【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
誤字報告も感謝です。いつもお世話になってます。
キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。
今回、以前登場したキャラクターが出てきます。
アリエルとイスラです。ラリスの金細工と、リンジュの銀細工です。
今回は三人称の後に一人称です。
よろしくお願いします。
「試合終了ーッ! 一回戦第三試合を生き残ったのはァ! この闘士達だぁーッ!」
波乱の第一試合が終わり、大会は進み一回戦の全試合が終了した。
第一試合ほど大規模ではなかったが、第二第三試合ともに闘士達は生き残りを賭けた大乱戦を繰り広げていた。
一回戦は第三試合でおしまいである。以降は一回戦を生き残った闘士で二回戦を行う予定である。二回戦もまた、最終戦に出る為の選抜戦だ。
一回戦終了後のインターバル、観客は先ほどまでの熱狂を振り返っていた。この間、売り子から酒やお菓子を買ったりして感想を言い合うのだ。
一回戦全体を通し、全種総合とは思えない熾烈な戦いだった。中でも多く話題に上がった闘士は三人。澄刃流デイビットと、剣鬼流ウラナキ。それから唯心無月流のイシグロである。
やれウラナキのあの戦いぶりはヤバいだとか、やれデイビットの胸筋がエロいだとか。噂の英雄様は細っこいくせによくやるだとか。ファン同士、こういう会話が楽しいのだ。
そんな客席の中、一等豪華なVIP席では仕立ての良い服を着た者達も同じような話題で盛り上がっていた。
彼等彼女等は皆、ライドウが呼んだ国の重鎮である。議会に組合に武行の上役。他国の来賓もまた、この日の召喚に応じた者達だ。
リンジュ共和国の政界において、彼等は穏健派と呼ばれる勢力である。近年、災厄を機に躍進しようとする勢力を抑え、生存圏の保護を重視するという志を同じくする者達だ。
「それにしても、あれが去年の今頃に冒険者になった男ですか」
「やはり人間種は成長が早くて面白いですね」
「ですが“黒剣”という二つ名は、なんかこうイマイチな気がしますね……」
観客と違い、穏健派の注目はイシグロに集中していた。というのも、当の男は現在どこの勢力にも所属しておらず、不安定な状況にあるからだ。
生存圏保護の一環として、彼等は一騎当千の英雄を国の内輪揉めに巻き込まないよう計らっているのだ。故にこそ、ライドウやバンキコウの召喚に応じたのだ。
若い英雄を政治屋の道具にしてはならない。古代から現代に至るまで、何度も失敗して学んだはずだ。少なくとも、穏健派はそのつもりであった。
「失礼。来賓の方をお連れしました」
和やかな会談の最中、扉の向こうから声が聞こえた。声の主はライドウの弟子であった。
東区長の天狗が目配せすると、ライドウは弟子に入るよう促した。すると、ガチャリと扉が開かれた。
「久しいな、ライドウ、バンキコウ」
ふわりと、まるで森の涼風が吹いたかのような錯覚。開いた扉から入ってきた女性は、まさしく美の権化であった。
金糸の如き髪に翡翠色の双眸。その身に纏うドレスはラリス風。尖った耳は森人の証、首に下げるは強者の証。
彼女こそ世界に名だたる大英雄。金細工持ち冒険者、“翡翠魔弓”のアリエルであった。
彼女は単なる金細工冒険者ではない。ラリス王国の最高戦力の一人であり、止まり木協会の創設者。同じく止まり木同盟の盟主でもある。また、その身は
紛れもなく、世界の守護者であった。
「アリエル殿、お久しゅうございます。お忙しい中、よくぞいらして下さいました。どうぞ、こちらへ」
「ああ。おっと、君等も畏まらなくて結構。楽にしてくれ」
