【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。お陰でモチベが維持できてます。
 誤字報告もありがとうございます。いつも助かってます。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 今回は序盤一人称、途中から三人称です。
 よろしくお願いします。


スピニングロリコン(1)

 異世界の時は左に進み、桜闘会がはじまった。

 ただでさえ賑わっているのに、今のカムイバラは連日スーパーお祭りモード。増えたのはパンピーのみにあらず、浮かれる民を引き締めるようにあちらこちらで衛兵・同心・岡引が隠れ無法者に目を光らせていた。

 人が増えて何がアレって、道を歩くのもひと苦労になるところだ。皆で歩く時なんかは結構気合が必要である。

 

 俺を含め、皆も闘技大会には興味なかったので、我が一党は街が浮かれてる間も迷宮探索をしていた。空いてる転移神殿は実に快適で、換金も手早く済んだものである。

 しかし、そんな俺達にも見るべき大会があった。姉弟子にあたるアンゼルマさんの試合である。ライドウさんからVIP席の使用権を貰ってるので、その日だけは皆で応援に行ったのだ。

 

 唯心無月流を代表し、アンゼルマさんは現役冒険者お断りの個人剣術部門に出場した。

 個人剣術部門は出場者が多いので、大会は日を跨いだ前後の部で分けて行う。そんな中、アンゼルマさんは見事前半戦を勝ち残り、後半トーナメントに出場する事ができた。

 後半は桜闘会の最終日に行われるので、今しばらくの余裕がある。俺が出る予定の全種総合の後だな。

 

「うぇーい! 賞金貰っちゃったー! これで一週間は食うに困らないね!」

「貰ったのは賞金じゃなくて銀証だろう。売るな売るな」

 

 大会はどうでもいいが、お祭りは嫌いじゃない。迷宮も修行も無い休暇日は、皆と祭りを見て回った。

 エリーゼの要望で音楽会に行ったり、グーラの要望で屋台の食べ歩きをしたり、イリハの要望で九尾英雄の演劇を見たり。あと、ルクスリリアの要望でエロ浮世絵の展示会に行ったりもした。

 

 そうこうしていると、ついに俺の出場日がやってきた。

 全種総合部門、開催である。

 

 

 

「ふむ、悪くない技だ。戦場剣としては有用だろう」

 

 早朝、闘技場に向かう前に、師匠に俺開発の必殺魔剣を見てもらった。

 師匠からはお墨付きをもらったが、所詮は奇襲戦法だ。極めるつもりはない。直近の大会で使えればそれでいいのだ。

 

「だが、頼り過ぎるなよ。戦闘の基本は鍛錬の基礎の集約だ。そういった技術は状況作りの取っ掛かりに過ぎない事を肝に命じておけ」

「はい」

 

 最終調整を終えたところで、道場の皆で歓楽街の活鬼闘技場に向かう。ライドウさんが支配人をやってる闘技場だな。

 桜闘会のスケジュールはカツカツなので、同日にも別の闘技場が使われたりしている。アンゼルマさんの後半戦はもっとデカい闘技場で行われる予定だ。

 

「ご主人、頑張るッスよ」

「勇姿を見せて頂戴」

「ご武運を」

「ちゃんと見とるからの」

「ああ。では、任せました」

「うむ」

「うちの宣伝よろしくお願いしますねー」

 

 闘技場に着き、関係者入口で皆と別れる。

 彼女等はVIP席で応援してくれるらしいので、一党と道場に恥じない戦いをしようと思う。

 

「イシグロ様、こちらです」

 

 案内人についていくと、試合で使う用の武器庫に連れてこられた。

 服は桜闘会認定の道着で固定なのだが、事前に聞いてた通り武器はこの中から選ぶようだ。

 適当な刀を調べてみると、案の定刃引きされていた。刀だけではなく、槍や矢も非殺傷用の加工が施されていた。地球基準だとこれでも十分死ねるが、異世界人は平気なのである。

 一つ一つ見ていくと、性能に大きな違いはないものの耐久度が減ってる武器もあった。俺は武器を大切にできない悪い冒険者なので、出来るだけ状態の良い武器が欲しいところ。

 

「じゃあ、これにしよう。あと、これとこれとこれと……」

 

 総合に武器制限はない。同じく、持ち込み数に制限もない。

 俺は数ある武器の中から極力丈夫なやつを選別し、闘士待合室に向かった。

 

 にしても、大勢の前で試合か。

 慣れないよなぁ、こういうの。

 

 

 

 

 

 

