スイープ、エミヤを召喚する   作:日高昆布

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明けましておめでとうございます!

コミケ以外全く時間が取れず遅くなってしまいました…

今回から聖蹄祭編で続きものとなります
楽しんでいただけたらと思います


その23

 夏休みの思い出がまだ新鮮さを失わない中、また新たな大型イベントが顔を覗かせる。『聖蹄祭』である。

 毎年春秋に行われるファン大感謝祭の1つであり、春の大感謝祭は体育祭、聖蹄祭は文化祭として位置付けられている。売り子などスタッフとして生徒が働くことから、普段は遠巻きにしか見る事のできないウマ娘との距離がグッと縮まる一大イベントとして毎回驚異的な来場客数を記録している。

 少人数からでも応募することが可能であり、クラスやチームだけではなく友人同士でも出し物を企画することができる。飲食店や自分の特技を活かした出店、展示物など、定番なものから大規模なもの、色物など、毎年実に多彩な出し物が企画される。

 

 

 そんな応募要項が記載されたプリントを教室で見ているスイープ。配布されてから休み時間の度に見ており、普通であれば何かやってみたいの? と聞く所だが、そんな気軽に尋ねられる雰囲気ではなく、ずっと難しい顔をしているのだ。そのまま放課後になり、結局声を掛けられぬまま教室を後にしてしまうスイープ。

 寮に戻らず、三女神の近くのベンチに腰を下ろす。折りもせずに持っているプリントに目をやっては、憂いを多分に含んだため息を吐く。それを聞けば間違いなくどうした、と尋ねる使い魔の姿はない。と言うよりは、意図的にいない場所に来た、と言うのが正しい。これは自分で決めなくてはいけない事だからだ。しかし、それを決断することがスイープには怖かった。もし、と言う未来を想像するだけで視界が僅かに滲んでしまう。

 

「はあ……。どうしよう」

 

 進展を望むべくもない後ろ向きな言葉が漏れる。

 誰にも聞かれずに消えていくはずの言葉。しかしそれを捉えた者がいた。

 

「ちょわ!!」

 

「びっくりした!」

 

 バクシン的委員長、サクラバクシンオーである。2階の窓からスイープの姿と雰囲気を見たバクシンオーは、居ても立ってもいられずちょわちょわ言いながらバクシン、ではなく爆走して来たのである。

 

「何やら深刻なお悩みの様子! どうですか、このバクシン的委員長にお話ししてみませんか! いえ! お話ししましょう!」

 

「……あ、じゃあ、うん」

 

 相手のテンションに合わせて促すよりも、息を吐かせずハイテンションで畳み掛けることが有効な時もある。バクシンオーがそこまで考えているかは不明である。

 

「……アタシ、聖蹄祭で劇をやってみたいって思ってるの」

 

「ふむふむ。どんな内容なのですか?」

 

「お伽話とかじゃなくて、ある人の人生についてなの」

 

 訥々と話し始めるスイープ。

 

「でも、その人の人生は辛いことがいっぱいあって、本人に言ったら皆が辛くなるから絶対にダメって言うの。だから内緒でって思ったんだけど、嫌われちゃわないか怖くて……。それで、迷ってて……」

 

 腕を組み、瞑目しながら聞いているバクシンオー。

 

「なるほど。因みにスイープさんは何故その方の人生を劇にしようと思ったのですか?」

 

「……その人は、いつか、アタシのことも、ここで過ごしたことも、皆のことも忘れちゃうから。だから、どう生きてきて、ここに辿り着いたのかを皆に覚えていて欲しいの」

 

「何故です?」

 

「そうすれば、その人がアタシ達のことを忘れちゃっても、皆が覚えていてくれたら、その人は確かにここにいて、アタシ達と過ごしたんだって証になるから」

 

「ふむふむ。因みに、その方はスイープさんから見てどんな方ですか?」

 

「……野菜は残すなってお皿にいっぱい盛ってきたり、注射はイヤって言ってるのに無理矢理連れてったりする。でも、困ってたら絶対に助けてくれるし、アタシが知らないことを沢山教えてくれるし、アタシの話を真面目に聞いてくれる。だから、グランマと同じくらい尊敬してるし、同じくらい好き」

 

「素晴らしい人柄なのですね。まるで私のようです」

 

「え、あ、うん」

 

「ならば大丈夫でしょう。相手のことを心の底から思っての嘘や隠し事なら嫌いになったりなんて絶対にしませんよ。私が保証しますよ」

 

「……そうかな」

 

「そうですとも! お二人の関係性は分かりませんが、話を聞いただけで、その方に対するスイープさんの深い愛情を感じます。それは間違いなくその方にも伝わってます。だから大丈夫です」

 

「……そうかも」

 

「そうです!」

 

「そうよね!」

 

「よし!」

 

 と、己を奮起するように気焔を吐き、立ち上がるスイープ。揺れていた瞳は、力強い意志を宿していた。

 

「ありがとう!」

 

