【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。続きを書く力になっています。
 誤字報告もありがとうございます。いつも助かっています。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 という訳で、今日中に前々話をR18に移動させます。移動に伴い、修正前を載せておきます。
 ここすき、感想など頂きありがとうございました。しおりについてもお気を付けください。

 今回は最初三人称、後に一人称。
 よろしくお願いします。


がんばれ!ロリコンジャー!

 桜闘会、個人剣術部門。

 準決勝戦にて。

 澄刃道場師範代・ジャグディ、敗北。

 

 知らない天井を見上げ、自派閥の門弟に自身の敗北を聞かされた時、ジャグディはそれを理解できなかった。

 激しい剣戟の末、体勢を崩した相手にトドメの一撃を与え、勝利したのではなかったか。

 実際にはその逆で、ジャグディはたった一発の突きで以て気絶してしまったという。

 

「そんな、嘘だろう……!」

 

 慌てて闘技場に戻ると、決勝に上がったフィーランが半竜の娘を打倒したところだった。花形大会にて、有終の美を飾ったのは自分ではなく、忌々しいドワーフ女だった。

 優勝は澄刃道場師範代のフィーラン。準優勝が無月流の半竜。そして、その半竜に負けたのが同門の師範代であるジャグディ。

 戦いの結果だけが、当人の理解と納得を置いて過ぎていった。

 

「バカな……! この私があの程度の相手に負ける訳がない!」

 

 無月流の半竜、アンゼルマ。竜族の娘とはいえ、力も技も自身の方が勝っているはずだ。事実、奴はジャグディの剣に圧倒されていたのである。

 それをジャグディが気づけぬ方法で、あまつさえ一撃で倒すなど、到底あり得る事ではないように思えた。

 剣に細工がされていたとか、こっそりと能力を向上させる装飾品やポーションを持ち込んでいたとか。あるいは、検査をすり抜けるようなやり方を使ったのでは……。

 

「そうだ、奴は竜族の娘! 何か、話に聞く権能とやらを使ったに違いない……!」

 

 そう思い関係者に申し立てるも、ロクな調査をされる事もなく「不正はなかった」の一点張りだった。

 ならばせめて再戦をと言っても、にべもなく断られた。これ以上言うようなら、会を侮辱したとして失格処分にするとまで言われてしまった。

 どう考えても怪しい。無月流が桜闘会の運営を丸め込んでいるとしか思えなかった。

 

「私は澄刃流の師範代だぞ!? なぜ耳を傾けない? 運営の体制はどうなっている!」

 

 これ以上はどうしようもない。ジャグディは運営に見切りをつけ、先の事を考えた。

 だが、直近の未来においてプラスになる要素など見当もつかなかった。

 

 先の師範の敗北に加え、強豪道場の師範代の一人が弱小道場の小娘に負けたのだ。ネームバリューがいくらあっても、弱い道場に人は来ない。澄刃流に纏わりつく噂を鑑みるに、門弟の流出は多くなると予想できた。

 それどころか、在籍する門弟にも道場を抜ける者が出てくるだろう。本部も掌握しきれていないのだ。支部ともなれば、ジャグディがコントロールできる範疇を超えている。

 とにかく状況を把握し、手を打たねば。ジャグディは急いで道場に戻った。

 

「ジャグディ師範代、お話がございます」

 

 澄刃流の本部に戻ると、そこでは同門の支部を任された師範代達が待っていた。

 そんな支部長達からの話を無視して対策会議を開こうとした矢先、彼等彼女等から一枚の紙を渡された。

 

「我等は新しい道場を立てる事にしました。場所は支部を使うようにと、師範から。代表は自分が」

「なに……?」

 

 それは、澄刃流の分派許可証だった。

 支部長たちは澄刃流を抜け、新しい流派を立ち上げると宣言してきたのだ。それに伴い、支部の多くの門弟が現澄刃道場から移動するという。

 ふざけた話である。だが、その紙にはジャグディを除く全師範代の名に加え、師範デイビットの名前まで書かれていた。

 あまつさえ丸め込んだはずの師範代もまた、新道場への移籍者として記名されていた。ジャグディ視点、それは裏切りに他ならなかった。

 