支配人のライドウが挨拶すると、他国の森人重鎮も彼に続くように首を垂れた。
アリエルはラリス王国の金細工持ち冒険者だが、森人族にとってはそれ以前に尊き血を継ぐ上森人王の娘なのだ。国や肩書は違えども、彼女に敬意を払うのはごく自然な流れだった。
「つい先ほど到着したところでな。遅れてしまった。ああ、彼女も座ってもらってよいか?」
「とんでもございません。どうぞ、アリエル様の隣が空いております故」
「いえ、護衛中ですので」
アリエルの隣には褐色肌の牛鬼人がいた。剣鬼流師範代のイスラである。
一度ラリスに渡った彼女は正式に止まり木協会に所属し、今現在は支部設置の現地視察に来た会長の護衛をしているのだ。
「そう言うな。ここに危険はないよ。盟主命令だ、座れ」
「はい」
支配人から直接案内され、一通りの挨拶をした後にアリエルとイスラは来賓席に座った。
片や優雅に、片や武人然と座す彼女等に、リンジュ風の緑茶が運ばれてきた。
「良い香りだ。今度取り寄せよう」
運ばれてきた茶の香りを楽しみつつ、アリエルは周りに悟られぬほど小さく嘆息した。
多忙な身ゆえ、間を縫ってリンジュに来たのである。イスラ共々、召喚獣に乗っての強行軍だったので、少々疲れたのだ。今しばらくは政治的な話をしたくはなかった。
ある意味、こういったフットワークの軽さもアリエルの強みだった。ラリス王国の金細工で、上森人王家の血族。そんな彼女だからこそ、わざわざ権威を示す必要がないのである。
「それにしても、全種総合が此処まで盛り上がっているとは……」
「どういう事だ? イスラ」
「はい。総合はあくまで遊戯の延長といった催しでして……あっ、いえ今のは失言でした!」
「ははは! 構いませんよ! 事実、そういう目的で設けた部門ですからね!」
政治トークは置いといて、三人は暫く当たり障りのない会話を楽しんだ。
そうこうしていると第二回戦が始まり、一回戦を勝ち残った闘士達が入場してきた。
アリエルは「お茶美味しいな~」と闘士達を眺めていた。すると、その中に見覚えのある黒髪黒目の男を発見した。
「んっ……イシグロ?」
危うく茶を吹くところだった。けど頑張って耐えた。アリエルは努めてゆったり茶を嚥下すると、ことさらゆっくり呟いた。まるで深窓の令嬢のように。
そんな彼女の洗練された所作に、その場にいた森人達は「凄いなー憧れちゃうなー」と尊敬の眼差しを送っていた。
「おや、イシグロ殿をご存じで?」
「まぁ、そうだな……」
ご存じも何もない。奴は第三王子肝入りの英雄候補であり、モブノ捕縛の立役者であり、止まり木協会に多額の寄付をした超優良支援者なのだ。
リラックスしかけたところにビッグニュースである。緩みかかった上森人の心が引き締まった。
「流石イシグロ殿です。戦とあれば勇んで赴くと……」
「イスラさんもご存じで?」
「はい、一度戦った事があるのです。恥ずかしながら、二対一で惨敗してしまいました」
「ほう、それほどとは……」
朗らかに会話する武人二人を置いて、世界の守り人たる翡翠魔弓は思考の深みに潜り込んだ。
アリエルはラリス王家とも深い繋がりを持つベテラン金細工だ。王家の諜報網に加え、独自の情報源をも有している。当然、イシグロがリンジュに行った事は承知していた。
だが、ここはネットも電話もない異世界である。どう頑張っても情報伝達にはラグがあるのだ。アリエルが知り得た最新情報など、せいぜいイシグロが三本尻尾の猫又を討伐したという程度だった。ちなみに、これを知った時のアリエルはビックリしてお茶を吹いていた。
彼の気質を鑑みるに、目立ちたがりという訳でもないだろう。そんなイシグロが、まさか大会に出ているとは思わなかった。
しかも何やら道場に通っているっぽいし。つくづく自己鍛錬に余念のない男だ。何がそこまで彼を駆り立てるのか……。
