スイープ、エミヤを召喚する   作:日高昆布

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お待たせしました……
高卒の子の新人研修資料作りで時間を取られたり、劇の描写が難産だったりで気付けば2ヶ月

前回の前書きでもお知らせしましたが、今回の話を以て一旦更新停止となります。
短編の別作品挟んで、また再開したいと思います。その時はXとか活動報告で告知したいと思ってます

たくさん読んで頂き、また感想も頂けて嬉しかったです

ありがとうございました。


その25

「この混雑ぶりも懐かしいですね」

 

「おや、君はここで働いていたのか」

 

「トレーナーをやってました。……色々あって現場を離れましたが」

 

 目は口ほどに物を言う。生徒を見詰める眼は、僅かな痛みを抱えている。現場を離れたことにはそれなりの理由があるのだと、簡単に想起させた。

 

「そうかね。なら君はウマ娘のことが相当好きなんだな」

 

「……え?」

 

 全く想定していなかった返答に、思わずキョトンとした顔で疑問の声を上げてしまう理子。そんな彼女をよそに、準備を手伝った出店でお土産を購入する士郎。両手の袋は既に間食を通り越し、1食分も通り越し、2食分くらいになっていた。寄る予定の店はまだあるので、最終的には3食分くらいにはなるだろう。

 

「如何かな」

 

「え、あ、では」

 

 タコ以外にも様々な具材を使用したタコ焼き。当初は食い合わせ最悪の食材も含めたロシアンルーレットの案があったが、絶対士郎に怒られると言うことで検討の余地なく却下されている。なので、ワサビとかマスタードを塗りたくったタコと言うことになった。

 ちょうど空いていた飲食用のテーブルに腰を下ろす。

 

「火傷しないようにしっかりと冷ますんだぞ」

 

「……」

 

 子供扱いしてないか、と訝しむが、ファーストコンタクトの件もあり、問い質す気にはなれなかった。肯定されたら何と反応すれば良いのか分からないからだ。ほれ見ろ、と言われないようしっかりと冷ましてから口にする。

 それを見届けてから食べ始める士郎。

 

「……何故、私がウマ娘を好きだと思ったのですか」

 

「違うのかね」

 

「違い、ませんけど」

 

 表情に乏しいと言う自覚があるだけに、何故こうも簡単に言い当てられたのかと気になる。

 

「目は口ほどに物を言うと言うだろう。そう言う顔をしていた」

 

 また言い当てられた。

 

「エスパーみたいですね」

 

「こう見えても長生きなのでね」

 

「……そう言う冗談を言うんですね」

 

 突然顔が強張り咽せる。どうやら当たりを引いたようだ。購入店から「士郎さんの彼女に当たっちゃった! 怒られる!」と悲鳴が聞こえた。

 

 ・

 

「次はどちらに向かうのです?」

 

「体育館で行われる劇だ」

 

 理子も手元のパンフレットを開き、演目を確認する。

『Fate/stay night』。題名だけで詳しい内容については書かれていない。ファンタジーものだろうか。

 何度も行き来した道を歩いて体育館に向かう。

 日本人離れした体格をしているのに、縫うように人混みを抜けていく士郎に置いていかれそうになるハプニングがあったが無事体育館に到着する。大盛況という訳ではないが、それなりの観客が並んでいた。入り口でネイチャが案内を行っている。

 

「お、衛宮さん……と、かか彼女さん??」

 

「学園の関係者で、案内を任されているだけだ」

 

 ここに至るまでに知己の生徒に見られる度にそう言われたのか、呆れを含んだ苦笑を浮かべている。

 

「あはは、ほら私ら多感な女学生だし」

 

「そういうものかね?」

 

「そう言うもんですよ。あ、衛宮さんとお連れさんの席はこちらでーす」

 

 席の番号が書かれたメモと、劇についての冊子を渡す。

 

「ありがとう」

 

 席に向かう2人をそのまま見送ろうとしたが、思い直したように士郎を呼び止める。手招き。

 

「詳しくは言えないんだけどさ、スイープのこと怒らないであげて」

 

 とだけ言い、案内へと戻っていくネイチャ。首を捻りながら、改めて席へ向かう。

 それを見たネイチャは携帯を取り出し、スイープに連絡を入れる。士郎がちゃんと来てくれるか、と非常に心配していたからだ。尤も来たら来たで別の心配事が出てくるだけなのだが。