「委員長として当然の事をしたまでです! もしその劇に委員長の役があったら、是非声を掛けてくださいね!」

 

「……委員長力が違いすぎるから、難しいかな」

 

「なんと! 高過ぎる委員長力が裏目に出るとは……」

 

 

 講義室にて、教職員だけでなく、沖野達トレーナー、士郎のような用務員までもが集められ、聖蹄祭に向けた説明会が行われていた。壇上ではたづなが手慣れた様子で司会を熟している。理事長は何故か船を漕いでいた。

 ほとんどの職員はまたこの時期が来たなあ、と特に感慨にふけることなく聞いているが、新任達は各地の伝統的な祭りにも勝るとも劣らない知名度を誇るこの行事に運営側として参加することに、些か緊張しているようだった。

 

「そう言えばお前は外国暮らしが長いから、初めての参加で運営側を体験するのか」

 

「そうだな。しかし生徒から話は聞いてはいたが、とんでもない規模だな。学園のイベントとは思えない来場者数だな」

 

「ウマ娘と直に会話できる数少ない機会だからな。老若男女のファンが全国から大集合ってわけよ」

 

「しかし、当日のことを考えると素直に凄いとも言いづらいな。警備員もかなりの人数を配置するようだしな」

 

「まあそうなんだけどな。……でも何か、去年よりだいぶ多いような」

 

「そうなのか」

 

 すると、たづなの説明がちょうどその部分に差し掛かった。

 

「お気付きの方もいるかもしれませんが、今年はある事情により警備員を大幅に増員しています」

 

 勿体ぶった言い方に、室内が少し騒めく。

 

「ある国の王族の方が来場されます」

 

 滅多に聞かない単語に、意味を咀嚼し損ねたのか、奇妙な静寂が生まれた。

 

「お知らせしたのは情報共有のためで、対応はこちらで行いますので、皆さんは特に何かをする必要はありません。間違ってもアプローチはしないで下さいね。もし何か粗相をしましたら、喜んでその方の首を差し出しますので」

 

 それまでの笑顔と差異はないはずなのに、心なしか壇上が軋んでいるような気がした。

 そして一番やらかしそうなトレーナーに視線がチラホラと向けられている。

 

「ん……? おい、衛宮はそんな奴じゃねえぞ!」

 

「貴様のことだ、たわけ」

 

 

 職員会議が無事終了し、用務員室に引っ込み、月次の提出書類を作成していると、内線が音を立てた。

 

「もしもし。こちら用務員室」

 

『お疲れ様です。たづなです』

 

「お疲れ様。書類なら明日には完成するぞ」

 

『いえ、用件は別でして。あの〜終業後に喫茶店エミヤに理事長と伺いたいんですけど。まだやってますかね』

 

「ふっ」

 

『な、なんで笑うんですか!』

 

「いや、失礼。是非来てくれ。甘味とコーヒーを用意して待っておこう」

 

『全く! ちゃんともてなして下さいね!』

 

 

「なるほど、王族への対応で残業続きだった訳か。道理で会議中に船を漕いでいる訳だ」

 

「うむ。王族関係者との打ち合わせなぞ、流石に緊張したが、それ以上のびっくりな存在に遭っていることを思い出してな。そうしたら緊張も何のそのだったな」

 

「ほう、経験豊富だな」

 

「ああ〜〜きくぅ〜〜」

 

「……感心しているが、衛宮殿のことだからな?」

 

「?」

 

「衛宮殿の自己評価にはほとほと困ったものだな。まあ、ともかく。そちらとの面談は大丈夫だったのだが、その後の色々な手配がな、ひじょーーに大変であった」

 

「だろうな。万が一でも起きたら国際問題だからな。ところでどこの国のウマ娘なのかね」

 

「アイルランドだ」

 

「アイルランドか……」

 

「ああ〜〜ほぐれるぅ〜〜」

 

 国の名前を聞いた途端に、士郎にしては珍しい喜怒哀楽のどれとも言えない曖昧な表情を浮かべた。

 

「おや、何か縁のある国なのかね」

 

「いや、国自体には無いのだが、そこで有名な英雄とは色々と因縁があってね」

 

「何と。著名な英雄と因縁とは、衛宮殿もやるではないか(?)」

 

「あぁ〜〜きもちいいぃ〜〜」

 

 甘味を摘みつつお茶で喉を潤しながら士郎と話す理事長と、ゴリゴリの肩を解してもらい言語野が退化しているたづな。夜間営業時の喫茶店エミヤは疲れた大人の憩いの場に変わるのだ。

 カチコチになっている肩が、ここ最近がどれだけ激務であったのかを雄弁に物語っている。余計なお世話と理解しつつも、プライベートは大丈夫なのだろうかと心配になってしまう。

 

「あぁ〜〜……。…………あ、そうだ。忘れるところでした。聖蹄祭に限らず大きなイベントの時に用意していた資材が変な所に移動してたり、作り置きの食べ物がなくなったりしてるって報告が毎回数件あるんですけど、これって、もしかして幽霊だったりします?」

 

