今週は冬コミに行ってくるので、これが今年最後の投稿になりますね
今年一年お読み頂き、ありがとうございました。
来年も稚作をよろしくお願いします。
ドアの向こうから元気の良い挨拶が聞こえる。
『しろーさーん! こんにちはー!』
「ハルウララか? 入って構わんぞ」
『はーい、失礼しまーす』
傍には心配性な保護者の姿はなく、珍しくウララ1人であった。
まるで彼女を出迎えるかのようなタイミングで、ストーブに置かれたヤカンが音を立てた。部屋の室温と加湿のためには欠かせないコンビである。もちろん、士郎自身には全く必要がなく、誰かがふらりと来ても大丈夫なようにと用意したものだ。因みに放課後だけで大体2、3回は水を補充している。
「外は寒かっただろう。ココアを入れるから、好きなお菓子を持ってソファーで待ってるといい」
「はーい!」
勝手知ったる何とやら。茶箪笥から所有権フリーのお菓子を引っ張り出し、ソファーにて待機。ココアの香りが徐々に近づくにつれ、尻尾と耳が揺れる。嬉しさを隠そうともしないウララの様子に、自然と口角が上がってしまう。
「まだ熱いから火傷しないようにな」
素直に返事をし、フーフーと冷ますウララ。
「それで今日はどうしたのかね」
「あ、そうだった。えーとね、キングちゃんに手作りのクリスマスプレゼント贈りたいなって思ってて。でもウララだけじゃ出来ないから、ウララにも出来そうなのを何か教えて欲しくて」
「君は良い子だな」
「えへへ、そうかな?」
「そう言う考えが出来る自分を褒めてやるといい。さて、肝心のプレゼントだが……。この時期だとやはり防寒具だな」
「マフラーとか手袋?」
「そうだな。初心者が作るのならマフラーの方が良いだろう。ふむ、まだ時間はあるな。では善は急げだ。材料の調達に行こうか」
「分かった! フー! フー!」
「……ゆっくりで大丈夫だからな」
・
商店街まで足を伸ばす2人。手芸店に赴き、かぎ針と極太の毛糸を購入。色はキングのカラーということで、緑を選択。
クリスマス当日までキングには内緒にしたい! と熱望されたため、作業は全て用務員室で行うことにした。
道具と材料を揃えたことで俄然やる気が出たのか、フンスフンスと鼻息を荒くしている。
「こんにちは、ウララちゃんと衛宮さん。お買い物?」
「ライスちゃんだ! キングちゃんに渡すクリスマスプレゼントの材料買いに来たの! 内緒で作るんだぁ」
「そうな、え、内緒?」
「そう! 内緒! ……あっ」
「どどどどうしよう! ライスが声掛けちゃったから……ごめんねウララちゃん」
「違うよ、ウララがうっかりだったから」
「ライスのせいで……」
「まあ時に落ち着け2人とも。ライスシャワー。君は別にこのことをキングヘイローに言うつもりはないのだろう?」
「もちろんないよ!」
「では何も問題はないな」
その言葉に目をパチクリさせるライスシャワー。
彼女の自己肯定感の低さについては聞き及んでいた。不幸を引き寄せ、周りに被害を与えてしまうからだ、と。それが何に由来するものかまでは知らないが、不運の要素がどこにもない今のやり取りでさえ自分のせいだと思ってしまうことを鑑みるに、根が深い問題なのだろう。
「そういえば君とはちゃんと挨拶したことがなかったな。衛宮士郎だ。改めてよろしく」
「ラ、ライスシャワーでふ。……ふええ、噛んじゃった」
・
「さて。先も確認したが、ライスシャワーは今回のことを言うつもりはないのだろう?」
「うん、ないよ」
「ハルウララもそれで大丈夫だな?」
「うん! ライスちゃんは嘘言わないからね!」
