スイープ、エミヤを召喚する   作:日高昆布

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お待たせしました

ラストがもしかしたら賛否ある展開かもしれませんが、やりたいネタのためにどうしても必要な展開なので、ご勘弁して頂ければと思います

批評・感想、誤字指摘いつもありがとうございます


その21

「士郎、これどう思う?!」

 

 そう言って差し出されたスケッチブックには、魔女帽子に合わせたようなローブを着たスイープが描かれていた。彼女にこんな特技があったとは露とも知らなかった士郎は、感嘆の息を吐きながらマジマジと鑑賞。

 

「ほお、大したものだな。ここまで自分を客観視できて、それを絵に起こせる画力もさることながら、ここまで優れたデザインセンスを持っているとは」

 

「でゅふふ、スイープさんの使い魔さんに似てると褒められるとは、何たる誉れ」

 

 クネクネと身を捩るデジタル。どうやら絵の作者は彼女だったようだ。スイープにチラリと視線をやると、思ってたのとは別なリアクションを取られたことにご立腹なのか、頬を膨らませていた。

 心眼(真)発動。

 絵の出来ではなく、服装が似合っているかを言及して欲しかったのだと推察。

 

「それに、流石は使い魔のマスターだな。魔女帽子とローブがよく似合うな」

 

 不満顔が一転。そうでしょうそうでしょう、と声なき言葉が聞こえてきそうな得意げな顔になる。

 

「しかしこれは何かに使う絵なのか?」

 

「? 何言ってんのよ。アタシの勝負服に決まってるでしょ!」

 

「勝負服? スイープが使うと言うことは……ライブ衣装か?」

 

「レースに使うに決まってるでしょ!」

 

 その時の士郎は、鳩が豆鉄砲を喰らった、と言う表現がこれ以上ないほどに相応しい顔をしていた。あまりにびっくりしているので、スイープもびっくりしてしまった。

 

「あ、そっか。士郎の世界には私達みたいなのはいないんだっけ」

 

「そうだな。正直そこまでデザイン性に富んだ衣装でレースを行うのは、何というか……不思議な感覚だな」

 

「でも士郎も似たようなの着てたじゃない」

 

「あれは気合いを入れるために着ているわけではなく、きちんと意味のある物なのだがな……。まあいい。それで、スイープはその衣装を着て次のレースに挑むのか」

 

「そうよ。出来上がったら一番に見せてあげるからね! 感謝しなさいよ!」

 

「ブヒィ!!」

 

 奇声と共に硬直(死後硬直ではない)するデジタル。初めのうちは2人とも、事あるごとに失神するデジタルに引いていたが、もう日常茶飯事となっており視線すら寄越さないでいた。

 

「あ、そうだ! どうせなら私の衣装と一緒に、士郎もあの赤い服着て写真撮らない? いや、撮るわよ! カッコいいマスターと、それに付き従う使い魔っていう素敵な写真が撮れるわ!」

 

「全く……。守護者に戦闘用の服を着せて記念撮影をさせるとはな。そんな事をするのは今も昔も君だけだろうな」

 

 ・

 

「ところで興味本位で聞くのだが、アグネスデジタルの勝負服はどんなものなのかね」

 

 デジタルが走っているところを見たことは一度もない。スイープがトレーニングしている時にたまに顔を出す程度で、活気がある時にレース場に顔を出すことはあまりないため、練習で走っているところも見たことはない。

 そもそもスイープもそうだが、小柄な体格だと実際に走っているところを見てもアスリートというイメージを抱きにくい。デジタルはそれに加えて普段の奇行がそれに拍車を掛けているのだ。それ故、勝負服や彼女が走っている姿に興味が湧いたのだ。

 

「え、デジたんの勝負服ですか? いや〜、そういう雰囲気じゃないタイミングで見せるのはちょっと恥ずかしいんですけど、普段から良い物見せてもらってるので、お返しにお見せしましょう!」

 

 普段から見せている良い物とやらにはまるで心当たりがないが、見せてくれると言うのなら言葉に甘えよう。

 携帯を取り出しスイスイと操作するデジタル。

 

「トレーナーさんに送って頂いた写真です」

 

 どれどれ、と覗き込む2人。

 

「────」

 

 勝負服? という感想を飲み込めた自分を褒めたくなった士郎。

 恍惚の表情で走っているというツッコミ所はあるものの、やはりその衣装に目が行く。

 確かにステージ場では映えそうなデザインだが、レースでこれを着るのか、と。スイープのデザインもレース衣装として見ると中々の物ではあるが、夢の国デビューした未就学児が着ていそうなデザインが来るとは全くの予想外であった。