「新しい道場では、澄刃流本来の理念に基づいた経営をするつもりです。デイビット師範も、賛同してくださいました」

 

 そう言って、支部長達は澄刃道場を去って行った。僅かな手切れ金だけを残して。どういう事だ、あまりにも展開が早すぎる。

 残ったのは、ジャグディ派とフィーラン派の本部門弟。それから元の三分の一以下になった初段門弟だけだ。しかし、遠からず残った者も件の新流派に移るか、他の道場に通うだろう。そうなれば、元祖澄刃流の門弟数は如何ほど残る? 残った数で、今の規模に戻るにはどれほどの金と時間がかかる? 全ての支部を使えなくなった現在、本部だけで回さなくてはならないのである。金こそあるが、それで何とかなる訳もない。必要なのは力なのだ。

 

「どうする! どうすればいい!?」

 

 人数が減ったという事は、格が落ちるという事だ。

 格が落ちるという事は、これまで使えた裏の力押しが使えなくなる。特権を失うという事なのだ。

 

 一からのやり直し。否、マイナスからの再スタートだ。

 それどころか、これまで隠蔽してきた事が公になる可能性さえある。それを使われ、今度は澄刃道場が操られるかもしれない。

 此方が握っている弱みも、格が低けりゃ効力を発揮しない。いくら人数を残そうと、まとめる役が不足している。

 結束にしたって、今デイビットが何処にいるか分からないのだ。フィーランは敵対派閥であり、奴の性格的に後ろから刺してくる可能性さえあるではないか。

 

「詰み、か……?」

 

 全身から力が抜けた。

 これまでの努力が水の泡だ。

 ジャグディは失意のまま自宅に戻った。

 

「デイビットもフィーランも、どうなっている! 道場が潰れて良いとでも思っているのか!?」

 

 自宅で一人、酒を呑む。

 高級酒のはずが、不味くて仕方が無かった。

 酔いが回っていくにつれ、ジャグディの脳内には以前から燻っていた怨嗟が満ち満ちていった。

 

 おかしい、こんな事は許されない。

 どいつもこいつも、どうかしている。何故、組織の成長を邪魔してくるのだ。人の足を引っ張る事に罪悪感はないのか。

 これまで上手く回っていたのだ。それでよかったはずだ。自分のやってきた事は正しい。にも拘わらず、内から外から邪魔ばかりされる。

 声が大きいだけの弱者共。努力もせず才能も無いバカの外野が、賢しいフリをして見下してくる。そんな状況、耐えられない。

 

「気に入らない、気に入らない……!」

 

 英雄などともてはやされ、残酷なやり方で澄刃流に汚泥を塗りつけたイシグロ。

 訳の分からない卑怯な手を使い、大衆の面前で恥をかかせてきた無月流の小娘。

 流派の分裂。支部の売却。完了済みの手続き。恐らく裏で糸を引いていたであろう、同門にして怨敵のフィーラン。

 自身を取り巻く現状、その全てが憎かった。この状況を良しとし、あまつさえ姿を見せないデイビットさえ同様に。

 

「この恨み、晴らさでおくべきか!」

 

 悪を野放しにしてはならない。正しい者が虐げられるなど、あってはならないのだ。

 お礼参りである。逆襲だ。応報せねばならない。

 ジャグディは故郷から持ってきた鎧を身に着け、真新しい刀を佩いた。

 

 まずは、無月流という弱小道場をぶっ壊す。今だからこそ可能だ。幸い目的地に人気はない。誰にも見つからず、事を成せるだろう。

 その後は易い順に一人ずつ始末する。元銀細工の仕掛け人を雇って敵対派閥を潰し、イシグロを殺し、裏切り者を誅殺する。

 最後にフィーランを浮浪者に犯させる。さぞ可愛がってくれるだろう。そしてボロボロになったドワーフ女を消し、道場を再建するのだ。奴さえいなければ、何とでもなる。そのはずだ。

 

「待っていましたよ、ジャグディ」

 

 だが、向かった先で、件のドワーフ女が待っていた。

 彼女は冒険者時代の装備を着込み、使い込まれた太刀を提げて佇んでいた。

 隠れた月の下、その双眸を戦意で以て爛々と光らせて。

 

