【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 誤字報告もありがとうございます。非常に嬉しいです、感謝。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 今回は一人称からの三人称。
 よろしくお願いします。


ロリとロリコンの決意表明

 今朝の目覚めは極めて爽快であった。

 理由は勿論、昨夜のプレイによる効能だ。

 

 それはもう、休む暇なく代わる代わる使われた(・・・・)のである。俺は精一杯抵抗する演技をしながら、嬉々として過酷な奉仕を続けた。

 まさか、主人たるこの俺が性処理玩具として扱われるなんて、控えめに言って最の高である。文字通り。搾取されたのだ。皆に身体を求められる事の何と誇らしい心地か。

 おまけにメスガキサキュバスにくすくす笑いされるというオプション付き。敗北エロの神髄を垣間見た気分だぜ……。

 

「今夜はパーティですよね」

「ああ。その前に道場の様子を見に行こう」

「あいッス」

 

 精巣の清掃は終了したが、道場の掃除はまだ残っている。昨晩あらかた片付けたが、まだ全部終わった訳ではないだろう。

 今夜はライドウさんからお誘いされたパーティがあるので、それまではお手伝いをしようと思った。

 動きやすい服を着て、出発である。

 

「あ! イシグロさん! おはようございまーす!」

「む、イシグロか」

 

 

 そんな訳で道場に行って見ると、そこには何やら人がいっぱい居た。

 パッと見るだけでも衛兵と同心と岡引がいて、各々がテキパキ動いて瓦礫撤去の準備をしていた。現場監督っぽい人が指揮してるあたり、如何にも工事現場な雰囲気。

 

「おぉイシグロ殿! 昨夜ぶりです!」

「どうも、これは?」

 

 声をかけてきた現場監督は、昨晩会った猿人の司会だった。ライドウさんの弟子であるとか。

 随分と手が早いが、これも賠償の一環なのだろうか。いずれにせよ、再建が早まるのは良い事だ。

 

「手伝いますよ、師匠」

 

 手は足りてるようだが、最初からそのつもりで来たのである。俺達は工事現場のおっちゃんの指示に従い、元無月道場を解体していった。

 修繕するより、古い建物を壊して新しく造る方が手っ取り早い。俺達は細心の注意を払いつつ、重機いらずの異世界人クオリティで道場に破壊の限りを尽くした。ストリートファイターのミニゲームでもやってる気分である。結構楽しいぞこれ。

 

「おぉ~、なんか気持ちいいッス~」

 

 空を飛べるルクスリリアが屋根を削っていき……。

 

「じゃあ、ここからここまで壊すわよ」

 

 エリーゼが魔法で切断したり破壊したりして……。

 

「よっと。結界術ってこんな使い方もできるんじゃな~」

 

 イリハが籠状結界で運搬し……。

 

「では、燃やしちゃいますよ。はいッ!」

 

 再利用が難しい廃材は全てグーラが灰にした。

 

「銀のアンタもこういう事するんだな」

「なかなか便利でしょう?」

 

 その他、細々としたところを俺と助っ人達でこなしていき、道場廃墟を道場跡地にしていった。

 途中、アンゼルマさんが買ってきてくれたご飯を食べて休憩していると、現場組には謎の連帯感が生まれていた。

 

「おぉ!? もうこんななってんのかい!」

「ご注文通り、オトン連れてきたでー」

 

 さて後は撤去だなと思っていると、そこに大きな声が木霊した。

 見ると、如何にも大工って感じの白虎人おじさんと、隣で歩くミアカさんが歩いてきた。彼等の後ろには如何にもな職人達の姿もある。

 

「どうも、話は伺ってるんで。俺等が担当させて頂く事になりました」

「ああ、よろしく頼む」

 

 師匠に挨拶する大工さん。どうやら道場の再建計画についてお話をしにきたようだ。

 

「……で、あんたがイシグロさんかい」

 