「今の時点では何とも言えんな。彼女らもテンションが上がってしまい悪戯をしているのかもしれないし、もしかしたら在校生の仕業かもしれん。マンハッタンカフェに確認しておこう。それで、もし彼女らの仕業だった場合、止めてくれ、と言う頼み事かね」

 

「お願いできますか?」

 

「構わんよ。……そうだな、彼女ら用に何か用意しておけば、当日は大人しくしてくれるだろう」

 

「もし作られるなら、なるべく見付からないようにお願いしますね。匿名で衛宮さんに食事処をやって欲しいという投書がありまして」

 

 匿名の差出人が容易に想像できるため、忠言をありがたく受け取ることにした。

 

「次は腰を」

 

 流石に際どいので、どうやって気付かせようか。

 

 

 当日近くになるまでは特に聖蹄祭と関わらないだろうと考えていたのだが、料理上手と言うことは既に周知の事実となって久しく、且つ面倒見の良さもあちらこちらで発揮しているため、講師としての依頼が何件も舞い込んで来た。そこでの評判が更なる依頼を呼び、予想外に忙殺されていた。そんな日々でもスイープとは対面であったり、念話であったりと歓談しているのだが、彼女のクラスの出し物を聞いていないこと気付いた。

 

「ヒミツ! あ、気になるからって聞き回ったりしたらダメだからね」

 

「そうかね。では当日の楽しみにしておこう」

 

「――――うん!」

 

 そんなやり取りをした数日後。

 普段ここで自由気ままに過ごしている生徒達も、出し物の準備のためか、ここ数日は訪れなかった。静かであったり、騒がしかったり、訪れた生徒によって用務員室の雰囲気はガラッと変わるが、来客のない静寂と言うのは長期休暇以外では珍しかった。

 ストックしてある菓子類も、全く減っていない。1人だけで食べる気にならないのだ。とは言え、賞味期限の問題もあるから差し入れとして知己の生徒がいるクラスに持っていくことにした。

 賞味期限の確認作業と一緒に、ドアの向こうでオロオロしながらウロウロしている生徒の分のお茶とおやつも用意しておくことにした。

 こちらから声を掛けると驚かせてしまうと考え、ノックを待っていたがドアの前を左に右に行き来するだけで一向に入ってくる気配がなかった。仕方がないのでこちらから声を掛けることにした。

 

「入って来るといい」

 

 あれだけウロウロしていてバレていると考えていなかったのか、全身が直線になる程にビックリしていた。

 

「失礼しま〜すぅ……」

 

 バレていたことの気まずさなのか、萎れた耳と尻尾で入って来たのはキタサンブラックだった。

 

「お茶が冷めてしまいそうだったのでね」

 

「えへへ、すみません」

 

 同じ側の手足を動かしてソファーに座るキタサン。妙に鯱張った動きである。そこまで緊張される理由が皆目見当がつかない。こんな状態でいきなり本題を促すのは良くないなと思い、取り敢えず共通の話題を出すことにした。

 

「スイープは」

 

 ガタンガタタッ!

 元気か、と尋ねようとしただけなのだが、彼女のことが本題だったらしい。却って聞きにくくなってしまった。

 

「……あのっ!」

 

 予想外の一手を指してしまったことで士郎まで口をモゴモゴしていると、ことここに至って漸く覚悟を決めたキタサンが口を開いた。

 

「今年の聖蹄祭で、スイープさんを中心に、ある劇をやるんですけど! スイープさんを怒らないで、ううん、嫌わないでください!」

 

 思いの丈をぶつけるように、全身を強張らせ握り拳を作りながら叫ぶキタサン。

 

「……ああ、先日聞いた時に妙な反応をしていたのはそれか。分かった、約束しよう」

 

 あっさりとした返答に、目をパチクリとさせるキタサン。

 

「何をやるのかとか、聞かないんですか?」

 

「君ほどではないにせよ、私もスイープとはそこそこの付き合いだからな。彼女が悪意で行動しないことは分かっている」

 

「もちろんです、スイープさんはそんなこと絶対しません!」

 

「それに私に怒られたり嫌われたりする可能性があるとスイープも自覚していて、それで君は居ても立ってもいられずにここに来たのだろう?」

 

「……そうです。それに、士郎さんに何か言われたら全部自分のせいにしろって。だからあたし……」

 

 強張っていた心身が弛緩していくと共に、スイープの悲壮な決意を思い出す。ジワリと目尻に涙が浮かんだかと思うと、堪えきれずに頬を伝ってしまう。

 

「スイープが友達思いの友人を持てて何よりだ。まあ何をするのかは詳しくは聞かんよ。……これは本人には言わないで欲しいのだが、私は彼女の言葉に救われているのでね。彼女が嫌うことは兎も角、私が彼女を嫌うことはないから安心するといい」

 

 茶箪笥の引き出しから未使用のタオルを取り出し、キタサンに渡す。

 

「少しここで休んでいくといい。目が赤いままではスイープも心配するだろうからな」

 

「は゛い゛……」

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