「では、そう言うことで一件落着だな。ところで、君は今時間はあるかね? こうしてちゃんと話すのは初めてだからな、親睦を深めるのに少しおやつでもどうかね」
「おやつ?! 食べたい!」
「……ライスも良いの?」
「もちろん。と言うか、君と親睦を深めるためなのだから、君がいなくては意味がない」
「じゃ、じゃあ一緒に食べようかな」
・
場所は変わって用務員室。初めて訪れたライスは、意外なほどに生活感に満ち満ちた空間であることに驚いていた。堂々と名前の書かれたクッションに、私物と思わしき雑誌や漫画、ゲームの攻略本、果てはボードゲームまで置いてある。
「体が冷えているだろうから暖まっていると良い。その間に準備をしておく」
おやつの準備にそんなに掛かるのかな、と思いつつ、ストーブに手を翳す。
「士郎さん。今日はどっちが良い?」
「今日は緑茶だな」
「はーい」
戸棚からピンク色の湯呑みを取り出すウララ。色取り取りの湯呑みやカップが並んでおり、ライスはここが学園で噂されている喫茶店なのだと確信した。
「はい、これライスちゃんの」
と、ウララが客人用の湯呑みをテーブルに置く。そこで気になっていたことをウララに尋ねることにした。
「ここって色々な人が来るの?」
「いっぱいいるよ! スペちゃんに、テイオーちゃんに、セイちゃんに、あとこの間ラモーヌちゃんが来てるのも見た! たまにたづなさんと理事長さんとかも来てるみたいだし」
思ったより豪勢なメンツが常連だった。
「ここを気に入ってる子、結構多いんだね」
「うん! ここに来ると何かほっとするんだ。何でだろう?」
と、首を傾げるウララに釣られて一緒に首を傾げるライス。
「2人揃ってどうした」
「ここに来ると何でホッとするのかなーって。このお菓子は何?」
「柿の羊羹だ」
羊羹自体は食したことは何度もあるし、味のバリエーションもいくつかは知っている。しかし柿と言うのは馴染みがなく、咄嗟に果実だと思い至らないほどだ。
「やったあ! 士郎さんの新しいスイーツだ!」
「……もしかして手作り?」
「意外かね? 味の保証はするとも」
咄嗟に首を振って否定するが、高身長で筋骨隆々の浅黒い肌の男がスイーツ作りが上手いです、と言われてギャップを感じるなと言う方が無茶だろう。
「ライスちゃんのおかげだね!」
「な、何が?」
「士郎さんの新しいスイーツ食べられるの! ライスちゃんと会えたからだよ!」
「そ、そうかな」
「そうだな。ライスシャワーが来なかったら、私の胃袋に収まってただろうな」
「ほら! だからありがとうね、ライスちゃん!」
「そう、なんだ。……えへへ、ウララちゃんが喜んでくれてるなら、ライスも嬉しいかな」
ウララにとっては、特別な言葉ではない、ただ当たり前に感謝を伝えただけかもしれない。しかしそれでもライスには嬉しい言葉だった。向けられ慣れていない感情に、心が温まると共に少しのむず痒さがあった。顔を赤くしながら挙動不審な動きをする彼女を見て、無邪気に笑うウララ。
・
スイーツを堪能したウララは上機嫌なままに、士郎とライスをボードゲームに誘う。自身の運の悪さを知っている士郎は勝負にならんと思うぞ、と断りを入れ参加する。そして宣言通り、最下位を独走。ウララとライスに慰められるのであった。
「さて、いつまで経ってもゴールできない私のせいで妙に時間を食ってしまったな。もうそろそろ寮に帰る時間だろう」
「うう、ライスのせいで」
「それは違うな。私の不運は私のものだ。自分の不運っぷりはよく知っているからな。疑わしいのであれば、シリウスシンボリに聞いてみると良い。目隠ししてコインの裏表を当てようとして、当たるまで20回は掛かったからな」