 満員御礼の活鬼闘技場。

 東区地下に造られた広大な会場には、朝っぱらから並々ならぬ熱気が籠っていた。

 この日、これから、この場所で、新たな物語が生まれ出る。観客達にはそういう確信があった。

 

 全種総合部門。いつもは他部門の席を確保できなかった奴が仕方なく見に来るイロモノ大会なのだが、本日は訳が違う。誰も彼も、躍起になって席を確保する必要に迫られていたのである。

 また、盛り上がっているのは観客だけではなかった。VIP席には支配人のライドウや、東区長のバンキコウといったリンジュを代表する重役達が席に座し、中には他国の重鎮の姿もあった。

 その他、例年であればあり得ぬ事に、全種総合部門の席に応援団の姿まであったのだ。彼等彼女等は推し闘士を象徴する羽織を身に纏い、その時が来るのを今か今かと待っていた。

 

「皆さん! おぉぉぉ待たせしましたねぇ! 司会進行&実況は私! 活鬼道場のダンガンが務めさせて頂きます! え? 早く進めろって? いやいや待って! せめて偉い人の紹介だけさせて! ほらあそこ! ライドウ師匠が手を振ってるよ! はい次ィ!」

 

 大きな声の猿人男が場を盛り上げる。そういうキャラなのか、実況の猿は客から温かい野次を飛ばされていた。

 人気はあれど花形ではない総合部門。では、何故これほどまでに注目されているのか?

 その理由が、もうすぐやってくる。

 

「これ以上やると暴動が起きそうですね! それでは、そろそろ来てもらいましょうか! 桜闘会、全種総合部門! 一回戦第一試合! 闘士達の入場です!」

 

 司会に促され、各所に配された魔道具から色とりどりの火炎が解き放たれた。音楽隊が大音量で楽器を鳴らし、この場の主役を招き入れる。

 そうして、東西南北の入場口から、闘士達が姿を現した。

 

 ワァアアアアアア!

 

 歓声が轟く。溜め込まれていた熱狂が喉から腹から解放された。

 会場の声に負けじと、実況役の猿人男が闘士の名を謳いあげる。

 

「闘士番号一番! 澄刃道場師範、“水仙剣”のデイビット! 剣術部門から急遽参戦です!」

 

 参加闘士の先頭を往くのは、澄刃流の美剣士デイビットだった。

 彼は爽やかイケメンスマイルを浮かべながら、異世界女子視点最高にエロい肉体を誇示するように歩いていた。客席に向け、時折手を振るファンサも忘れない。

 応援団を中心に、多数の女子と少数の男子からピンク色の声援が木霊する。そのせいで、続く闘士紹介が聞こえない程の人気ぶりだ。

 

「闘士番号二十番! 剣鬼道場のロベリア! 彼女もまた、剣術道場部門からの参戦だぁ!」

 

 拍手と歓声に誘われ、闘士が次々やってくる。

 中には剣鬼道場の門弟も混じっていた。この場にウラナキがいないのは、同じく一回戦の第二試合に出る為だ。それくらい参加人数が多いのである。

 

「皆さんお待ちかねぇ! 闘士番号四十五番! 流派は唯心無月流! ラリス王国からやってきた! 現役銀細工持ち冒険者ぁ!」

 

 そしてついに、観客が待つ男の番が回ってきた。

 例年、人気こそあれ熱狂のなかった全種総合を参戦一つでここまで盛り立てた男。カムイバラ最新の英雄。“黒剣”の二つ名を持つ、ラリスの剣豪。

 

「ご唱和下さい、彼の名を! イシグロロォォォォォ! リィキィイタカァアアアアア!」

 

 入場口から、名を呼ばれた者が現れる。黒い羽織の謎集団、会場の一部が爆発的な盛り上がりを見せた。

 一歩一歩、決まった歩幅でやってきた。噂通りの髪と瞳。紛れもなくイシグロである。が、彼を見たことない者はちょっと思ってた顔と違って困惑した。パネマジのない異世界、「君写真と違うね?」ならぬ、「君噂と違うね?」が発生したのである。けれど、次の瞬間には細かい事はいいさと熱狂に身を任せようとした。

 

「おおっとぉ! 闘士イシグロ! 随分と重装備! これはどういう作戦だぁ!?」

 

 が、実況の声に、盛り上がっていた観客も気が付いた。確かに、彼は妙に重装備だ。二つ名にはない武器まで持って驚きだ。

 基本、異世界人の多くは自分の使用武器を一つに絞る。ここにいる闘士達もそうだ。せいぜい、刀を使うにしても大小二振り程度だ。そんな中、イシグロは装備枠の限界まで持ち込んでいたのである。