 顧客への挨拶を終えると、何故か俺の方を見てきた。

 いや、見てきたというか見定められてるって感じ。別に喧嘩腰という訳ではないが、その眼は真剣だった。

 

「はい」

「娘とは、仲良くやっとりますかな?」

「ちょっとオトン!」

 

 耳が同じなので分かっていたが、大工さんとミアカさんは親子らしい。実際のパパだったようだ。

 俺にその気は全くないので、その辺は安心してほしい。

 

「オトン! あんま失礼な事言うたらアカンでな!」

「わーってるよ。俺ぁただ……」

「オートーンー! ごめんなーイシグロさん」

「いえ」

 

 そんな事もありつつ、大工さんは現場監督と打ち合わせた後、部下を使って測量や地質調査的な事をし始めた。

 ミアカさんは何故かアンゼルマさんと話していた。

 

「あれ? 此処で合ってるよな?」

「そのはずだけど……」

「えー! 壊されちゃってるー!?」

 

 灰袋を荷車に載せる作業をしていると、現場に謎の若者三人組が現れた。

 人数は三人。男二人女一人だ。

 

「すみません、ここって銀竜道場で合ってますか?」

「む、そうだが」

「自分達、無月流に入門したくて来たんですけど……」

「むっ!?」

 

 おぉ、入門希望者か。だが、今道場は色々あって見ての通りなのである。

 師匠の説明に、暫定門弟達は「ピカピカじゃん!」と喜んでいた。もしかしたら、前のボロ道場だったら即抜けされてたかもしれない辺り、例の襲撃はラッキーだったのかもしれない。

 

「い、イシグロさん!?」

 

 はしゃいでいる彼等を微笑ましく見ていると、そのうちの一人が走ってきた。

 人間族の女の子だ。異世界人らしく整った顔立ちをしている。見た目年齢はJC第三形態くらいに見えるが、その胸は豊満だった。

 

「ファンです! 握手してください!」

「お、おぅ」

 

 言われた通り握手すると、女の子はキャーキャー言っていた。耳が痛い。

 うん、早くラリス帰ろう。やっぱこういうの苦手だわ俺。

 

「えーっと、修行は厳しいですが、良い道場ですよ。頑張ってください」

「はい! 頑張ります!」

 

 とりま、新しい門弟をゲットできたようである。

 二大道場とは言わずとも、それなりに大きくなってくれたら嬉しい。

 

「主様、そろそろ準備した方がいいと思うのじゃ」

「そうだな。では師匠、自分はこれで」

「ああ」

 

 気がつけば、そろそろお時間である。

 俺は師匠と現場の皆さんにお別れの挨拶をしてから、新無月道場予定地を去った。

 

 まず、服屋に行って頼んでおいたブツを入手し、借家に帰って入浴して身を清める。それから、俺含め皆の身だしなみを整えた。

 ナーロッパーティとはいえ、そんなに複雑な事はしなくていい。人に会って挨拶して終わりだ。それでも、やっぱこういうの苦手である。

 

「はぁ、憂鬱」

「何度も言うけれど、アナタは十分にできているわ。安心なさい」

「段取りも分かっとるんじゃし、主様なら大丈夫じゃろ」

「宴ですか……どんなお料理が出るんでしょう」

「てか、アタシ等って食べていいんスかね?」

 

 それから、迎えが来るまでエリーゼのマナー教室で復習した。

 こんな事せず、気楽に迷宮潜ってたいね。

 

 

 

 

 

 

 四年に一度の闘技大会。多くのドラマを生み出しつつ、今年の桜闘会も無事に終わりを迎えた。

 街にはコミケ四日目のような雰囲気が流れていて、祭りだ祭りだと仕事を休んでいた道楽者連中も各々仕事に戻って行った。

 

 だが、関係者の多くにはまだ仕事が残っている。桜闘会の運営スタッフは各所の撤去作業を進め、三勢力の治安維持部隊は揉め事の後処理を捌いていった。

 とりわけ、上役の者達に関しては、むしろここからが本番と言えた。

 