珍しく引き気味だった彼女の表情はよく覚えている。
「運なんてものは与奪できるものではないのだから、何かが起きても誰のせいでも、誰のおかげでもないのだ。誰かに不幸が起こるたびに自分のせいだと言っていては、ハルウララだって悲しむんじゃないか?」
「うん! だってウララがドジだっただけなのに、ライスちゃんまで悲しい顔して欲しくないもん」
「ウララちゃん……」
「そういうことだ。それにどうせ言うのなら、良いことが起きた時に自分のおかげだ、と言った方が気持ちがいいだろう?」
・
『またいつでも来ると良い』
帰り際に言われたことを反芻するライス。口元は僅かに笑っていた。
「衛宮さんて、良い人だね」
「そうだよ! 商店街でもよくお年寄りの人のお手伝いしてるし」
「そうなんだ……。ウララちゃんが、あの部屋が居心地良いって言ったのも分かるかな」
「じゃあライスちゃんのコップとか湯呑みとか買わないとね!」
「そうだね」
「あと、クッションとか枕とか、専用のお菓子とか」
「……そこまでは大丈夫かな」
・
用務員室のカレンダーを見ている士郎。12月25日の欄には複数の予定が書き込まれていた。
1つは食堂で行われる立食形式のクリスマスパーティ。と言っても学園としての正式なイベントではなく、生徒が自主的に企画したもので、料理の手配なども全て生徒主導で進んでいる。尚、ケーキだけは士郎を中心として生徒達と一緒に手作りすることになっている。当初はそもそも参加する予定ではなかったのだが、士郎のスイーツの腕前を知っている一部の生徒から三顧の礼もびっくりな波状説得攻撃を受けたので合作ということになったのだ。因みに、パーティの参加人数と、ケーキ作りの参加希望者が思ったより多かったことから、多段ケーキを作る予定である。
そして2つ目はケイエスと一緒に訪問した以降も何回か顔を出している小児病棟でのクリスマス会。今度は手品師ではなく、プレゼントを渡すサンタ役としてだ。サンタ服もしっかりと準備してある。
スケジュールとしては午前中の早い時間からケーキ作りを開始し、昼前に一旦中断し、午後イチに子供達を訪問。そして夕方ごろに戻り、ケーキを仕上げ、夜からのパーティに参加、と言うことになる。
忙しいクリスマスなど記憶には全く残っていないが、かつてもこうして忙しくしていたのだろうな、と意外なほど乗り気な自分を顧みてそう思う。
・
翌日から始まる裁縫教室。ソファーに並んで座る、生徒ウララと教師士郎。圧倒的なガタイを持ちながらも、ちまちました作業が妙に似合う男という特性を遺憾なく発揮し、加えて微笑ましく見守る姿により、2人の姿は縁側に並ぶ祖母と孫のようであったという。
「ウララが贈る相手は確定として、士郎さんは誰に贈るの?」
「当日まで秘密だ」
「でもさ、そうすると、ほら」
とスカイが指差すは、椅子に座って背を向け如何にも自分は全く気にしてませんよ、の素振りをしつつ、尻尾と耳が頻りに動いているスイープである。気になって気になって仕方がない様子。
「私はマスター思いのサーヴァントだよ」
「あ、機嫌治った」
もう一つのソファーに寝転び、2人の作業風景を眺めているスカイ。
「それってさ、私でもできるかな」
「マフラーなら比較的簡単にできるぞ。渡したい友人がいるのかね」
「まあ……うん」
「そこの袋に針と糸があるから、糸は好きな色を持ってくるといい」
「ありがたいけど、何でこんなに何色もあるの?」