 

 ・

 

 着席し、一息吐いた理子は渡された冊子を開く。大雑把なストーリーと、登場人物の簡単な紹介が書かれている。

 

「『正義の味方を目指した男の生涯』。王道な内容ですね。どうされました?」

 

 冊子を開いたきり、神妙な表情の士郎に声を掛ける理子。

 

「……いや、登場人物に珍しい英雄がいるな、と思ってな」

 

 そう言えばそちらはまだ見てないな、と改めて冊子に視線を落とす。主人公は『少年』とだけ書かれており、日本人名は基本的に彼を中心とした紹介がされている。

 メジャーな英雄が名を連ねる中、『クー・フーリン』と言う見慣れぬ名前。どこの神話の英雄なのか見当もつかない名前である。後は『無銘』と書かれた英雄も目を引いた。

 

「クー・フーリンとはどちらの英雄ですか?」

 

「アイルランドのケルト神話に出て来る半神半人の英雄だ。クー・フーリンはクランの犬と言う意味で、他にもク・ホリンやキュクレインの名前がある。武器は海獣の骨から作られたと言われているゲイ・ボルグと言う槍で、投擲すれば必ず敵に刺さる、と言われているそうだ。槍以外にもルーン魔術を修めていたな」

 

「お詳しいのですね」

 

 自然で風雅な口調であった。理子ではない。彼女は予想以上の情報がスラスラ出て来たことに、目を丸くしている。先に座っていたウマ娘が言ったのだ。

 仕立ての良い服飾にそれを自然体で着こなす品位。今の話題に食い付いた事といい、彼女が噂の王族であることはすぐに分かった。とは言え、それをここで口に出すつもりはない。SPが向こう側の1人しかいないことからも、不必要に目立ちたくないと言う意図が見える。それに開幕直前に騒ぎを起こしたくもなかった。

 

「少し縁があってね」

 

「あら、どんな縁ですの?」

 

「槍でど突かれたことがある」

 

「……ふふふ、うふふふ。可笑しな方」

 

 優美でウィットなジョークを挟んだ小粋な会話をしているが、反対側に座るSPは戦慄していた。在野に、しかも日本と言う平和な国にこんな達人がいる事に、だ。もしかして学園側が密かに手配したSPだったりするのか、とまで思っていた。成人男性に対して、勝てるイメージが湧かないと言う初めての経験。これが終わったら学園に確認を取らなくては、と固く決意する。

 

 ・

 

 照明が落ち、軽い注意事項の説明が終わると劇が始まった。

 地獄のような惨劇の中で全てを無くしながらも助け出された少年の視点から話は始まった。

 少年を助け、家族として迎えると言った男は歳の割に老けた印象を与えた。しかしそれ以上に、自らを魔法使いと名乗る不思議な男であった。

 その老け顔から少年に爺さんと呼ばれたり、少年を置いて長期旅行に行ったり、魔法を教えてもらったりと、やはり不思議な、しかし彼らなりの家族関係を築いていた。

 

 ・

 

 月の綺麗な夜だった。揃って縁側で涼んでいると、唐突に男が言った。子供の頃正義の味方に憧れていた、と。言外に諦めたと言っていることに、少年が咎めるように問うた。男は残念ながらね、と肯定した。ヒーローは期間限定で大人になってしまうと名乗るのが難しくなる、と。そして自嘲するように、そんなこともっと早くに気付けば良かった、と言った。

 男の答えに納得したのか、それじゃしょうがないなと言う少年と、その言葉を自分に言い聞かせるように呟く男。

 

「しょうがないから、俺が代わりになってやるよ」

 

 終ぞ男が口にすることができなかった夢を、少年が叶えると言った。世界平和を志しながら、掌から全てが溢れてしまった男にとってそれは紛れもなく救いだった。

 

「そうか……。ああ、安心した」

 

 そう言い残し男は眠るように目を閉じた。

 

 ・

 

 ……想像以上のものが出てきましたね。過去の英雄が出てくるならファンタジーものかと思ってましたが、現代劇だとこうも重くなるのですね。最後に父親が救われたのは良かったと思いますけど、少年がどんな成長をするのか少し不安ですね……。