 

 道場通いを示すオーソドックスな道着スタイルは別に普通だ。けれども装備が普通じゃない。

 左腰の大小の刀に加え、タスキ掛けした背には槌が装備され、右腰には両刃の直剣。あまつさえ右手に大きな十文字槍を持っていたのである。

 事実、イシグロはガチャガチャ鳴る武器のせいで歩きづらそうにしていた。周囲から「バカでは?」という視線が突き刺さる。が、本人的には至って真面目な装備構成であった。いやだって、今からどんな試合が始まるか分からないじゃんという主張である。

 

「イシグロさーん! こっち見てー!」

 

 次の闘士紹介を聞き流し、位置について待機中。VIP席の一党員を見ていたイシグロは、歓声の中から名を呼ばれて観客席の方を見た。

 そこには同じ羽織を着た集団がいて、先頭には顔見知りの白虎族女性がいた。

 最前席の一角で、変な羽織を着たミアカが手を振っていた。彼女の隣には、前に橋から落っこちたところを助けた鬼人幼女がいた。イシグロは幼女に手を振り返した。ミアカはそんな事実もないのに「手ぇ振ってくれた! よしよし好感度アップー!」とキャッキャしていた。

 

「続きまして! 闘士番号七十八番! 銀細工持ち冒険者のファイゲ!」

 

 闘士の数は六十を超え、七十を過ぎてなお増える。土俵リングを取り払っているとはいえ、こうも集まるとギュウギュウだ。

 その間、イシグロは周囲の闘士達を観察していた。

 

 道着を着てるのは少数で、自分とデイビットと剣鬼道場の門弟のみ。他は奇抜なファッションをした連中が多い印象。

 ふと、デイビットと目が合った。爽やかにウィンクされた。イシグロは軽いデバフを食らった。

 

「さてさてさてさて! 闘士全員揃いまして! これ以上待たせるのは酷と言うもの! では、早速はじめましょうか!」

 

 足元の巨大陰陽陣が発光する。半透明の結界床が生成され、この場に集った闘士達がリフトアップされていった。

 上昇するにつれ、闘士同士の間隔も広がっていく。一定高度に到達すると結界は停止して、各所の宙に板状の浮遊足場が形成された。

 前見たステージと違う。まるで、スマブラの大戦場のようだった。

 

「ご存じの通り、全種総合部門は今日一日しかございません! まずは選りすぐりましょうか! 第一種目は大乱戦! 闘士選抜生き残り戦だぁーッ!」

 

 参加人数、ステージ構成、実況の説明を聞くまでもなく、イシグロは理解した。今から始まるのは、要するにバトロワだ。

 続くルールを聞き流す。それにしてもガバいルールである。時間制限あり、ポイント制でもない各ペナルティ無しのサバイバルなら、こんなん逃げ一択だろ。ゲーマー・イシグロは、観客席のロリを探しながら思った。アーチャースキル“遠視”の応用である。

 これまた、イシグロはVIP席の皆を見た。ルクスリリアがお菓子を頬張ってて、その他の皆は熱い瞳でこっちを見ている。そんな目で見つめられちゃあ、逃げるなんてシャバい真似できそうにない。

 

「よろしいですね!? よろしいですね!? では! 十秒後に開始しますよ! 皆様! 私と一緒に、声をお出しくださいな!」

 

 実況に促され、会場全体がカウントダウンを唱和する。

 スタートが近づくにつれ、イシグロの周りに人が集まっていく。チートを使わずとも、イシグロは自身が狙われている事に気が付いた。

 逃げるのはナシだが、囲まれるのは勘弁である。イシグロは周囲を窺いつつ、初手でどう動くかをシミュレートした。

 

「「「さん! にー! いちッ!」」」

 

 試合が始まる寸前、ほんの一瞬会場全体が静まった。

 静寂の中、剣鬼門弟はデイビットを見た。デイビットはイシグロを見た。イシグロはロリを見ていた。

 

「「「はじめ!」」」

 

 バァアアアアアン! 試合開始の銅鑼が鳴り、全種総合戦が始まった。

 わぁあああああ! 闘士の咆哮と観客の声援が混じった音が鳴り響く。あまりの大声に、イシグロは一瞬顔をしかめた。

 