紙袋の中から毛糸を取り出しテーブルに並べていくスカイの問いかけに、手を止めずに答える士郎。よく自分のことを器用貧乏と言うが、誰と比べてなのか。相手は手が8本ぐらいあったりするのだろうか。
「今の君のような生徒が来ても大丈夫なように、だ」
「……士郎さんて未来予知できたりする?」
「私はできんな。ん、スイープも誰かに贈るかね」
いつの間にかスカイの横にはスイープが立っていた。
「スイーピーは使い魔思いの魔女なのよ!」
ブヒィ! と言う声と昏倒する音が聞こえた。
・
更に翌日。ウララ、スカイ、スイープに加えて意外な生徒が裁縫教室に参加していた。タイシンである。
元々はゲームをしに来ていたのだが、3人の姿を見て思うことがあったようで、遠慮がちながらも早々に自分も、と参加したのである。渡したい相手は3人もいるらしい。慣れぬ作業に眉間に皺を寄せていたが、それを許す気遣いの達人士郎ではない。適切なタイミングで一服を提案。
夕飯に差し支えない程度の茶菓子を披露しつつ、渡したい相手のことを尋ねる。士郎がその手のことで茶化すことはしないと分かっているからか、素直に答えている。その内の1人がハヤヒデだと知ると、ブライアンの注射の付き添いを切っ掛けに野菜嫌いの克服方法について相談を受けているな、と返す。更にもう1人がクリークであると知ると、小児病棟のレクに一緒に行ったな、と話す。タイシンもその話はクリークから聞いており、士郎が大人気だったということも知っている。
「病院のクリスマス会にも参加するんですか」
「サンタとして参加する予定だ。服も用意してあるぞ」
「試着して破いちゃったのは直したの?」
「んぐっ」
隣で聞いていたスカイが呻く。間違いなく似合わないのにさも当然のように用意している真面目さ、しかもサイズが合わずに破くと来た。そんな2段構えの攻撃に吹き出さなかったことを褒めて欲しいと思っていた。タイシンも顔をそっぽに向け肩を震わせていた。
2人のその反応に気を良くしたのか、当時の状況を詳細に語り出すスイープ。
「首から腰まで破けて脱皮みたいになってたわよ」
今度は耐えられなかった。
ウララは作業に集中していたから平気だった。
・
25日の朝。家庭科室にケーキ作りに参加する生徒が集合していた。事前の確認の段階で、予想より人数がだいぶ多かったため、エイシンフラッシュ、サクラチヨノオー、ヒシアマゾン、ヒシアケボノをリーダーにし、グループ分けを行なっている。リーダーに抜擢した生徒の腕前は知っているため、特に心配事はない。
「本日はよろしくお願いします衛宮さん」
手を洗い終わったタイミングでフラッシュが改めて挨拶に来た。
「こちらこそよろしく頼む。予想以上に集まってしまったのでね。申し訳ないが頼む」
「はい、お任せください。頂いたレシピ通りにきちんと完成させます」
「頼もしいな。まあ今日は内々のパーティなのだから、君も楽しめて、皆が怪我をしない程度に監督してくれれば良いさ」
「? でも失敗してしまったら」
「今回は過程を含めて楽しむものだからな。塩と間違えるようなことや、器具でふざけない限りはそこまで気にしなくて大丈夫だ」
「……分かりました。では楽しませていただきます」
「うむ」
生徒は各々の個性が出たエプロンや三角頭巾を身に付けている。一色のシンプルなものから、刺繍入りのもの、ドラゴン柄など。
今日作るのは、イチゴ味のスポンジケーキに、イチゴ味のクリームに、飾り付けもイチゴとイチゴ尽くしのケーキだ。山と積まれたパックをじっと見る生徒を引っ張るヒシアマゾン。
「では怪我だけはしないように始めてくれ」