ふと、アリエルは隣で武人トークをしているライドウを見た。
彼女からして、この金細工は信用できる。良くも悪くも裏表はないが、裏も表も器用にこなせる柔軟さがあり、気質も極めて善性だ。
そんなライドウからの、桜闘会観覧のお誘い。何かあるとは思っていたが、その理由の一つがコレだったという訳か。向こうも向こうで、アリエルとイシグロに繋がりがあるとは思ってなかったようだが。
事実、ライドウは件の迷宮狂いと翡翠魔弓に繋がりがあるなど寝耳に水の情報だった。
以前にバンキコウから見せられた第三王子からの手紙にはギルド由来の胡散臭いイシグ録しか書かれておらず、止まり木協会との関係については書かれてなかったのだ。
ここで、ちょっとした食い違いが発生していた訳である。
「ところで、アリエル殿はどのようにしてイシグロ殿と知り合ったのですかな?」
「協会絡みでな。前に、世話になったのだ」
「世話に……。そうでしたか」
「ああ」
であっても、どのみち話は早い。
アリエルは詳細を伏せつつ、その上で分かるよう一言添えた。ライドウは彼女の言葉の意味を違える事なく汲み取った。
同じタイミングで、森人と鬼人は一般客用VIP席にいるイシグロの奴隷達を見た。
皆、幼子の容姿をしている。淫魔に竜族に混合魔族に、新しく加わったリンジュの天狐。生まれからして、彼女等が一人で生きるのは極めて厳しいと言わざるを得ない。幸福な生など、何をかいわんや。
その上で、イシグロは止まり木協会に寄付をしたのだ。迷宮狂いと呼ばれる程、尋常ではない数の死地を駆け抜けて。
「「なるほど、そういう……」」
これまた同じタイミングで、森人と鬼人は納得した風な声を漏らした。
小さく驚いて見つめ合うと、認識を同じくしたという確信を持って、二人は得たりと頷き合った。
残念、両者不正解だ。イシグロはただのロリコンである。
「試合開始ぃ!」
勘違いが正される事なく、第二回戦が始まった。
一回戦はサバイバル戦だったが、今回は制限時間終了時に玉を保持した闘士が勝つというルールだった。玉の数は八つで、三回戦に出られるのも八人という仕組みである。
視線の先、戦いが始まるなりイシグロは玉そっちのけで闘士に襲い掛かり、武器を奪ってからボコボコにしていた。
一人終わったら次、そいつ終わったら次。イシグロは翼人や獣人など高機動力の闘士を集中して狙っているようだった。
「ほぅ、あの動きは……」
黙って試合を見ていた牛鬼剣豪は、会場で戦うイシグロの動きに感嘆の息を吐いた。
二対一の模擬戦とはいえ、イスラには彼と交戦経験がある。以前の彼はラリス剣士らしい荒々しい喧嘩殺法の使い手で、且つラリス剣士らしからぬ美麗剣法の持ち主だった。
そんな彼だが、今はどうだ。足運びや立ち回りに喧嘩師めいた惑いが消え、不自然に美し過ぎた太刀筋に磨きがかかっている。
道着を着ているあたり、リンジュでは何処かの道場に通っていたようだ。立ち回りからして剣鬼流でも澄刃流でもない。この短期間でこの成長、凄まじい吸収力だ。
「アリエル様、イシグロの奴は前よりも強くなっていますよ。力も技もです」
「ふむ、そうか……」
イシグロの成長に感心するイスラの隣で、アリエルは紙面の迷宮狂いと実際の黒剣を比較し思考していた。
王家と協力関係にあるアリエルは、イシグロの迷宮踏破記録を網羅している。初めて迷宮に潜ったのが去年の今頃で、一年経った現在がコレ。迷宮の踏破頻度を鑑みて、おかしな成長をしている訳ではないが、力といい技といい色々とチグハグだった。
イシグロ程の経歴があれば、本来もっと強くなって然るべきなのだ。だが、アリエルの見立てでは彼の身体には銀細工中位の力しかない。一党を組んだとはいえ、それでも常軌を逸した踏破頻度を維持しているのにも関わらずだ。
