スイープ、エミヤを召喚する   作:日高昆布

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お待たせしました

今回は2本立てでございます

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その20

 1

 

 夏休み明け初日。

 日に焼けた者、焼けていない者、徹夜で宿題をして目の下にクマを作っている者。時代も場所も問わない、普遍的な光景。

 そんないつも通りの学園を、1つの噂が駆け巡っていた。

 曰く「衛宮さんが女性と歩いていた」と。元々目立つ容姿であり、人柄も相俟って認知度が非常に高い士郎。今まで一切浮ついた噂がなく、商店街の青果店で見る時も、デパートの日用品コーナーで見る時も、河川敷の雑草狩りに参加しているのを見る時も、生徒を連れ立っているだけで、女性の影は微塵も感じさせなかった。

 そんな彼にそんな噂が立つのだから、それはもう光の速さで広まっていった。知らぬは本人だけ。

 

 

 夏休み明け初日であり、授業は半ドン。ホームルーム終了と同時にいそいそと教室を出たセイウンスカイは、ニヤニヤしながら用務員室へ向かっていた。仕事が恋人を地で行く士郎に、そんな噂が立っては聞かずにはいられない。もしかしたら慌てふためく貴重な姿が見られるかもしれない、と期待に胸が躍る。しかしそれと同時に、もし仮に恋人がいたとしてもそれをスイープが知らない訳がない、という確信もあるので、尾鰭が付いちゃったんだろうなとも思っていた。というか、四六時中一緒にいることを求めるようなスイープがいては恋人とのデートは疎か、恋人作りさえもできないだろう。

 

「こんに、ちは……」

 

 用務員室の扉を開けて最初に目に入ったのは、丁寧に封筒から中身を取り出している士郎の姿だった。

 

「し、士郎さん…。それは?」

 

「こんにちは。これは、そうだな。ラブレターと言ったところか」

 

「ラ、ラブレター???!!!」

 

 まあまあのボリュームで叫ぶスカイ。所詮噂だと断定していたのに、まさかのラブレター出現で恋愛偏差値が低い彼女は混乱の極致にあった。

 

「そんなに驚かなくとも良いだろうに。読んでみるかね」

 

「読ませちゃうの??!!」

 

 人が書いた物を、と思う一方で身近で恋愛話をする機会も、聞く機会もないスカイは非常に中身が気になっていた。罪悪感はあるが、貰った張本人が良いと言うのだから、と免罪符を手に入れ、いざ拝読!

 

「――……」

 

 2、3秒の後、ワクワクに溢れていた顔はスンッ、となっていた。

 そこに書かれていた内容。それは。

 

「ただの厨房スタッフからのスカウトの手紙じゃん」

 

「熱烈なラブレターである事には変わらんだろ?」

 

 としたり顔で言う士郎。まんまと乗せられてしまったことに、メラメラと怒りの炎が立ち昇る。

 

「このセイちゃんを揶揄うなんて……!」

 

「別に揶揄ったつもりはないのだがね。そも、私に本物のラブレターを渡そうなんて奇特な者がいる訳がないだろう?」

 

「……確かに(スイープがいるから)渡そうとする人はいなさそう。でも士郎さんでも女性の好みはあるでしょ?」

 

 自分とスカイのお茶を用意している士郎に疑問を投げる。

 

「私の好み?」

 

「話の流れ的におかしくないと思うけど、そこまで驚く?」

 

「いや、自分でも女性の好みなど考えたことがなかったのでな」

 

 テーブルにお茶とお茶請けを置くと、虚空を眺め始める。

 専用の湯呑みを持ち、お茶を口に含む。心地良い苦味が舌を包む。ゆっくりと嚥下すると、鼻から爽やかな香りが抜けていく。微かに舌に残る後味を、甘味で上塗りしていく。そしてまたお茶を飲む。

 

「はあ、至福……。え、まだ考えてんの?」

 

「君が振った話題だろうに。まあ全く思い付かなかったが」

 

「ええー。じゃあトレセン学園では?」

 

「子供相手にそんな感情抱くわけなかろう」

 

「会長さんとか大人っぽいと思うけど?」

 

「比較すれば成熟した精神を持っているが、それでも子供には違いないさ」

 

「んーじゃあたづなさんは? あの人は大人でしょ?」

 

「そうだな。魅力的な女性であることは確かだな」

 

「おおー。さらっと言うあたり、恋愛慣れしてそうな感じがする――ん?」

 

 言葉を切り、耳を動かしている。かなりの速さでここに向かっている足音に気付いたのだ。士郎に視線をやると、肩をすくめるだけ。廊下を走りそうな生徒の心当たりが多いのだろう。

 ドアが乱雑に開かれる。そこにいたのは、意外なことにスイープであった。しかも何故か両目に涙を溜めて。

 

「し゛と゛う゛〜〜」

 

「どうした、何があった」

 

 疾風迅雷の如き速度でスイープに駆け寄る士郎。

 

「どっがいっちゃやだぁ〜〜!」

 

「……何のことだ?」

 

 心配を困惑が上回る。取り敢えず涙やら鼻水を拭ってやる。そのついでに、後ろでオロオロしているキタサンに事情を尋ねることにした。

 

