本当にありがとうございます! これからもよろしくお願いします!
※先日の感想返信の際、書いてる最中にどんどん追加されている事に気付かずにページ移動していたせいで結構な人数を飛ばしてしまってました。もしご不快に思われた方がいましたら申し訳ありませんでした。
※調理師免許について作者の知識不足で多数の方にご指摘を頂きました。これからは事前にしっかり確認するようにします。また、読者の方からの提案で「目立つから」と言う記述に変更させて頂きました。誤字指摘からだったので名前が分からないのですが、ここで感謝を申し上げます。ありがとうございました。
正式に契約を受諾された事に興奮冷めやらぬスイープは門限が迫っている事を忘れ、士郎に自分が何故魔法使いを目指したのか、尊敬するグランマの事、教わった魔法の事などをこれでもかと話した。あまり数の多くない親しい友人には話した事もあるが、スイープの思い描いていた魔法の証明そのものである士郎に打ち明けるのは彼女にとても大きなカタルシスを齎した。
キリのいい所で切り上げさせようとしていたが、グランマへの想いの強さと大きさを示すように話が終わらない。絶対に不満を露わにするだろうからと気を遣っていたが、これ以上好きに話させては門限を確実に破ってしまうため中断させた。
「スイープ、私は時間を知らないが門限は大丈夫なのかね?」
「もんげん? あ、門限……」
慌てて携帯を取り出し時間を確認し、あっ、と分かり易い声を上げるスイープ。時刻は18時25分になろうとしていた。門限破りの常習犯ではないのだが、仏の顔の限界を越える瀬戸際にはいるのだ。凄みのある笑顔で詰められる光景が頭を過ぎる。青い顔で士郎を見上げる。
「まあ今回に関しては言わなかった私の責任もあるから間に合うように送ろう」
・
時刻は18時28分。寮長のフジキセキは、今日一日大丈夫だろうかと気にしていたスイープが帰らない事が心配になり、外へ向かおうと靴を履いていた。もしかしてまたどこかで泣いてるんじゃ、と。
扉を開けると、アーチャーが立っており、背中にはポカンとしたスイープが背負われていた。降ろされても尚、肩を掴んだ形のままで固まっている腕。
「スイープ?」
フジキセキの呼びかけにハッとするスイープ。
「──アレ寮に着いてる。何かさっきまでジェットコースターに乗ってた気がするんだけど」
2人の視線が士郎に向くが、惚けるように肩をすくめただけだった。
「門限に遅れそうだったので急いだだけさ。では私はここで失礼するよ」
背を向け霊体化しようとした所で、スイープが手を取っていた。自分のその行動に戸惑っているようだった。
「どうした?」
「えっと、その、明日、朝一番に挨拶に来なさい!」
言うだけ言うと返答を待たずバタバタと寮内に走って入って行く。
「熱々だね」
「私がいなくなっていないか不安なのだろう。まあそうさせてしまったのは私なのだがね」
「それで来るのかい?」
「まさか。これでも正義の味方を目指してるのでね。顔を出さずに且つ機嫌を損ねない声掛けくらいは出来るさ。ああ、それと今朝の事だが礼を言いそびれていたな。ありがとう」
「可愛い子猫ちゃんが泣いてたからね。もう泣かせちゃダメだよ」
「……善処しよう」
もう泣かせてるな、と悟るが難しい立場も知っているから追求はしなかった。
「ではこれで失礼する」
煙のように消える。
「……」
そんな光景を見て、自分にも使えたら手品のネタが増えるな、と思った。
・
土曜日だからいつもよりは早めの仕事仕舞いをしている理事長とたづな。
ノック音。
「入りたまえ!」
「失礼する」
