ネタ考えるのに手こずりまして。そう言う訳で今話は容量減らした2話入りとなってます。
そう言えばファイズの新作発表されましたね。こう言うの待ってたんだよ! となってほしいですね。
※いつも感想・誤字指摘ありがとうございます。
1
来賓用玄関を掃除している最中のこと。受付横の冊子スタンドにある『トレセン周辺マップ』が目に入った。
基本的に遠出しないため、商店街くらいしか足を運んでいない事を思い出す。冊子を手に取り、折ってからポケットにしまい込む。誰もいないのだから見ても咎められないのだが、そこは衛宮士郎である。仕事中にサボる事は良しとしない。
午前中の業務が終わり、毎日恒例のスイープ主催の昼食会に向かう。その道中で冊子を取り出し広げる。トレセン学園を中心に観光客向けの施設が充実している。その中で1つ興味を惹かれるものがあった。
「漁港か。……久しぶりに釣るか」
今度の休みの予定が決まる。
問題はスイープを連れていくかどうかである。声を掛けないと拗ねるだろうが、獲物が掛かるまでの時間をジッとして過ごせるか怪しいのだ。どれだけ静かにしているかで釣果は大きく変わる。しかも静かにしていても釣果0がザラにあるのだ。それも込みで釣りの醍醐味なのだが。果たしてそれを理解してくれるかどうか。
結局決めきれないまま食堂に到着してしまう。今日もオグリキャップは、テーブルを占拠する量を実に美味しそうに食べている。士郎が自分のことを見ている事に気付いたオグリキャップは、食べるか? と天を突かんばかりのスパゲティを差し出した。
見るだけで胸焼けを起こしそうな量に、流石に断りを入れようとするが、口元を汚しリスのように頬を膨らませながら無垢な目で差し出す姿に、断る事が悪く思えてしまう。
「……ありがたく頂こう」
顔が隠れる高さのスパゲティの向こうで、オグリキャップはニコッと笑っていた。
・
「……今日は随分食べるのね」
「オグリキャップに貰ったのだよ」
途端にざわつく生徒達。調子が悪いのではないか、何かあったのではないか、と。皆の彼女に対する評価に苦笑いしながら、先日ケーキを振る舞ったからだろうと答える。食べ物が絡んでいると分かると、皆は安心したように食事を再開した。
「食べ切れるの?」
「まあこれぐらいならな」
「そう。あ、そうだ。今度の休みなんだけど、キタサン達と買い物行くから」
「そうかね。ちょうど私も出かけようと思っていたところでな」
「え、どこ行くの」
付いてくると言われると思っていたかのような驚き具合。スイープはまだしも、成人男性がいては楽しめない子もいるだろうに。
「釣りだ。釣果があったら何か作ってやる」
「絶対ね! 何もなかったら怒るわよ!」
「久しぶりだから約束はできんがね」
「それで何が釣れるの?」
「この時期ならスズキ、メバル、クロダイなどか」
「どんな料理が作れるんですか?」
向かい側に座っていたキタサンが話に加わった。
「そうだな。揚げる、煮付け、焼く。イタリアン、フレンチ、和風と、レシピは非常に多岐にわたる。ただここでレシピを事細かく語って釣果0では格好が付かないから、ボカさせてもらおう」
・
時間は流れ、土曜日。程よく雲の広がった釣り日和な天気。仕事終わりに揃えた道具とジャケットと帽子を着こなし、学園を出る。時刻はまだ早く、当然スイープは起きていないため、念話はせずに出発する。
駅に向かい切符を買う。最後に切符を買ったのは果たしていつの事だろうかと考えるが、特に迷わず買えた事にデザインが如何に優れているかを実感する。構内もホームも閑散としている。到着した電車は少ないながらも乗客がいた。
座席に腰掛け、車窓から外を眺める。太陽が上がり切っていない空はまだ薄暗い。漁港までは電車で20分程。時間にしてみれば短いが、その間に空は目まぐるしくその姿を変えるだろう。
「──────」
果たして空模様をじっくりと観察するなどいつ以来だろうか。否、もしかしたら初めてかもしれない。自分を取り巻く環境に目を向けられるようになったのも、ここに呼ばれてからだ。
スイープ、理事長、たづな、生徒会。皆がここに留まったことに感謝するが、一番感謝しているのは士郎なのだ。だから給料を初めは断っていたし、スイープに誘われなければ昼休憩もせず仕事を続けていたし、自主的に深夜の見回りもやっているのだ。感謝を口にすればいい? 士郎にだって羞恥心はあるのだ。