はーい、と元気のいい返事に満足し、自分が担当するテーブルに向かう士郎。
メンバーはツインターボ、シンコウウインディ、マヤノトップガン、トウカイテイオー、スイープトウショウ。通称、何かやらかしそうな奴ら、である。因みにスイープは固定である。
「ではこちらも始めようか」
「どんなの作るんだ?」
「2段ケーキだ。他のところはな」
そこで言葉を区切り、体を前屈みにし、手で内緒話のジェスチャーをする。
「ここだけは3段ケーキだ。夜の食堂で披露すれば皆も驚くだろう。そのためには騒がずに作り上げなければならない。できるな?」
『わかった!』
しかし湧き上がる優越感を中々抑えつけられず、他のグループを見ては、ふふふ、と意味深に笑っては、何だあいつらと思われる始末。士郎がやれやれと苦笑しているから大丈夫と判断し、とりあえずノータッチ。
因みに各グループのリーダーには流石に話を通してある。
問題児達の扱いの巧さに、ヒシアマゾンは唸った。
・
正午を告げる鐘が鳴る。各グループの進捗状況を確認する。多少のバラつきはあれど、夕方からの作業で十分間に合う。
「では私はこれを食堂の冷蔵庫にしまって、それから外出してくる。4時になったら食堂に集合してくれ」
士郎のグループのケーキはここの冷蔵庫にしまってある。しかも集合時間を早める念の入れよう。
「ではまた後で」
・
正門前でケイエス、フジキセキ、クリーク、オペラオーと合流。
「寒い中待たせてしまってすまないな。温かい飲み物でも買おう」
「いえ、そんな」
「まあまあ、衛宮さんだと断っても断らせてくれないから、ここはありがたく頂こうじゃないか。微糖のコーヒーでお願いします」
「ならボクはコーンポタージュを頂こうかな!」
「じゃあ私はミルクティーを」
「……じゃあお茶をお願いします。ありがとうございます」
手袋越しに温度を感じながら歩き出す。
僅かに髪を揺らす程度の風でも、身を竦めてしまう季節。
「今日は忙しいところありがとうございます」
「構わんよ。私も楽しんでやってるからな。私の魔術で喜んでもらえるという得難い経験もできたしな」
「そうなんだ。手品にすごく便利だと思うけど」
「全くだな」
そういう発想が出来たらもっと楽に生きられたのだろうな、と今になって思う。
「とは言え、使えるのがどこからともなく現れるのと、どこからともなく物を取り出すのと、物を硬くするだけだからな。バリエーションはだいぶ少ないな」
「でも子供達は大喜びですから。それでいいじゃないですか」
「それもそうだな」
・
ケイエスは入院経験から来る共感で子供達に寄り添うことができ、フジキセキは女性的な二枚目の振る舞いで女子人気が高く、クリークは寂しさから来る意地張りを解し甘えさせることが得意であり、オペラオーはその特異なキャラが明るさを齎し、士郎は言わずもがなである。つまり全員人気だった。
ここのクリスマス会は、保護者が買ったプレゼントを病院経由で受け取り、サンタに扮した4人が子供達に渡すというもの。
「……キツそうですね」
サンタ服を着てから妙に胸を張った姿勢になっている士郎を見てクリークが言う。
「市販のものだからな」
「サーヴァント君のその無駄を削ぎ落とした肉体は、アスリートであり、太陽であるボクを以ってしても美しいと感じるよ」
「お褒めにあずかり光栄だな」
レクルームに入ると、今か今かと待ち構えていた子供達に盛大な歓迎を受ける。
程々に構い倒し、プレゼントの登場となる。
白の布袋から取り出し、子供達に手渡していく。目線を合わせ、頭を撫でようとした瞬間
──バリィ!