 夜の帳が下りた頃、カムイバラ東区にある大きな屋敷。リンジュ風の敷地にある、ラリス風の大広間にて。

 この広間は“剛傑”ライドウの自宅の一角であり、要人を招くに十分な格と威厳を備えていた。

 

 会場はリンジュだが、宴の様式はラリス風。

 高い天井、細やかな意匠の照明魔道具。床に敷かれた絨毯には、リンジュを表す模様が描かれていた。点在する机の上には見栄えのする料理の数々が並べられ、中には料理人が目の前で作ってくれる粋なサービスもあった。

 

 リンジュ共和国人を中心に、部族連合の族長や森人王国の要人まで。会場の人達は多種多様で、その誰もが何かしらの役職を持っている。

 また、会場に流れる雰囲気は町人が噂しているようなギスギス感はなく、むしろ結構緩かった。それもそのはずで、今回会場には明確な政敵は来ないのだ。そうなるとピリつく気にもなれぬという話で、多少の探り合いこそあれ皆さん割と自由に飲み食いしていた。

 異世界人同士、気を付けねばならない事というのはあるが。食事会が武闘会に変わった例など、枚挙に暇がないのである。

 

「おぉ、あの方が……」

「ひぃ! 美し過ぎる……!」

「綺麗過ぎて眩しい……」

 

 そんな宴会場の中に、新たな人影が来場した。

 美の権化の如き上森人の女性と、御付きの牛鬼女剣士。アリエルとイスラである。

 

「予定通り、イスラは待機していてくれ」

「承知しております」

 

 アリエルを初めて見た者は、いや既知の者でさえ、突出した彼女の美貌は男女問わずに目を引いた。

 翡翠の眼をした麗人は上森人風のドレスを身に纏い、首からはラリスの金細工が下げられている。指には止まり木協会の指輪がはめられていた。

 

 誰も彼も、アリエルの一挙一動に夢中だった。特に森人からの熱視線は凄まじく。もはや尊敬を超えて崇拝しているようでさえあった。

 彼女の護衛であるイスラは、壁際に移動して周囲に警戒の視線を送った。やはりというか何というか、アリエルに見ほれている人は多くとも、彼女にガチ恋してる人はいないっぽかった。要するに、アリエルはモテてはいなかった。美人過ぎるってのも得ばっかじゃないんだなぁと、イスラはぼんやり思った。

 

「ようこそおいでくださいました、アリエル様」

「ああ。こちらこそ、突然の来訪となり申し訳ない」

 

 それから、この世界の礼儀としてアリエルはまず主催者であるライドウに挨拶をした。

 今回の宴は桜闘会の責任者の一人であるバンキコウが計画していたのだが、訳あってライドウの名で宴を開く事になったのである。

 

「であれば、私共が助けになれるかと」

「そうか、それは有難い」

 

 ライドウとお話した後、上森人の美女はその場の者達に一通りの挨拶をしていった。

 アリエルと相対した者は、良い歳した重鎮であっても胸がときめいちゃうようだった。そんな反応に、アリエル的には慣れた感覚を覚えていた。うんうん、大なり小なり普通こうなるんだよなぁと。

 

 今宵この場に集められた面々は、俗に穏健派や中立派と呼ばれる者達である。

 穏健派を呼んだのは言うまでもないが、中立派を呼んだのは勧誘や情報収集の他に、別の理由があった。

 時間通りなら、もうすぐ姿を現すはずだ。

 

「おや。来たようだな……」

「そのようですね」

 

 そうこうしていると、大きな扉からアリエルとは別種の目立ち方をした一団が入って来た。

 黒髪黒目の冴えない男と、幼子の容姿をした多種多様な奴隷達。ある意味この宴の主役、黒剣一党である。

 彼等が目立っているのは事前の情報や肩書故というだけではなく、今日に限ってはその見てくれこそが注目されていた。

 

