スイープ、エミヤを召喚する   作:日高昆布

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みんなー!ちょっとゴルシの事疑いすぎじゃないか?!



※いつもたくさんの感想と誤字脱字の指摘ありがとうございます


その6

「衛宮士郎で渾名がアーチャーだから3つは無いな」

 

 サラリとしたツッコミで対応すると、台車ごと室内に入り、指差しされた場所にストーブを下ろす。

 

「もう直ったのか?」

 

 その背中に沖野が声を掛ける。

 

「大した故障ではなかったからな」

 

「ゴルシちゃんチョップをこれでもかと喰らわせたのに直らなかった頑固者を直しちまうとは……」

 

「やたら凹みがあると思ったが君の仕業か」

 

 この学園に来てからまだ短く、顔見知りはともかく性格を把握している生徒の数は少ない。しかしそんな士郎であっても、この銀髪の生徒が学園の中でも有数の変わり者なのだという事は分かった。

 

「て言うかスカーレットとウオッカは知り合いなんだな。後アーチャーって何だ?」

 

 知り合いには挨拶と言う至極当然の事をしたのだが、どこで出会っていたのか、名前の由来など何も考えていなかった。因みに本名を知っているのは、呼び名が2つある事でスイープがしょっちゅう呼び間違えているからだ。

 

「事前に案内された時に一部の生徒と顔合わせしたのでな。極短い時間だったから私は彼女らの名前を知らないのだがね」

 

 言われてから面と向かって自己紹介していない事を思い出す。スイープ経由で話を聞くので一方的に知り合い感覚になっていたらしい。流石に過去の事は口にしていないが、ポロポロと断片的にお漏らししているので、寮生が知っている士郎像はバラバラだったりする。

 

「俺はウオッカっす」

 

「ダイワスカーレットです。よろしくお願いします」

 

 両手の親指で自身を指差しドヤ顔百面相している銀髪のウマ娘をスルーして話を続ける。

 

「ああ、よろしく。で、アーチャーは私の特技が弓技だからだ」

 

「ほお。アーチャーなんて渾名付くぐらいだから相当なんだろうな」

 

「「ビュン!」て飛んで「バスン!」て刺さった! って言ってたな」

 

「なるほど。全く分からん」

 

「紙の的であれば意図しなければ中央から外さない程度だな」

 

 士郎の前を練り歩きながら何度も行ったり来たりする銀髪のウマ娘。

 

「へえ……。それってメチャクチャ凄くないか?」

 

「数少ない特技だからな」

 

「無視しないでぇ!」

 

 触れるか触れないかギリギリの手振りをも意に介さないどころか瞬きさえしない士郎に、とうとう銀髪のウマ娘が音を上げた。跪き、床をペシペシと叩いている。

 

「お、ゴルシが負けた」

 

「ちくしょー! ゴルシちゃんの渾身のパフォーマンスが効かないなんてぇ!」

 

「人生経験は豊富なんでね」

 

「アタシはゴールドシップだ! 覚えてろー!」

 

 台車に飛び乗ると床を蹴り号砲も鳴っていないのにスタートを切った。

 

「こんなーくーつじょくーはーじめてー!」

 

 リズムに乗せて妙な事を口走りながら見事な荷重移動で廊下に出て行くと、やたらと再現度の高いエキゾースト音を口にしながら走る。そしてエアグルーヴとヘッドオン。

 

「げえ! エアグルーヴ!」

 

「ゴールドシップ、それは衛宮さんが使ってる台車だろう! 何故貴様が持ってるんだ?!」

 

「捕まってたまるかぁ! 回避い!」

 

 ガッシャーン!!

 

「アタシの愛車が!」

 

「元気な子だな」

 

「今の見てその感想って凄いな……」

 

 

 その後は特に問題なくストーブを返却し終えた。行き来の距離がかなり長かったため、気付けば5時半を回っていた。そろそろトレーニングも終わりに近付いている頃だろうと判断し、レース場に向かう。

 大体が引き上げ始めていたが、まだ走っている生徒も見られた。彼女らを目で追っていると、スイープもそこにいる事に気付く。走っている姿を見るのは初めてであったが、小柄な体格ながらも中々どうして堂に入っていた。集中しているからか、士郎には気付かずにコーナーを抜けていった。

 蹴り上げられた芝生と土が宙を舞った。数え切れぬ程の陥没痕は、生徒達が刻み付けた言葉無き雄弁な主張だ。

 