「決着をつけましょうか」

 

 怒りに呑まれたジャグディは、順序を変更した。

 最初にこの女を殺す。他はその後だ。

 

「死ね、お前が気に入らない……!」

「私もですよ、クソ女……!」

 

 こうして、因縁の殺し合いが始まったのだ。

 

 

 

 

 

 

 忘れていたつもりは無かったが、異世界の治安ってのはやっぱり日本より悪いらしい。

 いやだって、スポーツ大会最終日に、帰ってきたら家壊されてましたって事件に遭遇しちゃったからね。

 あろうことか、恐らくやったのは相手チームの選手である。スポーツマンシップはどうなってんだ、スポーツマンシップは。

 

「……あの~」

 

 酔い状態の母娘を送ってる最中、目的地付近でエリーゼが殺意の混じった魔力を感じ取った。穏やかじゃないですね。

 用心の為に全員に迷宮用防具を着せ、最大限警戒しながら向かった。お祭り中は御上り銀細工も多いらしいし、飯屋みたいにまた喧嘩してるんじゃあないのかと。

 すると、そこには……。

 

「どういう状況……?」

 

 澄刃道場師範代の二人がガチ喧嘩してて、それを師範のデイビットさんが見守っていたのである。

 なにこれ? エクストリーム痴話喧嘩? にしたって、何故に無月流道場で? しかも門といい壁といいデッカい穴が空いちゃってるじゃあないか。

 崩壊寸前の自宅を見て、師匠は解体の手間が省けたと喜んでたが、娘は我が家の崩壊にショックを受けてるようだった。

 

「ゲルトラウデさん、イシグロさんも、ご迷惑をおかけしています。状況を説明させてもらってもよろしいでしょうか?」

 

 沈痛そうなデイビットさんの話を聞くに、こういう事らしい。

 まず、デイビットさんは俺に負けた後に一人で修行してたところ、フィーランさん――ドワーフ女性――がやってきて、これまでジャグディさん――獅子人師範代――がやらかしてきた裏工作的なアレコレを告発してきたと。

 信じられないと言うデイビットさんに無月流道場に来るよう言って、その通りにした彼の前でジャグディさんは無月流道場を物理的に破壊しようとしたらしい。玄関に空いてる大穴が一発目で、いや止めなよ……。

 

「え!? なにそれ酷い! 負けた腹いせって事!? バカじゃないの!? まともな神経してる人がやる事じゃないよ!」

 

 と、素直な反応をするアンゼルマさん。わかるマンである。

 

「なんつーか、雑にださいッスね」

「戦士の風上にも置けないわね……」

「イライジャ様の子孫の姿ですか……? これが……」

「わしぁ同じ獣人種として恥ずかしいのじゃ……」

 

 皆もジャグディさんの所業には呆れていた。ワイトもそう思います。

 

「しょーもない……」

 

 つまり、アレだ。お礼参りである。

 やり返したい、ムカつく奴を懲らしめたい、そういう感情自体は理解できるが、それを実行しちゃうあたりマジモンだ。そもそも負けた相手の家を壊したところで何も良い事なんて無いと思うのだが……。

 それ以前に、ジャグディさんが前から裏で色々やってたってのも驚きである。まさか、無月流のネガキャンなんかまでしてたとはね。道理でパンフの記載に偏りがあった訳だ。

 

「ふむ、何も盗んではいないのだな?」

「は、はい。ずっと戦っていたので……」

 

 憤慨するアンゼルマさんと違い、母親のゲルトラウデ師匠は冷静だった。

 冷静に、自宅にコレクションしていたヴィーカさんグッズやエリーゼのサインなどを気にしていた。あと書きかけの原稿とか。

 問いに答えているのはフィーランさんだ。未だ疲労困憊といった雰囲気だが、頭の方は冷えているようである。対し、ジャグディさんは俯いていて表情を窺えない。

 

「勿論、損害賠償はさせていただきます。慰謝料に関しても……」

「いや、これは僕の責任だ。全ての賠償は僕が持つ」

 

