スイープ、エミヤを召喚する   作:日高昆布

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そう言えば皆さんはサクラローレル引きましたか?因みに私はこんな小説書いてますが、最近ほとんどウマ娘に触れて無いんですよね……。年かなあ……。

※いつも感想、誤字脱字の指摘、ありがとうございます!


その7

『衛宮殿はいるか!』

 

 士郎がトレセン学園に就職してからしばらく経ったある日の事。作業中の士郎を理事長が訪ねて来た。ノック代わりにネコが曇りガラスを叩いている。

 

「入って構わんぞ」

 

『失礼するッ!』

 

 ガラガラと開かれる扉。理事長はそこで意外な来客を見た。

 

「こんにちは理事長さん」

 

 私室で入れて来たコーヒーを専用の水筒から注いでいるマンハッタンカフェがいた。良い香りが漂い、思わず深呼吸し堪能してしまう。

 

「いりますか?」

 

「良いのかね? ならば是非頂きたい!」

 

 持参していた、と言うには妙に数が揃っている、と言うか収納ケースから出されたカップに注がれていく。

 

「タキオンさんがうるさい時の避難先に使わせてもらってるんです。それにここだとお友達も嬉しそうなので」

 

「苦労を掛けてしまってるようですまない……」

 

「……別に嫌いな訳ではないので大丈夫です。どうぞ」

 

 勧められた椅子に座り、ホカホカと湯気を立ち上らせるカップを受け取る。

 

「ではありがたくッ! アツゥイ!」

 

「入れ立てなんですから……」

 

 涙目になりながら舌をパタパタと扇る理事長。そんな彼女を見て呆れたように薄く笑うカフェ。ひょっとこの様に口を窄めて息を吹き掛け、警戒しながら少量を口に含む。

 

「うむッ! 美味しい!」

 

「良かったです。士郎さんも如何ですか」

 

 とある生徒より極秘で持ち込まれた掃除機の修理に勤しんでいる士郎。布が複雑に絡んだヘッドのローラーと、毟り取られたような壊れ方をした蓋。布が入り込み過ぎてヘッドの分解だけで時間が掛かっていた。そんなタイミングでの休憩の誘いだった。

 頭に寄り掛かっているお友達をそのままにカフェからカップを受け取る士郎。

 

「お友達がすみません……」

 

「構わんよ。仕事の邪魔になる訳でもないからな。頂こう」

 

 室内を心地よい静寂が包む。窓の外からはトレーニング中の生徒達の声が微かに聞こえる。

 自身の私室とは全く異なる部屋。好みの収納棚はなく、照明周りも備品のまま。しかし静かな心持ちでコーヒーを楽しむにはこれ以上ない程の環境であり、それを示すように、本人は気付いていないが噛み締めるように微笑んでいた。

 

「そう言えば何か私に用件があるようだが」

 

「そうだった。思わず堪能してしまったが、これを渡しに来たのだ」

 

 そう言うとずっと手に持っていた封筒から通帳とキャッシュカード、そしてクレジットカードを取り出し、それを士郎に差し出した。途端に部屋に満ちていた心地良いはずの沈黙が、氷河期のような沈黙に変わった。

 

「待ちたまえ理事長。理由を説明してくれ。それでは私が魔力だけでなく、金銭まで子供に集るろくでなしになってしまう」

 

「そんな勘違いはしませんけど……」

 

「そうだぞッ。それではまるで私が衛宮殿をダメ男にしようとしている魔性の女になってしまうではないか!」

 

 魔性の女(笑)はともかくとして、確かに絵面だけ見ればとんでもなく倒錯した関係性のように見えてしまう事は確かであった。

 

「確かに衣食は自分で賄える、もしくはそもそも必要無いから金銭を貰っても使い道が無いと言うのも道理だ。しかしスイープ君の言う楽しい事や嬉しい事を感じて欲しいと言う願いを叶えるのに、金銭があればその一助になるはずだッ。それに学園のために粉骨砕身してくれている衛宮殿だけ無報酬にしてしまうのは、この学園を預かる身として妥協出来る事ではないのだッ!」

