※毎度の誤字脱字の指摘もありがとうございます。
※来週から職場が変わるので、投稿間隔が今より開くかもしれません。なるべく週一投稿はしたいと思っていますが、ご了承下さい。
ティーンエイジャーの持つテンションと、ウマ娘の持つ外見に似合わぬ食欲と、そして部屋を出てからずっと見て来る視線を味わいつつ過ごしたランチタイム。
部屋に戻る時も付いて来る2人に、ゴーストの方はともかくとして、何故生徒の方にまでこうも観察されているのか、と首を捻る。食堂の喧騒に紛れて容姿を確認したので、理事長かたづなに聞くしかないか、と考える。
最後の1台の修理もつつがなく終えると、内線で完了を報告する。
『ええ?! もう終わったんですか?』
「深刻な故障は無かったからな。不安なら確認してもらっても構わんぞ」
『それは大丈夫です。ただまさか1日掛からずに終えてしまうとは思わなくて。この後のお仕事が。あ、取り敢えずストーブを元の部屋に戻して頂いて良いですか。見取り図はこれからお持ちしますので』
「分かった。では待っていよう」
程なくして扉がノックされる。随分早いなと思いながら扉を開ける。急がせてしまったかと思ったが、たづなは息を全く切らせていなかった。意外に思いつつ、招き入れる。
「手間を掛けた上に急がせたようだな」
「いえいえそんな。お待たせする訳にはいきませんから。こちら校舎内の見取り図です」
「確かに」
用紙を受け取り一通り眺めると、件の生徒の事を思い出す。
「生徒の事で少し聞きたい事があるのだが、時間は大丈夫かね」
「生徒さんの事ですか? 何か粗相でもありましたか?」
しそうな生徒の心当たりには枚挙に遑がない。鬼の副会長に悪戯を仕掛ける命知らず、制御不能のアンタッチャブル、驀進、アウトローの頭etc.
「いや何かあった訳ではない。長い黒髪で左側の目を隠していて一房の白髪が所謂アホ毛のようになっている生徒なのだが」
アホ毛なんて言葉知ってるんだ、と思いつつ、何かトラブルがあった訳でない事が分かり胸を撫で下ろす。士郎の言った特徴に当て嵌まる生徒を脳内で羅列していく。そして1人の生徒が思い浮かんだ瞬間、あ、と声が出た。
「もしかしたらマンハッタンカフェさんかもしれません」
「ふむ。断定出来る決定的な何かがあるような言い方だな」
「その、これは私も直接見た事はないんですが、よく見えない誰かと会話してる所を目撃されてるようでして。それで幽霊と話しているとかイマジナリーフレンドがいると言われてまして。それでもしかして、と思ったんですが」
「ならばどこかで霊体化してる所を見られたのだろうな」
「ええ?! では彼女は本当に霊感を持ってるんですか?」
「恐らくな」
「霊感とか霊能者って本当のものなんですねえ」
誰もが一度は信じ、そしてフィクションとして忘れていく存在。それが真の存在である事が、本物の幽霊から太鼓判を押されたのだ。何か感慨深いものがあった。
「授業が終わった後、彼女はどこにいる?」
「トレーニングしてるとなると流石に分かりませんけど、カフェさんは特例で私室があるのでそちらに伺うのが良いかもしれませんね」
「そうか。ならすまないが同行してもらえるか。私1人で行っては警戒されるかもしれんからな」
「良いですよ。ついでにストーブを運ぶのもお手伝いします」
立場から来る責任感か、生来の性格か、士郎の生涯の一部を聞いてしまった故か、たづなの中で彼は人類を守ると言う重大な立場にありながらスイープのために留まる事を決めてくれた凄まじい人格者と言う存在になっていた。そのため雑用をさせる事に躊躇いがあった。本当ならば労働に就く必要もないと思っているぐらいだ。
そう言った思いから、頼まれ事をされたら軽重に関わらず迅速にこなし、雑務をしていたら少しでも手伝う事を決めていた。
「それには及ばんよ。ただでさえ忙しい立場だろうに」
「いえいえ衛宮さんにこんな雑用なんてさせられませんよ」
よっこいしょ、とストーブを台車に乗せていくたづな。
「ふむ。美人秘書がただの一職員に肩入れし過ぎて嫉妬されても困るのだがな」
ガシャーンと底面を台車の縁にぶつけ、盛大な音が鳴る。油の切れた人形のようなぎこちない動きで振り向いた顔は真っ赤になっていた。
「なななななな」
そんなたづなを見て士郎は薄く笑って言った。
「と、この通りオレは別に人格者でもなければ聖人君子でもない。スイープ並にとは言わんが、理事長ぐらいにはコキ使ってくれて構わんよ」
「────。コ、コホン。確かにその通りみたいですねではストーブはお任せしますのでまた後ほど」
ワンブレスで言い切りそそくさと部屋を出ていくたづな。
「ああ、また後でな」
・
──スイープ、今大丈夫か?
