【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。感想が一番の励みです。
 誤字報告もありがとうございます。本当にマジで感謝してます。感謝の極み。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 コーラル焼いて、ぽにおと遊んで、まだ名を消しきれてません。気付けばショタ夏油と戦う寸前です。ブルベ編は何パで縛ろうかしら。
 勿論、執筆の方も楽しんでやらせて頂いております。やりたい事が多いですね。幸福な事だと思います。


ロリから…

「ぬわぁああああん疲れたもぉぉぉおおおん!」

 

 帰宅後、俺は張り詰めていた緊張の糸を緩め、感情のまま声を発した。

 鎧にマントというファンタジースタイルのまま、偽和風建築物の床に倒れ伏す。狙った訳ではなかったが、そのポーズは止まらねぇ系の団長とくりそつだった。

 

「ご主人様、ボクがお運びしますね」

「これくらいなんて事ぁねぇ……」

「よいしょっと」

 

 そのままグーラに担がれ、洗面所で手洗いうがいをした後に居間に運搬されていった。流れるように防具を外されお茶を出され、ひと心地ついたところでイリハに肩を揉んでもらった。

 肩揉みの最中、浮遊したルクスリリアに正面から頭を抱かれよしよしされる。さながら、女神に信託を授けられている聖職者って構図。

 

「よしよ~し♡ 頑張ったッスねご主人~♡」

「マママーマ・マーママ……」

「めっちゃ混乱してるのじゃ」

「む……なら、私はお茶を口移しで……」

「元気にはなるでしょうけれど、今は止めておきましょう」

 

 そんな風に極楽を味わいつつ、俺は先のパーティの出来事を思い出していた。

 来場からこっち、俺等は偉い人からめちゃくちゃ注目されていた。黙ってジーッと見られてた訳ではないが、各々お話をしながら常に視界の端に収められてた感じ。

 敵味方識別レーダーに反応はなかったが、それでも見られ続けるってのは苦痛で仕方が無かった。結果、体力の方は余裕だが、気力の方がごっそり削られてしまったのである。

 

 ライドウさんとのやり取りは台本があったし、アリエルさんへの挨拶は前の焼き直しだったから楽だった。だが、やっぱ初対面の人相手は気疲れする。

 加えて言うなら、俺は他人の顔を覚えるのが超苦手なのだ。記憶のセーブ&ロードのし過ぎで、頭から湯気が出るかと思ったくらいである。幸い、異世界人には覚えやすい特徴があったから何とかなった。

 ライドウさんに曰く、彼等はいざとなった時に俺を守ってくれる人達らしいので、せめて顔と名前くらい覚えないと失礼だろう。それはそれとして、二度とやりたくはないが。

 

「腹減ったンゴねぇ……」

「ンゴ?」

 

 途中、ライドウさんから許可をもらい、皆には先に飯を食ってもらった。

 俺も後から皆と同じのを貰ったのだが、滝鮪(たきまぐろ)なる謎魚くんってばべらぼうに美味くって、素で「美味い!」って言っちゃったよね。シェフは満足そうな顔になってたが、俺的にはやらかしちゃった感である。

 

「そいやぁ、止まり木の人にお金渡しちゃってよかったんスか? いや別にいいんスけど」

「ん~、あぁ……ごめん、考えてただけで言うの忘れてた」

「いいんスって」

 

 ルクスリリアが言っているのは、止まり木協会への寄付の事だろう。宴の終わり頃、俺はアリエルさんに更なる寄付の約束をしたのである。

 何やら、彼女はカムイバラに止まり木協会の支部を作るとかで、こいつは重畳と持て余してた指名手配犯の懸賞金を件の支部の為に全ツッパする事にしたのだ。

 所詮、あれは好き勝手暴れた結果たまたま手に入ってしまった金なのだ。遊びに使う気にはなれなかったので、どうせなら世界の何処かにいるロリの為に使ってもらおうと思ったのである。

 

「代わりに良い物を貰えたわね。今、私達に一番欲しい物よ」

「後ろ盾になってくれた……ってコト?」

 

 寄付に関する契約書にサインすると、アリエルさんから直々に謎の指輪を頂いた。

 どうやら、このアイテムを見せれば止まり木協会属性の人から無条件で信用されるようになるらしい。

 これについては、お守り程度に考えておこうと思った。リンジュともラリスとも、一定の距離を保っていきたいものである。

 

