【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。やる気に繋がってます。
 誤字報告もありがとうございます。感謝です。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 今のところお達しはないですね。
 ギリギリセーフと思いたいですが、別にチキンレースがしたい訳ではないんですよね。
 なので、次回更新時にアプデ適用前の前話だけR18に移動させようと思ってます。かといってR18版を書く訳ではありません。ほんへ最優先です。

 また、スピニングロリコン(1)の本文を修正し、桜闘会の日程を変更しました。
 お教え頂きありがとうございます。忘れていたのさ!

 今回は三人称からの一人称、ラストちょっと三人称です。
 よろしくお願いします。

・これまでのあらすじ
 あの後めちゃくちゃフォックスした。



◆追記◆
 前話を削除し、R18の方に移動させました。


炉利しぐれ

 四年に一度のお祭りも、そろそろ終わりの時がきた。

 

 桜闘会最終日、前日。

 今日も今日とて、街のあちらこちらで火花を散らす闘技大会が開かれていた。

 毎年、最終日は花形部門で締めくくられる。各種銀細工限定大会に、プロアマごっちゃの個人部門。人気部門はやっぱり剣で、個人も銀も剣術締めで大盛況間違いなしだった。

 終幕の前の高揚。今のカムイバラには独特な雰囲気があった。

 

 が、今年は例年と異なり、ちょっとピーク過ぎた感が蔓延していた。

 もうベストバウト決まったじゃん、みたいな。

 花形試合の前なのに、消化試合の雰囲気が流れていたのである。

 

「一番強かったのってさぁ」

 

 そんな中、とある飯屋の一角で、派手な着物の男達が朝から酒を呑んでいた。

 その席に座しているのは如何にも遊び人風な面々で、事実その通りだった。この異世界に“遊び人”なるジョブはないが、誰でも転職できる職業ではあったのだ。

 

「やっぱイシグロだろーな。ラリスの冒険者で、現役銀細工。おまけに化け物退治の功績だってある。しかも王都の銀だって話だぜ?」

 

 遊び人達は実際に遊び人で、加えて言うと遊び人道ガチ勢だった。彼等は相当な桜闘会フリークであり、大会中は連日休みを取ってお互いファンネルを飛ばしながら全ての試合を網羅していた。

 今は次の大会に備える為に英気を養っているのだ。遊び人らしく、酒という燃料で。

 

「奴さんの試合、生で見たがよ。あの跳躍は並みじゃあなかったぜ。剣だけじゃねぇ。槍の方も相当だ。しかも無月流っつったら、昔一度てっぺん取ったとこじゃあねぇかってな」

 

 で、そんな男達は異世界的に老若男女が楽しむ話題――最強談義で盛り上がっていた。

 遊び人男とて、例年なら全種総合など見向きもしなかっただろう。どうせ見るならガチな方、真剣試合のが面白いってなもんで、全種総合など仲間内のファンネルジャンケンに負けたハズレ枠だったのだ。

 しかし、今回は違った。ハズレが当たりにメガシンカして、当たった男は意気揚々と観に行ったのである。

 

「でも、全種総合だろ? 優勝したところで大した武勲にゃあならんだろ。前もゲテモノしか出てなかったじゃん」

「バカおめー、今年は澄刃流師範まで居たんだぜ? なんだ、知らなかったのか?」

「マジ? あ、確かに道場戦にはいなかったな……。あー、なら俺もそっち行きたかったなー」

 

 その時、声の大きい彼等の会話に、店の端にいた獣人女性が反応して肩を震わせた。同じテーブルの女性客は冷や汗をかいていた。

 そんな小さい変化に気づくはずもなく、遊び人達は会話に花を咲かせた。

 

「デイビットだけじゃねぇよ。剣鬼流のウラナキまで出てたが、いやぁ強かったぜ。何たってイシグロ相手に善戦してたんだ。間違いねぇよ、あの試合が今回一番の名試合だったぜ」

「一番~? ウラナキっつったら、剣鬼流の師範代だろ? そりゃ吹かし過ぎじゃねぇか? それこそデイビットがいるって言ってたじゃねぇの」

「そりゃあ、澄刃流のトップがイシグロ相手に手も足も出てなかったからよ。俺が見るに、イシグロは完全に遊んでたね。へへ、あっと言う間だったが、気分良かったぜぇ」

「なるほど、歴史の差が出た訳か。そりゃ剣鬼流っつったら牛鬼族の戦場剣だもんな」

 