・
太陽は完全に昇ったが、まだ少し肌寒さを感じる。漁港に着くと遮るものが無くなり、より風を感じる。
堤防を歩く。片側にはテトラポットが群をなしている。
当然初めての場所なのでポイントの良し悪しなど分からない。勘で場所を決め、アウトドアチェアを広げ、腰掛ける。竿を取り出し、アカムシを針に刺す。その最中に、そもそもスイープが、こう言う如何にもな虫を触れるか確認していなかった事を思い出す。何となく悲鳴と共に逃げ出しそうな気がする。
手首をスナップさせ、針を飛ばす。ポチャンと小気味良い音が耳を打つ。竿受けで固定し、椅子に深く腰掛ける。後はのんびりと待つ。随分と贅沢な時間の使い方をしているな、と笑う。
・
「あれ。最近学園で噂の使い魔さんじゃん」
適当に餌を変えつつ、流れる雲を見ていると、そんな風に声を掛けられた。
トレセン学園の制服を着た、肩に抱えた釣竿と片手にバケツを持った生徒。空と同じ水色のショートヘアは、彼女の溌剌さを示しているようだった。
「確かキングヘイローとよく一緒にいる生徒だったな」
正確にはよく小言を言われている生徒、である。昨日も見た、と言うか練習に遅れるな、と言われていたような気がする。
「セイウンスカイ。よろしくね使い魔さん」
「衛宮士郎だ。呼び名は好きにしてくれて構わんよ。ところでセイウンスカイ、君は今日練習ではなかったのかね」
と言うと、分かりやすく全身をギクリと固まらせるセイウンスカイ。半開きの口に、泳ぐ目。白状しているようなものだ。
「まあ私は教え導く立場ではないから、君が道を踏み外すようなことをしない限りはとやかくは言わんよ」
露骨に安堵するスカイ。
一報は入れておいた方がいい、と言おうと思ったが、サボり方が慣れているし、その上でキングが小言で済ませているのだから余計なお世話だろう。
「借りまーす」
と言いながらアカムシを手に取り、慣れた手付きで針に刺すセイウンスカイ。
「1匹5円だ」
「えっ」
「冗談だ」
「真面目なイメージだったからビックリした」
「真面目? 私がか」
「だって校舎内で見かける時、いつも何か仕事してるから」
「雇われの身だからな」
「そうじゃなくて、何かいつもやってることがバラバラだからさ」
「用務員だからな。色々なことをやるさ」
「あーだからそうじゃなくて……。もしかして揶揄ってる?」
「そうだが?」
「揶揄われたって言い触らしてやるっ」
「アカムシをやったからチャラだろう」
「不平等過ぎるよ!」
全くとプリプリしながら竿をしならせ、飛ばす。
「ボウズでも分けてあげないからね」
「おっとそれは困るな。何か釣って帰って料理を作ってやらないとお説教が待ってるのでな」
「ふ〜〜ん。おやこんな所に釣り上手で、帰ったらお腹を空かせてそうなウマ娘がいるなあ」
チラチラと態々声に出して視線を送るセイウンスカイ。
「それはちょうど、っと、掛かったか」
「お、こっちもだ」
大きくしなる竿が掛かった獲物の大きさを示している。海中より徐々に姿を見せ始めた魚影は、やはり中々のものだ。しかし不思議なことに、2人の糸はその魚影に向かっていた。
「これは」
「もしかして」
・
「やっほーキング」
「スカイさん! あなたねぇ、って衛宮さん?」
いつから陣取っていたのか、仁王立ちのキングヘイローが校門前に立っていた。煽っているようにしか聞こえないのんびりとした声に、案の定形の良い眉を吊り上げて振り返るキング。スカイの隣に士郎がいることで少しトーンダウンする。
「まあまあちゃんと午後練前には帰って来たんだからさ。それよりこれ見てよ」
手招きしながら、士郎が肩に下げているクーラーボックスを指差す。蓋を開け3人で覗き込むと、何ともタイミングよく盛大に水が跳ね上がった。見事に水飛沫を被る3人。
「……スカイさん?」
「いや待ってキング! 完全な事故だから! 相打ちどころか衛宮さんまで濡れてるでしょ?!」
「……確かにそうね。それで何を見せたかったの?」
「今日の釣果!」
「……」
若干腰の引けた体勢で改めてクーラーボックスを覗き込む。そこには体長70cm近い見事なスズキがあった。
「セイちゃんが釣ったからこれでご飯作ってもらうんだぁ」
「私も釣ったぞ。因みに作るのは練習が終わってからで、且つちゃんと練習したら、だからな」