「ほいっと、氣は整え終わったのじゃ。後はご飯食べたら心も戻るのじゃ」

「あざす」

 

 ぺしんと背中を叩かれ、イリハの肩揉みタイムは終了した。

 さて、遅い夜ご飯の始まりである。結局、会場ではちょっとしか食べてないからな。銀細工ボディの俺等はお腹がペコちゃんなのである。

 そんな訳で、俺はアイテムボックスから五つの重箱を取り出し、机の上に並べた。

 

「じゃ~ん」

 

 そして、その中の一つを開封する。したらボワッと湯気が立ちのぼり、出来立て料理の香りが居間中に広がった。

 これはパーティの帰り際に貰ったもので、余りではないガチ弁当である。重箱には最強クラスの保存魔法がかかっており、中の料理は一切劣化していなかった。

 

「ほわぁ、良い匂いです……!」

「滝鮪が沢山入ってるのじゃ~」

 

 重箱の中身は、お酒によく合うおつまみセットだった。晩飯というより、晩酌用だな。宴では一滴も飲んでないし、俺としてはすっごく嬉しい。

 同じく帰り際に貰ったリンジュ酒も取り出して、皆でいただきますをした。

 

「ん~! 滝鮪って煮ても焼いても美味しいんじゃな!」

「ご主人様は食べた経験があるのですか?」

「まぁ日本で。けど滝鮪って名前じゃなかったな。何なん、滝鮪って……」

「その名の通り、滝を泳ぐ魚の事よ。小さい時は滝壺に棲んでて、大きくなると滝を登るの」

「デカい滝にしかいないんで、ガチで新鮮なのは王都とか淫魔王国とかじゃ食べられない魚ッスね」

「へえ。前に上玉館で食べた赤身もコレなんかな」

「いやぁ、獲るの難し過ぎて到底庶民が食べられるもんじゃないのじゃ。上玉館で食べたのは別の魚じゃな」

「私も初めて食べたわ。リンジュ酒がよく合うわね……」

「こんなに美味しいものを食べられるなんて、ご主人様には感謝してもしきれません!」

 

 美味しい料理を囲み、お話しながら食べる。最高に尊い。

 ファンタジー舐めんな地球と言うべきか、重箱で放置されてたはずのお刺身はとても新鮮で、焼き物煮物も出来立ての味をキープしていた。それを大吟醸っぽいリンジュ酒でキュッとやる。ああ~、たまらねぇぜ。

 何より同じ机にはパーティで挨拶を交わしてた偉いさん方ではなく、四人それぞれタイプの違うロリがいるのだ。酒! 女! 美味い飯! なんやこれ、パラダイスか? さながら俺はパラダイスキングか。今ならカンフーファイティング踊れちゃうね。

 

「にしても、今日の宴は凄かったッスね。強くて偉い人が沢山いたッスよ。淫魔のパーティとは大違いッス」

「偉い人ってのは、毎日あんな事してるのかのぅ」

「毎日ではないわ。少なくとも、竜族はたまにやる程度ね」

「疲れないのでしょうか。偉い人も大変ですね」

 

 俺同様、気が緩んだ彼女等も重鎮集まるパーティには辟易しているようである。

 エリーゼはしっかりしていたように見えたが、好んでやってた訳でもないっぽい。出来る事と嫌いな事は矛盾しないし、そんなもんなんだろう。

 

「もしご主人様が貴族になったとしたら、ボク達も出席する事になるんでしょうか」

「え……?」

 

 突然放たれたグーラの言葉に、俺はビックリしておつまみを落としてしまった。

 いや、何がどうしていきなり俺が貴族化するなんて話になってるんだ? 気付いてないうちにキングクリムゾンでも使われたか?

