレセン音頭をやるので」

 

「トレセン音頭?」

 

 首を傾げる士郎とは打って変わって鬼のような形相のシリウス。しかしどちらに非があるかと尋ねられたら、内容を聞かずに同行を申し出たシリウスだと10割が答えるだろう。彼女もそれを自覚しているが故に、睨むことしかできないのだ。

 

「合宿所の近くで毎年行われる夏祭りで、地元の学生のウマ娘達と一緒に披露してるんです。それで今年は私とシリウスと他数名が参加するんです」

 

「……おい衛宮」

 

 地獄の底から響いてそうな声色だった。一般ウマ娘なら泣いて逃げるような、デジタルなら別の意味で涙を流すようなドスの利いた声。

 

「何かね」

 

「まさか祭りに行くなんて言わねえよな?」

 

「残念だが誘われているのでね」

 

 子供の脅しが士郎に効くはずもなく。あっさりと参加を表明。

 

「おい」

 

「別に揶揄うような大人気ない真似はせんよ」

 

「卓球でもうひと勝負だ! 負けたら祭りには来るな!」

 

「残念だがこの後は散歩の予定があるのでね」

 

「ずらせるだろ!」

 

 素気無く断られ、追いすがり掴んで引き留めようとするも、ひらりひらりと風に舞う落ち葉のように躱される始末。そんな2人を見て、知らない間に随分仲良くなったんだなと嬉しく思うルドルフであった。

 

 ・

 

 夕暮れ。

 風に乗って祭囃子が聞こえてくる。音の出所へ向かって、道路を団体が歩いている。はしゃぐ生徒と、嗜める生徒、それらを後ろから眺める生徒。そして明かりを持ち先頭に立つ士郎。まだ会場への道中だと言うのに、そこまではしゃいで疲れないのか、と思うが、水を差すのは野暮だろう。

 じゃれついてくる年少組を適度にあしらっていると、会場の神社が見えた。

 参道に並ぶ色取り取りの出店。鼻と腹を擽る匂い。そして中央に鎮座する雛壇付きのやたらデカい櫓、の周りを囲う縦縞の甚平を着たウマ娘、に囲われる水色の浴衣を着たルドルフやシリウス達学園の生徒。

 

「あれ、カイチョーとシリウスじゃん。ボクも一緒に踊りたかったなあ……。そう言えばシロウは初めて見るんだよね?」

 

「そうだな。シリウスシンボリがやたらと苦い顔をしていたな」

 

「えー何でだろう。楽しい踊りなのに」

 

「うはははは、見ろテイオー!」

 

 串焼き類をこれでもかと指に挟み込んだターボが現れた! ポロリと落ちるフランクフルト! 

 

「「あ!」」

 

 しかしそこには食べ物を無駄にすることを許さない男、衛宮士郎がいる。

 

「せめて左右1本ずつにしておくんだ。私が持ってるから、食べるといい」

 

「はーい」

 

 そう言って士郎が持つフランクフルトを齧るターボ。

 そんな光景を見ていたテイオーは何か違和感を覚え、周りを見る。そう言えば、士郎が他者の世話を焼いているといつも剝れるスイープがいないことに気付く。

 

「あれスイープは? もう迷子? しょうがないなあ」

 

「1人で盛り上がってるところすまんが、あいつなら用事があるってどっか行ったぞ。衛宮なら聞いてるんじゃないか?」

 

 焼き鳥と缶ビールを装備した沖野が言う。完璧な装備のはずなのに、士郎の料理に染められた舌は物足りなさを訴えている。

 

「いや特には聞いてないな。まあ想像は付くがな」

 

 特に疑問も持たずに甲斐甲斐しく世話を焼くものだから、味を占めた年少組が雛鳥のように待っていた。口も拭いてもらっている。育児から解放された保護者組は、年相応に出店を楽しんでいた。

 すると、太鼓の音が1つ、鳴り響いた。櫓に立つ奏者はシリウスシンボリ。視線を一挙に集めても、些かも臆さず、バチを振るう。スピーカーから音楽が流れ出し、合わせて櫓を囲うウマ娘達が動き出す。下段にいる浴衣を着た一団から、巨大な団扇を持ったスイープと、いつぞやファン認定をしてきた生徒を従え、マイクを持ったルドルフが一歩前へと出る。

 

「歌うのか……」

 

 勿論盆踊りの記憶などないのだが、間違いなく歌わないし、ここまでポップな歌詞でもなければ、アグレッシブな振り付けでもない。

 

「飛ぶのか……」

 

 後、奏者は飛ばない。

 

「……」

 

 違和感の塊みたいな代物だが、この世界ではこれがスタンダードなのだから、肩の力を抜いてみることにした。

 

「……」

 

 盆踊りとは思えないほどに汗を散らしている。ともすれば、トレーニングの一環なのでは、と思うほどに必死な形相の者もいる。スイープも余裕というわけではなさそうだった。しかし目が合った途端、破顔し、満面の笑みを浮かべた。思わず釣られてしまう笑みだった。

 生憎、周りと同じようには楽しめないが、皆が楽しんでいるのならそれでいい。スイープが楽しんでいるのなら、それで十分だ。

 

 ・

 

「ただいま!」

 

「おかえり。随分なサプライズだったな」

 

 タオルを渡す。

 

「びっくりさせようと思って、隠れて練習してたんだから。それでどうだった? 楽しめた?」

 

「少々困惑したが、そうだな。楽しめたな」

 

 ジッと見つめること5秒。その答えに満足したように笑い、言った。

 

「なら良かった。士郎が楽しんでるなら、アタシも楽しいから」

 

 ・

 

「──そうか」

 

「あ?」

 

「いや、何。とても簡単なことに気付けていなかったことに、今気付いただけさ」

 

「へえ? 聞かせてくれよ。アンタほどの慧眼が気付けなかったってことをよ」

 

「相手が幸せなら嬉しい。そしてその逆もまた然りということさ」

 

 ルドルフの視界には、互いが楽しめたことを自身のことのように思い合っている2人が映っている。

 本当に、当たり前のこと。

 自身の幸福を後回しにして他者の幸せを願い、奔走する姿は一見すれば美しいのかもしれない。しかしそれでは笑い合えない。相手の幸福を願うことと同じように、相手もまた幸福を願っているのだ。

 

「そりゃ……当然だろ」

 

 何言ってんだ、と言わんばかりの呆れ顔に、自身の魯鈍さを自覚し、苦笑が漏れる。

 

「その通り。当然のことだったんだ。……あの2人には感謝しないとな」

 

 ルドルフの視線を追い、誰のことを言っているのか気付く。

 

「……あいつらってどういう関係なんだ? どう見たって兄妹じゃねえし」

 

「それは私の口からは言えないな。心配せずとも疚しい関係ではないよ」

 

 わしゃわしゃとタオルで顔を拭かれているスイープ。

 

「けっ。揃いも揃って同じ答えだな。んで、本人達が言わないなら、言うことはできない、だろ?」

 

「まあそれについては勘弁してくれ。墓場まで持っていくような秘密ではないが、おいそれと言い触れていいものでもないのでね」

 

「まあ良い。いつか聞き出してやるよ」

 

 シリウスが無理矢理聞き出すような真似をしないことだけは確信しているので、ルドルフも特にそれ以上咎めるようなことは言わなかった。

 今は晴れた視界に映る、笑顔のウマ娘達を見ていよう。

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