 まず、頭目であるイシグロは、迷宮用の装備である地味な革鎧の上から、リンジュ製の高級絹で繕ったラリス風のマントを纏っていたのである。

 首にはラリス意匠の銀細工。腰には実用一辺倒の剣が下げられていた。鎧にマントに剣、どこからどう見ても戦士の装いであり、あまりにも分かり易いコーディネートだった。

 

 他の奴隷達もまた、幼さとは別の方向で注目を浴びていた。

 皆、主人同様に最高品質の迷宮用装備に身を包んでいたのである。武器もまた同様の最上品で、中には深域武装を持っている奴隷もいた。

 無価値に見える奴隷達が、彼女等一人一人の為に誂えられた最高の武器と防具を身につけているのだ。獣系魔族の少女など、身の丈以上ある大剣を小脇にして平然と歩いていた。

 何より、彼女達は主人のマントと同じデザインの装飾品を身につけていたのである。つまりこれは、我が一党の者は社会的身分差こそあれ家族と同じ立場であるという表明に他ならない。

 

 主従にして家族。予め彼の情報を知っている者はすぐに納得できたものの、そうでない者は困惑した。少なくとも、異世界人にはイマイチ理解し難い感覚だった。

 要するに、これは冷蔵庫や電子レンジに名前をつけて家族扱いしていますよという事にあたるのだ。まして、自身と同格の服を着せてやるなど、全く以て意味が分からなかった。

 

「なるほど」

 

 衣装一つで立場と矜持を示す。王道のやり方だが、イシグロ達の作戦にアリエルは感心した。

 当たり前だが、誰も銀細工の狂気になど触れたくはないし、イシグロに関しては各勢力から逆鱗を探られていたところだ。それを、このように穏便な方法で示してくれたのは、此方としては有難かった。

 それに、これなら奴隷身分の入場に誰も文句を言えはしない。もしその事に文句をつけようものなら、主催者のライドウやそれを支持しているバンキコウ、そして当人から直接的な怒りを買ってしまう上、その場合責められるのは文句をつけた側になるのである。

 要するに、見えてる地雷なのだ。しかも起爆するだけならまだマシで、最悪穏健派との戦争が勃発してしまうレベルの特大危険物。誰が好き好んで着火できようかという話である。

 

「イシグロ様、武器を」

「はい」

 

 緊張しながら声をかけたスタッフに、イシグロはあっさりと剣を預けていた。

 彼の場合、剣以外にも収納魔法内に武器はあるだろうし、素手でも十分に強いのだから武装一つ取り上げたところで戦闘力を削げた事にはならない。だが、これは宴の主催者への信頼の証として武器を預けたポーズになる。

 このように、ライドウの武装解除にイシグロが応えた事で、主催者と迷宮狂いに一定以上の信頼関係が結ばれている事を内外に示せたのだ。ある意味、ライドウ的にはこれだけでも誘って良かったと思える。

 

「皆も」

 

 イシグロを経由して、奴隷達の武器も預けられる。

 深域武装の鎌と刀に、輝銀魔石の杖。フルアダマンタイトであろう大剣は、ラリスの最新技術である鉱深鍛冶によるものか。とてつもない重さなのだろう、大剣を受け取ったスタッフは三人がかりで何とか運んでいた。

 この世界、強い武器を使っているという事は、持ち主が強いという事と見做される。イシグロだけではない、それに仕える少女達もまた、並みの戦士ではなかった。

 

「桜闘会ではお世話になりました、ライドウ様。このような宴にお招きいただき、誠にありがとうございます」

「いえ。こちらこそ、例の件については我が不徳の致すところ。遅ればせながら、イシグロ殿にこの場を借りて謝罪を……」

「とんでもございません。どうか頭をお下げにならないでください」

 