 

「家に招く場合はそうでしょうね。けれど、呼ばれるとしたら出席するのは主人だけよ」

「となると、主様が大変という訳か。それは申し訳がないのぅ」

「ご主人の事ッスし、一生慣れなそうッスよね。向いてないと思うッス」

 

 グーラの話題に、皆も自然に乗っかっていた。

 いやいや、なんか盛り上がってるけど……。

 

「なるなれない以前に、俺そういうの絶対嫌だよ」

 

 この世界の貴族システム的に、それは全くあり得ないルートじゃないあたり何とも言えない。

 一見のんびりファンタジーに見えるこの異世界だが、実のところ力こそパワーな世界観なのである。ラリス王家に認められれば、俺もお貴族のお仲間になれちゃったりするのだ。

 世間的には成り上がりだが、俺視点だと成り下がりである。誰が好き好んで見ず知らずの民の為に働かにゃあならんのだ。

 

「改めて言うけど、俺は王家からスカウトされても貴族になるつもりはないよ。拒否は認められてるはずだし」

 

 実際、俺は立身出世なんかしたくない。何故か? 色々あるが、一言で言うと俺の魂が「嫌だ!」と叫びたがっているからだ。

 理由はいくつかあるが、まずこの世界の貴族――ラリス貴族には、夢がない。尚武の気風が強すぎる影響で、前世ヨーロッパ貴族程の権力もなければカジュアル系ナーロッパ貴族程の自由もない。もっと言うと、貴族の通う学校なんかもこの世界には存在しないのである。何て夢のない世界なんだろうか。魔法学校とか騎士学校とかあっていいじゃんかよ。

 仕事内容もかなりエグい。ラリスの貴人は全員武闘派、貴族というより極道なのだ。貴族に成り上がった冒険者は、ラリス組傘下なんとか組の長となり、生きてる兵器として領地の治安を保ちながら人類生存圏なるエリアを守るべく戦わないといけないのだ。それもこれも国と名誉と人民の為に、である。

 そんなの御免だ。俺はただ、皆とまったり生きたいだけで、貴族様になどなりたくない。曰く、お貴族は民に慕われるらしいが、それこそマイナス要素である。分不相応な英雄扱いさえ気分が悪いのに、その上公爵だの男爵だの、考えただけで鬱陶しい事この上ない。

 

 結論、魂が「嫌だ!」と叫びましたとさ。

 俺は絶対に貴族堕ちしない。フラグでも何でもなく、これは不退転の決意である。

 

「ええ、存じています」

「まぁそんな気はしてたのじゃ」

「アタシ等も別に貴族夫人になりたい訳じゃないッスから」

「そうね。アナタには私達の王になってもらう訳だし」

「そっちは……うん、任せてほしい」

 

 分かってくれてるなら何よりだ。グーラも適当に言ってみただけっぽいし、いつの間にか拒めない状況になってましたーなんて事にはならないだろう。

 こういうのは最初に宣言しとかないとな。貴族堕ちはマジで絶対NGだ、これだけはハッキリと真実を伝えたかった。

 なまじ昨日ジャグディとかいうやべーやつを見たばかりなので、つい過敏になってしまった。彼女達の事、ああはならないだろうと信じてはいるが、それでも釘は刺しておくべきだろう。

 

「安心なさい、アナタを無理やり担ぎ上げようとは思っていないわ。皆もそうよね?」

「うむ。皆の為にと主様が傷つくようでは、どうしようもないのじゃ」

「ご主人様には幸せになって欲しいですから」

「きひひ♡ それで言うと、ご主人はアタシ等と一緒にいるだけで幸せッスもんねー♡」

「肯定っす」

「あら、アナタったら照れているの? ふふ……」

「ルクスリリアも顔が赤いですよ」

「ッス、我ながらさっきのはちょっと恥ずかったッス……」

「布団の上じゃとあんなに言うとるくせにのぅ」

 

 だが、しかし、だ。

 貴族堕ちはともかくとして、それとは別に安定した立ち位置は考えておくべきだろうとは思う。

 俺とて、いつまでも迷宮探索を出来るとは思っていない。冒険者業は死ぬほど儲かるが、少しのミスで死んじゃう超絶危険な職業なのだ。

 とはいえ、未だ道半ば。目標を達成する前にアレコレ考え過ぎては、道中の楽しみを見出せなくなる。深刻にならないよう気を付けるべきでもあるだろう。

 

「貴族云々は置いといて、今はイリハを強くする事を第一に考えよう」

「のじゃ?」

 

 俺の目標は変わらない。如何な強者も触れ得ざる最強のロリコンへと至り、誰憚る事なく皆と安心して結婚する。

 今はそれに集中しよう。何事も準備が必要なのだ。幸せ家族は計画的に、である。

 

「そうね、イリハはまだまだ弱いのだから、もっと頑張ってもらわないと……」

「最低でも銀細工程度にはなってもらわないと困るッスねー」

「一緒に頑張りましょう、イリハ」

「のじゃ~」

 