「お疲れ様です」

 

「労賚ッ!」

 

 下手に生徒達に近付き過ぎて萎縮させないためか、少し離れた所で落ち合った。

 

「てっきりロードローラーで直接来るかと思っていたが」

 

「やろうとしたが却下されたのだ!」

 

「当たり前です。いくら徒歩より速いからって限度があります」

 

 ならばどこにあるのかと言うと、真反対の柵の外にあるレース場に似合わぬ簡素な作りの納屋の中だろう。

 

「あれも自費か?」

 

「当然ッ!」

 

「大した度量と行動力だな」

 

 皮肉ではなく、純粋な賞賛である。何が彼女をそこまで駆り立てるのかは知らないが、ともすればその何かに殉じるのではないかと思う程だ。

 

「ん」

 

 話していたから気付かなかったが、スイープが場外にいた。トレーナーか、それに準じた立場の女性と話している。しかしどうにもあまり良い雰囲気とは言えなかった。女性が背を向けているため表情は窺えないが、言い合いと言うよりは先の走りへの否定的な意見にスイープが噴火したように見えた。声は聞こえないが口の動きからも確かだろう。そうこうしている内に堪えきれなくなったのか、話を一方的に打ち切り走って行ってしまった。

 咄嗟に手を伸ばしていたが掴めるはずがなく、他の生徒への講評を疎かにも出来ず後ろ髪を引かれながら、教官と呼ばれている女性は視線を切った。

 

「たづな。教官とトレーナーはどう違うのだ」

 

 脈絡なくされた質問に少しだけ驚くが、生徒や新任職員へのオリエンテーションを壇上で数え切れぬ程経験したたづなは、アナウンサーのように澱みなく説明を始めた。

 

「トレーナーと言うのは、専属かチームの生徒さん達のレースに関する凡ゆる事を指導・管理する方です。模擬レース以外に出場するにはトレーナーにスカウトされるか極一部ですが逆スカウトする必要があります。教官はトレーナーの付いていない不特定多数の生徒さん達の指導を行っている方です。教官の指導で実力を伸ばし、模擬レースを通してトレーナーにスカウトされる事で、漸く競技者としてのスタートラインに立てる訳です」

 

 意外と、と言うのは少し失礼だが、士郎が想像していたよりはずっと過酷な世界であった。敢えて聞きはしない、スカウトされなければレースに出られぬままと言う事は往々にしてあるだろうし、レースに出場しても活躍出来ず、と言う事もあるだろう。

 

「なるほど。理事長が私財を投じる事も分からんでもないな」

 

「うむ。全員を、などとは口が裂けても言えんが、なるべく多くのウマ娘達が活躍出来る事を祈ってる。そのためならばえんやこら!」

 

 だからたづなも口で言う程止めないのだろうな、と胸中で笑う。

 

「ところで理事長。すまないが少し席を外させてもらう」

 

「もちろん構わんが、何かあったかね?」

 

「トレーナーか何かの助言が気に入らなかったのか、スイープが怒ったままどこかに行ってしまったのでね」

 

「大事ッ! いくらでも待ってるから行ってきたまえ!」

 

「ありがとう」

 

 僅かに周囲に視線をやると、霊体化し消えた。

 

 

「スイープ」

 

「あ、士郎……」

 

 先程見た怒気は既に鳴りを潜めており、それどころかしょんぼりしていた。

 士郎がこのタイミングで声を掛けて来た事で、先程のやり取りを見られていたのだとすぐに分かった。バツが悪そうに顔を逸らすスイープの様子で、しょげている理由が走りを否定されたからだけではない事に気付く。

 

「その様子だと、怒鳴って遁走してしまった事に負い目を感じてるようだな」

 

 士郎の指摘に、ますます顔を逸らすスイープ。

 

「……さっきの模擬レース、アタシの中では結構良い感じだった。でも教官にはその走り方じゃダメだって、もっとこうした方が良いって言われて。何か、そう言われたら凄いカッとなっちゃって」

 

「ふむ。教官の指摘内容はスイープの走りとは全く違うものだったのか?」

 

「うん……」

 

「ふむ。つまり自分で良い出来だと思っていた走りを真っ向から否定されて怒った、と言う事か。ならまあ怒っても仕方ないだろう」

 

「……え?」

 

 漸く視線を合わせたスイープの顔はキョトンとしていた。

 

「怒られると思ったか?」

 

「うん……」

 