 

 ・

 

 少年は成長し、高校生になった。

 男との約束は少年の生き方そのものとなっており、一歩間違えれば死ぬような魔術の訓練を毎日こなし続けていた。

 一方で成長を実感できず焦燥感を抱き、男が言った「誰かを助けることは、誰かを助けないこと」という言葉に、目指すべき正義の味方としてのあり方に苦悩していた。

 

 ・

 

 男がまだ生きていた頃から付き合いのある一番気安い関係の姉代わりや、自宅で食事を共にするほど仲の良い部活の後輩といつも通りの朝を迎える。

 少年はとにかく人のために働いた。壊れたものがあれば西に走り、困っている人がいたら東に走った。そんな少年を体よく扱き使う者もいたが、尊重してくれる友人もきちんといた。

 正義の味方を真剣に目指していることと、半人前以下の魔術師であること以外は普通の少年は当たり前の日常を過ごしていた。

 そんな少年の日常は、夜の学校で目撃した人の形をした人外の戦いを目撃したことにより急速に変わっていった。

 万能の願望器聖杯を巡る、7人の魔術師とその使い魔たる7騎の英霊の戦い。その名を聖杯戦争。

 命の危機を前に、アーサー王という最優の英霊を召喚した少年は、紆余曲折を経て一時的に休戦状態となった同級生の魔術師の少女から聖杯戦争の事を聞く。一般人が犠牲になるのであれば、参戦しないという選択肢は少年の中に存在しなかった。

 こうして少年は自らの意思で、戦争へと足を踏み入れた。

 苛烈を極める戦いの中、徐々に少年の異常な在り方が顕になっていく。自身の命を軽視どころか無視した無謀な行動。アーサー王や少女はその異常性に気付き、何度もやめるように言ったが少年が変わることはなかった。

 あの大災害で全てをなくしながら生き残ってしまった少年にとって、死の間際に養父とした正義の味方になると言う約束は自身の全てであり、何がなんでも叶えなければならないのだ。それこそ自身の命を度外視してでも、だ。

 

 ・

 

 戦争は最終局面に至り、少年はそこで聖杯が呪いに汚染されていることを知る。そしてそれがあの大災害を引き起こした事を。

 呪いに飲み込まれながらも、強靭な意思で生還を果たした少年は、アーサー王と協力して聖杯を破壊し、戦争に終止符を打った。

 戦争が終わっても少年は日常に完全に戻らず、少女を師とし、高校を卒業と同時に英国へと渡った。

 表の世界とは全く異なる文化に翻弄されつつも、少女や仲間と共に切磋琢磨し、いつしか青年へと成長していった。奇妙ではあるが、そこには確かに青春があったのだ。

 だからこそ誰も未だ正義の味方の夢を諦めていない事に気付けなかった。

 青年は師を、仲間を、家族を全て捨て、単身で戦場へと赴いた。

 超常の力を有する青年は、力なき者達を救い続けた。

 賞賛も名誉もなく、ただひたすら義務のように救い続ける青年を、やがて人々は恐れ始めた。それでも青年は止まらなかった。

 そして決定的な出来事が起きた。己の力では及ばない脅威から人々を助けるために、青年はある対価と引き換えに地球という巨大な意思と契約し更なる力を得たが、より人から外れた青年を、人々は怪物として恐れた。

 怪物の末路はいつだって決まっている。それでも青年は己の後悔を抱かなかった。

 

 ・

 

 青年が対価として差し出したものは、自らの死。不死の存在となり、時空を超越し人類という種を守護し続けることが、課せられた使命。

 それに終わりはなく、青年の目指した正義の味方からはかけ離れたものだった。人類のために人の犠牲を容認することに絶望し、青年の精神は磨耗していった。正義の味方という夢と、それを抱いた自分を否定させるに十分すぎ、やがて残酷な決断をさせた。自身を消滅させるために、過去の自分を亡き者にする。

 膨大な時間を経て、青年は聖杯戦争に召喚された。しかし何の因果か、青年を召喚したのはかつての師であった。

 袂を分つその瞬間まで青年を止め続け、自分では止められないと最後は涙で見送った師。

 胸に去来する激情は何か。それをおくびにも出さず気障ったらしく

 

「では凛と。ああ、この響きは実に君に似合っている」

 