 こうして、その日の夜は過ぎていった。

 めちゃくちゃ疲れた。もう宴なんてこりごりだよぉ。

 

 

 

 

 

 

 桜闘会の名残も過ぎて、ようやっとカムイバラの日常が戻ってきた。

 それまでには、まぁまぁ色んな事があった。

 

「聖樹の陰の者として、貴殿に最上の感謝を」

 

 約束通り、止まり木協会カムイバラ支部に懸賞金を寄付したり。

 

「これとか、トリクシィさん喜びそうだな」

「知り合い用もいいけれど、私達のも買いましょう?」

「とか言って酒が欲しいだけッスよね」

「あちらだと手に入りづらいですから」

「わ、わしも呑みたいのじゃ」

 

 ラリスの顔見知りに渡す分と、自分達用のリンジュ土産を選んで回ったり。

 

「あぁ~、生き返るわぁ~」

「ご主人、それいつも言ってるッスね」

「生き返る、とは何でしょうか? 死んだら終わりだと思うのですが」

「そういうんじゃなくてさ。まぁ確かに変な言い回しだけども」

「ここは綺麗に氣が循環しておって良いのぅ」

「私もこういう温泉の方が好きね……」

 

 郊外にある自然温泉に入ったりもした。

 上玉館みたいな温泉旅館もいいが、人気のない大自然の中で入る温泉ってのはまた格別だった。

 

「どうも、お久しぶりです。イシグロさん」

 

 あと、澄刃流のデイビットさんとお話した。

 彼の話によると、結局澄刃道場はデイビットさんの鶴の一声で解散する運びとなり、残ってた門弟達の多くは澄刃流から派生した新道場に移動させたらしい。

 また、ジャグディに指示されて裏で悪事を働いてた一部門下生も、武行法院の同心に捕まって現在取り調べ中だという。すると隠してた余罪が出るわ出るわ。脅迫恐喝など序の口で、中にはガチで手が出ちゃってたタイプの罪もあったとか。

 

「武行の方によると、ジャグディ達はかなり重い罰を受けるとの見立てだそうです」

 

 こうなると、首謀者のジャグディは重罰確定である。恐らく、イリハの言ってた通り武行の戦奴として圏外遠征に使われる事になるだろうという話だ。そして、遠征に行った罪人の多くは一年以内に命を落とすらしい。

 加えて、事は彼女一人の問題には収まらなかった。これまでのジャグディ一派は関与している勢力が多すぎて、良くも悪くも今現在カムイバラが揺れているというのだ。これにはバンキコウさんやライドウさんといった桜闘会運営組からも力を貸してもらい、これから慎重かつ大規模な調査が行われる予定であるらしい。

 

「デイビットさんはどうされるのですか?」

「そうですねー」

 

 浮気相手とはいえ、愛した女性が裏で犯罪をやらかしてて、その上長年かけて築いてきた道場を失った彼だが、存外あっけらかんとしていた。

 気楽そうというか、何というか。むしろ身軽になれて気分爽快って雰囲気である。

 

「もっと剣を極めたくなったので、遠くにいる魔物を斬ってこようかと」

「そうですか」

 

 罪人が向かわされるのは、生存圏外の危険地帯。武行所属ではないデイビットさんは、彼女に同行できる訳ではない。

 だが、それでもデイビットさんは外の魔物を斬りに行くつもりのようだ。それが彼なりの贖罪なのだろう。

 そんなデイビットさんの旅に、恋人であるフィーランさんはついていくのだろうか。いずれにせよ、俺の知った事ではないな。

 

「また会いましょう、イシグロさん。それまでに強くなっておきます」

「お気をつけて」

 

 そうして、デイビットさんは去って行った。

 別に情とかはないけど、生きててほしいとは思った。

 

 無月道場の再建計画の方も進んでいる。

 完成はいつかなーとのんびり考えてたのだが、それは俺の想定よりもずっと進んでいるようだった。あれからさほど時間も経っていないというのに、既に新築工事が始まっていたのである。広さや立地こそ変わらないが、中々立派な道場ができる予定であるという。

 それもこれも、「どうせお金出してくれるなら、めっちゃ良い家建てちゃおうよ!」というアンゼルマさんの意見があったからだという。アレで結構ちゃっかりしているのだ。勿論、デイビットさんは全部支払い済みらしい。

 