 酔っ払い達は大きな声で話していた。が、誰も咎めはしない。それどころか、別の席の客も積極的に話を聞いていた。

 

「なぁなぁ、オイラぁその日は仕事で見に行けなかったんだよ。詳しく教えてくれや」

「おぅいいぜ!」

 

 それから、遊び人の口から当時の状況が振り返られた。

 一回戦の様子、二回戦の激闘。そして決勝戦のデイビットの惨敗。

 遊び人の語りは存外堂に入ったもので、いつしか店主まで聞き入っていた。ビデオもラジオもない異世界、こういう娯楽は大歓迎なのだ。

 

「二番目は剣鬼流のウラナキだろ? じゃあ三番目は誰だよ」

「そりゃ秘孔天狗の兄弟じゃねぇかな。二対一とはいえ、イシグロを墜としかけたんだ。結果だけ見りゃ一回戦落ちだが、あいつ等が勝ち残ってたら結果も変わってたかもしれねぇぜ」

「じゃあ、デイビットはあの兄弟以下?」

「甘く見積もって互角ってトコじゃねぇかなー。奴等倒せたのもイシグロの協力ありきだったしよ」

「デイビットねぇ……。まぁ昔は強かったが、最近の澄刃道場はなぁ……。なんつーか、浮ついてる? みたいな。嫌なんだよな、ああいうのが流行る時代っての。あー、武鳴流の頃が懐かしいぜ」

「出たよ武鳴厨! まぁあん時が一番面白かったのは分かるけどさ。今何やってんだっけか」

「圏外で死んだよ。はー、あっちじゃなくて澄刃道場の方が潰れりゃ良かったんだけどなぁ……」

 

 その時、これまで怒りを蓄えていた獣人女がゆらりと立ち上がった。

 それから、獣人女――ジャグディは剣術家らしい歩法で遊び人の席に近づいて行った。

 

「澄刃流ってさ、ぶっちゃけ元々軟弱剣法じゃん。聞いたぜ? 前々から八百長とか、門弟食いまくってるとか、そういう汚い噂あったって。で、今回ラリスもんが化けの皮を剥がしたってワケ。師範がアレじゃ、明日の剣術部門もおしまいだな。剣鬼流と比べると、ありゃただの華剣。実戦じゃあ役に立たない(なまくら)よ」

(なまくら)と言ったか……?」

「へ?」

 

 ゾッとするほど冷たい声。男の後ろに、獅子人の女が立っていた。道着こそ着ていないが、腰に刀を佩いている。

 声をかけられた遊び人男は、自身が桜闘会フリークだからこそ気づけた。目の前の女は、澄刃道場師範代・ジャグディだ。

 澄刃流の剣士の目は据わっていた。異世界において、侮辱に対しては相手を害するに立派な動機になり得る。無論、罪には問われるが、辻斬りなどより遥かに軽い裁きで済まされる。

 この段になって、遊び人の酔いは覚めた。呑んだ酒が冷や汗に代わり、赤かった顔が青くなる。泳いだ双眸には、殺意を漲らせた剣客の姿が映っていた。

 

「澄刃流は、(なまくら)と言ったか。そう訊いている」

「師範代! 今問題を起こされては……!」

 

 静まり返った店の中、ジャグディは刀に手をかけていた。同門の門弟がジャグディを取り押さえようとするが、獅子人の怒りはなおも増すばかりであった。

 ラリスならともかく、カムイバラで刃傷沙汰は非日常だ。店主を含め、この場の一般人は震えあがった。

 そして、ジャグディが半ば刀を抜きかけた、その時である。

 

「喧しいなぁ、ギャーギャーと。発情期か、お主は」

 

 隅の席から、立ち上がった男が一人。

 粋な模様の道中合羽を翻し、男は腰の刀に手を置いた。余裕げに笑む顔の下に、鈍く輝く銀細工。名をジンエモンという。

 この男、相手が格下と見るやドヤ顔でしゃしゃり出てきたのである。しかも前に聞いた台詞をパクッている。彼は内心最高に気持ち良くなっていた。

 

「これは澄刃道場の話だ。余所者が口を挟むな」

「言うねぇ、仔猫ちゃん。だが、ここは飯処でね、逢引茶屋ではないんだぜ。盛りてぇなら他所を当たりな。それとも、今すぐ俺とやりてぇってかい? さてさて何秒持つかな……?」