 

「うーん、こうしてみると、敢えてポイントポイントでカラフルにするのとかもありに思えてくるわね」

 

「……似合っているな」

 

 色々声に出したいことはあったが、異世界文化として飲み込むことにした。

 

「あとこんなのも」

 

 ピンク色のキョンシーがいた。

 

「なんでさ」

 

 流石に我慢できなかった。

 

 ・

 

 その後は、デジタル渾身の写真お披露目会となった。スイープとデジタルの勝負服が、まだまだ軽いジャブだったことを思い知らされるラインナップであった。シンプルなデザインのものから、ファッションショーでモデルが着ていてもおかしくなさそうな勝負服、袴などと実に多彩。

 飲み下したと思った異世界カルチャーギャップだったが、拳大のおにぎりが迫ってきたので、一服を入れることにした。

 士郎がお茶を入れている向こうで、デジタルによるトークショーは続いていた。一方的になるかと思いきや、スイープが意外にも上手く舵取りをしており、聞き苦しいオタクトークにならずに済んでいた。流石に1時間に迫って来ると疲れるものがあるが。

 結局、デジタルのトレーナーが迎えに来るまでワンマントークショーは続いたのであった。

 

「……デジタルって変な奴だったのね」

 

「ノーコメントだ」

 

 その後、スイープとも別れ、掃除がてら校内の見回りを開始する士郎。

 教室からちらほらと歓声や、居残り授業に悶え苦しむ声やらが聞こえて来る。

 掃除がてら、とは言ったものの、基本的には行儀の良い子達なので、ゴミがポイ捨てされていることは少ない。精々が自然と発生するゴミだけだ。ウェットシートで床掃除をしながら、トラブルがないか時折話し声に耳を傾けつつ校舎内を回る。

 上層階は特別教室のみとなっているため、滅多に話し声が聞こえて来る事はない。しかし今日はその「滅多」が来る日だったようだ。しかも聞こえて来るのは楽しげな声ではなく、悲しみを押し殺した啜り泣く声。

 身を屈め、磨りガラスに映らないように移動し、声の発生源に近付く。ドアの向こうにいるのは、少なくとも幽霊でないことは分かる。声質的に生徒だろう。

 非常に心配だが、態々こんな場所で隠れるようにして泣いているのだ。それ相応の理由は間違いなくあり、それを知らない自分が迂闊に声をかけて良いものかと躊躇してしまう。しかし放っておくことは出来ない。どうしたものかと、立ち往生する守護者。

 

 ──プルルル

 

 相手を確認もせずに即座に切る。

 

「……」

 

 思わず頭を抱えてしまう。普段ほぼ使わないとは言え、なんと言ううっかりミス。運良く聞かれていないなどと言う都合の良い奇跡は当然なく、泣き声は止んでいるし、何なら足音が近づいて来ている。

 取り敢えず開口一番の言葉は決まっている。

 

 ──ガラガラ

 

「盗み聞きするような真似をしてすまない」

 

 ・

 

 中にいたのは、やはり生徒であった。士郎のことは知っていたが、逆に生徒のことは知らなかった。しかし却ってそれが彼女には良かったのかもしれない。話を聞いてほしい、と頼まれたのだ。

 取り敢えず、帰ってくることの証として掃除用具を全てそこに置き、新品のフェイスタオルやら飲み物やら取りに用務員室へと霊体化して急いで向かう。すれ違ったカフェとお友達が何事かと驚いていたが、急いでいると言うだけに留める。

 

「待たせたな。取り敢えず、これで顔を拭くといい。擦ってはダメだぞ」

 

「ありがとうございます……。ふふ、急いで走ってくから、どうしたのかと思ってたら……。噂通りの人なんですね」

 

「この学園にいる大人なら誰でもそうすると思うがね」

 

「……」

 

 顔をタオルで覆い隠し、暫しその感触に浸る生徒。僅かに柑橘系の香りが漂う。深く吸い込むと、荒んでいた心が少しだけ落ち着く。

 

「私、この学園を辞めようかなと思ってるんです」

 

「……」

 

「メイクデビューでは勝てたけど、それきり。それでも最初のうちは、タイムが縮んでいくことで成長を実感できた。でも勝てなかった。どれだけ練習しても、どれだけ走っても勝てなかった。それで気付いたら、走ってると苦しくなって。夢とかもあって、あれだけ好きだったのに、レース場に行くと足が重くなって……。今日も練習があったんですけど、何も言わずサボっちゃって。でも行きたくないって思ってるのに、行かなきゃって気持ちもあって……。なんか、自分でも何をしたら良いのか分からなくて……」