 フィーランさんの言葉をデイビットさんが引き継いだ。これにはジャグディさんも顔を上げ、信じられないという表情を浮かべていた。

 デイビットさん曰く、裏の事情を知らなかったとはいえ、事の発端は彼の浮気が原因だったらしいのだ。全てとは言うまいが、責任の一端はあるだろう。

 嘘か真か、デイビットさんは事の多くを把握していなかったそうな。恋人であるフィーランさんの嘆願を軽視し、一度情を交わしたジャグディさんとの関係も切れなかった。本人的には、「そのうち何とかなるだろう」という森人精神でハーレムをやってくつもりだったという。

 

「ジャグディ、勝敗は決まった。僕と一緒に武行に行こう」

 

 そんな彼だが、この段になって腹をくくったようである。

 法的な贖罪、男としての責任を果たす為、彼はジャグディさんに手を差し伸べていた。

 伸ばされた手を見て、ジャグディさんは小さくなった目を震わせていた。

 

「だ、だが! そんな事をしては、今まで積み上げてきたものが……!」

「そんなのは些事さ。それより、罪を償う方が先だよ」

「……はぁ?」

 

 惚れた男の言葉に、ジャグディさんは心底理解できないといった表情を浮かべていた。

 

「お、おおぉぉぉ……!」

 

 それから、みるみるうちに顔を強張らせ、怒りの感情を溢れさせた。

 

「お前なぁぁぁ! 誰のお陰でここまで成り上がれたと思っている! 私がやったのだ! 営業も! 議会への根回しも! お前のシモの世話だって! 全て私がやってやったのだ! 道場はお前だけのものではない! 私がいなけりゃあ弱小お遊戯道場のままだったろうが! それを今更! さんざん利用しておいて! 何様のつもりだ! 恩知らずがぁ!」

「頼んでないじゃないか」

「なに! なにを……!」

 

 答えるデイビットさんは、とても悲しそうな顔をしていた。

 アニメ版伊藤誠が、原作版伊藤誠の表情になっていた。

 

「確かに君の誘いに乗ったのは僕だ。一時の欲望に流されたのも事実で、君の努力のお陰で道場を大きくできたのもその通りだ。何も考えず、僕はその恩恵を享受していた。僕の道場を大きくできたのは、全て君の尽力あってこそだ」

「あぁそうだ! お前は黙って私の言う事を聞いていればいいのだ!」

「けど、そんなの頼んでないよ。僕は元々、道場を大きくするつもりなんて無かった。ただ純粋に、剣の道を楽しんでもらいたかったんだ。まして、卑劣なやり方で他の道場を貶めるなんて、認めた覚えはないよ」

「んぅ……!? ぐぅううううう……!」

 

 言葉も出ないようで、ジャグディさんは歯を食いしばって俯いてしまった。

 静寂の中、獅子人の低い唸りが響く。そんな彼女の様を、澄刃流の二人は各々複雑そうな顔で見下ろしていた。

 

「いつまで続くんスかね?」

「しっ、今シリアスだから……」

 

 ルクスリリアの呟きに、内心同意しつつ窘める。

 完全に蚊帳の外だし、俺等そろそろ帰っていいですか? って気分である。ただ、今帰ったら空気読めない奴みたいになっちゃうじゃん。それは、ねぇ?

 

「そろそろかのぅ……?」

「そのようね……」

 

 ボーッとしていると、ふいにイリハとエリーゼが呟いた。

 え? 何が? と訊こうとしたら、ぐらりとジャグディさんは立ち上がった。

 倒れる寸前だというのに、異常な熱を湛えながら。

 

「グルゥウウウウ……! グゥウウウウウ!」

 

 暴走グーラを想起させる、獣のような唸り。籠められた力に刀を握る手が震えていて、その双眸は異常な程の憤怒に満ちていた。

 完全に臨戦態勢である。彼女と相対するデイビットさんは、なおも悲しげな顔になっていた。

 

「ガァアアアアアアッ!」

「ジャグディ……!」

 