衛宮士郎2度目の脱皮。完全に真っ二つになったサンタ服。世にも珍しいツーピースの出来上がりである。
子供達はポカンとしていたが、ケイエス達と背後で見守っていた職員達は一斉に顔を背けた。
トグルボタンを外し、左右の腕から残骸を引き抜く士郎。見たことのない脱衣に、肩を振るわせる。
「ムキムキだ!」
「マッチョマンだ!」
「着替えて来るから少し待っているといい」
そう言い残し、掃除用具箱に消える士郎。その間に呼吸を整える。
「待たせたな」
ほぼノータイムで出て来る士郎。バタンと閉め、バタンと開くまでに5秒もない。真顔で全てを熟す士郎の姿は、初撃で笑いへの防御が極端に薄くなっている生徒達と大人達の腹筋への強烈な一撃であった。
そんなハプニングもあったが、子供達が笑っているのだからクリスマス会は大成功だろう。
・
「さて、終わって早々ですまないが、少し予定が押しているので先に戻らせてもらう。君達も気を付けて戻って来るといい」
返事を待たずに霊体化する士郎。普段の生活の中で士郎が人ではないと中々実感することがなく、こうして忘れた頃にやってくる不意打ちには皆もびっくり。
「……このボクをここまで驚かせるなんて、やるじゃないか!」
「そう言えば普通の人じゃないってこと、すっかり忘れてたわね」
「……あ! 初めての時のマジックもコレだったんだ……」
「今度マジックショーに誘ってみようかな」
・
「あ、やっと来た! 士郎ちゃん遅ーい」
家庭科室で手持ち無沙汰に士郎を待っていた面々がブーブーと文句を垂れる。念話で遅れる旨を伝えていたスイープも文句を言っている。
「すまないな。さて、ではクリームを塗って飾り付けをやってしまおう」
ヘラを使って何とか個性を出そうとしていたり、イチゴの切り方で個性を出そうとしているメンバーをよそに、砂糖菓子の人形とチョコペンを見付けたターボは何かを閃いたようだった。
「これターボね!」
器用にチョコペンで自身の名前を書いた人形を指すターボ。
「で、テッペンにターボ」
最上段になるケーキにそっと人形を置く。微笑ましくなるが、同時に絶対それだけでは終わらないと確信があった。案の定、他のメンバーを一瞥すると、やられた! と、戦慄していた。しかもスペース的にあともう1体ぐらいしか置けない。
交わる視線が火花を散らしそうになるが、士郎のインターセプトで何とか作業を優先させることに成功。それでもチラチラと人形の方へ視線が流れている。ターボはご満悦の表情だ。
・
「完成!」
鼻頭にクリームを付けたテイオーが言う。
「まだなのだ! テッペンは譲ってしまったけど、ウインディちゃん達の人形も飾るのだ! ん!」
と、士郎に手を伸ばす。脇の下に手を入れ、持ち上げる。
高校生による抱っこの催促であった。椅子に登れば済むにも拘らず、である。
持ち上げられたウインディはどこに置くか、と思案顔。2段目の外縁部に置くしかないのだから何も差はないのだが。
「次ボク!」
同じように持ち上げられるテイオー。
「ターボの退かしていい?」
「ダメ!」
「ちぇ。じゃあここでいいや」
「次マヤね。でもそんな抱っこの仕方じゃダメなんだからね。もっと大人っぽい抱っこの仕方じゃないと」
「大人向けの抱っこの仕方は知らんなあ」
「お姫様抱っこ!」
「それは将来の王子様にやってもらうといい」
最後にスイープ。何と彼女が持つ人形は、杖らしきものを持っていた。アルミホイルを細く丸め、チョコペンで手の部分に固定しているのだ。
置く場所のことしか気にしていなかったターボ以外の3人は非常に悔しがっていた。
何を張り合っているのか士郎には終ぞ分からなかったが、楽しそうだから気にはしなかった。
「ではこれで完成だな。中々良い出来ではないか」
「写真とってカイチョーに見せよっと」
落とさないように細心の注意を払いながら冷蔵庫にしまう。
「他の2段ケーキが出された後に、大本命の3段ケーキのお披露目って訳だね!」
拍手喝采を想像し、ウンウンとご満悦な5人。我慢しきれずにバラしてしまいそうなのは考えすぎだろうか。