一応、この現象には心当たりがあった。恐らくだが、これはイシグロが多くの武器を使用している弊害なのだろう。通常、冒険者は一種の武器を使い続け、戦いの中で常人離れした力を身に付ける。
だが、アレコレと多くの武器を使おうとする冒険者は前者と比べて力が付き難いのだ。だからこそ、王家も貴族も得意武器を極めるよう教育するし、平民冒険者も考えるまでもなくそうしている。
アリエルが知っているだけでも、イシグロは剣に刀に弓に無手、槍や槌まで使いこなし、あまつさえ魔法まで行使するという。王家の知識と照らし合わせると、これは異常である。こんな事をしていては、器用なだけの弱卒になって然るべきなのだ。
加えて言うと、過去の踏破記録からしてイシグロという冒険者は既に頭打ちになってもおかしくない。それくらい、彼は多くの迷宮に潜ってきたのだ。しかし、隣で目を輝かせている牛鬼剣豪に曰く、イシグロは以前よりずっと強くなっているという。
「ジノの言ってた通りか……」
もしかしたら、彼の器には限界がないのかもしれない。
それこそ、伝説の勇者・アレクシオスのように。
小さな呟きは、誰にも聞かれる事はなかった。
「試合終了! 残ったのはこの八名です!」
そうやって思索にふけっている間に、第二回戦は終了した。
案の定、イシグロ含む有力闘士は勝ち残ったようである。
自身の一党に見せつけるように玉を掲げるイシグロを見て、アリエルは努めて冷酷な戦闘思考を試みた。
さて、彼は英雄になるか。怪物へと堕ちるか。
先のイシグロを見るに、アリエルであれば十分余裕を持って倒せる。遠隔であれば尚の事、一方的な殺戮になるだろう。例え一党を相手にしても、苦戦はすれど目標を達成できる確信があった。
しかし、今のまま強くなるのであれば、どうか。数多の武器を使いこなし、近接から遠隔まであらゆる状況に適応し、あまつさえ慢心せず仲間と協力する男が、長じた後であるならば。
森人視点、そう遠くない未来において、アリエルは暴れ狂う彼を止められるだろうか。
「ん?」
ふと、アリエルは件の男と目が合った。表情の薄い彼にしては珍しく、純粋に驚いているようだった。
アリエルは思索を止め、小さく手を振った。対し、イシグロは丁寧に一礼してから去っていった。それは古代森人流のお辞儀だった。
まぁ、あの様子なら問題ないだろう。
少なくとも、外からちょっかいかけなければ大丈夫だ。根っこの彼は温厚なのである。あるいは、彼は既に迷宮の狂気を調伏しているのかもしれない。
「おや? あそこにいるのはミアカじゃないか……」
口調が崩れたイスラの呟き。彼女の視線の先には、変な羽織の集団の先頭でキャッキャしてる白虎族の美女がいた。
というか、イシグロ応援団の団長であった。
「知り合いか?」
「え? あ、はい。幼馴染です」
イスラが肯定する通り、鬼人剣豪とミアカは子供の頃からの友人だった。
歩けば即武術といった感じで無骨な気質のイスラに、根明のミアカはオシャレ等々を教えてくれたのだ。その知識が今は鬣犬の女戦士に教授されているのだから、人の縁というのは面白い。
リンジュを発つ前、イスラはミアカに見送ってもらったのだ。ミアカについては誰より知っている自覚がある。いつも明るくて、根が強かで、意外とドライな性格の親友なのだ。
「きゃー! ヤバい辛い! 辛いんやけど! こっち見た今こっち見た!」
が、久々に会った幼馴染は、なんかちょっと様子がおかしくなっていた。え? あのミアカが、あのイシグロに?
当のイシグロはというと、キャイキャイ騒ぐ応援団に向かって爽やかスマイルを浮かべつつ手を振っていた。おっ、そういう関係か?