 次の瞬間である。イシグロの危機察知チートが発動した。前後左右から敵意と害意と戦意が届く。どいつもこいつも、目立つ男を倒すつもりであった。

 本来、総合に来るのはエンジョイ勢。やる気はあっても勝つ気が無いのが普通である。要するに、今囲んでるのは一般ピーポーである。

 

「「「(タマ)取ったらぁあああああ!」」」

 

 タマと言えばウマのタマちゃんを想像してしまう。園児コスは良いものだ。迫りくる総攻撃に、イシグロはそんな事を考えつつ余裕を持って活路を見出した。

 一つの動作で多くの事象。槍を構えたイシグロは、包囲網の脆弱層を狙って跳んで突破した。寸前まで居たところに攻撃が殺到し、イシグロアンチの同士討ちが発生する。

 群れから抜けたイシグロは、最小限の動きで闘士に攻撃していった。地味で堅実で迅速なこの立ち回りは、唯心無月流を習った成果であった。

 

「死ね! イシグロ! 死ねェ!」

 

 チート発動。九割の害意と一割の殺意。ガチで殺る気のハリキリボーイが肉迫する。

 派手な法被の男が襲い掛かって来た。見ると、男の法被にはデフォルメされたミアカらしき萌えキャラが刺繍されていた。おまけにハチマキにもデフォルメ・ミアカが描いてある。

 言うてへなちょこ攻撃だ。難なく捌いたイシグロだったが、同じ法被の違う男が他にも沢山いて、全員揃って襲ってきた。どいつもこいつも、イシグロに殺意むんむんである。

 こいつら、ただのイシグロアンチではない。アンチガチ勢だ。

 

「「「イシグロ発見! 突撃ぃーッ!」」」

「何の何の何……!?」

 

 異様な光景に狼狽するイシグロ。獲物の動揺に構わず、謎の男達は手に手に武器を持って突撃してきた。

 法被の刺繍にある通り、彼等は踊り子・ミアカの親衛隊である。何故ただのミアカ推し連中が此処にいるのかというと、一言で言えばミアカへの推し活だ。だが、当の偶像がイシグロ応援団の長をやっているのを見て、彼等の脳が半壊して一時的にバーサーカーと化しているのである。

 あと、最近ミアカが“萌虎のしっぽ”を辞めた事で暴走しているというのもある。日本でも異世界でも、厄介オタクの行動力は常軌を逸していた。

 

「食らえ! ミアカちゃんキーック!」

「トンファー使え」

「グワーッ!」

 

 トンファー使いのキックを打ち払い、イシグロは冷静にミアカ親衛隊を潰していった。

 一人倒してもまだ増える。しかも攻撃受けても立ち上がる。推し活ガッツと数の暴力、何気にイシグロは追い詰められていた。

 イシグロを狙っているのは親衛隊だけではない。最初にイシグロを攻撃してきた連中も、親衛隊ではないお祭り勢も、謎に連携して真イシグロ包囲網を形成した。

 

「俺の名はハルト!」

「アサヒ!」

「ソウレン!」

「リュウセイ!」

「「「「剣界震攻撃!」」」」

 

 包囲網の中から、なんかヤバそうな奴等も襲ってきたのだから堪らない。

 謎の連携攻撃に、親衛隊の謎連携力。ひとつひとつ対処していく中、イシグロはさてどうするかと頭を回した。

 

 相手は雑兵だ。グーラ並みのパワーがあれば槍のひと薙ぎで倒せただろうが、イシグロの膂力ステでそんな無双プレイはできない。

 重装備のせいで動きづらい。用心して持ってきたものの使いどころは無さそうだ。普通に捨てちゃっていいかな。

 まぁそれは後、とにかく現状を打破せねば。

 

 メンターのインストラクションを思い起こす。無月流の基本戦術、環境利用だ。全方位からの攻撃を捌きつつ、イシグロは周囲を見渡した。

 遠くでは剣鬼道場の門弟がデイビットにケンカを売っていて、彼は涼しそうに剣を振っていた。あ、目が合った。またウィンクされた。余裕そうである。

 その他、鉄札程度の闘士が多い中、銀細工っぽい動きをする猛者もいる。彼等も華麗に立ち回っていたが、なんか服装がダサ……前衛的だ。なるほど本来イロモノ部門だもんな。

 

 現状、彼等は利用できそうにない。ならばステージはどうだ。結界床は大きな平面になっており、ところどころに浮遊している板状の足場がある。これは使えそうだ。

 思いついたら即行動。イシグロは邪魔な親衛隊を倒した後、浮遊足場へ向けて駆け出した。追いかけて来るモブ。まるでゾンビ映画のワンシーンみたいである。

 シュバッとジャンプし地の利を得たぞ。イシグロは浮遊足場でゾンビ集団を迎撃する構えを取った。

 