 何気ない風に装われた注目の中、件の黒剣は礼に則って主催者であるライドウに挨拶していた。

 来賓視点、情報だけ見るにイシグロ・リキタカという男は常軌を逸した迷宮潜りだと思っていたが、彼の礼は存外堂に入ったものだった。到底、粗野な冒険者とは思えぬ程に。

 もしや、イシグロ・リキタカという男は高貴な家の出なのでは? などと推測する人もいたが、それに関しては完全に節穴アイズである。観察力のある人からしたら、イシグロが緊張している事は丸わかりだった。だとしても、それはマイナスな印象を与える事はなく、むしろプラスに働いていた。緊張しているという事は、宴の参加者を尊重しているという事なのだから。

 

「お久しぶりで御座います、アリエル様。改めましてご挨拶申し上げたく思います」

 

 ライドウの次、隣にいたアリエルに向き直ると、イシグロは不思議な構えを取った。

 彼の構えを見て、その場にいた長命種族の記憶に過るものがあった。アレは、古代森人流の挨拶作法ではないか?

 ちなみに、ライドウの後は正規の順序では東区長のバンキコウに挨拶しに行くのが礼儀なのだが、主催者の隣の貴人を無視するのはマナー違反にあたる。

 

「うむ、ご厚情痛み入る。一度交わした友誼の契り、今宵ばかりは其方が先に上げられよ」

「逆意とは心得ますが、どうか其方から」

「いいや、其方が上げられよ」

「再三のお言葉、有難う御座います。ですが、それでは困ります」

「では一緒に」

「「有難う御座いました」」

 

 対し、アリエルもまた完璧な返礼をしてみせた。その所作たるやあまりにも流麗で、めちゃくちゃビシッと決まっていた。

 そんな二人を見て、会場の隅にいた老森人――見た目年齢二十代――は顎を撫でながら感心していた。ふぅん、おもしれー男……。

 

「ここには何用で?」

「支部を作る事になったのだ」

「なるほど、支部を」

 

 そのまま、二人はスムーズに世間話に移行していた。

 そう親しげではないものの、先の掛け合いからして以前からの顔見知りである事が分かる。ライドウに続き、イシグロはラリス金細工のアリエルとも知己であったという訳だ。

 交友関係とは即ち、個人を要人たらしめる要素の一つだ。こうなると、イシグロを単なる異邦の冒険者とは言えない。本人の知らぬところで、イシグロの株は上がりっぱなしであった。

 

「あの男、アリエル様を相手に顔色一つ変えぬとは、どういう精神力だってばよ」

「大した男だ……」

「やはり英雄か……」

 

 しばらくして、アリエルとイシグロの話はつつがなく終了した。通常なら、イシグロはこのままライドウの次に偉い東区長バンキコウに挨拶に行くのが礼儀である。

 

 さて、どうなるか。この場の重鎮は会場全体まで視野を広げ、状況を見定めた。

 衣装、交友、礼節、イシグロという要人を知るに必要な情報は十分集まった。その上で、彼をどう扱うべきかはこれから決まる。

 今、初めに動いた者が流れを作る事になるのだ。

 

 イシグロが動く。振り返り、慣例に則りバンキコウに挨拶するつもりだ。

 この英雄は、会場に集まってくれた後ろ盾になってくれるらしい人達に、誠意をもって自分から挨拶回りをするつもりであった。

 そうなると、イシグロが下で支援者が上という構図になる。本来なら、それが正しい在り方だ。

 

 しかし、今回ばかりはそうはいかない。

 過去、件の大立ち回りでイシグロが打倒してのけた三本尻尾の猫又は、百年単位でリンジュを化かし続けてきた大悪党なのである。加えて、捕縛困難だった犯罪者共を捕らえた功績もある。他国の重鎮の手前、そんな彼から頭を下げさせてはリンジュ共和国が礼を知らぬ国だと思われてしまう。

 故に、書面や金銭のやり取りだけではなく、実際に相応の誠意を見せる必要がある。そもそもこの場はイシグロへの褒美という裏の名目があるのだ。

 故に、彼の挨拶回りは阻止させてもらう。何故か? 互いの面子を保ちつつ、この場の流れを支配する為だ。

 

「お初にお目にかかる、イシグロ殿。妾の名はバンキコウ。カムイバラにて東区の長を務めている者だ」

 