 

 言っているうちに、感情の波がまた揺れ出したのか、涙が溢れた。それに気付き、タオルで顔を隠すが、しゃくり上げる声は抑えられない。

 背中をさすりながら言う。

 

「今君は、夢との向き合い方が分からなくなっているのだろう。それに対してこうすべきだ、とは残念ながら言うことは出来ない。夢との向き合い方に正解はないからな」

 

「……」

 

「だから君が取ろうとしている向き合い方も、また間違いではない」

 

「そう、ですかね」

 

 逃げ出そうとしていることを、響きの良いように言い換えているだけのように感じてしまう。士郎が自分のことを思っての発言だと分かっているのに、そう思ってしまうことがとても嫌だった。

 

「……どちらが正しい訳ではない、ということを念頭に置いて聞いてくれ。ひたすら愚直にトレーニングを重ね、勝てなくともレースに挑み続けることと、トレーニングを休み、レースから離れること。どちらも夢や目標への向き合い方としては同じだ。君はトレーニングを重ねることだけが、達成するための唯一の道だと思っているようだが、それは視野狭窄だ。離れることで見える物、得られるものは必ずある。だから、逃げ出そうとしてる、なんて自分のことを責めないことだ。君が今まで頑張っていたことは、君が一番良く知っているはずだ」

 

 展望が見えた訳ではない。レースから離れたいという気持ちと、走っていたいと言う相反する気持ちも変わらずにある。それでも少しだけ。少しだけそうしよう(・・・・・)としている自分を肯定できそうだった。

 

「ありがとうございます。ちゃんと、トレーナーさんと話してみようと思います」

 

「そうだな。何を選択するにせよ、トレーナーとはきちんと話しておく方が良い」

 

「はい。……あの、何でここまで良くしてくれるんですか。ほとんど会話らしい会話をしたこともないのに」

 

「そうだな。そこまで深い動機はないな。頑張っている若人を応援したいのと、君たちが持つその素晴らしい夢を呪いに変えて欲しくないからさ」

 

「呪い……」

 

 何を、とは思えない。今日ここで士郎と出会っていなければ、間違いなくそうなっていたと確信があるからだ。

 言葉を噛み締める。決して忘れてはいけないこと。胸の内に深く深く刻み込む。

 

 ・

 

 階段を下っていく生徒を見送る。

 

「聞いていたのかね?」

 

 上階からスイープが降りて来る。この階に来たことは偶然ではない。時間になっても姿を現さなかった彼女の捜索を頼まれていたからだ。士郎なら知ってるかも、とここに来て、そして2人の会話を聞いていたのだ。

 

「うん……」

 

 自分達は過酷な競争の世界に身を置いている。そのことは分かっていたはずだ。だがスイープはその慟哭を聞いたことはなかった。

 もしかしたら、走りに影響を与えるかもしれない。しかし士郎は、スイープが近くにいることを知りつつ、敢えて話を止めなかった。

 勝者がいるのなら、敗者がいる。笑う者がいるのなら、泣く者がいる。

 それを実感した。他者の夢を自分が終わらせてしまうことを。

 

 ──それでも……

 

「それでも、アタシは走るのを止めない。何だったら、負けても笑顔になれるような走りを見せてあげるわ!」

 

「……それは、ただ勝つよりも困難な道のりだぞ?」

 

「望むところよ! それぐらい出来なきゃ、士郎と並べないでしょ」

 

「────」

 

 彼女がそうであると、何度となく思い知らされていたはずなのに、また驚かされる。

 

「じゃああの子も見つかったし、練習に戻るから。行って来るわね」

 

「ああ、行ってらっしゃい」

 

 本当に自分には勿体無いマスターだと思うと同時に、その幸運を噛み締める。答えを忘れずにいられることも、ある意味ではスイープのお陰なのだろう。

 だからこそ、スイープのことも、彼女のことも、得られた答えのことも全てを忘れてしまうことが少し残念だった。

 

 ・

 

 夕食を摂り終え、風呂も済ませ、明日の予習を少ししてから寝よう、と部屋に戻ると机の上に見慣れぬ代物が置かれていることに気付く。と言うより、目立ち過ぎて気付かずにはいられないものだ。

 宝石。

 

「?」

 

 どう記憶を遡っても心当たりがない。となると、誰かが入ってきて置いたことになるのだか、それも不自然極まりない。取り敢えずフジキセキに相談しに行こうと、宝石を手に取った瞬間。

 

《はぁい、見習い魔女さん》

 

「わひゃあ!!?? 誰!?」

 

《わたし? ん〜、貴方の先輩ってところかしら》

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