「待てやヒデブ!?」

「追いついたぞウギャ!?」

「てめぇミアカちゃんとはどういう関係だエヒャ!?」

 

 それから、登ってくるモブたちをワニワニパニックの要領で一体ずつ突いていった。これでは戦いというより作業である。

 足場の外、HP切れでダウンした親衛隊員は結界床をすり抜けて落下していき、ネットで回収されていた。

 

「ほい、ほい、ほいっと!」

「畜生舐めやがアプパ!?」

 

 余裕が出てきたイシグロは、何となしに皆のいるVIP席の方を見てみた。すると、銀竜のご令嬢は「そうじゃないでしょ……?」みたいな不満顔をしていた。

 どうやら、この戦い方は姫様のお気に召さなかったようである。ならばと、イシグロは結界足場をつま先でコツコツした後、次なる策を案じた。

 どうせなら、派手にやろう。作戦名は、“イナバへの挑戦状”だ。

 

「こんな感じかなっと」

 

 イシグロは足場の中央まで退いて、遠くにいた親衛隊長に槍を投擲して沈黙させた。パージとアタックが両立できてお得。

 それから槌と直剣を手に歪な二刀流になってみせ、足場に上がってきた闘士達を華麗に捌いて倒していった。

 その動きはあくまで流麗。剣でいなし、槌で打つ。戦い方こそ無駄の極みだが、洗練された足捌きは無月流の教えあってこそだ。これは所謂魅せプレイである。

 イシグロの魅せプに、観客席は大いに湧いた。応援団もいっそう声を上げた。鬼人幼女の「がんばえー!」がイシグロの力になる。

 

「きゃー! イシグロさんがんばれー!」

 

 応援団長のミアカも舞踊そっちのけで声援を送った。

 喧騒の中、推しの声を聞き逃すようなオタクはいない。

 

「「「アバババババ……!」」」

 

 白虎美女ミアカからの黄色い悲鳴。送り先はラリスもんの銀細工。それが気に入らないのが親衛隊含むイシグロアンチである。

 愛と怒りと悲しみで、彼等の目つきは豹変した。

 

「「「ブッコロォ!」」」

 

 

 彼らはノロノロゾンビからダッシュゾンビにクラスチェンジし、全く無警戒で浮遊足場に雪崩れ込んできた。なおも魅せプをするイシグロは冷静に数を数えていた。

 定員オーバーだ。ある程度数が揃ったところでイシグロは垂直跳躍。見上げる標的は、ポカンと口を開けていた。

 

「百人乗っても……!」

 

 槌を振り上げ、勢い乗せてグルグル回す。全身に魔力を通し、数少ない槌系能動スキルを発動した。

 残り耐久度と引き換えに、一発キツいのぶち込むスキル。輝く螺旋は破壊の権化。叩き壊すは浮遊結界。名もなき槌が悲鳴を上げる。

 そして足場に、輝く槌を振り下ろした。

 

「大丈夫ッ……!」

 

 ドゴォ! 浮遊結界が揺れ、半透明の足場に亀裂が生まれる。

 イシグロが振り下ろした槌にも亀裂が走り、やがてどちらも砕け散った。

 通常味わう事のない地面の消失。覚悟など、できるものかという話。

 

「え?」

「は?」

「ほわ!?」

 

 ガラスが割れるような音、結界で出来た足場が消失した。パラパラ舞う破片と共に、闘士の群れが落ちていく。

 一瞬の浮遊感。突然足場が崩れたのだ。呆けてしまうのもむべなるかな。だが、イシグロを討つには鈍過ぎる。迷宮狂いにとって、足場の消失など何度も経験してきた事象に過ぎぬのだ。

 

「すぅ……」

 

 ひと呼吸。無防備な敵をロックする。イシグロの飛翔に滑走路は必要ない。足元に盾を生み、踏みしめ、駆け出す。

 壊れた槌を捨て、両の手で以て剣を構えた。最も使い慣れた能動スキル、無月流エディション。黄金の光が刃に満ちた。

 

「はッ!」

 

 次の瞬間、落下中の闘士達がはじけ飛んだ。さながらそれは、人混みの中心で大爆発が起きたかの様。

 しかし、この場の実力者には見えていた。落下の最中、イシグロは足元に生成した魔力の板を蹴って四方八方に跳び跳ね武器を振りまくったのだ。

 爆発ではない。爆発と見紛う前後左右の往復軌道。翼もないのに虚空を走り、蹴って斬り捨て跳ね飛ばす。刹那の間に巻き起こされた、凝縮された剣嵐。

 