 

「つまり、出所不明の噂と、私とセイウンスカイの会話を中途半端に教えられて、結婚してどこかに行くのでは、と想像が飛躍した訳か」

 

 膝の上に鎮座するスイープの頭を撫で回して慰めながら、キタサンから事の顛末を聞いた。

 

「噂は身に覚えがないが、ラブレター云々は、セイウンスカイを揶揄うために言っただけで、本当はただの厨房への異動の嘆願書だ」

 

 現物を見せるために立ち上がろうとしたが、スイープが頑として動こうとしないため諦め、スカイに取ってもらう。

 

「ありがとう。さて、これが私の言ったラブレターだ」

 

 ズビズビと鼻を啜りながら手紙を受け取る。どんな反応になるかは、容易く想像できた。

 耳が絞られている。真っ赤な目で睨まれる。降参を示すように両手を上げる。

 

「少なくともこの件については全面的に私が悪かった。すまない」

 

 ペシペシペシペシと耳で顔を叩かれるが、今言った通り10割悪いため止めろとは言わない。非常にこそばゆいが、我慢するしかない。

 

「でもそれじゃあ、女の人と歩いてたってのはどうなの?」

 

「さてな。そちらに関しては全く分からんな」

 

「でもこの学園で噂になるぐらいですから、普段見ない人だったりするんじゃないですか?」

 

 と言われて、ようやく思い至る。

 

「ああ、だとしたら彼女か――ぐっ」

 

 スイープの体が跳ね、頭がぶつかる。

 

「誰! それ誰?!」

 

「視察に来ていたURAの職員だ。ここに来る途中で熱中症で倒れかけていたから、駅まで送っただけだ。確かにそこを生徒に見られたな。客人だと言ってたんだがな」

 

「んーまあ士郎ならそういうことするか。ならいいわ」

 

「心配せずとも、君にお暇を出されなければ勝手に使い魔を止めるつもりはないさ」

 

「じゃあ一生使い魔ね!」

 

(プロポーズみたい)

 

(プロポーズしてる!)

 

 知らぬは本人達だけ。

 

 

 

 

「士郎いるー?」

 

 掛け声と同時に開かれる扉。

 

「ノックはしたまえよ。あと念話で確認すれば良いだろうに」

 

「それだけじゃ味気ないでしょ」

 

「そうかね。それで何かあったかね」

 

「え? 何もないけど。遊びに来ただけ。何してるの?」

 

 ソファーに座り何かを弄っている士郎の横に腰掛けるスイープ。

 

「カメラだ。注文したのが届いてな」

 

「へえーカメラ。そう言えば使ったことないわ」

 

「今は携帯のカメラで十分綺麗に撮れるからな」

 

 バッテリーを挿入し、電源を入れる。微かな音と共にレンズが伸長し、撮影の準備が整う。携帯で撮るよりも、この小さな液晶を見ながら撮る方がしっくり来た。

 士郎が適当な方向にカメラを向けていると、制服の皺を伸ばし、帽子の位置を調整しながらスイープがフェードイン。ウルトラマンみたいなポーズでシャッターが切られる瞬間を待っている。1枚目は自分だと信じて疑わぬ目で待っている。いつまでも待っている。

 

――カシャ

 

「よく撮れた?」

 

 士郎の背中によじ登って確認するスイープ。

 

「よく撮れてるわね!」

 

「そうだな、よく撮れてる」

 

「次は何撮るの?」

 

「さて何も決めてないな。散策しながら決めるとしよう」

 

 背中にスイープをくっ付けたまま外に向かう士郎。スイープも降りる気はなさそうだった。

 少し歩くと、何故か焼き魚の香りが漂ってくるではないか。はて、と思うまもなく、1人で中庭で七輪焼きをしているゴルシがいた。しかしどこで手に入れたのかウェイター姿に捻り鉢巻と言う、奇天烈な格好であった。

 

「――」

 

「え? 2枚目あれでいいの?」

 

「この学園の迷物だからな」

 

 一枚だけ撮り、再び歩き出す。

 次に見えてきたのは、こじんまりとした休憩処の椅子に立ち、まるで舞台俳優のような派手な身振り手振りを披露している生徒。手前には観客が1人。かつて食堂で交通事故を起こしていた生徒だ。

 

「彼女は?」

 

「歌って踊ってるのがテイエムオペラオー。座ってるのがメイショウドトウ。オペラオーの性格はああ言う感じ」

 

「……なるほど。俳優志望か?」

 

「すごいナルシストよ」

 

「そうか……。この学園の生徒は見ていて飽きないな」

 

 カメラを構えた瞬間であった。液晶越しに目が合う。液晶から顔を上げると、がっつり目が合った。すると両手を翼に見立てたような動きをさせ、椅子から飛び降りた。動作の全てが大仰だが、それを自然にこなすのがテイエムオペラオーなのだろう。

 ランウェイを歩くモデルのようにシャンとした姿勢で、真っ直ぐに2人のところに向かって来て、窓をノック。ガラガラと開く。

 