「ふっ、幸せ者め……」
何にせよ、親友の恋は応援したいと思う。
相手がイシグロなら、認めてやらんでもなかった。
〇
二回戦が終わると、時刻は正午を回っていた。
一日で終わる都合上、全種総合は午前と午後の二部構成だ。次はラストの第三回戦で、これはタイマントーナメントで固定である。
時間も時間なので、暫くはお昼休憩だ。その間にリングの調整とか色々するらしい。
お昼休憩は約二時間。次の試合が始まるまで、闘士達は各々自由時間が与えられる。
これも異世界の大らかさといえるだろうか。お昼の自由時間中は出場闘士も何処へ行ってもいいらしい。
「どうぞなのじゃ♡」
「あざっす」
という訳で、俺達は歓楽街の外れにある広場でお弁当を食べていた。
空は晴天、満開の桜の近く、東屋っぽいトコでルクスリリア達とご飯。前世、花見の良さなんてサッパリ分からなかったが、皆と一緒ならこういうのも悪くないと思える。
ちなみに、ドラゴン母娘は屋台の食べ歩きをするらしい。なので、今は黒剣一党水入らずである。
「沢山食べるのじゃぞ♡」
「ええ、次も頑張ってもらわないとね♡」
机の上に置いた重箱を開けると、中には色とりどりの料理が詰まっていた。
しかも、中身はこれまで俺が美味いと公言したメニューで統一されていた。銀シャリは俵型に握られて海苔が巻かれており、淫魔ソーセージや淫魔チーズなんかもあった。
なんか運動会を思い出すな。控えめに言って超嬉しい。テーマパークに来たみたいだぜ、テンション上がるなぁ。
「これお手拭きッス♡ 手ぇ出してくださいッス♡」
「あ、お茶ご用意しますね♡」
ルクスリリアに手を拭き拭きしてもらい、グーラにお茶を注いでもらう。エリーゼは残る重箱を開封していき、イリハは取り皿をセットしていた。
まさに気分はキングである。まるで何かしらの接待みたいだが、そんなドライなもんじゃあ断じてない。というのも、皆の身体からは極めて分かり易いラブ・オーラが放散されていたのである。
「うん、美味い! 美味い!」
「それはよかったのじゃ♡」
二回戦終わって合流後、最初は何かしら催眠攻撃でも受けたのかと思ったが、話は簡単だった。要するに、リングで戦ってた俺を見て、みんな惚れ直してくれたというのである。
曰く、自分の男もしくは主人が強いのを見ると、異世界女子的にはトゥンクと来ちゃうらしいのだ。それを周りが賞賛してると、尚の事キュンキュンくるんだとか。
後方彼女面ならぬ、後方奴隷面だろうか。とにかく、「あれウチ等の主人なんすよ♡」と内心ドヤれて気持ちいいらしい。分かるような分からんような感覚だが、皆が喜んでるなら何よりである。
「カッコ良かったッスよご主人♡ 帰ったら即吸精するッス♡」
「ルクスリリアじゃないけれど、私も身体が火照って仕方がないわ♡」
「二回戦の立ち回りも見事でした♡ まさか片っ端から相手の武器を取り上げていくなんて♡」
「流石主様じゃ♡ さすぬしじゃ♡」
「いやぁ、それほどでも……」
嬉しい事言ってくれるじゃないの。もうこれだけで大会出た甲斐あるアルヨ。
まぁ一回戦じゃあちょっとやらかしちゃったけど、二回戦の俺は我ながら無双状態だったもんな。もうね、向かってくる敵を千切っては投げ千切っては投げ。
こんなに喜んでくれるのだ。パパ、三回戦も張り切っちゃうぞ。
「すみません。少々お時間よろしいですか?」
と、気分よくしてるところに、突然横から声をかけられた。
視線をやると、そこには見知らぬ獣人女性がいた。
「誰ですか?」
浮かれてるところに水を差された気持ちである。我知らず、俺の声音は一段低くなってしまった。
女性は周囲を憚るようにしてから、僅かに声を漏らした。
「澄刃道場の者です」
「澄刃道場?」
「はい」
澄刃道場というと、デイビットさんのトコじゃないか。何だろう、彼からの伝言だろうか。
それにしては随分とビクついてるというか。てか師範を応援してたんだろうに、澄刃流を表す道着を着ていないのは何故だろう。観客席の門弟は皆そうだったが。
腰に刀がないあたり、ここで俺を殺ろうって訳でもなさそうだ。はて……?
「あの……」
そのようにして訝っていると、獣人女性はなおもキョロキョロと周りを伺っていた。
公園にいる人を、というよりルクスリリア達をチラチラ見ていたのだ。いや、何で?