 大きく振りかぶって、身体全体をぶつけるように突進するジャグディさん。力強く弧を描いた一撃を、デイビットさんは難なく受け流した。

 だが、彼は返す刀を躊躇ってしまった。瞬間、獅子人女はすり抜けるようにして此方に突撃してきた。

 

「死ねぇええええ!」

 

 凄まじい気迫。あまりにも濃い殺意。女の怨讐とはこうも恐ろしいものか。肝を潰して怖がるアンゼルマさんの前に、刀に手を添えた師匠が立ちはだかる。

 とはいえ、想定の範囲内。対策済みだ。

 

「ぐお!?」

 

 疾走の最中、ジャグディさんは仰向けに転倒した。イリハの足枷結界に引っかかったのだ。

 続いて、エリーゼの拘束魔法が四肢を縛り、ルクスリリアの魔力網が追い打ちをかける。残念ながら、両方ともレジストには魔力消費と魔防ステが必要なので、どんだけ筋肉あっても抜けられないぜ。

 

「シュート!」

 

 倒れるジャグディに対し、グーラの手首に装備されたブレスレット型深域武装から某蜘蛛男のように鎖が射出された。

 鎖付き短剣がジャグディの武器に突き刺さると、そのままシュルシュルと巻き取って刀を奪っていった。武器ガード=武器没収とか、ゲームならナーフ不可避である。

 で、仕上げはイシグロさんだ。このロリコン、容赦せん。

 

「そぉい!」

「んがッ!」

 

 物理的詠唱妨害である。俺はうつ伏せに倒れるジャグディの顎にサッカーボールキックを食らわせ、顎の骨を砕いた。

 この世界、武装解除は顎で〆るのが鉄則である。彼女が魔法を使えるかどうかは知らないが、無いと踏んで下手をこくのは死ぬほどダサい。多少荒っぽいやり方になったが、手足を斬らないだけ有情だと思って欲しいものである。

 

「今のは自分の一党への敵対行為って事でいいんでしょうか」

「ま、待ってくださいイシグロさん!」

 

 倒れ伏すジャグディの首に無銘を突きつけると、デイビットさんが制止してきた。フィーランさんは無言だ。

 

「いや、狙いはアンゼルマだったぞ。お前が勝手に間に入ってきたのだ」

「お母さん! その言い方は情緒がないよ!」

「む、そうか。そうだな」

 

 こんな時もほっこり会話をしている。俺とてマジでそう思ってる訳ではないので、警戒したままゆっくりと切っ先を離した。

 すると、澄刃流の二人は慌てて近づいてきた。フィーランさんは戦闘の影響で動きが鈍いようだ。

 

「判断が遅れました。重ね重ね申し訳ありません」

「あががが……!」

 

 刀をしまい、デイビットさんが頭を下げて来る。フィーランさんもそれに続いた。

 なおも怨嗟を吐き出そうとするジャグディだが、顎が砕けてモノを言えないようだ。

 そんな獅子人を見ながら、師匠は「ふむ」と興味深げな顔になっていた。

 

「差し詰め、堕ちる道連れにアンゼルマを斬るつもりだったのだろうが……安心しろ、貴様は娘よりも強いぞ。実際、貴様が負けたのは貴様自身の精神であって、娘が勝った訳ではないのだからな」

 

 黙ったジャグディに、師匠は表情を変えずに続けた。

 

「ただ、仮にここで娘に勝利を収めたとして、貴様が桜闘会で敗れた事実は変えられんぞ。どちらにせよ無駄な行いだったな」

「それも情緒がないよ、お母さん……」

「うむ、だから諦めず修行しろと続けるつもりだったのだが」

「やっぱ竜族って酷薄だよねー」

「あぉああああ! ぐがっがががが……!」

 

 一拍置いて、ジャグディは再度怒りを爆発させた。

 残念ながら、現状の彼女は芋虫状態なので、どれだけ威勢よく吠えてもギャグ漫画みたいにしか見えない。

 

「まぁ解体の手間を省いてくれたのは感謝している。無論、これも賠償の範囲内だろう?」

「は、はい」

 

 家を壊され、娘を害されそうになったというのに、師匠は相変わらずだった。いや、普段よりポ……酔ってるんだろう、多分。

 もし俺が同じ立場だったら、間違いなくキレて暴れていただろう。クールなのは痺れるし憧れるけど、今の冷静さは見習うべきものではないなと思った。天然だと思うし。

 

「こっちですこっち!」

 

 そんな風に呆れていると、なんか聞き覚えのある声と共に複数人の足音が聞こえてきた。

 見ると、ミアカさんが同心を引き連れて走ってきた。てか、何故ミアカさんが此処に?