「わ、分かってるから」
「それは良かった。サボられてしまったら、手抜き料理になってしまいそうだからな」
「分かってるってば!」
「……随分仲良くなったのね」
「そう見えるなら光栄だな」
因みにこの後士郎の仕事場を見たスカイは、そこを新たなサボりスポットにすることを決めたのだった。
・
2
何に影響されたのか、士郎の部屋でご飯を食べてみたいと駄々を捏ねまくるスイープのために、テーブル等々を買うため駅前のデパートを訪れた士郎。初めは投影で済ませてしまおうかとも考えたが、自由に使えるお金があるのだから、と、ここに来てから一番高い買い物をすることを決めた。
しかし、その最中に繋がった念話でその事を話すと大激怒。持っていなかったのなら一緒に選びたかったと言われ、敢えなく中断。スイープの趣味が多分に含まれたチョイスになりそうだが、こういう運びになってしまったのだから仕方がない。
来て早々に用事がなくなってしまったが、食品売り場を物色してから帰ることにした。自分で食べるためではなく、訪問者が増えそうな予感がするので菓子類をストックしておくためだ。
買い物を済ませ外に出ると、小さめの人集りが目に入った。その向こうにウマ耳が僅かに見える。どうやらウマ娘が歌を披露しているようだ。一番後ろに立ってそのパフォーマンスを眺めてみる。
生前含め、アイドルに興味を持ったことは一度もないが、こうしてじっくり鑑賞してみるとなかなかどうして高いクオリティだった。短くない時間だったが最後までしっかりと聞き入り、見入ってしまった。少なくとも、テーブル購入を中断させられた分はチャラになった。
歌い終わり、拍手に応えている中、やたら目立つオーディエンスにもしっかりと手を振るウマ娘。軽く手を振り返し、帰路につく。
・
数日後。士郎の部屋にテレビがない事を知ったスイープにより購入命令が出た。
士郎のために急遽用意された部屋なので、必要最低限の家具と電化製品が優先され、その結果テレビは省かれたのだ。士郎自身特に必要と思わなかったため、部屋に遊びに来たスイープに指摘されるまで忘れていた程だ。
購入するかは一旦置いておくとして、どんな電化製品があるのか気になり、隣駅にある家電量販店にまで足を伸ばした。学園にあるものでその薄さは知っていたが、誰が使い、どこに置くのかと問いたくなるサイズのテレビに驚愕する。
パンフレットだけ貰うと、興味が電子レンジ、洗濯機、食洗機に移る。テレビよりもじっくりと物色していると、そちらへの購入欲が出て来たので、適当なところで切り上げる。また今度スイープを誘って改めて購入する予定だ。
帰りは徒歩だ。道中を散策しながら学園の最寄駅に到着。すると、デジャヴを感じる人集りが出来ていた。前回見た時よりも大きくなった人の壁の向こうで、前と同じウマ娘が見えた。先日とは別の曲を披露していた。ならば折角だからと最後方で鑑賞させてもらうことにした。
容姿だけではない高いパフォーマンスと、努力を裏付ける汗は男女関係なく人を惹き付ける。素人の感想だが、先日見た時より明らかにレベルが上がっていた。チャラではなく、明確にいいモノを見た、と思えた。惜しみない拍手に息を切らしながらも応えるウマ娘。人集りが大きくなっても相変わらず目立つオーディエンスにもしっかり手を振る。
アスリートとしてのウマ娘しか知らない士郎には、歌手として生きていこうとする彼女の存在は新鮮であり、強く印象に残った。いつの日かテレビでその活躍を見ることを願いながら、その場を後にした。
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更に数日後。テーブルセットとテレビが揃い用意は整った、と言うことでスイープ主催の衛宮邸での食事会が開かれることとなった。
因みに色々買い揃える前に、たづなに生徒寮と職員寮の行き来は大丈夫なのか、と尋ねたところ、職員がウマ娘の寮に入る事は禁じられているが逆はOKと言う、モラルとかそこはかとなく陰謀めいたものを感じる回答を貰った。
そんな訳で食事会当日。何にしても最初の1回目は2人きりでやりたいという強い希望により、買い出しからスイープは同行していた。