 動き出したイシグロに、東区長のバンキコウが先んじて声をかけた。

 今の構図は、件の二人を後ろ盾にしたイシグロに挨拶するという形になる。本来ならイシグロから声をかけるのが正しいので、彼も驚いた……フリをした。

 バンキコウとしてはこの状況をこそ作りたかったのだ。故に事前に手紙で伝えておいた訳である。アリエルの参加は急遽決まった事なので、これは迎えの馬車内で伝達済みであった。

 主催者の手前であれば、客人として遇しているという風になるのだ。そうなると、穏健派の重鎮がバンキコウの後に続きやすくなる。中立派もまた同様だ。

 

「名乗り遅れました。私、王都アレクシストにて迷宮探索を生業としております、イシグロ・リキタカと申します。お会いできて光栄でございます、バンキコウ様」

「うむ。それより、先の大立ち回りについて、この場を借りて改めて礼を言わせてほしい。構わぬだろうか?」

「滅相もありません。私はただ、無責任に剣を振ったに過ぎず。街を守る皆様には多大なご迷惑を……」

 

 初対面であるバンキコウとの会話も、イシグロはそつなくこなしていた。

 しかし、違和感があった。英雄の言葉にしては、覇気が欠けているのだ。功績の割に謙虚過ぎるのである。いっそ卑屈にさえ見える程に。それは自信の無さの表れというよりは、イシグロの中で実績が矮小化されているように思われた。

 つまり、猫又討伐も、犯罪者の捕縛も、桜闘会の優勝も、この男にとっては道程の一部に過ぎず、誇るような大事ではないという認識なのではないか。文字通り、器が違うのだろう。彼の経歴を知るものであれば、尚の事そう思えた。

 

 少し話すだけで、情報が漏れていく。宴の参加者は、彼のパーソナリティを次々と把握していった。

 が、残念ながら、彼にとって最も本質的な精神性に気づく者はいなかった。器が違うというのも、少し違う。正確には器がズレてるとか欠けてるだけだ。イシグロの器など、ペットボトルの蓋レベルである。

 

「お初にお目にかかります。私は議会にて馬鬼族の長をしております……」

 

 その後、イシグロはバンキコウに続いて声をかけてくる重鎮に上手く応対していった。

 一度できた流れは止められない。それもこれも、バンキコウの計算通りであった。

 

 その間、ライドウとアリエルはイシグロの後方支援者面をしていた。そうしていると彼も心身の堅さが抜けていったようで、ある程度の余裕を持って応対できていた。

 会話の最中、イシグロは控える奴隷達の様子を気にしているようだった。その中の一人、獣系魔族の少女は来賓にサービスしている料理長の方を見ていた。彼女は三人運びの大剣を小脇に抱えていた奴隷である。

 

「失礼します。あの料理をうちの子たちに食べさせる事は可能ですか?」

「料理を? ええ、構いませんよ」

「そうですか。皆、食べてきていいよ」

 

 そんな彼女の望みを叶えるように、イシグロは主催者の了解を得た後、奴隷達に主人から離れて先に食事を摂る事を許した。

 これにはアリエルを含む多くの参加者が表情を変えずに驚愕した。通常なら、あり得ぬ事だ。これでは主人が奴隷の機嫌を伺っているように見えるし、そもそも奴隷身分の者が各国の重鎮と共に食事を摂るなど考えられない。場が場なら嘲笑されて然るべき振る舞いだ。しかし、彼の在り方を見て取れば容易に納得のいくものではあった。

 要するに、イシグロはこの場の者達に、奴隷達を自身と同じ立場の者として扱うように要求しているのだ。ある意味、彼らしからぬ行いだが、それを当然としているのであれば理解できる。探っているのだ、自身とリンジュの距離感を。試しているのだ、ライドウ達の度量と信頼を。

 