「やあやあ使い魔(サーヴァント)君に、その主人(マスター)。僕の姿を見るのに、ファインダー越し、窓越しでは実に勿体無い! 是非その瞳という名のフィルムに僕を焼き付けてくれたまえ!」

 

 自身の胸に手を当て、拒否されることなど微塵も思っていない瞳であった。

 折角だからと誘いを受けることにした。

 

「隣失礼するよ」

 

「ははははいぃぃ〜」

 

「……離れた方がいいかね」

 

「そそそんなことないです〜〜」

 

「そうかね。では失礼するよ」

 

 胡座をかく士郎の上に座るスイープ。帽子が邪魔なので取らせてもらう。

 

「あの〜……」

 

「ん?」

 

「あ、あの時はありがとうございましたぁ!」

 

「あの時?」

 

「ご飯ですぅ!」

 

「食堂でのことでしょ」

 

「そうですぅ! ありがとうございましたぁ!」

 

「構わんよ。怪我がなくて何よりだ。あれからは転んでないかね」

 

「食堂では転んでないです」

 

「食堂では、か……」

 

 顔や手足に傷はないから、派手に転んではいないのだろう。

 

「ふふふ。オーディエンス同士の仲も深まったようで何よりだ。では、開演といこうじゃないか!」

 

 

「2時間て長すぎでしょ! 後半寝ちゃったわよ!」

 

「写真もだいぶ撮らされたな」

 

 僕の写真があればあるほどカメラの価値も高まる! と言う謎の理論により本人の指示のもと、5分に1回くらいの頻度で撮らされた。もう暫くはいいかな、と思うほどに撮らされた。

 と思いつつも、当てもなく歩く士郎とスイープ。すると今度は武道場に向かう一行に遭遇。

 

「あら、こんにちは。衛宮さんにスイープちゃん」

 

「こんにちはグラスワンダー。これから稽古かね」

 

「ええ。お二人は……広報誌の仕事ですか?」

 

 士郎が校内を歩いている=仕事の図式が成り立っている今、グラス達の勘違いに首を傾げる者は少ないだろう。

 

「いや思うことがあってね。色々と写真に残しておこうとしているのさ」

 

 と答えると、手櫛で髪を整え始めるグラス達。撮影の提案はしていないのだが、撮らせてくれるのなら甘えておこう。

 袴姿に、手には長物。物騒さはなく、まだ未熟な大和撫子といったところか。しかし被写体としては申し分ない。

 撮影したデータを見てはしゃぐ一同。

 

「せっかくですし、また弓を引いていきませんか?」

 

「しかし君達は薙刀だろう。私の射を見ても参考にならんのでは?」

 

「だからこそですよ。弓道を嗜んでいる者が見れば毒になってしまうかもしれませんが、私達でしたらそうはなりませんから。それに私が見たいので」

 

「アタシもーー!」

 

「分かった分かった。では一射だけやっていこう」

 

 

「……何かギャラリーが増えてないか?」

 

 スペ、スズカ、テイオー、マックイーン、タマ、オグリ。グラスからスペに連絡が行き、皆も誘ったようだ。彼女らは以前流した(・・・)射を見ているから、真剣な射を見てみたいと思っていたのだ。そしてラモーヌ。彼女と一緒にいたタイミングでマックイーンが連絡を受けたため、そのままついてきたらしい。

 

「あら。それだけで落ちてしまうようなパフォーマンスなの?」

 

「まさか。それほど柔ではないさ」

 

 すり足で的前に移動し一礼。射位に立つ。ジャンルは違えど、競争の場に身を置く者達だからこそ分かった。空気が変わったことに。

 射法八節。

 完成された動きは、いっそ恐ろしいまでに美しい。それはまさに貴人の所作そのもの。そこに何人たりとも手を加えることは許されない。

 弦から放たれた矢は、そう定められたように的の中央を穿つ。よく張られた的紙がパン、と軽やかに、しかし荘厳な音を立てた。

 残心を解き、一礼。

 

「変わらずお見事です」

 

 えらい物見てしまった、と皆は反応できずにいたがグラスが拍手で称えた。それをきっかけに万雷の拍手が湧き起こった。

 

「ここまで褒められては何やら面映いな」

 

 外す方がおかしい、と言う領域に至っている士郎からすればこの程度で褒められても、と思ってしまうが、ここは素直に受け取っておくことにした。

 

「あ、写真撮り忘れた!」

 

 士郎からカメラを預かっていたスイープは、射の瞬間を撮ろうとしていたのだが、見惚れてすっかり忘れていた。

 

「あ! 写真撮るの? じゃあボク真ん中ね!」

 

 とあれよあれよと集合写真の撮影に。

 自然とその流れから外れようとするラモーヌだったが、ルドルフからウララまでを同じ子供と言う括りにしている士郎からすれば威圧感など無に等しく、逃れられるはずがなかった。

 そうして見れば誰もが三度見はするであろう写真が出来上がることとなった。

 一応は「結構なものを見せてもらったから」、と本人も納得はしているのだが、まあ誰もが「何故??」と疑問に思うだろう。

 ともあれ、写真撮影は順調な滑り出しとなったのであった。

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