 ダン! 倒れる闘士の真ん中で、スーパーヒーロー着地する影あり。誰あろう、イシグロ・リキタカである。

 一拍遅れて、ノックアウトされた闘士達は結界の下に没シュートされた。その場に残ったのは、黒髪黒目の剣聖ひとり。

 立ち上がったイシグロは、常と変わらぬ表情をしていた。イキりもせず、ドヤりもせず、泰然自若と佇んだ。

 まさに、強者の貫禄であった。

 

「「「きゃあああああ!」」」

 

 歓声が増す。あまりに圧倒的な勝ちっぷりに、客席から黄色い悲鳴が木霊する。異世界において、強さの誇示はセックスアピールの見せつけ行為に外ならない。

 イシグロ視点、ぶっちゃけこういう魅せプは恥ずい。が、ルクスリリア達にカッコつけられるなら是非もなかった。

 勝って兜の何とやら。イシグロは冷静に周辺を確認した。

 

 見ると、闘士の数は随分と減っていた。

 残っているのはパッと見鋼鉄札以上の強者ばかりで、親衛隊のような素人集団は軒並み退場していったらしい。

 遠くでは、未だにデイビットと剣鬼道場の門弟が戦っていた。剣鬼流の一人と目が合うと、凶笑を向けられた。普通に怖い。イシグロは近づかないようにした。

 

 これなら、もういいかな。

 十分戦ったし、あとは適当に流せば大丈夫だろう。

 イシグロはそのように思い、小さく息を吐いた。

 

 次の瞬間である!

 

「私ファイゲさん、今貴方の後ろに居るよ」

 

 危機を察知したイシグロは、反射的に背後に剣を振るった。ギィン! 激しい火花が散り、声の主は剣圧に負けて後退。

 剣を構えて見据えた先には、顔も背格好も全く同じ二人の男が立っていた。何故か、向かい合って恋人繋ぎをしながら。

 

「イシグロ殿、乱戦にて失礼仕る。我等、天狗族の双子兄弟。私は兄のファイゲ」

「弟のフィーゴ。貴公と同じく、銀細工持ち冒険者」

「人呼んで、秘孔天狗」

「袖触れ合うも他生の縁」

「もはや運命感じちゃう」

 

 シィバッと、指鉄砲を向けられる。

 その指は、イシグロの股間を照準していた。

 

「「その肛門、貫いてしんぜよう」」

 

 ゾワリと、イシグロの背筋に悪寒が走った。

 相手は素手。此方は剣。リーチで勝ってても、肝が潰れる思いだった。

 

「ちょ待っ……!」

「「ゆくぞ」」

「待てって!」

 

 イシグロの制止に構う事なく、秘孔兄弟は猛禽の如く躍りかかって来た。

 機動力に秀でた天狗族というだけあり、その格闘術は変幻自在。時に上から、時に下から、兄が前を担当し弟が後ろを担当して、かと思えばリバースしてきて厄介だった。

 

「くっ! 隙がない!」

「隙を見せるのはそっちだイシグロ殿」

「早く隙を見せろイシグロ殿」

 

 闇雲に振るった剣は手刀によって防がれる。異世界人の武闘家は拳や指を武器とする都合上、その肉体はそうあれかしと鍛錬すれば鋼鉄よりも硬くなるのである。

 二対一、イシグロは劣勢を自覚しつつも逃走を選べなかった。本能的に、逃げたら拙いと思ったのだ。

 

「押し切れない……! このままじゃ……!」

「ふむ? 貴公は一つ勘違いをしているぞ」

「左様。我等は男色家ではない」

「貴公とまぐわいたい訳ではないぞ」

「ただ……」

 

 戦いの最中、兄弟は上の口を閉じなかった。

 

「ただ?」

 

 剣を振るいながら、イシグロも応じる。

 バッと飛び上がった双子兄弟は、両手指を構えて突撃してきた。

 

「「他人の尻に指を突っ込んでビックリさせたいだけだ」」

 

 要するに、重度の浣腸フェチであった。あるいは感性が男子小学生のソレ。

 ここにきて銀細工らしい奴きたなと、イシグロは苦虫を噛み潰したような顔になった。ヨタロウも忍者ズもまともだったから忘れていたが、元来銀細工はこんな奴ばっかなのだ。

 