 

「すみません、何方か状況を説明して頂けませんか?」

「では僕が」

 

 顔に濃い疲労を湛えた同心には、デイビットさんが応答した。できるだけ客観的に、かつ時系列に沿った説明をしていた。

 この世界に科学捜査なんてないだろうが、優秀なウソ発見器はあるのだ。状況証拠と併せればそれなりに確度の高い調査が行われるはずだ。少なくとも、聞き取りだけで「こいつが魔女だ!」するようなマッポではない、多分。

 

「それでは、一度武行法院の方へご同行願えますか?」

「はい。行こう、二人とも」

 

 一通りの聞き取りを終えると、澄刃流の三人は同心に連れて行かれた。

 ジャグディさんは魔力付きの首枷をつけられ、デイビットさんとフィーランさんは同心に刀を預けていた。

 

「イシグロさん……」

 

 途中、デイビットさんは俺の前で立ち止まった。疲れた顔をした同心の「あくしろよ」という視線が突き刺さる。

 森人は何か言おうとした後、沈黙した。もう一度言葉を選んでから、薄幸イケメンスマイルを浮かべつつ、言った。

 

「イシグロさんとの試合、楽しかったよ」

 

 そう言い残し、今度こそ澄刃流のトップ達は去って行った。

 楽しい宴会で終わるはずだった一日が、彼等のせいであーもう滅茶苦茶だよである。

 ていうか、それより気になるのが……。

 

「ところで、どうしてミアカさんが?」

「え!? あ、いやー? 偶然ここ通って、そんでイシグロさん見っけたんですけど、何かヤバそうやったから通報した感じ?」

「そうですか。助かりました」

「ひゃー! めめめ滅相もないです! ほな!」

 

 随分とタイミングのいい話だが、まぁリアルご都合主義は大歓迎だ。

 いや、流石にね。俺もそこまで自意識過剰じゃないよ、うん。もしそうだったら困るしな。

 

「失礼、詳しく現場を確認したいのですが、構いませんか?」

「ああ」

 

 その後、応援の同心と一緒に詳しい被害状況を確認した。道場は内も外もボロボロで、出来立ての廃墟という有様だ。住居スペースの被害は少ないが、家具の一部は倒れてしまっている。

 師弟の誼みでお手伝いをする。被害状況の説明は済んでいるので、今はお掃除と確認だな。瓦礫撤去にはグーラが大活躍だった。

 

「ふむ、原稿に問題はない。蔵書も無事だな」

「うち物がないからねー」

「何を言う、私にとっての宝なら沢山あるぞ」

「全部銀竜絡みなの、竜族的にどうなのソレ?」

 

 最初はショック受けてたアンゼルマさんも、今では再建が早まったと結構呑気していた。

 各種再建費用は全部デイビットさんが払ってくれるらしいので、良い機会だと思い直したようだ。

 

「イィィィシグロ殿ォーッ!」

 

 同心含め皆で道場を片付けていると、今度はデカい猿人男が駆けこんできた。

 見覚え有るなと思ったが、アレだ。闘技場で司会をやってた人だ。

 

「この度はイシグロ殿にとんでもないご迷惑を! 師もすっごい頭抱えてました! めっちゃ申し訳ないと! 今度直接謝るとも仰ってました!」

「いえ……」

「今回の件ですが、既にライドウ師匠は把握しております! 責任をもって責任を取らせると約束します! そう仰っておりました! 責任感!」

「そ、そうですか……」

 

 で、めちゃくちゃ謝られた。

 どうやら、この事は桜闘会関係者もバックアップしてくれるとの事なので、俺達は帰る事になった。

 

「それでは、師匠」

「うむ」

 