「お人払いをお願いしても宜しいでしょうか?」
「お断りします。ご用件があるならそのままで」
「え……?」
かと思えば、あろうことか彼女はルクスリリア達を退かせるよう言ってきた。
確かにルクスリリア達は奴隷身分だ。社会的には人型の動く物である。だからといって、俺にとっての皆が他者が思う奴隷身分と同じだと思ってもらっては困る。
座りたいんなら地べたで良いだろう。俺は失礼極まる獣人女を座りながら見下ろした。
なおも要請してくるようなら強制的に排除するつもりだった。ここで警笛魔道具を使えば、桜闘会の運営が飛んでくる手筈なのである。
「ひっ!? えっと、あの……!」
こうなる事を想定していなかったのか、獣人女はオロオロしていた。
用があるなら話せばいい。話さないなら帰れ。俺はそういった意思を視線に籠めた。
「あっ、あの、実は午後の部についてなんですけど……」
「おや、サマンサではありませんか」
「ひゃぁ!?」
ようやっと口を開いたところで、これまた遠くから声。獣人女は更にビクついていた。
獣人女の後方から、道着を着た女性が歩いてくる。声の主は澄刃道場見学を案内してくれたドワーフ師範代だった。
ニコニコ笑っているドワーフ女性に対し、獣人女は全身をバイブレーションさせていた。
「いけませんね。お休み中の闘士に声をかけるなど、礼儀知らずの誹りを免れませんよ」
「い、いえ! 私は個人的な用事で……」
「それでも貴女は澄刃道場の門弟です。立場を弁えた行動を心がけなさい。個人的な用なら桜闘会の後でいいでしょう?」
「ですが私は……」
「いいですね?」
「はい……」
小さく「失礼しました」と言って、獣人女は去っていった。
なんかこっちがいじめたみたいな構図である。が、彼女は普通に迷惑だったので、特にこれといって罪悪感とかは無かった。
「門弟がご迷惑をおかけしました。それでは」
とだけ言って、ドワーフ師範代もあっさり去って行った。
何だか知らんが、女のアレコレだろうか。もしかして、今俺モテ期なのかもしれない。
「モテる男はつらいね」
「ご主人、多分アレそういうのじゃないと思うッス」
「ええ、違うわね」
「あらそう」
二人がそう言うならそうなんだろう。いずれにせよ、面倒事は勘弁である。
まぁモテ期などと恍けてみたが、実際ある程度どんな話が来るか予想はできた。
「聞かなくても良かったのでしょうか?」
「いいんじゃないかの。ロクなもんじゃないと思うのじゃ」
突然、全種総合に参加してきたデイビットさん。師範代同士仲が悪い澄刃道場。桜闘会の現状と、門弟達の心情。
そのへん鑑みて、どうせ八百長のお誘いとかそういう類いの話だろう。大会とかランカー戦に八百長キャラはお約束だしな。
「にしても、澄刃流のデイビットじゃったか。一回戦も二回戦も彼奴の剣捌きは凄かったのぅ」
「はい、まさか剣術だけでなく魔法の方も達者だったとは。特にあの流水剣はどう攻略したものでしょう」
「魔力は程々だったけれど、練りの方は凄まじい速さだったわね。水魔法に特化しているのかしら……」
「森人だけじゃないッス。午後には剣鬼流の魔族も出てくるッスよ。あの人もヤバかったッス。ぜってぇ隠してる技あるッスよ」
「ウラナキさんでしたっけ。確か
「ミアカの母親じゃな。確かにとても大きな氣を持っておったのじゃ。大きさだけで言うと、主様と同等じゃと思う」
二人が去った後、話題は午後のバトルに移っていた。
それはいいのだが、獣人女のせいで彼女達のデレデレモードが解除されたのがとても悲しい。
さっきまで目にハートを浮かべてたグーラも、今やキリッとした戦士の瞳をしている。まぁそんなグーラも好きなのだが。
「こんな事訊いていいか分かんないッスけど、ご主人勝てそうッスか?」
「ん、多分」
「多分って、アナタねぇ……。アナタは強いのだから、もっと堂々となさい」
「そらもう楽勝よ」
「うわ、ご主人っぽさ無くなっちゃったッス!」
「らしくないですね」
「これも余裕の表れかの」
まぁ、せっかくここまで来たのだ。負ける気はなかった。
例え良い条件で八百長を持ちかけられてたとしても、受ける事はなかっただろう。
なにより、皆に良いカッコして更に惚れ直して欲しいしな。
「人事は尽くした。あとは勇気で何とかなるさ」
言って、お茶を啜った。
今から気張っても仕方ない。戦ってみてからのお楽しみだ。実際勝つ気満々だし、その為に編み出した必殺魔剣なのである。
それでもダメだった時は、笑ってごまかすさ。
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文中にあるイシグロの予想は当たっています。
実際、ジャグディ派からの八百長のお誘いでした。