 

 その幼いながらも威風堂々たる姿に、学園を任されている一因を見た気がした。決して感情論だけではない理を用いた確かな説得力。これを断れば、それこそ道理の通らない感情論をこちらが振りかざす事になる。

 

「流石の弁舌と言った所か。分かった。ありがたく受け取らせて頂こう」

 

 カードを受け取ろうとした所で、不意に手を止めた。

 

「因みにだが幾ら入ってるのだ」

 

「100万円だ」

 

 咽せたカフェが危うくコーヒーを吹き掛ける。士郎は目頭を押さえていた。

 

「どこから捻出した予算、いや待てもしかして私財では無いだろうな」

 

「…………チガウヨ」

 

 ため息を吐いた士郎は先日設置されたばかりの内線に向かって歩き出した。どこへ掛けようとしているのかを瞬時に察した理事長は慌てて士郎のズボンを掴む。しかし悲しいかな、お菓子売り場に親を留めようとする子供の如き力しかない理事長に、士郎を止められるはずがなかった。

 

「またたづなに怒られちゃうからあー!」

 

「それが目的だからな」

 

 僅かな時間稼ぎすら出来ず、受話器の下に辿り着いてしまう。カチャリ、と無情な音が鳴る。

 

「だってぇー! ここにいてくれる事とかぁ! 休みなく雑用やってくれてる事とか考えるとぉ! 普通のお給料じゃ足りないと思ったんだもん──!」

 

 ブンブンと必死に体を振り乱しながら叫ぶ理事長。タイミング的に言い訳に聞こえてしまうが、これは紛れもなく本心なのだ。その暴露が効いたのか、取った受話器を使わずに戻した。

 

「分かった分かった。私を思っての事だという事に免じてたづなへの報告はしないでおく」

 

「衛宮殿……!」

 

 まるで父親に悪戯を見付かったが何とか母親への報告だけは免れた子供のよう、と言うよりはそのものだった。一連のやり取りを見ていたカフェはそう思った。一見厳格だが優しい父親に、かなり自由奔放な子供、そして怒ると鬼のように怖い母親。たづなを加えた3人を当て嵌めると思った以上にしっくり来て、自分で想像した事なのに笑いそうになっていた。

 

「但し、最初に決めていた金額に戻すように。そもそも食住が趣味嗜好の類になってるのだから、10万でも多いくらいなのだぞ」

 

「それはダメだ! 我が学園の最低賃金は50万だ!」

 

「たづなに確認するぞ?」

 

「30万です」

 

「全く……。君にしろたづなにしろ私の事を過剰に評価しすぎだ」

 

「そんな事はないと思うが……」

 

「それにだ。君のウマ娘への献身ぶりは素晴らしいと思うが、一方的な献身は我が身を滅ぼしかねんぞ。まあたづながいるからそこまでは行かんだろうがな」

 

「き、金言確かに」

 

 何ともないように言われた、あまりに重すぎる忠告に慄いた理事長であった。

 

 ・

 

 週末。

 あの後に改めて受け取った給料を持って商店街に繰り出した士郎。使い道を色々考えたが、やはり最初に思い付いたのは料理だった。しかし自分で食べるとなるとどうにも意欲が高まらない。必要としていない事が一因でもあるが、根っからの奉仕属性であると言う事の方がより大きな理由だ。本人は気付いていないが。

 どうしたものか、と当てなく歩いていると、旬の野菜果実を威勢よくセールスしているスーパーの店員の声が耳に入った。手書きのポップに目をやると、一番初めに『いちご』の文字が飛び込んで来た。

 

「……」

 

 連想的にスイープが甘い物を美味しそうに頬張っていた事を思い出す。そしてスイーツを作るかと思い立ち、店内に足を踏み入れた。いちごを数パックと、各種材料を買い揃えると、スイープに連絡を取りながら帰路に就いた。因みにこの時、良いいちごを選ぼうと吟味する姿があまりに熱が入っていたため店員と客に認知されていたが、当然士郎がその事を知る由はない。