「む、アーチャー殿か。トレセン学園はどうだったかね」
「女子中高生の元気さと旺盛な好奇心をこれでもかと堪能したよ。それと直向きな姿勢と言うのは、何であれ良いものだとも思ったな」
「結構っ! 楽しんで貰えたなら良かった! それでもしかしてその報告のためにわざわざ出向いてくれたのかね」
そう問うと、どこかバツの悪そうな顔でいや、と言った。
「今朝の今ですまないが、期限は決まってないが、スイープと
劇的な反応であった。いそいそと椅子を降り、駆け寄り、手を取った。ブンブンと手を振り全身で喜びを見せ、見上げる目はこれでもかと輝いていた。
「感謝っ! 圧倒的感謝っ!」
浮かれ気分のままに室内を走り回る理事長。
「私からもお礼を言わせて下さい。ありがとうございます」
深々と頭を下げるたづな。それだけ生徒思いなのだろう。この世界に来てから初めて見る程の笑顔であった。
「しかし何故翻意して下さったのですか」
「簡単に言えばスイープに口説かれたからだな」
まさかの回答にキョトンとした後、堪えきれないようにクスクスと笑い始めた。
「さぞかし素敵な口説き文句だったんでしょうね」
「そうだな。少し休んでも良いか、と思える程にはね」
一頻り喜び終えた理事長は机の引き出しから鍵を取り出した。
「アーチャー殿の住まいの鍵だ。今夜から早速使ってくれ」
「もう用意出来たのか。仕事が早いな」
「当然っ! 生徒のために残ってくれ、そして労働の意思まで示してくれた者を野宿させる訳にはいかんからな」
「ただまだ書類の作成が完了してなくて。それとその事でお尋ねしたいのですけど、名前はどうしましょうか」
住居、就労のどちらにも必要なのだが、流石にアーチャーと言う名前は無理があり、後にも先にもない部分で頭を悩ませていたのだ。
「衛宮士郎だ。私の本名だ」
『え?』
ハモる驚きの声。それも無理はない。何せ褐色の肌に白髪の偉丈夫と来れば、まず日本人だとは思わないだろう。しかしよくよく顔を凝視すると、顔付き自体は日本人のもの。
じっと見つめたまま動かない2人。鷹の如き鋭い目付きが解れ、柔和なものになると、意外と幼い顔付きをしている事に気付く。
「……そう熱烈に見つめられても困るのだがね」
そう言われてたづなは自身が何とはしたない行為をしていたのかと赤面する。理事長はハーフなのかと尋ねていた。
「いや純粋な日本人だ。魔術の反動でこうなったのだ」
「な、なんと……! 魔術とはそんなに酷なものなのか」
「と、ともかく、今後は衛宮さんと呼ばせて頂きますね」
「うむ、よろしく頼むぞ士郎殿」
「ああ、よろしく頼む理事長、たづな」
・
契約出来た事が嬉し過ぎて寝不足なスイープ。寝ぼけ眼のまま洗面所に向かうスイープ。その道中、手引き歩行されているアグネスタキオンと介護者のアグネスデジタルと遭遇。割と頻繁に見る光景なので特にリアクションせずに横を通り抜けようとした瞬間。
──おはよう、マスター。起きてるかね
「ひゃあ!」
「可愛い悲鳴ゴチです!」
「朝からどうしたのかねスイープ君」
「ど、どこにいるのよ士郎!」
──ただの念話だ。朝イチに挨拶しろと言われていたので、こうして挨拶しているのさ
困惑顔からみるみる笑顔に変わっていくスイープ。まさに花が開くような表情の移り変わりに、デジタルはニッコリと微笑んでいた。
──殊勝な心掛けね! ……これで届いてる?
──ほう、流石だな。これが出来れば遠方にいても話せるから、何かあれば使うと良い。ではな
──待ちなさい! 今日は何するの?
──街に出る予定だ。最後にもう一度確認しておきたい事があるからな
──アタシも着いて行って良い?