「くっ、迷宮の棒振りが……!」

 

 針のような鋭い殺気。剣の達者だからこそ、この時ジャグディは自身の分が悪い事に気づく事ができた。

 首の飾りは伊達ではない。同じ剣術使いとはいえ、相手の方が速さに勝るのは自明だろう。

 迷宮剣術など薄汚い邪剣である。力が互角なら勝てるはずなのだ。ジャグディは冒険者に強いコンプレックスを持っていた。

 

「あんた、デイビットの女かい。なら、相応の振る舞いをするんだな。そうじゃねぇと、男の格を下げちまうぜ。ま、銀の俺が言うのも何だがね」

「チッ……!」

 

 忌々しげに舌打ちしたジャグディは、刀から手を離して客を押しのけるように去って行った。

 

「払っておけ」

 

 そう門弟に言い残し、店を出る。慌てて、銭を置いた門弟が後を追った。

 怒る獅子人が消えた後、客から安堵の息が漏れた。事の発端たる遊び人は、気まずくなって店主に謝罪し、その後ジンエモンに奢ってあげていた。

 

「にしても、あんた明日出るんだな。名前教えてくれよ。応援させてもらうぜ」

「“風来”のジンエモンだ。あと、銀細工剣術には俺より使える剣士が出るぜ」

「ん? そいつは誰だい?」

「オロチ・ドッポと言う、黒髪の男でな。最上の試合になるだろうよ」

 

 オロチ? 桜闘会フリークの男は首を傾げた。そんなのいたっけ。

 まぁマイナー闘士だろう。遊び人達は明日の楽しみが増えた事で機嫌を持ち直した。

 

 のど元過ぎればというやつで、こういうところで異世界人のメンタルは精強だった。

 

 

 

 店から出たジャグディは、怒りを放散しながらズンズンと歩いていた。

 

「クソ……!」

 

 道行く町人達は、ひそひそ話をしながら獅子人女とその取り巻きを避けていた。

 そんな師範代の後ろを、門弟はオロオロとついていく。ジャグディは心の靄を振り払うように足を早めた。

 苛立ちの理由は明白だ。思い出すだけで腹が煮える。それは、先の全種総合部門決勝戦の事であった。

 

 例の試合の後、澄刃道場の評価はガタ落ちした。

 二大道場のひとつ、その師範であるデイビットが、訳も分からないポッと出の迷宮潜りに敗れてしまった。しかもただの敗北した訳ではなく、手も足も出ぬまま――素人にはそう見えた――倒されるという、悲惨な負け方をしたのである。

 あまつさえ、つい先日の道場対抗戦でも澄刃流は優勝できなかった。本部の師範代二人が抜けていたとはいえ、あろうことか無名の弱小道場に負けたのである。

 

 そうなると、声の大きい厄介者は「澄刃流弱し」などと喧伝する訳で。

 元々アンチの多かった道場である。悪い噂はあっと言う間に広がって、今では澄刃流ファンが反転アンチになる始末。火消しの為に裏工作を試みたものの、何故か事前に握りつぶされた。

 こういう時こそ推しを推せよとジャグディ個人は思うのだが、そうならないのが現実であった。

 

 ならばと内側だけでも立て直そうとしたが、当のデイビットは何処かへ失踪して行方が知れない。慌てるジャグディに対し、何故かフィーランは気にしていなかった。

 かくなる上は明日の個人剣術部門でジャグディが優勝し、威信を保つ外はない。あるいは、同門のフィーランが優勝すれば……。

 

「ふざけるな……!」

 

 奴が優勝するという事は、自分が負けるという事ではないか。そんなの、あってはならない。同門であっても敵なのだ。

 自分が勝つ。全ての闘士を鎧袖一触し、その報で以て信頼を取り戻すのだ。それしかない。そうでなくば、澄刃道場は、自身が帰属する群れは……。

 

「貴様ら、剣を持て」

「え? いえ、ですが明日の大会に響くのでは……」

「口答えするな」

 

 道場に戻り、ジャグディは剣を振るった。

 只管に、我武者羅に、ただ怨敵を打倒する為に。

 

 その様は、澄刃流の理念から大きく外れていた。

 

 

 

 

 

 

 なんて厳しい戦いだったのかしら……。

 