「手応えのあった過程を一方的に否定されれば誰でも怒るだろう。実際私が見てもペース配分や位置取りにミスは見られなかったしな。まあレース知識の無い私が言っても説得力は無いかもしれんがね」

 

「ううん。……ありがとう」

 

「しかし難しいのは、その過程の正解が必ずしも1つとは限らない、と言う事だ。ウマ娘と教官の視点は色々な意味で異なる。物理的な視点、知識の量、レース展開の予想図、無意識的な走り方の好みだってあるかもしれない」

 

「……アタシの正解と教官の正解は違う」

 

 言葉にした事で腑に落ちた。その時は何を言ったのかも覚えてないくらい頭に血が昇っていたのに、時間が経つにつれて心にモヤモヤとした物を感じていた。『何故』その過程に至ったのかも聞かれずに否定され怒ったのに、それと同じように『何故』走り方を変えた方が良いと思ったのかを聞こうともせずに否定したからだ。

 

「そうだな。あの教官が個人的な感情で否定したのではない、と言う事は私が保証しよう。それを踏まえた上で君がすべき事は何だと思う?」

 

「謝る事と、どんな走り方をしたいのかを言う事」

 

「その通りだ」

 

「でも、アタシどんな風に走りたいのか、まだ分からない……」

 

「それこそ教官に尋ねるも良し、周りにいる友人に聞くも良しだ。どちらも決して無下に扱ったりはしないとも。但し、きちんと礼節は持つようにしたまえよ」

 

「分かった。……ありがとう士郎」

 

「気にするな。まだまだ未熟だが君はマスターであり、私はサーヴァントだからな」

 

 気取ったセリフに笑みを溢すスイープ。

 

「もしかして照れ隠し?」

 

「さてどうだかな。体を冷やさない内に帰るんだぞ。私はまだ一仕事あるのでね」

 

「分かってるわよ。じゃあ頑張ってね」

 

 

 戻ると既に作業は始まっていた。投光器と言うここ以外で使われる事のない道具で照らされた芝のコースに、学園に雇われている整備専門のスタッフ達がいそいそと整備作業を行なっていた。千切れた芝の回収、陥没箇所の埋め戻し、場合によっては芝生の張り替え。屈んでいる時間の方が長い作業を、苦にしないどころか生き生きと笑みを浮かべながらやっているあたり、理事長とは別ベクトルに吹っ切れた者達なのだろう。

 一方のダートは無免許のちびっ子が均しとハロー掛けを行なっていた。

 

「理事長は本当に運転出来るのだな」

 

「お帰りなさい。スイープさんは大丈夫でしたか?」

 

「ああ大丈夫だ。……理事長のような体格の者が運転している光景と言うのは、中々にアンバランスだな。しかも満面の笑みと来た」

 

 遊園地のアトラクションに乗っている子供のような笑みで重機を運転している理事長。まずお目に掛かる事の無い光景に暫し嘆息と共に見入ってしまう。

 

「おっと呆けている場合ではなかったな。ダートの整備が終わるまでは理事長の傍にいるとしよう。何かあれば一大事だろうからな」

 

「よろしくお願いします。何かあったら私達ではどうしようも出来ないので。我々に任せてくれるのが一番なんですけど、聞いてくれる気配が全く無くて……。トレーニングに良さそうな機材見付けたら予算組む前に自費で買っちゃうし、仕入れルートもきちっと整備した上でグッズショップを敷地内に自費で作っちゃうし」

 

「随分と苦労してるようだな」

 

「そうなんですよ。……まあそれだけのバイタリティが無ければここの理事長なんて務まりませんけどね」

 

「だろうな。しかし君も若い身空で良く頑張っているよ」

 

 そう言って姿を消す士郎を見送ってから、そう言えば、とある事に気付く。理事長の愚痴をこうも明け透けに言ったのは初めてかもしれなかった。この学園に所属する職員で理事長に否定的な態度を取る者はいない。少々強引な所はあるものの、手腕・行動力共に一流であり、且つカリスマまで備えている事に間違いはないからだ。しかし内心までは分からない。軽い愚痴のつもりが、悪意を以て歪められ、理事長批判の嚆矢になりかねないのだ。

 そう言う意味で士郎は非常に得難い存在であった。出任せを言わない事もそうだが、聞き上手なのかスルリと言葉が出て行くのだ。口が上手いのもあるかもしれない。今もさり気なく労われたが、本心から出た言葉だと分かると中々に心と胃に沁みる物があった。

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