「我等が奥義を受けてみよ!」

「主に後ろで受けてみよ!」

「「奥義! 百花繚乱・旋風貫!」」

 

 それはまさに、常時発動サイコクラッシャー。ガードしても通り過ぎてく鬼仕様。

 だが、見切った。突っ込んでくる兄を受け流し、転倒した兄の肩に全力の一撃をぶち込んだ。

 

「ぐぅうううう! まだまだぁ……!」

「こいつ……!?」

 

 しかし、その一撃はイシグロの想定より遥かに軽かった。なんと、クリティカルが入ったはずの兄はイシグロの剣撃を耐えきり、剣を握る両手をつかみ取ってきたのである。

 焦ったせいで失念していた。今の剣は刃が潰されている非殺傷武器だ。実戦のつもりで剣を振ったイシグロだったが、常のガチ意識が仇になったのだ。

 

「今だ弟者!」

「合点承知!」

 

 兄の男気に応えるように、背後に回り込んだ弟が牙突のポーズを取った。

 極至近距離。手が塞がっているイシグロ。蹴りを入れるも、魔法剣士ジョブでは本来の威力が出ない。ジョブチェンジしようにも手指を塞がれた状態では格闘技が使えない。自爆覚悟の魔法攻撃! 兄はこれさえ耐え抜いた!

 拙い拙い拙い! イシグロは冷や汗をかいた。観客が目を覆った。一部観客は刮目した。

 

「遊惰に咲かせ、奥義・紅花賢覧!」

 

 刺突属性の指が迫る! このままでは、背後の掘っとこケツ太郎がもぐちゅ(・・・・)してはむはー(・・・・)な事になってしまう。穴掘り大将くん……ってコト!?

 時間感覚が拡張される。スローモーションの世界、鬼人幼女の応援が聞こえる。諦めるな! 肉を斬らせて骨を断つか? いや、それはダメだ。イシグロは処女なのだ。大切に守ってきたケツ処女を今日あったばかりの、しかもロリではない奴に取られるなど真っ平御免だ。脳裏に危機察知。チートが危険と断じる程にはあの浣腸はヤバいという事。

 ならば移動スキルで逃げる! ダメだ、身じろぎ程度にしか機能しない! ケツに【魔力の盾】を使うか? できるか? 練習してない部位に無詠唱で?

 否、やらねばヤられる! 頭をクールに、体をホットに! 魔力を練る、尻周りを意識して、そこを守るように盾を作る! い、イメージが足りない! 椅子はどうだ? ああ、間に合わない!

 

 この時、イシグロの心は得体の知れない恐怖に覆われていた。

 振り返ると、死神がいる。奴は鋭利な指を煌めかせ、イシグロの出口を入口にするつもりだ。迷宮の主よりも、過去戦った犯罪者集団よりも恐ろしい。

 

 その時、イシグロの頭に走馬灯が走った。

 中型免許を取って、初めてのソロツーリング。何となく入ってみた銭湯。足首に鍵を巻いた男たち。そして見てしまった。ああ! 窓に! 窓に!

 

 せめてもの抵抗に、イシグロは外肛門括約筋を引き締めた。

 受けはしない、攻めるのだ! 覚悟を決める。リスクを冒して、魔法カウンターを入れてやる! この際、多少のダメージは度外視する!

 持ってくれよ! 俺のシリアナ! イシグロは勇気を出し、運命の時を待った。

 

「澄刃流・裏奥義、【冷泉憤怒】……!」

 

 その時、イシグロの肌一枚手前に、澄み切った刃が迸った。

 

「「むっ!?」」

 

 横合いからの奇襲に。双子兄弟は慌てて退避した。致命の指が触れる寸前、両者を隔てるように一筋の線が引かれたのだ。

 上から下へ。それはさながら、流水で出来た巨大な刀が振り下ろされたかの様。観客の魔術師は瞠目した、アレは何だ? 澄刃流の門弟も驚愕した、アレは何だ?