 とはいえ、当然だが新道場の完成にはまだ時間がかかる。

 場所もないのに、入門希望の門下生も日々集まってきているし、師匠は頭を抱えていた。

 なので……。

 

「入って、どうぞ」

「「「「「お邪魔しまーす!」」」」

 

 無月流には、現在俺の借家にある武道場を使ってもらっていた。

 衛宮邸にそっくりなこの借家には、なかなか立派な武道場があるのだ。今までは俺の素振りか剣道部プレイ程度にしか使ってなかったので、こっちとしても通う手間が省けてお得である。

 

「師範、本日もよろしくお願いします」

「うむ」

 

 桜闘会後、無月流門弟の数はバッと増えてからバッと減っていった。

 入るのも勢いで、辞めるのも勢い。合わんわと思ったらササッと抜けてくあたり、鱗滝さんもニッコリの判断の早さだ。少なくとも俺的にそういう姿勢はアリだと思う。

 そんな中でも続ける人はそれなりに居て、あの日に来た門弟三人以外にも何人か将来有望そうな若い門下生が残ってくれていた。

 彼等が次回の桜闘会で結果を残してくれる事を願うばかりである。

 

「先輩、ご指導お願いします!」

「はい。最初からやるから、良く見ててね」

「「「押忍!」」」

 

 俺はというと、妹弟子&弟弟子達に色々と教えてあげていた。

 教えるといっても、俺に大した積み重ねも指導免許もないので、せいぜい型稽古の見本を見せる程度である。チートの平和利用、こうやって役に立てるなら誇らしいね。

 英雄様だのチャンピオンだのと称えられるのは気色悪いが、先輩と言われるのは意外と悪い気はしなかった。

 いいよね、先輩先輩って慕ってくれる後輩キャラって。今夜のプレイは決まりだな。

 

「イリハ~♡、いつまで守ってんスかぁ? 体幹よわよわ♡ 太刀筋ぶれぶれ♡ なっさけな~♡」

「むむむ……! わしは無理に攻めなくていいのじゃ! そういう型なんじゃもの! おっ、隙あンギャ!?」

「ほい一本~! イリハは乗せやすくて楽ッスわ~」

「ああいうのってアリなんでしょうか……」

「模擬戦でも引っかかる方が悪いわ。イリハ、回復してあげるからこっち来なさい」

 

 あと、無月流自体にも少なくない変化があった。鍛錬の内容が以前とちょっと変わったのである。

 瞑想や型稽古といった基礎練重視の指導はそのままに、これまで取り入れなかった弟子同士の模擬戦や別の型同士による攻守の確認などを取り入れるようになったのである。他にも、色々とやりがいのあるトレーニングを追加する予定であるとも。

 

「うむ、デイビットの奴を見習おうと思ってな。やはり、あいつは指導者に向いているよ」

 

 どうやら、師匠はこれを機に無月流の方針を変えようと思ったらしい。

 デイビットさんの弟子育成能力は実際大したものだったらしく、今度は澄刃流のやり方を参考にしていくそうだ。

 

「すみませ~ん、ゲルトラウデさんがいるって聞いてきたんですけど~」

「む、記者か。此処への取材はダメだと言っておいたはずだがな……」

「行ってきてください。それまで見てますから」

 

 それから、今後は宣伝活動の方も積極的に行うつもりらしい。

 これまではジャグディからの嫌がらせでパンフへの掲載が邪魔されていたのだが、新刊には無月流の紹介ページがデカく載せられる予定なのだと。

 

「ヤァァアアァハァ!!」

「伍ノ型か、完全にハイになってやがる……! いま楽にしてやるからな……!」

 

 門弟同士の戦いを見守りながら、桜闘会の事を思い出す。

 あの戦いは、グーラの言う通り間違いなく良い経験になった。自身の改善点も見つかったし、参考になる部分は積極的に取り入れていきたい。

 何もボクサーが合気道を習って強くなろうっていう類いの話じゃない。ウラナキさんの飛ぶ斬撃に、デイビットさんの完成形魔法剣士スタイル。アレ等なら俺の強化に繋がると思うし、純粋な少年心で以て是非ともやってみたいと思ったのだ。

 飛ぶ斬撃、やりたいじゃん。何とかしてできんもんかね。

 

「ふぅ~、無駄に長かった。どうだ、模擬戦の様子は」

「今終わったところです」

「では師匠、自分今から家の手伝いがあるので、これで! 先輩もありがとうございました」

「うむ」

「帰り道気を付けてね」

 