 とだけ言った。

 

 ・

 

 結局、青年の目的が叶うことはなかった。かつての自分との戦いに敗れたからだ。

 少女との契約を破棄したことで十全の力を発揮できなかったから。

 少年の体にアーサー王の鞘があり、瀕死の傷も回復してしまうから。

 探せばそれらしい敗因は見付かるだろう。

 しかし結局のところ、少年が言った「この夢は間違いなんかじゃない」という言葉に答えを得てしまったからだ。

 

 ・

 

 戦争は終わった。

 青年の正体を知った少女は、もう一度契約を持ち掛けた。たとえ自分が死ぬまでの間だけでも、終わりのない地獄から青年を救いたかったのだ。

 青年はそれを受け入れなかった。再び正義の味方になるために、立ち上がれたから。

 

「答えは得た。大丈夫だよ遠坂。俺もこれから頑張っていくから」

 

 ・

 

 ハッピーエンドとは言い難い終わり方だが、何か感じ入るものがあったのだろう。惜しみない拍手が送られた。ちらほらと啜り泣く声も聞こえた。

 果たして文化祭の出し物として正しかったのかは判然としないが、大成功ではあった。

 

 ・

 

「学生の出し物と侮ってましたが、すごい内容でしたね……」

 

 近場のベンチで一服していると、理子がしみじみと言った。

 

「どうすればあの青年は止まったのでしょうね」

 

「……難しい質問だな。あれだけ頑固ではちょっとやそっとの話し合いでは変わらんだろうし、それこそ殴り合いでもしなければ止まらんのではないか」

 

「……自分の立場に置き換えてみて、もし彼のような教え子がいたらどうするか考えてみたんです」

 

「止められそうか?」

 

「無理に抑えつけたらもっと凄いことになる気がします」

 

「ふっ。同感だ。ならどうする」

 

「分かりません。分かりませんけど、ちょっとやそっとの話し合いで無理なら、もっと沢山話し合うしかないかと」

 

 缶コーヒーで喉を潤すと、理子は不意に薄く笑った。

 

「どうした」

 

「いえ、厳しく律することがトレーナーとして正しい在り方だと思っていたのですが、まさか劇で少し改めようと考えるとは思わなくて。おかしいですよね」

 

「いいのではないか? 観たことで何かを感じたのなら、作った生徒も冥利に尽きるだろうさ。それに、あの男も少しは救われるのではないか?」

 

「……そうですかね。そうなら、いいですね」

 

 ・

 

 くぐもった着信音。士郎のものだ。通知を確認し、立ち上がる。

 

「すまない。少し所用ができた。1人で待たせてしまってすまないが、よければ用務員室で休んでいてくれ」

 

「そう、ですね。流石に私一人で回るのもアレですし」

 

「名前の書いてある物と、仕事道具を触らなければ好きにして大丈夫だ」

 

 鍵を渡すと、少し早足にその場を後にする士郎。少しソワソワしている姿に珍しいなと思うが、そこまで長い付き合いでないことを思い出す。出会った回数はまだ2回なのだ。それだけしか会っていないのに、色々と話してしまったことに少し気恥ずかしさを覚える。話し上手な上に聞き上手な相手が悪いと言うことで納得することにした。

 

 ・

 

 屋上へと続く階段の下で、生徒が屯している。皆一様に、階段を見上げ、不安げに耳と尻尾が揺れている。

 背後からの足音に気付いたキタサンが振り返る。

 

「士郎さん!」

 

 まるで救世主が来たかの如く喜色満面となり、士郎の元に集まる。そのことに少し驚いた表情を見せる士郎。

 

「スイープは屋上か?」

 

「はい。少し一人にさせてって言って」

 

「そうか。手間を掛けさせたな」

 

「大丈夫です! それよりスイープさんのこと、嫌わないであげて下さい」

 

「似たような事をナイスネイチャにも言われたな。心配しなくとも、怒ったり嫌ったりしないとも。では行ってくる」

 

 万が一にも逃げられないため、霊体化して向かう。

 

 ・

 

 眼下ではまだまだ聖蹄祭が続いており、来場客でごった返している。その中で何人が先の劇を見に来てくれたのか、と思う。やったことを間違いだとは思っていない。しかし折角の楽しい気分を害してしまっていないか不安になるし、そもそも士郎に何の断りも入れてないのだ。終わった後も顔を合わせることが怖くて、回ろうと言う誘いも断り一人になっている。