 朝な夕な続く過酷な発情期ックスにより、俺は無事荒ぶる魂を静める事ができた。

 そうして余韻を楽しんでいると、いつの間にか姉弟子の試合当日になっていたのである。

 それから慌てて身だしなみを整え、南区のクソデカ闘技場へと向かった。人混みのせいで遅れたというのは、遅刻の言い訳にはならないか。

 

「すみません遅れました」

「む、来たか」

 

 関係者入口からVIP席に通されると、当然そこにはゲルトラウデ師匠がいた。既に試合は始まっていたが、アンゼルマさんの出番にはギリギリ間に合ったようである。

 ライドウさんに貰ったVIP席は半分部屋みたいなプライベート空間なので、個人的にはこっちのが好きだ。俺はソファに座って一息吐いた。

 

「あの闘士、待ちの姿勢に入ってるわね。良い選択とは思えないけれど」

「どうでしょう。相手からすると、守りを固められる方が嫌なのかもしれません。事実、攻めあぐねています」

「わしなら陰陽術でちょっかいかけられるが、刀だけじゃとキツそうじゃな……」

「あ、ラリスサンドあるじゃないッスか。久しぶりに食べたくなったッス! ご主人、頼んじゃっていいッスか?」

 

 リンジュに来た当初は野暮な事言ってた皆も今ではすっかりハマッたようで、グーラとエリーゼは闘技大会に夢中だった。

 ルクスリリアはそこまでといった感じ。一方、イリハは闘士の戦いを見て勉強しているようだった。

 

「ご主人♡ はい、あ~ん♡」

「ん、ありがとう」

 

 時に、スポーツ観戦しながらの食事はどうしてこうも美味しいのだろうか。

 前世では特にこれといってスポーツに感心はなかったが、友人と観に行ったセパ交流戦は結構楽しかったのを覚えている。

 異世界じゃあ愛する恋人とVIP席で観戦である。身体的接触もいいが、人前で控えめなイチャつきを楽しむのも心の健康に良い。

 

「えーっと、次がアンゼルマさんの試合ですね」

「初戦から厳しい戦いになる。気合次第ではあっさり負けてしまうだろうな」

 

 個人剣術部門は、現役冒険者を除く全ての刀剣使いが出る部門だ。

 冒険者ではないとはいえ、異世界人の身体スペックは大したものである。異世界パンピーの試合は剣道のソレというより、アクション映画の剣戟シーンって感じで存外見応えがあった。

 

「おや、あっさり勝ちましたね」

「相手は緊張していた。勝ってもらわねば困る」

 

 この後半戦は選抜を生き残った闘士だけで行われる大会だ。当然、出場闘士は優秀な剣術家であり、生き残っているのはガチ勢だけだ。

 そんな大会を、アンゼルマさんは危なげなく勝ち進んでいった。このままなら優勝しちゃうんじゃないか? それくらい順調だったのだ。

 

「あ! あの獅子人、澄刃道場にいた女ッスよ! シツレーな奴だったの覚えてるッス!」

「ん? あー、居たなそんなの」

 

 勝ちに勝って準決勝。ダークホース・アンゼルマさんの相手は、澄刃道場の師範代だった。

 誰だっけ、獅子人族女性の師範代だ。名前は知らないが、試合を見るに相手はかなりの使い手だった。

 

「氣がブレておる。あれなら刀一本でやれそうじゃな」

「剣筋が真っすぐ過ぎます。相手はアンゼルマさんを見ていません」

「私でも勝てそうだけれど……。アンゼルマには厳しい相手ね」

 

 試合開始、獅子人の力強い剣に徐々に押されていくアンゼルマさん。獅子人師範代は荒々しいガン攻めを継続していた。アンゼルマさんはギリギリで踏ん張って耐えているといった感じ。

 そして、とうとうアンゼルマさんは膝をついた。そこに大きく踏み込んだ獅子人。瞬間、無月流の突きが相手の鳩尾にヒットした。習ったから分かる、無月流・壱ノ型だ。

 吹き飛ばされた獅子人師範代は、鳩尾を押さえながら悶絶していた。試合終了の鐘が鳴り、アンゼルマさんは一発逆転で勝利した。

 