──もう授業は終わってるから大丈夫よ。
──意図しない形で私の正体がバレたかもしれん。どうも霊感を持ってる生徒がいたようでな。
──霊感……。霊媒師スイーピーも良いわね。
──そう言う訳でこれからたづなと一緒にその生徒のところに訪れる予定だ
──悪霊をビシバシ祓って、霊障に悩まされてる人を華麗に助け、え、これから行くの?
──そうだが。
──今日はトレーニングがあるんだけど……。まあ良いわ。後日アタシがアンタのマスターだってカッコ良く紹介しなさいよね。
──……善処しよう。
・
嘗ては理科準備室であり、現在はマンハッタンカフェとアグネスタキオンの共同私室になっている部屋。シックとサイエンスと言う相反する色を持つ部屋で、それぞれの主人がそれぞれの領域にいた。
コーヒーを嗜むカフェは一見すれば普段と変わらぬ様子だが、年がら年中顔を合わせているタキオンは何となくいつもと雰囲気が違う事に気付いていた。実益と趣味を兼ねた実験に没頭しつつ、上手い事話を聞き出して何やかんや解決して、恩を着せられないかなあと考えていた。
「ん?」
ビーカーの中の得体の知れない色をした液体に波紋が起きている。そんな反応はしないのにと思っていると、それが部屋の揺れから起きている事に気付く。同居人に視線をやると、あっちこっちに困り顔を向けていた。
「おいおいカフェ〜。少しばかり『お友達』が騒ぎすぎじゃないかね。溢れたら責任を取って実験に付き合ってもらうよ」
「嫌です。……『あいつが来る』?」
まるで計ったようなタイミングで扉がノックされた。すると揺れがピタリと止む。
『すみませんたづなですが、カフェさんはいらっしゃいますか?』
「あ、はい……。います」
『少しお話があるのですがお時間よろしいでしょうか』
「…………はい、大丈夫です」
『ありがとうございます。では失礼しますね』
ガラガラと開く扉。そこにいた人物を見てカフェは目を見開いた。たづなの背後に控えている褐色の偉丈夫。お友達が畏怖する程とんでもない存在感を持った幽霊だと思っていたら、実体を持っており尚且つここで働いていると言う二重三重に度肝を抜かせられた存在がそこにいた。
「おやおやおやおや使い魔君じゃないか! スイープ君から聞いて来てくれたのかい?」
「ん? いやすまないがそれについては何も聞いていない。今日はマンハッタンカフェとそちらにいる彼女に用事があって来たんだ。私は衛宮士郎と言う。既に怖がらせてしまっているようだが、君達に危害を加えに来た訳ではない。その事を謝罪しに来たんだ」
士郎とカフェの視線は食器棚の上に向いている。猫みたいな所にいるんだな、と見えない2人は思った。
「マンハッタンカフェ。君はどこかで霊体化していた私を見ているのだろう?」
「……は、い。なのに、今日、トレーナーさんと話しているのを、登校中に見かけたので」
「それで気になり昼の時に見に来たのか」
「! 気付いてたんですか」
「2人共見えていたからな。まず先にも言ったが、驚かせてしまいすまなかった。私は既に死人なので広義的に見れば幽霊である事に違いはない」
「ええ?! そうなのかい?!」
当事者よりも先に高めのテンションで反応するタキオン。
それを無視して話を続けるカフェと、それに倣い取り敢えずスルーする士郎。
「でも、普通の幽霊ではないですよね?」
「その通りだ。詳細は省くが色々あって精霊に押し上げられた存在なのだ。それを感じ取れたので彼女に警戒させる事になってしまったのだろう」
「そう、だったんですね」
士郎の話は意外なほどにストンと腑に落ちた。正面から相対してみて圧倒的な力と存在を感じつつも、そこに邪なものが一切無いからだろう。その証拠に棚の上で竦み上がっていたお友達が士郎に近寄り回りながら浮遊していた。
「君も随分と怖がらせてしまったようですまなかったな」
ブンブンと顔を振ると、恐る恐る士郎に手を伸ばしペタリと触れる。幽霊として力のある彼女はテンションが上がった時に現実に干渉する事が出来るようになるのだが、士郎相手ならばそうならずとも触れる事が出来ていた。その事が嬉しいのか楽しいのか、先程まで警戒する猫状態だった事を忘れたように戯れついている。