 

 ・

 

「ねえフジさん。アタシでも使えるエプロンない?」

 

 自室にいたフジキセキを訪問したスイープがそんな事を尋ねて来た。聞き間違いかと思う程の予想外の質問に、驚きを露わにするフジキセキ。

 

「んーどうかな……。探してみないと分からないな。でもスイープが料理するなんて珍しいね」

 

「士郎に誘われたの。一緒にスイーツ作らないかって」

 

「へえ。あの人何でも出来るんだね。でもそう言う事だったら、どうせなら一緒にエプロンも買いに行ったら?」

 

 それは思い付かなかったと言わんばかりに、耳と尻尾を立てるスイープ。急ぎ自室に戻り外出届を書くと、フジキセキに提出すると許可が降りたかどうかの確認もせずに出て行った。

 

『スイープさんお出かけですかー?』

 

『士郎と一緒にエプロン作ってスイーツ買いに行くの!』

 

『行ってらっしゃーい! 士郎さんて裁縫も出来るんだ』

 

 キタサンブラックが誤解しているが、あの人なら普通に出来そうだからと、特に訂正するつもりのないフジキセキであった。

 

 ・

 

 商店街の入口で待っていると、気もそぞろと言った具合のスイープが走って来た。

 

「待たせたわね!」

 

「そうでもないさ。では行くとしよう」

 

 自前の手提げ袋の中を気にしつつ、士郎に付いて歩くスイープ。

 

「そう言えば何で急に料理する事にしたの?」

 

「実は先日初給料が出てな。しかし出たは良いが、使い道が浮かばない。久しぶりに料理でもしてみるかと考えたが、どうにもやる気が湧かない。そこで君に何か作ってやるかと思ったが、どうせなら一緒に作るか、と思った訳だ」

 

「……つまり士郎は料理を作るのが好きなんじゃなくて、誰かに食べてもらうのが好きって事?」

 

 僅かに呆れを含んだ語気。

 

「かもしれんな。朧げだが、常に食事を集って来る者がいた気がするしな」

 

「ふーん。じゃあ士郎が料理したくなったらアタシに振る舞って良いわよ! 但し野菜は少なめにする事」

 

「私に作らせるならそれはダメだ」

 

「ええ──?!」

 

「なるべく細かくしてやるからきちんと食べるんだ。それにバランスの良い食事はアスリートとしても大事な事だろう」

 

 言われている事が尤もだと認識しているからか、唇を尖らせながらもそれ以上の文句は言わなかった。

 そうこうしながら歩いていると、あっという間に目的の店に到着した。衣類店だ。入店すると、勝手知ったる動きでエプロンが置いてある一角を目指す。

 ご機嫌に鼻歌を歌いながら取っては戻すスイープ。士郎は投影で済ませるつもりだったが、ここに来たのだから買っておくか、と何も考えずに手に取ろうとすると、スイープが待ったを掛けた。

 

「はいこれ」

 

 渡されたものを広げる。明るめの赤一色、上端部に黒猫のワンポイントと言うデザイン。隣で広げられたスイープのエプロンは、私服と同じ色合いに、同じワンポイント黒猫。要は色違いのお揃いである。色合いはともかく黒猫は、と言おうとしたが、期待と褒められ待ちの顔を見ては頷くしかなかった。

 

「……黒猫が可愛いな」

 

「でしょう!」

 

 ・

 

 店を後にし学園に到着。

 

「あ、使い魔さんだ。こんにちはー」

 

「使い魔さんこんにちは」

 

 未だに緩々なスイープの口のせいで、本名よりも広まっている使い魔と言う呼び方。居合わせれば都度訂正していたが、平日であれば一緒にいない時間の方が長く、気付けばこの有り様。衛宮士郎、アーチャーに次ぐ、第3の呼び名の誕生である。