「おぉ……! 勝ちましたね、師匠」

「いや、アンゼルマの勝利ではないな。相手が敗北しただけだ」

「運も実力のうちじゃないですか?」

「実力こそが運なのは戦場や迷宮の話だ。アレは無月流ではない。誇るなど以ての外だ」

「厳しいですね。今くらい褒めてあげてもいいんじゃないですか? 喜ぶと思いますよ」

「む、そうか。そうだな……」

 

 試合に勝ったアンゼルマさんは満面のスマイルでぴょんぴょん跳ねていた。

 厳しい事を言ってるゲルトラウデ師匠だが、彼女も何だかんだ嬉しそうである。

 

「決勝も澄刃流ッスか。なんで道場部門に出てないんスかね」

「さぁ? 色々とあるのでしょう、ロクでもない事が」

「えーっと、師範の取り合いでしょうか?」

「うちの一党は平和で良かったのじゃ……」

 

 続く決勝戦、アンゼルマさんの相手はこれまた澄刃流の師範代だった。道場見学を案内してくれたドワーフ女性である。

 試合が始まると、アンゼルマさんは順当に押されていった。さっきのは獅子人女が焦って自滅した感じだが、今回はモロに実力が出てる印象。身体スペックも向こうのが上っぽいし、こりゃ勝てませんわ。

 案の定、アンゼルマさんは敗北した。最後まで粘っていた分、ガッツがあるとして何だかんだ観客は敗者にも拍手贈ってたし、良い試合だったと言えるだろう。

 

 とはいえ準優勝は素晴らしい成果だ。唯心無月流の名声も上がっただろうし、今度こそ流行ってくれるといいな。

 ていうか、いつの間にか潰れてましたとか、そういうオチは止めてほしいのである。融資断られちゃったんだよなぁ。

 

「やった、やったよ! このお金があれば道場建て直せるね! 雨漏りも隙間風も無い道場にしよう!」

「いや、それはお前の好きに使うといい」

「うん! じゃあ建て直すね!」

 

 大会終了後、準優勝できて嬉しいといった表情のアンゼルマさんと合流。

 賞金の使い道で言い争う二人だが、仲のいい親子の会話にほっこりである。

 

「おめでとうございます。お祝いに何処か食べに行きましょうか。奢りますよ」

「やったー! イシグロさん大好きー! は、言わない方が良かったかな? えへへ」

 

 頑張った姉弟子には、弟弟子からの労いである。

 当然、師匠や俺の一党も一緒だ。アンゼルマさんは日本基準十分に巨なる乳の持ち主なので、自動的に皆から浮気を疑われないのは有難いね。

 前世、友人の多くはおっぱい星人だったけど、デカいおっぱいの良さってぶっちゃけ全く分からんのよな俺。小さな乳を“貧しい乳”と表すのも遺憾の極みだ。薄い胸こそ真の美乳であろうがよ。

 

「それでは、桜闘会お疲れ様でした」

「ごちになりまーす!」

 

 なんて思いつつ、やって来たのは個室の料亭だ。畳の部屋から見える中庭が淡い月光に照らされて実に美しい。

 机に並んだ料理はというと、ワンランク上のリンジュ料理って雰囲気だ。冷奴っぽい豆腐は何か綺麗に盛り付けられてるし、小さな椀のミニ蕎麦も芸術品のようである。綺麗過ぎて食べるの躊躇うというか。

 まぁ食べるんですけどね。うん、OC!

 

「美しい料理ね。どう食べるのが正解なのかしら……?」

「上から順というのが正しいんじゃが、最近は気にせんでいいらしいのぅ」

「なんスかこの草? 食っていいんスかね? あむ、ん!? クッソ苦ぇッス!」

「それは他のと一緒に食べるやつなのじゃ」

 

 エリーゼはすっかり箸に慣れたようで、その所作は実に様になっていた。

 ルクスリリアも箸の扱いは上手になってたが、相変わらず忙しい食器捌きだ。気になったモンをパクパクやっている。

 

「はむ、ん~! とっても美味しいれふ! んく……何でしょう、味に奥行きがあるというか。とにかく美味しいですね!」

「むむむ……これは何のダシを使ってるのかのぅ? 匂いは……魚っぽいが……」

 

 グーラは相変わらず勢いよく食べているが、彼女の食べっぷりに見苦しい所がない。お迎えしてからこっち、いつも嬉しそうにご飯を食べてくれている。

 イリハは料亭の味を盗もうと一生懸命だった。実に勉強熱心なフォックスである。今現在、彼女の料理レパートリーは広がり続けていた。義務というより、趣味の延長として。

 