「……楽しそうにしてますね」
「私のような生者と死者が合わさった存在などまずいないからな。珍しいのだろう。さて私の用件は以上だ。もし何か幽霊関係で困り事があったら言ってくれ」
「ありがとうございます。怖がっちゃってる子達にも、優しい人だって伝えておきます。……それにしても、何故貴方のような凄い存在がここに?」
「偶然に偶然が重なった結果召喚されたのだよ」
「それがスイープさん、なんですね」
「その通りだ。では私はこれで失礼するよ。放課後の歓談を邪魔してすまなかったな」
そう言って踵を返そうとした士郎をタキオンが急ぎ呼び止める。
「待ちたまえよ使い魔君! まだ私の用件が終わってないよ!」
「おっと失礼した。そう言えば何か用件があるのだったな」
「碌でもない用事だと思いますから無視して良いと思いますよ」
辛辣な物言いに友人では無いのか、と首を傾げつつ取り敢えず用件を尋ねる。
「スイープ君によれば君は「ダン!」と飛び上がり、「ビュン!」と空を駆けるそうではないか!」
先日の門限ギリギリになり近道して送った時の事だろう。限定的に口の上手いタキオンにより煽てられたスイープが話してしまったのだ。その事を士郎は知る由もないが、ありありと想像できた。事情を知らない者に言った訳ではないから良しとする事にした。
「是非その身体能力を見せて欲しいのだよ! 人型で我々ウマ娘に匹敵、もしくは超越する身体能力を持つ存在はこの世にないからねえ」
「ふむ。見せる事自体は構わんが、見てどうするのだね。何かの参考になるとは思えんが」
「それは分からない。参考になるかもしれないし、ならないかもしれない。だがそこに未知の存在があるのだから見ない手はない」
その目に狂気的な執着を見た。好奇心や興味のような安易な考えから来る提案ではないようだ。彼女を甘く見ていた訳ではないが、競技者としての矜持と種族としての本能を、そしてタキオンだけの強烈なエゴを垣間見た。
「では許可を得られた事だし早速」
「仕事があるので今日はダメだ」
「ええぇ〜〜!」
そして年相応、なのかは怪しい我儘も。
「頼んでる立場なんですから、弁えて下さい」
「都合が付いたら連絡をするからそれまでは大人しく待っていたまえ」
「なるべく早く頼むよ使い魔君!」
・
「おかげでスムーズに済んだ。礼を言う、たづな」
「いえこちらこそ、彼女の事をもっと知っていれば事前に教えられたのにすみません」
「では感謝と謝罪で相殺だな。しかし短期間でこうも逸材と出会うとはな」
聖杯の下駄なく十全な英霊の顕現を維持できる魔女に、霊体化を視認出来る霊感少女。どちらも今までお目に掛かった事がない。もし生前の世界にいたとしたら、健全な人生を歩めたか怪しいほどの逸材だ。
「今一度生徒達の内申書を読み直した方がいいかもしれませんね」
「仕事を増やしてしまったか?」
「いえいえ良い機会です。もしかしたら秘密にしてる事で窮屈に思ってる子がいるかもしれませんし」
若いのに仕事熱心だな、と感心する。
階段前で止まる。士郎はストーブを届け、たづなは理事長室に戻る。
「では私はここで。また後でお会いしますけど」
趣味が入っている疑惑のある理事長によるレース場整備。当然だがそれにはたづなも同行しているのだ。
朝も早くからいて、夜も遅くまで残業。2人ともきちんと休めているのか心配になる働きぶりだ。
「ああ、また後でな」
・
見取り図を確認しながらガラガラと台車を押していく。ちらほらとすれ違う生徒と挨拶をしながら目的地に向かう。部屋に近付くにつれ、中の喧騒が聞こえて来る。ノック。
『はーい』
生徒が返事をする。
「修理に出していたストーブを届けに来た。開けても良いかね」
『大丈夫でーす!』
「では失礼するよ」
ガラガラと若干ぎこちない引き戸を開けると見知った顔が3つあった。
「お、衛宮じゃねーか」
「アーチャーさんじゃないっすか」
「こんにちは士郎さん」
「二つ名ならぬ三つ名! 面白え!」
そして何故か冷や汗を流しながら不敵な笑みを浮かべた銀髪で長身のウマ娘がいた。