──……いや午前中は1人で回らせてくれ。午後は街の案内を頼みたい。学園に戻って来たら連絡するから待っていたまえ
眠気はすっかり吹き飛んでいた。
「あの〜、士郎さんてどなたですか?」
「アタシの使い魔、アーチャーの本名よ!」
意気揚々と言い切ったかと思うと、いきなり自身の失策を自覚したような焦りを見せた。
「アタシだけの秘密にしとくつもりだったのに! タキオン、デジタル! 誰にも言っちゃダメよ!」
「はいぃ! 墓場まで持っていきます!」
「ふーむどうしようかねえ。そうだ、私にもアーチャー君と話をさせてくれれば呑もうじゃないか」
「む〜〜……士郎が良いって言ったらだからね」
「それで良いとも! いやー楽しみだねえ!」
科学とは正反対の存在ではあるが、同時に完全な未知の存在である士郎に非常に強い興味を持っていた。棚から牡丹餅で接触の機会が巡って来た事にテンションが上がったタキオンはあっはっはとマッドな高笑いをしながら、デジタルの介助の下洗面所に向かっていった。
頬を膨らませながらその後を追いかけるスイープ。
・
「フジさん! 午後はお出かけして来るから! はい外出届」
「はい、確かに。アーチャーさんとかな?」
「そうよ! 街を案内してあげるの!」
スイープがその気質や本人なりの考えやスタンスから、良くも悪くも典型的な大人への反骨心が強い事をフジキセキは知っている。それが原因で教員やレース関係者との関係が上手くいっていない事もだ。無邪気に笑っている時より、眉間に皺を寄せている時の方が多いくらいなのだが、アーチャーと出会ってからは年相応の笑みを見せる事が多くなっており、それを純粋に嬉しく思っていた。
「それはそれは。とても重大なお出掛けじゃないか」
「その通りよ! ご飯食べたらじっくり練るわ!」
・
一方の士郎は午前中に街に繰り出し、一番高い建造物の屋上で魔力を練ると言うとんでもなく強引な方法で魔術・魔法関連の組織が少なくともこの街には存在しない事を確認していた。霊地として上等なこの街に無いのだから、この世界には存在しない、もしくはあったとしても小規模ですら無いと言った所だろう。
屋上から飛び降り路地裏で実体化する。
時刻は昼を過ぎた所。午後はスイープに街の案内をしてもらう予定だ。既に隅々まで把握してしまっているが、主観の混じった案内もより深く知るために適している。特に飲食店や生鮮食品を取り扱うスーパーや個人店は常連客の評価を聞くのが一番だ。
商店街を通ると、あちらこちらでトレセン学園のポスターを見る。中でも特定の生徒が応援されているのか彼女が載ったモノをよく見る。見た目麗しい事も相俟って、アイドルのようにも見えて来る。
休日の喧騒を通り抜け、学園が近付いて来ると、それまでとは別種の賑やかさが聞こえて来る。
スイープに連絡し校門の脇で待つ。
心地良い風が頬を撫で、髪を揺らす。
「────」
流れる雲をまじまじと見るなど、果たしていつ以来だろうか。暇な時間を享受する事も、生前含めてなかっただろう。随分と生き急いでいたものだと今更ながらに思う。
「アーチャー!」
「本名を教えただろう」
「あれはアタシとアンタだけの秘密なの。いい? 誰にも言っちゃダメよ」
「それは悪い事をしたな。理事長とたづなには伝えてしまってる」
「ええー?!」
「住居や就労の手配をするのにアーチャーでは難しかったのでね」
それが至極当然と言う事も分かっているからか、文句自体は出て来ていないが、膨れっ面で不満を露わにするスイープ。
「仕方ない。ならば寝物語代わりに私が会った事や戦った事のある英霊達の話をしてやろう」
と言うと、コロリと表情を変えるスイープ。つい今し方まで抱いていた不満が初めから無かったかのような変わり具合だ。今聞かせろと言うスイープを躱しつつ街へと向かう。