時刻は夕方であり、普段から混雑する時間ではあるのだが、いつもよりも人が多かった。特別なセールの予定はなかったはずだが、突発的なセールでもやっているのだろうか、と考えていると、普段は閉まっているシャッターが開いていた。臨時の自転車置き場や、特設イベント会場として使われるスペースだ。そしてその前には群衆があった。3度目のデジャヴ。
スピーカーから聞こえて来る声はやはり、聞いたことのある声だった。
「何これ、何の集まり? 何も見えないんだけど」
「路上ライブと言うやつだろう」
背伸びしたりぴょんぴょんと跳ねるが、見えるわけがない。
「わーすごい人だね。みんな何見てるんだろう?」
「人が多いんだから急に走らないのウララさん。あら、衛宮さん。こんにちは」
「こんにちはアーチャーさん!」
「こんにちは、キングヘイローにハルウララ」
挨拶もそこそこに、スイープと一緒にただのストレッチにしかならないジャンプで人垣の向こうを見ようとしている。気が済むまでやらせておくことにした。
「あ、白髪のノッポな使い魔だ!」
今度は初めて聞く声だった。横に視線をやると、青髪ツインテールのウマ娘と、ナイスネイチャがいた。
「こらターボ!」
「構わんよ。実際白髪だからな。私は衛宮士郎だ。君は」
「ツインターボ! ダブルジェットじゃないからね! 間違えないでね!」
今まで聞いた名前の中で一番厳つい名前であった。
「よろしくなツインターボ」
「よろしくな!」
「士郎! 何も見えないんだけど! 身長分けなさいよ」
「無茶を言うな」
「じゃあ肩車して」
と、何故かドヤ顔しているスイープ。恐らく誰かから聞いたドアインザフェイスを成功させたと思っているのだろうが、大きな要求と無茶な要求を間違えている辺り話半分にしか聞いていないことが伺える。
「……スイープ。君はもう中学生だろう?」
「そうだけど?」
肩車されて恥ずかしくないのか、と言外に問うたのだが、何言ってんの? と言わんばかりの顔で素直な返事をされた。何言ってんの? はこちらのセリフだ、と言ってやりたかった。
しかし同じような希望が込められた視線をハルウララとツインターボからも向けられると、中学生なら別におかしくないのか、と思えてしまう。
「違いますわよ?!」
「違うからね!?」
・
数多くの路上ライブを熟して来たスマートファルコンだが、ここ最近のライブを聴きに来てくれたファンの中に記憶に残る男性がいた。
いつも最後方から見ているのだが、顔がよく見える程の高身長で、褐色の肌に、よく映える白の髪。一度も話せたことがないため、どこの国の人かは分からないのだが、最後まで真剣に聞いてくれ、拍手もしてくれている。
今日のライブにも来ていたのだが、今は姿が見えない。もしかしてパフォーマンスが悪かったのかと不安な考えが頭を過るが、突然ヌッと下から姿を見せた。
肩車で1人、肩と水平になるよう伸ばされた左右の腕を椅子に2人を座らせている。
──合体してる……!
プッピガン! と言う幻聴と、稲光が見えそうな光景。そんなトンチキ集団を見ても歌を詰まらせず、歌詞を飛ばさなかったスマートファルコンは褒められるべきである。
最後方のファンが今までとは別の意味で記憶に刻み込まれた瞬間であった。
・
「あの、大丈夫ですか……?」
「使い魔って……凄いんだね」
心配と唖然と少しの引きが入ったキングと、こんなタイミングで衛宮士郎が人外の存在なのだと改めて知り戦慄するネイチャ。
「3人は楽しそうだから大丈夫だろう」
との解答に、そういう意味ではなくて、と言おうとしたが、涼しい顔をしてズレた返事をするから平気なのだろうと結論付けた。
ままー何あれー、と無垢な子供が疑問を口走り、母親は、……何、何だろうね? と答えを濁した。
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初めての四神合体から数日後の平日。
「あ! いたいたー!」
誰に掛けられた言葉か判然としない内に、見覚えのあるウマ耳が士郎を追い越し、振り返った。
「君は……」
「も〜⭐︎、ここにいる人なら声かけてくれれば良かったのに! はいこれ!」
差し出された紙らしきものを反射的に受け取る。サイン入りのブロマイドだった。
「ライブやる時は教えるから見に来てねー⭐︎」
手を振りながら校舎に消えたスマートファルコン。
「……」
ファン認定されていたことを初めて知る士郎であった。