 例えるなら、意のまま動く間欠泉。異世界人にはよく分からなかったその技は、イシグロには目で見てすぐに理解できた。

 その技はまさしく、異世界式ウォーターカッターだった。

 

「やあ。苦戦しているようだね、イシグロさん」

 

 すたっと、イシグロと背中合わせになるように、澄刃道場師範のデイビットが現れた。

 彼の右手は刀を握っており、その切っ先からポタポタと水滴が落ちていた。左手には同じく水滴を落とす短杖。

 

「あ、ありがとうございます! 助かりました!」

「礼には及びませんよ。万全の貴方と仕合う為ですから」

 

 常になく、イシグロは上ずった声で礼を言った。

 本当に助かった。心の底からの感謝に、デイビットは気にするなとばかりのウィンクを返した。イシグロのデバフが解消された。

 

「澄刃流デイビット。良き戦士だが、現状では荷が勝つか」

「兄者、ここは逃げるぞ。もうすぐ試合も終わる。二回戦でヤろう」

 

 弟の言う通り、残る闘士の数は少ない。このまま逃げ回っていれば、何処かの誰かが数を減らしてくれるだろう。

 そうすれば、二回戦に出られるのだ。出て来るのだ、変態浣腸野郎が。

 

「イシグロさん!」

「はい!」

 

 そうはさせじと、二人の剣士が猛攻を仕掛ける。

 イシグロは耐久度の減った直剣を投げ捨て、腰の二刀を引き抜いた。デイビットは弟目掛け牽制の水魔法を放った。

 

「二刀使いか! だが此方は二穴使いだ! 舐めるなよ!」

「やかましい……!」

 

 逃げようとする兄弟を、今度は二人で追いかけ回す。

 流石の天狗族といったところか、兄弟は機動力が高くなかなか捉えられずにいた。

 

「仕方ない。僕が止めるよ。その間に」

「わかりました」

 

 即席の連携。デイビットが捕らえ、イシグロが討つ。お互い底を見せてはいないが、迷宮の勘が共鳴した。戦いの中、戦士と戦士は助け合うのだ。

 デイビットは短杖を構え、隠してきた切り札を唱えた。

 

「魔力過剰充填、【水蛇氾濫】!」

 

 デイビットの杖先から、水で出来た蛇が解き放たれる。その数は一匹に留まらず、後から後から濁流のように解放される。

 狙いは明白だった。身体に嚙みついてこようとする水蛇を、弟は二本指で切断した。だが、切り離された雫は空中で小さな水蛇へと変じ、弟の腕に噛みついた。

 

「なにィ!?」

「弟者!」

 

 一匹に捕まれば最後、次々に絡まってくる水蛇に巻き付かれ、弟は拘束状態になった。

 そこに、二刀を構えたイシグロが肉迫!

 

「天誅!」

「ゴバァ!?」

 

 勢いに乗った進撃風回転斬り。弟のうなじに、容赦のない刀が打ち込まれた。

 

「流石! じゃあもう一人もやるよ! 魔力過剰充填、【水蛇氾濫】!」

「うぉおおおお! 当たるかぁああああ!」

 

 迫りくる水蛇を、兄はアクロバティックな機動で回避していた。それはさながら、優等生と天才と目立ちたがりの三種多弾頭ミサイルを避けまくるサーカス団員のようだった。

 しかし、マッスル特化の兄に回避機動はキツかったようで、とうとう足首に蛇が嚙みついた。身体がつんのめる。回避力が落ちる。そこに、魔力盾階段を駆け上がるイシグロが迫る!

 

「待てイシグロ殿! 話せば分かる!」

「分かり合えねぇよ! じゃあな!」

「たぶりゃぁ!」

 

 空中ドルフィンキックからのクロス斬撃! 浣腸兄はしめやかに意識を爆発四散させた。

 空中で姿勢を整え、着地するイシグロ。その隣に、異世界的美剣士デイビットが並び立つ。

 

「試合終了!」

 

 ジャアアアアン! 終わりを告げる鐘が鳴り、波乱の一回戦第一試合は終了した。

 イシグロとデイビット、それと少数の生き残りの二回戦進出が決定したのである。

 

「危ないところを助けて頂き、重ねてお礼申し上げます。ありがとうございました」

「いえいえ、構いませんよ。貴方とは尋常な試合をしたいですからね。決勝で会いましょう」

 

 観客が沸く中、二人は堅く握手をした。戦士同士の熱い友情に、一部女性陣が顔を赤くした。

 イシグロは気づいていなかったが、その時のデイビットは勃起しかけていた。

 

 イシグロ・リキタカ、二回戦進出決定。

 桜闘会は続く。

 

 

 

 その後、イシグロは闘士控え室で皆にヨシヨシしてもらって心を癒やした。

 

「ご主人ご主人、あの男、握手してた時軽く勃ってたッスよ」

「え……?」

「そういう事は言わなくていいのよ」

 

 もっと強くなろうと思った。

 愛する者だけでなく、自分の貞操も守れるように。

 何処から魔の手が迫ってくるか、分かったものではないのだから。

 

 男イシグロ、勝って尻の穴を締めた。




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