・
「ここがトレセン生のほぼ全員がお世話になってる商店街よ。後ここがアタシがよく行く薬草屋さんよ」
初手からスイープの色が存分に出たチョイスだった。そんなニッチな店があるのかと驚くが、案内されたのはハーブティー屋。確かに薬草として使われる種類があるのは事実だが、呼び方に魔法使いとしての拘りを感じ密かに笑う。
促されるまま入店。店主とはある程度顔見知りなのか、スイープが男連れで来た事に目を剥いていた。
士郎を商品棚まで案内し、自慢の知識を披露するスイープ。
「これはローズマリーで冷え性に良いの。こっちはラベンダー。抗菌作用があるからちょっとした傷に良いのよ。アンタも怪我したらちゃんと言いなさいね。こっちはキャットニップ。解熱剤として使えるの」
「ほう、好きこそものの上手なれだな。大したものだ」
「今度ご馳走してあげるから楽しみにしてなさい」
・
「ここはたい焼き屋さん。餡子が一杯で美味しいの」
「北海道の小豆か」
・
「ここはパン屋さん。ドーナツが美味しいの」
「愛媛のきなこか」
・
「ここはお肉料理が美味しいレストランよ」
「自家製ハンバーグか」
・
「ここは八百屋さん。次行くわよ」
「……」
・
「ここは福引やってる所。人参一杯とか温泉のチケットが貰えるの」
「あの生徒、あれほどの量を抱えて、しかも生人参をそのまま齧るのか……」
・
ふと、車道を見るとウマ娘がかなりの速度で走っていくのが見えた。
「ああ、あそこはアタシ達専用のレーンだから」
得心する。確かに自転車より速い彼女達が歩道を走れば危険極まりない。このレーンだけでなく、人とウマ娘の差異によって生じた未知の常識がいくつもあるはず。そこはその都度確認していくしかないだろう。
「あれ、スイープと、えっとアーチャーさんだっけ」
背後の声に振り返る。赤茶色のツインテールのウマ娘。
「こんにちはナイスネイチャ」
「あれ、自己紹介してましたっけ」
「商店街を歩いてるとそこいらで見るのですぐに覚えたよ」
「あ〜あはは。貼らないでって言ってるんですけどね」
「ふむ……」
照れ隠しや謙遜から来る否定ではなく、自尊心の低さから来ているように見受けられた。まあまだ心身共に未熟な10代の少女が大々的に応援している、と言われて自身の糧に出来るかと言われると難しいだろう。
「謙遜も過ぎれば卑屈になる。卑屈が過ぎれば私のようになるぞ」
「と、言いますと?」
「皮肉屋の現実主義者、もしくは理想主義者だ」
「こ、拗らせてますね」
「その通り。年長者の老婆心だと思って頭の片隅にでも置いておきたまえ。それと、私の名前は衛宮士郎だ。呼び方は好きにすると良い」
「わか、え、日本人だったんですか?!」
「ちょっとご主人様の許可なく教えないでよ!」
「おっとっと、デートの邪魔すると申し訳ないからネイチャさんはここらで退散しますよ」
ヒラヒラと手を振りながら人混みの中に消えていくナイスネイチャ。片腕にぶら下げた買い物袋が妙に似合う少女であった。
・
両手に甘味を持ち、道を闊歩するスイープ。街案内は商店街食べ歩きツアーに様変わりしており、今日はそれで終わってしまいそうだった。彼女のアスリートとしての食事事情を知らないため、夕飯に響かない程度にな、と程々の注意にしておいた。
「一個なら上げるけど」
そう言い串団子を差し出すスイープ。
「私は飲食は必要ない。気持ちだけありがたく貰っておくよ」
「でも食べられない訳じゃないんでしょ。楽しむって決めたんだから食べなさいよ。それにアタシだけ食べてても寂しいじゃない」
「────」
その言葉に昔日の面影を見た。未熟者だった嘗ての自分と、黄金の彼女を。
「ではお言葉に甘えるとしよう」
「どう?」
「ああ、とても美味いな」