 実のところ、これは単なるイシグロの思いつきであった。グーラが飯食いたそうにしてたから、偉い人に「食べさせても構いませんか?」と訊いてみて、OKもらえたから行かせただけである。

 事前の打ち合わせにもなかった事なので、バンキコウ達は素でビックリしていた。ここにきて、向こうから牽制してきたのだ。「お前らの後ろ盾は、彼女等にも適用されるのだろうな?」ってな具合で。真実は別として、ライドウとバンキコウはそのように受け取ったのである。

 この状況を、エリーゼだけが正確に把握していた。他ロリは「え? マジ? やったね!」くらいにしか考えていない。比較的こういう事に敏いイリハだが、上流階級の集まる宴で緊張して軽く思考がバグッていた。

 

「わかったわ……」

 

 竜族の少女が口を開くと、奴隷達は料理長のいるテーブルへと歩いて行った。注目が二分される。イシグロへの視線と、奴隷達への視線だ。

 そんな中、料理長は料理長でめちゃくちゃ緊張していた。イシグロの背後にいるライドウとアリエルから、「くれぐれも粗相をするな」という視線を受けているのである。金細工二人の眼光は焼けるように熱く、凍える程に冷たい。

 やがて奴隷がテーブルの前まで来ると、料理長は腹をくくった。なに、いつもの対応で問題ないはずだ。偉いさんの思惑なんて知らないが、相手が誰でも美味い飯を食わせるのが料理人の矜持である。

 

「どうぞ、お好きなものを仰って下さい」

「ええ。では、今宵のお勧めをお願い。皆もそれでいいわね?」

「承りました」

 

 空気を読んだ対応に、竜族奴隷も貴人めいて返した。それはいいのだが、料理長はこの返答にちょっぴり困ってしまった。

 料理長はリンジュの一流板前である。今日のお勧めと訊かれたら「滝鮪(たきまぐろ)の刺身」で一択なのだが、見るからにリンジュ慣れしてない彼女達に好き嫌いの激しいお刺身など出していいものかと思ったのだ。

 無論、お刺身が苦手な人用の料理も用意している。しかし、それは一番でないものをお勧めとして供するという、イシグロ視点で嘘を吐いたと見做されるかもしれない行為なのである。

 彼女等への対応からして、イシグロは誠意ある態度を要求しているはずだ。そんな相手から「お勧め」を頼まれた場合、どうすればいい。

 

 逡巡の後、料理長は覚悟を決めた。部下に命じて滝鮪を取り寄せると、それを解体。リンジュ板前らしい、力強く鮮やかな手並みであった。

 それから滝鮪の一番美味いところを切り分けると、得意の火魔法で切り身の表面をサッと炙ってみせたのだ。これなら、八方丸く収まるはずだ。

 

「こちら、滝鮪の炙りでございます」

「ありがとう。あと、リンジュ酒も頂けるかしら? 一番強いのを私に。この娘達には適当にお願い。主人には……そうね、緑茶を出してあげて。気に入っているのよ、此処のお茶」

「は、はい……!」

 

 出された皿を、竜族少女は当然として受け取った。彼女は生来の支配者オーラで場を掌握していた。

 奴隷とは思えぬ、如何にも上位者然とした振る舞いであるが、イシグロはそれを良しとしていた。そもそも、気位の高い竜族が一介の冒険者の奴隷になり、且つそれを享受しているなど異常事態である。

 それに、髪色からして彼女が銀竜の血族である事は明白だ。そういえば、イシグロが所属している道場の主は、銀竜一族の出だったような。頭の回る者は、更なる思考の沼にハマッていた。

 言うまでもないが、イシグロ達が無月流に通い始めたのは成り行きであるし、エリーゼがイシグロに従っているのは単にお互いにゾッコンだからだ。支配者オーラは生来のもので、振る舞いこそ計算されているが、行動の根っこは大して複雑ではなかった。

 

「美味いッス!」

「美味しいです!」

「美味しいのじゃ~!」

 