 

「スイープ」

 

 声を掛けられたこと自体に驚きはしたが、士郎がここにいると言うことには驚かなかった。いずれはちゃんと話をしなければと言うことも分かっていた。しかしまだ整理を付けられていなかったスイープの心はあっという間に決壊した。

 

「し゛ろ゛おぉ! ごめんなさい──!」

 

 一気に溢れ出した涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら謝り、士郎にしがみつく。それっきりしゃくり上げとてもではないが話せないスイープを、労わるように撫でる。

 

「士郎は、いつか、ここのこととか、アタシのこととか、全部忘れちゃうって、聞いたから……。アタシ達も忘れちゃったら、士郎が、本当にいなくなっちゃうから、それが嫌で……」

 

「スイープ……」

 

「でも、勝手に、やって、ごめんなさい……!」

 

「ありがとう」

 

「うううううぅぅぅ」

 

 ドアの向こうから覗いていたキタサン達は、そっとその場を離れた。

 

 ・

 

「そう言えば、どうやってあれだけ知ったんだ。この間の聖杯戦争について話したことはなかったはずだが」

 

 胡座の士郎を椅子にし、未だ鼻を啜るスイープに問いかける。それに対し、ゴソゴソとポケットを弄り、何かを取り出す。小さな巾着袋。更にその中に絹に包まれたものがあった。

 

「これを見せれば、分かるって」

 

 差し出された掌にあったのは、紅い宝石。忘れるはずがない。忘れられるはずがない。それがここにある。その事実は士郎の胸を驚愕で満たしたが、口から溢れたのは何故か『大笑い』だった。

 

「はっはっはっは。そうかそうか。喜べスイープ。君が出会ったのは、いずれ本当の魔法使いになる女性だ」

 

「……あの人が、凛さん?」

 

「そうだ。人間だった頃の師で、ランサーに殺されかけた私を助けてくれたのも彼女だ」

 

「そうなんだ。あの人が」

 

 手の中の宝石を弄りながら、反芻するように呟くスイープ。太陽に透かしてみると、全く傷が見えない透き通った紅い空が見える。すごく綺麗だった。

 

「凛は元気だったか?」

 

「うん。あっちの士郎も元気だって」

 

「そうか。ああ、安心した」

 

 その言い方が、士郎の養父を思わせ、不安になり、無意識に手を握っていた。

 

「どうした」

 

「……こ、この宝石、士郎欲しい?」

 

 気恥ずかしさを誤魔化すため、咄嗟に宝石を話題にしたが、良い誤魔化し方だと自画自賛した。それでも不安を拭いきれなくて、握ったままなのだが。

 

「いや、それはスイープが持っててくれ」

 

「大事なものじゃないの?」

 

「元々私のものではないしな。それに、それは凛が私を呼び出せた触媒でもあるからな。だからスイープが持っていてくれ。いつか私が帰ってしまった後でも、それがあれば喚べるかもしれんからな」

 

 今まで敢えて触れてこなかったが、定命のスイープと、不老の士郎とでは、どうあっても一生を共にすることはできない。いつかは必ず別れることになる。

 だからその時になってスイープがなるべく悲しまないように、と。

 

「……もう返してって言っても返してあげないからね。見せてあげるだけだからね」

 

「二言はないさ。大事にしてくれれば、私も凛も文句は言わんさ」

 

「分かった。大事にする」

 

 いそいそと絹で包み、巾着袋に仕舞い込み、ポケットに入れる。

 ホッと勢いを付けて立ち上がり、振り向いて士郎に尋ねる。

 

「もう目、赤くない?」

 

「ああ、大丈夫だ。祭りを回るなら、事情を知っている子達に謝っておくといい。ずっとスイープのことを心配していたからな」

 

「う……。大丈夫って言ってたのに」

 

「嘘が上手くないということさ。良いことだ」

 

「ふう。まあ、心配かけちゃったなら謝るけど。士郎はこの後どうするの」

 

「客人を待たせてるのでね。接待に戻るさ」

 

「そ。じゃあまた明日ね」

 

「ああ、また明日」

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