 

「ああ、こんにちは」

 

 軽い手振りで挨拶を返す士郎。そんな様子を見たスイープは、何で使い魔って知ってるんだろう、と不思議な顔をしていた。まさかの無自覚である。

 

「そう言えばどんなスイーツ作るの?」

 

「少々時間は掛かるが、いちごのムースケーキだ」

 

「楽しみね!」

 

 そう言いながら校舎内に入って行く2人。

 

 ・

 

 スイーツと言う言葉が発せられた瞬間、それぞれ異なる場所にいた3人の額にニュータイプみたいな煌めきが走った。

 

「今どなたか」

 

「いちごのスイーツを」

 

「作るって言った」

 

 あらぬ方向を見ながらそんなアホな事を言う3人に、それぞれ一緒にいた友人が困惑しながら何を言ってるのか、と尋ねた。

 

「マックイーン? 壁見て何言ってるの?」

 

「スペちゃん? ご飯はもう食べたでしょ?」

 

「オグリ? 甘味食べながら何言うとるんや?」

 

 そんなツッコミを他所に、確信的な足取りでどこかへと向かう、腹八分目ぐらいにはなってたはずの飢えた獣達。

 

 ・

 

 一方、そんなシンクロニシティが起きてるとは露とも知らない2人は家庭科室に到着していた。

 

「手はしっかりと洗うんだぞ」

 

「分かってるわよ。……はい、ちゃんと洗ったわよ」

 

「よろしい。ではまず材料を予め出しておくんだ。卵、グラニュー糖、薄力粉、バター、牛乳だ。これで初めにスポンジ部分を作っていく。まずボウルに卵とグラニュー糖を入れ泡立てる」

 

「どれくらい?」

 

「色が変わってトロミが付くまでだ」

 

「分かった」

 

 流石はウマ娘と言った所か、同年代の女子よりも遥かに早く良い塩梅にまで泡立った。そこへ士郎が片手粉ふるいで濾した薄力粉を数回に分けて入れ、スイープがヘラで混ぜていく。

 

「ぐるぐると掻き混ぜるのではなく、切るように混ぜていくんだ。よし、それぐらいで良いだろう。ではレンジで温めてたものを取ってくれ」

 

 バターと牛乳を温めて溶かしたものだ。そこに生地を少量入れ泡立て器で掻き混ぜ、サラサラになったら今度はボウルの方に入れ、再度掻き混ぜる。

 

「これで生地の元は完成だ。次は型に流し込んで焼いていく」

 

 丸い型に流し込み、全体が均一になるように傾けて均す。180度に予熱していたオーブンに入れ10分焼く。

 オーブンの前に座り込み、生地が膨らむのを楽しそうに待つスイープ。

 

「楽しそうに待っている所すまないが、その生地はそこまでは膨らまんぞ」

 

 露骨にガッカリした顔を見せる。

 

「そんな顔をするな。ほら、その間にいちごを切るぞ」

 

 士郎がヘタを取り、スイープが切る。少し時間が経つと、オーブンから何とも鼻を擽る良い香りが漂って来た。思わず顔を綻ばせてしまう。

 

『グウ〜〜〜』

 

 見事な腹の虫の鳴き声。しかし不思議な事に、士郎とスイープは互いに顔を見合わせていた。そもそも士郎が空腹になる事はなく、かと言って表情からスイープが羞恥心から擦り付けようとしている訳でも無さそうだった。ならばどこから、と視界を巡らせると、入口に奴らがいた。

 横向きに生えた顔が3つ並び、しかも全員が目をカッと見開き室内を凝視し、あわよくば分けてもらえないかなと浅ましさが滲み出た笑みを浮かべている様は、真昼なのに背筋を凍らせる破壊力を秘めていた。

 

「ひいっ! おばけ!」

 

 聞こえないはずの言葉を拾い、広大な学園から僅かな香りを頼りにここを突き止めた辺り、スイープの指摘は間違いとは言えなかった。

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