 なお、エリーゼ以外は何も考えずモグモグご飯を食べていた。

 何気に、この会場で一番美味しい思いをしていた。

 

「なるほど、そのような事が……」

「ええ。その後にライドウさんからお誘い頂いて……」

 

 しばらくして、イシグロは一通りの挨拶を終えた。

 最後の一人を捌き終えると、イシグロはごく小さい溜息を吐いていた。どうやら、貴人とのお話に疲れてしまったらしい。英雄なんて、概してこんなもんである。

 

「イシグロ殿は……」

「はい」

 

 そんな彼に、アリエルは声をかけた。

 彼女らしくなく、考えるより先に労いと賞賛を贈ろうと思ったのだ。

 

「彼女達を守っているのだな」

 

 絶世の美女からの柔らかな言葉に対し、イシグロは薄く微笑んだ。

 

「普段から支えてもらってますから」

「そうか」

 

 なるほど、そういう言い方をするのか。ならば、ますます気を付けなければならないな。アリエルは心のメモにそう書き加えた。

 イシグロの内面は安定している。もし彼が暴れるとしたら、やはり外部刺激によるものだ。最悪なのは、彼が世界に失望する事だ。

 愛無き英雄など、弱卒と同じ。彼には自分の意思で世界を愛し、彼自身の意思で世界を守って欲しいと思う。迂遠なやり方かもしれないが、これが最大の効果を発揮する事をラリスの歴史は知っているのである。

 

「エリーゼ、わしにも一口欲しいのじゃ~」

「駄目よ、貴女すぐ酔うじゃない。場を弁えなさい」

 

 ふと、アリエルは美味しそうに鮪を食べている天狐を見た。元はと言うと、彼女を守る為にイシグロを誘ったという。

 この宴には、九尾の枝を呼んでいないと聞いている。だからこそ、敵にも味方にもなる中立派を招いたのだ。その中から、枝に繋がる縁もあるだろう。

 情報は広がらなければ意味がない。何をしでかすか分からない相手には、仕掛けたくなるよう誘導するのが一等良い。

 

 今宵の宴を発端として、リンジュ議会は大きく動く。

 鈍間な邪狐は、太平の惰眠を貪り過ぎた。害が勝れば誅されるのが異世界流だ。忘れるべきではなかったのだ。リンジュはラリスの子分であり、どれだけ政治が上手くとも、世界の王の下知は絶対である事を。

 狐狩りだ。夏を前に、九尾の家には鎖が繋がれる。()は、そのように判断したのである。

 

「ところで、また止まり木協会に寄付をしたいのですが……。少々お時間を頂く事は可能でしょうか」

「ん? あぁ、少しなら……」

 

 突然、イシグロからそんな申し出がきた。

 アリエル視点、ただでさえ彼は多額の寄付をしてくれているというのに、まだするの? という気分である。

 

「そうだな、宴の終わり頃はどうだろうか。個室を使わせてもらえるだろうか?」

「どうぞどうぞ」

「よろしくお願いします」

 

 驚きはしたが、まぁ否はなかった。寄付なんていくらあってもいいのである。

 まあ、少しくらいのお礼はすべきだと考えるが……。

 

「寄付は有難いが……イシグロ殿に欲はないように見える。無理はしていないか?」

 

 アリエルから見て、イシグロは心の向きが変な男のように思えた。

 誰と話しても、表情にロクな変化がないのだ。コントロールしているというより、一貫して興味がない風であった。

 

「そんな事ありませんよ」

 

 それはライドウにたいしても、アリエルに対しても同じであった。

 ただ、奴隷達を見つめる彼の横顔は、凪いだ湖のように穏やかだった。

 アリエルは、少しもにょった。

 

「そうか……」

 

 ウェイターから葡萄酒をもらい、一口呑む。

 ちょっと、酸っぱい気がした。




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 なんか我ながら分かりにくい書き方かな、と。どうあれ少しでも面白がってもらえたなら幸いです。
 やっぱ気楽な異世界ハクスラ生活が書きたいっすわ。
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