 そんな感じで、安穏な日々が流れていく。

 お土産も買ったし、ゴタゴタも処理したし、イリハを守る為の枝対策も済んだ。

 もうリンジュにやり残した事はないと思う。あったとしても、また来ればいいだけだしな。てか、此処に来たの慰安旅行目的だし、そんな畏まるもんでもない。

 

「という訳で、明日出発しようと思います。次の月までは俺の借家という扱いなので、それまではご自由にお使いください。そう向こうにも伝えておきました」

「そうか」

 

 ラリスへの帰還を告げると、師匠は「ふむ」と顎に手を添えて考えを巡らせていた。

 逡巡の後、ゲルトラウデさんは口を開いた。

 

「そうだな。なら、明日少し時間を貰えないだろうか?」

「それは構いませんが」

 

 明日は道場も休みである。それを見越して伝えたのだが、師匠からの用とは何だろう。

 一応、お世話になった人には挨拶していくつもりではあるが。

 

「少し早いが、小目録を与えようと思ってな」

「小目録……」

 

 無月流における小目録とは、何かしらの型をマスターした弟子に贈られる証書みたいな物だ。

 どうやら、お別れの挨拶に卒業試験的な事をしてくれるらしい。

 

「ああ、ちょっとした模擬戦をだな。最近の子はこういうのが好きだと聞いて、うちも流れに乗っておこうと思ってな。お前の本気を見せてみろ、というやつだ」

「そうですか」

 

 小目録、卒業試験、本気の模擬戦。

 という事は、戦う場所はギルドの鍛錬場になるだろう。

 模擬戦をしてくれるのは有難い。有難いのだが……。

 

「師匠、鍛錬場代払えます?」

「……すまないが、奢ってほしい。娘が稼いだ金を使いたくはない」

「わかりました」

 

 鍛錬場には入場料がある。それも現役銀細工と銀細工相当の人の場合、けっこうな金額になるのだ。あそこはカラオケ感覚で入れる場所ではないのである。

 女騎士のようにしっかりした師匠なのだが、女騎士のように抜けている師匠なのであったとさ。

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、俺達は先輩後輩プレイを楽しんだ後、布団の中でまったりしていた。

 皆、既にくぅくぅと寝息をたてている。寝間着? そんなのしばらく使ってないよ。

 

「明日、ラリスに向かうんじゃな……」

 

 静寂の中、そう小さく呟くイリハ。

 そういえば、彼女は生まれてこの方リンジュから出た事がないらしい。

 初の外国、それも移住である。少し不安なのかもしれない。

 

「大丈夫だよ」

 

 言って、俺はイリハを抱きしめ……ようとしたのだが、片方の腕が枕になってて出来なかった。

 

「むふふ、不安って訳じゃあないのじゃ」

 

 イリハはもぞもぞと動いて、ピタリとくっついてきた。

 ルクスリリアともエリーゼともグーラとも違う小さな身体は、初めて会った時より柔らかくなっていた。

 

「今、わしの居場所は此処じゃ。主様が居るところが、わしの帰る場所……これからも、そう在って下さるのじゃろぅ?」

「ああ」

 

 そうして、俺達は目を瞑った。

 不安からではなく、喜ばしい明日へ向かう為に。

 

 何度も誓う。俺は、もっと強くなろう。

 ラリスの迷宮では身体を鍛え上げた。リンジュの道場では技術を鍛え上げた。

 まだまだ、目指すべき強さにはほど遠い。少なくとも、アリエルさんや師匠相手の場合、今の俺じゃあ全く歯が立たないだろう。

 

 ゆっくり、着実に、強くなってこう。

 この世界で、皆と楽しく生きる為に。

 

 何をするにも、まずはそこからだな。




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◆本作におけるムチムチTier表◆

・Tier1
 淫魔女王、キルスティン

・Tier2
 ニーナ、グレモリア

・Tier3
 ミアカ、イスラ、バンキコウ

・Tier4
 アリエル、ゲルトラウデ、ウラナキ、アンゼルマ、フィーラン

・Tier5
 エレークトラ、デアンヌ、ナターリア

・Tier6
 シュロメ、ファリン、エフィーエナ、ジャグディ



・Tier21
 イリハ、ルクスリリア、エリーゼ、グーラ
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