「久しぶりに呑むが、やはりリンジュ酒はいいな」

「んっ、ファーッ! 甘い甘い! お酒って、革命(レボリューション)なんだ!」

 

 エリーゼ然り、竜族はお酒大好き種族である。ドラゴン母娘は美味しそうにリンジュ酒を呑んでいた。

 アンゼルマさんは初の酒らしいが、種族柄かとても美味しく感じているようだ。

 

「そういやぁ、イシグロさんって明日の宴に出るんだよね?」

「はい、ライドウさんからお誘い頂きまして」

 

 アンゼルマさんの言う宴とは、ライドウさんに誘われた関係者限定パーティで、偉い人とお話をするタイプのアレだ。

 正直、ナーロッパーティなど行きたくないが、仕方ない。後ろ盾になってくれるらしい人には挨拶しておくのが礼儀だろう。その為に服屋で買い物した訳だし。

 そいえば、俺が出た大会のVIP席にはアリエルさんとイスラさんもいたんだよな。協会関係の仕事だろうか。パーティにいたら挨拶しとこう。

 

「上らへんの宴って雰囲気堅そうだよね。イシグロさんテーブルマナーとか大丈夫? あ、今のは皮肉とかじゃなくってね?」

「古式なら、ある程度は。けど自信はありませんね」

「安心なさい。アナタは十分できているわ」

 

 各種異世界マナーに関しては、エリーゼ先生にみっちり教育されている。とはいえ現役冒険者にはそこまで求められないようだが、出来て損はないだろう。

 それに、パーティの仕様は事前に聞かされている。舞踏会ではない、ラリス式のシンプル立食パーティだ。そこならエリーゼの知ってるマナーで大丈夫なはずだ。

 ふと、送られてきた書類の中身を思い出した。俺の一党への招待状に加え、もう一つ同伴者用の招待状もあったのだ。

 

「そういえば、同伴者として誰か一人呼べるみたいですよ。師匠はどうですか?」

「私はいい。ああいうのは好かん。アンゼルマはどうだ?」

「いやー、ちょっとなぁ。うん、やめとくね!」

 

 あっさり断られた。そういうの好きそうじゃないもんな。俺も好きじゃないが、これも主人の務めである。

 一党への招待状というように、パーティにはルクスリリア達もついていく予定だ。奴隷身分だからダメとは書いてなかったし、向こうもそのつもりだろう。

 

「面倒なん嫌なんで、アタシぁずっと黙ってるッスわ」

「それがいいわ。何を言われても主人の方を見ているのが最善よ」

「ちょっと怖いですけど、ご主人様の奴隷に恥じぬ振る舞いを心がけたいです」

「まぁ後ろにおるだけじゃし、気は楽じゃな。主様は頑張る事になりそうじゃが」

「俺に変身してイリハがやってくれないかな」

「できるんスか?」

「う~ん、無理じゃな。出来ても動きが女っぽくなるぞ」

「そのうち多重影分身を……」

「まだ言っているわ」

「分身って、忍術っぽくはないですよね」

「そうかなぁ。故郷じゃあメジャー忍法なんだけども」

 

 他愛のない会話などしつつ、賑やかな食事が続く。師匠達もクイクイ酒を呑んでいた。

 戦いの後に相応しい、楽しい宴であった。

 

 思えば、リンジュに来てから結構長い。冬の始めに来て、今は春だ。

 道場にも通ったし、温泉にも浸かった。まだまだ残ってるが一通りの名所も巡ったし、何故か大会に出て優勝した。

 何より、イリハに出会えた事が素晴らしいな。もしカムイバラに来てなかったとしたら、考えるだけで恐ろしい。イリハを助けられてよかった。

 

 そろそろ帰るか。

 

 ふと、そう思った。

 どうやら、俺は王都を帰る場所だと思ってるらしい。

 そんで、また来よう。リンジュは良い所だ。

 

 

 

 夜も深まった頃、俺達は料亭を出た。

 大食漢の一党と違い、竜族母娘は割と早めにご馳走様したのだ。

 まぁその後はずっと酒呑んでた訳だが。

 

「ぐぇ~、気持ち悪いぃ……」

「むぅ、頭がクラクラする……」

「師匠呑み過ぎですよ」

 