・
そしてパーティ開催の時間となった。食堂組の面々がケーキを準備している間に3段ケーキを取りに来た士郎。ワゴンに乗せ食堂に運搬中。
「あ、いたいた。まだ始まってない感じかな」
シービーが現れた。
「これを運んだら開始だな」
「随分大きいね」
「3段ケーキだ」
「わお」
「ところでシリウスシンボリとメジロラモーヌは来そうかね」
「マルゼンが絶対に引っ張って来るって言ってた」
因みに誘ったのは士郎である。パーティ周知のためにチラシを貼っているところに遭遇した時に2人を誘ったのだ。
『……本気か?』
『……正気?』
と、何故か散々な言われようであったが、ここの生徒なのだから参加しても良いだろう、と言ってチラシを渡したのだ。そして恐らくそれを持っているところをマルゼンに見付かったのだろう。
「それなら参加してくれそうだな」
「……君は自由だね。あの2人をパーティに誘う人なんてそういないと思うよ」
「確かに大人びていることは認めるがね。それでも子供だからな」
「そう言える人も中々いないよ」
・
食堂に入ると、士郎の到着を今か今かと待っていた5人が『ちゅうも〜〜く!』と、皆の視線を集めた。
「この勝負、ターボ達の勝ちだ!」
「見て驚け!」
「褒めて!」
「マヤ達の!」
「3段ケーキよ!」
腕を組んだドヤ顔5人衆。その絶妙な小憎たらしさはともかくとして、3段ケーキは確かに見事な物であり、インパクトもあり、会場を大いに盛り上げてくれた。
1人1段か?! と、トンチキなことを尋ねる生徒もいたが、きちんと皆に行き渡り、舌鼓を打っている。
そして士郎は食器を洗っている。
「相変わらず働き蟻みたいにせっせと働いてるな」
「大人が紛れては楽しめない子もいるだろうからな」
昼間に比べたら枚数は少ないが、それでも一般人からすればそこそこの量である。
「よく来てくれたな2人とも。絶品とはいかないが、楽しんでいってくれ」
小皿にケーキを乗せたシリウスとラモーヌがいた。参加はしてくれたが、流石に喧騒の中心に行く気はないようだった。
「これは貴方が作ったの?」
「3段のならそうだな。とは言え、ほとんどは生徒達が作ったものだ。私は監督として指示を出しただけだ」
「そう……。マックイーンがあまりに褒めるから、少し期待していたのだけど」
「それは光栄だな。いずれ機会があるだろうから、その時に誘わせてもらおう。いやでなければ、君も来るかね」
「……考えといてやるよ」
あそこだけ別空間になってない? と、遠巻きに見る生徒達。そこへ普通に近づくのはシービー。
「君ってさ、何したら慌てるの?」
「そうだな…………。朝来た時にこの冷蔵庫が壊れたら慌てるな」
確かにそれはそうだけど、そうじゃない。
「うーん……。じゃあはい」
差し出すはフォークに刺さったケーキ。
「良いのかね。ではありがたく頂こう」
何の気兼ねもなく、むしゃり、と頬張る。
「美味しかったと伝えておいてくれ」
「うーん、手強い」
・
食事が粗方済むと、いそいそと、もしくはコソコソと、あるいは堂々とプレゼントの交換が行われ始めた。当然その中には士郎主催の編み物教室の生徒達がいる。
「キングちゃん! これマフラー。士郎さんに教えてもらって編んだんだよ」
「ウ、ウララさん……!」
感涙に目を濡らす者。
「ん。これ」
「タ゛イ゛シ゛ン゛〜〜!!」
慟哭じみた感激の声を上げる者。
「フラワー……これ」
「わぁ! こんなステキなプレゼント貰っちゃって良いんですか?!」
値千金の満面の笑顔を返す者。
「はいこれ」
「ありがとう。ではこちらも」
プレゼント交換と言うよりは物々交換のような遣り取りをする者達。
何れにせよ、それらの全てがデジタルの脳を木っ端微塵にした。
・
パーティが終わり、生徒も寮に戻り、より閑散とした校舎を歩く士郎。サンタとしての最後の業務があるのだ。
「メリークリスマス。ケーキはいるかね」
『待ってました!』
遅くまで労働する2人へのプレゼントだ。