 家を壊された母娘は、近くの宿屋に泊まるらしい。

 俺達にとっても愛着のある道場を後にし、夜も深まった帰路を歩いた。

 流石に借家近くの住宅街は静かなもので、歩いているのは俺達だけだった。

 

「澄刃道場、この後どうなるんスかねー」

「桜闘会の禁止事項に抵触していますし、かなり重い罰則が課せられるのではないでしょうか」

「師の方は知らんが、獅子人の方は厳罰になると思うのじゃ。良くて追放、最悪処刑。まぁ順当に武行の戦奴になって、圏外遠征に駆り出されるんじゃないかのぅ。いずれにせよカムイバラにはおられまい」

「処刑? そりゃ厳しいな」

「罪は今回のだけではないのでしょう? 妥当じゃないかしら……」

「元はと言えば師範が悪いんですよね。早くキッパリ言っておけば、ここまで拗れる事はなかったでしょうから」

「そ、そうだな」

 

 今回の件、俺にとっては他人事ではない気がしてきた。

 もし、俺の一党にロリジャグディみたいなのが来たとしたら、ホイホイ乗せられてハーレムをクラッシュされてしまうかもしれない。俺は俺の知性と股間を信用していないのだ。

 そうならないよう、今後の振る舞いには気を付けるべきだと思った。イリハの件もあるし、以後どうなるかなど誰にも分からないのだから。

 

 痴情の縺れって怖い。

 俺は、今日の事を忘れないよう心に留め置いた。

 

「ただいまー」

 

 迷宮も行ってないのに、すごく疲れた。借家に戻ると、俺達はすぐ風呂に入った。

 それから盛り上がる事もなく、皆で布団にもぐった。

 

「今夜は、しないのかしら……?」

「うん、今日はもう寝ようぜ」

 

 思うところがあり、俺は暫く欲望に従うのを控えようと考えた。

 それに、直近で物凄く激しい発情期ックスをしたばかりだ。俺はともかく、皆は疲れているだろう。

 たまには休息も必要だ。溜まっているのは確かだが、発散すべきではないだろう。

 

「ふぅん? じゃ、おやすみッス♡」

 

 皆とおやすみのキスをして、眠りにつく。

 

 温かい布団の中、思う。

 初めて出会ったのがルクスリリアで良かった。それから、皆が優しい娘たちでよかったとも。

 皆に無限の感謝を捧げながら、俺は瞼を閉じた。

 

 

 

 夜、緑の男が出る古い映画のワンシーンに似た夢を見ていると、全身に感じる快楽に目を覚ました。

 すると、下にルクスリリア、上にエリーゼとグーラ、胸にイリハというジェットストリームアタックを受けていた。

 どうやら、あのシーンは夢ではなかったらしい。

 

「おはようッスご主人♡ 夜ッスけど目覚めの吸精ッスよ♡ じゃ、起き抜け一発♡ んぉ~っ♡ 実家のような安心感ッス~♡」

「そういうお誘いだと思ったのだけれど、違ったかしら♡ 口を開けなさい♡ あ~ん♡ むちゅう~♡」

「実はまだ発情期の名残りがあって♡ 今日はボク等の方から頂いちゃいますね♡」

「ちゅぷ♡ ちゅぅ~♡ んっ♡ わしも夜になるとまだ滾っちゃうのじゃ♡ ちゃんと鎮めてくれないのは残酷なのじゃ♡」

 

 上下左右、淫らな恋人たち。絶景かな絶景かな。

 しかしその情動誉れ高い。

 

 皆との間に強い絆を感じる。

 我は汝、汝は我。

 何度もホールドアップさせられ、交渉に次ぐ交渉の末、俺のマーラ様がワンショットキルされた。

 

 その夜、俺は皆に()された。

 めっちゃよかった。

 

 めっっっちゃ! よかった! まる!




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 めでたしめでたし、という事で。

 活動報告に新しいキャラ表と世界観設定雑記を作っときました。
 キャラ表の方には本編で描写してない裏設定的なものも書かれています。ほんへのネタバレもあります。

 本作って存外キャラクター数の多い作品なんですね。
 まだまだ増える予定ですが、そのうち作者のニューロンから離れる奴もいそうですね。
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