 酒好きドラゴンさんは久しぶりの酒で呑み過ぎてしまったようだ。この世界、飲酒は毒としてレジストできないのだ。

 アンゼルマさんはというと、呻きながら半分眠っている。彼女はイリハの結界担架で運搬されていた。

 

「道中危ないですし、お送りしますよ」

「大丈夫だ、問題ない。うぷっ……」

「問題起こらないようにです」

 

 酔っ払いを連れ、唯心無月流の道場へ向かう。

 相変わらず道行く人は多いのだが、なんだかしんみりしてる雰囲気。祭りの後の寂しさというか、なんかこういうの久しぶりである。

 

 出会いでいうと、師匠と姉弟子もそうだ。最初こそギスッてたが、今となっては良い関係を築けていると思う。

 異世界にて、俺はしがらみというものを嫌がっていたが、こういう良い縁は大事にしたいね。

 

 そういえばと、その時ラリス西区の人等の事を思い出した。

 受付おじさんに、武器工匠のドワルフ。稽古つけてくれたニーナさん、醤油開発者のシュロメさん。新人冒険者のトリクシィさんに、娼館大好きウィードさん。他にも沢山……。

 皆のおみやげとか、何にしようかな。

 

「店探さなきゃな」

 

 地球でも異世界でも、おみやげ選ぶ時ってのは楽しいもんで。

 帰る準備を進めようか。

 

 

 

 

 

 

 人気(ひとけ)のない唯心無月流道場。

 喧騒から外れた道場は、壁と言わず床や天井などところどころ穴が開いて倒壊寸前の様相を呈していた。

 

 その場には、三つの人影があった。

 肩を喘がせ刀を構えるドワーフ女と、刀を杖に立ち上がろうとする獅子人女。それから、刀を手に立ち尽くす森人男性。

 皆、ガチバトル用のマジ装備。森人は杖を、ドワーフは大太刀を、獅子人女は分厚い革鎧を纏っていた。

 

「フィイイイーラァァァァアン……!」

 

 半壊した鎧を纏う獅子人女――ジャグディは、憎悪に満ちた目でドワーフ女を見ていた。

 

「ジャァグディイイイイ……!」

 

 大太刀を下げ、肩で息をしているのは同じく師範代のフィーランである。

 

「二人とも……」

 

 デイビットは、憂いに沈んだ目で二人の戦いを見ていた。

 仲裁しようとして、二人に止められてしまったのだ。

 

 斬り合い、殺し合い、罵り合い。

 散々感情をぶつけあった後には、見るも無残な戦の痕跡があった。

 道場は崩壊一歩手前で、建物外の周辺には攻撃魔法の痕跡さえあった。汚れひとつないデイビットはともかく、女二人はどちらとも知れぬ血と土汚れに塗れていた。

 

 桜闘会の直後である。現在、街を守る同心は出払っているだろう。

 ぶつかり合って尚、直接止められて尚、二人の戦意に陰りはなかった。

 緊張に満ちた空間。リンジュの月が辺りを照らした。

 

「……あの~」

 

 月光の外、影から声がかけられる。

 闇から姿を現したのは、イシグロ一党と家主の無月流母娘であった。

 竜族母娘以外、迷宮用のガチ装備をしていた。

 

「どういう状況……?」

 

 言って。首をかしげるイシグロ。

 奴隷達は「さぁ?」みたいな表情で見返していた。淫魔だけは「ははぁん?」みたいな顔で面白がっていた。

 

「あ……」

 

 アンゼルマの視線の先、自宅の道場が半壊していた。元々ボロだったとはいえ、最近DIYして補修したばかりだったのだ。

 原型こそ保っているが、今や雨も風も防げそうにない。マジで今突っついたら全部崩れちゃうんじゃないかってくらい、ズタズタにされていた。

 

「ふむ……」

 

 我が家の惨状に唖然とする娘に対し、母は冷静に顎に手をやって思案していた。

 それからポンと手を打ち、云った。

 

「今なら安く建て直せるか……!?」

「お母さん!?」

 

 ちょっとズレた母親だった。

 決して、酔ってたが故の発言ではない。




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 竜族は比較的酒耐性が高いですが、鬼人ほどではありません。
 エリーゼがお酒に強いのは本人の特質によるところが大きいです。
 もうお気づきかもしれませんが、作者はロリキャラが飲酒してるのが好きという性癖があり……。
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